海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!
ログインもしくはアカウント登録してください。

弾十六さん
平均点: 6.13点 書評数: 499件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.11 5点 ブラック・マスクの世界3 ブラック・マスクの栄光- アンソロジー(国内編集者) 2025/04/06 02:11
1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
----------
(1) Close Call by Erle Stanley Gardner (初出Black Mask 1933-01) 「はなれわざ」E・S・ガードナー作、堀内静子 訳: 評価7点
弁護士ケン・コーニング第三作。原題close callは「ギリギリセーフ」の意味。いつもながら工夫された強引な展開が良い。やりすぎだが、当時なら有り得そうな話。
----------
(2) 「殺人狂騒曲」フレデリック・ネベル
(3) 「重要証拠」エド・ライベック
(4) 「強盗クラブ」トム・カリー
(5) 「美人コンテスト殺人事件」デイル・クラーク
(6) 「死のストライキ」フランク・グルーバー
(7) 「シャム猫の謎」ラモン・デコルタ
(8) 「拷問以上」C・P・ダネル・ジュニア
(9) 「沈黙は叫ぶ」フレドリック・ブラウン
----------
(10) 「裏切りの街」(3)ポール・ケイン <長篇連載>
----------
<インタビュー>ジョー・ゴアズ (構成: 木村二郎)
1985-03-28サン・アンセルモの自宅にて。EQ1985-09記事に加筆。
ハメット伝について: ジョンソンはシンパシーが無いが、ノーランとレイマンはシンパシーがありすぎて客観的ではない。三冊合わせてハメットの全貌がわかる。
コンチネンタル・オプの捜査方法はリアルだ。
DKAのラリー・バラードのモデルは自分だろう。
----------
<解説>
本書出版時には、「東京の東武デパートで<ミステリー・ミステリアス展>というわけのわからぬ名称の催し物が開催されているはず(1986年7月31日~8月12日)」と書いている。ハードボイルドもここまで来たか、という密かな感慨が伺える。

No.10 5点 ブラック・マスクの世界2 ブラック・マスクの英雄たちⅡ- アンソロジー(国内編集者) 2025/04/05 15:37
1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
----------
(1) 「ウェイドを救え」ジョージ・ハーモン・コックス
(2) 「リンカーンの口ひげ」シオドア・ティンズリー
(3) 「ボストンから来た女」フレデリック・ネベル
(4) 「賭博師の厄日」W・T・バラード
----------
(5) Blackmailers Don't Shoot by Raymond Chandler (初出Black Mask 1933-12) 「ゆすり屋は撃たない」レイモンド・チャンドラー作、小鷹信光 訳: 評価7点
私立探偵マロリー。ハメットを真似た徹底的客観描写、と小鷹さんが書いていて、ああそうなのか、と初めて気づいた。無茶苦茶な話だが、なんとか成立してるように感じられるのがチャンドラー・マジックなのだろう。マロリーの拳銃はルガー。第一次大戦に従軍して、そのお土産、という設定かも。
----------
(6) 「雪原の追跡」L・R・シャーマン
(7) 「ウインク」J・M・ベル
(8) 「初舞台」ドナルド・バー・チドシー
----------
(9) 「裏切りの街」(2)ポール・ケイン <長篇連載>
----------
<インタビュー>ビル・プロンジーニ (構成: 木村二郎)
1985-03-27SF近郊の自宅にて。HMM1985-09掲載のものを再編成。
十六、七年前(1969年くらい?)、オークランドの古本屋でパルプマガジンは一冊10セントで売られていた。誰も買わなかった時代。(米国消費者物価指数基準1969/2025(8.66倍)で$1=1292円) 名無しのオプは良い名前を思いつかなかったから、と話している。昔のタフな主人公に比べて、現在の人間はより「人間的」だという。humanの訳?最後はすべて上手くいく、という小説を読みたいから、最近の私立探偵もの人気があるのでは?と分析している。
----------
<解説>
ノーラン調べでブラックマスクの最高部数は1930年の10万3000部だったという。1934年末にはスター寄稿者(デイリイ、ガードナー、ネベル、チャンドラー、ポール・ケイン)がたくさんいたが部数は6万部少々だったようだ。

No.9 5点 ブラック・マスクの世界1 ブラック・マスクの英雄たちI- アンソロジー(国内編集者) 2025/04/02 23:22
1986年出版。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。このシリーズ、買おうか迷ってたけど、NDLdcで読めるようになっていたとは!
----------
(1) Straight from the Shoulder by Erle Stanley Gardner (初出Black Mask 1929-10) 「ネックレスを奪え」E・S・ガードナー作、堀内静子 訳: 評価7点
エド・ジェンキンズもの。テンポが良くて実に素晴らしい作品。「探偵雑誌を読む少年は見込みがある」とさりげなく雑誌販促してる。
----------
(2) 「賭に勝った女」ロジャー・トリー
(3) 「黒い手帳」ホレス・マッコイ
(4) 「新しいボス」N・L・ジョーゲンセン
(5) 「KKKの町に来た男」キャロル・ジョン・デイリイ
(6) 「帰路」ダシール・ハメット
(7) 「帰ってきた用心棒」ノーバート・デイヴィス
(8) 「最後のしごと」L・V・アイティンジ
(9) 「白い手の怪」スチュワート・ウェルズ
(10) 「裏切りの街」(1)ポール・ケイン <長篇連載>
----------
<インタビュー>ウィリアム・F・ノーラン (構成: 木村二郎)
1985-03-22LAの自宅にて。HMM1985-10掲載のものを再編成。
ノーランは「心はいつも27歳」と言っているが、どうしてそのトシなんだろう。1969年当時、ブラックマスクが一冊2ドルで買える古本屋があったらしい。(米国消費者物価指数基準1969/2025(8.66倍)で$1=1292円)
----------
<解説>で小鷹さんはブラックマスク一時離脱前のハメットの稿料が「破格の…一語三セント」(p232)だった、としているが、ほんとうかなあ。ブラックマスク創刊号の表紙が当時はビル・プロンジニーニもノーランも見たことが無い、という話題で盛り上がっているが、現在はFictionMags Indexでちゃんと見ることが出来る。

No.8 6点 37の短篇(傑作短篇集)- アンソロジー(国内編集者) 2025/03/31 08:50
1973年出版。確か書籍でも持っているはずなのだが、書庫を探すのが大変。国会図書館デジタルコレクションで読んでいます。
巻末の石川喬司、稲葉明雄、小鷹信光の座談が非常に楽しい。稲葉さんが「C・O」と言ってて何?と思ったら「コンチネンタル・オプ」のことでした。
一つ一つ、ゆっくり読んで行きますよ。総合評価は暫定6点で。
----------
(2) Human Interest Stuff by Davis Dresser(Brett Halliday) (初出Adventure 1938-09、挿絵画家不明)「死刑前夜」ブレット・ハリデイ作、都筑道夫 訳: 評価6点
稲葉・小鷹両氏のお勧め作品。初出誌は全ページ無料公開されている。イラストは二枚だが雰囲気良し。
原文と比べると最後の一行はなんか違う。ハリデイさんの長篇は読んだことはないけど、短篇数作を読んだ印象からとっても良い人なんだろうと感じる。何せヘレン・マクロイを妻にしてた人だしね。
----------
(8) Don’t Look Behind You by Fredric Brown (初出?EQMM1947-05) 「後ろを見るな」フレドリック・ブラウン作、曽我四郎 訳: 評価6点
稲葉さん推薦作。座談会では最初は雑誌の最後の短篇として印刷…というふうに書いてあって、そういう組み方の初出?雑誌(イラストもあった)をどこかで見た記憶があるのだけれど、上記EQMMでは三番目の短篇。あれ?と思った。短篇集Mostly Murder(1954)では最後になってるけど… 作品の書きっぷりから言って、雑誌最後の短篇じゃないと成り立たないようにも感じるので、本当の初出はマイナーなパルプ雑誌なんだろうか? ところで翻訳の曽我四郎って誰でしたっけ?早川関係だったような朧げな記憶が… 作品内容は才人ブラウンらしいちょっとトリッキーなもの… ってみんな大体知ってるよね?
p157 ロナルド・コールマン(Ronald Colman)◆ 1920〜30年代のスター。なので1947年だとすこし古臭い感じ。
p158 細字の思い切った草書体(freehand cursive style)
----------
(9) Off the Face of the Earth by Clayton Rawson (初出EQMM 1949-09) 「天外消失」クレイトン・ロースン作、阿部主計 訳: 評価7点
稲葉さんが本作を推してるのが意外だった。マリーニ探偵の不可能犯罪もの。トリック、ちゃんと出来るかなあ、と思うのと、やる側の心理(プラン立てたとして、これで上手くいく、と思える?)がちょっと不満。TVドラマで見てみたいなあ。
p176 ジプシー・ローズ・リー◆ Gypsy Rose Lee(1911-1970) 1930年代後半ごろからが最盛期か。英Wiki参照。
p177 ペパーの幽霊魔術(Pepper’s ghost)◆ 1862年ロンドンで大評判になったマジック。
p177 ドロシー・アーノルド◆ 米国で有名な失踪者。英Wiki “Dissapearance of Dorothy Arnold”参照。1910年12月10日午後、ニューヨークで失踪。五番街で友達と別れたときセントラル・パークを通って帰ると話していた。当時25歳。
p180 クレイター判事◆ Joseph Force Crater(1889年生まれ) ニューヨーク州最高裁判所判事。1930年8月6日午後9時半ごろ、ニューヨーク西45番街のレストランを出て、二人の連れと別れ、一人タクシーに乗り込んだ後、行方不明となった未解決事件。
----------
(26) Contents of the Dead Man’s Pocket by Jack Finney (初出Collier’s 1956-10-26) 「死者のポケットの中には」ジャック・フィニイ作、福島正実 訳: 評価7点
稲葉・小鷹両氏のお勧め作品。とってもコワイ話。まあ結末はこれで綺麗だけど、でも不満だなあ。
----------
(29) The Sailing Club by David Ely (初出Cosmopolitan 1962-10) 「ヨット・クラブ」デイヴィッド・イーリイ作、高橋泰邦 訳: 評価6点
小鷹さんお勧め。言いたいことは何となくわかるけど… ファンタ爺に過ぎる。当時作者35歳か。ならジジイの気持ちなんてわかるはずないよね。
----------
(32) The Man Who Read John Dickson Carr by William Brittain (初出EQMM 1965-12)「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」ウイリアム・ブルテン作、伊藤守男 訳: 評価7点
小鷹さんお勧め。実に気が利いている。
p632 ドアは五インチもある厚いかしの木製で、それをしめるためには、両側の壁にがっちりとはめこまれた鉄のとめ金に重い木のかんぬきをさしこまなければならない(a two-inch-thick oak door... could be locked only by placing a ponderous wooden bar into iron carriers bolted solidly to the wall on both sides of the door)◆ 密室ドアの鍵関係のサンプル
(2025-04-03記載)
----------
(33) The Locked Room to End the Locked Room by Stephen Barr (初出EQMM 1965-08)「最後で最高の密室」スティーヴン・バー作、深町真理子 訳: 評価7点
著者は経歴不詳となっているが、Stephen Richie Barr(1904-1989)生まれは英国Uxbridgeだが、米国で活躍、数学分野での著作が多い。マーチン・ガードナーの友人、父は米国人数学者James Mark McGinnis Barr(1871-1950)と判明している。
原タイトルは「密室にケリをつける密室」密室論議はこれでオシマイdeath、というようなニュアンスかな?
よく出来た密室もの。正しくは「密屋敷」だが。
(2025-04-05記載)
----------
(37) The Gemminy Crickets Case by Christianna Brand (初出EQMM 1968-08)「ジェミニイ・クリケット事件」クリスティアナ・ブランド作、深町真理子 訳: 評価7点
上記のお三方が三人とも「お気に入り」と認めているのが、本作。大昔に読んだはずだけど、すっかり忘れていた。自然な流れが非常に良い。タイトル、由来はJiminy Cricket(ジーザス・クライスト!の言い換え語)なんですね。クリケットが登場するのかな?と期待しちゃった。ワールド・カップ決勝の日(土曜日)が事件の日となっているが、1966年サッカー・ワールド・カップはイングランドがホスト国で、イングランドが初優勝している。(1960年にイングランドで開催されたラグビー・ワールド・カップの可能性もあるかな。こちらも英国が二度目の優勝)。まあ戸外に誰も出ていない、という熱狂ぶりなのでフットボールのほうだろう。ただし「二十年以上前」の事件のはずなので、作中現在は未来なのかな?(1990年ごろか) 「[ワールドカップなので]誰もがテレビにかじりついてる」という文言があった。最初のTV中継は1954年のワールドカップが最初。(訂正: 事件が二十年以上前、ではなくて、登場人物が再会したのが二十年ぶり、という事でした。とすると、作中現在は初出1968年でも大丈夫ですね)

No.7 5点 死の濃霧 延原謙翻訳セレクション- アンソロジー(国内編集者) 2024/09/09 08:53
中西 裕 編集によるアンソロジー。編者は『ホームズ翻訳への道 ー 延原謙評伝』の著者。
延原謙がホームズ翻訳だけで知られてるのは惜しい、というコンセプトだが、だったら(1)(14)の二篇のホームズ譚は要らなかったのでは?と思ってしまった。延原謙初『新青年』登場の(1)は外せないにしても。
以下、収録作品。初出はFictionMags Indexによる。【】内は延原謙訳の掲載誌。英語タイトル直前の*はEugene Thwing(ed.) The World's Best One Hundred Detective Stories(1929)収録作品(4つある)。中西さんはこのアンソロジーの存在を知らなかったようだ。
(1) The Adventure of the Bruce-Partington Plans by Arthur Conan Doyle (初出The Strand Magazine 1908-12) 「死の濃霧」コナン・ドイル 【新青年1921-10、訳者名無し】
*****************************************
(2) Three-Fingered Joe by Elinor Maxwell (初出Detective Story Magazine 1921-01-02) 「妙計」イ・マックスウェル 【新青年1923-6】
*****************************************
(3) Thubway Tham's Inthane Moment by Johnston McCulley (初出Detective Story Magazine 1918+11-19) 「サムの改心」ジョンストン・マッカレエ 【新青年1924-01】
*****************************************
(4) The Crime of the Rue Rodier by Marcel Berger (The Novel Magazine 1921-08 仏語からEthel Beal訳) 「ロジェ街の殺人」マルセル・ベルジェ 【新青年1930-02】
*****************************************
(5) The Cavern Spider by L.J. Beeston (初出The Strand Magazine 1923-01) 「めくら蜘蛛」L・J・ビーストン 【新青年1927-01】
*****************************************
(6) The Secret of the Gemmi by Augustin Filon (The Grand Magazine 1907-09 仏語からの翻訳か?) 「深山(みやま)に咲く花」オウギュスト・フィロン 【女性1928-02】
*****************************************
(7) *The Greuze Girl by Freeman Wills Crofts (初出Pearson's Magazine 1921-12, as "The Greuze") 「グリヨズの少女」F・W・クロフツ 【文藝春秋1932-07】
*****************************************
(8) The Three Keys by Henry Wade (短篇集Policeman’s Lot, 1933) 「三つの鍵」ヘンリ・ウェイド 【新青年1937-06】
*****************************************
(9) *The Sting of the Wasp by Richard Edward Connell (初出The American Magazine 1928-08) 「地蜂が螫(さ)す」リチャード・コネル 【新青年1937-12】 評価6点
マシュー・ケルトン短篇初登場と思われる。長篇Murder at Sea(初出Elks Magazine 1928-06〜10)への販促もあった?本作は『世界探偵小説ベスト100』にも選ばれたのだが…
犯行方法のアイディアを思いついたので書きました、という感じの作品。手がかりから読者が推理するのは無理。発想力、空想力を試される類いの作品だろう。鑑識科学が進展したので、もうこのトリックのままでは成立しない。
p228 あなたはワイシャツの飾りボタンを一つしかつけていませんね?(why do you wear only one stud in your evening shirt?)◆ ここではイヴニングシャツの胸には二つだけのstudだが、昔の写真を見るとシャツボタン全部スタッド(5個?)とか3 studsがあった。飛び飛びに二つつけてる感じのもあり。
p229 この弾丸は少し変わっていますねえ。尖が鋼で、非常に長い。そして二二口径にしては大きすぎるし、三二にしては細すぎる(this bullet is something unusual. Steel nose. Very long. Like a small nail, almost. Two(sic) big for a .22 caliber. Too small for a .32.)... スコマク拳銃(ピストル)(a Skomak pistol)... 独逸(ドイツ)で発明されて、チェコスロヴァキヤで製造されたもの(the invention of a German and are, or rather were, made in Czechoslovakia)... 二五口径の単発で(tiny, single-shot pistols of .25 caliber) チョッキのポケットにも忍ばせ得るほど小型(so small they can easily be carried in a vest pocket)◆ いろいろ調べたがSkomak拳銃は作者の創作のようだ。チェコ製というのがいかにもな感じ。コネルさんはガンマニアっぽい。
p230 普通の五連発で(an ordinary, five-shot automatic of a well-known American make)◆ もう一つの拳銃は「普通の五連発オートマチック、お馴染みの米国製」となっているがオートマチック五連発は存在しない、と言って良いだろう。コネルさんの知識から考えて、ここは話者がよくわかっていないことを暗示したマニアならではの記述、と見た。六連発オート拳銃ならColt M1908 Vest Pocketなど小型拳銃がほとんど、中型以上は七連発が多い。
p231 安全装置をはずして弾倉を調べてみた(snapped the safety catch off the automatic, and looked into the magazine)◆ ここの描写もマニアっぽい。安全装置を外さないとスライドが動かないのだ。拳銃の安全確保のため、まず最初にスライドを引いてchamber(薬室)に弾丸が入っていないか、を目視することが身についている。
(2024-09-09記載)
*****************************************
(10) Number Fifty-Six by Stephen Leacock (初出不明) 「五十六番恋物語」スティヴン・リイコック 【新青年1937-08】
*****************************************
(11) *The Thief by Anna Katharine Green (初出The Story-teller 1911-01) 「古代金貨」A・K・グリーン 【新青年1933-08】
*****************************************
(12) The Affair at the Semiramis Hotel by A. E. W. Mason (初出Cassell’s Magazine of Fiction 1916-12 挿絵Albert Morrow) 「仮面」A・E・W・メースン 【新青年1935-10】
*****************************************
(13) *The Eleventh Juror by Vincent Starrett (初出Real Detective Tales and Mystery Stories 1927-08) 「十一対一」ヴィンセント・スターレット 【新青年1938-02】
*****************************************
(14) The Adventures of Sherlock Holmes: Adventure II. The Red-Headed League by Arthur Conan Doyle (初出The Strand Magazine 1891-08) 「赤髪組合」コナン・ドイル 【探偵クラブ1952-11】

No.6 5点 世界推理短編傑作集6- アンソロジー(国内編集者) 2022/02/27 03:52
残念ながら全く目新しさのないセレクション。新訳は(1)(7)(8)(12)かな?
私はバティニョールの新訳とプリンス・ザレスキー目当て(ハメット繋がり)で購入しましたが…
読んだら徐々に評価を追記していきます。
(1) Mémoires d’un agent de la Sureté : Le petit vieux des Batignolles (初出Le Petit Journal 1870-7-7〜7-19(13回) as by J.-B.-Casimir Godeuil)「バティニョールの老人」エミール・ガボリオ, 太田 浩一 訳: 評価7点
詳しいことは単独登録のガボリオ「バティニョールの爺さん」で評価していますので参考願います。作品の由来に面白いネタがあるのに、戸川さんは全然注目していない。次のEQの101 Entertainmentのノンブルの件なんてどうでも良いので、こっちの話を取り上げて欲しかったなあ!
何故か本作は初出時にガボリオ作として発表されていない。本書にも再録されている前説の通りゴドゥイユという謎の男の持ち込み原稿で実録、という設定で新聞に掲載された。連載の初回1870-7-7号には編集長が毎日書いてる新聞の「編集口上」を全部使ってゴドゥイユの原稿がいかに届いてプチ・ジュルナルがいかに熱心に彼を探したか(ここ迄は本書の前説と同じ。今回思いついて探すとプチ・ジュルナルの7月3日から6日まで念のいったことに「ゴドゥイユがやっと見つかった!驚くべき作品は近日公開!」という偽の自社宣伝を載せている)、そして前説には続きがあって、ゴドゥイユ作の本シリーズ(初出時には「パリ警察本部の一員の回想」というシリーズが始まるよ!」という設定だった)はバルザックの言う100年ごとのパリ年代記の新版で、パリの表も裏も描き出すのだ!現代のタブロー・ド・パリ(メルシエ作)だ!パリの秘密(シュー作)だ!と鼻息が荒い。続くタイトルも一部予告されていて、Un Tripot clandesitn(非合法の賭場)--Disparu(消えた)--Le Portefeuille rouge(赤い財布)--La Mie de pain(パンくず)--Les Diamants d'une femme honnête(正直な女のダイヤ)--La Cachette(隠し場所)という短篇が掲載されるはずだった。でもちょうどバティニョールが終わる7-19にある出来事が発生して、続きは無期延期になっちゃった。普仏戦争が始まったのだ。
戦争が始まったのでガボリオは7月24日から、今度は実名でプチ・ジュルナルに戦争小説(La route de Berlin ベルリンへの道、単行本(1878死後出版)タイトルはLe capitaine Coutanceau)を連載することになる。
何故ガボリオはプチ・ジュルナルというホームグラウンド(ルルージュ以外の代表作は大抵ここで連載している)に変名で短篇連作を発表することにしたのか?新聞としても宣伝効果から言えばガボリオ名を使った方が良いはず。事実、戦争小説の方はガボリオが書くよ!明日には始まるよ!と一週間連続くらいで新聞のトップで宣伝している。ゴドゥイユの連載途中で「実はガボリオでした!」と発表するつもりだったのか?それとも実話ものの方が売れると思ったのか?とても興味深いと思う。
(以下、2022-2-28追記)
ガボリオが最後のルコックものを書いたのは1868年。作者はスーパー探偵の絵空事に限界を感じて、リアルな捜査をドキュメンタリー・タッチで書きたくなったのかも。
p21 賄いつき、家具つきの部屋で、月30フラン… いまなら優に100フラン♠️訳注で「30フランは約3万円」とある。消費者物価指数に基づく私の概算では、当時の1フラン=約500円なので1万5000円程度。訳注での価値換算はあまり見たことがないので本訳のチャレンジを評価するが、当時の家賃は現代感覚からすると非常に安い印象がある。なので自説のほうが適当だろうと思う。(換算の詳細は「バティニョールの爺さん」書評で)
p33 夕刊紙の<ラ・パトリ>(un journal du soir, la Patrie)♠️1841創刊の新聞。基調は第二帝政支持のようだ。
p42 パグのような黒い小型犬(une espèce de roquet noir)♠️この犬、別のところでは「スピッツ…馬車の車掌が飼ってたような(p51)」と言われている。犬種が全然違うのだが、パグは護衛犬には向かないらしいから、こっち(一回見ただけの人の感想)が違うのだろう。
p46 よくアンテノールって呼ばれてました。以前、商売の関係で、よくそっちの名前を使っていたみたい(le nom d'Anténor, qu'il avait pris autrefois, comme étant plus en rapport avec son commerce)♠️この人は美容師をやっていたので、その関係なのか?それとも全然違う商売なのか?Anténorをあらためて調べたが、よくわからなかった。
p49 十万フラン♠️p21の本書の換算だと1億円、私の説だと5000万円。後者くらいでちょうど良いのでは?
p51 プリュトン(Pluton)♠️冥府の王。別名ハデス。英語ならプルート。
p68 モリエールだって、使用人の意見を聞いた(Molière consultait bien sa servante)
p70 二十フランの買物♠️p21の本書の換算だと2万円、私の説だと1万円。後者くらいでちょうど良いのでは?(しつこいよ!)
p78 乗合馬車(l'omnibus)
p84 七階の家政婦の部屋(la chambre de notre bonne au sixième)♠️店舗や自室は一階にある感じなので、どういう構造なんだろう。使用人の部屋はアパートの上階部分に集められているのか。
(2022-2-27記載; 2022-2-28追記トリビア部分)
**********
(2)「ディキンスン夫人の謎」ニコラス・カーター, 宮脇 孝雄 訳
光文社文庫『クイーンの定員1』収録のものと同じ。
**********
(3) The Stone of the Edmundsbury Monks by M. P. Shiel (短篇集1895)「エドマンズベリー僧院の宝石」M・P・シール, 中村 能三 訳(注釈協力 松原 正明): 評価4点
プリンス・ザレスキーもの。
衒学って、つまんないんだよ。独りよがりの最たるもの。まあ本人は楽しいんだろうけどねえ。(←お前も銃が出てきたら調子に乗るよなあ?)
語り口はまあまあ面白いけど、疲れる。アイディアは無茶苦茶(一部褒め言葉)。この妄想力を活かせれば良い作品が書ける作家なのかもしれない。ハメット「クッフィニャル島の襲撃」でオプが読んでた小説がシール作の長篇だったので、シールを読みたくなったのですが、創元『ザレスキーの事件簿』が入手困難で、私のタイミング的には本作が本アンソロジーに収録されていて良かった。
訳注は力が入っていて、多分、創元『ザレスキーの事件簿』よりも充実してるのでは?(未確認、当時からこのレベルだったのかも)
(2022-2-27記載)
**********
(4)「仮装芝居」E・W・ホーナング, 浅倉 久志 訳
光文社文庫『クイーンの定員1』収録のもの(タイトルは『ラッフルズと紫のダイヤ』)と同じ。
ラッフルズもの。もちろん翻訳は論創社のものよりはるかに正確だが、話のムードとか、バニーのいたいけな感じは論創社の翻訳の方がずっと良い。誰か論創社のムードで正しい翻訳を出してくれないかなあ。
**********
(5)「ジョコンダの微笑」オルダス・ハックスリー, 宇野 利泰 訳
**********
(6)「雨の殺人者」レイモンド・チャンドラー, 稲葉 明雄 訳
**********
(7)「身代金」パール・S・バック, 柳沢 伸洋 訳
**********
(8)「メグレのパイプ」ジョルジュ・シムノン, 平岡 敦 訳
**********
(9)「戦術の演習」イーヴリン・ウォー, 大庭 忠男 訳
**********
(10)「九マイルは遠すぎる」ハリイ・ケメルマン, 永井 淳 訳
**********
(11)「緋の接吻」E・S・ガードナー, 池 央耿 訳
ペリー・メイスンもの。
**********
(12) The 51st Sealed Room: or, The MWA Murder (初出EQMM 1951-10)「五十一番目の密室またはMWAの殺人」ロバート・アーサー, 深町 眞理子 訳: 評価6点
内輪受けのネタも弱くて、密室の謎もうーん…で、傑作というには程遠い作品だと思いました。乱歩先生の趣味とも違うような気がする。
意外だったのは作者のプロフィール。フィリピン生まれ、というからフィリピン系だと思ったら、Wikiで確認すると米国軍人だった父の任地の関係でたまたまフィリピンで生まれただけのようだ。フィリピンというとチャンドラーで知った洒落者のイメージ。ちょっと誤解してしまいました。
(2022-2-28記載)
**********
(13)「死者の靴」マイケル・イネス, 大久保 康雄 訳

No.5 6点 恐怖の1ダース- アンソロジー(国内編集者) 2022/02/12 21:11
1980年8月出版(講談社文庫)。中田耕治軍団と思われる翻訳者たちによるアンソロジー。中田さんと言えば、昔、雑誌「翻訳の世界」で「コージーに翻訳しよう」とかいう連載を楽しく読んだ記憶がある。編者が同じで題名が同じものが1975年出帆社から出ているが、収録作品をリニューアルしている。
以下、初出はFictionMags Index(FMI)によるもの。
(1) If I Should Die Before I Wake by Cornell Woolrich (初出Detective Fiction Weekly 1937-7-3)「たすけてえ!」コーネル・ウールリッチ、中田 耕治 訳: 評価7点
良い翻訳だなあ。子供の語りってとても難しいのだけど難なく処理している。ハック・フィンもこんな感じなら読めるかも。
子供から見た大人の感じが上手く表現されている。ハラハラドキドキの物語。
原文参照出来ませんでした。
p9 五年A組♠️小学生で良いのかな。
p9 飴チョコ… 一コ五セント♠️米国消費者物価指数基準1937/2022(19.52倍)で$1=2226円。飴チョコって何だろう。
p18 色チョークは一箱十セント
(2022-2-12記載)
**********
(2) The White Road by E. F. Bozman (アンソロジー1939, “Ghost Stories” ed. John Hampden)「白い道」E・F・ボズマン、吉崎 由紀子 訳: 評価6点
作者E. F. Bothmanは本書「あとがき」でも経歴等全く不明と書かれており、FMIにも登録されていない。WEBにも手がかり無し。(2022-2-14修正: ameqlistにE. F. Bothmanと出てたので、こう書いたのだが、正しい綴りはBozman。FMIに本作だけ登録があり、英WikiにはErnest Franklin Bozman (1895–1968) was a British author and the editor of two editions of Everyman’s Encyclopedia.との記述があった。)
舞台はクリスマス・イヴのパブ。元々はクリスマス・ストーリーなのかも。
こういう話は苦手。今市子さんが描く怪奇漫画みたいなネタですねえ。
(2022-2-14記載)
**********
(3) Poor Girl by Elizabeth Taylor (アンソロジー1955, “The Third Ghost Book” ed. Cynthia Asquith)「プア・ガール」エリザベス・テイラー、伊東 昌子 訳
もちろん著名女優とは違う1912年生まれの英国作家。
**********
(4) The Riddle by Walter de la Mare (短篇集1923)「謎」ウォルター・デ・ラ・メア、鈴木 説子 訳: 評価5点
不思議な話だが、私には趣旨がわからなかった。諸星大二郎風味。
(2022-2-13記載; 2022-2-19追記)
**********
(5) A Haunted Island by Algernon Blackwood (初出The Pall Mall Magazine 1899-4 挿絵L. Raven Hill)「呪われた島」アルジャノン・ブラックウッド、木戸 淳子 訳: 評価7点
道具立てが良いですね。舞台はカナダ。思わせぶり度が程よい感じ。
p128 マーリン・ライフル(Marlin rifle)◆ Marlin Firearmsは1870年創業。このライフルは時代を考えるとレバー・アクションだろう。
(2022-2-19記載)
**********
(6) Yuki-Onna by Lafcadio Hearn (短篇集1904)「雪おんな」ラフカディオ・ハーン、中山 伸子 訳
**********
(7) Shock Treatment by Ross Macdonald (初出Manhunt 1953-1 as by Kenneth Millar)「ショック療法」ロス・マクドナルド、中田 耕治 訳: 評価6点
米国マンハント創刊号にケネス・ミラー名義で発表した短篇。
私はロス・マク嫌いなんだけど、こーゆー話を読むとますます好きになれない。なんだかとてもやな奴の臭いがする(読まず嫌いの偏見だろうけれど…)。
p162 家賃… 月300ドル♣️米国消費者物価指数基準1952/2022(10.61倍)で$1=1210円。
p166 古い型のピアース・アロウ♣️Pierce-Arrow Motor Car Company(1865-1938)のV12セダンか。登場時にはデザインが未来的だったようだから、ここでの妻のイメージにぴったり。
(2022-2-13記載)
**********
(8) The Tower by Marghanita Laski (アンソロジー1955, “The Third Ghost Book” ed. Cynthia Asquith)「塔」マーガニタ・ラスキー、大村 美根子 訳: 評価7点
この英国作家(1915-1988)の活躍は1940〜1950年代。
舞台はフィレンツェ、美術関係者の妻(英国人)の話。シンプルだが怖い。上手く映像化したら効果抜群だと思う。伊藤潤二先生いかがでしょうか。
(2022-2-23記載)
**********
(9) The Mystery of the Derelict by William Hope Hodgson (初出The Story-teller 1907-7)「幽霊船の謎」ウィリアム・ホープ・ホジスン、杉崎 和子 訳
サルガッソー海もの。
**********
(10) Terror Over Hollywood by Robert Bloch (初出Fantastic Universe 1957-6)「ハリウッドの恐怖」ロバート・ブロック、中田 えりか 訳: 評価4点
翻訳者は耕治さんの娘。本作はハリウッド小説というジャンルを紹介する、という編者の意向のようだ。
話自体は作者お得意の深みのないもの。想像力がチャチで薄っぺらい。
(2022-2-13記載)
**********
(11) Explorers We by Philip K. Dick (初出The Magazine of Fantasy and Science Fiction 1959-1)「探検隊帰る」フィリップ・K・ディック、中田 耕治 訳: 評価8点
SFマガジン創刊号に載った作品。この翻訳は「福島正実の思い出に」捧げられている。
傑作ですね。そして怖い。
(2022-2-12記載)

No.4 6点 世界推理短編傑作集2【新版】- アンソロジー(国内編集者) 2021/05/01 11:19
『世界短編傑作集2』(初版1961)の一部改訂版『世界推理短編傑作集2』(2018)は、こちらに、という事なので引っ越しました。古い方も持っていますが、書庫の奥にあるらしく出てきません… この企画、古い本を持ってる人には優しくない対応(一部だけが新訳?だし、全く新味のない巻もあるし、今ごろ乱歩編集を謳うならもっと何か工夫しても良いのでは?まー音楽業界ならもっと酷いリニューアル盤がたくさんあるから、書籍はまだ良心的か)
改訂版解説の戸川さんの書誌でも、情報が不十分な感じなのでFictionMags Index(FMI)により訂正しました。とは言え全面的にFMIに依存してるのでこっちが正確だという保証はありません。(以上2021-5-1追記)
-------
(1)The Absent-Minded Coterie by Robert Barr (初出Saturday Evening Post 1905-5-13) 宇野利泰 訳: 評価7点
実に素晴らしい流れ。フランス人が最先端の探偵というのが時代を感じさせます。リアルな1904年の大統領選挙はセオドア ローズヴェルト対アルトン パーカー。銀価格は1864年の1オンス2.939ドルから長期の下落傾向に入り、1902年の0.487ドルまでほぼ一直線に下落していた。当時のシリング銀貨や半クラウン銀貨はエドワード7世の肖像。消費者物価基準1905/2019は120.58倍なので1ポンドは現在価値17500円、1シリングは875円。
(2021-5-1追記: 創元『ヴァルモンの功績』を読んでて気づいたのだが、ここで話題になってる大統領選挙は1900年のもの。確かにウィリアム・ジェニングス・ブライアンが候補者だったので、小説内の記述は正しい。なので作中年代は選挙の結果が出た日の1900年11月6日で確定)
-------
⑵Die Seltsame Faährte by Balduin Groller (単行本 1909) 垂野 創一郎 訳
多分、初出は雑誌。創元文庫の単行本『探偵ダゴベルト』と一緒にまとめて読もうと思ってるので、今回はパス。
-------
(3)The Queer Feet by G.K. Chesterton (『童心』の書評参照)
-------
(4)L’Écharpe de soie rouge by Maurice Leblanc (初出Je sais tout 1911-8-15) 井上 勇 訳: 評価5点
大体ネタが想像できてしまう話。肝心なところで乱暴な口調になっちゃうのがラテン的か。フラン・ポンドレートは金基準1911で0.039、英国消費者物価基準1911/2019で116.81倍なので100フランは現在価値66132円。結構気前の良い手数料ですね。(2019-6-8追記: 仏国消費者物価指数1911/2019で計算できるサイトを見つけたので再計算。2304.71倍で、当時の1フラン=3.51ユーロとのこと。こちらで計算すると100フランは現在価値43131円。)
-------
(5)The Case of Oscar Brodski by Austin Freeman (初出Pearson’s Magazine 1910-12) 大久保 康雄 訳: 評価7点
犯罪に至る描写がとてもスリリング、冷静とドキドキの波が心地よい。家の購入価格250ポンド(set of houses had cost two hundred and fifty pounds apiece)は消費者物価基準1911/2019で116.81倍、現在価値424万円。家賃週10シリング6ペンスは現在価値8900円。随分と安い感じ。(2019-5-3付記: 実はアパートの家賃かも?と思ったら1882年コナンドイルが年間40ポンドでポーツマスに一軒家を借りています。これを週に直すと約15シリング5ペンス。消費者物価指数基準1882/1911で1.02倍。一軒家でもおかしくないようですね) ところで戸川さんは「McClure’s Magazine 1911年12月初出」と書いてますが、FMIだとPearson’s1910-12が初出です。(米初出はMcClure’s1911-12) さらにFMIを調べると作者の倒叙初出版はA Case of Premeditation (McClure’s 1910-08)のようです。Singing Boneの序文では「(倒叙が作品として成立するという)信念で試しに書いたのがブロズキ」と作者は言ってるのですが… (as an experiment to test the justice of my belief, I wrote “The Case of Oscar Brodski.”)
-------
(6)Sir Gilbert Murell’s Picture by Victor L. White church (初出Royal Magazine 1905-12) 中村 能三 訳: 評価5点
戸川さんは「1912ピアスンズ初出、同年単行本」と解説してますが、FMIでは上記が初出(雑誌の版元はピアスン、ただし目次データ欠) 文中に「1905年6月以前の話」とあるのでFMIが正しそう。ノウゾーさんの訳が生固くて何故今回新訳にしなかったかが疑問。物語自体は鉄道ネタが楽しい鉄道好きのための作品。(論創社の単行本が欲しくなりました) 菜食主義者でへんてこ体操好きという探偵のキャラ付けはいかにも20世紀初頭の英国らしい感じ。プラズモン ビスケット(Plasmon biscuit)は当時結構流行してたらしい…
(ここまで2019-5-1)
-------
(7)The Tragedy of Brookbend Cottage by Ernest Bramah (初出News of the World 1913-9-7) 井上 勇 訳: 評価6点
初出誌は英国のタブロイド誌(1843-2011)で1912に200万部、1920年初頭には300万部に達する人気。毎週日曜発行。(wiki) FMIでは初出に(+1)と書いており2回連載なのかも。
なぜ姉がそんな男と結婚を続けてるのか?という謎の方が面白そうなのに、そっち方面は全く触れないのがある意味興味深い。(当時はそんなの当たり前ということか) ●●会社の無用心さが話の都合とは言え、そこまでルーズかなぁ。探偵と助手たちとの関係性にちょっと興味を引かれました。(単行本買おうかな。すっかり創元の罠にはまってますね…) 500ポンドは消費者物価指数基準1913/2019で114.43倍、現在価値830万円です。電報1通4ペンスは277円(たぶん語数による)トマト1ポンド(454g)も同じ値段。
(2019-5-3記載)
-------
⑻The Doomdorf Mystery (初出Saturday Evening Post 1914-7-18) 宇野 利泰 訳
アンクル アブナーの第一作はThe Broken Stirrup-Leather (The Saturday Evening Post 1911-6-3)のようです。おじさんの活躍も後日まとめて読みたいので今回はパス。
-------
⑼The Mystery of the Sleeping Car Express by F.W. Crofts (初出The Premier Magazine 1921-??-??) 橋本 福夫 訳: 評価6点
事件は1909年11月上旬の木曜日に発生。鉄道会社の技師らしさが出てる作品。(仕事の合間にアイディアをこねた感じ) レポートっぽい文体は、実は職業人ハメットと共通するものを感じます。トリックは映像になれば面白そうですが文章ではキツいですね。寝台一等車には喫煙室(コンパートメント)が2つ、婦人専用室が1つある、などの鉄道ネタが沢山盛り込まれて興味深いです。銃は「近代的な形の小型の自動拳銃」が登場。FN 1900が有力候補。ただし1920年ごろなら「近代的な形」はモダンデザインのFN 1910がふさわしい。年代設定には会いませんが作者の脳内イメージは後者かも。
-------
鉄道が登場する話が多い第2集。20世紀初頭は鉄道の時代だったのですね。
(以上2019-6-8記載)

No.3 6点 クイーンの定員Ⅱ- アンソロジー(国内編集者) 2018/12/30 22:23
1951年出版のEQコメント付き傑作リスト。日本版はそのリスト(1969年改訂の#125まで。EQコメントは一部のみの翻訳、各務 三郎による解説付き)と、リストに挙げられた短篇集からセレクトした短篇を収録。(ハードカヴァー1984年、全3巻; 文庫1992年、全4巻)
Ⅱ(文庫版)の収録作品は、
⑴外務省公文書(クリフォード・アッシュダウン)、⑵千金の炎(アーノルド・ベネット)、⑶緋色の糸(フットレル)、⑷当世田舎者気質(O・ヘンリー)、⑸英国プロヴィデント銀行窃盗事件(オルツィ男爵夫人)、⑹モアブの暗号(フリーマン)、⑺折れた剣の看板(チェスタトン)、⑻ドイツ大使館文書送達箱事件(ホワイトチャーチ)、⑼ナイツ・クロス信号事件(ブラマ)、⑽シナ人と子供(トマス・バーク)、(11)ナボテの葡萄園(ポースト)、(12)偶然の一致(J. ストーラー・クラウストン)、(13)チョコレートの箱(クリスティ)、(14)文法の問題(セイヤーズ)、(15)ウィルスン警視の休日(コール夫妻)、(16)ベナレスへの道(ストリブリング)、(17)ドアの鍵(アンダースン)
アンソロジーを一気に読むのは無理。暫定評価を6点として、各作品を読了後に更新してゆきます。なお初出はFictionMags Index調べ。
(2018-12-30記載)

⑴ The Adventures of Romney Pringle[2] The Foreign Office Despatch by Clifford Ashdown (Cassell’s Magazine 1902-7 挿絵Fred Pegram) 深町 眞里子 訳: 評価5点
ロムニー・プリングルもの。ルーレットの場面から始まる話。前段でカモの情報を仕入れるところから描くとさらに良かったと思う。
p11 八十ポンド: 英国消費者物価指数基準1902/2020(123.72倍)で£1=17554円。£80は140万円。
p27 ゴルゴンゾラ・ホール: Gorgonzola Hall 大理石の模様がゴルゴンゾーラチーズに似ていたらしい。昔のカラー写真がWebに見つかりませんでした。
(2020-3-29記載)

⑵ The Loot of the Cities. No. I.—The Fire of London by Arnold Bennett (Windsor Magazine 1904-6 挿絵John Cameron) 山本 光伸 訳: 評価7点
シリーズ第1作。これはやられた。文章が上手くて、展開が良い。続きも読みたいですね。
現在価値は英国消費者物価指数基準1904/2020(122.39倍)、£1=17365円で換算。
p44 九シリング六ペンス: 8248円。小道具の値段。
p44 二ポンド十五: 47754円。従業員への手間賃。
p45 イギリス銀行の千ポンド札: 1737万円。Bank of England Noteの最高額面だが非常に高額。White Note(白地に黒文字、絵なし。裏は白紙)、サイズは211x133mm。1945年廃止。
(2020-3-29記載)

⑶The Scarlet Thread by Jacques Futrelle (多分Boston American紙が初出 1905) 別題Mystery of the Scarlet Thread 宮脇 孝雄 訳: 評価5点
思考機械もの。新聞記者ハッチを手先にして推理します。並みの作品ですね。キャベルの行動がいまいち理解出来ないのですが、隠された意味があるのでしょうか。格闘シーンで教授がぶっ飛ばされたら面白いのに、と思いました…
p61 バックベイ地区 (the Back Bay): 19世紀の立派な建物が並ぶボストンの高級住宅街
p62 照明はガス又は電気が選べる: 高級住宅街らしく電化が進んでいます。
p71 時間記録機がありまして… (There’s a time check here): タイムカードは1900年ごろの発明らしい。
p86 月200ドルのアパート代(I pay two hundred dollars a month): 消費者物価指数基準1905/2018で28.53倍、現在価値63万円。間取りはバス付きの2、3部屋。すごい高級住宅ですね…
(2018-12-30記載)

⑷Modern Rural Sports by O. Henry (短篇集1908)「当世田舎者気質」小鷹 信光 訳: 評価5点
ジェフ・ピーターズもの。当時からノスタルジアを掻き立てるのが上手な作者。最後の遊びを知ってるとなお面白いだろう。某Tubeにアップされてるので知らない人は是非見てください。
(2022-10-2記載)

⑺The Innocence of Father Brown: The Sign of the Broken Sword (Saturday Evening Post 1911-1-7) 深町 眞理子 訳: 評価5点
評は『ブラウン神父の童心』を参照のこと。
(2018-12-30記載)

⑻The Affair of the German Dispatch-Box by Victor L. Whitechurch (多分Pearson‘s Weeklyが初出か。単行本Thrilling Stories of the Railway 1912) 浅倉 久志 訳: 評価5点
ソープ・ヘイズルもの。ややメカニカルな解決なので趣味に合わず。変テコな属性たっぷりの探偵にも魅力なし。この車両は通路なしのコンパートメント独立式(進行中は他のコンパートメントに移れない。直接コンパートメントのドアから地上に出入りする車両)なので、車両の両側の窓のどちらでやるか、が重要なポイントだった。
(2020-2-16記載)

⑼The Knight’s Cross Signal Problem by Ernest Bramah (News of the World 1913-8-24と翌号(2回連載) 連載タイトルThe Mystery of the Signals) 池 央耿 訳: 評価7点
マックス・カラドスもの。謎の解明やトリックには感心しないが、意外にも社会への切り込みがしっかりしていてビックリ。流石カイ・ルンの作者。
p240 指で印刷インクを読む: 本当に可能なの?
p259 スズメの叉骨(メリーソート)を象った金のブローチ: merrythoughtはラッキーアイテムとして使われているようだ。
(2020-2-16記載)

(10)The Chink and the Child by Thomas Burke (Colour 1915-10) 大村 美根子 訳: 評価5点
ロンドンの裏の顔。英国人にはエキゾチックな話として面白いかも、だがアジア人たる我々にとっては違和感を覚えざるを得ない。でもエキゾチックってそんなものだろう。リアリティが感じられるのは作者がチャイナタウンの近くで育ったからか。
初出のColour誌は現代アートが天然色で掲載された52ページのタブロイド。1シリング(=734円)
p288 ファン・タン: Fan-Tan、広東語で「番攤」Wikiに「ファンタン」として記載あり。
(2020-2-18記載)

(12)Coincidence by J. Storer Clouston (初出不明 単行本Carrington's Cases 1920) 池 央耿 訳: 評価8点
キャリントンもの。これは面白い。上手な語り口と構成。人に話したくなるような話。
p325 矢じりマークの囚人服: broad arrowは1870年代から1922年まで英国囚人服のマークとして採用されていた。Wiki “Prison uniform”に画像あり。
(2020-2-18記載)

(13) The Grey Cells of M. Poirot XII. The Clue of the Chocolate Box by Agatha Christie (初出Sketch 1923-5-23) 深町 眞理子 訳: 評価6点
『ポアロ登場』参照。翻訳は深町さんのがずっと良い。特にp382「俗世との縁を切った(no longer of this world)」、ただしp376「錠剤はチョコレートでできている(tablets were of chocolate)」は「チョコレート色」だと思います。(スーシェ版TVドラマを観たらチョコレート「糖衣」で正しいようだ。薬にチョコレートを使うとは思わなかった…)
(2020-3-1記載; 2020-3-9訂正)

(14)The Entertaining Episode of the Article in Question by Dorothy L. Sayers (Pearson’s Magazine 1925-10) 宇野 利泰 訳: 評価5点
ウィムジイもの。ネタはつまらないが、ピーター卿の会話が楽しい作品。バンターとのコンビ技や公爵夫人のキャラも良い感じ。原文ではフランス語に英訳はついていない。ここに出てくるアテンベリーがピーター卿最初の事件「エメラルド(或いはダイヤモンド)事件」の関係者、という設定なのかな?
p393 姉のメアリー(his sister Mary): もちろん「妹」が正解だがここの文章だけではわからない。五歳年下、と『雲なす証言』に出てきます。
p407 トリ(bird): 英俗(魅力的な)若い女、と辞書にあり。「小鳥ちゃん」でどう?
p407 少年刈り(shingled head): 1920年代に美容師Antoni Cierplikowskiが流行らせたらしい。Webで検索すると辞書には出てくるが美容用語として「シングル・カット」は通用していないようだ。
(2020-2-18記載)
この作品、セイヤーズが1920年ごろにSexton Blakeものとして書いた習作を元にしてる、という。それなら犯人逮捕時の見得もわかる。あれは有名な犯人(多分、オリジナルではLeon Kestrel)じゃないと効果が上がらない。
(2020-3-1追記)

(15)Wilson’s Holiday by G. D. H. & M. I. Cole (初出不明 単行本1928) 深町 眞理子 訳: 評価6点
ウィルスン警視もの。リアリスティックな設定と構成が良い。淡々と捜査してても過程が良いので飽きない。足跡付きの図面もあります。
p417 モリス=オクスフォード: 1913年からのブランド。1926年からFlatnoseになった。作中の「新型」は、それを指してるのか。
p461 拷問みたいなやりかた… アメリカの警察の専売特許: 英国人のイメージ
(2020-3-1記載)

(16)A Passage to Benares by T. S. Stribling (初出Adventure 1926-2-20) 田村 義進 訳
ポジオリ教授もの。単行本でまとめて読むつもりなので、今回はパス。この最終話だけ読んでもねえ…
(2022-10-2記載)

(17)The Door Key by Frederick Irving Anderson (初出TheSaturday Evening Post 1929-12-28 挿絵Hubert Mathieu)「ドアの鍵」浅倉 久志 訳: 評価5点
パー&アーミストンもの。のんびりした米国の田舎の情景。牛の乳搾りとかナマズ釣りの描写が良い。飼い猫が乳牛の番をしているのが面白い。
ミステリ的には乱暴な話。ベルティヨン式がまだ有効だった時代なんですね。
(2022-10-2記載)

No.2 5点 クイーンの定員Ⅰ- アンソロジー(国内編集者) 2018/12/30 04:41
1951年出版のEQコメント付き傑作リスト。日本版はそのリスト(1969年改訂の#125まで。EQコメントは一部のみの翻訳、各務 三郎による解説付き)と、リストに挙げられた短篇集からセレクトした短篇を収録。(ハードカヴァー1984年、全3巻; 文庫1992年、全4巻)
Ⅰ(文庫版)の収録作品は、[⑹は文庫版のみ収録]
⑴王妃の犬と国王の馬(ヴォルテール)、⑵盗まれた手紙(ポー)、⑶人を呪わば(コリンズ)、⑷舞姫(トマス B. オルドリッチ)、⑸世にも名高いキャラヴェラス郡の跳び蛙(トウェイン)、⑹バチニョルの小男(ガボリオ)、⑺クリーム パイを持った若い男の話(スティーヴンスン)、⑻赤毛連盟(ドイル)、⑼サミー スロケットの失踪(モリスン)、⑽罪の本体(ポースト)、(11)ダイヤのカフスボタン(グラント アレン)、(12)代理殺人(ボドキン)、(13)ディキンスン夫人の謎(ニコラス カーター)、(14)ラッフルズと紫のダイヤ(ホーナング)
私は単行本版で読んでいます。(文庫を発注したつもりだったのに…) アンソロジーを一気に読むのは無理。暫定評価を5点として、各作品を読了後に更新してゆきます。なお初出はFictionMags Index調べ。
(2018-12-30記載)

⑴The Dog and the Horse by Voltaire (単行本1747、EQMM 1954-10) 小鷹 信光 訳: 評価5点
推理力の高い知恵者の話は古今東西にあるはず。(一休とかナスレッディンとか) ただし大抵は作者不詳。作者が明確なのはこの作品が初ということか。知恵は権力から危険視される、という常変わらぬ真理。(今、ふと思ったのですが、英国TVシリーズSherlockの最終シリーズは、そーゆーテーマにすれば良かったのにね。)
金400オンスは現在なら5600万円相当。(ここ数日相場が荒れてるので1トロイオンス1300ドルで換算)
(2019-8-7記載)

⑵The Purloined Letter by Edgar Allan Poe (1844) 深町 真理子 訳: 評価5点
Purloinと言えば、この作品が連想されるめったに使われない単語とのこと。「偸まれた」としてる翻訳もあり。ドイルの『ボヘミア』がこれの変奏曲というのは指摘されるまで気づきませんでした。デュパンの解説が非常に長くてびっくり。愉快な話ですがこの程度のトリックで本当に警察の徹底探索から逃れられたのか。
報酬五万フランの換算は、作中時間が不明確(18--年秋)ですが、金基準(1840)で1フラン=0.1997ドル、米国消費者物価指数基準(1840/2019)で29.44倍なので、50000フランの現在価値は3109万円。
(2019-8-8記載)

⑼Martin Hewitt, Investigator. II. The Loss of Sammy Crockett by Anon. [Arthur Morrison] (Strand 1894-4、雑誌中2番目の小説、挿絵Sidney Paget) 山本 光伸 訳: 評価5点
マーティン ヒューイットもの。華のない探偵です。最初の2篇は作者名無しで掲載されました。タイトルにもなっている中心人物の苗字は雑誌では上記クロケット、単行本でThrockettに変更しているようです。ストランド誌のこの号は広告を除く全内容がWeb公開されています。ちぎった手紙の切れ端の図がちゃんと掲載されていました。英国の田舎の賭けレースの裏側が興味深い。探偵ものとしては平凡だが語り口で読ませる。
(2019-5-16記載)

⑽The Corpus Delicti by Melville D. Post (単行本1896、初出誌不明。単行本書き下ろしとは考えにくいのですが…) 池 央耿 訳: 評価6点
悪徳弁護士ランドルフ メイスンもの。気持ち悪い描写があるのでご注意。この結末でいいのかなあ。(まー金持ちってのは鈍感ですからね)
(2018-12-30記載)

(11)An African Millionaire, II. The Episode of Diamond Links by Grant Allen (Strand 1896-7、雑誌中5番目の小説、挿絵Gordon Browne) 池 央耿 訳: 評価6点
クレー大佐もの。シリーズ第2話。(第1話「メキシコの予言者」は『シャーロック ホームズのライヴァルたち①』(早川1983)に収録)
50シリング程度(消費者物価指数基準1896/2018で129.21倍。現在価値約45000円)のまがい物?に300ポンド(約545万円)出そう、と平気で言うのが大金持ちの嫌らしさ。(しかも本当の価値は3000ポンド以上と見抜いている) ネタは単純明解ですが、面白い話に仕上げています。(まー金持ちってのは鈍感ですからね)
(2018-12-30記載)

(12)The Murder by Proxy by M. McDonnell Bodkin (Pearson’s Weekly 1897-2-6、ただし雑誌掲載時の探偵はAlfred Juggins。単行本1898でPaul Beckに変更) 深町 真理子 訳: 評価5点
親指探偵ポール ベックもの。元のジャギンズ中年探偵の活躍はシリーズ第1作目が『シャーロック ホームズのライヴァルたち①』(早川1983)で読めます。こちらはシリーズ第3作、単行本では4番目の話。作中で言及されてる「サザン公爵のオパール」事件はシリーズ第2作By a Hair’s Breadth(単行本3番目)です。
8月12日の事件。「年千ポンドの手当」は英国消費者物価指数基準(1897/2019)で128.9倍、現在価値1736万円。本作のネタは乱歩先生が「この着想はアメリカの古い探偵作家P…と、フランスのL…が使っている」と書いてるやつ。実は本作が一番早い発表。説明過多になってないのが良い。
銃は「古い“マントン”の先込め銃(old ‘Manton’ muzzle-loader)」が登場。「撃発雷管(caps)… 火薬をニップルに振りいれた(had shaken the powder into the nipples)…」とあるのでパーカッション式の狩猟銃です。(ニップルにキャップを被せて発射準備完了。撃鉄がキャップを叩くと点火し弾丸発射。ニップルに入れたのは導火用の火薬と思われる。キャップを外すと発火しません。) Joseph Manton (1766-1835)は英国ガンスミスで猟銃の改革者、とのこと。「なまじ照準器つきのなんかより、よっぽど強力だし、遠くへも飛ぶぞ。それに、二発撃つごとに掃除をしなくても、錆が出る心配もない」元込め式の現在の猟銃と比べると色々利点があったのですね。よく考えると、古い銃なら発火機構が表に出ているので… (以下自粛)
(2019-8-7記載)

(14)A Costume Piece by E. W. Hornung (Cassell誌1898-7) 浅倉 久志 訳: 評価5点
ラッフルズもの。単行本の第2話。ルパン三世みたいなノリ。言及されてる「ポンド街の冒険」(第1話The Ides of March)はどんな話なのか気になります。
p298 [それぞれ]二万五千ポンド(fifty thousand pounds): 二つで五万ポンド。英国消費者物価指数基準1898/2020で130.83倍、25000ポンド=4億6千万円。
p299 ばかでっかい拳銃(a whacking great revolver!)… 弾丸で自分の名前を書く(write his name in bullets): シャーロックの狼藉はMusgrave Ritual(Strand 1893-5初出)。名前(イニシャル?)を書くには、拳銃だと一度にまとめて6発しか撃てないので、かなりの手間だと思います。
p315 十シリング: 9223円。馬車の御者への手間賃。
(2020-1-5記載)

No.1 5点 シャーロック・ホームズのライヴァルたち①- アンソロジー(国内編集者) 2018/12/26 06:43
1983年出版のオリジナルアンソロジー。押川 曠さんはかつてHMMにS.H.のライヴァルものをコツコツ翻訳されていた山田 辰夫さんの筆名です。(オスカー ワイルドのもじり、とのこと) 最近、すっかりヴィクトリア朝の作品のペースに慣れてきました。でも全部一気に読むのは無理。ボツボツと更新します… (当座の評価は5点です)
以下の初出は、文庫のゆきとどいた記載を(いつもの通り)FictionMags Indexで補正しました。(タイトルや作者名はなるべく初出時のものを採用)
収録作家は
⑴L.T. ミード、⑵モリスン、⑶グラント アレン、⑷ポドキン、⑸ヒューム、⑹ディックドノヴァン、⑺アシュダウン、⑻ロバート バー、⑼ウォレス、⑽ホワイトチャーチ、(11)ヘスキス プリチャード、(12)ホーナング、(13)R.C. レーマン、(14)ブレット ハート

⑴Stories from the Diary of a Doctor, VII. The Horror of Studley Grange by The Authors of “The Medicine Lady”. (L.T. Meade & Clifford Halifax M.D.) (Strand Magazine 1894-1、雑誌の巻頭話、挿絵A. Pearse) 押川 曠 訳: 評価4点
ハリファックス博士もの。文庫のタイトル裏の絵が怪奇現象の場面。(ちょっと潰れ気味で目の下の手が見えない) 執念が心に残る話。仕掛けがよくわからないので低評価。ストレプトマイシン発見前ですね。シリーズの筆名「The Medicine Ladyの作者たち」の意味は不明。(先行してThe Medicine Ladyという作品があったわけでもない様子) Web検索で当時のSpectator紙の記事(1894-6-9)が引っかかったのですが読んでません… Clifford Halifaxは英国の医師・作家 Edgar Beaumont (1860-1921) の筆名。ストランド誌のこの号は無料で全内容(イラスト付き)がWeb公開されてます。(合本版なので、当時の広告がないのが非常に残念)
(2012-12-26記載)

⑵Martin Hewitt, Investigator. IV. The Case of the Dixon Torpedo by Arthur Morrison (Strand 1894-6、巻頭話、挿絵Sidney Paget) 押川 曠 訳: 評価4点
ヒューイットもの。どう考えても容疑者は二人に絞られるのですが、依頼人が全く疑わない時代です。ひねりのない素直な作品。探偵に華がありません。ストランド誌のこの号も無料公開されてます。
p76 20ルーブル紙え幣(twenty-rouble notes): 1894年の交換比率で20ルーブル=2.1ポンド。英国消費者物価指数基準1894/2018では126.24倍、現在価値37268円。
20ルーブル紙幣をWorld Paper Money カタログで探したら1822年発行Crowned double-headed eagle with sheild. First signature printed, second signature handwritten. 色はGreenのとReddishの2種類、大きさは不明。なぜか帝政ロシアで20ルーブル紙幣はそれ以降発行されていないようです。
(2018-12-27記載、追記2019-1-19)

⑶An African Millionaire, I. The Episode of the Mexican Seer by Grant Allen (Strand 1896-6、雑誌中3番目の小説、挿絵Gordon Browne) 押川 曠 訳: 評価4点
クレー大佐もの。シリーズ最初の作品。(第2話「ダイヤのカフスボタン」は『クイーンの定員』に収録) コンゲームなのですが切れ味に欠けます。ミラクル変装術が嘘くさい。5ギニー =5ポンド5シリング=5.25ポンド、現在価値95363円(消費者物価指数基準1896/2018で129.21倍)最初5ギニーと言ってすぐに5ポンドに変更したのは値切り?それともほぼ同価なので心理的には同じことを言っているのか。5000ポンドは約9000万円。この額でヘナヘナとならないのが大金持ちらしいです。ストランド誌のこの号も無料公開あり。
(2018-12-28記載)

⑷The Vanishing Diamonds by M. McDonnell Bodkin (Pearson’s Weekly 1897-1-23) 押川 曠 訳: 評価5点
ここではジャギンズ中年探偵だが単行本で親指探偵青年ポール ベックに書き直された話。シリーズ第1作。ちょっと凝ったプロットですが、犯人側から再構成すると無茶苦茶な筋。語り口が良いので好印象。手紙でちょっとした要件を伝える(馬車がメッセージを運ぶ)時代です。シンプソンズの食事が美味しそう。
(2018-12-29記載)

⑸The Florentine Dante by Fergus Hume (初出不明 単行本1898) 押川 曠 訳: 評価5点
質屋のヘイガーもの。女性探偵。ありがちな話ですが面白く読めました。
p132 五ポンド: 消費者物価指数基準1898/2019で129.05倍、現在価値90710円。
(2019-1-1記載)

⑹The Queensferry Mystery by Dick Donovan (初出不明 単行本1900) 押川 曠 訳: 評価3点
タイラー タットロックもの。特に取り柄のない作品。
p153 約百ポンド相当の宝石類… 百五十ポンドはするダイヤの首飾り: 消費者物価指数基準1900/2019で122.03倍。現在価値は100ポンドが172万円、150ポンドが257万円。
(2019-1-20記載)

⑺The Adventures of Romney Pringle, (3) The Chicago Heiress by Clifford Ashdown (Cassell’s Magazine 1902-8, 挿絵Fred Pegram) 乾 信一郎 訳: 評価5点
ロムニー プリングルもの。どんな種類の話なのか良く分からず読んで最後にちょっとびっくり。そーゆーシリーズだったとは。ひねりはありませんが綱渡りの妙。翻訳は上質。千ポンドは英国消費者物価指数基準(1902/2019)で121.89倍、現在価値1566万円。
(2019-8-9記載)

⑻The Triumphs of Eugene Valmont: Lord Chizelrigg’s Missing Fortune by Robert Barr (Saturday Evening Post 1905-4-29, 挿絵Emlen McConnell) 押川 曠 訳: 評価6点
ユージェーヌ・ヴァルモンもの。短篇集(1922)の第4話。語り口がうまくて楽しい話。国書刊行会の単行本を思わず発注してしまいました…
p219 十万ポンド以上: 英国消費者物価指数基準1905/2020で122.39倍、10万ポンドは17億円。
p233 定価が12シリング6ペンスでそれに小包送料が6ペンス… 重さはまあ4ポンド以下: 12シリング6ペンス=10784円。送料6ペンス(=431円)は4ポンド(=1814g)以下のものということ。
(2020-1-20記載)

⑼ The Man Who Sang in Church by Edgar Wallace (20-Story Magazine 1927-9) 押川 曠 訳: 評価5点
正義の三人もの。押川さんはNovel Magazine 1921年(月不明)を初出としていますが、上記が正解。(FictionMags Index及びThe British Bibliography of Edgar Wallaceによる) 混乱のもとは短篇集の英国版と米国版のタイトル。ストランド誌やNovel誌などに1921年に発表した短篇を集めた「正義」シリーズ四作目が英The Law of the Four Just Men(1921)、米Again the Three Just Men(1933)で、20-Story誌などに1927年に発表した短篇を集めた「正義」シリーズ六作目が英Again the Three Just Men(1928)、米The Law of the Three Just Men(1931)なのです。(見事に入れ違ってますね。) 本作は後者(シリーズ六作目、英国版1928年出版)の第9話。
正義の三人も丸くなったもんだな〜。まー私は『正義の四人』(1905)しか読んでませんが。このシリーズの他の作品が日本語で読める日が来るかなあ。
p244 彼女は色が黒く、ほっそりとして(She was dark and slim): お馴染み「黒髪で」。まー「顔色」としてないのでギリギリセーフか。(でも「色が黒く」は肌の色だと思っちゃうよね…)
p245 玄関のドアには、ここが“正義の三人”の住み家であることを示す銀の三画印がついている(the silver triangle on the door marked the habitation of the Three Just Men): アレ? 世間に公表して大丈夫なの?
p247 名前はどうでもよいのです(a man whose name will not interest you): 依頼のターゲットの名前なんだから「どうでも良い」は違和感ありまくり。試訳「言っても知らない名前だと思います。」
p248 二人が深い関係になる前に(before our friendship reached a climax): 若い女性の発言として、この訳はちょっとどうか。試訳「私たちの関係が深くなる前に」
p248 年2000ポンドの母の遺産(I have money of my own—my mother left me two thousand pounds a year): 英国消費者物価指数基準1927/2020で63.24倍、1ポンド=8916円で換算すると、年1783万円。
p263 指紋を信じたってだめなのさ。なぜなら…(With all his faith in fingerprints gone astray because...): この訳ではダメなのさ。「指紋は確実だって信じてたのに(その信頼が)裏切られちゃって。でも…」ということ。
(2020-1-25記載)

⑽ The Affair of the German Dispatch-Box by Victor L. Whitechurch (初出不明、Pearson’s WeeklyかRoyal Magazineか。単行本Thrilling Stories of the Railway 1912) 押川 曠 訳: 評価5点
ソープ・ヘイズルもの。単行本では15篇中6番目に収録。このコンパートメントは廊下なしのもの。作戦がメカニカルで気に入りません。隣のコンパートメントの動きを想像すると、そこからバレそう。映像化したら楽しそうです。
(2020-3-14記載)

(11)The Seven Lumber-Jacks by Hesketh Prichard (初出不明、このシリーズはPearson’s Magazine連載のようだ。単行本November Joe; Detective of the Woods 1913) 押川 曠 訳: 評価5点
ノヴェンバー・ジョーもの。単行本では9篇中4番目に収録。続きものなので冒頭に記載されてる事件がよくわかりませんが、本篇とは関係ありません。荒っぽいカナダの森の男たちの描写が楽しい作品。50ドルは米国消費者物価指数基準1913/2020(26.13倍)で14万円。
(2020-3-14記載)

(12)A Schoolmaster Abroad by E. W. Hornung (英初出Red Magazine 1913-??-??; 米初出Everybody’s Magazine 1913-11 as “A Matter of Two Ciphers”) 乾 信一郎 訳: 評価6点
ジョン・ダラーもの。シリーズ5作目。スイスの休日と演芸とスポーツ。廻りくどい文章ですが原文もそんな感じ。筋の流れが良く、ダラー博士のキャラも立っている。掲載誌のEverybody’s Magazineは当時15セント144ページ。ピアソン系雑誌の再録が多かったようだ。ということは初出は押川さんの記載通り英国誌Red Magazine(当時4シリング半160ページ)と思われる。
p317 トボガン(toboggan): シンプルな作りの橇。北米インディアンの言葉otobanask, odabaganから?
p319 肌の浅黒い紳士(black-avised gentleman): ここは「肌が浅黒い」の意味で間違いない。『ピクウィック・ペーパー』(Pickwick)からの一節を披露して爆笑を誘う。
p322 イートンのスクールカラー・ネクタイ(Old Etonian tie): Eton Collegeのストライプ柄ネクタイのことですね。
(2020-3-15記載)

キーワードから探す
弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.13点   採点数: 499件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(96)
A・A・フェア(29)
ジョン・ディクスン・カー(28)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(19)
カーター・ディクスン(18)
アガサ・クリスティー(18)
アントニイ・バークリー(13)
G・K・チェスタトン(12)
R・オースティン・フリーマン(12)
アンソロジー(国内編集者)(11)