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弾十六さん
平均点: 6.14点 書評数: 534件

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No.13 7点 ヘレン・ヴァードンの告白- R・オースティン・フリーマン 2026/03/24 09:09
すごく面白い!
でも翻訳がポカ太郎さんなので、残念。細かいミスはかなり多そう。大きなポカもある。というか、ちゃんと自分の文章読んでます? と心配したくなるところがあるんだよ。辻褄の合わない文章がところどころ。
まあ大体は合ってる。でも、この方の訳書は、今まで読んだやつもそうだったけど、細かく見るとはてながたくさん湧いて、そういうのは大抵やらかしてるんだよね…
まあ、ここまで非難したので、翻訳の問題点は、後でじっくりやりますけど。まずは、大きなテーマから。
1923年の離婚法改正は、やっと夫の不貞を妻側の離婚事由に採用した。つまり、従前は(本書の出版時)、妻が不貞をしたら、夫はすぐ離婚提訴できたけど、妻は夫の不倫では離婚訴訟出来なかった。
英国の離婚は、二人が合意してても、離婚法廷の裁判官が納得しなきゃダメだった。そういう事情を解説しておいて欲しいなあ…
現代の日本の感覚なら、えっ、このシチュエーションでどうして、ああしないの?(一応ネタバレ回避)と思っちゃうだろう。不合理な行動と思われちゃうと、面白さ半減だよね…
それから、インクエストの絶対神、検死官の権力も、この本では存分に示されてる。だけど、インクエストがそういう制度だと知ってれば、危機感も、もっと感じられるだろう。
検死官がインクエストをミスリードして、家族を毒殺した、という評決が出て、犯人呼ばわりされた人が自殺しちゃった、という悲劇すら実際に起こったことがある。
フリーマンの『フルード』も結婚による悲劇の物語だった。
それから女性の自立テーマもフリーマンは気にしていた。独り立ちしている女性芸術家が良く作品に登場する。そして、スピリチュアルなネタも時事ネタ。作中現在は1908年。第一次対戦後に爆発するスピリチュアル系の胚芽は、本当にこんな感じだったのかも。
まあもっと、繊細な翻訳だったらなあ… と思うけど、話自体の内容はこの日本語で読んでもわかる。めちゃくちゃ翻訳じゃないけど、ナニコレ?が沸く翻訳… 今日はとりあえずここまで。
(以下、2026-3-25追記)
ちょっと拾ったら膨大になりそう。
p1% 読んでいた本は、ウィリアム・エドワード・ハートポール・レッキー(一八三八~一九〇三年。アイルランドの歴史家)の『十八世紀のイギリス史(全八巻)』でした。わたしが婚約したのはアン女王(一六六五~一七一四年。在位:一七〇二~〇七年)の時代です(The book was Lecky's "History of England in the Eighteenth Century," and the period on which I was engaged was that of Queen Anne.)◆訳注は翻訳書のまま。作中現在は後で1908年と判明するのに、この女性が「アン女王の時代に婚約した」と書いて平気なんだ。これだけ年代の豊富な訳註を付けてるのに… 以下試訳は全部ChatGPT無課金版「(前略)私が取り組んでいた時代は Queen Anne の治世の時期であった」
p2% 冷血で、恐喝まがいのことをするようなろくでなしに一生縛られている娘を見るよりも、貧しい娘を見ているほうがましだ(I would rather see the poor girl in her grave than know that she was chained for life to a cold-blooded, blackmailing scoundrel-)◆ in her graveが抜けただけ。
p3% 懐中電灯を持った捜索隊がチョークで描かれた穴の周りを歩き回っています(a search party, prowling with lantern around a chalk pit)◆ 試訳「探索隊が、ランタンを持って白亜採掘坑の周囲をうろついている」チャッピー解説chalk pit: 白亜(チョーク質石灰岩)の採掘坑。英国では崖状・穴状の場所が多く、自殺や事故の舞台になりやすい。
p3% むしろ寛容さこそ---そして、父はとくに過ちに対して寛容です---女の同情心に強く訴えかけるのです(whereas generosity-and my father was generous almost to a fault-makes the most powerful appeal to feminine sympathies)◆試訳「いっぽう寛大さ――そして私の父は欠点と言ってよいほど寛大であったのだが――は、女性の同情心に最も強力に訴えかけるものである」
p3% わたしはもう大人なのに、かつてそうしていたように父の膝の上に座ると、父の薄くなった灰色の髪の毛をなでました(I perched myself on his knee, as I often did, despite my rather excessive size, and passed my hand over his thin, grey hair.)◆ 試訳「私は、少々大きすぎる体にもかかわらず、いつものように父の膝の上に腰かけ、彼の薄くなった灰色の髪を手でなでた」
p3% 私の頭から髪の毛が伸びるとでも思ったのか?伸びたようには見えないだろう(Did you think my hair grew out of my cranium? But you won't see it long)◆ 試訳「私の髪が頭蓋骨から生えているとでも思っていたのかね? だが長くは見ていられんぞ」これから養毛剤でふさふさになるから、禿頭は見られなくなる、という趣旨。
明日は大事なのだけに絞るよ。
(以下、追記: 2026-3-26)
p4% 石炭バケツ(coal-scattle)◆ 室内用の石炭入れのこと。「バケツ」のイメージで、ちょっとピンと来なかった。
p4% 書斎の電話が鳴ったので、父と事務所のジャクソンとの電話はすでに終わっていることがわかりました(The tinkling of the telephone bell in the study told me that my father had finished his talk with his managing clerk)◆ 試訳「書斎で電話のベルがチリンと鳴ったので、父が主任書記との話を終えたのだと私にわかった」 微妙な間違いだけど、翻訳者は家庭内の内線電話の仕組みをよくわかっていない。どこかの電話を置くと、他の電話が一瞬小さく鳴るんだよ。小説のどこにも書いてないけど、1908年だからスティック式でダイヤル無し。交換手を必ず通す仕組みだね。
p4% ジミーという愛称は、わたしの名前がジェマイマであるという、古代の作り話から考えられたものです(the pet name "Jimmy" had been evolved out of an ancient fiction that my name was Jemima)◆ 試訳「ジミーという愛称は、私の名前がジェマイマであるという昔からの作り話から生まれたものだった」 ここではpet nameを理解してるね。でもan ancient fiction を誤解してる。aiちゃんの解説 【昔からの作り話/古くからの虚構、家族内の冗談めかした言い伝えというニュアンス】 なお、この項目から無料チャッピーの使用上限が来たので、今日はClaude(無料版)で試しているよ。
p4% 「私のような三流の事務弁護士は、自分の気質に従うなら、必然的に一流の銅細工師になるべきだろうな。そうだろう?」 / 「お父さんは一流の事務弁護士よ」とわたしは答えました。("Now, here I am, a third-rate solicitor perforce, whereas, if I followed my bent, I should be a first-rate coppersmith. Shouldn't I?" / "Quite first-rate," I replied) ◆
【試訳: 「見ろ、この私がいい例だ。やむを得ず三流の事務弁護士に甘んじているが、もし自分の望む道を歩めたなら、一流の銅細工師になっていたはずだ。そう思わないか?」 / 「きっと一流になれたでしょうね」と私は答えた。】 この原文の流れなら、翻訳者さんの解釈には絶対ならんよ…
p4% わたしは詮索好きではありませんが、それでも、父が窮地に陥っていることにはうすうす気がついていました。そして、そのことにわたしを巻きこみたくないことにも。それにもかかわらず、わたしは別のやり方で父に迫りました(Not that I was inquisitive on the subject; but, in view of a resolution that was slowly forming in my mind, I should have liked to have some idea what his position really was. It seemed pretty plain, however, that he did not intend to take me into his confidence; notwithstanding which I decided in a tentative way to give him an opening.)◆ 試訳「詮索好きからではない。ただ、心の中でゆっくりと固まりつつある決意のことを思えば、父の置かれた状況が実際どのようなものなのか、せめておおよそでも知っておきたかったのだ。しかし、父が私を信頼して打ち明けるつもりはないらしいということは、かなりはっきりしているように思われた。それでも私は、とりあえず父が話しやすいよう水を向けてみることにした」 うん、翻訳者さんは全然読めて無いね…
これ以降は無課金チャッピーに戻る。。
p5% そして、これも聞いた話だがー私は事実だと思っているが1彼のもともとの名前はレビーというらしい。そして、選ばれた人たち、すなわちエリートの一人だ(I have also heard-and I believe it is a fact-that his name was originally Levy, and that he is one of the Chosen)◆ 試訳「さらに私は――そしてそれは事実だと信じているのだが――彼の名前がもともとはレヴィであったこと、そして彼が選ばれた民の一人であることも聞いている」 Chosenて何?と聞いたらチャッピー解説【the Chosen は ユダヤ人(ユダヤ民族) 。より正確には:the Chosen (People) = 神に選ばれた民、という宗教的表現。旧約聖書の思想で、イスラエルの民が神に特別に選ばれた民族である、という観念に基づく。】うん。翻訳者は良く理解してないね。ユダヤ人ねたは、本書で沢山ばら撒かれてるのに。
p5% 「そう言えば、今夜はお店が遅くまで開いているのではなかったかな、ジミー?」 (And that reminds me, Jim; don't the shops keep open late to-night?")◆ チャッピーによると地域によって違うが週一で店が夜遅くまで空いてる日が決まっていたらしい。大抵は木曜日だったようだ。詳しく私は確認してない情報。『アンジェリーナ・フルード』p93参照。そっちでは土曜日が延長日だったように読める。
p5% 今夜、仕事の電話をかけなくちゃならないんだ。そして、いくつかものにしたい。だから、お祝いの食事にはしないでおこう(I've got to make a business call to-night, and I want to get some things, so we won't make it a ceremonious meal) ◆ 試訳「私は今夜、仕事上の訪問をしなくてはならないし、いくつか品物も手に入れたいので、あまり改まった食事にはしないことにしよう」 チャッピー解説【business call: 仕事上の訪問・商用の用件で人を訪ねること(電話ではなく実際に出向くニュアンス)】
p6% 五千ポンド(five thousand pounds) ◆ 英国消費者物価指数基準1908/2025(154.71倍)で£1=32966円。£5000=一億六千万円。
p7% ところで、あなたは二十一歳を過ぎていますよね?(By the way, I suppose you are over twenty-one?) ◆ 訳注が欲しいなあ。当時は21歳を超えれば、親の拒否で無効にはならないんだよ。
p8% 一九〇八年四月二日(the 2 of April, 1908) ◆ あっ。フリーマンの書き癖は、2ndとしないんだ… (数ページ後でも“2 April, 1908” )二十一日の方は "21st April, 1908" と書いている。まあ取り敢えず、これが冒頭の日付。木曜日である。前出の、この地域で店が夜遅くまで営業してるのは木曜日だと確定。
p11% わたしは抑えがたい衝動に駆られて父の首に飛びつくと、泣きじゃくりながらわたしの隠し事を父に打ち明けました(or how I controlled the almost irresistible impulse to fling myself on his neck and sob my secret into his ear)◆ ここが最も致命的な誤訳。翻訳者さんは、重大な告白?の後、何も起こらないのを変だと思わないんだね。試訳「どうやって、彼の首に身を投げかけて自分の秘密を彼の耳にすすり泣きながら打ち明けてしまいたいという、ほとんど抗いがたい衝動を抑えたのかも分からない」
以上。探せば、次から次にヘンテコが出てくる。キリがないのでもうやめるよ。

No.12 5点 キャッツ・アイ- R・オースティン・フリーマン 2025/03/16 05:03
1923年出版。初出Westminster Gazette紙連載1923-04-07〜1923-06-25(挿絵無し)。私はちくま文庫版で読みました。
著者「まえがき」に書かれている「著名な警察幹部に起きた大変な災難」が気になるだろうけど、「訳者あとがき」でちゃんとネタバラシしてくれてるから、ご安心ください(さすが渕上さん)。でも何で長篇に触れて無いのかな?あっちの方があの事件にバッチリ言及してますよ!
作中現在は『アンジェリーナ・フルード』(作中現在1919年)の前であることだけが確実(こちらも「訳者あとがき」で触れている)。自動車の時代になってるので、1910年代後半だろう。私は未読なので『ヘレン・ヴァードン』との関連はよくわからない。そちらの作中現在からもっと年代が絞られる可能性はある。実は本書の細かい分析はまだ行なっていないので、年代確定のヒントがもっとあるのかも?
本作には、英国歴史と聖書の話題が出てくるので、日本人にはちょっと取っ付きにくい作品だろう。あのズレは英国人には常識?私は古楽関係で知識はあったけど…
ミステリ的には、推理味が薄い。色々振り回されるのが楽しい人向けだろう。ソーンダイクは、いつもの通りダンマリだしね。アンスティを無邪気に危険に晒すなんて結構酷い人だ。
冒頭から事件が発生して、テンポいいなあ、傑作かも?という期待は裏切られたが、一晩で一気に読んじゃいました。アンスティ・ファンにはおすすめです!(そんな奴、いるのかなあ)
トリビアは後ほど。

No.11 6点 偽装を嫌った男- R・オースティン・フリーマン 2025/03/14 05:55
仕方ないから「狼の影: すべては一発の銃弾から」も登録したが、久々に見た1ページに1個以上のヘンテコ訳がある物件。怖いもの見たさの人以外は「偽装を嫌った男」を選んでくださいね。安いし。
以下は「偽装を嫌った男」の感想文です。
1925年出版。原題 “The Shadow of the Wolf” (『狼の影』という素敵なタイトルを、なぜヘンテコな訳題にしちゃうんだろう?) 中篇The Dead Hand(Pearson's Magazine 1911-10&-11)の長篇化。Kindle版は私家版であるが、翻訳は直訳調だが、読みやすい。夫の手紙(第12章)をもっと乱暴な文体にすべき、と思った以外、大きな不満は無い。
訳者あとがきで言及している、原文の変な点って、二十ポンドと五ポンドの齟齬だろう。第1章では「二十ポンド」と書かれているのに、第8章では同じものが「五ポンド」とあり、第7章&第8章で五ポンド紙幣のサイズとして記載された数値(eight inches and three-eighths long by five inches and five thirty-seconds wide, =213x134mm)は、二十ポンド紙幣のもの(8 1/4" x 5 1/4", =211x133mm)なのだ。実際の五ポンド紙幣は一回り小さい7 11/16" x 4 11/16", =195x120mmである(数値はいずれもBank of Englandより。ものによって若干違う場合もあるらしい)。中篇では二十ポンドだったものを、一旦はそのまま長篇化したけれど、後で状況を考えると五ポンドのほうがあり得るなあ(なにせ危険が高まっているのだ)と修正したが、第1章の「二十ポンド」と第7章&第8章のサイズを直し忘れた、という事だと思う。
本作にもフリーマンの社会改良の視点があり、今回は離婚問題である。だが、ちょっと間違っている。作中現在は1911年だが、この年だと妻からの離婚申立は、夫の不倫だけでは認められず、本件のケースなら、夫の不倫に加えて二年以上の遺棄がなければ申立理由とはならない。本書の状況は遺棄が数か月程度なので、今回、離婚申請が認められる可能性があるように書かれているのはおかしい。しかし1923年の離婚法改正で夫の不倫だけでも訴えは可能となったため、出版時なら離婚が認められる可能性はある。なので事件を1911年に設定していたはずなのに、作者がうっかり出版時の状況を読み込んでしまったのだろう。離婚が申立可能な状況設定は、長篇のテーマのキモの一つなので、長篇化を行ったのは1923年以降の可能性が高いと推測できる。
肝心の本書の内容は、中篇を引き延ばしたので、ちょっと軋みを感じるところがあるが、情感のある小説に仕上がっている。ミステリ的には小ネタな作品。妻が夫を冷静にディスるところが面白かった。
トリビアはのちほど。
(2026-4-21追記)
冒頭で非難したので、一例だけ。

某訳書p125「ひょっとして、あなたは私に会いにこないつもりですか?」警視が挨拶を交わしたとき、ソーンダイク博士が尋ねた。
「ええ、会いにいかないつもりでした」とミラー警視が答えた。「ですが、ちょっと挨拶するだけ立ち寄ろうと、半分訪ねる気持ちになっていました。クリフォーズ・インへ向かう途中、そこで起こっていたかなり奇妙な出来事を発見したものですから」
警視の経験から、かつら作りの職人がどのようにかつらを仕上げるかを勉強するほうがましだと思ったが、ここでミラー警視は用心深い目をソーンダイク博士に向けて、間を置いた。

“You were not coming to see me, by any chance?” Thorndyke asked when the preliminary greetings had been exchanged.
“No,” replied Miller, “though I had half a mind to look in on you, just to pass the time of day. I am on my way to Clifford’s Inn to look into a rather queer discovery that has been made there.”
Here the Superintendent paused with an attentive eye on Thorndyke’s face, though experience should have told him that he might as well study the expression of a wig-maker’s block.

【チャッピー】「ひょっとして、私に会いに来たわけではないのですかな?」と、ひと通りの挨拶が済むと、ソーンダイクがたずねた。
「いや」とミラーが答えた。「もっとも、時間つぶしにちょっと顔を出して、世間話でもしていこうかという気は半分あったがね。これからクリフォード・インへ行くところなんだ。あそこで、ちょっと妙な発見があってね、それを調べに行くんだよ。」
ここで警視は言葉を切り、ソーンダイクの顔を注意深くうかがった。もっとも、これまでの経験からすれば、その表情を読み取ろうとするのは、かつら職人の木製の頭型でも眺めるのと同じくらい無駄だと、わかっていてもよさそうなものだったが。

『偽装を嫌った男』p116「ひょっとして、私に会いに来たのではないでしょうね?」前置きの挨拶が終わって、ソーンダイクがきいた。
「いいえ」ミラーが言った。「時間を潰すために、ドクターを訪ねてみようかなという気持ちが半分はあったのですが、ね。クリフォード・インで、ちょっと変なものが見つかったので、見に行く途中なのです」
ここで、警視は注意深い目でソーンダイクを見て、ちょっと思案したが、経験から、出来上がった鬘をのせるマネキンの表情を見ることになるかもしれないと分かっているべきであった。

ミラーのnoは、某訳書「ええ」が日本語としては自然。チャッピーは、こういうのは自動的に「いいえ」にしちゃう。
だが、某訳書はthe preliminary greetings、experience should have told him、he might as well study the expression of a wig-maker’s blockがヘンテコになっている。You were not coming to see meも、ぎこちない。
某訳書はどこをとってもこんな感じ。

『偽装を嫌った男』の方は「出来上がった鬘をのせるマネキンの表情を見る」意味はわかるけど、スッと入って来ない。チャッピーの丁寧な補いが欲しいところ。
試訳「カツラ職人のマネキンから表情を読み取ろうと苦労する」

No.10 6点 冷たい死- R・オースティン・フリーマン 2025/03/03 09:47
1937年出版。Kindle訳は私家版。
検査官(inspector)、チャンバー(chamber)とか、変な訳語が時々出てきて、原文が透けて見えるような直訳調。でも意外と読むのにストレスがあまりない日本語になっている(平明な文章のフリーマンだからだろう)。小説の文章としてはメリハリの付け方が不十分だが… 夫が英国人のようで、英国の風習や制度などにも誤解は無さそう。これが初めての翻訳らしいけど、訳者は翻訳ミステリの読者ではなかったのでは?(inspectorを知らないからねえ…) この翻訳者のソーンダイクものは、変に工夫したタイトルが多いけど直訳のタイトルにして欲しいなあ。今回の場合は米版Death at the Innという代案もある。まあどっちもパッとしないタイトルになっちゃいそうだが… (『自殺か?』『インにて死す』)
まだ細かく分析してないけど、私は結構楽しめました。なにせこの小説、インクエストの情報が豊富なんですよ。Felo de Seという用語もインクエスト用語と言って良いだろう。それに作中現在は1929年のロンドンですからね。私の興味の中心どストライクです。
ミステリ的には、そうくるか?という話。ゆっくりした話の流れは、いつものフリーマン調で、牡蠣のごとく口を閉ざすソーンダイクにイライラしなければ、楽しい読書です。
トリビアは後ほど。

No.9 6点 アンジェリーナ・フルードの謎- R・オースティン・フリーマン 2025/02/19 05:39
1924年出版。私は平凡社 『世界探偵小説全集16』(1930)を元にした国会図書館デジタルコレクションで読みました。本字旧かな遣いですけど、邦枝 完二さんの翻訳は非常に読みやすい。ざっと原文を見ましたが逐語訳のようです(訂正: 七割ほどの抄訳でした)。ただ平凡社版はタイトルがね… (あえてタイトルを明記しませんよ!)一応ミスディレクションは施されている?のですけど、ダメだコリャ物件でした。どうしてこう言うタイトルが良いと思ったんだろう?見たら脳から消してくださいね(無理です)。全くの白紙状態で読むには、新訳を読むのが吉です(解説で戦前訳のタイトルに触れていますので、解説は読後に読んでくださいね)。
肝心の本作の内容は、ウブな新人医師がベテラン医師の不在時の代診をやってる時に、謎の事件に巻き込まれる、という発端(このパターン、結構フリーマンは使いますよね)で始まる、ちょっとのんびりした探索もの。なかなか進展しないのでイライラする人もいるかも。私は当時の英国の生活描写を楽しみました。インクエストの場面も出て来ます(翻訳では「裁判」と勘違いしてるけど)。
読後、おやおや、と思う人が多いでしょうけど、私は十分満足しました。事前情報無しで読みたかったなあ、という不満はありますが。
面白いネタが少しあるので、トリビアを後で補充します。
(以下2025-02-23追記)
結局、新訳も気になって購入しちゃいました。戦前訳と単純に語数を比較すると戦前訳は新訳の75%、確かに細かく戦前訳を検討すると、所々(特にあまり筋と絡まない固有名詞関係)を抜き、繰り返しと感じられる主人公の内省が諸所でばっさり削られている。しかし戦前訳でも全体の雰囲気は十分残しており、肝心なところは逐語訳といって言いくらい、一語一語をちゃんと翻訳している。文章も引き締まってリズムも良い。
ところで新訳の解説(井伊順彦)で重大な指摘あり。この作品ディケンズ『エドウィン・ドルードの謎』(1870)へのオマージュらしいのだ。確かにタイトルもMystery of Edwin DroodとMystery of Angelina Froodで相応関係にある。筋も似てるらしい。本作がディケンズ案件であることには気づいていたのだが(六人の貧しい旅人の宿とかディケンズが晩年住んでたロチェスターのガッド・ヒルなど)、エドウィン・ドルードを読んでからまた出直しです!
(以下2025-03-02追記)
Wikiでは戦前訳のタイトルがデフォルトになっちゃっている。更に「大幅な抄訳」という注釈もついているが、これは新訳の解説を鵜呑みにしただけだろう。新訳タイトルをWikiの項目タイトルに変更して欲しいなあ。(自分でも試みましたが、上手くいきませんでした…)
さてトリビアです。原文はGutenberg Australiaのを参照しました。ページ数は、基本、論創社のもの。戦前訳は「平凡p999」と表記。新訳だと明示したい時は「論創p999」と表記した。
p93, p111, p220から「四月二十六日、土曜日」なので、該当は1919年だが、p173とp174では曜日がずれて該当は1914年。でも「四月二十六日土曜日」は何度も繰り返されている重要な日付と曜日であり、動かせない。なので1919年で確定。その二週間+数日前の1919年4月10日ごろが第二章(ロチェスター篇)の開幕時期だと思われる。なお冒頭は、そこから更に一年少し前(p20, p37)だが、季節すら明示されていない。
価値換算は英国消費者物価指数基準1919/2025(65.99倍)で£1=12496円、1s.=625円、1d.=52円。
まず戦前訳も新訳もどっちも当時の英国の制度、インクエストと法的別離の制度を誤解しているので、少々長くなるがここで解説。
まずインクエスト。戦前訳では裁判と同一視しており、裁判官、判決、裁判所などの用語が平気で出てくる。新訳でも「判決(verdict)」、「結審(concludes the case)」、「裁判官が席を立つや(As soon as the court rose)」など、裁判用語が顔を出している。本書で検死官が陪審員に注意している次の教示がわかりやすい。
「検死法廷は刑事裁判とは違うのです。故人の死因を特定するのが我々の役割です。もし、証拠から被害者が殺害された事実が浮かび上がれば、判決(verdict: 正訳は「評決」)の中でそう述べるべきです。さらに、もし証拠が、明らかに特定の人物を殺人犯であると示しているなら、同様に、判決の中で名指しすべきでしょう。しかし、そもそも我々は犯罪を捜査しているわけではありません。故人の死因確定がこの審問の主たる目的(we are investigating a death)であり、犯罪捜査は警察の仕事です(p254)」こんな説明が必要だという事は、英国1922年の一般人でもインクエストを正しく理解していなかったのだ。インクエスト記事、そろそろ書かなくちゃ…
次に法的別離(別居)。戦前訳も新訳も、英国のこの制度(judicial separation)を「離婚」だと勘違いしている。「論創p40: 離婚を申し立て(applied for a judicial separation); 平凡p53: 離婚の手続き」、「論創p63: 法的保護(a judicial separation); 平凡p86: 離婚の手続き)」、「論創p284: 離婚を申し出る(could have applied for a separation); 平凡p344: 別居を願い出れば[ここは正解]) 当時の離婚要件は非常に限定されており、夫側は妻の不倫で申立可能だったが、妻側からは夫の不倫は理由にはならず、男女平等の観点から、1923年法改正でやっと夫の不倫が申立事由として認められた。今回の事例で離婚事由となりそうな「虐待」が申立可能となったのは更に遅く1937年改正時である。そのため英国では古くから「法的別離」(夫婦の同居義務を免除する)という代替手段が用意され、利用されている。
さて『エドウィン・ドルードの謎』との関連性については、本作はフリーマンが考えた『ドルード』完結篇、という説に全面的に賛成。他にもディケンズ関連が豊富に散りばめられているが、私はほとんどディケンズを読んでないので、見逃しもありそう。気づいたものはトリビアに採り上げました。
登場する地名は全部が実在のものなので、訳者あとがきで推奨されてる様に、Web上でRochester観光が楽しめる。原綴りが無いと検索しにくいが、かなり長くなるので、ここではカット。原文を参照願います。StroodからRochesterを経由してChathamまで歩いて50分の距離、この位置関係をまずは把握しておこう。城壁観光にはWebのロチェスター旧城壁地図(p56に記載)が非常に便利。
p9 ばち指(clubbed fingers)◆ (平凡p7: 棍棒型)
p9 巨大な洋ナシ(great William pear)◆ Williams pearは英国の言い方、米語ではbartlett pear、瓢箪型の西洋梨の代表種のようだ。日本では「バートレット」が定訳か。(平凡p7: 大きな梨)
p10 外套(a cloak)◆ ここは「マント」が好み。
p14 破損した錠前と折れ曲がったレンチ(disordered lock and loosened striking-box)◆ striking-boxはボルトの受け金具。試訳「ずれたボルトと外れそうな受け金具」 (平凡p15: [訳なし])
p16 [訳し漏れ](sat down before the gas fire)◆ 季節は秋か冬だろうか。(平凡p18: ストーブの前に腰をおろし)
p18 結局なんの結論も出せずに終わった(they led to nothing but an open verdict)◆ open verdictはインクエスト用語。現時点での証拠を検討しても、死亡に至る状況は不明、という評決。 (平凡p20: 別に何物を得られなかった)
p19 よくないことが起きる前は、前兆の影が差すものだ(Coming events cast their shadows before them)◆ 19世紀に流行っていた言い方。元ネタ不詳。
p20 一年以上経過(Rather more than a year had passed)
p22 船乗りの間で"グリーン・リヴァー"の呼称で知られる鞘付きナイフ(sheath-knife of the kind known to seamen as "Green River")◆ マサチューセッツ生まれのJohn Russellはナイフ製造業を1834年にGreenfieldで創業。1836年に工場をGreen Riverに移し、会社名をJ. Russell & Co. Green River Worksとした。ナイフの刃に会社名がしっかり刻まれている。knife green river traditionalで検索。5インチ刃が標準か。(平凡p26: 海員用の大きな短刀)
p23 建築・不動産鑑定業(Architects and Surveyors)◆ 建築関係の言葉らしい。本作の描写なら「不動産屋」で良いか。(平凡p27: 工務所)
p25 たぶんハビーです(Hubby, I ween)◆ Husbandか (平凡p30: 亭主の奴)
p25 ベロアの帽子(a velour hat)◆ (平凡p31: 天鵞絨の帽子)
p26 旧街道(old street)
p30 お洒落な若者(young “nut”)◆ 当時の新語? (平凡p38: 気取屋)
p30 どう見ても「風変わりな」具合に前髪を後ろに… (From his close-cropped head, with the fore-lock "smarmed" back in the correct "nuttish" fashion)◆ ファッション資料として、髪型描写を原文のみ抜粋 (平凡p38)
p32 メッサーズ・ジャップ氏とバンディ(Messrs. Japp and Bundy)◆ ケアレスミス。試訳「ジャップ&バンディ社」
p33 書類をひとまとめにして赤い平ひもで束ねると(Folding the documents and securing them in little bundles with red tape)◆ 「有名な」赤テープ が比喩(官僚仕事)ではなく、実際に出てきた。(平凡p43: 書類を纏めて、それを赤いテープで縛って)
p35 よく通る甲高い声(in the clear, high-pitched voice)◆ (平凡p45: ハッキリした癇高い声)
p37 一年少し前の真夜中(a little more than a year ago, about twelve o'clock at night)◆ ここでも戦前訳のほうが逐語訳(平凡p47: 一年計り前… 夜の十二時頃)
p38 もうすっかり知られてしまった(the cat is out of the bag)◆ 戦前訳が可愛い。(平凡p48: 猫は袋から出て仕舞った)
p39 夫は別居に同意せず(He wouldn't agree to the separation)◆ 戦前訳では省略
p40 船医(ship's surgeon)としてアフリカ西岸(West Coast… West Africa)◆ フリーマン(Gold CoastのAccra)もコナン・ドイル(捕鯨船 Hope of Peterhead)も船医の経験あり。(平凡p52: 阿弗利加の西海岸; 「船医」は省略)
p43 慈善家のリチャード・ワッツ(worthy Richard Watts)◆ ディケンズ他の短篇連作 "The Seven Poor Travellers"(1854)の元ネタ。コリンズ短篇集『夢の女・恐怖ベッド』(岩波)の「盗まれた手紙」(四番目の貧しい旅人の話)に詳しく書いたので参照願います。
p43 ただし悪党と弁護士は除く(must be neither rogues nor proctors)◆ proctorはp141を先取りせず、誰もが「何故そうなの?」と思う「弁護士; 代書人」と訳すべきところ。(平凡p58: 但し、乞食や浮浪人は除外する)
p45 売春宿(Turkish baths)◆ ああ、昔の日本同様、そういう意味もあったのか… 周りが嘲っているので確実にその意味をこめているはず。なお日本の性風俗店として「トルコ風呂」の名称を使った店がオープンしたのは1971年が最初らしいので、戦前訳(平凡p60: 土耳古風呂)は英語のイメージか(ただの直訳か)。
p51 馬車(a cab)◆ この時代ならタクシーの可能性が高い。(平凡p69: 馬車)第16章でtaxi-cab 又はcab(戦前訳「馬車」; 新訳「タクシー」)と書かれているのはdriver(戦前訳「御者」; 新訳「ドライバー」)が運転しているので間違いなく自動車である。(論創p255)
p51 十シリング(a ten shilling note)◆ 当時の10シリング紙幣は10 Shilling 3rd Series Treasury Issue(1918-10-22〜1933-08-01)、サイズ138x78mm、緑と茶。 (平凡p69: 五志の紙幣[ケアレスミス])
p54 サム・ウェラーのことばを借りると---"覗き見"(to use Sam Weller's expression—"a-twigging of me.") ◆ 元ネタ(ディケンズ "Pickwick Papers" 第20章 'They're a-twiggin' of you, Sir,' whispered Mr. Weller)は主人公を事務員たちが好奇心もあらわに上から「盗み見してる」場面で、本書の場合も「盗み見」が適切だろう。
p55 葬儀屋の女房みたいな人(Looks like an undertaker's widow)....ウィロー(柳)と韻を踏んでる(Rhymes with willow)◆ 原文では名前Gillowを揶揄っている。widowも仲間に入れてあげて。(平凡p73: 葬具屋の後家さんみたいな人… 陰気な名前)
p55 おお、我が帽子の周りを取り囲む緑色の--(Oh, all round my hat I'll wear the green—)◆ willowと続く。愛した女を失った悲しみで緑色の柳を喪章としてつける、という歌。メロディに乗せて歌えるように「ぼ〜しには、つけるよ緑…」はいかが?英国19世紀の俗謡 “All Around My Hat”(Roud 567&22518, Laws P31)英Wikiに項目あり。(論創p55: 平凡p73: あはれ、わが/帽子のまはりに/われは付けむ/緑の…)
p55 おお、良き知らせをシオンに伝える者よ(O! Thou that tellest good tidings to Zion!)◆ ヘンデル『メサイア』第9曲の冒頭、元はIsaiah 40:9(KJV) O Zion, that bringest good tidingsから。メロディに乗せて歌えるように「良き知〜らせを伝えよ、シオンに」でどうでしょう?「に」がちょっと苦しい。(平凡p74: シオンの御山へ、よきおとづれを告げたまえる主よ)
p56 彼はいいやつ〜だ(For-hor he's a jolly good fell—)◆ メロディに乗せて歌えるように「彼はとてもいい奴…」にしたいなあ。(平凡p75: フォア、ヒーズ、ジョリー、グッド、フェロー)
p56 城壁(the remains of the city wall)◆ WebサイトCastellogyに"Rochester city walls"という記事があり、ロチェスター市の城壁の地図があった。(平凡p77: 此の町に残っている城壁)
p57 ステイプル・イン(Staple Inn)◆ (平凡p77: ステープル・インと云う田舎の宿屋に) 戦前訳は誤解している。ここはロンドンにある元法学院宿舎だが、のちに一般のアパートに転用された。『ドルード』第11章からグルージャス氏の住処として登場する。
p57 ジャップは... 鍵を引き抜き(he drew out the key)◆ ケアレスミス。ここは「バンディ」
p59 雇用の創出(create employment)◆ 第一次対戦後の不況で、失業対策事業が流行っていたのだろう。トミー&タペンスも戦後は貧乏に苦しんでいた。英国社会が社会主義的な福祉国家の政策を次々と実現したのもここら辺の時期からである。(平凡p80: 仕事の口を作るため)
p59 生石灰(quicklime)◆ この資材は『ドルード』第12章に出てくる。そこでもブーツに言及。
p62 亡きベイツ夫人と比べなければ(without competing with the late Mrs. Bates)◆ 背の高い女の話題なのでAnna Haining Bates (旧姓 Swan; 1846-1888)だろう。カナダ生まれ(スコットランド系)で身長2.41m、史上稀な大女。サーカス在籍中のハリファックス興行の時、Martin Van Buren Bates("Kentucky Giant", 1837-1919, こちらは2.36m)と知り合い、超ビッグカップルの結婚は1871年ロンドンで行われ、非常に話題となった。戦前訳も新訳も誰だかわかってない。(平凡p84: 故人になった女優のベーツ夫人に比べても遜色の無い方でせう; 「女優」は多分当てずっぽう) 試訳「大女の故ベイツ夫人と比べたらとても敵いませんけど」
p64 ロチェスター大聖堂(Rochester Cathedral)◆ 11〜13世紀に建てられた壮麗な大聖堂。 (平凡p87: ローチェスタア寺院) 『ドルード』のクロイスタラム大聖堂のモデル。
p67 ジャスペリン水門小屋のそばに悪くないティーハウスが(very comfortable teashop close to the Jasperian gate-house)◆ (平凡p89: 附近の喫茶店)この門付家屋は15世紀初頭の建築で、『ドルード』でジャスパーが住んでいた門番小屋のモデル。それにちなんで現実世界でも「ジャスパーの門番小屋」と呼ばれるようになった。Webに"Jasper's Gatehouse, Rochester, Kent"(1911) by Ernest William Haslehust (1866-1949)という絵画あり。『ドルード』を読んでたらJasperian gate-houseで気づくはずだが…
p67 表向きは医師として働いている(Nominally... I am engaged in medical practice)◆ (平凡p90: 医院の権利を買った)
p69 橋を渡り、ストラッド駅へ向かった。駅の中央改札で(over the bridge to Strood Station, at the main entrance)◆ 英国や欧州の駅には、出入口はあるが「改札口」はないはず。
p70 盗賊の洞窟にこっそり隠れて暮らすチャーリー王子(Prince Charlie, lying perdu in the robbers' cavern)◆ Charles Edward Stuart(1720-1788)のことだろう。Battle of Culloden(1746)に負け、スコットランド北部を逃げ回ったときにBorrodale beachの洞窟に隠れたという伝説あり。もしかして作者は意図的にこの人物に言及してるのか?
p72 サム・ウェラー言うところの"修道院の附属物"(Sam Weller would call a 'priory attachment')◆ ディケンズ "Pickwick Papers" 第39章 ウェラーは"prior attachment"(先に惚れる)を"priory 'tachment"と言い間違えている。「訳注: 内緒の恋人」はちょっとずれてるかも。試訳「イロの目遣い」「流しの目を送る」
p78 ギャズヒル(Gad's Hill)◆ (平凡p98: ガッド丘) この散歩は歩いて一時間ほど。Gad's Hillはディケンズが1856-1870に住んでいたGad's Hill Placeだろう。'Gad's Hill' The Residence of Mr Charles Dickens 1870で検索。
p79 通りの向かいにある穀物取引所の建物から吊り下がる、寝床用あんかのような形の巨大な時計(at the great clock that hangs out across the street from the Corn Exchange, like a sort of horological warming-pan) ◆ (平凡p99: 青物市場の大時計; 戦前訳は大幅に描写を省略) この時計はWiki "Corn Exchange, Rochester"に項目あり。ディケンズは「世界最高の時計」と評している。
p82 十シリングの懸賞金 (ten shillings reward)◆ 紛失物に提供 (平凡p102: 十志の賞金)
p83 探偵きどり(sleuth-hound)◆ (平凡p105: 探偵犬)
p85 金魚を出す手品(the gold fish trick)◆ WebサイトMagicpediaに項目あり。Professor Mingusが1893年に創作し、ロンドンで活躍していたChung Ling Sooも演じていたが、トリックをバラしたようだ。(平凡p107: 金魚の手品)
p86 賞金額が多すぎるんじゃないかな。支払い可能な額か、確認しなくちゃ (Japp writes a shocking fist. I must see if it is possible to make it out)◆ ここは戦前訳が正しい。(平凡p109: ヂャップの文字は読みにくいんですからね。どんな風に書いたかしら)
p90: パートリッジ医師のラベル(Dr. Partridge's labels)◆ 原文には何の説明もないが、引き継ぎ後、間がないので、前任者が残してあったラベルを貼ったのだろう。(平凡p114: パアトリッチ医師のレッテル)
p91 新聞(Sunday paper)… 四月末日(at the end of April)◆ p111で判明するが、この日は27日であり、末日ではない。(平凡p115: 今朝の新聞... 四月末)
p92 玄関が施錠されていない(I found the door unbolted and unchained)◆ ボルトとチェーンを省略 (平凡p117: 閂が懸かって居り; 戦前訳はケアレスミス)
p93: 時間が遅すぎます。いくら土曜の夜とはいえ(but it was rather late, though it was Saturday night) ◆ 日曜日は店が閉まるので、多少夜遅くても買い物に行く可能性はあるが… というニュアンスかな?(平凡p117: 時刻は遅うございましたけれど、土曜日でしたから)
p97 ジャップは態度をがらりと変えて言った(he replied, with a sudden change of manner)◆ ケアレスミス。ここは明白に「バンディ」
p99 病院(the hospital)◆ St Bartholomew's Hospital, Rochester、英Wikiに項目あり。
p99 軍事病院(military hospital)◆ Fort Pitt Hospital, Rochester、第一次大戦の負傷者用に拡大されたが1922年閉鎖。英Wiki "Fort Pitt, Kent"に解説あり。(平凡p126: 衛戍病院)
p101 第一便の配送物(by the early post)
p104 デルモニコ・レストラン(Delmonico's)◆ ニューヨークのレストラン(1827-1923)が英国でも知られていたようだ。(平凡p130: [訳なし])
p106 判決が下される(the verdict agreed upon)◆ 試訳「評議が一致した」 (平凡p132: 裁判の終わった)
p107 『荒涼館』に出てくるクルック氏の悲劇的末路(the tragic end of Mr. Krook in 'Bleak House,')◆ 詳細未調査
p110 警察署(the police-station)
p111 四月二十六日(Saturday, 26th April)◆ 新訳は「土曜日」抜け。(平凡p139: 四月二十六日、土曜日)
p111 [人相書] Age 28, height 5 ft. 7 in., complexion medium, hazel eyes, abundant dark brown hair, strongly marked black eyebrow◆ 年齢、身長、肌の色、瞳、髪、眉の順 (平凡p139)
p116 紅色の用紙(sermon paper)◆ is actually Foolscap Quarto, nominally 8 x 6 1/2 inches (but there were slight variations between batches). The paper was sold 'ruled feint', i.e. lined with the thinnest line a nib could produce.(ブログWarmwoodianaのAngelina Froodのページから) 薄いピンクの紙に薄いラインが引かれてるのが鮭肉っぽい?
p125 半クラウン(half-a-crown)◆ (平凡p157: 半クラウンの銀貨) ここら辺、戦前訳は丁寧。p51も「紙幣」と訳している。
p131 死体の発見には二ポンドの賞金が(there is a reward of two pounds for the body)◆ (平凡p164: 屍体には二磅の賞金が)
p140 市庁舎(ギルドホール)(Guildhall)◆ 1697建造。英Wiki "Rochester Guildhall" 参照。(平凡p175: ギルド・ホール)
p141 穀物取引所(the Corn Exchange)◆ 前出。(平凡p176: コーン・エキスチェンヂ座) 19世紀末にはコンサート・ホールとして使われ、1910年にロチェスター初の映画館(The Old Corn Exchange Picture Palace)に改装、1920年代まで使われた。休館後、名称がThe Corn Exchangeに戻り、結婚式場、パーティ会場、音楽やビジネスイベントの会場として使われている。当時の実態を考えると、戦前訳が正しい。
p141 映画館なんぞに(to be turned into a picture theatre)◆ 当時はまだサイレント映画の時代。 (平凡p176: 活動写真の小舎に)
p141 プロクター(弁護士) Proctor◆ cadger or swindlerの意味らしい
p149 クモ(mosquito)◆ 「蚊」だよねえ。他にも出てくるが翻訳では全部「クモ」になっている。
p152 がっちりと腕を組んで(hooking my arm through his)◆ ヴィクトリア時代の風習が残っている。p158も同様。
p156 ポプラー遺体安置所(Poplar Mortuary)◆ ロンドンのPoplar Public Mortuary(127 Poplar High Street London E14 0AE)のことだろう。地図を見ると、検死審問廷に併設されているようだ。
p158 私の脇から腕を差し入れ、私の腕にそっと手を添えた(slipped his arm through mine, and pressing it gently with his hand)
p173 五月二十五日月曜日(On Monday, the 25th of May)◆ 直近は1914年
p174 六月二十日土曜日(On Saturday, the 20th of June)◆ 直近は1914年
p175 有罪判決を勝ち取りたい。それなのに、今もって、検視審問に差し出す遺体すらないとは(I want to get a conviction, and so far I haven't got the material for a coroner's verdict)
p175 七月初めの土曜日の午後(one Saturday afternoon at the beginning of July)
p176 ベルティヨン式人体測定法(Bertillon measurements)◆ 原文はif we had them(もしその人の身体データがあれば)と続くが、相応する訳文なし。続く原文ではソーンダイクは別の科学的方法を言っているのだが、訳文ではベルティヨン式のこと、として繋げてしまっていてヘンテコになっている。
p178 テニス(playing tennis)◆ 流行
p185 イエール錠がかけてある不審さ(oddly enough, provided with a Yale lock)◆ 簡易錠前で充分だろうに、なぜ戸棚に高価なイエール錠が?という当然の疑問。
p185 ゴミ収集人は、勝手口から出入りしていると思う(the dustman must have used the side door)◆ 家人がゴミ箱(dust-bin)を抱えて階段を上がって、玄関脇に置くはずがない、とソーンダイクは言う。ゴミ収集人が個々の家屋内のゴミ箱を勝手に持っていく仕組みなのか。Webサイト “Consumption, Everyday Life & Sustainability” に Bins and the history of waste relationsというページがあり、ゴミ収集人が家屋内から歩道までdust binを運び、収集車に中身を出してからdust binを家庭内に戻す、という仕組みだったようだ。dust binとは大型の「ごみ収集容器」なのだろう。カナダのバンクーバーに住んでた知人は、裏通りには各家屋のゴミ収集容器が並んで置かれて、ゴミ収集車が収集日に裏通りを回り、各家屋のゴミを持って行く仕組みだ、と話していた。
p185 科って口のドアを開け--そこにもイエール錠が下りていた(opened the side-door--which had a Yale night-latch)◆ 冒頭のは 「勝手口」の誤植。ナイト・ラッチのイエール錠ヴァージョンは初めて見た。ナイト・ラッチの利点は、内側から鍵を使わず簡単に施錠出来ることである。
p186 質問というものは、往々にして情報を引き出すより、与えてしまうものです(A question often gives more information than it elicits◆ ソーンダイク名言集
p186 色彩調整(a colour control)◆ 試訳「色の比較」
p186 女性の多くは、抜け毛を入れる袋を持っている(Many ladies keep a combing-bag) ◆ 何だろう? ググっても出てこない。続く文はXXX's hair was luxuriant enough to render that economy unnecessary.
p188 気づく(aware)
p192 ルムティフー司教と同名(I am called Peter—like the Bishop of Rumtifoo)◆
from The Bab Ballads by W.S.Gilbert "The Bishop of Rum-ti-Foo" (Fun n.s. VI - 16th Nov. 1867)
p201 ロチェスター、ハイ・ストリート(High-street, Rochester)◆ ジャップ&バンディ商会の住所
p214 裁判官が専門家の参考人を毛嫌いする(why judges are so down on expert witnesses)
p214 バンズビー船長(Captain Bunsby)◆ ディケンズ Dombey and Son(1848) Chapter 23
p224 聖火ランナー(a sporting lamp-lighter)◆ 試訳 「元気な(街灯の)点灯夫」
p232 詳細な身元確認は検死官の仕事だ(Detailed identification is a matter for the coroner)◆ p249&p259参照
p237 召喚状(your summons)… 青色の紙(the little blue paper)◆ インクエストの。
p238 単なる"死体の発見"、つまり"溺死体の発見"でしかないのです(it would have been merely a case of 'found dead,' or 'found drowned.')◆ いずれもインクエストの評決に使われる決まり文句。試訳「[インクエストの評決は]"死んだ"又は"溺死した"ということにしかなりません」 証拠不十分なので殺人とは認められませんよ、というニュアンス。(平凡p287: それは単なる溺死と云ふことになります)
p238 故意による殺人だと断定されるでしょう---警察は検死官の判断に依存してはおりません(There is sure to be a verdict of wilful murder—not that the police are dependent on the coroner's verdict)◆ インクエストの評決が「故意の殺人になるはずです---[もしそういう評決が出なくても]もちろん警察はインクエストの評決とは無関係に動くんですけどね」というニュアンス。 (平凡p287: 検屍官の判決を待つまでもなく、謀殺犯に違いありませんね)
p239 二日(two whole nights)◆ 「夜」が抜けてる。昼は無理だった。(平凡p288: 二晩続けて)
p241 公式な検死審問(the formal inquiry)◆ 試訳「公式の査問会」
p242 市庁舎(the Guildhall)◆ (平凡p291: 裁判所)
p242 霊安室(the mortuary)◆ あらかじめ市庁舎に常設しているとは思えないので、会議室を転用しているのだろう。「遺体安置所」でどう? インクエストのview the bodyのために用意されている。
p245 ホィットスタブルの牡蠣なみに口が固い(about as communicative as a Whitstable native)◆ (平凡p294: 自分の考えを容易に云わない)
p246 陪審員が遺体検分から戻ってきました(the jury have come back from viewing the body)◆ 1926年の改正までview the bodyはインクエストの陪審員にとって必須の行為。(平凡p295: 陪審官達が検屍から帰って来た)
p247 [証人の証言が終わるごとに、検死官が陪審員に質問の機会を与えている]
p249 証言を吟味して故人の身元を推定するのは、陪審に任せられています(Inferences as to the identity of deceased, drawn from the evidence, are for the jury)◆ p259のようなことも多かったのだろう。
p255 閉廷する(complete the inquiry)◆ 主動詞hoped toなので「審問を終えたい」が正解。
p255 タクシー(taxi-cab)... ドライバー(driver)
p259 むろん、身元を確認するための、費用と手間のかかる手続きは省かれました(but of course, no expensive and troublesome measures were taken to trace his identity)
p259 オーク材の階段を二段上がって(up a couple of flights of oaken stairs)◆ flightは踊り場までの階段のひと繋がり。試訳「階段を二回上がって」
p270 検死審問では認められています。そこまで厳格な規則に縛られていないのです(It is admissible in a coroner's court... We are not bound as rigidly by the rules of evidence as a criminal court, for instance)◆ 新訳は 「刑事裁判と比較して」が抜けている。(平凡p325: 此処は検屍法廷ですから採り上げても差支はありません。刑事法廷の様に規則に拘泥する必要はないでせう)
p272 発見された遺体が消失した(The destruction of this particular body)◆ 誤解されそうな表現。試訳「この遺体については骨以外がすっかり分解している」 (平凡p327: あの死骸が腐食した)
p273 親展(Esq.)
p282 この質問に答える義務はありません(you are not bound to answer that question)◆ 当然の注意。自分の罪を認める証言は拒否できる。
p282 四ポンド十四シリング十三ペンス(four pounds, fourteen and threepence)◆ ケアレスミス。次の頁では正しく訳している。
p287 縁起良く、人数が偶数になった(the advantage of even numbers)◆ 昼食の出席者が偶数になって、この感想。"odd numbers were carefully avoided, particularly at wedding feasts and funerals" (The Penguin Guide to the Superstitions of Britain and Ireland 2003)でも、この場面とはちょっと違う。Webでも見つけられず、良く知られた迷信ではなさそう。
p289 居間を作らなかった(dispensed with a drawing-room)◆ drawing roomは居間じゃないと思うけど… 私の印象では「食事が終わって男たちがタバコを吸う時に、女性たちが引っ込み(drawing)おしゃべりする部屋」。試訳「女性向けの客間(ドローイング・ルーム)」
p293 上流階級の女性(A woman of good social position)◆ upper-classと誤解されるので、適切ではない。goodは「並み」だろう。試訳「普通の社会生活を送っていた女性」
p295 わなを仕込む(plant)
p297 カモ(chosen victim)
p302 男女間の平等(The equality of the sexes)◆ ちょうど英国ではThe Sex Disqualification (Removal) Act 1919が成立した時期である。
p303 産毛(the lanugo)
p309 まるで、どの容器に豆が入っているか当てさせるゲームを、透明な容器でやっていたような気分(I feel as if I had been doing the thimble and pea trick with glass thimbles)◆ 街頭で小銭を掠める賭博ネタ。英Wiki "Shell game" (英和辞書では「豆隠しゲーム」) shellはクルミの殻が普通。英国ではthimble(小さなカップ状の指貫)が多い印象あり。透明な容器ならタネがバレバレだ。このイカサマをカードでやるのがスリー・カード・モンテ(私も昔、練習しました。カードを折るのが嫌なんだけど…)。
p313 日時計(the dial)◆ 『ドルード』第19章に怖い場面があるよ。作者は連想しているはず。

No.8 6点 The Uttermost Farthing- R・オースティン・フリーマン 2022/01/10 20:48
今年は原書に手を出すことにしました。待ってても翻訳されそうもないけど、とても興味深いのを取り上げたいと思います…

1914年出版(米国)。初出ピアソン誌1913年4月〜9月(六回連載)。英国ではフリーマンの版元から「身の毛がよだつ」として出版を断られ、ピアソン社が1920年にA Savant’s Vendettaと題して出版。長篇、というより一つ一つが短篇としても成立している連作短篇集。

まずは冒頭を紹介すると… (ネタバレに気をつけて書いています)

医者と患者の関係で始まった「私」(Wharton)とHumphrey Challonerとの親しい付き合いは、彼の健康状態の悪化で終わりを迎えることとなった。死の前にチャロナーは自身に起こった昔の悲劇について語った。20年前、自宅に入った強盗に若妻が殺され、犯人の手がかりはあった(珍しいringed hairとはっきり残っていた指紋)のだが結局逮捕されなかったのだ。そしてチャロナーが、所有する秘蔵の不気味なコレクションを私に見せ、博物館の一角を占める人体白骨標本コレクション(かねてから私は他のチャロナー・コレクションと比べて、妙につまらない収集群だと思っていた)の秘密を私に委ねたい、と言うのだった…

大ネタはほぼ第一章で明らかになるので、各物語で色々なヴァリエーションを楽しむ、という短篇集である。
主人公チャロナーは裏ソーンダイクと言って良いだろう。ポーストにおける善良なアブナー伯父と悪徳弁護士メイスンとの関係と同じかな。なのでソーンダイク・ファンには必読の書だと思う。
現代でもPC的には問題のある話だと思われても仕方のないテーマ。そういうのを書いちゃう資質だから、犯人の心理に寄り添った倒叙探偵小説を発案出来たのかもしれない。
フリーマンはChallonerが登場する作品をもう一つだけ書いてる(ピアソン誌1917年3月号)。今のところ収録している作品集を入手出来ていないので内容がわからない。後日談は不可能だから、チャロナーが若い頃の話なのかなあ… とても気になる。
(以上2022-1-10記載)
(2022-1-16追記: 最後まで読んだが、出版をためらうほどの「陰惨さ」は感じなかった。もちろん現代の基準では測れないのだが。抑制された表現なのでソーンダイク・ファンなら全然問題なし、と思います。)
以下、短篇タイトルは初出準拠でFictionMags Indexによるもの。原文はGutenbergで入手。
(1) A Hunter of Criminals I. Number One (Pearson’s Magazine 1913-4 挿絵Warwick Reynolds) 評価6点
単行本では第一章‘The Motive Force’と第二章‘Number One’に分離された。フチガミさんは雑誌タイトルを‘The First Catch’としている。
冒頭、不謹慎で異常な物語なので公表をためらう、と語り手が宣言している。確信犯、ということでしょうね。
20年前の事件(1889年発生のようだ)は指紋が残っていても犯人逮捕に結びつかない時期。知識としてはFauldsが1880年雑誌Natureに人間の指紋について記事を発表している。
全体的に英国流の不気味なユーモアがある仕上がり(中盤ややコミカル)。
(2022-1-10記載)
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(2) A Hunter of Criminals: II. The Housemaid’s Followers (Pearson’s Magazine 1913-5 挿絵Warwick Reynolds) 評価6点
単行本では第三章。まあ第一標本は良いとして、次を期待する発想がイカれている。ちょっとハラハラする話。連載タイトルのhunterってそういう趣旨? 女性の扱いが当時を思わせる。コントっぽい幕切れ。
(2022-1-10記載)
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(3) A Hunter of Criminals III. The Gifts of Chance (Pearson’s Magazine 1913-6 挿絵Warwick Reynolds) 評価6点
単行本では第四章。なかなか行動的な話。コレクターとしての成長がうかがえる。最後の列車でのエピソードが愉快。
(2022-1-10記載)
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(4) A Hunter of Criminals. IV. By-Products of Industry (Pearson’s Magazine 1913-7 挿絵Warwick Reynolds) 評価6点
単行本では第五章。ちょっと展開が変わる。段々いろいろと上達してゆくチャロナー。新しい技術も覚えた。余裕たっぷりの態度が成功の秘訣かも。
(2022-1-12記載)
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(5) A Hunter of Criminals V. The Trail of the Serpent (Pearson’s Magazine 1913-8 挿絵Warwick Reynolds) 評価5点
単行本では第六章。起承転結の「転」の章。前の章からしばらく時間がたっている。この話ではしなくても良い無理をしているところが不満。オートマチック・ピストルが登場する。モーゼル大型拳銃かパラベラム拳銃(ルガー08)あたりかなあ。軍隊が持ってきたマシンガンも登場する。これはマキシムのだろうか。Anglo-Aro War(1901–1902)で使用実績あり。(2022-1-14追記: 実際にロシア人亡命者ギャング(ラトビア系ユダヤ人)が自動拳銃で三人の警官を殺害した事件が1910年12月にあって、火器不足の警察は軍隊の協力を得て犯人を鎮圧したようだ。英Wiki “Siege of Sidney Street”参照。ギャングの拳銃はMauser C96 pistolとDreyse M1907)
(2022-1-13記載; 2022-1-14追記)
*********
(6) A Hunter of Criminals VI. The Uttermost Farthing (Pearson’s Magazine 1913-9 挿絵Warwick Reynolds) 評価5点
さて最後のエピソードは、内容については第一章でほとんど明かされているようなものだから、もうちょっと盛り上がりが欲しかったかなあ。でも、こんな感じがフリーマンらしい、といえば言える。
初めの方で言及されている“Paul the Plumber”は、上述のSiege of Sidney Streetから逃れたと言われる謎の男Peter the Painter(結局正体は不明のまま。英Wikiに項目あり)がモデルと思われる。本作のバックグラウンドは、当時ロシア亡命者ギャングが起こしていた凶悪事件なのだろう。
(2022-1-16記載)

No.7 6点 ダーブレイの秘密- R・オースティン・フリーマン 2021/12/19 01:29
1926年出版。初出は新聞連載らしい(Westminster Gazette 1926-3-19から。回数、終了日不明)。HPBで読了、英米事情に詳しい中桐先生の翻訳は非常に安心して読めます。(2025-01-17追記: BNAに登録があったので、初出新聞を確認できた。連載終了は06-03、挿絵なし。フリーマンは『キャッツアイ』etc, etcの作者と紹介)
筋立てや要素は”A Silent Witness”『ものいわぬ証人』(1914)と非常に似ている。発表から過去に遡った1900年代初頭の事件、という共通点もある。うぶな男のロマンスは、フリーマンの定番ネタだが、構成要素が非常に似ていてもストーリー展開などは全然違う。何なんですかね。
話自体は、いつも以上に謎の事件が偶然の連続で繋がってしまう。盛り上げも間欠泉なので不発。推理もかなり大雑把。『ものいわぬ証人』の方がずっと良いと思いました。
事件発生は「およそ二十年前」「初秋(early autumn)」(p9)、「今月の16日火曜日(the 16th instant--last Tuesday」(p30)なので9月と10月に絞って該当の16日火曜日を調べると、1890〜1913年の間には、該当が5つしかない。(二十年前を考慮すると該当は3つ)
1890年 9月16日(火曜)   
1900年 10月16日(火曜)
1902年 9月16日(火曜)  
1906年 10月16日(火曜)
1913年 9月16日(火曜)  
以下のトリビアのうちp157(及びp117)が決定的で、1906年10月16日火曜日が冒頭のシーンだろう。
p9 ハイゲイトのウッド・レーン… “墓底の森“の入口で、当時は… 障害物はなく、誰でもはいることができた(垣で囲いこまれてからは”女王の森”という新しい名がつけられた)(the entrance to Churchyard Bottom Wood, then open …. (it has since been enclosed and renamed 'Queen's Wood') ◆調べるとクイーンズ・ウッドと名付けられて整備されたのはヴィクトリア女王のダイアモンド・ジュビリーがきっかけで1897年のこと。ここは年代的に前後しているが記録者の記憶違いで片付けて良いだろう。
p22 電車の二階席(I sat on the top of the tram)◆電車のtramwayは1903年以降なので、ここは馬引きの可能性もあり。線路の上をモーターや馬引きで走る方式。馬引きでも二階席がある写真があった。
p27 ピープス氏のお手本に従おう… “ティという中国の飲み物“(Let us follow the example of the eminent Mr. Pepys… the 'China drinke called Tee')◆Pepys日記1660-9-25からAnd afterwards I did send for a cup of tee (a China drink) of which I never had drank before, and went away.
p28 当時のインクエストの情景がコンパクトに語られる。ここでは開催は死体の発見の翌々日で、検屍官と陪審員は隣の部屋に安置された死体を実見(view the body)している。「いかにして、いかなる手段によって、故人がその死に遭遇したか(how and by what means the deceased met his death)」について評決するのが目的である、と検屍官が陪審員に助言し、陪審員たちは別室ではなくその場で打ち合わせて評決を出している。
p41 乗合バスの二階から(from the top of an omnibus)◆ 自動車への移行は1902年以降。時代的には馬車の可能性もあり。
p85 検屍解剖(post-mortem)◆私は『ものいわぬ証人』のトリビアで、解剖までは不要じゃないの?と書いたが、ここでは「火葬の場合、ちゃんと解剖しなくちゃ」と医者が言って、二人の医師が証明している。これが正式の手順だったのだろう。なお『ものいわぬ証人』の時は火葬法令1902の制定前だったので規制が緩めだったのかも。
p87 死亡証明書… 書式A,B,C
p92 六ペンスでも◆例え話。現代日本円なら「10円でも」みたいな感じ。
p92 マーケット・ストリートの屋台店… ショアディッチ・ハイ・ストリート(訳注 ロンドンの労働者街)のがらくた(the stalls in Market Street, with those of Shoreditch High Street)
p94 沢山の小学生を狩り集めて墓のまわりに立たせ、途方もない聖歌をうたわせる、河の傍に集まって何とかというようなやつ(ran the show actually got a lot of school-children to stand round the grave and sing a blooming hymn: something about gathering at the river)◆歌はShall We Gather at the River?(1864)で英Wikiに項目あり。墓に棺を降ろすとき小学生が歌ってるシーンが犯罪実話Death on the Victorian Beat: The Shocking Story of Police Deaths(2018)にありました。
p99 他人には(to a stranger)
p113 ”きざはしを上り、歩み来る足音の、いかに美しか“(how beautiful upon the staircase are the feet of him that bringeth)◆調べたら聖書に由来。多分中桐先生は調べがつかなかったのでは?(文語訳っぽく訳すなら「つたへる足はきざはしにありていかに美しきかな」)
Isaiah 52:7(KJV) How beautiful upon the mountains are the feet of him that bringeth good tidings, that publisheth peace; that bringeth good tidings of good, that publisheth salvation; that saith unto Zion, Thy God reigneth!
イザヤ書(文語訳) よろこびの音信をつたへ平和をつげ 善おとづれをつたへ救をつげ シオンに向ひてなんぢの神はすべ治めたまふといふものの足は山上にありていかに美しきかな
p114 外国人に対する酷い偏見だが当時の英国人の共通意識なのだろう
p116 単式拳銃や、連発ピストルや、自動拳銃など(single pistols, revolvers and automatics)◆single pistolは単発式の小型ピストルか(Colt Derringer No. 3, 1871とかRemington Double Derringer 1866とか。いずれも.41口径)、revolverは回転式拳銃と訳して欲しいなあ。
p116 ピストルは嫌いだよ!… 卑劣な武器だ。どんな臆病者でも、引き金を引ける("I hate fire-arms!" … “Any poltroon can pull a trigger”)◆ソーンダイクのセリフ。ここはピストルだけでなく、ライフルなども含むFire-arm一般について言っていると思う。「銃」が適訳。
p117 持ち運びに便利だから、このベビイ・ブラウニングをすすめる(I recommend this Baby Browning for portability)◆ FN Baby Browningという公式名称を持つピストルは1931年からの流通。なので、ここはほぼ同様のデザインのFN Model 1905(別名FN Model 1906, Vest Pocket; .25口径、全長114mm、流通1906以降)のことだろう。
p123 ユダヤ人型… ローマ人型…ウェリントン型(the Jewish type, or a Roman nose… a Wellington nose)◆鼻の形の例。
p131 オランダ・ジン(Hollands)
p133 昔のカスケット銃の弾丸(like an old-fashioned musket-ball)◆マスケットの誤植。
p133 安全弁(safety-catch)◆今なら拳銃の「安全装置」というのが定訳だろう。
p135 この重さの弾丸を発射するような空気銃は、大きな音を立てる(An air-gun that would discharge a ball of that weight would make quite a loud report)◆フリーマンが昔発表した短篇のトリックを否定している。空気銃の弾はごく軽い。アレを空気で飛ばすのは、多分絶対無理。かなりの高密度な圧縮空気が必要だが、それでは銃が持たないだろう。火薬で発射したら大きな音が出てしまう。あの作品の出版後、きっと読者からの指摘があって、こういうことを書いているのではないか。
p157 イルクォード火葬場(Ilford Crematorium)◆イルフォードの誤植。City of London Cemetery and Crematoriumのことだろう。火葬場は1904年に開場(英Wiki)
p160 郵便局用の町名番地簿(Post Office Directory)◆郵便局とあるが、実際は民間編集。1836年の元郵便局長が世襲で発行していたKelly's Directoryのこと。
p164 ルイス・キャロルなら、逆埋葬と言ったかも(it is what Lewis Carroll would have called an unfuneral)
p165 棺桶の掘り返しの監督官が描かれている。なかなか興味深い。
p180 一石二鳥だね、と洒落を(killed two early birds with one stone)
p192 黄バス(a yellow bus)◆1908年以降、ロンドン・バスは赤色が主流となったが、それ以前は路線によって色を変えていたようだ。
p207 蝋細工は、大体がフランスの芸術… マダム・タッソーズ◆ここに書かれているMadame TussaudのBaker Street展示の話は実話っぽい。英国初展示は1802年で、ベイカー街での年中展示は1835年からのようだ。

No.6 6点 オシリスの眼- R・オースティン・フリーマン 2021/05/26 05:11
1911年出版。ちくま文庫(2016)で読了。
渕上さまの行き届いた解説で元々は1910年ごろ、米出版者マクルーアと雑誌連載の話を進めていた、という。初稿と最終版には結構な異動があり、詳細は渕上解説をご覧ください。こーゆー解説が全ての翻訳本についてると嬉しいなあ。(現状は何も調べてない個人の妄言ばっかり… おっと批判はそこまでだ) 翻訳は英初版(限定版)によるもので、後年の版には誤植や脱落が目立つらしい。
オシリスの眼、とはWiki「ホルスの目」として項目だてされている「ウアジェト(ウジャト)の目」のこと。文庫カバー絵上部に描かれている有名な象形文字としても有名。
小説自体はゆっくりと時が流れる物語で、やや起伏に乏しいけれど、解決篇の緊迫感はなかなかのもの。
ミステリとしては中レベル。いつもの通り、右に振って左が正解というミスディレクション成分が不足してるのがフリーマン流。ソーンダイク博士も本心を明かさず「君も同じものを見聞きしているのだから、よく考えればわかるよ」とお馴染みのセリフで、怠惰な読者は置いてけぼり。
小説として面白くないか、というとそんなことはなくて、大英博物館所蔵のアルテミドロスのミイラ(1888年獲得、Artemidorus MummyでWeb検索すると非常に楽しめる)のネタなどがとても良い場面に仕上がっていて、楽しい読書だった。最近、とても興味がある検死法廷(the coroner’s court=inquest)の場面もたっぷり描写されていて非常に興味深かったし…
小説の作中年代は1902年と明記。価値換算は英国消費者物価指数基準1902/2021(126.08倍)で£1=17721円。
原文はMysterious Press版によるもの。
トリビアは暇になったら埋めるかも。とりあえず一件。
p97 黒い司祭服に山高帽といういでたちなのに、いきなり振り向くと、実は中年の女性と分かってびっくりさせられる、あの背の低い年配の紳士は?(Or the short, elderly gentleman in the black cassock and bowler hat, who shatters your nerves by turning suddenly and revealing himself as a middle-aged woman?)♦︎渕上さまの翻訳は丁寧な仕上がりで、訳注も適切、本当に文句なしなんですが、この文章だけはハテナ。ここは文の最後に「紳士」を持ってきたのが失敗。黒い司祭服に山高帽だから年配の紳士かと思いきや、振り向くと中年女性だったのでビックリ、という原文ですね。

No.5 6点 もの言わぬ証人- R・オースティン・フリーマン 2021/05/08 21:35
ソーンダイク博士ものの長篇第四作。出版1914年。初出は英雑誌の連載か、と思ったが当時ソーンダイクものを掲載していたPearson’sやNovel Magazineではない。FictionMags Indexには米国週刊誌All-Story Cavalier Weekly 1914-6-20〜7-18(5回)連載との記録があった。この米誌が初出であっても不思議は無い。
私家版の電子書籍(Kindleで安く入手可能)だが、翻訳は流麗。日本語が良く、会話も上手い。訛りの処理も素晴らしい。以下では数か所、翻訳上の異論を書いたが、気になったのは挙げているほんの数カ所だけ。自信を持ってお薦めできる翻訳です。
内容は、面白い巻き込まれ型の冒険談。結構起伏に富んだ流れ。でも解決にいたる部分がちょっと残念(なんかモタモタしている)。フリーマンはこういう構成があまり上手くない印象。本格ミステリ味は薄い、と思ってください。
以下、トリビア。原文はWikisourceによるもの。H. Weston Taylorのイラスト4枚付き。米国人画家なのでAll-Story誌連載時のものか。Wikisourceの元本は米初版The John C. Winston Company, Philadelphia 1915、と記載されている。
翻訳には欠けているが献辞あり。
To, Dorothy Cuthbert and Gerald Bishop [二人が何者かは調べつかず]
In Memory of Labors that are Past and in Token of Friendship that Endures (拙訳: 過ぎ去りし労苦の思い出と変わらぬ友情の証しとして)
冒頭「私の学生時代の最後の年、九月のある夜に(a certain September night in the last year of my studentship)(前編p38/3531)」とあり、数年前を思い出して語っている感じだが、どのくらい前だかどこにもはっきり書いておらず、日付と曜日を同時に明記している箇所もない。しかし年代確定のヒントが結構あり(以下の各トリビア参照: 前編p531, 638, 695, 1257, 後編p2881)作中年代は1901年9月であることがわかる。後編第16章の記述から冒頭は9月18日深夜だろう。
貨幣換算は英国消費者物価指数基準1901/2021(126.08倍)で£1=19149円。
前編p38/3531 ハイゲート・ロード(Highgate Road)... ミルフィールドの小道(Millfield Lane)... ハイゲート低地からハムステッドの高台まで(from Lower Highgate to the heights of Hampstead)♣️舞台はロンドンの自然保護区域Hampstead Heath近郊。フリーマンの描写が良く、作者お気に入りの公園だったのだな、と思われる。私は新宿御苑をイメージしました。
前編p198 ハムステッド小道の入口のいわゆる『キス・ゲート』(the “kissing-gate” at the Hampstead Lane entrance)♣️キッシングゲートが定訳か。人は通れるが家畜は通れない構造の門。もしかして訳者さんはロマンチックな門だと勘違いしてる?
(2021-5-10追記: 「地球の歩き方」公式Blogで以下の記述があった。
“ところで、だれが思いついたのか。このゲートには名まえがついています。その名も、「キッシングゲート(Kissing Gate)」、つまり、「キス(Kiss)して(ing)通るゲート(Gate)」。
このゲートを通過するときばかりはレディファーストではなくて、男の子がひと足先に通ってしまうのです。そして、向こう側からゲートを押して、手前にいる女の子を通せんぼして言うのです。「キスをしてくれたら通してあげるよ」って……”
嘘くさい由来だけど、こーゆーロマンチックなエピソードもあるんだね。Wikiには別の由来が書いてあり、このネタは出てこない。でも訳者さんはご存知だったのだろう。)
前編p226 自分の髭剃り用カップになみなみと熱いグロッグを(a jorum of hot grog in my shaving pot)♣️なぜ髭剃り用のを使う? 若い独身男の自由な生活の描写か。Grogはラム酒の水割り。英国海軍Vice Admiral Edward Vernon(1684-1757)のあだ名Old Grogに由来。
前編p439 かなりオーソドックスな服装の(Quite the orthodox get up)♣️試訳「全く型通りの身なり」
前編p439 スケッチ用の眼鏡を掛けてたわ。ほら、半月型のやつ(sketching-spectacles–half-moon-shaped things)♣️近くを見る用か。
前編p449 チラ見(snooper)… 学生の間で使われているスラング♣️オランダ語snoepenから。スパイする、の意味のようだ。1891年に米国New Englandでこの意味のsnoop(動詞)が使われている。Cookies, Coleslaw, and Stoops: The Influence of Dutch on the North American Languages (2009) by Nicoline van der Sijsによる。コールスローってオランダ語由来だったのか。
前編p488 態度にはほんの少し上流階級らしさを感じさせるところがあった。が、だからと言って彼女への好感度が薄れることはなかった(with just a hint of the fine lady in her manner; but I liked her none the less for that)♣️反感を覚えるとしたら、ちょっとすまし気味の、貴婦人を気取った感じ、だろうか。
前編p494 マトンのカツレツとフライドポテト(mutton cutlets and fried potatoes)♣️昼食のようだ
前編p506 十一月も半ば(It was getting well on into November)♣️「十一月に入っても良い天候は続いた」というような意味か。「半ば」だと後々の時間経過の描写と合わない。
前編p531 メンデル… 誰ですか? そんな名前聞いたことがありません… 彼の発見の重要性がようやく今になって評価され始めたところなのだ♣️英国ではWilliam Bateson(1861-1926)が再評価を推進。1902年にメンデルの論文を英語に翻訳(Principles of Heredity: A Defenceの序文には1902年3月とあった)、1908年ケンブリッジ大学の遺伝学教授に就任。1910年にReginald Punnett(1875-1967)とともに"The Journal of Genetics"を創刊。
前編p573 昔の教え子(our old students)♣️「医学部の同窓生」という意味か。この後出て来るのは結構ベテランの医者な感じなので、ソーンダイク博士の「教え子」ではなさそう。
前編p638 電気普及以前のこととて、チリンチリンと鳴りながら走る乗合馬車(the jingling horse-tram of those pre-electric days)♣️試訳「チリンチリンと走る電化以前の馬車鉄道」馬車鉄道(horsecarでWikiに項目あり)は英国で19世紀初頭に登場。ロンドンでは1870〜1915に採用、最初の電車(Electric tramway)は1901年。別のWeb記事でロンドンでは1912年にはほとんどの馬引きの乗り物が自動車などに代わった、とあった。交通の発達で馬の数が急激に増えるので、1894年にThe Timesが「50年後、ロンドンは厚さ9フィートの馬糞に埋もれる」という記事を載せたという(Great Horse Manure Crisis of 1894)。
前編p638 『ミカド』の中の曲を…♣️時間通りに(Punctual to the minute)現れたので、Act I, Part XIのPooh-Bahの台詞To ask you what you mean to do we punctually appearからの連想?
前編p649 壜の封の仕方(how to wrap up a bottle of medicine)♣️ここは「包み方」だろう。最後は封蝋(sealing-wax)で留めている(セロハンテープの代わり)。「封」と訳すと壜の口のシーリングだと誤解される。
前編p676 バンブルの言うことはもっともだ。法律なんてクソだよ(Bumble was right. Law’s an ass)♣️DickensのOliver Twist(1838)から”...If the law supposes that," said Mr. Bumble, squeezing his hat emphatically in both hands, "the law is a ass — a idiot...”
前編p676 生きているうちに埋葬されるなんて、小説の中だけ(Premature burial only occurs in novels)♣️このネタ、ポオが嚆矢か。"The Premature Burial"(The Dollar Newspaper[Philadelphia]1844-7-31)
前編p695 火葬(cremation)… それについて新しい法律が制定されるという話もある... 墓地株式会社はそれ自体が法律だから(there is some talk of new legislation on the subject, but the Company are a law unto themselves)... ロンドンの近くにはウォーキング以外には火葬場がない(there is no crematorium near London excepting the one at Woking)♣️サリー州Woking火葬場は1878年開設。ロンドンでは1902年11月、Golders Green Crematoriumが初。1年間で全英で1000件に達したのは1911年が最初で、そのうち542件がゴルダース・グリーンで実施(当時の死者数は50万人程度、火葬率0.2%)。言及されているthe Companyは1900年創立のLondon Cremation Company Limitedのことだろう。
ロンドン近くの火葬場がWokingだけ、とあり、「新しい法律」はCremation Act 1902(1902年7月22日に成立、火葬に英国法律上の根拠を与えたもの)のことだろうから、作中年代は1900年以降1902年7月以前と思われる。
前編p809 検死解剖は行ったか?(Have you made a post mortem?)♣️死因をきちんと確定する検討行為の事だろう。解剖するほどの手間までは要求していないと思う。
前編p810 七十ポンド
前編p868 せっかちな男というのは、自分自身より他の人間の神経を疲れさせるものだ
前編p937 葬式♣️当時の火葬の情景。A Francis Frith postcard of Woking Crematorium, 1901とWeb検索すれば当時ものの絵葉書が見られる。
前編p1121 ポケットナイフの中には工夫に富んだタイプのものがある。主に食卓用ナイフ・フォーク業界(the cutlery trade)のために考案されたものだ… コルク抜き、手錐、まごつくほど多種の刃、鉄へら(蹄に喰い込んだ石などをほじるもの)、爪楊枝、毛抜き、ヤスリ、ねじ回し、その他諸々の道具がセットに♣️VictrinoxのSwiss army knifeの特許は1897年から。「大抵、女性が薦めて男に贈るプレゼント」という観察が面白い。
前編p1236 ハンサム♣️長い訳註あり。思い出した!『二輪馬車の秘密』の評も書かなくちゃ!
前編p1257 私はジャービス。ソーンダイク・オーケストラの第二バイオリンさ。(my name is Jervis. Second violin in the Thorndyke orchestra)♣️第一バイオリンはポルトンか。ジャービスの感じから『赤い拇指紋』(1901年3月9日の事件)の後であることは確実。
前編p1434 入念な予防措置を講じておいても、現場ではこのざまだ… 火葬の危険性がここにある。毒殺者に安全を与えてしまう♣️規則と現実の実態との差をフリーマンは嘆いている。
前編p1473 警察の仕組みというのはプロの犯罪者に合わせて作られている。押し込み、贋金造り、文書偽造、そういった犯罪だ。
前編p1819 私はバイアダクトの手摺に寄り掛かって立っていた。それは見栄えの良い煉瓦造りの高架橋で、私は名前を知らないが、ある建築家によってアッパーヒースを越えたところにある池の上に架けられたものだった♣️建築家はJoseph Gwilt、当時の地主Sir Thomas Maryon WilsonがViaduct Pondにかかるred brick viaductを設置した(1844-1847)。Web検索: The Viaduct Hampstead Heath 1906で、当時の絵葉書が見られる。
前編p1855 ハムステッドは---当時のハムステッドは---奇妙に田舎風で辺鄙な感じがした。しかし、森の中からでさえ、信じられないことに、教会の鐘の音や弾丸の射程距離の範囲内であるほどにロンドンの市街地はすぐ近くなのだ。(Hampstead–the Hampstead of those days–was singularly rustic and remote. But, within the wood, it was incredible that the town of London actually lay within the sound of a church bell or the flight of a bullet)♣️こういう表現(those days)は一昔前(10年ほど前)の回想に感じられる。ガンマニアとしては、教会の鐘の聞こえる範囲と銃弾の有効射程を同列にしているのが面白い。生粋のロンドンっ子はSt Mary-le-Bowの鐘が聞こえる範囲(半径5kmくらい?)で、そこからハムステッド・ヒースまでは7.7km。ここではa churchなので特定の教会は想定していないのだろう。当時のライフルはMauser Gew98を例にとると最長射程3735m。
前編p1948 ミルフィールド小道の回転木戸、別名キス・ゲートを通りかかった(I passed through the turnstile, or “kissing-gate,” at the entrance to Millfield Lane)♣️「回転木戸、というか“キッシングゲート”を」と言い直した感じか。「回転」しないので。
前編p2095 名刺(a card)… カッパープレート書体で印刷された文字(at the neat copper-plate)♣️Copperplateは17世紀初期ヨーロッパで生まれた書体。書体習字の見本帳が銅版印刷だったことから、この名前となった。
前編p2105 ジョン・オ・グローツからランズ・エンドまで(from John o’ Groats to Land’s End)♣️Wikiの項目ではLand's End to John o' Groats、英国本島の南西端から北東端まで。直線距離だと603 miles (970km) だがアイリッシュ海を渡る。伝統的には陸路で歩いてその距離874 miles (1,407km)、自転車で10日から14日が普通。走って9日というのが記録(英Wiki)。
前編p2556 彼らの言葉を借りると『大洞をかます』(to “pitch them my yarn,” as they expressed it)♣️船員がそう言ったのだろう。
前編p2574 ブリキの紅茶ポット、二個の卵焼き、そしてタラの皿を♣️朝食
前編p2611 所持金は四、五ポンド
前編p2655 金貨(a gold coin)♣️当時の最低額の金貨はヴィクトリア女王の肖像でHalf Sovereign, 重さ4g, 直径19mm。0.5ポンド=9575円。
前編p2683 弱き器の方は説明のつかぬ病気を引き起こしたりする[以下、差別的表現があるため削除]。(the weaker vessels develop inexplicable diseases, with a tendency to social reform and emancipation)♣️with以下を訳者さんは削除。だが、取り立てて酷い表現ではない、と思うのだが… 一応、他の電子版も見たが同文であった。
「弱き器」は聖書から。1 Peter 3:7(KJV) Likewise, ye husbands, dwell with them according to knowledge, giving honour unto the wife, as unto the weaker vessel, and as being heirs together of the grace of life; that your prayers be not hindered. 文語訳「ペテロの前の書」夫たる者よ、汝らその妻を己より弱き器の如くし、知識にしたがひて偕に棲み、生命の恩惠を共に嗣ぐ者として之を貴べ、これ汝らの祈に妨害なからん爲なり。
前編p2740 朝刊を持って喫煙コンパートメントの窓際の席に腰を落ち着けたとき、よく言われる英国人の非社交性でもって、私はコンパートメントを独り占めできそうだ、しめしめと思っていた。(when I had established myself with the morning paper in the off-side corner seat of a smoking compartment, I began, with an Englishman's proverbial unsociability, to congratulate myself on the prospect of having the compartment to myself)♣️この感じだとコンパートメントは廊下で繋がっていない古いタイプの客車。off-sideは英国表現で「右側」。
前編p2821 サンドフォードとマートンに出て来てもいいような言い回しだ(It might have come straight out of Sandford and Merton)♣️訳註では英国のベストセラーだった教育的児童書Thomas Day作 The History of Sandford and Merton (1783–89)としているが、もっと読みやすくした多くのリライト版が出ており、Sandford and Mertonもの、として流通していたようだ。(Lucy Aikin編Sandford and Merton: In Words of One Syllable 1868など)
前編p2841 年齢約二十六歳、身長六フィート強、平均的な顔色、髪は褐色、目は灰色、鼻はまっすぐで、やや細い顔、髭は剃ってある(about twenty-six years of age; is somewhat over six feet in height; of medium complexion; has brown hair, grey eyes, straight nose and a rather thin face, which is clean-shaved)♣️人相書の例。
上巻p2942 私はね、地方の旧家で女中頭をやっていて、亡くなった夫は御者をしていました。その私が… 淑女を区別できないとお思いですか?(I who have been a head parlour-maid in a county family where my poor husband was coachman, don't know a real gentlewoman when I meet one? )
前編p2952 お昼… ポーターハウス・ステーキ(your lunch. It's a small porterhouse steak)♣️T-boneステーキのこと。サーロインとヒレを骨で挟んだ部位。ポーターハウスはヒレ多め、との説あり。
前編p2961 求婚に行くカエル(the frog that would a-wooing go)♣️Charles Henry Bennett(1829-1867)の絵本“The Frog Who Would A-Wooing Go”(1864)から。Gutenbergで文章も絵も見ることが出来る。
前編p3061 ミス・ヴァイン♣️ミス呼びの風習に基づく楽しい場面。私は『ノーサンガー・アビー』で初めて知った。親族に広げると最年長者が、になるのだろう。
前編p3064 アメンホテップ三世が座ってサンドイッチとビールで食事(the seated statue of Amenhotep the Third in the act of refreshing itself with a sandwich and a glass of beer)♣️英国が1823年に獲得した座像。
前編p3064 まるでオセロを演じてでもいる気分(feel like a very Othello)♣️熱演の独白だからか。
前編p3147 伯母は自分の鼻を利用している(she trades on her nose)♣️意味がわからない。ジョークらしいが…
前編p3312 スパークラー氏(訳註: ディケンズの『二都物語』に出てくる人物か)ならば「浮っついたとこなど、これっぽちもねえ」と言うところだろう(a girl—as Mr. Sparkler would have said—"with no bigod nonsense about her.")♣️残念ながらDickens作 Little Dorrit(1855-1857) Book 1, Chapter 21から。she was 'a doosed fine gal--well educated too--with no biggodd nonsense about her.'
前編p3413 わが君は考え事をしておられる(My lord is pleased to meditate)♣️何かの引用?調べつかず。
後編p86 黒蠅(a bluebottle)... オオツノ黄金虫(a Goliath beetle)♣️bluebottleはアオバエが正解だろう。後者はゴライアスオオツノコガネが一般的か。
後編p190 現代版ミュンヒハウゼン(a sort of modern Munchausen)♣️Baron Munchausen's Narrative of his Marvellous Travels and Campaigns in Russia(1785)は英語で書かれた独逸人Rudolf Erich Raspeの作。元は実在のホラ吹き男爵Hieronymus Karl Friedrich, Freiherr von Münchhausen (1720–1797)のエピソード(ベルリン1781年、著者不明)にRaspeが色々付け加えて英国で出版したもの。
後編p228 曲がり角のない一本の道(it is a long road that has no turning)♣️「たまたま今までは全然曲がり角の無い道だったのですよ。」いずれ良いことがあるでしょう、という意味(「どんな真っ直ぐな一本道でもいずれ曲がり角は来る」英語には続く苦労を慰める似たような表現が多数。Every cloud has a silverlining, After night comes the dayなど)だが、じゃあThe Long and Winding Roadっていうのは、沢山の良いことがあった、という含意あり? 日本語だと「曲がり角」は波瀾、トラブルの比喩なのだが。
後編p268 「女は悲しい依存的な生き物です... 依存的というのは、自分の幸福が周囲の人々に依存しているという意味です... 男の人は... 仕事があって、野心があって、それで他人に依存することなく生きて行けます。ところが女の方は、人生にはより大きな目的があるなどと口ではどんなことを言おうと、夫と家庭と可愛い子供が一人か二人いれば、それで野心は満たされるんです♣️フリーマンの女性観。当時の英国男性は皆そうかも。
後編p317 羨望の緑の目(the green eyes of envy)
後編p596 トラップドア(the trap)♣️訳註「ハンサム馬車には屋根の後方に上げ蓋式のドアがあり、それを開けて御者に指示を与えた」TVシリーズRaffles(1977)第三話に映像資料あり。
後編p660 帽子に封筒を二枚挟んで(stuffing a couple of envelopes into the lining of [個人名]'s hat)♣️帽子の中の「ビン皮(lining)」に挟んだ、ということ。
後編p710 グリーン・ルーム(the green-room)♣️楽屋
後編p747 チャーリーの伯母さん(Charley's Aunt)♣️Brandon Thomas作の喜劇。初演はTheatre Royal (サフォーク州Bury St Edmunds) 1892年2月。連続上演記録を塗り替えたヒット作(1466回)。ブロードウェイやパリでもヒットとなり、数度の映画化(1925他)、ミュージカル化がなされている。
後編p1391 アン女王と同じぐらい死んでいた(as dead as Queen Anne)♣️アン女王の死(1714-8-1)は、当初王室で秘密にされていたが、その情報は早くから漏れており、皆に知れ渡っていて誰も驚かないよ、という歴史上の逸話から出来た言葉。
後編p1391 死亡を証明する唯一の決定的指標は腐敗だということだ。確かテイラーだったと思う(the only conclusive proof of death is decomposition. I believe it was old Taylor who said so)♣️Alfred Swaine Taylor(1806-1880)のことだろうか。英国の毒物学者で英国法医学の父と呼ばれている。
後編p1401 最初の疑問:ラインハルトは生きているのか?にはイエスだね(You answer his first question: 'Is Reinhardt alive?' in the affirmative)♣️これは誤読を誘う翻訳。試訳「彼の最初の疑問〜に君はイエスと答えたね」
後編p2094 通常の五ギニーの報酬(the usual fee of five guineas)♣️医者への報酬の相場なのか。1ギニー=1.05ポンド、報酬として良く使われる単位。今までの印象としては1ポンドと同じに使われている感じ。
後編p2326 近頃の小口径の連発ピストルは殺傷能力は高いのに、音は非常に小さいものですよ。特に弾頭部分を開けておけばね(these modern, small-bore, repeating pistols make very little noise, though they are uncommonly deadly, especially if you open the nose of the bullets)「リピーティング・ピストル」という言い方は1900年ごろには残っていたが1910年ごろには廃れている(オートマチック・ピストルという用語が一般的になった)。open the nose of the bulletsはソフトポイント弾みたいなものか。でもそれが消音効果を持つというのは聞いたことがない。
後編p2662 『復讐するは我にあり』とは主の言葉(Vengeance is mine, saiz ze Lordt!)♣️原文では最後が訛ってるが引用元はRomans 12:19 (KJV) Dearly beloved, avenge not yourselves, but rather give place unto wrath: for it is written, Vengeance is mine; I will repay, saith the Lord. 文語訳「ロマ人への書」愛する者よ、自ら復讐すな、ただ神の怒に任せまつれ。録して『主いひ給ふ、復讐するは我にあり、我これに報いん』とあり。
後編p2691 骨壺... それは側面が長方形の粘土の素焼きの容器で、高さ約十四インチのものだった(the urn—which was an oblong, terracotta vessel some fourteen inches in length)
後編p2881 一八七〇年頃のシャスポー銃(a chassepot of about 1870)♣️普仏戦争(1870-1871)でフランス軍が使用。プロシア軍のドライゼ銃(当時の日本では普式ツンナール銃と呼ばれた)に比べ、最新式で長射程(最長1200m)だったが、フランス軍は惨敗し、銃の評判も下がった。このライフル銃はソーンダイクもののとある短篇にも出てくる。それから「三十年以上前に(more than thirty years ago)後編p2881」ということなので作中年代は1901年以降か。

No.4 6点 ソーンダイク博士短篇全集:第1巻 歌う骨- R・オースティン・フリーマン 2020/09/22 00:02
遂に渕上さん個人訳のソーンダイク博士短篇全集が発売! 挿絵、図版、写真はピアスンズ誌掲載時のものを全て収録。残念ながら米国マクルーア誌などの挿絵は(それが初出であっても)ピアスンズ掲載がない場合のみ収録の方針。第2巻には中篇版『ニュー・イン31番地』(米Adventure誌1911年1月号掲載のものだろう)が収録される予定。
以下は渕上さんの解説により初出順に並べ替え。カッコ付き数字は本書の収録順。⑴〜⑻が第一短篇集John Thorndyke’s Cases(1909)収録、⑼〜(13)が第二短篇集The Singing Bone(1912)収録のもの。黒丸数字は創元文庫の収録巻。
翻訳は文句なし、端正な日本語が良いですね。決定版と言えるでしょう。語釈は私のイチャモンと若干違うところもありますが、まーそれはそれで…(でもあの作品のラストは「消音」じゃないと思う… 博士の予想が合ってた、という大事な語なので原文通り「空気圧縮式(compressed-air)」が良いのでは?)
では各話を発表順に読んでゆきましょう。
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⑷The Blue Sequin (初出Pearson’s Magazine 1908-12 挿絵H. M. Brock)「青いスパンコール」❶ 評価5点
詳細は創元文庫「ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ」の評を参照。トリビア漏れとか翻訳上の違いのみ、ここで。
p131 返信料前納(reply-paid)♣️の電報。なるほど。受領側が返事をするための料金をあらかじめ送信側が支払ってあるわけだ。何語くらい返せる仕組みなのだろう?
p139 干し草を燃やしている(a rick on fire)♣️翻訳ではわからないが原文では「工夫がrickを燃やすよう言われている」この後も数回rick(積まれたもの)が出てくるが「干し草」を示す修飾語は無い。保線工事で交換した古い「枕木」の積んだヤツを燃やしてる説をしつこく主張しておきます…
p141 右側(off-side)♣️英国の言い方。左側はnear-side。❶では理解してない感じ。(反対側、手近、と訳している)
p146 黒髪を脱色したブロンドだね(a dark-haired blonde)♣️博士は脱色を「罪なこと」と評している。❶では「黒っぽいブロンド」これでは次の文と上手く繋がらない。
(2020-9-21記載)
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⑵The Stranger’s Latchkey (初出Pearson’s Magazine 1909-1 挿絵H. M. Brock)「よそ者の鍵」評価6点
サスペンスフルな状況設定、話の流れも素晴らしい。ジャーヴィスの軽口とか最後のお茶目な一文がとても好き。まあ謎解きはいつもの流儀だが、ややジャーヴィスと読者に親切かも。自転車が大活躍する作品。
p89 年50ポンド♠️英国消費者物価指数基準1909/2020(119.82倍)£1=15831円。50ポンドは79万円。
p94 “ミツバチ”時計("Bee" clock)♠️訳注 アンソニア社製の目覚し時計。Ansonia Bee Clockは19世紀の小型一日巻き時計で旅行用の目覚し時計に最適のようだ。
p94 普通に街で見るラッチ錠の鍵だ(It is an ordinary town latchkey)♠️Night latchなら、内側はスライド式のノブで、外からは鍵で開け閉めするタイプ(latchが張り出して施錠)。latch key=night latchの鍵という理解で良い? この家の鍵ではない! とチラッと見ただけでわかっているのがちょっと気になる。(古いナイト・ラッチの鍵を見ると、鍵穴方向の長さが普通の鍵より長め。テコでラッチを動かすから?これが特徴?) (追記: 鍵の先端が筒状になっているという描写。凸錠に凹鍵を差し込んで支点を固定してから回してラッチを動かす構造かも。必ず先端が筒状になってるのもラッチ鍵の特徴なのだろう)
p103 大きなリボルバー(a very large revolver)♠️英国陸軍伝統の455口径Webley Revolver Mk IV (大きさ286mm)で良いんじゃない?(適当)
(2020-9-22記載、若干追記)
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⑶The Anthropologist at Large (初出Pearson’s Magazine 1909-2 挿絵H. M. Brock)「博識な人類学者」評価5点
帽子から色々細かい証拠を集めて推理するが、人の手にも渡るものだから注意しないと、と暗にS.H.『青いガーネット(1892)』を批判してる感じ。
日本人(Jap)が出てくる。名前はフタシマとイトウ(Futashima、Itu)。フリーマンはちゃんと日本語っぽい苗字を選んでいる。ソーンダイクが「コテイ(Kotei)」というのも出鱈目感があっていい感じ。ここではガサツ者に合わせてJap呼ばわりだが、後段ではちゃんとJapaneseと言っている。特に差別的な感じはなさそう。
p106 朝刊一紙を贔屓にしていた(he patronized a morning paper)♣️新聞が適当なので嫌いなソーンダイク(夕刊だけ嫌ってる訳じゃないのね。❷収録の「焼死体の謎」参照)だが、一紙だけは許している。タイムズ紙か?
p107 金髪の典型的なユダヤ人(typical Hebrew of the blonde type)♣️金髪ユダヤ人の典型。具体的にどんな感じなのかちょっと気になる。
p110 馬車のナンバー(the number of the cab)♣️p125の挿絵に描かれてる。必ずついてるものなのか。知らなかった… (翻訳のナンバー表記が「72、836」(縦書)なのだが、間の読点が紛らわしい。最初、二つの数字かと思った。原文通り「72,836」(横書)とするか「72836」で良いと思う。実際のナンバー表記は挿絵を見るとコンマ無しのようだ。1877年の写真では「7575」と4桁のがあった)
p112 紙幣と金貨で4000ポンド(four thousand pounds in notes and gold)♣️Sovereign(=£1)金貨はEdward VIIの肖像(1902-1910) 8g、直径22mm。上述の換算で4000ポンドは6332万円。
p113 なにやらくたびれた山高帽(a rather shabby billycock hat)♣️Bowler hatのニックネーム。米国ではthe Derbyとも。
p113 リンカーン・アンド・ベネット社(Lincoln and Bennett)♣️Lincoln, Bennett & Co. 1800年ごろ創業のロンドンの有名帽子メーカー。
p115 まるで罰金ゲームだね(It is like a game of forfeits)♣️訳注 失敗したり条件満たせないとなにかを取り上げられるゲーム。WebでVictorian Games Forfeitsを調べると、物を提供する、というより阿呆な行動を「罰ゲーム」にしている。試訳「失敗したら罰ゲームのようだね」
p128 最も太い毛髪は…♣️へー、というトリビア。
(2020-9-22記載)
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⑺The Alminium Dagger (初出Pearson’s Magazine 1909-3 挿絵H. M. Brock)「アルミニウムの短剣」❶ 評価6点
詳細は創元文庫「ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ」の評を参照。トリビア漏れとか翻訳上の違いのみ、ここで。
p226 早変わり芸人(quick-change artists)♠️マジック・ショーの出し物のイメージだろうか。すげーのが某Tube(“Impossible: Quick Change Artists”)にあった。西洋の舞台ではFregoli(1897)が早い例のようだ。歌舞伎は1800年ごろ大南北が確立。
p227 妙な手紙で(in a very singular letter)♠️❶では「簡単な返事」。奇妙さはp239で説明されている。
p239 サドラーズ・ウェルズ劇場(Sadler's Wells)♠️1896-1915は映画館に改装されていた(落ちぶれていた)。in its primeはかつての栄華と現在のショボさを対比したものか。
p248 小型武器(small arms)♠️これは「小火器」が定訳。具体的には「1人で携帯操作できる拳銃、小銃(ライフル)、ショットガン、手榴弾など」なんですぜ。当時のイメージだと主としてライフル銃。現代なら米国M4や露AK47みたいなアサルトライフルを真っ先に思い浮かべるはず。
(2020-9-22記載)
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(13)The Old Lag (初出Pearson’s Magazine 1909-4 as “The Scarred Finger” 挿絵H. M. Brock)「前科者」❶ 評価5点
詳細は創元文庫「ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ」の評を参照。トリビア漏れとか翻訳上の違いのみ、ここで。
サスペンス感が良い。指紋の弄びかたがちょっとねえ。でも前読んだ時より不自然さが気にならないのは翻訳のせいだろうか。
p489 憂鬱な11月の夜(on a dreary November night)♣️このように舞台は11月のはずだが…
p496 君がホロウェイ刑務所にいたときに(when you were at Holloway)♣️HM Prison Hollowayはロンドンの刑務所。女性専用となったのは1903年以降なので、居たのはそれ以前の話。(後段で指紋が取られたのは「六年前」と書かれている)
p525 最後のイースターの翌日—二ヶ月前ちょっと前—(last Easter Monday—a little over two months ago)♣️イースターは1909年は4/11、1908年は4/19... など。どう頑張っても作中時間は11月じゃない。1908年6月下旬の事件ということだろうか。イースター・マンデーは英国ではBank holidayの一つ。なので子供連れで動物園に行ったのだろう。なお8月の第一月曜日もBank holidayだが、これと間違えた説(1908年は8/3)でも「二ヶ月ちょっと」後はせいぜい10月中旬で11月には届かない。
(2020-9-22記載)
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(5)The Moabite Cipher (初出Pearson’s Magazine 1909-5 挿絵H. M. Brock)「モアブ語の暗号」❶ 評価6点
詳細は創元文庫「ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ」の書評参照。この作品は当時もかなり出回ってただろう暗号解読ものに対するフリーマンの批評なんだろう。私もそー思うところがあるのでこの作品は結構好み。
(2020-9-23記載)
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(6)The Mandarin’s Pearl (初出Pearson’s Magazine 1909-6 挿絵H. M. Brock)「清の高官の真珠」評価4点
つまらない作品。フリーマンは発明おじさんなのだろう。仕掛けが出てくる他の作品でもそうだが、有効性より自分のアイディアに酔ってしまうタイプ。(まあ今回のネタは実効性もあると思うけど使い方に工夫がない) 本作はソーンダイクの行動も変だ。先に何かアドバイスして安心させるなり何なり方法があったのでは? (例えば不意打ちでぶっ壊せとか。そーすると相手が逆上して危険か)
p191 一年前… 鉄道事故に遭って(about a year ago. He was in a railway accident)♠️1906年から1907年にかけて英国鉄道では死者20名クラスの大事故が数件発生している。1906-6-30(Salisbury rail crash), 1906-9-19(Grantham rail accident), 1906-12-28(Elliot Junction rail accident), 1907-10-1(Shrewsbury rail accident) 作者の頭にあったのもそーゆー事だろう。
p192 五ポンド(five pounds)♠️上述の換算で79155円。結構な値段。
p194 ブリッジやバカラ(played bridge and baccarat)...悪運の強い賭博師(a rather uncomfortably lucky player)♠️クラブ賭博の主要種目か。「かなり不自然に幸運な(ほぼ確実にイカサマ)」というニュアンスかな。
p203 ポケットの中をまさぐり、二フランを差し出しました(felt in his pocket, drew out a couple of francs)♠️ここはフラン硬貨2,3枚の意味? 仏国物価指数基準1909/2020(2666.79倍)1フラン=€4.07=493円、2フランなら983円。
(2020-9-26記載)
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(8)A Message from the Deep Sea (初出Pearson’s Magazine 1909-7 挿絵H. M. Brock)「深海からのメッセージ」評価6点
ソーンダイクものの典型例。インクエストの場面が結構長いので個人的には好み。
p259 バシャンの王オグ(Og, King of Bashan)♣️申命記3:11「彼の寝臺は鐵の寝臺なりき...人の肘によれば是はその長九キユビトその寛四キユビトあり」英wikiによるとそれぞれ13フィート(396cm)と6フィート(122cm)。
p259 国王陛下の脳下垂体窩(His Majesty's pituitary fossa)♣️当時の国王はエドワード七世(在位1901-1910)。身長ネタに続いての発言だから「成長ホルモン分泌不全性低身長症」の話題? でも低身長じゃないし… (身長5’8”(=173cm)と5’11”(=180cm)説あり) 女性関係が派手で有名だったというから、性腺刺激ホルモンの分泌過多、という意味か。
p278 よくこうした法廷を彩る無神経な顔の辛辣な“プロの陪審員たち”(the stolid-faced, truculent "professional jurymen" who so often grace these tribunals)♣️ここはインクエストの場面。検死官の権限で陪審員を集めるのだろうか。日当稼ぎのレギュラーが結構いたのだろう。
(2020-9-26記載)
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(1)The Man with the Nailed Shoes (初出は短篇集John Thorndyke’s Cases 1909)「鋲底靴の男」評価6点
いつものようにソーンダイク博士は隠密行動。なので読者は謎解きに参加できない。インクエストから本裁判への流れが書かれているので、個人的には興味深かった。
本作の発生年月は「九月二十七日月曜日(p58)」と明記。該当は1909年(その前は1897年)だが、ソーンダイクとジャーヴィスの関係性からは訳者解説にある通り『赤い拇指紋』(1901年3月)以降のあまり離れていない時期のはず。
(2021-10-25記載)
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(10)A Case of Premeditation (初出McClure’s Magazine 1910-8 挿絵Henry Raleigh)
「練り上げた事前計画」❶ 評価6点
本書の挿絵はPearson’s Magazine 1912-1のH. M. Brock画を収録。本作のマクルーア誌の挿絵はフチガミさんのWebサイト“海外クラシック・ミステリ探訪記”で見られます。そちらも良い感じ。マクルーア誌には⑶が1910-5、⑷が1910-6、⑺が1910-7、本作、⑼のアブリッジ版が1911-12に掲載され、挿絵は全てRaileigh画。⑷のマクルーア版挿絵も上記サイトに載ってるが、他の作品は一部のみの紹介があるだけ。是非見てみたいのでフチガミさま、よろしく。
ブロドスキーと比較すると、犯行時のドキドキ感がちょっと薄い。でもこの結末なら最初からそうすれば良かったのに、とも思うが… トリビアは❶に記載済み。
(2021-10-25記載)
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(12)A Wastrel’s Romance (初出Novel Magazine 1910-8 as “The Willowdale Mystery”)「ろくでなしのロマンス」❶ 評価6点
女性がこんな感情になるかなあ… 男と違って結構現実的だと思うんだ。
p451 ホテル・セシル(Hotel Cecil)♠️ストランド街サヴォイ・ホテルの隣にあった当時最大級の高級ホテル(1896-1930)。最近読んだA・E・W・メイスン『セミラミス・ホテル事件(The Affair at the Semiramis Hotel)』(1916)のモデル。
p452 大型のネイピア(a large Napier)♠️D. Napier & Son Limitedは英国の自動車メイカー。当時なら1907 60hp T21あたりか。
p461 歯を治す(fixing up my teeth)♠️当時はアレを使うんだね。という事はアレは結構身近なものだったのか。
p466 チケットポケット(ticket-pocket)♠️背広やコートの左襟元内側にあるスリット・ポケット。私は毎日背広を着てたのに最近まで存在を知らなかった。と思ったら、訳注では右ポケットの上のポケットとある。よく調べてみると、英国では右ポケットの上に小さめのポケットがあり、これをticket pocketと言うようだ(懐中時計なんかもここに入れるようだ)。じゃあ左襟のスリットは何て呼ぶのか?
p467 スラング♠️若い女性が何でも"ripping"(イケてる)か"rotten"(つまんない)のどっちかで形容する、と文句を言っている。rippingはリーダース英和に「古俗: すてきな、すばらしい」とあった。この時代の流行語であっという間に廃れたのだろうか。
p479 イェール錠の鍵(The Yale latch-key)♠️当時のイェール錠の鍵を探してみると、今のシリンダー錠の鍵と同じ形。ここではラッチキーと言っているが、上記(2)p94のナイトラッチとは明らかに異なる形状。
p479 フラットと思われる… 一人住まいの(rather suggests a flat, and a flat with a single occupant)♠️ここら辺は当時の人なら当然の推測なのか。
p483 吊し首♠️米国ならば、と言っている。
p486 オランダ製の時計(dutch clock)♠️ディケンズ由来の安いドイツ製(dutch=deutsch)の柱時計。なんの修飾もないシンプルな文字盤(face)なので、こういう比喩になったのだろう。
(2021-10-25記載)
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(9)The Case of Oscar Brodski (初出Pearson’s Magazine 1910-12 挿絵H. M. Brock)「オスカー・ブロドスキー事件」(創元『世界短編傑作集2』収録) 評価8点
迫力満点の挿絵!やはり力のこもった作品だと思う。訳者解説に雑誌版との異動が書かれていて興味深い。トリビアは創元『世界推理短編傑作集2』を参照願います。
(2021-10-25記載)
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(11)The Echo of Mutiny (初出Pearson’s Magazine 1911-9 as “Death on the Girdler” 挿絵H. M. Brock)「船上犯罪の因果」❶
作者が序文の最後で、名誉毀損で訴えられないように、この舞台を、実際は灯台船(light-vessel)なのだが、固定の灯台(lighthouse)に変えた、と書いている。light-vessel Girdlerで、昔の写真が見られる。へーこんなのもあるんだ。
p432 固形煙草('hard)♠️hard tobaccoというものらしいが、Webでは画像を拾えなかった。文中では水けがありナイフで削ってパイプに詰めるようだ。
p437 大きな白い文字で記された“ガードラー”♠️実際の灯台船は、船の横腹に名前が書いてある。
p440 刻み煙草は保存がきかない(the cut stuff wouldn't keep)♠️海辺の湿気でやられてしまうのだろう。
p449 歌う骨(Singing Bone)♠️骨はどこに出てくるのかな?と思ったら、ここだったのか。確かに短篇集のタイトルに採用するのに相応しい言葉。
(2021-10-26記載)
以上でやっと読了。フリーマンは読者とのクイズごっこは目指してなかったのだろう。こーゆー工夫をして捜査したら真実に到達できるのでは?と警察関係に科学捜査のアイディアを提供した、という事ではないか。フリーマンは実験大好きだったようだし、発明家の一面もあったようだ(実際にやるとなったら手間も費用もかかるので公的機関の手法として現実的ではないし、大抵の事件はもっと単純でソーンダイク博士は無用と思われるが…)。第二巻も非常に楽しみ。

No.3 6点 ソーンダイク博士の事件簿Ⅱ- R・オースティン・フリーマン 2020/08/29 18:21
創元文庫Ⅱでは第3短篇集(1918)から2作、第4短篇集(1923)から3作、第5短篇集(1925)から1作、第6短篇集(1927)から3作の全9短篇を収録。
フチガミ個人訳ソーンダイク短篇全集、第1巻がついに予約可能状態になった! 値段も意外と安い! 早速、紀伊國屋で予約してきました。予行演習も兼ねて創元文庫を少しずつ読んでゆく。
以下、初出や挿絵画家はS・フチガミさん情報によるもの。時々FictionMags Index(FMI)を参照してるが、FMIにはこの頃のピアソン誌情報がほとんど無いので、バックナンバーをお持ちのフチガミ様におかれましては是非目次データを提供してやって欲しい。
黒丸数字は英国短篇集の番号。カッコ付き数字は本書収録順で、以下は初出順に並べ替えています。
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⑴ Percival Bland’s Proxy (初出Pearson’s Magazine 1913-12 挿絵H. M. Brock) ❸「パーシヴァル・ブランドの替玉」評価6点
まあ当たり前の帰結なんだが、フリーマンは制度に対する批判を書いてる。ここではインクエスト。運営は検死官次第らしいので、事故死と判定された殺人も結構あったろう、と思われる。
p8 イングランド銀行の偽造紙幣(flash Bank of England notes)♣️5ポンド以上の高額紙幣(当時の最高額面は1000ポンド)。裏が白紙だしデザインも単純、偽造しやすく見えるよねえ。
p8 イングランド銀行の関係者の手に渡って(are tendered to the exceedingly knowing old lady who lives in Threadneedle Street)♣️the Old Lady of Threadneedle Streetで「イングランド銀行」を差す。James Gillrayによる風刺画(1797)が由来だとBoE公式ホームページが書いてる。
p9 いとこ(first cousins)♣️普通cousinと言ったらfirst cousinのこと。「はとこ」(いとこの子)ならsecond cousin。さらに、いとこの孫はthird cousinというらしい。
p10 三千ポンドの生命保険♣️英国物価指数基準1913/2020(116.15倍)£1=現在の15346円なので4604万円。
p14 昔気質の御者なら、大きな声で軽率な歩行者に警告してくれるだろうが、いまどきの御者は…(The old horse would condescend to shout a warning to the indiscreet wayfarer. Not so the modern chauffeur...)♣️この対比はhorseとautomobileだろう。「昔の馬車なら… いまどきの運転手ときたら…」Webで調べるとデータの出どころがよくわからなかったがGrüberのグラフだと石油自動車と馬車の数が交差してるのは1915年あたり。同グラフで見ると馬車のピークは1910年、急激に減少し出すのは1925年だ。
p14 辻馬車(taxi-cab)♣️taximeter cabの略なのでここは自動車の方だろう。
p14 集合馬車(omnibus)♣️当時ロンドンのomnibusを独占していたLondon General Omnibus Companyでは1902年に馬車から自動車に移行し始め、最後の馬車は1911年。なのでここは数行前と同様、「集合バス」(原文はmotor omnibus)が正解だろう。
p15 いよいよ身を隠すときが来た/まっさかさまに—身を躍らせて(Then is the time for disappearing,/Take a header—down you go—)♣️登場人物がハミングする歌。続きも書いてある。「上の空が晴れたら/何食わぬ顔で/ひょいと姿をあらわす(When the sky above is clearing, When the sky above is clearing, Bob up serenely, bob up serenely, Bob up serenely from below!)」色々探すと元はフランスのコミックオペラLes noces d'Olivette(オリベットの結婚)初演1879年11月13日パリThéâtre des Bouffes Parisiens、音楽Edmond Audran、台本Alfred Duru & Henri Charles Chivot。ロンドンでもH.B. Farnieによる英語版Olivetteがヒットした。1880〜1881年、Strand Theatreで466回の上演。ここで歌われるのは第1幕の公爵(tenor)ソロ、“Bob up serenely”。この歌、某Tubeに登録されてないので音楽は聴けなかったが、実は楽譜が無料公開されてる。
p32 「信頼された十二人の善良な人々」(“twelve good men and true”)♣️陪審員を指す由緒ある言い方のようだ。ここではインクエストの陪審員。
p32 「医学的な証言?」検死官は嘲るように… 「専門家をやとって公金を浪費[する気はない]」♣️インクエストは検死官の広い裁量に任されている。
p38 ダートムア地方の見通しのよい高台(the breezy uplands of Dartmoor)♣️Daniel Asher Alexanderデザインによる1809年に建造された捕虜収容所。ナポレオン戦争、米英戦争で使われたが、1815年に役目を終えた。1851年〜1917年には一般人の刑務所として再利用されていた。(英wiki)
(以上2020-8-29記載、2020-9-16若干修正)
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⑵ The Missing Mortgagee (初出Pearson’s Magazine 1914-6 挿絵H. M. Brock) ❸「消えた金融業者」評価5点
あまり盛り上がらずに終わる話。これは博士が出馬するまでもなく保険会社で調査が完了してもおかしくないレベルだろう。
p39 最近、ある冗談好きの男が、南アフリカに大勢いる「スコットランド人」を二つのグループに分類(A contemporary joker has classified the Scotsmen who abound in South Africa into two groups)♠️「最近の冗談だが…」というような感じ? グラスゴーにはユダヤ人移民の結構大きなコミュニティがあったようだ。ユダヤ人が南アフリカに移民する時もスコットランドっぽい苗字を名乗るのが好まれたのか。ここに出てくるGordonもスコットランド系の苗字なのだろう。
p40 『蟻を見習え』(‘Consider the ant.’)♠️『箴言』Proverbs 6:6 KJV “Go to the ant, thou sluggard; consider her ways, and be wise”から来た表現らしい。『惰者よ蟻にゆき其爲すところを觀て智慧をえよ』(文語訳)
p41 返済額は20ポンド、つまり四半期分の利子だ(...)払わないと、これが元金に繰り入れられて、一年で、さらに4ポンドかえさなくちゃならなくなる(Here’s a little matter of twenty pounds quarter’s interest.(...)If it isn’t, it goes on to the principal and there’s another four pounds a year to be paid.♠️恐ろしい高利。利率20%って事で合ってる?
p48 はっきりしるしを(marking them so plainly)♠️下着に他人のと紛れないようマークがついていたようだ。洗濯屋に出すときの備えなのだろうか。
p50 合わせると年に百ポンド近い出費… 稼ぎ出す収入のほぼ半分(That’s close on a hundred a year; just about half that I manage to earn)♠️英国物価指数基準1914/2020(116.15倍)で£1=15837円。年収200ポンド(=317万円)
p52 激昂したユダヤ人(the infuriated Jew)♠️この作品中でJewという単語はここだけ。Palestineとかthe drooping nose(たれさがった鼻)とかの表現で判るのだろう。
p67 なんとなく子供のペリカンを思わせる格好(somewhat after the fashion of the juvenile pelican)♠️伝説にある乳の出ない母鳥にせがむ子ペリカンのイメージ?
p73 この抵当証書が、以前つくられたのと同じ形式で作成されたことはご存知ですね?(are you satisfied that the mortgage deed was executed as it purports to have been?)♠️purportには「偽造っぽい」ニュアンスがありそう。「古いものだと装って作られたものだと思いませんか?」という感じか。
(2020-9-16記載)
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⑼ The New Jersey Sphinx (初出Pearson’s Magazine 1922-4 挿絵Sydney Seymour Lucas) ❹「ニュージャージー・スフィンクス」評価6点
タイトルが謎めいてるが、いわくは語られずじまい。作中、在ロンドンのインド人商人を偏見なく描いている。
p280 アパー・ベッドフォード街(Upper Bedford Place)…ブルームズベリにはアフリカ人や日本人やインド人が、たくさん住んでいる(there must be quite a considerable population of Africans, Japanese and Hindus in Bloomsbury)♣️漱石の最初の下宿先(1900年10月末)も、その辺から徒歩十分くらいのGower Streetだった。
p280 服装はきちんとしているが、帽子はかぶらず…(His hatless condition—though he was exceedingly well dressed—)♣️外出時には帽子あり、が当然の時代
p286 流行の山高帽子の高級品…黒くて堅いフェルト製(black, hard felts of the prevalent "bowler" shape, and of good quality)♣️ボウラー・ハットは「1850年の発明…元々は乗馬用の帽子であるが、上流階級が被るシルクハットと労働者階級が被るフェルト製ソフトハットの中間的な帽子」(wiki)とのこと。
p288 五カラット程度の上質のルビーで、だいたい3000ポンドくらい(A fine ruby of five carats is worth about three thousand pounds)♣️英国消費者物価指数基準1922/2020(57.20倍)£1=7558円、3000ポンドは2267万円。
p289 革のヘッドバンドの裏…折りたたまれた紙片がたくさん♣️帽子の中に色々紙を挟むのは普通だったようだ。
p289 ガス・ストーブの料金表(a leaf from a price list of gas stoves)♣️「料金表」だとガス料金のことか?と誤解する。「価格リスト」が良いのでは?
p294 郵便配達用の人名簿(Post Office Directories)♣️ソーンダイク博士お馴染みの七つ道具。1799創設、と自称していたKelly's Directoryのことだろう。現在のYellow Page(職業別電話帳)のようなもの。1836年ごろの郵便局長?Frederic Festus Kellyが半公式的に出版し、その後、出版権を世襲したようだ。「郵便局人名簿」と言うのが適訳か。Post Office london Directory 1914 part 1で無料版を見ることが出来る。
p296 近頃新聞で(as the papers call him)♣️何故そう言うあだ名なのかがよくわからない。米国由来だろうが…
p302 ミカエル祭の日(Michaelmas)♣️訳注は「9月29日」とだけ。四半期日(quarter day)の第三番目、という情報が抜けている。四半期単位の貸間契約のようだ。
p302 一階の5番(a ground floor at No. 5)…二階の51番(a good first-floor set at No. 51)が空いています… [借りてたキャリントンが急に外国に行ったので] ♣️「5番地の一階、51番地の二階」だろう。訳者はマンモス集合住宅とでも思ってるのかな?(p299でクリフォード・イン51番を訪ねて、そこが三階建てで二階にキャリントン、とちゃんと書いてるのに…)
p303 「…背の高い色の浅黒い人(a tall, dark man)じゃありませんか?」「…背が低くて、すこし頭の禿げた、血色のいい人です(a little, fairish man, rather bald, with a pretty rich complexion)」♣️博士がよくやる、ワザと正反対の人相を聞く手。答えがまずfairish(訳し抜け「薄い色、金髪」)、bald(禿げ)なので、当然darkは黒髪の意味だろう。
p303 意味ありげに鼻をなで、小指を立てた(tapped his nose knowingly and raised his little finger)♣️このジェスチャーは、鼻を軽く叩くで「秘密だよ」、小指を立てるで「悪い(bad)」(親指を立てるgoodの反対)だろうか。(モリス『ボディートーク』参照) 日本と違い小指に「女」の意味はあまり無いようだ。
p308 自動拳銃(an automatic pistol)♣️しゃれたFN1910ではなく無骨なSavageM1907を連想(個人の見解です)。
p309 辻馬車(in a hansom)♣️1922年だが馬車はまだ現役。
(2020-9-19記載)
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⑻ The Funeral Pyre (初出Pearson’s Magazine 1922-9 挿絵Howard K. Elcock) ❹「焼死体の謎」 評価6点
原題は「火葬用の積み薪」という意味らしい。インクエストの場面が興味深い作品。外部の人間が自由に発言を許されている。(ソーンダイク博士が有名だからだろうか)
p246 夕刊(an evening paper)♠️博士は気にくわないようだ。(作者も?) 1881年創刊のEvening Newsが草分けらしい。(2020-9-26追記: 夕刊紙は大衆紙、というイメージらしい。wiki「ジョージ五世」より)
p246 堆積された乾草が燃えている(a rick on fire)♠️ 「青いスパンコール」ではrick=枕木の束?との説を出したが、ここは藁で間違いない。
p263 〈喫煙者の友〉(smoker's companion)♠️そーゆー通称のパイプ掃除道具に似てるから?
p264 二組のトランプのカード(playing cards... from two packs)♠️があったのだから大きな勝負だった、という推理。そういうものか。ゲームの種類は何だろう。
p270 いくらかアイルランド訛り(with a slight, but perceptible, Irish accent)♠️セリフの原文には訛りは反映されていない。
p272 反対訊問のために立ちあがった(rising to cross-examine)♠️ここは「反対訊問」(法律用語)ではなく「厳しく追及する, 詳しく(細かく)詰問する」という一般的な意味だろう。インクエストは、検察と弁護の対決の場ではなく、反対訊問は禁止されている(実際は結構無視されている原則のようだが)。
p276 粘土(クレイ)パイプ♠️ああ、そーゆー常識があるんだ。
(2020-9-20記載)
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⑸ Phillis Annesley’s Peril (初出Pearson’s Magazine 1922-10 挿絵Howard K. Elcock) ❺「フィリス・アネズリーの受難」評価5点
このPerilはもしかして映画のタイトル風に「危機一髪」という感じで使ってる? (Perils of Pauline 1914のイメージ) ロス・アンジェルスの映画会社の関係者が出てくる。もちろん当時はまだ無声映画。ヴァレンチノ『血と砂』(1922)、バスター・キートンはまだ短篇時代、チャップリンが『キッド』(1921)の世界的大ヒットでロンドンに凱旋帰国した頃。この翻訳は、描かれてる微妙な男女関係を表現しきれてない感じ。ミステリとしては、ちょっとアレなトリック。
p145 裁判のためにも(for the inquest)♣️ここは「検死審問(インクエスト)」と訳して欲しいところ。インクエストの前から関わってもらっていたら… という後悔だろう。p146などからわかるが既にインクエストは終わっている。
p145「まだ弁護に着手したわけではないのでしょう?」(You reserved your defence)♣️正式な法廷用語はよく知らないが「弁護(方針)を留保している」という意味か? この翻訳では意味不明。法廷戦術として、どういう趣旨で抗弁するのかをあらかじめ表明することが多いのだろうか。
p146 検死の結果(The cause of death was given at the inquest)♣️ここも「インクエストで明らかになった死因は…」
p146 ミス・フィリス・アネズリー(...)この秋旅行をしたときに家のなかを片づけて...(Miss Phyllis Annesley. It is her freehold, and she lived in it until recently. Last autumn, however, she took to travelling about and then partly dismantle the house)♣️色々重要なところが訳し漏れてて経緯がわかりにくくなっている。「彼女の相続財産で、最近まで住んでいた」「この秋からあちこち旅に出て、家具もある程度処分」
p147 別にいやらしい関係ではありませんが(though there is no suggestion of improper relations between them)♣️ここは断定してるニュアンスではない。「不適切な関係を示すものはありませんが」状況はクロだよねえ。いやらしい関係って、子供か。
p147 夫婦仲は…決して仲が悪いわけではなく(they don't seem to have been unfriendly)♣️微妙な夫婦関係の表現を理解してない翻訳。試訳「非友好的という感じではないようでした」続く財産関係の説明もズレてる。以下試訳「夫は金銭的な義務をきちんと果たしていました。妻に自由にお金を使わせていただけでなく、妻のため財産確保にも努めていたのです」
p148 離婚話… あるはずがありませんよ(It couldn't be)♣️そーゆーニュアンスではなく、「出来なかったでしょう」という感じか? これは近年の条件だが「イングランドとウェールズの現行制度では裁判所で「婚姻の回復しがたい破綻」があったと認められた場合に限り、離婚が認められています(破綻主義) ⑴不貞 ⑵同居を著しく困難にする行動 ⑶2年の遺棄 ⑷別居(合意があれば2年、なければ5年)が離婚の成立条件」当時も似たような制度なら、まだ別居して間がないから離婚事由にならないよ、ということだろう。(ちょっと調べたら当時は全然違い、離婚はかなり難しかったようだ。全然知りませんでした! wiki「妻売り」参照)
p152 警察が訊問したときの口述書(a verbatim report of the police court proceedings and of the inquest)♣️ここも「インクエスト」抜け。ここまで来ると故意なのか。
p156 シャッター♣️フランス窓なので「鎧戸」が良い感じ。開いてた穴(1インチほど)はデザインなのか?
p161 ブリクストン(Brixton)… ホロウェイ(Holloway)♣️HM Prison Brixtonは1820建設の男性刑務所。HM Prison Hollowayは1852建設で1903年以降は女性専用刑務所。
p161 揮発油で髪を洗った(I was having my hair cleaned with petrol)♣️何かの油なんでしょうね。ググったらPétrole Hahnというヘアオイル(1885年からのブランド)の広告が見つかった。この場面はパリでの出来事なのでフランス語の表現か!と納得。(英語だと「ガソリン、石油」の意味が強そう)
p163 裁判(trial)♣️ここからは本当の裁判シーン。
(2020-9-21記載)
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⑷ Pandora’s Box (初出Pearson’s Magazine 1922-11 挿絵Howard K. Elcock) ❻「パンドラの箱」評価6点
翻弄される犠牲者が良い。
p116 あとで申しあげるように、彼の生活ぶりは一風変わっているんですが、このときの行動も、ちょっとかわっていたのです(The circumstances were peculiar, as you will hear presently, and his proceedings were peculiar)♠️試訳「後で話すように色々奇妙な事件が起こったんですが、このときの彼の行動も奇妙だったのです」
p117 乗合馬車(omnibus)♠️第一話のトリビアに書いた通り、ロンドンでは馬車の時代はすでに終わっている。ここは「バス」
p117 車掌が料金を集めにくる(the conductor was coming in to collect the fares)♠️運転手と車掌の二人体制なんだね。
p119 もとは舞台に立って、くだらないショーに出ていた(she had been connected with the seamy side of the music-hall stage)♠️フリーマンの描くダメ女の典型。
p123 ハンテリアン博物館(Hunterian Museum)♠️ロンドンのイングランド王立外科医師会(The Royal College of Surgeons of England)にある博物館。数千もの解剖学的な標本と多数の外科器具が展示されている。
(2020-9-22記載)
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⑺ The Blue Scarab (初出Pearson’s Magazine 1923-1 挿絵Howard K. Elcock) ❹「青い甲虫」評価6点
多分、ツタンカーメンの王墓発見のニュース(1922-11)に反応して書かれた、かなり早い時期のエジプトもの。他のミステリ作家はカーナヴォン卿が死んだ1923年4月以降ネタにしている。(クリスティ1923年9月号、ヴァンダイン1929年12月号) フリーマンは言語学への興味と素養があったのだろう。ソーンダイクはピクニックに行くような感じで楽しそう。なんか愉快な雰囲気が良い。
解説にあるようにシャーロックのアレを意識してます。メカ好きフリーマンならではのネタの料理法。
p212 小型の証書保管箱(a small deed-box)♣️鍵がかけられ持ち手の付いた金属製の書類保管用の箱、というイメージ。
p212 フランス窓(French window)♣️今調べて初めて理解したのだが、ドアとしての役割が最初から想定されてるのね。窓としても役に立つドア、という感じ。
p213 六月七日の火曜日♣️直近では1921年が該当。
p214 甲虫を転写した(an impression of the scarab)♣️ここら辺、意味がよく分からないかったが、スカラベって古代エジプトでお守りの他、印章としても使われてたんだ! 知りませんでした… 翻訳は「甲虫」を「スカラベ」とすべきですね。試訳「スカラベで封印した」
p218 姿を変えて(in disguise)♣️「変装して」
p223 機械は、明らかにエリート型のコロナで(The machine was apparently a Corona, fitted with the small "Elite" type)♣️試訳「見た感じでは機械はコロナで、小型エリート活字使用のものだ」Elite活字は数枚のカーボン紙を挟んでも視認出来るデザインとのこと。
p224 陸地測量局(Ordnance)♣️ Ordnance Survey (OS) は1791年創立の英国公的地図作成法人。
p225 気の毒なミス・フリート(poor Miss Flite)♣️Dickens “The Bleak House”(1853)の登場人物。『荒涼館』も他のディケンズ作品も私は全く読んでない。コリンズに行く前に読みたいなあ。(また20世紀が遠のく…) フリーマンはかなりのディケンズ・ファンと見た。
p227 あの学識豊かなグラス夫人の古代学の講義でもきいたほうがよかった(you are rather disregarding the classical advice of the prudent Mrs. Glasse)♣️ベストセラー料理本The Art of Cookery, Made Plain and Easy(1747)の著者Hannah Glasse(1708-1770)のことだろう。ここで言ってる「古き良き助言」とはタイトルのplain and easyか。
p227 細字用のペンとゼラチン版のインクで(with a fine pen and hectograph ink)♣️hectographはgelatin duplicatorとかjellygraphとも呼ばれる昔のコピー方法。1869年の発明。15分で100部ほどの複写が可能、という当時の広告があった。Webをざっと見た感じでは左右逆にコピーされるようだが… (原版作成時に裏側からなぞって逆版を作るのかも)
p228 『釣魚大全』(The Compleat Angler)♣️17世紀の有名な本。ソーンダイクは遊ぶ気満々だ。
p238 どうしてわかったのだろう(and you know it)♣️お笑い草だ、出鱈目を言うな!と言うニュアンスだと直感(あんま根拠なし)。
p238 きれいな水で体を洗い(after a leisurely wash)♣️原文で洗う対象は示されていない。手や顔を、だと思う。
p245 パンを海に投げよ。いつの日か、それはまた汝の手に戻るであろう(Cast thy bread upon the waters and it shall return after many days)♣️KJVでは後半がちょっと違う。Ecclesiastes 11:1 (KJV) Cast thy bread upon the waters: for thou shalt find it after many days. 小説の言い方もWebで若干見つかったが、英語訳聖書の正式バージョンではないようだ(一応数種を調べたが一致無し)。Revised Version(1884)ではCast your bread upon the waters, for you will find it after many days. 傳道之書11:1(文語訳) 汝の糧食を水の上に投げよ 多くの日の後に汝ふたたび之を得ん。
(2020-10-14記載)
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⑶ Mr. Ponting’s Alibi (Pearson’s Magazine 1927-2 挿絵Reginald Cleaver) ❻「ポンティング氏のアリバイ」評価5点
作品自体は新し物好きのフリーマンらしい作品。戸板さんの解説は、有名二作品を巻き込んでいて、全部がネタバレになっちゃう悪質物件。こういう書き方、気持ちはわかるがプロの探偵小説評者として工夫して欲しいなあ。時代としては、そーゆー物がちょっとした家庭にあっても普通な感じだった、ということが窺える。(有名二作品の場合は金持ち。本作品ではちょっと特殊な家庭だが)
p82 辻馬車(a taxi)... 辻馬車の馭者(a taxi-driver)♠️流石に1920年代後半だから馬車ではない、と翻訳を読んで思ったが、原文ではcabですらなく、ハッキリtaxi。
(2021-4-10記載)
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⑹ Gleanings from the Wreckage (初出Flynn’s Weekly 1927-3-12, as “Left by the Flames”) ❻「バラバラ死体は語る」
ソーンダイク博士シリーズで最後に発表された作品。この米国パルプ雑誌(Detective Fiction Weeklyの前名)のみの登場でピアソン誌の掲載が無いという。何故だろう。

No.2 6点 ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ- R・オースティン・フリーマン 2020/07/05 06:04
第2短篇集『歌う白骨』(1912)のほぼ全篇4作(未収録は「オスカー・ブロズキー」だけ)とソーンダイク初短篇(1908)を含む第1短篇集(1909)からの3作に1924年発表の1作で合計8作収録。
7月4日はソーンダイク博士の誕生日(藤原編集室ネタ)。フチガミ個人訳ソーンダイク短篇全集企画記念。予行演習のため創元の1、2を読んでます。なんと言っても挿絵完全収録というのが良い。あらためてWEB「海外クラシック・ミステリ探訪記」を読んだら、博士の初出情報や雑誌に掲載されたイラストがたくさん載ってるんですね。是非、短編全集には初出を記載したフリーマン全著作リストもお願いしたいところです。
以下、初出はS・フチガミさん情報によるもの。時々FMIを参照しています。

⑴A Case of Premeditation (米初出McClure’s Magazine 1910-8 挿絵Henry Raleigh)「計画殺人事件」評価6点
倒叙ソーンダイクもの。冒頭から素晴らしい作品。犯行前に犯人が色々なものを揃えるのですが、何故それを、が示されないのが面白い。警察犬を無茶苦茶批判してるけど、それは使いようじゃないの?と思いました。作者は犬嫌いか。これがフリーマンによる倒叙作品の初登場。執筆も実は先?(オスカー ブロズキーはPearson’s 1910-12初出)
p16 年200ポンド♠️消費者物価指数基準1910/2018で114.4倍、現在価値322万円。
p17 チェンバー百科事典(Chambers’s Encyclopaedia)♠️10巻本の百科事典。初版1868年完成。1908年には改訂版(第5版?)が出ています。
p19 半クラウン銀貨(half-a-crown)♠️エドワード7世の銀貨(1902-1910)は重さ14.1g、直径32mm。半クラウン=2シリング6ペンス=0.125ポンド、現在価値2010円。なお1ペニー銅貨は同時期のものだと重さ9.4g、直径30mm、現在価値67円。半クラウンで4ペンスのお釣りなのでここでの買い物は1742円相当。
(2018-12-31記載)

⑵The Echo of a Mutiny (初出Pearson’s Magazine 1911-9 挿絵H. M. Brock, as “Death on the Girdler”)「歌う白骨」評価5点
倒叙ソーンダイクもの。偶然の犯行なので手がかりが豊富、博士には赤子の手を捻る程度の事件。
p65 リカルヴァ沿岸警備所の双子塔(the twin towers of Reculver)♠️海沿いの聖メアリ教会に12世紀に加えられたtwin towersで有名。原文に「沿岸警備所」はありません。
(2019-1-6記載)

⑶A Wastrel’s Romance (初出Novel Magazine 1910-8 as “The Willowdale Mystery”)「おちぶれた紳士のロマンス」評価5点
倒叙ソーンダイクもの。かつての素晴らしき日々への感傷、からの暗転が唐突。結末もちょっとどうかなあ。
p121 親しくしている弁護士さんの言い草ではないけれど「名前になんか、なんの意味も」ない(as our dear W. S. remarks, 'What's in a name—')♠️残念じゃがWriter to the Signetでは無い。沙翁Romeo and Julietteじゃのう…
p133 イエール鍵(Yale latch-key)♠️1844年、米国人Linus Yale Jr(1821-1868)の発明。
p150 郵便局の人名簿(Post Office Directory)♠️英国ではstreet別、commercial(商売)別、trade(職業)別、court(貴人・公人)別などの名簿を郵便局が発行していたらしい。
p161 オランダ時計の文字盤みたいに表情がなかった(devoid of expression as the face of a Dutch clock)♠️オランダ製はシームレスに針が動くのかも。花のセリに使われるDutch clockは針が急がしく動くらしいので違うと思う。(2020-3-9追記) Dutch Clockとは盤面に贅沢な彫刻などない普通の振り子時計、とDickens関係のWebページに書いてありました。
(2020-3-8記載)

⑷The Old Lag (初出Pearson’s Magazine 1909-4 挿絵H. M. Brock, as “The Scarred Finger”)「前科者」評価4点
かなり手間のかかるトリック。倒叙として構成してみれば、作者も不自然だと気づくはずなのに… ソーンダイクの推理もパッとせず、警視が間抜け過ぎるのも面白くない。
p169 舌を見ただけで… 当てるバクダードの占い女(the wise woman of Bagdad… by merely looking at his tongue)♠️面白そうな話だが、調べつかず。有名な占い師なのか。
p189 昔話の狐と鳥(the old story of the fox and the crow): イソップ童話より。
p189 きみは、ぼくに一生けんめいしゃべらせておいて、自分は耳を楽しませながら(the old story of the fox and the crow; you 'bid me discourse,' and while I 'enchant thine ear,')♠️Shakespeare “Venus and Adonis”(1593)より。作曲家Henry Bishop(1786-1855)がこの詩をもとにBid me discourse(1822)という曲を作っている。
p202 ハンカチの隅にゴムのスタンプで(printed in marking-ink with a rubber stamp)♠️新しく買った半ダースのハンカチに奥さんが名前を入れた(p202)。洗濯屋に出している、というから紛れないための工夫なのか。(他の衣類にも名前を入れるのだろうか?)
(2020-4-3記載)

⑸The Blue Sequin (初出Pearson’s Magazine 1908-12 挿絵H. M. Brock)「青いスパンコール」評価5点
現場のコンパートメントは通路が無いタイプなので、列車が動いている時は密室状態、だから最後に降りた者が犯人なのは確実、という話なのだが、当時は当たり前で説明無用の前提条件が現在の人間にはわかりにくい。(20世紀初頭から通路ありのCorridor coachが導入され始めたようだ) 本篇の解決がそーゆーことなら、物理的にはこーゆー現場の状況にはならないような気がします。(室内中央に戻る可能性はかなり低いと思う)
p217 干し草を燃やす(set a rick on fire)♠️このrickは交換後の「枕木」ではないか?保線の話に干し草が出てくるのが不思議なのだが… (その後に家畜の話題が出てきて話が繋がってるように見えるが、本来、保線工事の話)
p223『ゲインズボローの肖像に描かれたデボンシャーの公爵夫人』(Duchess of Devonshire in Gainsborough's portrait)♠️ゲインズバラが描いた「デヴォンシャー公爵夫人の肖像」(1787?) 大きな帽子の有名な絵。
(2020-3-8記載)

⑹The Moabite Cipher (初出Pearson’s Magazine 1909-?? 挿絵H. M. Brock)「モアブ語の暗号」評価6点
ジャーヴィスとアンスティ揃い踏みなのが楽しい。アンスティは反抗的な性格のようだ。謎の解決はフリーマンらしくて良い。(読者もジャーヴィスも置いてけぼりだが…)
p237 救急車を(ambulance)♠️ロンドンで最初の救急自動車は1904年。救急用連絡ポストが市内数カ所に設置され、電信でセンターに知らせる仕組みだったようだ。(1907 ambulance city london policeで検索)
p237 患者に変化が♠️ここら辺の描写は医者ならでは。
p238 ポーク・パイ(Pork-pie)♠️英国伝統の甘くないパイ。冷やで食べるのが良いらしい。ここの感じでは普通に製品として販売されていたのか。
p239 呼鈴のボタンの列(a row of brass bell-handles)♠️がオルガンのストップみたいに見える… と言うので画像を探したら本当にそんなのがあった。https://www.flickriver.com/photos/stonerabroad/6372235067/ 翻訳では「押した」となっているが原文ではpulledとあるので、このタイプなんだろう。
p239 赤毛型の典型的なユダヤ人(a very typical Jew of the red-haired type)♠️調べると欧米で「赤毛」はユダヤ人の属性という偏見があったらしい。だから「にんじん」や「赤毛のアン」なのか?とすると「赤毛連盟」はPC的にヤバいのか?
p253 夕食の駅弁を買ったり(furnish ourselves with dinner-baskets)… 駅弁の冷えた鶏肉(cold fowl from the basket)♠️「駅弁」というから、そーゆー商品があった?と思ったら自分たちで食べ物をバスケットに詰め込んだ… という意味だろう。(駅弁というのも、おそらく日本独自のものではないでしょうか。ヨーロッパの大きな鉄道駅には、テイクアウト可能なサンドイッチ等を販売する様々な店舗が並んでいますが「テイクアウト用に最初からパッケージされたもの=弁当」は、まず見たことがないのです。〜“EKIBEN”は英語になるか? 2018.09.26 WEB「鉄道チャンネル」)
p253 いらいらした口調で… 「もう七分も遅れている!」(exclaimed irritably. "Seven minutes behind time already!")♠️列車の遅れ7分でこれ。やはり昔は結構定刻どおりだったのでは?
p260 あらゆる銀器に良心的な反感(a conscientious objection to plate of all kinds)♠️ソーンダイク博士の感想。贅沢を象徴してるから?
(2020-7-4記載)

⑺The Aluminium Dagger (初出Pearson’s Magazine 1909-3 挿絵H. M. Brock)「アルミニウムの短剣」評価6点
立派な密室殺人なんだから、もっと盛り上げて良いのに。サスペンスが全く無い。筋立てが直線的過ぎるんだよなあ。
p274 「入浴」という神聖な儀式(The sacred rite of the "tub")♠️たまたまwikiにあった雑誌版(McClure’s 1910-7)を見たらmy bathとあっさり表現。単行本時に洒落た文章に直したようだ。
p286 不潔な猿を肩に乗せた男が手回しオルガンを持って... 神聖な曲とコミック・ソングの—『ロック・オブ・エイジス』『ビル・ベイリー』『クジュス・アニマル』『オーヴァー・ザ・ガーデンウォール』などを、ごちゃまぜに... 『ウェイト・ティル・ザ・クラウド・ロール・バイ』を演奏しはじめ…(there was a barrel-organ, with a mangy-looking monkey on it... Kept mixing up sacred tunes and comic songs: 'Rock of Ages,' 'Bill Bailey,' 'Cujus Animal,' and 'Over the Garden Wall.' ... started playing, 'Wait till the Clouds roll by.')♠️McClure版ではWait till the Clouds roll byのくだりは無い。沢山の曲名が出てきて嬉しいねぇ。調べたら大体判明したので満足です。
①Rock of AgesはHymn. 詞Augustus Montague Toplady(1763), メロディは数種あるが、英国では"Redhead 76", also called Petra, by Richard Redheadが普通(英Wiki)。
②Bill Baileyは1902年作詞作曲Hughie Cannon(米国人)のBill Bailey, Won't You Please.... Come Home?だろう。英Wikiに(Won't You Come Home) Bill Baileyの項目あり。
③Cujus AnimalはRossiniのStabat mater(1841)第二楽章Cujus animam(テノール独唱)のことか。
④Over the Garden Wallは作詞Harry Hunter、作曲G. D. Fox、1879年出版のmusic-hall piece。
⑤Wait till the Clouds roll byは作詞H. J. Fulmer、作曲J. T. Wood、1881年出版のポピュラーラヴソング。
p288 サドラー基金賞の最高賞がもらえるぞ(They are worthy of Sadler's Wells in its prime)♠️基金賞では見当たらず。1683年リチャード・サドラーが見つけた、薬効のある井戸のほとりのミュージックハウスが起源の由緒ある劇場名だと思われる。日本語Wiki「サドラーズウェルズ劇場」参照。本作の頃はすっかり落ちぶれたボロ劇場だったようだ。スケートリンクや映画館に改装されたというのもこの頃か。全盛期のサドラーズウェルズ劇場みたいに古いネタ(あるいは素晴らしいネタ)、というニュアンス?
p291 約2万ポンド♠️全財産。英国消費者物価指数基準1908/2020(121.09倍)で£1=15999円。2万ポンドは3億2千万円。
p294 小柄で、色白で、痩せぎすで、髭をきれいに剃って(he is rather short, fair, thin, and clean-shaven)♠️浅黒警察出動!「金髪で」
p295 お礼に一ソヴリン♠️探しものの謝礼。=£1なので15999円。当時のソヴリン金貨はエドワード七世、純金、8グラム、直径22mm。
p296 空中ごま(デイアボロ)(diabolo)… その玩具は、往復する紐から外れ(the shuttle missed the string)♠️英wikiに項目あり。ああ、アレね。日本では流行ってないと思う。
p297 背が高く、痩せていて、色黒で(was tall and thin, dark)♠️浅黒警察ふたたび出動!「黒髪で」
p299 この前の四季支払日(クオーター・デイ)に来たばかりで—六週間ほど前から♠️英国(イングランド&ウェールズ)ではLady Day(3/25)、Misdummer Day(6/24)、Michaelmas(9/29)、Christmas(12/25)で、スコットランドやアイルランドでは別の日が指定されている(英Wiki)。微妙にズレてるのがなにか伝統っぽい。本作は「夏の陽光(p278)」とあるので約6週間前が6/24、つまり8月上旬の事件。
p299 半ソブリン♠️御者への駄賃。8000円。当時の半ソヴリン金貨はエドワード七世、純金、4グラム、直径19mm。
p300 フランス製の小型武器—1870年の悲劇の形見—の廃物(obsolete French small-arms—relics of the tragedy of 1870)♠️ small armsとは「1人で携帯操作できる拳銃、小銃(ライフル)、ショットガン、手榴弾など」のこと。定訳は「小火器」。1870年の悲劇とは自信満々の仏軍があっさり敗れた普仏戦争のこと。
p305 どの部分をみても『イギリスの製作者が作ったもの』であることは明白(there is plainly written all over it 'British mechanic.')♠️その後の説明を聞いても明白だとは思えないが… まーお国自慢の一種かな。
p309 ドレイパー社製の変色性インク(Draper's dichroic ink)♠️Bewley & Draper社(Dublin)の黒インク。1886年の広告には“The Best Black Ink Known — Draper’s Ink (Dichroïc)“とある。dichroicは漆黒性と高輝度を併せ持った、という意味での「二色性」か。1891年の広告ではturns at once jet blackと表現してるので「変色性」で良いのか。
p310 インクを入れた石の壜(a stone bottle)♠️Stone wareの訳語は「炻器(せっき)」。半磁器や焼締めとも呼ばれ、日本では備前・常滑・信楽・伊賀焼きに見られる」ものらしい。ヴィクトリア朝に流行したようだ。
(2020-7-4記載; 2020-7-8追記)

(8)A Mystery of the Sand-Hills (初出Pearson’s Magazine 1924-12; 米初出Flynn’s 1924-11-29 as “Little Grains of Sand”)「砂丘の秘密」評価5点
Flynn’sは有名な米国パルプ誌Detective Fiction Weeklyの前身。
ひた隠しにする依頼人にズバリと失踪者の特徴を言い当てる場面だけが楽しい物語。あまりに読者に手がかりが隠されているので面白い話として成立しません。御託宣をははぁと聞くだけ。
p318 背の高い、髭をきれいに剃った、色の黒い男だった (Tall, clean-shaven, dark fellow)♠️しつこいようですがdarkな髪の色だと思うのです。
p328『クランプス』というゲーム(the game of "Clump")♠️Webにclumpsという指定人数の塊を作る子供用ゲームの動画がありましたが… George Ellsworth Johnson著 Education by plays and games(1907)にYes, No, I don’t knowのいずれかで答える推測ゲームClumpsの項あり。源平戦で、推測が当たったら相手方から一人奪い、最後に人数が多い方のグループが勝ち、というゲームのようです。(kindle版を手に入れましたが、OCRの精度が低くてちょっと読みにくい…)
p333 狐狩りの猟犬♠️ここでは大活躍してます。「犬嫌い」ではないらしい。⑴参照。
(2019-8-31記載)

以上で全巻終了。全体を通して捻りが無い感じ。ミスディレクションというかアッチに振ってからの〜意外な解決、というテクニックを使わないのがシリーズの物足りなさですね。ソーンダイク博士のキャラもおんなじで、欠点の無いハンサムキャラじゃ、可愛げ全く無しです。これで超美人だが超性格の悪い恋人or妻が登場すれば面白かろうに… まあでも第二巻も楽しみです。もちろんフチガミ全集も。1冊5000円じゃ収まらないのかな?
あれ?弾十六得意のネタを書いてない…と思われた方もいるのでは?でもアレ書いちゃうとムニャムニャじゃないですか…なので以下、ちょっとぼかして銃関係のトリビアを書きます。
「ライフル銃」は、名称が作品中にバッチリ明記してあるので、興味がある人は各自でwikiを調べてくださいね。この銃にはwikiにある通り皮肉なエピソードがあって銃世界でも結構有名です。
「消音器(a compressed-air attachment)」が出てくる作品があるのですがマキシムの特許は1909年3月。となると作中年代の方が先になっちゃって整合性が取れないかも。手作りのオリジナルと考えれば良いでしょうか… 22口径(5.7mm)程度の小口径なら結構効果は高いようですが… 最後の方で「強力で大きな消音ライフル(a large and powerful compressed-air rifle)」とあるので犯人は空気銃に改造した、という設定なのかも。こっちの解釈なら博士が「いかなる爆発の痕跡も残さないために[attachmentを使った](prevent any traces of the explosive)」という発言とも合致します。フチガミさま、いかがでしょうか?
「携帯便利な武器—大口径のデリンジャー型ピストル(a more portable weapon—a large-bore Derringer pistol)」も登場します。お馴染み41口径レミントンダブル(1866)ですね。口径は大きいんですが、弾は寸詰まりで火薬量が少なく銃身も短いのでパワーはそんなにありません。
(2020-7-8記載)

No.1 7点 赤い拇指紋- R・オースティン・フリーマン 2018/10/27 23:57
1907年出版 翻訳1982年
実はソーンダイクものは初めて。どー見ても怪しいやつを作中では誰も怪しいと思わないのが変ですが、無邪気な語り手の恋愛模様が面白く、法廷でのソーンダイクの実験が素晴らしい作品。そして(ある意味)意外な物語の終わらせ方。凝った暗殺道具は無茶で、そこのところの筋は荒っぽいのですが、それ以外は順当な出来でとても楽しめました。当て推量(guess)論は明らかに偉大な先達を意識しています。(指紋関係では「ノーウッドの建築士」が1903年の発表)
騒がしい監獄、汚い法廷の描写にとてもリアリティがあります。全般的な印象として、女性の役割が当時はこの程度か、という感じ。とても息苦しかったでしょうね。
ところでBlickensderferを知らなかったのですが、なかなか面白いタイプライターですね。Model 5がリテラリイ型でModel 7がコマーシャル型かな? (ストーントン型Stauntonのチェスの駒というのもこの作品で覚えました)

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弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.14点   採点数: 534件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(96)
ジョン・ディクスン・カー(29)
A・A・フェア(29)
アガサ・クリスティー(19)
カーター・ディクスン(19)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(19)
R・オースティン・フリーマン(13)
アントニイ・バークリー(13)
ダシール・ハメット(12)
ドロシー・L・セイヤーズ(12)