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レッドキングさん
平均点: 5.25点 書評数: 823件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.28 4点 パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー 2020/07/26 18:29
並行して走る列車越しの窓から、偶然に目撃した車内殺人。トラベル時刻表もの?と思わせておいて、安楽椅子老女探偵とスーパー家政婦探偵が活躍する一族連続殺人の屋敷ものへ転じて、意外な真犯人のフーダニットが見事に決着。
※あの魅力的なスーパー家政婦、どっちの男に決めたんだろな。

No.27 4点 邪悪の家- アガサ・クリスティー 2020/06/29 00:28
探偵の現前で起きたヒロインの殺人未遂と人違い殺人。彼女には狙われるべき財産も、生じるべき感情的軋轢も乏しかった。探偵の丁寧な覚書付きフーダニットミステリ。容疑者はA~I、そこにJを加え、さらにKが・・
※1932年頃の中産階級「淑女」にとって、コカインだの麻薬パーティーだのって、結構普通の「文化」だったのね。

No.26 6点 ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー 2020/06/19 21:56
ハンサムで仕事もできる開業医。不器用で地味な妻と、魅力的な二人の・・才能ある美術家と有名女優の・・二人の「愛人」。読者の誰もが予想する通りに医者が射殺され、傍らには拳銃を手にして茫然自失の妻。人間関係トリックでなければ、キャラ一捻りトリック・・プロット上、一番疑わしい立場の人物を一旦裏に隠すアガサ・クリスティー常套のトリック・・だが、今回は他の容疑者達もそれぞれのキャラが奥深く反転される。
「絶望とは、冷たい孤独の中に自分を閉じ込めること・・」
「私、何処へ行けばいいんでしょう? 何をすればいいんでしょう?」「さあ、お帰りなさい。あなたは生きている人の所へ行くのです・・」  不覚にも「感動」してしまった。

No.25 4点 死が最後にやってくる- アガサ・クリスティー 2020/06/16 21:06
なんと四千年(400年でなく)昔の古代エジプトが舞台。そこまで昔むかし大昔なら、もうSFレベルの異次元コード設定もありだろうに、そこはアガサ・クリスティー、遺産相続も絡んだ家族連続殺人ミステリに仕上げてる。「被害者候補=憎まれ役」濃度の高い順に家族が殺されて行き、犯人は現代「古典」ミステリの極めて分かりやすい王道だった。

No.24 5点 ヒッコリー・ロードの殺人- アガサ・クリスティー 2020/04/15 17:12
下宿館を舞台にした男女青春群像ミステリ・・と思わせて、アガサ・クリスティーにも「旧体制社会」以降を舞台にしたの書けるんだ・・と思わせて、ホワイダニット、ちとずっこける。最後になって、結局は「旧世界」ミステリの匂いが・・。まーた、あの手の犯人キャラトリックなのが、いかにもアガサ・クリスティーらしい。でも、あの婆さん、新世代の、60年代以降の若者文化にさえも、きっと「寛容」(ちと皮肉を含めながらも)な人だったんだろうな。ドロシー・セイヤーズみたいな気持ち悪い通俗的保守派臭がないのがいい。ので、点数オマケ付き。
※こういうマザーグース童謡の使い方はよいな。

No.23 4点 愛国殺人- アガサ・クリスティー 2020/04/11 00:36
「従僕に英雄なし」ならぬ「歯医者の前に英雄なし」の話。顔無し死体トリックの一捻り発展形。これも「マザーグース物」って言えるのかな、でも見立て殺人でない所が良い。マザーグース見立ての始まりってヴァンダイン「僧正殺人事件」なんだろうか。「誰が殺したコックロビン」「小さな兵隊さん10人」始め、見立て殺人を面白いと感じたことがない。我が横溝の手毬唄見立て(あれは怖かった)を除いて。

No.22 3点 ポケットにライ麦を- アガサ・クリスティー 2020/04/02 23:58
「まざあぐうす見立て」にはお腹いっぱい。これ、探偵が犯人を名指した後日に、その証拠たる写真と手紙が発見されて終るより、名指しせずに犯人の条件を絞っておいて、ラストの一行で、「写真に写っていたのは・・◯◯だった」とかの方が効果的でない?
「最後は精神病院に逃げ込んで死刑を逃れるつもりでしょう」「かまいません、死刑にしてしまいなさい!」・・・いいなあ、ミス・マープル。

No.21 7点 ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー 2020/03/11 23:25
「雪白」「薔薇紅」(グリム童話の内容は忘れた) 二人の女と、金ルックス地位三拍子揃ったいい男。三角関係からして、まーた人間関係トリックか?と思いきや、キャラ一捻りネタの方だった。巻頭の湾の地図から「ああいう」トリックなんだろなあと思った通りの「ああいう」物だったが、諸人物の身体特徴のさり気ない描写や、腐った魚臭の犬等の伏線が見事。警官の娘の窃盗冤罪や自殺未遂男のエピソードも、胸キュンエンドのゼロ時間へと鮮やかに収束。

No.20 5点 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー 2020/03/11 00:33
母として妻として絶対的な支配者である女、財力と先見力と理想に裏打ちされた信念の女・・それ故にこそ子供たちと夫は幸福になれない・・そんなスーパーマダムの殺害事件から2年。いったんは解決した事件に新たな展開が・・・
ん?この話、とりあえず収まる所に収まってた一族の安寧をぶち壊しにした男が、結果、自分の女を得て、誰よりもめでたしめでたしエンドってことだよなあ・・

No.19 6点 終りなき夜に生れつく- アガサ・クリスティー 2020/02/23 17:53
下層階級に生まれつき、小器用に仕事とガールフレンドを渡り歩いてきた、飄々とした青年が出会った「運命の女」は、大資産家の娘だった・・・。
アガサ・クリスティー十八番の遺産相続プロットと人間関係トリックに、まさかの「あの」一発大ネタ再現、その上、操りネタまで付き、まさしく魅惑の集大成。ポアロは出てこないけど。
※あのネタはともかく、この作品、第一人称叙述が成功の勝因。第三人称だったら「どんな女でも魅かれる美青年」とか描写されてしまい効果薄れてた。

No.18 4点 満潮に乗って- アガサ・クリスティー 2020/02/04 23:01
アガサ・クリスティー十八番の二大トリック。
➀人間関係トリック・・・「あなたは人間関係に関心をもたれているわけですね?」「さよう・・・私の関心は、つねに、人間関係に向けられております」・・ポアロのセリフに暗示されているトリック。
➁キャラ一捻りトリック・・・プロット上、一番怪しい立場の人物のアクを一旦読者に印象付けて、その後にそれを薄めるか逆に誇張して幻惑させることで陰に隠してしまうトリック。
その十八番が、このいかにもな人々の遺産相続をめぐるいかにもな犯罪のミステリにも見事に展開。

No.17 6点 死との約束- アガサ・クリスティー 2020/01/12 18:44
コブラの心を持つ毒蜘蛛大ガマ女、知性感性卓越な女精神科医、剛腕女政治家、太鼓持ち饒舌女、赤毛の狂少女・・・怪物女たちのメルヘン。
「殺されて当然」て以上に「殺されなければ読者の気が済まない」て程のヒールの被害者出しちゃうと、犯人摘発自体に否定的感情がかかる。こうなると読者にとって探偵は悪役でしかなく、おい、ポアロ、どうすんだ?もう一回「オリエント」やるか?・・と思ってたら一人だけいたわ、「処罰されるのに相応しい加害者」てのが・・見事!

追記。三谷幸喜ドラマ見た。野村萬斎ポアロ(すぐろ!)なかなか。ただ、毒グモ女役は故野村サッチーとかがよく・・

No.16 5点 カーテン- アガサ・クリスティー 2019/12/02 15:06
自ら手を汚すことなく連続殺人を行う「操りの悪魔:X」、対するは老いさらばえた往年の名探偵ポワロ。手に汗握る虚々実々の攻防・・とはならず、「ポアロ最後の事件」はこじんまりしたサークル内で暗く苦く進行して行き、最後はポアロも彼の「モリアーティ」を相打ちにしてライヘンバッハの滝に沈んでゆく(ホームズは甦っちゃったけど)

「じつは犯人は君なのだよ」・・・いそいで頁を戻したら、「いそいで私は〇〇を回して・・」と見事にさりげなく伏線が敷いてあった。

No.15 5点 三幕の殺人- アガサ・クリスティー 2019/10/21 17:25
アガサ・クリスティーには映画よりも「舞台」が似合う。別にクリスティー原作の芝居を見たいってんではなく、二十世紀前半、芝居が中上流階級の娯楽社交場だった時代の登場人物達がよく似合う。「~公爵」「~卿」「~夫人」「~令嬢」「~大尉」「~医学博士」・・といった面々が、気どり取り澄ましふんぞり返った容疑者として、ずらりがん首揃えるエヅラがよい。「エッジウエア卿の死」同様に犯人が演じる「無実芝居」と「アリバイトリック」。

※ところで、若い清純な女と三十歳も年長の恋多き男の「純愛」なんて、どうしたって眉に唾付けたくなるわな、われらおじさん世代としても。んな男、インチキおやじに決まってるじゃん。あのバランスの悪いひねくれた若者の方が遥かにましだぞ、同伴者にするならと、おじさん心から思う。そこんところはアガサ・クリスティーしっかりと押さえてくれていて拍手拍手。

No.14 4点 エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー 2019/10/18 16:23
「犯人こいつだ!」→ 「適中!」。「こういうアリバイトリックか?」→「適中!」・・・気持ちいい。
死刑執行を前にした犯人がポアロにあてた手記のニヒル具合が良い。死刑囚はいつもあれくらいの奴であってほしい。
※「人間関係トリック」もそうだが「偽悪キャラ一捻りトリック」も続けて読むと少し色あせてしまうな。

No.13 4点 ねじれた家- アガサ・クリスティー 2019/10/07 21:54
これまたマザーグース物の一つ。クイーンが「靴に棲む老婆」で描いた家族や、それ以上にカーの描くフリークな群像とは違い、クリスティーは英国女流小説風の人間描写から筆をすべらせない。それがひんやりとした、いかにもなミステリな雰囲気を醸し出して、それはそれでとても良いのだが、「マザーグース童謡」とはいまいちそぐわない。

No.12 8点 ポアロのクリスマス- アガサ・クリスティー 2019/09/15 18:36
「最近のあたしが取り澄ましたお上品なミステリしか書かないと思ったら大間違いよ。えげつない血生臭いのも書けるのよ・・」ってな自慢気な前書きだが、本当は「あたしだってジョンのような『密室もの』くらい書こうと思えばいくらでもこしらえられるのよ・・」を示した傑作。十八番の「人間関係トリック」をダミーに使い捨てるところがGood。

No.11 4点 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー 2019/09/12 19:47
ほぼ一気読みできる位に読みやすいアガサ・クリスティのミステリの中にあって、珍しく「退屈さ」を感じてしまう作品。このネタは短編でまとめてほしかった。

No.10 5点 杉の柩- アガサ・クリスティー 2019/09/05 11:00
ハヤカワ文庫の表紙画、なんで薔薇の絵?と思ったが、ちゃんと理由があった。冷静な判断力を保ちながらも、強くひたむきに異性への情念を抱き続けるのは男とは限らないってことね。クイーンはおろかカーでもこんな女は描けない。

No.9 4点 スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー 2019/08/29 22:42
アガサ・クリスティーの記念すべき処女作。1920年発表てことは1915年の「恐怖の谷」とほぼ同時代なのか。キャラ的にもプロット的にも「こいつが不幸に消えないと話が収まらない」=「ミステリ的には犯人のわけがない」て位に分かりやすいヒールを出しちゃいながら見事に一捻りして終結。十八番の「人間関係トリック」も既にきめてる。

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レッドキングさん
ひとこと
ミステリは戦前の乱歩の様に 子供が親に隠れてコッソリ読むような、恥ずかしい存在でありたい。 ミステリ書きという驚異的な作業に神経を減らし 結果報われることの無いミステリ作家たちに心から崇敬を捧げます。 ...
好きな作家
ジョン・ディクスン・カー  PD・ジェイムズ  トマスH・クック  沼田まほかる
採点傾向
平均点: 5.25点   採点数: 823件
採点の多い作家(TOP10)
アガサ・クリスティー(88)
ジョン・ディクスン・カー(55)
エラリイ・クイーン(51)
F・W・クロフツ(33)
二階堂黎人(27)
カーター・ディクスン(25)
アーサー・コナン・ドイル(23)
トマス・H・クック(23)
麻耶雄嵩(21)
ジェフリー・ディーヴァー(19)