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雪さん
平均点: 6.24点 書評数: 586件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.20 6点 小さな異邦人- 連城三紀彦 2021/07/29 21:36
 没後最初に刊行された、34番目にして今のところ著者最後の作品集。連城の未収録短篇はかなり残っているので今後拾遺集が出る可能性はあるが、彼が生涯最後に書き上げた表題作を含む本書が一番、そう呼ばれるに相応しいだろう。いずれも「オール讀物」誌上に二〇〇〇年十一月号~二〇〇九年六月号まで、約十年に渡って掲載された全八篇を収めている。長篇だと28作目の『白光』から最後の『処刑までの十章』に至る時期だが、短篇の方は実母の介護や闘病生活のためか、二〇〇〇年以降は二〇〇五年を除きほぼ年一作ペースにまで落ちている。全盛期に比べるとタッチは淡く枯れているが、別の意味でそれぞれ念入りに執筆されたものと言っていい。
 収録作は発表順に 指飾り/無人駅/蘭が枯れるまで/冬薔薇/風の誤算/白雨/さい涯てまで/小さな異邦人 で、書中の並びもほぼ順番通り。二〇〇八年末の実母の逝去、二〇〇九年二月の泡坂妻夫の鬼籍入り、を踏まえて執筆されたのが、唯一希望と明るさを見せる表題作であるのは興味深い。
 ピカイチは『飾り火』を思わせるイヤらしさの「蘭が枯れるまで」と、逃亡犯の時効寸前に鄙びた地方都市で思わせぶりな行為を繰り返す女と、都落ちした警察官との鬩ぎ合い「無人駅」の二つ。作品自体の捻りに加え、いずれも出色の心理劇となっている。
 それからやや落ちて、三十二年後に心中未遂の真相が暴かれ刺殺された父が遺した日本画の意味が反転する「白雨」と、被害者が誰かも分からない誘拐事件に直面した、八人の子供たちの姿を描く表題作だろうか。流石に著者の初期ベストには及ばないが、残りの半分もおおむね及第といった所で、採点は6点~6.5点。

No.19 6点 女王- 連城三紀彦 2021/07/05 22:45
 昭和五十四年二月七日、精神科医・瓜木のもとを訪れた三十才になる男性・荻葉史郎は、自分の中にある経験した筈のない空襲の記憶を訴える。にわかには信じられない話だった。だが瓜木医師は思い出す。東京大空襲のさなか、今と変わらぬそのままの顔の史郎と会っていたことを。
 一方、長年史郎を慈しんできた祖父の祇介はその七年前、大晦日の夜にかかってきた一本の電話を受け、急遽旅に出たあと冷たい骸となって発見されていた。死因は多量の睡眠剤の服用。邪馬台国研究に生涯を捧げた古代史研究家の彼が、真冬の深夜一路吉野へと向かい、更に日本海を臨む若狭まで北上して死を遂げたのは何故なのか。事件から二十三年後の平成八年、不治の宿痾を抱えた瓜木は史郎や彼の妻・加奈子と共に千数百年の歳月を遡り、奇妙な記憶と不審な死の真相を探る旅へと向かうが・・・。
 雑誌「小説現代」に、作中時間とほぼリンクする形で1996年3月号~1998年6月号まで連載。著者の第25長篇となる作品で、前半は『わずか一しずくの血』後半は『流れ星と遊んだころ』と重なり、短篇では『年上の女』『夏の最後の薔薇』『さざなみの家』各収録作を執筆していた時期になる。大作として何度も刊行予告されながら作者の実母介護のため延期され、2010年にようやく手直しが始まったと思いきや、自身の胃癌発見とそれに続く闘病生活によりそれも中断、結局連城逝去後の2014年10月、改稿作業が完了しないままの遺稿として出版された。
 荻葉史郎が持つ空襲に留まらぬ膨大な過去の記憶―― 関東大震災、南朝最後の帝・後亀山天皇に同行しての吉野山からの都落ち、更にその千年前、邪馬台国の女王・卑弥呼に仕えた遥かな日々の追憶など、一人の人間が千数百年間生き続けたとしか思えぬ謎が、冒頭から釣瓶撃ちに荻葉家代々の血脈と絡めて語られる。しかも史郎のみならず、彼の父親であり祇介の息子である春生も、どうやら同じ記憶を共有していたようなのだ。更にそれを裏付ける証拠の発見が、祖父の生前最後の吉野行と関係しているらしい・・・。
 旅路を遡行する毎に、過去から立ち現れる殺人や殺人未遂。全ての記憶は実在したのか、それとも単なる幻想なのか? 史郎の頬にあった三すじの火傷と、燃える櫛をかかげた女・卑弥呼の鮮烈な映像と共に、魏志倭人伝の「水行十日陸行一月」の謎が、奇妙な現実感を伴い描写されていく。
 全体としては泡坂妻夫『妖女のねむり』的な構想を軸に、これに先立つ連作長篇『落日の門』の一篇で描かれたある思いつきを敷衍して組み立てられているが、かなり強引というか力技めいたものが目立ち、泡坂の端正さには及ばない(〈「日」であり「月」でもある一つの文字〉という邪馬台国の位置解釈は存外画期的だが)。通して読むと事前のイメージとは異なり、女性キャラよりも男性陣の印象を濃く残す父性のドラマ。奇妙な人生を歩まされた一男性の、精神治療と再生の記録である。

No.18 5点 少女- 連城三紀彦 2021/06/21 09:45
 『宵待草夜情』に続く、第七番目の作品集。1982年初夏から1984年11月にかけて「小説宝石」誌に掲載された五編を収めている。出版の際には〈ポルノ小説と童話を同時に一回出してみたい〉という著者の意向があったらしく、直木賞受賞作『恋文』とほぼ同時期の刊行となっている。ただしこちらは雑誌の要請もあり官能描写重点。トリの「金色の髪」を筆頭として、全編明暗のコントラストを重視したイメージに彩られている。
 収録作を年代順に並べると 盗まれた情事/熱い闇/金色の髪/ひと夏の肌/少女 。ちょうど普通小説に移行する時期のためか、ミステリとしては『夜よ鼠たちのために』『宵待草夜情』収録各編と軌を一にする前半三作が優れている。ベスト3も概ねこれ。氏の小説には珍しく、中には幻想寄りの短編も含まれる。
 「盗まれた情事」と「金色の髪」はいずれもスワッピングを絡めた殺人事件を扱っているが、前者の方がストレートな後者よりも出来は上。雑誌の読者伝言板の求めに応じ、十万で〈私の代わりに妻を抱いてくれ〉という "仕事" を請け負った医師の矢沢亜木雄。二度三度と奇妙な逢瀬を重ねるが、やがて行為を監視する誰かの視線を感じ――
 異様な状況を利用したアリバイトリックが見事。味わいも出来も『夜よ~』収録作に近い。「金色の~」はパリのアパルトマンを舞台に、日仏カップルの夫婦交換をテーマにしたスケッチ風映画を撮影する日本人カメラマンの犯罪を描いたものだが、冒頭シーンの強烈な呪縛と真相との乖離が虚しさを唆る。著者の海外ものには他に「親愛なるエス君へ」があるが、本作ではそれを越え、滅びゆくパリの怠惰と退廃がトリックと一体化している。動機の崩壊と同時に否応なく犯行が暴かれ、最後には広がる金髪が読者の脳裏を埋め尽くす作品。
 『熱い闇』はある官能小説家の原稿が、担当編集者の現実の情事を不穏になぞるように進行していくストーリー。一応合理的な解釈は用意されているが、それだけで全ての説明はつかない。SFめいた「ひと夏の肌」と共に、どちらかと言えば語り重視の奇譚に属する。
 表題作はシンプルな反転ものだが、社会派的な要素を導入し差別化を図っている。トリックよりも事件の構図に秘められたドロドロ部分が見所か。アッサリ纏めているが扱いは思ったより難しく、中長編の部分ネタ向きにも思える。
 以上全五編。悪くはないがこの時期の連城作品として満足のいくものではなく、実質5.5点といったところ。

No.17 7点 飾り火- 連城三紀彦 2021/06/20 15:22
 奥底に赤い火を秘め隠した雪の舞う北陸本線車中で知り合った女は、夫に逃げられたまま新婚旅行中の花嫁だった・・・。
 二十三年間単調にくり返し続けてきた日々に疲れを覚えていた一流企業の営業部長・藤家芳行は、誘惑に負けてその女と一夜を伴にする。彼の妻・美冴は芳行の挙動に不審を抱くとともに、息子や娘の変貌にうろたえるが、運命の日から家庭の幸せは徐々に破壊されてゆくのだった。崩壊の原因を必死に探ろうとする美冴。だが見えざる敵の魔手は、やがて彼女の元にも及んできた!
 頼るべき者も持たぬままにたったひとり、知略を尽くした壮絶な戦い。女の意地が絡み合う、舞台・TVドラマともなった愛憎の巨編。
 「毎日新聞」夕刊紙上に1987年9月1日~1988年10月31日にかけ掲載。『青き犠牲』に続いて執筆された著者初の新聞連載で、著者の作品としては7番目の長編にあたり、短編では主に『夢ごころ』『一夜の櫛』『背中合わせ』収録の諸作と時期的に被ります。
 内容的には二部構成で、プロローグの古都金沢での邂逅を経てヒロイン・藤家美冴サイドに移り、芳行に続いて長男の雄介や娘の叶美が次々に家を離れていく過程が事細かに描写。それに美冴自身の家庭教師・村木征二との浮気が加わり、更に息子の自殺未遂によって彼女の妻としての絶望は頂点に。しかし些細な事から蠢き続ける黒い影の鋳型に気付いた美冴は、逆にここから真実に迫ってゆく事になります。
 読者だけが巧みに家族に擦り寄る女・佳沢妙子の正体を知る第一部は、展開の遅さもありややもどかしいのですが、〈体のなかに鉄でできた花を隠し持つ女〉・美冴の逆襲が始まる第二部からはジェットコースター一直線。ただし主導権を握った彼女の予想とストーリーの展開は微妙にズレていき、その過程で一種のドンデン返しと言うべきものも用意されています。
 冒頭金沢で打たれる二重三重の布石はコンゲーム短編としても良質ですが、一部と二部とで被害者⇔加害者の反転を狙ったと思われる構想にはかなりの無理があり、悪女・妙子の哀れさやその共犯者たちの心情に全面的に共感するとまではいきません。特に最初の自殺者・田口敏雄周りの行為を "愛" の一言で許すのは流石に無理。後に明らかとなる〈実子の選別〉も到底許容範囲とはならないでしょう。
 当初からのグランドデザインが鮮やかに成功したとは言い切れませんが、再び晩秋の金沢に立ち戻り、夫婦の再会と〈二十三年間の長い歳月の意味〉で〆るエピローグには独自の重みがあります。目立たぬながらかなりのミステリテクニックを叩き込んだ小説で、採点は『花堕ちる』を上回り7点に近い6.5点。7点でもOKです。

 追記:本書は『誘惑』のタイトルで1990年にTBS系全12回連続ドラマ化、篠ひろ子、紺野美沙子、林隆三、吉田栄作、宇都宮隆らが出演し好評を博しました。バブル期の名作ドラマとして知られ、本編では元名子役・西尾麻里のゲロ吐きシーンもあるそうです。うげげ。

No.16 6点 どこまでも殺されて- 連城三紀彦 2021/05/24 20:28
 冒頭に掲げられた謎の手記。「どこまでも殺されていく僕がいる。いつまでも殺されていく僕がいる」―― 僕はこれまでに七度も殺され、今まさに八度目の死を迎えようとしている・・・。彼の叫びをなぞるかのように高校教師・横田勝彦の元に「ぼくは殺されようとしています。助けて下さい」という匿名のメッセージが送られ続ける。生徒たちの協力を得て、殺人の阻止と謎の解明に挑む横田だったが。周致な伏線と驚愕の展開に彩られた本格推理長編。
 『褐色の祭り』に続く著者十一番目の長編で、雑誌「小説推理」1990年2・3月号に分載。ただし連載期日の関係で、刊行はこちらの方が半年ほど早い。90年代に刊行されたものでは唯一恋愛要素のない純ミステリで、それもあってか「このミステリーがすごい!」など各種年間ベストに複数ランクインし好評を博した。しょっぱなから第三長編『私という名の変奏曲』を思わせる謎で読者を惹き付けるが、あれに比べると内容は一発芸に近く、解答もやや納得し辛い面もある。
 更に謎解きを行うのは三年B組担任の横田ではなく、きびきびした物言いの人気女子・苗場直美。想像力に優れた実務家肌で機転も利く彼女が頭脳となって同級生たちや担任を使い、徐々に「ぼく」を包むベールが剥がされていくという、準ジュヴナイルめいた味わいもある。ただし扱われる事件はヘビーで、頭脳明晰とは言え高校生にはやや荷が重く、そのせいか作品のキモとなる手記部分の手掛かりについては精緻さに欠ける。探偵役の年齢を上げ、この点をクリアすれば佳作以上も狙えたろう。
 掴みは非常に魅力的だが、そういう訳で点数は6.5点止まり。ただしやや埋没気味のこの時期のものとしては、十分及第点に値する出来である。

No.15 6点 処刑までの十章- 連城三紀彦 2021/01/08 06:00
 結婚して十一年目のある朝、ひとりの平凡なサラリーマン・西村靖彦が突然消えた。彼の弟直行は、土佐清水で起きた放火殺人事件、四国や奈良の寺で次々と見つかるバラバラ死体が、兄の失踪と関わりがあるのではと疑い高知へ向かう。真相を探る度に嘘をつく義姉を疑いながらも翻弄される直行。彼は夫を殺したかもしれない女に熱い思いを抱きながら、真実を求めて迷路の中を彷徨う。
 海を渡る蝶・アサギマダラと、ショパンのノクターン・第ゼロ番のメロディが導く深い謎。消防署に届いた放火予告に記された時刻「五時七十一分」が示すものとは? 稀代の名手が闘病中に書き上げた、千枚を超す執念の大長編!
 雑誌「小説宝石」2009年1月号~2010年2月号、2010年7月号~2012年3月号にかけて連載された、著者最後となる33番目の長編。胃癌による闘病のためか、この時期の短編は「オール讀物」2009年6月号掲載の「小さな異邦人」のみで、最後の二年間は実質これ一本に傾注。バラバラ殺人や旅情ミステリー的趣向など、第24長編「わずか一しずくの血」と共通するモチーフは多いものの、肩透かし気味な結末の「わずか~」に比べればそれなりに読み所のある作品に仕上がっています。
 冒頭で失踪時の兄の行動と、「家に放火して出てきた」「蝶々になって土佐清水から飛んできた」と囁く女との逃避行が描写され、それに対置する形で高知の火災を知った兄嫁の純子と、弟の直行の調査や推理が進んでゆく展開。兄の足跡が残る多摩湖畔の旅館や土佐清水へ調査に向かううち、第三章でこの作者らしい仕掛けが用いられ「おおっ」となりますが、その後は概ね煮え切らない進行ぶり。肝心の火災は〈三角関係の果ての自殺〉で片付けられてしまい、データもロクに入らないまま義理の姉弟双方が疑心を募らせ、ああでもないこうでもないと仮説が積み重ねられていきます。
 大きく動き出すのは第七章後半以降、西村家に奇妙な時刻が書かれた寺の絵葉書が届き、それに従い四国四県の各寺で人間の体の一部が発見され始めてから。年明けと並行して純子と直行の二人も体の関係を成立させますが、お互いの疑心暗鬼は変わりません。そうこうするうち序盤の端役たちが意外な形でクローズアップされ始め、やがてあの多摩湖畔の旅館近辺で、今度はまた別の殺人が行われ・・・
 〈私は嘘つき〉とのたまう純子を始め、誰も彼もが思わせぶりかつ場を撹乱させる言動を。ストーリー自体は纏まったデータを持つある人物の告白で一気に収束に向かいますが、この結末だとここまでの長編にする必要は無いような。まあ失望まではしなかったからいいんですが。
 点数は遺作補正も入れてギリ6点。正直甘めに付けてます。

No.14 5点 密やかな喪服- 連城三紀彦 2021/01/05 09:02
 『変調二人羽織』に続く、著者三冊目の作品集。「藤の香」「メビウスの環」の二篇と共に、雑誌「幻影城」1978年8月号《特集・連城三紀彦》の一作として掲載された「消えた新幹線」以外は全て、1980年後半から1982年にかけ各誌に発表されたものである。年代順に並べると 消えた新幹線/白い花/表題作/代役/ベイ・シティに死す/ひらかれた闇/黒髪 となる。
 『運命の八分休符』に先行するユーモア作品からスタンダードかつムーディーないつもの連城短篇、奇妙な味にややインモラルな残り香のする現代風の芸能・ヤクザ・不良少年もの、後期に繋がる男女相克サスペンスと、ミステリとしての結構は整っているものの、初期五冊のうちでは最も纏まりを欠く短篇集である。それもあってか「代役」「ベイ・シティに死す」「ひらかれた闇」の三篇は、のちの文庫本では分割収録されている。
 タイトルから期待していた「消えた新幹線」は伏線で魅せるが、特殊な状況下の変化球でいわゆる大手品ではない。「白い花」は序盤で作者の狙いが透けて見えてしまうのが難。「実験材料」改題の「密やかな喪服」はかなり怖いが、意図せずしてサイコパスの行動原理をなぞってしまっているので、発表当時の意外性は大きく損なわれている。これは作品云々よりも、単に時代が悪くなったと言うべきか。
 集中で光るのは「代役」。人気俳優・支倉竣は事故死した息子に執着する妻・撩子の奇妙な願いを容れ、自分とそっくりな男・タカツシンヤが二百万円の契約で、彼女と子供を作るのを承諾する。既に離婚を切り出され、赤坂のクラブに勤める衣絵という愛人もいる身では、それもたいした事ではなかった。だが瓜二つの存在にイラつかされ、更に撩子の真意を知るに及んで妻への殺意は一気に高まる。支倉は誰も知らぬタカツを共犯に使い、妻殺しのアリバイ工作を試みるが・・・
 「桔梗の宿」と併せ、ある後期長篇の雛形とも言える作品。収録作の中では最も切れ味が良く、反転の構図が冴えている。これに比べると任侠ものの「ベイ・シティに死す」は、ドラマ優先の造りでいささかぼやけ気味。次の「ひらかれた闇」は退学させられた元生徒五人組の中で起こった殺人を、呼び出された教師が解決するものだが、容疑者限定で本格味は強いもののこのキャラクターでこの動機は納得できない。
 次点はトリの「黒髪」。京都を舞台に病床の妻を抱える出版関係者と、女性染色師との十五年に渡る三角関係の決着を描いた短篇。情事の隙間に忍び込む女の髪を小道具に、最後は一気に隠微な悪意が襲いかかってくる。いい作品だが、推理と言うより因縁譚の味わいが強い。
 以上全七篇。ある意味バラエティには富むが、この作家の初期のものとしてはやや期待外れか。

No.13 6点 花堕ちる- 連城三紀彦 2020/12/29 13:21
 “花の落ちる地へ参ります”という書き置きを残し、作曲家・高津文彦の妻、紫津子が出奔してから三日目の朝、高津のもとに空箱のように軽い奇妙な小包が届いた。中からあふれだした無数の桜の花片は、風に舞い花吹雪となって彼を驚かせたが、花片とともに白い砂状の物が入った封筒があり、添付の便箋には妻の筆蹟で、それは自分と愛人の“小指の灰”であると記されていた。
 バイオリニスト・藤田優二―― 十五年前に死んだ筈の男。藤田は本当に今も生きているのだろうか。高津は妻の残した手掛かりを追って一路京都へ向かうが、行方を晦ました紫津子たちを追う者は彼だけではなかった・・・。桜吹雪舞う幽境の地に燃えあがる魔性の炎、傑作長編恋愛ミステリー。
 『私という名の変奏曲』に続く著者の第四長編で、雑誌「サンデー毎日」1985年5月26日号~1986年5月25日号まで、ちょうど一年間連載。短編では『もうひとつの恋文』『離婚しない女』及び『恋愛小説館』『一夜の櫛』各前半収録作を執筆していた時期にあたります。
 紫津子と行動を共にする〈コートとサングラスとで身体と顔を隠した、背の高い男〉の謎をチラつかせつつ、謎の女・沢野彰子と協力し見失った妻の行方を探すロードムービー形式の三部構成。官能小説風の描写ながら妻の面影や亡き藤田の幻影を、国宝・興福寺阿修羅像を始めとする仏像の姿と重ね合わせる事によりその臭みを打ち消し、インモラル極まる真相を運命的な愛と喪失の物語に昇華させた小説。随所に挿入される音楽要素や狂い咲く桜の沼のイメージもまた、これに一役買っています。
 読み進むうちに読者は夫であって夫でない高津の結婚生活と、それを上回る藤田と紫津子、そして彰子の三者に隠された異形の愛の全てを知る事に。展開はやや通俗寄りなもののコートの男の正体その他には連城式の奇想が用いられており、単なる恋愛サスペンスではなく立派なミステリーと言っていいでしょう。真相を知って読み返すと、やや不似合いな描写はありますが。
 心当たりアリとはいえ、あんまり電波な書き置き残されても旦那も正直困ると思うんですがそこはそれ。吉野から京都、奈良、そして再び運命の地・吉野の奥千本で決着したのち今度は二度と訪れまいと誓った屈辱の地・小樽へフライト。主人公・高津は到底作曲家とは思えないアグレッシブさを見せ、何度も行き倒れ寸前になりながら十五年の歳月を繋ぎ、妻の心を追い求めます。
 位置的にはデビュー当初のガチ本格主体から、様々な方向へ分岐していく転換点となる作品。ただし初期作の名残もあって、闇を花の豪雨で埋め尽くさんばかりの第二部クライマックスの情景描写は圧倒的。難点を言えば、流石にコートの男の心理までは抉れなかった事でしょうか。かなり野心的な小説ですが、そういう意味で傑作には至らず6点止まり。

No.12 6点 夕萩心中- 連城三紀彦 2020/12/23 16:33
 昭和六十(1985)年に出版された著者の第十作品集。『瓦斯灯』と同じく『恋文』での前年度直木賞受賞を受けて、急遽纏められた短篇集と思われる。巻末あとがきでは〈三篇ずつ、それぞれ別の連作として書き連ねたものだが、共にあと二篇を残したまま中断し、作者が見捨てた形になってしまったもの〉と形容されている。初期代表作〈花葬シリーズ〉三篇を収録している重要なものだが、それ故か最後のユーモアミステリー「陽だまり課事件簿」のみ180°雰囲気が異なっている。村上昴氏の装画・装丁で『戻り川心中』から連続刊行された、五冊の和装本の最後を飾る作品でもある。
 年代順に並べると、ごく初期の花葬シリーズ第二作「菊の塵」を筆頭に「戻り川~」の次作である「花緋文字」。そこから一年半以上間を空けて「夕萩心中」、さらに半年余り置いて「陽だまり課~」へと続く。1978年9月から1983年10月まで、約五年間と収録作のスパンは長い。
 表題作には苦闘の後が伺われる。「桜の舞」となる筈だった短篇「能師の妻」を挟むとはいえそこからも約一年。前記あとがきには〈書き進めるうちにミステリーと恋愛とが分離していき、遂にその溝は作者の乏しい才能と意志では埋められなくなってしまった〉と記されている。心中行の背景に歴史事件を据えた時代ミステリとして完成させてはいるが、同系列の初期作品「菊の塵」と比べると分量は倍ほどにも増え、もはや短めの中編と言っていい。
 真相は確かに意外だが、心理的な無理筋や後出し気味なところも目につき素直に感興には浸れない。男女双方が一種の道具に堕とした心中を強行することに、果たしてどれほどの意味があるだろうか? とは言え闇に零れる萩の花の扱いや、各種恋愛シーンの造りは例によって上手い。シリーズ中屈指のエグさを誇る「花緋文字」よりも、トータルでは上である。
 図抜けているのはやはり「菊の塵」。不具の身に成り果てたもと陸軍将校が、病臥の末にサーベルで喉を突いて自害した謎を解くもので、事件直前に主人公が障子を通して透かし見た「軍服姿の男」の影が物語のカギとなる。被害者は寝巻姿で息絶えていたのに・・・。
 ALFA さんの問いに答えれば〈正装させないと被害者は殺せなかったが、犯人は彼をもはや軍人とは思わなかったので、死後に軍服を剥ぎ取る事によってそれを示した〉である。他にも「菊の花」の意味するものなど、解決にはいくつかの知識が必要とされる作品だが、それを差し引いてもヒロイン・田桐セツが随所で見せる白刃のような殺気には凄味がある。短い枚数に過不足なくトリックと伏線を張った、花葬シリーズに相応しい緊張感溢れる傑作と言える。
 連作シリーズ「陽だまり課事件簿」は、『運命の八分休符』の流れを汲むドタバタコメディだが、ワンアイデアの趣が強く内容的には遠く及ばない。以前読んだ時にはかなり面白く感じたのだが。ミステリアスな発端と爆弾男の行方を巡る謎で引っ張る第三話「鳥は足音もなく」がベストかと思うが、やや先が読めるのが難。ただし連城短篇としてはいずれも恋愛模様優先の仕上がりで、高くは評価できない。
 全体的には玉石混交で、行っても6.5点。昔なら文句なく7点を付けていたかもしれないが、今だとこんな所である。

No.11 6点 終章からの女- 連城三紀彦 2020/11/29 05:04
 昭和四十年代も終わりに近づいたその年十二月の深夜二時、荻窪のアパートで火災が発生した。火は通報によりすぐ消し止められたが、現場に踏みこんだ消防士がそこに見つけたのは、大の字に横たわり冷え固まった印象を与える黒焦げ死体と、煙に隠れてかすかに匂ってくる油の匂いだった。遺体はその体軀からアパートの住人・小幡勝彦と認められたが、彼は出火の約七、八時間前、包丁で胸を刺され既に殺害されていた。
 問題の時刻に隣人の女子大生が聞いた諍いの声と、被害者の契約していた一億円の生命保険から、妻の斐子と愛人・高木安江の二人が捜査線上に浮かぶ。四谷に住む弁護士・彩木一利はその日の夕刊で初めて事件を知るが、新聞記事の『アヤ子』という名に心当たりがあった。
 土田斐子。十年以上前に二か月近く行きずりにも似た淡い関係を持ち、今年の夏に荻窪のスーパーマーケットで偶然、再会した女性である。その一週間後事務所に現れた斐子は、殺人容疑者として彩木に弁護を依頼するが、稚拙なアリバイ工作や偽証などとは裏腹に、殺人を告白しまるでより重い罪に服する事を望んでいるかのような彼女の態度に、彩木は深い困惑を覚えるのだった・・・ 
 雑誌「小説推理」1993年1・2月号掲載。『牡牛の柔らかな肉』『花塵』と並行して連載された著者17番目の長編で、短編では『顔のない肖像画』『前夜祭』『美女』収録作の一部と発表が被ります。
 内容は冒頭の殺人と、その十五年後最初の事件をなぞるように起こるもう一つの殺人の二部構成。依頼人の真意に疑問を抱きながら、それでも必死に彼女の弁護を続ける彩木の法廷闘争と、安江とも繋がりその彼を土壇場で裏切る斐子の行動が描かれた前半部分、十五年の刑を終えて出所した彼女の狙いが明らかになる後半部分。この二つが終戦直後、斐子六歳の時に起きた両親の焼死事件と、毎年十二月に諏訪の真比古神社で行われる、暗い火祭りの記憶を通奏低音にして展開していきます。
 初期短編を思わせる奇想を、特異なヒロインの造形で成り立たせた作品。トンデモ心理を執拗な描写の積み重ねで、読者に曲がりなりにも納得させてしまう所が凄い。確か他作品の文庫解説で〈恋愛小説に移行したと思われた作者が、久々に気を吐いた本格ミステリ〉みたいな言われ方をしてた気が。それもあってかこの時期にしては評価は高い。
 ただドロドロ加減なので後の『流れ星と遊んだころ』のような、全盛期を上回るほどの鮮やかな驚きは無いですね。〈これなら短編でいいじゃん〉というミもフタもない意見もチラホラ。水準以上の作品ではありますが、過大評価は禁物でしょう。とはいえ結構楽しませてくれたんで、点数は6.5点。

No.10 7点 変調二人羽織- 連城三紀彦 2020/10/06 09:56
 刊行順では『戻り川心中』に続く二冊目だが、単行本あとがきにもある通り、事実上こちらが著者の処女短篇集となるもの。「十年前、まだ僕が大学生だった頃(中略)父が読んでも犯人のわからぬ推理小説を書いてみようか――」そう気負いこんで書きあげた「依子の日記」を始め、第3回幻影城新人賞入選のデビュー作「変調二人羽織」など、初期からの発表順に全五篇が収録されている(改稿された「依子~」以外は、各篇いずれも1978年1月号から「幻影城」誌にほぼ毎月掲載されたもの)。連城のデビュー翌年に創設された、1981年度第3回吉川英治文学新人賞の候補作でもある。ちなみに前年第2回の受賞作は、同じ幻影城出身者である栗本薫の『絃の聖域』。
 冒頭の二篇、表題作と「ある東京の扉」はいずれも不可能犯罪を扱っているが、語り口は饒舌に過ぎまだ練れてはいない(落語の古典演目「盲目かんざし」を巧みに改変した「変調~」のアリバイトリックは捨て難いが)。それが次作「六花の印」を機にガラリと変わる。
 明治三十八(1905)年と昭和五十年代の東京、人力車と乗用車の同シチュエーションでの道行きが交互に描かれ、七十年以上の歳月を隔てて繰り返すように起こった車中の拳銃自殺事件が、周到な企みと奇しき縁で結ばれていたことが最後に判明する。本書の白眉であり、作者の数少ないハウダニット物の中でも絶対に落とせない作品。当時読んでいて〈化けた〉と思った。あるいはデビュー作のちょうど一年前に掲載された亜愛一郎シリーズ「G線上の鼬」に挑戦したのかもしれない。だが〈花葬シリーズ〉に並ぶ連城初期の代表短篇だけあって、題名を象徴する"雪の痣"での収斂といい、纏め方はこちらの方が上である。考え抜かれた犯行や細かな伏線も申し分ない。
 これに続く「メビウスの環」「依子~」は、いずれも少数精鋭の登場人物たちで構成されたボアナル風の反転もの。リドル・ストーリーめいた前者は少々切り詰め過ぎだが、疎開先の人里離れた一軒家で繰り広げられる愛憎劇を描いた後者はなかなか凄まじい。戦前、文壇に確固たる地位を築いた作家・滝内竣太郎とその妻・依子。二度に渡る闖入者の訪問が、彼らの完全な破滅を招く。叙述トリックを組み合わせることにより、反転の構図を強化しさらに悲劇性を高めている。良く出来た作品だが、流石に「六花~」には勝てないか。
 ベストスリーは「六花の印」、表題作そして「依子の日記」。短篇「ある東京の扉」は変則の推理コメディであり、集中でも少し異色の味わいである。まだ全体の方向性が定まっていないのは初期ゆえの事だろうか。ただこれにも転機となる「六花~」にも、いずれも著者独特のシンメトリー嗜好が仄見えている。

No.9 6点 瓦斯灯- 連城三紀彦 2020/09/16 21:03
 直木賞受賞作『恋文』に続き刊行された、著者九番目の作品集。1983年頃に「別冊婦人公論」ほか各誌に書かれた短篇を纏めたもので、表題作を含む〈炎三部作〉および「花衣の客」、それにパリ人肉事件をアレンジした異色作「親愛なるエス君へ」など全五篇を収録している。長篇だと『敗北への凱旋』に取り掛かっていた頃、短篇では『少女』や『恋文』所収の各作品と、一部執筆時期が被る。講談社から出版された初期の和装五冊(『戻り川心中』から『夕荻心中』まで)の中では、最も地味な短篇集である。
 作者言うところの「火にまつわる三部作(『瓦斯灯』『炎』『火箭』)」は、情念を炎に例えた古風な恋愛シリーズとして纏まっており、ミステリとしてはそれ程ではないが端正な佳品揃いで読み応えがある。特にどこまでもすれ違いを繰り返す峯と安蔵、幼馴染みの二人の姿を描いた表題作は出色。
 〈八十篇近くも書いているが、好きだと言える作品は片手でも余るほどしかない〉という著者が、「ごく小さな作品ではあっても、今現在、僕自身が一番愛着をもっている」と語るもので、時代の流れとともに消えゆく運命の〈点灯夫〉という職業の切なさや哀しさが、〈後ろ姿にはっきりと老いの影が見てとれる〉安蔵の、最後の儚い抵抗に重なってゆく。華々しい諸作の影に隠れて目立たないが、紛れも無い傑作である。
 『花衣の客』は連城得意の反転ものだが、事件の構図よりも真実が判明した後の虚しさだけが心に残る。昭和のはじまりから終戦直後まで、致命的な誤解から二十二年もの歳月を空費してしまった主人公・紫津。"女の業"として片付けてしまうにはあまりに空ろな作品。
 最後の『親愛なるエス君へ』は、時代設定も離れており集中でこれだけが異質。ファン評価は高いようだが実のところそこまで買えなかった。色々難しいのかもしれないが、ここまで製本に凝ったのなら集中のムードや全体の統一性にはより気を遣って欲しい。採点はその分の点数をいくらか割引いたものである。

No.8 6点 顔のない肖像画- 連城三紀彦 2020/08/27 06:46
 『落日の門』に続く、著者24番目の作品集。『夜よ鼠たちのために』と同じく、雑誌「週刊小説」に掲載された7編のみの短編集でもある。なお同誌に発表された作品は全部で13編あり、この二冊が全て。巻頭の「瀆された目」こそ『少女』『瓦斯灯』収録作品とほぼ同時期にあたるが、他は1988年1月から1993年1月まで、前半は『萩の雨』や『新・恋愛小説館』といった作品、後半は『落日の門』『紫の傷』『美女』など、再びトリッキーな短編にトライしていた頃に集中している。長編では講談社の叢書書き下ろし作『黄昏のベルリン』から『美の神たちの叛乱』を経て、『牡牛の柔らかな肉』『終章からの女』に至る時期。
 内外とも同趣向の多い「美しい針」やタクシー強盗を扱った「路上の闇」、後半でも「孤独な関係」はあまり推奨できないが(とはいえサラリと電話での会話のみで物語を成立させていたりする)、誘拐物の「ぼくを見つけて」など、中にはぶっとんだ作品も混ざっている。特に表題作の奇想はとんでもない。
 終戦後の画壇の復興期に突如現れ、十年後にはその死とともに消えていった火花のような画家・萩生仙太郎。狭い画廊の展覧会で少女の肖像画に見入っていた美大生・旗野康彦は画家の未亡人に呼び止められ、彼女の代理としてあるオークションへの参加を依頼される。それは萩生の絵に執着していた日本財界トップスターの一人・弥沢俊輔秘蔵の三十二点を競るオークションで、幻の傑作と言われている最後のころの『地平線』も出るのだという。
 康彦が依頼されたのは、彼が見入っていた『顔のない肖像画』の真作の落札。ずっと手をあげつづけ、たとえ一億を超したとしても必ず競り落として欲しいという。彼は未亡人の頼みを引き受けるが、やがて彼女が百万の金も自由にはできず、生活費にも困る有り様であることが明らかになってくる。しかも康彦の母方の祖母は、萩生仙太郎の愛人であった。これは夫を誘惑した女への、美しい老女の間接的な復讐なのだろうか? 彼は不安を抱えつつオークション当日を迎えるが・・・
 実際上のリスクなどかなりの無理があるとはいえ、これは連城短編の中でも傑作。最初は意味が掴めず何度か読み返した。90年代はミステリから遠のいていたイメージのある連城だが、本作などキレッキレである。やはり実際に読んでみないといけないなあ。ここまでちょっと弱かったけど、最後に来て満足。
 次に来るのは夫殺しを巡り妻と愛人とがせめぎ合う「夜のもうひとつの顔」。二重底だけどこれも平凡かなと思っていたら、ラスト近くで大きくひっくり返される。第三位は初期作らしく担当医の患者レイプ事件を扱ってトリッキーな「瀆された目」か「ぼくを見つけて」。後者は創元推理文庫『落日の門 連城三紀彦傑作集2』にも収録されている。全体的には玉石混淆といった感じで、採点は6.5点。この人の短編はコンスタントに水準以上が続くので、どうしても点が辛くなってしまう。

No.7 8点 運命の八分休符- 連城三紀彦 2020/08/11 12:11
 『密やかな喪服』と『夜よ鼠たちのために』の間に挟まる、著者四番目の作品集。雑誌「オール讀物」に1980年1月から1983年2月まで、ほぼ年一作のペースで発表された五本の連作を収録している(第四話「紙の鳥は青ざめて」のみ雑誌「小説推理」掲載)。『戻り川心中』から『夕荻心中』まで、更に『宵待草夜情』をも含めた〈花葬シリーズ〉中心の「幻影城」掲載短編群、および『夜よ~』全収録作、『少女』前半収録の各短編と執筆時期が重なる。「戻り川心中」でデビュー三年目にして第34回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞しその後も何度も直木賞候補になるなど、最も創作意欲が旺盛だった時期の著作である。
 シリーズ探偵・田沢軍平を主人公にした連作恋愛ミステリー。連城には珍しい名探偵ものである(「唯一」とするかは『夕荻心中』所収の「陽だまり課事件簿」をどう判断するかで分かれる)。ドングリ目に分厚い眼鏡、空手の試合で相手を負傷させた事を気に病み、大学を出て三年、定職にもつかずぶらぶらしている軍平が、五人の女性とゆきずりの恋をしながら事件に巻き込まれ、その都度良い雰囲気になるも生来の引っ込み思案から、いつも恋は実らずに終わるという筋立て。最終話「濡れた衣裳」では、いろいろ可愛がってくれる大学時代の先輩・高藤から、〈頭もよく力もあるのに大きな図体でぼんやり寝そべっているのが好き〉な、〈死んだダンという愛犬に似ている〉と言われている。
 ユーモラスで軽めな筆致のため誤解され易いが、実は次作『夜よ鼠たちのために』と同じく、全編反転の構図で貫かれた短編揃い。シリーズ探偵らしく物理トリックも含まれるため、叙述一本槍で通した『夜よ~』ほどには目立たないが。北村薫や法月綸太郎、加山二三郎など本書をお気に入りに挙げるミステリ関係者も少なくない。著作リストを辿ると多作期にシリーズ約年一本と、かなり丁寧な取り組みをしたのが窺われる。初刊単行本あとがきにもあるように、〈胃弱な低カロリー体質のために自分の恋心さえ受け付けない〉主人公には、少なからず連城自身の思い入れもあるようだ。
 特に反転が鮮やかなのは後半三話。ミステリ的には後期誘拐作品のプロトタイプとも言える第二話「邪悪な羊」と、加害者が複雑に入れ替わる最終話「濡れた衣裳」を推したい。第三話「観客はただ一人」はダミー解決の方が良く出来ているが、ドラマ性を考えるとやはりこの結末がしっくりくる。ヒロインの魅力も含めると好みではこれが一番。他にも第四話「紙の鳥は青ざめて」で、観覧車から折紙の鳥を東京の空に飛ばす場面を筆頭に、視覚的に優れたシーンが多用されている。
 この頃の物としては少なくとも『変調二人羽織』『夕荻心中』と同格で、『密やかな喪服』や『瓦斯灯』などよりも上。初期の隠れた良短編集と言える。

No.6 7点 流れ星と遊んだころ- 連城三紀彦 2020/07/27 15:54
 八年前、大スター花ジンこと花村陣四郎に拾われて以来、マネージャー兼付き人として影のような生活を送ってきた北上遼一。だが常に罵倒され蔑まれる生活も、そろそろ限界に達しつつあった。そしてちょうど四十三歳の誕生日を迎えた九月二十三日午後八時十分、遼一は新宿二丁目のバーで安っぽいウイスキーを飲んだのを切っ掛けに、あるカップルと運命的な出会いを果たす。
 秋場一郎と柴田鈴子。美人局気味に彼に絡んできた二人だが、遼一はその秋場にふときらめくものを感じる。来週から撮影に入るはずの映画『神々の逆襲』の安田刑事役に、花ジンを蹴落としてこいつを送り込むのだ。六十になるベテラン監督の野倉哲は素人を使うのが巧い。突拍子もない話だが、役柄に嵌った雰囲気とこいつの演技力があれば・・・。駄目で元々、半端な泥沼を抜け出して、最初から負けがわかっているような賭けをするのも悪くない。
 遼一は逆に秋葉を脅して丸め込むと、明日のカメラテストを受けることを承知させる。無謀な賭けの第一歩は始まった。だが二人三脚でスターへの道を歩むには、あと一週間のうちに花ジンをひきずり降ろさなければならないのだ・・・
 紆余曲折の末、俳優・秋場駿作は花村陣四郎の代役に抜擢され、その年の映画賞を総ナメ。その後も数々のテレビドラマ、コマーシャル、二度目の映画出演と、三人の関係性に支えられスター街道を突っ走る。だが彼には、他の二人にも明かしていない過去の犯罪があった――
 『女王』に続く著者二十六番目の長編。雑誌「小説推理」平成九(1997)年六月号~翌平成十(1998)年六月号に掲載された同名作品に加筆・訂正を加えて刊行されたもの。連作短編集『一夜の櫛』および『夢ごころ』『たそがれ色の微笑』『萩の雨』各前半収録の諸作と執筆時期は重なります。
 俳優のみならずマネージャーから監督まで、演技が日常の芸能界。メインキャラ各人も脅迫する側される側と、序盤からコロコロ立ち位置を変える油断のならない展開。渋る秋葉をあの手この手で誘導する傍ら、花ジンと正面切って対峙したり、いくつかのヤマを越えながらストーリーは進みます。
 過去回想の多用に加え、場面ごとに繰り返される一人称→三人称への切り替え。何かあるなと思わせるものの、容易にネタは割れません。個々の出来事の裏はある程度予想しましたが、流石にこの仕掛けは読めなかったな。お家芸の大胆な反転劇を、〈花葬シリーズ〉のある作品で用いられたテクニックが支える形。大掛かりな分、驚きはこちらの方が大きいです。
 タイトルがただの星ではなく「流れ星」なのでビターテイスト。複雑に絡み合った三人の関係が決定的なスキャンダルを期に消滅し、それと同時に物語は完結します。この部分も濃密ではあるけどその前、作者の狙いが明かされたとこで実質終了してるなあ。後は付け足しかエピローグかな。でも中年オジサンが最後の花火を打ち上げる話なので、コケてもどこか爽やかですけどね。

No.5 5点 離婚しない女- 連城三紀彦 2020/07/01 22:52
 『もうひとつの恋文』に続く、著者十四番目の作品集。長編では『花堕ちる』『残紅』『青き犠牲』などと同時進行。短編では『日曜日と九つの短篇』の後半作品や、『恋文のおんなたち』『恋愛小説館』『一夜の櫛』などの各収録作と、一部執筆時期が被る。
 表題中編と二短編を収録しているが、描写はいずれもあっさりめ。『離婚しない女』はもともと映画化前提の原作だったらしく、単行本出版一ヶ月後の1986年10月25日に早々と封切られた。『もどり川』『恋文』に続く三度目の映画化作品で、監督・主演は三作いずれも神代辰巳・荻原健一のコンビ。
 映画パンフレットによると「映画化不可能な話を書いてもいいですか」との作者の発言に、神代監督は「いいですよ」と即答したそうである。ただし完成したラッシュでは、原作の殺人事件はカットされシナリオも変更されている。
 表題作は二部構成。根室の水産会社社長の妻となっていた女と気象サービス・センターに勤めるその恋人が、財産目当てに殴殺した社長を車に乗せて、冬の岬へと向かう場面から始まる。岬から死体を投げ落とし、波にさらわれた事故に見せ掛ける計画だった。だが恋人の男は釧路にいるもう一人の人妻を伴侶と定め、共犯の女から全てを奪い彼女と添い遂げようとしていた。しかしこれから裏切られようとする女もまた、そのことを知っていた――
 大輪の花を思わせる艶やかな女性と平凡な家庭の主婦。全く異なるように見えながら、根底に同じものを持つ二人の〈離婚しない女〉の間で振り回される男。根室と釧路、地方線の起点と終点で繰り広げられる三角関係。そして殺人者が落ち込んだ、断罪よりも怖るべき陥穽とは?
 ありがちな展開を外した捻りが光る作品。全編を暗くくすんだ北国の風景が支配している。それは最終的に結ばれる二人が、これから歩む運命のようでもある。
 後の二篇、最初の『写し絵の女』はさすがに読み易い。『植民地の女』は月の半ばをマニラで暮らす商社マンが、帰国後フィリピン人の男に付き纏われ、妻を寝取った懺悔を迫られる話だが、ツイストよりも異国人の不気味さの方が印象に残る。
 三篇とも連城得意の反転ものだが、他の作品集と比べて出来はやや薄手で、暗めの割にはスケッチ風。

No.4 6点 前夜祭- 連城三紀彦 2020/06/25 20:41
 『紫の傷』に続く、著者二十七番目の作品集。1992年2月から1994年2月までの二年間に雑誌「オール讀物」中心に掲載された、捻りの利いた恋愛小説寄りの短編八篇を収録。長編では『明日という過去に』『愛情の限界』『牡牛の柔らかな肉』『終章からの女』『花塵』などと同時進行。短編では『落日の門』『顔のない肖像画』『背中合わせ』『美女』所収の諸作と、一部執筆時期が被る。
 連城の〈浮気をテーマにした短編集〉には他にも『夜のない窓』『年上の女』『夏の最後の薔薇(嘘は罪)』等があるようだが、おそらくそちらよりも〈精算〉要素が強く出ている。
 各篇の登場人物はいずれも成人した子供を持つ熟年以上の世代か、ある程度若いにせよ、愛人との関係に行き詰まりを感じている者たちばかり。直木賞受賞作『恋文』の初々しさとは異なり、己の人生を振り返りながらどこか醒めた視線で家族や夫、恋人などを見つめている。当然、嫉妬を押し隠す老獪さや、感情の爆発は比較にならない。熟練の仕掛けで各人の立ち位置がガラリと入れ代わる毎に、秘められたそれがぶつかってくる。
 サイトの趣旨的に優れているのはおおむね kanamori さんが挙げた三篇。それに最後に落としてくる「黒い月」を加えてもいいかもしれない。個人的には巻頭の「それぞれの女が・・・・・・」と、十三年前に妻子を捨てて出て行った夫を許そうとしない妻、立派に成長したものの父親と同じ行為を繰り返そうとするその息子、二世代に渡る登場人物四人の想いが絡み合う「夢の余白」を推したい。この二篇は創元推理文庫『落日の門 連城三紀彦傑作集2』にも採られている。
 1995年ごろ実母の介護のため、郷里の名古屋へ戻る少し前の時期の短編集。淡々とした筆致だが『紫の傷』『美女』とも重なるため、普通小説でありながらミステリ要素も強くなっている。

No.3 5点 わずか一しずくの血- 連城三紀彦 2020/06/22 08:53
 梅雨の只中の六月二十六日の夜、東京池袋の中古車販売主任・石室敬三の家に、一年前に失踪した妻の三根子から突然電話が掛かってきた。入浴中に電話を受けた娘の千秋の話では、まもなく放送される十時のニュースに自分が出てくると告げられたという。
 群馬の山中で白骨化した左脚が発見されたと聞いた父娘は、それが行方不明の三根子の脚だと直感する。左足の薬指には彼女が普段そうしていたように、M・Iというイニシャルの彫られたプラチナ製の指輪が填められていた。
 その二日後の六月二十八日、現場付近にある伊香保の温泉宿『かじか亭』では、顔面を潰され左足を切りとられた女性客の遺体が発見されていた。女は前日二人連れで宿泊しており、宿帳に残された名前は『妻ミネ子』。『鈴木五郎』と記した男の方は、惨死体発見数時間前の午前五時四十分、宿泊代を精算しタクシーに乗りこんで立ち去っていた。また「万が一の時には電話を入れてくれ」と女性が前夜仲居に渡した紙きれには、東京の石室家の電話番号が記されていた。
 この事件を皮切りに、全国各地から女性の身体の一部が発見されてゆく。伊万里で、支笏湖で、また佐渡島で・・・見出された遺体は、それぞれ別の人間のものだった。
 捜査陣を幻惑するような事件の展開。長期にわたる事件はやがて関係者や被害者家族、担当刑事をも巻き込み、さらに異様な相貌を呈し始める・・・
 雑誌「週刊小説」誌上に平成八(1995)年5月12日号~平成九(1996)年11月8日号まで連載。『人間動物園』と『女王』の間に挟まる長編で、執筆順としては第二十四作目。『美女』後半の収録作品や、連作短編集『さざなみの家』『火恋』所収の各短編とも発表時期は重なります。
 官能描写は多いものの、処女長編『暗色コメディ』をも上回る??の連続。しかもラスト付近まで鼻面掴んで曳き廻され、全く光明が見えてきません。「これ一体どうなるの? もしかして物凄い作品なんじゃないの!?」と、期待値MAXの読者の前に提示された解答は――
 腰から下がへちゃへちゃと脱力するような真相。沖縄問題を背景に幻想的な作風と社会派推理との融合を試みた意欲作ですが、その出来栄えは微妙。犯人の特異性なくしては成し得ないプランと、犯行のきっかけとなった特殊な人間関係が、普遍的な動機と説得力構築の妨げになっています。「結局おかしな奴がやらかしたんでしょ?」みたいな。この人の場合変に衒わない作品の方が動機に訴えかける物があるし、ことさら強引に社会派要素を組み込まなくても良かったんじゃないかなあ。
 強いて言えばひとときの酩酊感と五里霧中さを楽しむ作品。発表から長い期間を置いて没後に刊行されましたが、あるいは何らかの修正意図があったのかもしれません。

No.2 8点 宵待草夜情- 連城三紀彦 2020/06/16 23:43
 『夜よ鼠たちのために』に続く、著者の第六短編集。「幻影城」誌上予告では「桜の舞」として発表される筈だった花葬シリーズ「能師の妻」ほか五篇を収録。叙情的なタイトルに似つかぬ問題作・衝撃作揃いの作品集で、表題作のみいわばお馴染みのネタを扱ってはいるが、これとて凡手ではない。どの作品も全般にややくすんだ色合いだが、美しくも峻烈なエピソードを絡めたドラマ作りは、あるいは『戻り川心中』を凌ぐかもしれない。特に芸道ものの二篇、「能師の妻」と「花虐の賦」は飛び抜けている。インモラル極まる前者は好みが分かれるだろうが、後者に至っては長編並みの贅沢な作りである。本書のイチオシはこれ。
 大正時代につかのま大輪の花を咲かせたのち歴史の闇に消えた新劇作家と、かれに師事した一女優。最大の成功を収め前途洋々たる船出の最中、突如として作家は剃刀で己の躰を傷つけたのち、橋上から身を投げ骸となって浮かぶ。かれの四十九日の法要を無事済ませたその晩、女優もまた同じ橋上で手首を切り後追い自殺を遂げるが――
 シンプルにして鮮やかな反転トリックも凄いが、やはり残酷にして美しい男女関係が買い要素。その苛烈さは編中の白眉である。
 「花虐の賦」と並び立つのはトリの「未完の盛装」。終戦直後の昭和二十二年、カスリーン台風襲来の夜に犯されたある罪とその時効の成立を、二重底三重底の反転要素で包んだ傑作。ただ脅迫状の日付に仕掛けられた手掛かりは、やや強引か。これがあるので前者には少々劣る。
 「能師の妻」は泡坂妻夫「黒き舞楽」同様、「究極の愛」を描いた作品。両編共奇しくも幼少期の運命的な邂逅が、その後の全てを決定付けている。消失トリックの真相は途中からほぼ推察できるが、それにしても・・・ 後に残ってしまうので、刃物で一思いにという訳にはいかないのね。
 以上三作がベストスリー。「野辺の露」の容赦ない胸糞悪さも、かなり良い。捨て篇の無い良短編集だが、凄惨なまでの縺れ具合が好みからやや外れるのでギリ8点。

No.1 8点 暗色コメディ- 連城三紀彦 2020/05/18 05:04
 クリスマス間近の都心のデパート内で呼び出しを受けた妻は、〈もう一人の自分〉に微笑みかける夫を目撃する。一方、酷暑にあえぐ新宿の目抜き通りでは霊柩車が都心の雑踏に迷いこみ、大袈裟な読経と経文を撒き散らした。車を運転していた妻は帰宅し、畳に寝そべる夫に告げる。「今日はあんたの初七日じゃないの」
 初秋の気配の感じられるようになった公団住宅の一室では、ある医者が闇に彫られた暗い輪郭を見つめながら思う。――この女は、妻ではない、と。
 そして自分の体があらゆるものを吸い込む暗い異次元だと確信した男は彼らの一人を消し去ると、自らもどことも知れぬ夜の隅に消えた。互いに絡み合う四つの狂気から、やがて巧緻に織りなされたタペストリーが浮かび上がってくる。幻想とも見紛う異様な犯罪を描く、連城三紀彦の処女長編。
 1979年6月刊行。この前後には松本清張に代表される社会派全盛から、本格ミステリー回帰への揺り戻し現象が起きており、1976年には角川文庫の横溝作品が累計1,000万部を突破、続いて石坂浩二主演による市川昆監督「犬神家の一族」が10月公開、翌1977年4月には古谷一行主演の〈横溝正史シリーズ〉第Ⅰ期がTBS系スタートと、一般にも広くでろでろ趣味が浸透した華々しい時期でした。
 その流れを読んで台湾出身の編集者・島崎博(=傅金泉:フージンチュアン)が雑誌「幻影城」を創刊。泡坂妻夫『11枚のとらんぷ(1976年10月)』『乱れからくり(1977年12月)』竹本健治『匣の中の失楽(1978年01月)』等、惜しみなく趣向を凝らしトリックをブチ込んだ数々の力作群は、ルーティーンワークの社会派に飽き足らぬミステリマニア達に深い感慨を与えます。
 彼らに影響された連城が〈幻影城ムーブメント〉の一人として「よしいっちょ俺もやったるか」と、満を持して発表したのが本作品。トラックを皮切りに始まる碧川宏の消失幻想の数々は、普通の作家だとイチから書き直すでしょう。これを大マジでやりながらなおかつ合理的に成立させ、ミステリのパーツとして組み込んだのが凄い。著者には珍しくコストパフォーマンス無視の大仕事。少々インチキ臭くもありますが、その志は高く評価できます。
 ただその結果あちこちにムリが来てるのはどうしようもない。最後の事件での血液運搬とかは、完全に逃げてます。またどちらが犯人にせよ碧川は殺してないようですが、人間一人を生かしたまま隠蔽し続けるのは余りにもリスクが大きい。イヤリング一つで全てが裏返る鮮やかさには感嘆しましたが。
 とにかく色々な意味で惜しい作品。それでもかつてない構想を実現させた幻惑ミステリとして、8点を付ける資格は十二分にあります。

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雪さん
ひとこと
ひとに紹介するほどの読書歴ではないです
好きな作家
三原順、久生十蘭、ラフカディオ・ハーン
採点傾向
平均点: 6.24点   採点数: 586件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(38)
エド・マクベイン(35)
ディック・フランシス(35)
連城三紀彦(20)
山田風太郎(19)
陳舜臣(18)
ジョン・ディクスン・カー(16)
カーター・ディクスン(15)
コリン・デクスター(14)
都筑道夫(13)