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YMYさん
平均点: 5.86点 書評数: 336件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.176 5点 地中のディナー- ネイサン・イングランダー 2021/11/01 23:21
イスラエルの砂漠に設けられた秘密の施設。そこには、たった一人の囚人Zが長年にわたって収監されている。彼は米国生まれだったが、かつてイスラエルの諜報員だった。Zの監禁を命じた将軍は、何年も昏睡したまま病院のベッドに。将軍が夢見る過去の出来事や、Zの過去、パレスチナ難民の青年の物語、さらにはZを見張る看守と、将軍が眠る病院に勤める看守の母の日々。いくつもの物語が重なり合い、複雑に絡み合う。
入り組んだ語りが展開される複雑さゆえに、序盤はとっつきにくく戸惑ってしまうものの、この迷路のような構造こそがこの作品の魅力。いくつもの断片をつなぎ合わせて浮かび上がるのは、イスラエルとパレスチナの紛争の構図と、スパイとなった男のたどる数奇な運命だ。結末近くになってようやく分かる、題名の指し示す事柄も忘れがたい。

No.175 5点 検死審問ふたたび- パーシヴァル・ワイルド 2021/10/18 23:20
前作の風俗小説的な渋さが好みだったので、ユーモア色が濃くなった本作は好みから外れている。あとメタフィクション的な趣向が目についた。

No.174 7点 服用禁止- アントニイ・バークリー 2021/10/18 23:18
カントリーハウスで起きた毒殺事件をめぐる謎解きの試行錯誤をシリアスなタッチで描いている。
とはいえ、そこはけれん味に長けた作者のこと、ミステリ的な面白さを演出することに怠りはなく、読者への挑戦も用意する念の入れよう。本格ファンも満足できると思うが。

No.173 6点 デス・コレクターズ- ジャック・カーリイ 2021/10/03 23:08
作品全体を貫く大ネタからそれを支える小ネタまで余すことなく、神経を配り周到に伏線を張り巡らせた上ですべてを回収し着想外の結末まで度肝を抜く。
しかもキャラの立たせ方も巧妙で、物語としても面白い。

No.172 7点 暗い鏡の中に- ヘレン・マクロイ 2021/10/03 23:04
一人の人間が同時に二つの場所に出現するという不可能現象を扱っており、合理的に解決するにもかかわらず、幻想的でもある特異な結末に驚かされる。
エレガントな文章が紡ぐ繊細極まる恐怖の世界に魅了された。

No.171 6点 六人目の少女- ドナート・カッリージ 2021/09/21 23:11
異なった少女のものと思しき六本の左腕が森の中で見つかり、未だ明らかになっていない犯罪の捜査が始まる発端、そして意外な人物の事件とのかかわりが浮上する終盤、さらには騒動が終焉した後のエピソードを含めて読者を惹きつける力は並ではない。

No.170 4点 眠れる森の惨劇- ルース・レンデル 2021/09/11 23:23
全体的なプロットは悪くないが、中盤で捜査が停滞するのと一緒に、物語も停滞して、ウェクスフォードが何回も同じような話を聞きに行く。そして悩むの繰り返し...退屈。

No.169 5点 大聖堂の悪霊- チャールズ・パリサー 2021/09/11 23:20
トリックはかなり陳腐なものだけど、現在と過去の相互関係や、歴史学者が出てきて中世の伝説的な王様に関する解釈が二転三転するところは、探偵小説的興味とと繋がっており、本格っぽい雰囲気も好み。

No.168 4点 闇に抱かれた子供たち- ジョン・ソール 2021/08/28 23:22
ヴィレジャンという小さな沼地の中の町を舞台にしている。沼地から町を支配している闇の主という存在の正体が明らかになっていく過程と、主人公のケリーとマイクがその支配に対して立ち向かっていく姿が描かれている。
だが闇の主の正体が早いうちに分かってしまうために、少女たちが感じる恐怖が伝わってこない。老いていく人間の若さに抱く妄執の醜さを描くには、もうひと工夫必要に思われる。

No.167 4点 ゴースト・レイクの秘密- ケイト・ウィルヘルム 2021/08/28 23:16
殺人事件のみならず、子供たちの問題までも解決しなければならない女性判事の心の葛藤は、少々くどいきらいはあるが、なかなかよく描かれている。
ただ、作中に使われているトリックの実効性については、多少首をかしげざるを得ない。

No.166 5点 トウシューズはピンクだけ- レスリー・メイヤー 2021/08/16 22:57
主婦探偵ルーシーが活躍するシリーズ二作目。
年老いた元バレエダンサーが突然、姿を消した。さらに、ルーシーは金物屋の主人の死体を発見することに。四人目の子供を妊娠中のルーシーだが、生来の好奇心の強さから、二つの事件に首を突っ込むことになる。
大工の夫と十歳を頭に三人の子供をもつルーシーの毎日は忙しい。息子は野球の練習があり、娘たちはバレエの発表会を控えている。つい夕食を冷凍食品で手抜きすると、夫に文句を言われてしまう。そんなこまごました日常の描写が精彩に富む。
テーマは意外に重いが、保守的な小さな町を舞台にした、人情と勇気にあふれるルーシーの活躍ぶりに、ほのぼのとした気持ちになれる作品。

No.165 6点 殺人七不思議- ポール・アルテ 2021/08/10 23:22
古代世界の七不思議をモチーフにした予告連続殺人事件を相手に名探偵オーウェン・バーンズと相棒のアキレスが奮闘する謎解きミステリ。
次々と起こる不可能犯罪、警察に送られてくる暗号付きの予告状と、J・D・カーの後継者と自任する作者らしい作品といえる。冒頭に語られる「愛」にまつわる一文が作品に通底するテーマになっており、その一文があるゆえ謎解きが終わった後に、読者に提示される情景は残酷なれど美しい。

No.164 5点 ミスティック・リバー- デニス・ルヘイン 2021/08/10 23:11
三人の男の人生が微妙に交錯する物語で、テーマは子供時代の性的虐待。それが人を狂わせ、悲劇へと導く過程をエモーショナルに捉えている。
作者らしい繊細で心温まる作品(決してハッピーエンドとは言えないが)。全編に漂う、やるせない哀しみとそ、そこはかとない孤独感がとりわけ印象的。

No.163 5点 ユダヤ警官同盟- マイケル・シェイボン 2021/07/26 23:09
第二次大戦後、流浪のユダヤ人がアラスカに自治区を築いたという設定の物語で、デビュー作にも色濃くあった自らのユダヤ人という出目や同性愛に対するこだわりが、強烈に反映している。
最初のうち展開がもったりする感はあるが、メンデルの正体が明らかになって以降は面白くなってくる。警察小説にして改変歴史SF小説。

No.162 6点 子供の眼- リチャード・ノース・パタースン 2021/07/16 23:02
「罪の段階」に続く弁護士パジェット・シリーズの第二作。上院議員選挙に出馬するパジェットが殺人の容疑で逮捕されるという設定がショッキング。部下の弁護士テリーザの夫リッチーが殺され、目撃証言から犯人とされたのだ。
緊迫感に満ちた法廷劇もさることながら、政治と家族と恋愛をめぐるドラマも物語の進展とともに白熱化してくるなど読み応えあり。

No.161 6点 鼠たちの戦争- デイヴィッド・L・ロビンズ 2021/07/09 22:35
スターリングラードの戦いで、敵と味方に分かれて戦った、ドイツとロシア双方の天才スナイパーを描く冒険小説。
二人の狙撃手のスリリングな駆け引きが最大の読みどころなのだが、登場人物たちが織りなしていく人間ドラマのふくらみもそれに負けていない。戦争文学とエンターテインメントのクロスオーバーといえるでしょう。

No.160 8点 孤島の鬼- 江戸川乱歩 2021/06/30 21:54
独特の愉悦に満ちた一大浪漫絵巻の世界が繰り広げられ、幻惑される。
前半は、密室殺人と衆人環境の中での殺人という二つの不可能犯罪を軸とする。主人公の友人である医学者がこの謎解きをするが、密室の謎解きは当時の日本家屋の構造についての知識が必要と思われる。
話が進むにつれ、せむしや小人が登場し、怪しさが増してきてミステリというより、秘境冒険小説というノリになっている。

No.159 8点 法月綸太郎の功績- 法月綸太郎 2021/06/21 23:36
作者と同じ名前の名探偵、法月綸太郎が難事件を解決するシリーズ。推理作家でもある探偵の父親は警視庁のお偉方という設定。
端正で爽快な謎解き狙いで固めた一冊。その意味で、インターネットに流れる都市伝説と見立て殺人を組み合わせた「都市伝説パズル」は堅い守りを見せる。「ABC包囲網」はクリスティーの「ABC殺人事件」の本歌取りのようで、しかし何だか煙に巻かれたような解決がおかしい。

No.158 5点 ロックダウン- ピーター・メイ 2021/06/12 23:37
死亡率80%の新型ウイルスが猛威を振るうロンドンで、事件の真相を追う。2005年に書かれた作品だが、今日の状況にも重なり合う風景が生々しく描かれている。仮説病院の建設現場で発見された子供の骨。辞職間近の刑事マクニールがその身元を探る。一方で、彼の身近なところにも感染者が。
事件の真相はある意味では凡庸。だが、本書の魅力は結末ではなく、その過程にある。マスクを着け、他者と距離を取るという、今ではおなじみの光景に加え、高い致死率という過酷さに苦しむロンドンの様子。その中で、絶望を抱えながらも真相を追うマクニールの姿。灰色の中の微かな光明が心に残る。

No.157 5点 マイ・シスター、シリアルキラー- オインカン・ブレイスウェイト 2021/06/12 23:30
またしても彼を殺してしまった。アヨオラは姉のコレデに助けを求め、コレデは死体を処分する。警察の捜査も何とかやり過ごしたものの、新たな難題が。
共存をこじらせた姉妹の関係の歪みが印象に残るが、不条理な展開と軽快な語りのおかげで、ユーモラスな雰囲気に包まれている。
典型的な犯罪小説の枠から外れていく展開とその結末は、いっそ小気味よい。

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