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YMYさん
平均点: 5.86点 書評数: 300件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.140 5点 KIRICO@シブヤ- 牧村一人 2021/02/13 20:14
東京の繁華街、渋谷で起こった無差別連続殺人事件をめぐる異色活劇。
人であふれかえる日曜日の渋谷センター街にワゴン車が突入した。次々と歩行者がはね飛ばされたうえ、運転していた男はナイフを持ち人々へ切り付けていった。だが最後に駆け付けた警官により男は射殺された。
それから3年後、女子高生の宇佐美希莉子は、事件で姉を失った海東皓介や元警官の水野霧子ら、さまざまな関係者と出会いを重ねた。やがて思いもしない新たな大事件に巻き込まれていく。
琉球空手を使うヒロインのアクションものであるとともに、ネット社会の暗部やストーカー男が描かれるなど現代社会の歪んだ先端部を渋谷の街に集約させている。際立ったキャラと鮮やかな対立関係、そして大胆な虚構性を生かし、殺人というテーマに迫る、ぐいぐい読ませる一作。

No.139 5点 正当なる狂気- ジェイムズ・クラムリー 2021/01/30 19:59
作品の冒頭、かすかに諦念をにじませたシュグルーの姿には、老いの兆しすら感じられた。だが凄惨な犯罪現場に次々に遭遇するにつれ、犯人に対する怒りをたぎらせ、執念深い猟犬さながら謎を追跡し、タフな探偵に変身する。
まさに狂気と紙一重の無謀さで危険に挑んでいく彼の姿には、鬼気迫るものすら感じられた。
暴力と血と裏切りと哀しみを編み込んだストーリーの疾走感は、一気読み必至。お約束の女性たちも、いずれも個性的。とりわけ、シュグルーとの友情と欲望のあいだで揺れ動く女性弁護士は印象的だった。

No.138 5点 真実ふたつと噓ひとつ- カトリーナ・キトル 2021/01/21 20:26
主人公のデアは、嘘ばかりついている舞台女優。夫のペイトンは妻の癖を承知していて、笑い飛ばしている。だが、実はデアは結婚前に許されない嘘をついていて、夫にいつかばれるのではないかという不安にさいなまれていた。
嘘にもいろいろあるが、ひとつの嘘もなく生きている大人は稀でしょう。ストーリーに動物とのコミュニケーションというテーマが濃密に絡んでくるが、ごまかしのない動物たちに比べ、嘘をつかざるを得ない人間の弱さが身にしみる。試練の先に光明を見いだそうとするデアと、彼女を助ける忠実な飼い犬の姿は読後に深い余韻を残した。

No.137 6点 暗闇にレンズ- 高山羽根子 2021/01/11 18:36
監視カメラだらけの平穏な日常に潜む、見えにくい闘争を描いている。
女子高生の「私」は友達と街を歩き、携帯端末で世界を切り取る。それは記憶と記録の私有の試み。映画は感情を操り、記録映像は人々を行動へと駆り立てる。映像機器が情報機器として発展してきたこの架空世界では、撮ることは「取る」であり、時に「盗る」でもある。
組織的情報管理を図るあらゆる権力に、個のレンズで対抗してきた女性たちの、細やかで軽やかな思考と行動には、現代を生きる上で大切な、多くの知恵が見いだされる。

No.136 4点 サークル- 北島行徳 2021/01/07 19:48
三田村友樹は、中学の時の事故が原因で希望の高校に進めず、やがて引きこもりになってしまった。精神科医の東山と出会ったことで立ち直ろうとしていたが、友人の起こした事件に巻き込まれてしまう。
猟奇殺人が出てくるサイコものなどとは違って、ごく会ありふれた人たちの心の病の問題が扱われており、治療法をはじめ何が正しいのか不確かな世界が巧みに描かれている。静かな日常のサスペンスを生み出しているのは、独特のゆらぎの感覚。

No.135 5点 薪の結婚- ジョナサン・キャロル 2020/12/31 18:33
キャロルらしい幻想的な作品。老いたミランダは過去を振り返り、思い出を語る。とりわけ、妻子あるヒューとの運命的な愛。物語の前半はヒューとの恋愛を軸に進んでいく。この部分は恋愛小説として素晴らしい。
だが、後半になると一転、キャロルお得意の超自然現象が繰り出され、迷宮のような物語世界で翻弄される。愛とは、人生とは、罪とは、そして償いとは。じっくりと読みたい作品。

No.134 5点 KATANA- 服部真澄 2020/12/21 19:31
米国では銃の関係する死亡事件が毎年三万件を超えるという。作者は深刻な銃の問題を正面から扱いつつ、日本史における有名な出来事を重ねた上で、予想できない近未来の現実を提示してみせた。当然、題材に関する情報がこれでもかと盛り込まれ、興味深い。
フィクションとはいえ、さまざまな思惑が絡んだうえで生まれる陰謀の恐ろしさ。米国の「戦争」が今後どういいう形になっていくのか、そんなことを注目せずにはおれない情報サスペンス。

No.133 6点 唇を閉ざせ- ハーラン・コーベン 2020/12/11 18:12
冒頭から大きな秘密が示唆され、次から次へと謎が謎を呼ぶ本作は、プロットだけではなく、心理的にも驚きやどんでん返しがいくつも用意されている。
愛と忠誠心を重んじる主人公の心情にも惹かれ、最後まで飽きさせない。

No.132 6点 数学的にありえない- アダム・ファウアー 2020/12/01 18:23
破天荒な設定の痛快なサスペンス。ギャンブルの借金で破滅しかかった数学者ケインは、金のために人体実験に参加することになった。だが、その実験によって、ケインの持っていた信じられないような潜在能力が花開いた。
ケインを追う政府の秘密機関、ケインを助けようとするCIAの女性工作員。息詰まる追跡劇はケインの能力によって、とんでもない連鎖反応を呼び起こしていく。確率論が頻繁に登場するが、小難しい論理はさておき、ジェットコースターに乗った気分で楽しんでいただきたい小説。

No.131 5点 タイタニックを引き揚げろ- クライブ・カッスラー 2020/11/24 18:43
豪快なホラ話と爽快なアクションで読ませる作者の代表作。
時は冷戦下、米ソの希少物質の争奪戦から、沈んだタイタニック号の引き揚げに至る怒涛の展開。大風呂敷を広げて見事に畳む、カッスラーの楽しさが詰まった作品。

No.130 5点 三分間の空隙- アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム 2020/11/18 18:47
北欧の警察小説シリーズの作品でありながら、物語は北欧にとどまらず、南北アメリカ大陸に広がりを見せる。
コロンビアで、麻薬を扱うゲリラ組織への潜入捜査をするペーテル。その運命は、アメリカの介入によって大きく揺り動かされる。
グローバルな視点で社会の暗部を描く、重厚にしてスリリングな物語。

No.129 6点 事件の予兆 文芸ミステリ短篇集- アンソロジー(出版社編) 2020/11/11 19:16
1950年代から1980年代に発表された非ミステリ作家によるミステリに光をあてている。
鮮やかなどんでん返しが人間の精神の闇を照らす大岡昇平「春の夜の出来事」、狂気と恐怖へと誘い込む山川方夫「博士の目」、床屋の主人が客の首を切る志賀直哉の「剃刀」(1910年)へのオマージュともいうべき野呂邦暢「剃刀」、死の床につく母親が息子に復讐する野坂昭如「上手な使い方」、崖から転落死した2人の女性の謎を探る大庭みな子「冬の林」など10編。
「博士の目」や「冬の林」がいい例だが、解かれる謎よりも解かれない謎のほうが魅力的で、混沌たる深層意識をのぞかせるだけで、ドキリと衝撃的であることを伝えている。純文学作家たちのアプローチの新鮮さがここにある。

No.128 5点 赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。- 青柳碧人 2020/11/03 19:56
赤ずきんがシンデレラとカボチャの馬車でお城の舞踏会に出掛ける時に男をひき殺してしまう「ガラスの靴の共犯者」、ヘンゼルとグレーテルによる犯罪を赤ずきんが解明していく「甘い密室の崩壊」、お城で眠り続けるお姫様のもとで殺人事件が起きる「眠れる森の秘密たち」、マッチ売りの少女が社長になり世界に不幸をもたらす「少女よ、野望のマッチを灯せ」の4作。
アリバイ、密室、ダイイングメッセージなどを用いた緊密なミステリ劇だった前作に比べると謎解きの面白さはやや薄いが、そのかわり童話を大胆奇抜に作り替えて、悪意と皮肉をまぜた大人の残酷劇にして秀逸。ピカレスクものとしてのシンデレラやヘンゼルとグレーテルの話も面白いが、マッチを夢見る麻薬になぞらえる「少女よ、野望のマッチを灯せ」が薬物依存を主題にして、なかなか鋭く現代的。

No.127 6点 さむけ- ロス・マクドナルド 2020/10/27 18:51
ある事実をアーチャーに気づかせるある発言は、ハヤカワ・ミステリ文庫版で四一一ページあるこの小説の、実に四〇六ページ目になって登場sる。
読者にも探偵にも考える時間を殆んど与えない。急転直下のラストの展開によって不自然さを免れようとしているかに思える。

No.126 5点 ユー・アー・マイン- サマンサ・ヘイズ 2020/10/20 20:32
物語は妊婦が次々と襲われるという凶悪犯罪を軸に、三人の女性の視点で展開されていく。
視点人物の交代によって真実を読者の目から覆い隠す技巧が冴えている。仮に真犯人は見破られたとしても、怒涛のような伏線回収には驚かされるはずだ。

No.125 5点 神の値段- 一色さゆり 2020/10/12 18:32
専門知識に彩られた美術関連のディテールには厚みがあり、人物造形を含め、筋の運びも巧み。
美術界をめぐるエピソードの数々が興味深く、それらを生かした不可解な謎をめぐりサスペンスとしていい味を出している。

No.124 7点 破滅のループ- カリン・スローター 2020/10/02 19:41
米ジョージア州捜査官ウィル・トレントが活躍するシリーズの第9作。
爆破テロの現場近くで、ウィルの目の前で恋人サラが凶悪犯に拉致されてしまう冒頭から、彼が重い決断を迫られるクライマックスに至るまで、目まぐるしく展開する。
全体の構図はシンプルだが、事件のスケールと展開の激しさはシリーズでもトップレベル。分厚いけれども一気に読ませる作品。

No.123 4点 神と罌粟- ティム・ベイカー 2020/10/02 19:36
長年にわたって女性を狙った殺人が続く、メキシコの国境近くの街。地道な捜査を続ける刑事、女性の地位向上のために働く活動家を中心に、さらにジャーナリスト、神父、麻薬カルテルの首領らの視点から、人々の権力と思惑が絡み合った事態が描かれる。
意外性ではなく、重さと激しさを印象に残す作品。決してスピーディーに読ませる小説ではない。結末も唐突な印象は拭えない。だが、事件の向こうに浮かび上がる絶望は生々しい衝撃を残す。

No.122 5点 ボストン・シャドウ- ウィリアム・ランデイ 2020/09/21 19:31
一九六〇年代のボストンを舞台にして、長男警官、次男検察官、三男空き巣犯という個性的な三兄弟を主人公に据えている。
実際にあった絞殺魔事件を軸にしているが、読みどころは三兄弟の生き方とその微妙な関係。警察の腐敗に染まりマフィアと関係を深める長男。絞殺魔事件を担当させられる次男の苦悩。恋人を殺された三男の絶望。さらに警官だった父親が殉職して残された母親と、父の同僚の交際。それに反感を抱く息子たち。愛憎こもごもの複雑な感情が、重層的に描かれ読み応えがある。

No.121 9点 ゴーレム100- アルフレッド・ベスター 2020/09/14 19:35
一九八〇年に発表した幻の奇書。そのとんでもなさは本をパラパラめくるだけで一目瞭然。楽譜、ロールシャッハ・テスト、写真、漫画などなどが縦横無尽に入り乱れ、テキストとビジュアルがキメラ状に融合している。
物語の舞台は二一七五年のメガロポリス。八人の有閑マダムが悪魔召喚ごっこでうっかり本物の怪物を生み出してしまい、やがて凄惨な連続殺人事件が...。いかにもB級ホラーじみたこの筋立てがどんなにすさまじい小説になっているか、ぜひ実物で体験してほしい。

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