皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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パメルさん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 654件 |
No.354 | 8点 | 占星術殺人事件- 島田荘司 | 2021/06/13 08:25 |
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40年前の未解決事件捜査、密室殺人、アゾートの謎、魅力的な探偵コンビ、読者への挑戦状など本格ミステリ要素が満載。社会派小説が主流になりつつあった頃に謎解きをメインにした作品ということで、デビュー作にして日本ミステリ史的にも重要な作品。
ただ、序盤の手記がとにかく読み難い。アゾートの説明など情報量が多すぎて、これを全部把握するのは至難の業。その後も探偵と助手の対話が続くが、ここもテンポが良くない。ミステリを読み慣れていない人は、挫折する人も多いのではないか。自分も挫折経験者です。ここを乗り越えれば、次第に読みやすくなるので我慢して読んでほしい。 冒頭に配されたアゾートという謎の詩美性、合理に徹した御手洗の推理の明快さという重厚さとシリアスさだけでなく、ホームズ役の御手洗、ワトソン役の石岡のユーモアある掛け合いが、古典作品のリスペクトをも感じる。メイントリックは、40年間迷宮入りだったというのが納得出来るような、前例の無い斬新な大技のトリック。事件の真相と謎が明らかになる瞬間の鮮やかさにしびれる。 |
No.353 | 5点 | カナダ金貨の謎- 有栖川有栖 | 2021/06/09 08:44 |
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国名シリーズ第10弾で5編からなる中短編集。
「船長が死んだ夜」作家たちの書き下ろしが詰まった「7人の名探偵 新本格30周年アンソロジー」のために書かれた中編。アリスのとんでもない仮説がいつも以上にキレている。王道の謎解きが楽しめる。 「エア・キャット」アリスと先輩作家の朝井が飲み屋で火村を話題にしている。ミステリ仕立てになっているが、真相は大したことない。 「カナダ金貨の謎」犯人は被害者殺害後、予定外の事態が発生し偽装工作に失敗。火村はこの実行されなかった偽装工作の準備の痕跡から犯人を特定していくロジックが見事。 「あるトリックの蹉跌」JTの「ちょっと一服ひろば」というサイトにアップされた短編。火村とアリスの出会いの話。 「トロッコの行方」トロッコ問題「五人を救うために、一人を殺すか」という思考実験が下敷きにある中編。謎解きは呆気ないほどあっさりしている。犯人特定の何が決め手になったのかの説明が不足している。 |
No.352 | 7点 | 炎に絵を- 陳舜臣 | 2021/06/05 08:47 |
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辛亥革命の時に、革命資金を横領したという罪に被せられた父の汚名を晴らすべく調査に乗り出した主人公が、トラブルに巻き込まれながら驚きの真相にたどり着く。
序盤はもたついた感があるが、中盤に入ると父の汚名に関する重要な資料を発見、重要人物ともいえる人物との関係が明らかになる。急にとんとん拍子になりスピードアップ。父の過去を探る旅と産業スパイという二つの軸に、同僚女性とのロマンスを絡めて展開するストーリーは、さまざまな仕掛けがほどこされサスペンスに富んでいる。後半に入り、事件の全貌が明らかになるにつれ、仕掛けが浮かび上がってくるという構成がお見事。 確かにご都合主義的なところはあるが、最後に真相が明らかになり、タイトルの「炎に絵を」の意味することが立ち上がるのが素晴らしい。 |
No.351 | 6点 | 教場- 長岡弘樹 | 2021/05/31 08:44 |
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舞台は警察学校。初任科第98期短期課程に属する約40名はすでに巡査の身分を持つ社会人であり、年齢や志望動機もそれぞれ。だが、半年間にわたる過酷な訓練と、事あれば「連帯責任」を問われる理不尽のなかで、体力的人格的に適性のないものは容赦なく退校を求められる。
この作品は「クラス」でのサバイバルゲームを勝ち抜こうとする学生の様々な企てや思惑を、白髪隻眼の教官である風間公親が次々と砕き、退学させる者と見込みある者を選別していくという6編の連作短編集。 職務質問、検問、運転、水難救助などの実習で学生が問われるのは、まだ犯罪が起きていない日常の中に、犯罪の予兆を嗅ぎ取る力、風間の人の心理を突く頭脳戦に度肝を抜かれながら、学生たちがここを先途と張り合う人間ドラマが魅力的。 警官は「守るべきは社会の正義」と、それを押し立てて、時に刑法が引いた境界線を踏み越える。よしんばそれを越えても帰ってくるものはよし。越えられないものは駄目。風間の教育は、それを一人一人の体にしみとおらせることに尽きるといえようか。 |
No.350 | 6点 | 使命と魂のリミット- 東野圭吾 | 2021/05/26 09:38 |
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研修医の氷室夕紀は、父を大動脈瘤の手術で亡くしている。現在はその時、執刀医であった西園教授の下で働いている。氷室はその手術に疑いを持っていた。その二人の勤務する帝国大学病院に、過去の医療ミスを公表しないと病院を破壊するという脅迫状が届く。
患者を診る医師を、研修医が疑いの目で見ている。患者の体をモニタリングしている病院の動向を、犯人が探る。その犯人を警察が追う。この作品では、監視する者を監視する視点から語られる部分が多い。このような描写は、各人の視点や立ち位置のズレを効果的に表現する手段にもなっている。 結末に関しては、性善説に傾きすぎてはないかと、賛否が分かれるでしょう。しかし、噂が広がり病院の信頼性が揺らいでいく過程は、リアルだしサスペンス性も高く惹きつけられる。そして技術の精度以上に、意識の持ち方が信頼性を決定するという事実を見事に描き上げている。 不満な点は、犯人の下準備を含めた犯行計画、実行があまりにも綱渡り的で杜撰にもかかわらず成功していくところ。もっと違った方法があっただろうと思えて仕方がない。 |
No.349 | 6点 | 螢- 麻耶雄嵩 | 2021/05/22 09:27 |
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久しぶりにクローズドサークルものが読みたくなり手にとった作品。オーソドックスな展開とはいえ、閉ざされた館での殺人事件には惹きつけられる。登場人物もそれぞれ怪しげで魅力的。
重層的なトリック、しかも一つ目のトリックを見破った読者ほど、二つ目のトリックに陥りやすくなるという構成が巧妙。一つ目のトリックについては序盤で訝り、中盤でのある二人の会話で違和感を覚える人が多いのではないか。つまり一つ目のトリックは作者が、わざと読者に気付かせようとしているのではないかとも思える。 読者に対する手掛かりと、登場人物に対する手掛かりが必ずしも一致しない、認識にズレがあるということを思いがけない形で顕在化させた試みには唸らされた。仕掛けが犯人特定に直結している点も好印象。 麻耶作品に精通している人にとっては、地味で作者独特の良さが味わえないらしい。その点はあまり気にならなかったが、リーダビリティについては、改善の余地があるだろうと感じた。(ある理由で仕方ないのではあるが...) |
No.348 | 5点 | 邪魔- 奥田英朗 | 2021/05/17 20:00 |
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十七歳の高校生と三十四歳の主婦、そして三十六歳の刑事、この三人の人生の歯車が少しずつズレていく過程を緊密に描いている。
三十四歳の主婦、及川恭子が火傷して入院した夫のもとに駆けつける時、タクシーの窓から小さくなる自分の家を見て、この家はどうなるのだろうと不安に駆られるシーンが冒頭近くに出てくる。その言いようのない不安から、ラスト近くの「悪夢が来たけりゃ来ればいい。どうせ現実以上の悪夢などあるわけがないのだ。」という地点にまでズレていく過程をディテール豊かに、リアルにそして丁寧に積み重ねているので、及川恭子の変貌が鮮やかに立ち上がってくる。 主要な登場人物の人生の歯車がズレていくかたちを描くという点では、前作の「最悪」と同様の構成だが、主婦の挿話を中心軸に置くことで、小説の凄味が増している。派手な事件が何一つ起きなくても、私たちの日常生活の中に潜んでいる謎と不安を掘り下げることで、ミステリに成りうることを実証している。 |
No.347 | 7点 | 龍神の雨- 道尾秀介 | 2021/05/12 08:31 |
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肉親と死に別れた二組の兄弟が登場する犯罪小説風のサスペンス。十九歳になる添木田蓮は実母の急死後、暴力を振るう継父を疎ましく思い始め、やがて殺意へと変わっていく。一方中学生の辰也と小学生の圭介の兄弟は実母の死後に再婚した父親を病気で失い、継母と暮らしていた。辰也は継母の存在を認めず非行に走り、圭介は二年前に実母が死んだ原因が自分にあると密かに悩み続けていた。
台風による大雨の日、蓮は継父を事故死に見せかけて殺す仕掛けをして外出する。帰宅した蓮は、継父の死体を発見するが、妹の楓から自分が継父を殺したと告白される。 ストーリーも人間のありようも、一面からでは判断できない。二組の兄弟の視点人物である蓮と圭介。彼らが見た息詰まるような現実を追っていくうち、作者が仕掛けた周到な罠にはまっていく。苦い味わいの青春小説であり、叙述トリックを超えた仕掛けが楽しめるミステリでもある。 |
No.346 | 5点 | 法月綸太郎の消息- 法月綸太郎 | 2021/05/07 08:58 |
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「白面のたてがみ」と「カーテンコール」は、ドイルとクリスティーという偉大な先人の作品に法月綸太郎が切り込む、小説の小説というべき作品。表面には浮かび上がってこない作品の真意が、彼らの作品のあるものに隠されている可能性があると綸太郎は睨む。そして原作を精読し、行間から浮かび上がる真実を捕まえようとする。彼の到達した結論が正しいか否かはあまり問題ではなく、読むという行為がいかに創造的になりうるかを改めて認識させるのが、この2作品の価値でしょう。目の付け所は評価したいし、考察に興味のある方は楽しめると思いますが、このような事に興味のないような自分にとっては、退屈で仕方がなかった。
残りの「あべこべの遺書」と「殺さぬ先の自首」は、帰宅した法月警視から推理作家で息子の綸太郎が話を聞き、事件の真相を推理する形といういつものパターンで悪くは無いのだが切れ味は今ひとつ。 |
No.345 | 6点 | 贖罪- 湊かなえ | 2021/05/02 09:08 |
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悲惨な事件を通して人間の黒い心理をえぐり出す連作形式のノワール小説に仕上がっている。
舞台は「日本一空気のきれいな場所」といわれる田舎町。小学校のグラウンドで四人の友達と遊んでいた小学四年の少女が作業員とおぼしき男に連れ去られて殺される事件が起きる。被害者の母親は犯人を目撃しながらも、あやふやな記憶しか残っていないという四人の少女を糾弾、それがトラウマになった彼女たちは大人になってもそれを引きずることになる。 かくて各章では、その後の少女たちの軌跡と現在が、作者の有名作「告白」と同様の告白体で描かれていく。語り口や語り手が章ごとに変わる構成も「告白」の延長上にあるが、事件の被害者と加害者の対立劇ではなく、一種の逆恨み的な復讐状況を作り出すうまさ、そして各章ごとにヒロインを新たな事件に直面させる入れ子づくりのうまさは、手練れものといっていい。 一見殺伐とした作者の作風がもてはやされるのも、そうした人間の闇、病理の摘出が心の浄化に結び付くからなのでしょう。 |
No.344 | 8点 | 天使のナイフ- 薬丸岳 | 2021/04/27 08:36 |
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少年による凶悪犯罪が目立っている。彼らの多くは少年法に守られ、大人と同等の刑事処分を受けることはない。数年の矯正期間を経て社会復帰した少年が、本当に更生したといえるのか。被害者や家族の人権は。加害者が成人であろうが未成年であろうが、失ってしまったものには変わりはない。なぜ未成年者に殺された瞬間から、被害者の命の価値は軽くなってしまうのか。
江戸川乱歩賞を受賞した本作は、少年犯罪問題に真っ向から取り組んだ社会派小説でありながら、謎解きも楽しめるミステリでもある。主人公はコーヒーショップのオーナーの桧山。愛する妻を惨殺されるが、捕まった犯人は三人の中学生だった。少年であるがゆえに刑事責任を問われない。桧山は無念の思いを抱えながら生きていくしかない。 ところが四年後、犯人である少年の一人が殺される。そして、思いも寄らなかった過去の事実が次々と明らかになる。ストーリーはに二重三重に謎が仕掛けられている。だが、終盤近くになってもその謎ははっきりしない。意表を突く展開となり、思いがけない真相が明かされる。と同時に真の更生とは何かという問いと、その答えが提示される。 緻密なプロット、巧みな伏線、そして何よりも重いテーマと真摯に向き合った作者の誠実な姿勢が心に残る。 |
No.343 | 6点 | プリズム- 貫井徳郎 | 2021/04/22 08:44 |
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太陽の光を三角柱のプリズムに当てると虹のような光の帯が現れる。そんな実験を小学校の理科の授業で見た覚えがある。プリズムとは光を分散、屈折させるための光学素子である。この作品は幾重にも繰り返される仮説の構築と崩壊。一筋の推理の光が屈折、分散し到達する実験的本格ミステリ。
小学校教師が変死体となって発見された事件をめぐって、教え子の四人が章ごとの語り手として登場し、それぞれに真相を探ろうとする。一歩間違えば本格ミステリの基盤も揺るがしかねない要素を積極的に取り入れた多重解決形式を採用している。 この作品の特徴は、前の語り手が構築した推理が、その次の語り手によってリレー式に覆されていくという点にある。四人の語り手は、それぞれの動機から真相を知ろうとするが、それらの動機は語り手自身が自分を納得させるためという点では共通している。従って語り手たちは、せいぜい自分の探偵能力で知り得る範囲の手掛かりから組み立てた推理で満足し、それ以外の可能性が存在するなどとは考えもしない様子。 さまざまな方向へ展開される仮説は魅力的で、それなりの説得力を持っているが、いずれも決め手を欠いている。結局、真相は登場人物それぞれが真相を知ったつもりで納得しているだけ。知り得るのは、語り手たちの視点を重ね合わせることが出来る読者のみ。これが作者の狙いなのだろう。 |
No.342 | 6点 | 秋期限定栗きんとん事件- 米澤穂信 | 2021/04/17 08:29 |
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小市民シリーズ3作目。中学時代にいろいろあって、高校ではなるべく目立たずひっそりと過ごしたいと思っている主人公と、同じ考え方を共有する女の子がコンビを組む。
ひっそりと生きたいにもかかわらず、いろんな事件が降りかかってきて、心ならずも名探偵の役割を果たしてしまうっていう本格ミステリの連作。前作の最後で、二人がコンビを解消して別々の道を歩み始める。それを受けて、今回は冒頭からそれぞれ別の彼氏彼女が出来て、二人は一体どうなるの?というあまりテンションが上がらない恋愛ストーリーも淡々と進行する。それと並行して、今回初めて二人以外の視点人物が出てくる。 その人物が新聞部の男の子で、街で起きている連続放火事件の謎に挑むコラムを掲載する。この放火事件を軸にしたミステリパートと、学園青春小説パートが並行して進み、最後にどんでん返しがある。このシリーズの面白いところは、萌えキャラ小説になりそうなのに、意外とダークなところに落ちていく点。今回も大変皮肉な結末が待っていて、その突き放し方が面白い。 |
No.341 | 6点 | 日曜の夜は出たくない- 倉知淳 | 2021/04/12 08:56 |
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作者のデビュー作で7編からなる短篇集。
猫みたいなまん丸い目、小柄で童顔なので30代にはとても思えない。また定職に就かず、フラフラした生活。興味を持ったことには何でも首を突っ込み、達者な口先三寸で周囲を煙に巻く。時には失礼だったり、後輩に威張ったりするが、なぜか憎まれないキャラクターの猫丸先輩が中心となるストーリー。 「空中散歩者の最期」新都心のベッドタウンで発見された墜落死体。物理学的にどうなんだろう。推理に無理があると思うが。 「約束」小学二年生の麻由は、公園で出会ったおじちゃんと意気投合し、毎日会うことに。ミステリというよりもハートウォーミングな話。 「海に棲む河童」民話や昔話には、教訓めいた意味合いがあると思うが、この具体的な行動の解釈には驚いた。 「一六三人の目撃者」舞台で上演中、俳優の鍵山が死亡。舞台というのも一種の密室状態。その中での犯行は鮮やか。解決への糸口も秀逸。 「寄生虫館の殺人」固定観念を利用したトリックだが、少し無理があるのでは。 「生首幽霊」投げつけられた灰皿が原因で怪我をした八郎は、仕返しのため蛇のおもちゃを持ってアパートへ向かった。そこには生首が。真相はなるほどと納得させられる。 「日曜の夜は出たくない」日曜日にデートする恋人は、家へ送ってくれた45分後に電話を掛けてくる習慣。しかし、近所では切り裂き魔事件が頻発し、ふとしたことから彼に疑惑を抱くことに。真相は予想できてしまうが、可愛らしくて爽やか。 7編の中で、猫丸先輩が推理した通り犯人が逮捕されたという記述があるのは「生首幽霊」だけ。それ以外は妄想スレスレの推理が繰り広げられるだけというのもユニーク。キャラクターが魅力的なので楽しめたが、逆にいえば猫丸先輩でなかったら、ここまで楽しめたとは思えない作品。 |
No.340 | 7点 | 0の殺人- 我孫子武丸 | 2021/04/06 09:51 |
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まず冒頭に記された作者の宣言が魅力的。本編が始まる前に、四人の人物名をあげ「犯人はこの四人の中にいる、ほかの人物は疑わなくてよい」と明言をし、容疑者を絞ってしまう。
しかも、この中の一人は物語が始まってすぐに殺され、もう一人も続けて殺されてしまう。残る容疑者はわずか二人。まさに、クリスチアナ・ブランドの短編「ジェミニー・クリケット事件」のようなストイックなフーダニット作品と思う人もいるのではないだろうか。 もちろん、このシンプルを極める構造の中には巧妙なトラップが仕掛けられている。真犯人が死んだと思わせておいて、実は生きているという騙しのテクニックを疑ってかかるかもしれない。とにかく、作者から提示されたルールはただ一つ。紛れもなく犯人はこの四人の中にいるということ。 全ての謎が解き明かされるより前に、犯人を見つけることが出来た人はどれぐらいいるのだろうか。「0の殺人」という意味不明のタイトルの秘密は、読み終わった後に分かることでしょう。 ただ、謎と謎解きの部分は見事なのだが、それを補強する技術の部分が淡白すぎるのは気になった。この謎をもっと魅力的な意匠で装飾すれば、傑作になったでしょう。 |
No.339 | 6点 | 煙の殺意- 泡坂妻夫 | 2021/04/01 09:15 |
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バラエティに富んだ8編からなる短編集。
「赤の追憶」夏の終わりに久しぶりに顔を合わせた桐男と加那子。桐男は加那子が最近大きく変身した理由を推理する。少々古臭く感じる点はあるが、オチは結構好き。 「椛山訪雪図」古美術の蒐集家であった別腸が持っていた墨画の話。掛け軸の絵が一瞬のうちに違う表情を見せ鮮やか。殺人事件との絡みも見事。 「紳士の園」刑務所仲間だった島津と近衛が夜の公園でスワン鍋をすることに。そこで死体を見つけてしまい...。「赤の記憶」とどこか似たような趣向だが、何とも皮肉な雰囲気。 「閏の花嫁」毬子が失踪して一ケ月。加奈江の元に地中海に浮かぶシルヴィ島のマリオと結婚し王妃になったという手紙が届く...。ジャンルとしてはホラー。童話の中にありそうな話で、オチはすぐ分かる。 「煙の殺意」ホステスが自宅マンションの浴室で刺殺される。犯人は真下の部屋に住む男。丁度その時、デパートで史上最悪の火災が発生したところで、望月警部はその火災の様子が映し出されたテレビに釘づけだった...。全く関連性が感じられない二つの出来事が一つになる。お見事。 「狐の面」酒が入った和尚が始めた先代の住職の話。修練者たちの法術の種を見事に明かす。味わい深い語り口で謎もユニーク。 「歯と胴」教授の妻・安子と通じてしまった「僕」。教授の昔の恋人が現れて、探偵社が安子を尾行。安子は「僕」に教授を殺せというのだが...。犯人が語り手になっているが、しっかり驚かせてくれる。 「開橋式次第」親子四世代、五組の家族が同居する吹田家は子沢山で毎日朝から大騒ぎ。そんな一家が開橋式に呼ばれて出掛けていくのだが...。ドタバタしているうちに解決。謎は大したことはない。 ベストは表題作の「煙の殺意」次点で「椛山訪雪図」「紳士の園」。 |
No.338 | 5点 | セブン殺人事件- 笹沢左保 | 2021/03/27 09:15 |
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警視庁捜査一課のスマートな刑事・佐々木と所轄署の無骨な刑事・宮本が捜査方針を巡って対立、時には協力して事件を解決してゆくという趣向の連作集。
「日本刀殺人事件」一見当たり前に見えた人間関係の些細な矛盾を突く宮本の推理が見事、伏線が効いている。 「日曜日殺人事件」主夫業に専念する夫と芸能記者の妻。夫が自宅で刺殺される。アリバイトリックだが凡作。 「美容師殺人事件」プロ野球選手と恋人の美容師をめぐる殺人事件。トリックはある設定でバレバレだが、異様な動機に驚かされる。そんなに上手くいくとは思えないが。 「結婚式殺人事件」ホテルで結婚式に出席していた刑事が逃亡中の凶悪犯に殺される。ホテルの密室状況とその真相の解明がユニークだが意外性を狙いすぎでは。 「山百合殺人事件」殺人現場に残された山百合をめぐる謎。凡作。 「用心棒殺人事件」タレント夫婦の娘が強盗を撃退して時の人に。だが、強盗の相棒が復讐のため娘を狙っているらしい。奇抜な殺人トリックと捻りの効いた動機が上手い。 「放火魔殺人事件」連続放火事件が発生するが、途中から女性の予告電話が入るように。動機の意外性に驚かされる。 刑事の名字が佐々木と宮本ということで、歴史上の人物、佐々木小次郎と宮本武蔵に例えられているが、そのデコボコぶりの扱いが中途半端で十分に生かされていないのが残念。 |
No.337 | 7点 | 家守- 歌野晶午 | 2021/03/22 08:38 |
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家を守ると言えば「ヤモリ」が思い浮かぶが、人が家を守るとはどういう事か。家にまつわる捻りの効いた本格ミステリ5編を収録した短編集。
「人形の家で」過去の嫌な記憶や事件の真相が幻想的な趣向を含めて暴かれていく展開が楽しめる。 「家守」完全犯罪の崩壊と「家」の封印からの解放の重奏を奇抜な殺人トリックが彩る。 「埴生の宿」認知症の話し相手をするだけという好条件のアルバイトが奇矯な死を招く。 「鄙」官能小説家の兄弟が遭遇した田舎医者の事件カルテ。時代背景、人里離れた集落だからこそ起こりうる真相にゾッとする。 「転居先不明」都会に引っ越してきた夫婦が、晒される好奇な目の正体とは。安すぎる物件の罠が巡る真相。ブラックなオチが痛快。 「家」といいうテーマの縛りもあるが、何より各話が二重構造になっているという凝りように感心させられる。いずれもミステリとしての企みに満ちながら、執着と葛藤がせめぎ合う。抒情と郷愁、因習と因果、皮肉と諧謔といったツボを押さえ、予想外の方向へ導いてくれる。 |
No.336 | 6点 | 透明人間は密室に潜む- 阿津川辰海 | 2021/03/17 08:40 |
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表題作は、細胞の変異により全身が透明になる「透明人間病」が蔓延した社会が舞台。主人公はこの病気を研究している学者を、自分が透明人間であることを利用して殺害しようとするが、完全犯罪計画は予想外の事態の続発によって狂っていくという特殊設定ミステリを得意とする作者ならではの仕上がり。
「六人の熱狂する日本人」は、裁判官と裁判員たちによる評議が舞台のワンシチュエーション・コメディ。無作為に選ばれたはずの裁判員たちに共通点があったせいで、評議はとんでもない方向に暴走していく。「十二人の怒れる男」、「12人の優しい日本人」系の裁判員もの。 「盗聴された殺人」は超人的な聴覚を持つ探偵が登場するフーダニットの秀作。 「第13号船室からの脱出」はミステリをモチーフにしたリアル脱出ゲームの場で監禁されてしまった少年が主人公の船上ミステリで、監禁からの脱出とゲームの謎解きが複雑に絡み合い、最後の最後まで油断ならない展開に翻弄される。 どの作品も奇抜なシチュエーションと緻密なロジックを特色としている。 2021 「このミス」2位「本ミス」1位「文春ミス」2位 |
No.335 | 6点 | アルファベット・パズラーズ- 大山誠一郎 | 2021/03/12 10:17 |
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3つの短編と1つの中編からなる連作短編集。
いずれもロジックで攻めるタイプの作品で、奇抜な謎や起伏の激しい展開はほとんどない。良くも悪くも俗悪なエンターテインメント性に媚びることをよしとしない、純粋なパズラー。 なかでも、目まぐるしく推理の方向性を変えながら、意外な犯人と意外な動機を判じ出す「Yの誘拐」の結末は圧巻。その悪魔的な価値の転倒に驚く人が多いのではないだろうか。ただ、前3編のトリックがロジック的瑕疵が多いのが本書の大きなウイークポイント。ツッコミどころが多すぎる。極小が極大を映し出すアイデアは確かに面白いし、洗練されている。しかし、あまりにも大胆すぎるし、現実的では無さすぎる。不自然なアイデアを、不自然に見えないようにするとか、不自然なまま説得させてしまうという工夫が足りないように思う。それでも「Yの誘拐」が傑作であることは間違いない。 「Pの妄想」5点「Fの告発」5点「Cの遺言」6点「Yの誘拐」8点でトータルで6点としました。 |