皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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クリスティ再読さん |
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平均点: 6.40点 | 書評数: 1363件 |
No.3 | 10点 | 半七捕物帳- 岡本綺堂 | 2014/12/26 20:31 |
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半七は日本ミステリの皮切りと言っていい作品なのだが、これぞ日本ミステリの最高のものとして、世界に誇っても全然不思議ではないミステリの枠さえ超えた大傑作シリーズである。
ミステリ=「シャーロックホームズに刺激を受けて書かれた作品」と乱暴に定義するのならば、明白に半七はまさにそうなのだし、幾多のフォロワーたちを抜いて優れているのは、ホームズが持っている「社会のすべての階層を描いた小説」という側面を、まじめに実現できているという点である。いや、それだけではなく、描かれている社会が「過去の社会」である、というまさにその点で、ホームズさえも凌駕するところがある。 半七は有能な職業人ではあるが、天才探偵ではない。半七が到達する真相が驚くべきものであるのは、半七の生きた世界がすでに存在しないためであり、半七にとって明白なことは半七捕物帳の読者にとってはすでに自明ではないからである。それゆえ半七捕物張は意図せざるメタ・ミステリであり同時に、幕末社会に対する最高の案内書なのである。 日本と日本人の来歴を理解するためにこれほど優れた本は存在しない。日本人必読の書だと言っても過言ではない。それこそ漱石鴎外と並べても遜色がない小説なのだから、評点は最高点である。「逝きし世の面影」あたりを併読するとさらに佳し。 |
No.2 | 6点 | ハロウィーン・パーティ- アガサ・クリスティー | 2014/12/26 20:06 |
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評者はクリスティって言うと初期は「クィン氏」後期は「終わりなき夜に生れつく」が二大傑作だと思うようなマイノリティなんだけども、この作品はたぶんクリスティ本人も大いに気に入った「終わりなき~」を「もしポアロ物として書き直したらどうなるんだろう??」と思って書いたんじゃないかと推測する。要するに
1.犯人像 2.建築物(庭園)に対するこだわり 3.犠牲者的キャラ 4.副次的な共犯者を廃墟であっさり始末 5.イギリスの土俗的なオカルト風味(今風に言えばウィッカとか) 6.犯人は愛しているにもかかわらず殺す(殺そうとする) とかいろいろ要素的な部分で共通性が多いように思う。 まあ純粋にミステリとして読むと、犯人による偽証から来るレッドヘリングが2つあって、1つは明白にヘンなので犯人の推測がついちゃうためよろしくないが、もう一つはすばらしい(がこれされると、推測しづらくなりすぎる...)。被害者に関するミスディレクションは想定内。当然そうでしょう。 クリスティ的な見所は年老いたポアロの内面描写がどんどん増えていってるために、ポアロというよりもサタスウェイト氏化してきていて、そこらへん「犯人は芸術家だが、探偵は批評家にすぎない...」というような妙な感慨がある。言ったら何だが初期のポアロって年若い女性作家がついつい書いちゃったぽいキャラだったのだが、それなりの熟し方をしているのがこの本の一番の興味だと思う。 総じてファンタジックな趣が強く、小説としての良さがミステリとしての良さを上回っている。クリスティ晩年らしい作品。ミランダって命名はテンペストからだよね.... |
No.1 | 7点 | 蒼ざめた馬- アガサ・クリスティー | 2014/11/30 21:37 |
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昔読み倒したクリスティを改めて再読している。
クリスティの後期って初期とは比較にならないくらい人物造形がいい。この作品はおなじみ名探偵は出ないにもかかわらず、脇の印象的な人物が再登場するのが大きな趣向になっている。 クリスティ準レギュラーのオリヴァ夫人が、要のところでいい仕事をしているし、この作品だと特に「悪の卑小さ」みたいなことがテーマになってくるわけだが、それを際立たせる凛とした雰囲気を漂わせるカルスロップ夫人がいいし、デスパード夫妻も再登場である。 ヒロインはさすがに新規キャラだが、ジンジャーもクリスティらしい勇敢なヒロインで、ありがちな嫌味を出さずに書けるのがクリスティの本当にイイところのように思う。 で、この作品はクリスティ後期に目立つノンシリーズ物。「実年齢が追いついて自然体で書けるマープル物」と「時勢の流れの中でリアルに動かしづらくなってきているポアロ物」に対して、いろいろと実験的な試みをしているのがノンシリーズ物なのかもしれない。キャラ小説としては不利なせいか、どうも人気薄に感じるが、この作品とか「終りなき夜に生れつく」とか「ねじれた家」とか、独特のドゥーミーな雰囲気が好きだなぁ。 この作品の本当の狙いは、これらのおなじみ人物たちが、クリスティには珍しい組織犯罪に対して、相互に支えあうささやかな十字軍めいた関係にあるのではないのだろうか。再登場した人々は名探偵ではないが、それぞれに「義の人」であり、それゆえにゆったりと連帯しあう。ここらへんにどうやら評者は感動したようである... |