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[ 警察小説 ]
約束
フリードリヒ・デュレンマット 出版月: 2002年05月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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早川書房
2002年05月

同学社
2016年04月

No.2 7点 クリスティ再読 2017/10/09 20:26
昔「嫌疑」を読んで面白かったことから、本作も買って読んだ。だからまっとうなエンタメ/ミステリなんて期待せずに、その「はみ出かた」如何?という感じで読んだわけだ。
スイスの寒村の森の中、赤いスカートの少女が強姦後殺害された。死体発見者の行商人が、容疑者として取り調べを受けるが、自白後に自殺し事件は落着したかに見えた。しかし捜査に当たったマテイ警部は「約束」によって縛られ、ついには孤児の少女を引き取り、国道沿いにガソリンスタンドを開いて、少女を囮の「真犯人を釣り上げる」孤独な道を選んだ...という話。本作ポケミスで130pほど、中編程度の短さで、リアルな話というよりも、民話風(というか、ゴーゴリとかシュティフターとか、ロマン主義的な屈折を内包した民話風)の味がある。松本清張の「張り込み」とか、視点の置き方はああいう感じなんだけど、清張にはない土俗的な得体のしれないオーラがある。
で結局いつまでたっても真犯人は現れない。少女は大人になり、自堕落に暮らすようになり、マテイも妄念に捉われたまま朽ち果てようとする。しかし、マテイの旧上司たる語り手は、

この話にはまだオチがあるんです。しかもお察しのとおり、実にパッとしないオチがね。そのパッとしないことといったら、どんな小説も映画にもつかえないほどです。それは滑稽で、間が抜けていて陳腐ですから、もしこの事件を小説にしようと思われるのなら、どうしてもこのオチは省かねばならないでしょう。しかし正直言って、このオチはまず徹底的にマテイを弁護し、彼を正しい照明の中へおき、彼を天才たらしめるものです。

これは徹底的に負け続ける聖者の話のように評者は思う。ミステリの枠をまったく踏み外さずに、完全にミステリから逃れさる、という「反ミステリ」とでも言うのか、ミステリを極めてミステリからズレるいわゆるアンチ・ミステリとはベクトルが真逆の作品である。

No.1 6点 kanamori 2013/05/19 11:38
昨年「失脚/巫女の死」で注目を集めたスイス出身の劇作家デュレンマットの50年代に書かれた長編ミステリ。

スイスの森の中で惨殺された少女。その被害者の母親との「必ず犯人を逮捕します」という約束に縛られたように、栄転話を捨て警察の職までなげうって、ひたすら犯人に罠を張り続ける元警部の執念は鬼気迫るものがあります。
しかし、本書は副題に「推理小説へのレクイエム」とあり、また小説の語り手が冒頭に示唆しているように、作者はミステリ読みが期待する真相を用意していません。
この苦すぎる結末は評価が分かれそうで、一種のアンチ・ミステリといえます。


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フリードリヒ・デュレンマット
2012年07月
失脚/巫女の死
平均:6.67 / 書評数:3
2002年05月
約束
平均:6.50 / 書評数:2
1962年01月
嫌疑
平均:8.00 / 書評数:2