皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ 短編集(分類不能) ] 失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 |
|||
---|---|---|---|
フリードリヒ・デュレンマット | 出版月: 2012年07月 | 平均: 6.67点 | 書評数: 3件 |
光文社 2012年07月 |
No.3 | 6点 | クリスティ再読 | 2017/12/15 06:54 |
---|---|---|---|
「嫌疑」とか「約束」とかイケてた作家だから、結構期待したのだが...
短編集ということで、さすがの切れ味はある。狙いのうまい作家という印象だが、テーマが短編ではナマで出てしまって「アタマのイイ作家だなあ」という印象になってしまうのが、やや難。筒井康隆に対する評者の不満に似た印象を受ける。「嫌疑」や「約束」で感じるような、「わけのわからない」迫力みたなものもう少し感じたいな。 人によって、この4作で「どれが」がかなりバラける短編集じゃないかな。評者は「故障」が一番イイと思う。「熱海殺人事件」の元ネタと言われても納得するかも。4人の元法曹人たちの「グロテスクで奇妙な引退した正義」という捉え方が妙にツボである。ミステリの真相というものを「引退した正義」として捉え返すこと、というのは結構イイ視点だと思うよ。たとえばクイーンでも「第八の日」とかこういう見方に通じるものがあると思う... あと「巫女の死」は、これはオイディプス神話全体の一種の多重解決モノとして読むべきでしょう。「オイディプス王」の内容だけだとちょっと背景理解が不足するのでは。理に落ち過ぎても何なんだが、「理性を信じる予言者」の理性がアテにならず、「イイカゲンな巫女」の気まぐれに振り回される皮肉、あたりにポイントがあるのではとも思うが... というわけで、デュレンマットを読むのは、「理性不信の探偵小説」という難題を抱えこむ覚悟がちょいと必要のようだ。 |
No.2 | 7点 | アイス・コーヒー | 2013/12/14 11:17 |
---|---|---|---|
世の中を皮肉り、かつ喜劇化する不思議な手法の作品だ。収録されている四つの短編のうち気になったのは「失脚」。粛清に怯える革命政権の大臣たちの心情が戯画化され、中々考えさせる仕上がりになっている。特にアルファベットで呼ばれる登場人物のうち「J」が抜けていることが不思議だったが、これは何を意味しているのだろうか。
もう一つの表題作である「巫女の死」は歴史改変もののある種のミステリで、「悲劇オイディプス王」の物語を知っているととても面白く感じられた。何より一読の価値がある良質な異色短編集だ。 |
No.1 | 7点 | kanamori | 2012/12/28 10:49 |
---|---|---|---|
スイス出身の劇作家・小説家、デュレンマットの中短編4編が収録された作品集。作者の邦訳は、ずいぶん前に早川のポケミスから2作ほど出ているのは知っていたのですが、読むのはこれが初めて。
社会性のあるテーマを持った文学的な風刺小説という側面もありますが、そういったものを抜きにしても物語として面白かった。 第1話「トンネル」は、通学の列車内という日常が突如として非日常に変転するシュールな不条理小説。 「失脚」は、スターリン時代のソ連を思わせる政治局会議の一幕劇風の心理サスペンス。幹部それぞれ粛清に怯えながらの心理戦が滑稽だし、結末がこれまた喜劇的です。 「故障」は、ミステリのジャンルでいうと”奇妙な味”。車の故障のためある屋敷に泊まることになった有能セールスマンが、4人の老人と”裁判ごっこ”を始めるが・・・という話で、終盤の展開は読者のヨミの斜め上をいってます。 「巫女の死」は、”オイディプスの悲劇”を扱った歴史幻想もの。デルポイの神託を司る預言者と老いた巫女の俗物的な造形が、現代の怪しげな新興宗教団体のパロディみたいで笑える。 |