皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
クリスティ再読さん |
|
---|---|
平均点: 6.40点 | 書評数: 1379件 |
No.1139 | 5点 | メグレ警部と国境の町- ジョルジュ・シムノン | 2023/06/05 17:45 |
---|---|---|---|
「メグレを射った男」の書評で「入手は降参」と書きはしましたが、調べてみると「国立国会図書館デジタルコレクション」というナイスなサービスがあります。身分証明書の画像を送って認証してもらうとかネット上の手続きが必要ですけど、シムノンの創元絶版分はおろか、名のみ聞く春秋社の刊行本やらわっさわっさと読むことができちゃいます。
本書とか「国会図書館で読んだ!」とか声の多い作品ですからね、こんなサービスするなら当然の候補というものでしょう。ただし、OCRではなくて画像としてそのまま取り込んだものですから、やや使い勝手は悪いです。スマホでもPCモニタでも読みづらくて、ノートパソコンを膝に乗せて立膝で寝転んで読むのが楽ちん。 そんな怠惰な読書姿勢でですが、幻の作品、行きましょう。 ベルギー国境の町ジベを、半ば私的な依頼のかたちで訪問したメグレ。パリで会った女アンナ・ピータースの冷たいキャラに興味を引かれて、アンナの弟ジョセフが、婚約者がありながらも子供まで作った女の失踪事件の捜査に乗り出したのだ。食料品店兼で角打ちでジンを提供し、フランス国内でありながら国境の向こうのフランドル人の河川労働者を相手に、利益を上げているピータース一家。そんな余所者一家の長男が、フランスの貧しい一家の娘に手をつけて子供まで作りながらも、許嫁と結婚しようとしている...ジベの街のフランス人からはこの失踪事件が一家の仕業と目されて、不穏な空気が漂っていた。メグレはこの事件をどう収拾するのか? 川沿いの街ということもあり、シムノンお得意の舞台設定、さらにはベルギー国境の街。さらには小商売に成功したプチブル傾向の強い余所者と、貧しい地元民の対立....コテコテのシムノン、と言いたくなるくらいの作品。でも事件は意外に単純。アンナの独特の情の強いキャラはいいんだけども、どうも作品としてはうまく回ってない。瀬名氏は「オランダの犯罪」の焼き直し、と言っているけども、まあそんな感じもあるかな。 さらにオチも第一期にたまにある後日譚で、ここらへんも「オランダの犯罪」っぽすぎるね。 う〜ん、雰囲気にはいいものがあるんだけど、手癖で書き飛ばしたような、と言ってしまえばそれまでか。メグレは本作だとジンばっかり飲んている(苦笑、あ一度グロッグにした)。 |
No.1138 | 8点 | 洞窟の女王- H・R・ハガード | 2023/06/05 13:27 |
---|---|---|---|
「ソロモンの洞窟」がジュブナイルみたいな明朗快活路線だったのにがっかりはしたのだけども、本作の方に期待していたからね。うん、本作って前半は「ソロモン」と大差ないアフリカ冒険旅行譚なんだけども、「SHE(原題)」である「洞窟の女王」アッシャが登場してからは...いやいや評者ツボでした。
アッシャのキャラがイケない方は、楽しめない小説だと思う。2000年間失った男を待ち続ける不老不死の女王。もちろん権高い肉食系。ツンはもちろんだけど、たまにデレてこれがたまらないです。評者イゾルデやらブリュンヒルデといった魔女系ヴァーグナー・ヒロインにズッポリな人間なのでどストライク。 先祖代々受け継がれてきた伝承をもとに、養父のホリーと共にアフリカ奥地に旅立った「ライオン」と形容される美青年レオ。この一行は引き寄せられるかのように女王が統治する「死者の国」めいたアマハッガー族の国を訪れる...一行を人喰い人種でもあるアマハッガー族の手から救った、レオに恋するアマハッガー族の少女アステーンも登場。 でもさ、あっさり女王アッシャの魔力でレオに恋する少女も撃退、にもかかわらずレオはアッシャの魅惑の虜。「2000年越しのミラクル・ロマンス」だから問答無用な威力。これを読者に納得させるためにか、醜男の養父ホリーもアッシャの魅惑に終始圧倒されっぱなし。うまいフックになっていると思うよ。 まあだからこれが受け入れられない人は、全然ダメだろうね。アッシャは「惚れたら命取り、惚れられても命取り」、道徳なんぞ踏み躙って何も気にしない魔女。そんな「ロマンス」だから理屈じゃないんだよ。 お話だから、すんでのところでこの恋は成就せず、レオとホリーは命からがらヨーロッパに逃げ帰り、その手記を作者の元に残して、チベットに旅立った.... というわけで続編「女王の復活」で決着がつくらしい。やならきゃね。 |
No.1137 | 5点 | 大あたり殺人事件- クレイグ・ライス | 2023/05/30 17:45 |
---|---|---|---|
評者は「大はずれ」からの連続で本作。まあやっぱり、こういう風に続けて読むものだよ。
「大はずれ」でのモーナとジェイクの「カジノ」を巡る賭けも決着するし、これが一応全体的な仕掛けになっているわけで、連続して読まないとこの機微がわからない。それが真相とはそうリンクしているわけではなくて、わりとご都合主義的に決着がつく。肩透かしな感じ。 で面白味はジェラルド・チューズディという身元不明の男が2度殺される、という謎。この趣向はわりと面白いし、「なぜ同じ名前?」という謎の説明もなるほど。真相は多少伏線が張られているから、何となく想像はついていた。唐突というほどではないと感じるよ。 それでもやや落ちる?と思わせるのは、ヘレンの破天荒っぷりが本作だとやや大人しめなことだと思う。前半のジェイクとのすれ違いシチュエーション(間に挟まれて困るマローン)は面白いけど、後半話がグダグダになって間延びするから、やや引き延ばしすぎ...という印象はある。後半失速で減点。 マローンは陳腐な言葉を吐いた。「所詮、人間は空に打ち上げられる途中で面倒にぶつかり、そして消える花火なのさ」 こんな言葉を吐くマローン、実は飲んでばかりのクセに有能で「シカゴ一の刑事弁護士」。パブリックイメージより二枚目寄りだと思う。訳者あとがきで小泉喜美子がマローンに「田中小実昌、殿山泰司、阿佐田哲也のお三方を足して三で割る」とアテているのは、ちょっとワキに寄せすぎだと感じるがなあ。フランキー堺くらいでもいいんじゃないかしら。 |
No.1136 | 7点 | 大はずれ殺人事件- クレイグ・ライス | 2023/05/26 21:43 |
---|---|---|---|
ライスの作品を「ユーモア・ミステリ」と呼ぶと、時代の違いもあってその美質を捉え損ねることもあるのではないかと危惧する。「何を笑うかによって、その人の人柄がわかる」って言うじゃない?訳者の小泉喜美子が
結局、彼女のミステリは本当の意味での成熟した大人のための娯楽なのだと思います。 と書いているのがまさにそう。読んでいて、ジェーク=アステア、ヘレン=ロジャース、マローン=E.G.ロビンソンあたりの配役がアタマに浮かんでしょうがない。そう「ザッツ・エンタテイメント!」なんだよ。アステア映画もそうだが、いわゆる「スクリューボール・コメディ」のシナリオの「ユーモア感」というものは、極めて知的で技巧的なものであり、現実離れして「砂糖菓子みたい」と言われながらも洗練の頂点を示している。これをそのままミステリに導入したのがライスの作品だと言っていい(第二期クイーンもやっているが、ライスには遠く及ばない...) しかし、公然と「絶対つかまらない方法で人を殺してみせる」という賭けをする女モーラと、それを受ける主人公ジェークという枠組みは、「ミステリの構成」として考えてみたらやたらと難しいことをしている。ジェイクがモーラの殺人の証拠を見つけたら、ストーリーは一貫するがミステリとしてはつまらない。モーラが実は殺していないのなら賭けは不成立で話の辻褄が合わないが、ミステリとしてはノーマル....いやいや、どうするんだ、これ。 しかしモーラの動機を巡る推理は、 犯人の正体を指摘するためには、動機の発見ではなく、動機が欠如していることを発見することだった という逆説があったりね。と、実はミステリとしてはいろいろと論点があって「ミステリ論的」に興味深い作品だと思う。まあ必ずしもこの「仕掛け」が真相に関して効いているとまでは言えないので、評価はこのくらい。これを完璧にこなしたらミステリ史上の大名作でしょ。 とはいえ堅苦しいこと言わなくても、三人組の「映画みたいな」洒落た活躍を追っていけば、十分楽しめる小説になっている。 |
No.1135 | 5点 | 疑惑の影- ジョン・ディクスン・カー | 2023/05/22 17:05 |
---|---|---|---|
フェル博士登場作なのに主人公は熱血弁護士バトラー。
どうも皆さんこの設定に面食らわられているのかな。いやこれカーの「プレ歴史ミステリ」ではなかろうか。バトラーのキャラ設定には「ニューゲイトの花嫁」のダーヴェントや「火よ燃えろ!」のチェビアト警視の面影があり、確かに「歴史ミステリのカー」好みの主人公だ。 そしてやや時代がかった黒ミサの話とか書いていて、「時代設定を一世紀ほど遡らせた方が絶対面白いじゃん!」とカーが思わなかったわけがない。だから翌年には「ニューゲイトの花嫁」を書くわけだ。 ただし、全体の構成がうまくいってない感がある。いやミステリ的な骨格は大変面白いんだけど、「作者が読者に対してメタに仕掛けたもの」という感覚のものなので、ミステリ的な見地でのデテールの無理があると興ざめる。 その他、面白い場面を描こうとするために、やや状況に無理を感じるとか、「もっと丁寧に書けばいいのに...」と残念なところが多い。オカルトの扱いも中途半端にしか感じない。 移行期の失敗作だと思う。 |
No.1134 | 8点 | 九マイルは遠すぎる- ハリイ・ケメルマン | 2023/05/17 08:43 |
---|---|---|---|
どんな「名探偵の推理」であっても、ヘリクツといえばヘリクツ。
ミステリにとって一番イタい指摘に対して、「でも!」と言える立場があるとするならば、その「推理」が築きあげる堂々とした空中伽藍の美にあるんじゃないのかと、評者は思うのだ。 だから表題作の「凄さ」というのは、片々とした隻句から幻のように犯罪計画が浮かび上がってくる、強引極まりない力技に徹し、それで振り切ったことなのだと思う。 いいじゃない?ニッキィの推理が妄想だったとしても。それでも十分小説になるよ。 まあだから、表題作以外の作品は普通に「安楽椅子のミステリ」を書こうとした、というのが何となく感じられる。 それなりに、いい。しかしこの「それなりに」さが、表題作の異常さを逆に際立たせているようにも感じられる。 「九マイルは遠すぎる」みたいな短編は、「天から降ってくる」ようなもので、書こうとして書けるものじゃない。そう思う。 |
No.1133 | 7点 | お楽しみの埋葬- エドマンド・クリスピン | 2023/04/22 03:40 |
---|---|---|---|
セイヤーズやり出したこともあって、イギリス新本格とかイギリス教養派とか呼ばれる作家たちの作品を改めて読むのもいいのでは...の狙い。
アマチュア探偵ジャーヴィス・フェン教授が縁もゆかりもない選挙区から無所属で選挙に立候補する話を軸に、恐喝事件に端を発しフェンの知人の警官が、フェンとニアミスみたいな状況で刺殺される事件を扱った本作、面白めの犯人とか、伏線が周到に張られていてミステリとしてナイスなんだけども、それ以上に諷刺的でコミカルな社会小説というか、ちょっとヘンでおいしい話が盛りだくさんな「小説」というあたりにいい部分があるわけだ。 ・宿屋を改造することに憑りつかれた持主によって、フェンが泊る宿屋がどんどん破壊されていく ・宿屋で育てていた「ゴクツブシの豚」が売っても売っても戻ってくる ・ポルターガイストを同居人扱いにする牧師 ....もちろん選挙戦と意外などんでん返しも笑える。だけども、こういうったヘンでオカシいイイ話が、ミステリとはまったく絡まない! そうしてみると、ミステリを話の軸にはするけども、他の面白要素とは並列的なユーモア小説というあたりで楽しめばいいのかな~なんて思う。要するにミステリの風俗小説化といえばいいじゃないのかあ。小説として強くローカライズされているから、マニア主導の日本ではウケなかったんだろうなあ。 |
No.1132 | 5点 | 腰ぬけ連盟- レックス・スタウト | 2023/04/12 17:22 |
---|---|---|---|
クイーンの「最後の一撃」の中で、スタウトの処女作がヒネクレた純文学だった話が出ているんだけど、ミステリ第二作の本作って、そういう片鱗が窺われる。ケンブリッジの学寮で起きた事故で障害を負った男と、その原因を作った寮生たちの間でできた「贖罪同盟」。障害を負った男は作家として成功するが、「贖罪同盟」の人々はこの件で負い目を負いつづけて...で、この「同盟」のメンバーに変死が立て続けに起き、それを嘲笑うような戯詩がメンバーに送り付けられた!メンバーたちはビビって、ウルフにその作家からの脅威を取り除くように依頼する...
この「腰抜け同盟」のメンバーは、中にはドロップアウトしたのもいるが、大体はインテリで成功者たち。しかもこの作家チャピンのヒネクレ具合といったら、本当に手におえない。このチャピンと、それに連れ添う妻ドーラが極めて個性的なキャラなのが、この小説の読みどころ。で...なんだが、直接に描かれてはいなくて匂わせているだけだが、チャピンはその事故で生殖機能を失っているみたいなんだね。その代りちょいとしたヘンタイな趣味も発揮している。そりゃ妻のドーラも相当変わってる。マゾ? まあ、ミステリとしての興味が絞られてくるのは相当遅いし、「贖罪連盟」のメンバーのキャラは数が多いだけであまり書き分けられているわけではない。結構読み進むのが大変だったが、訳文がアタマに入りづらいところがある気がする。佐倉潤吾氏だからそう下手な訳者じゃないんだがなあ。 ウルフ物としては、ウルフが珍しく外出する。しかもこの外出について、ちょっとしたギミックがある。またウルフが受けた依頼に「殺人犯を探せ」がないために、ウルフ物らしいヒネった策略もあったりする。そういうあたりは楽しい。ミステリとして悪くはないんだが、どうも不完全燃焼感がある。 ミステリとしての仕掛けがキマってはいるからか、代表作に挙げる人もいるようなんだが、ウルフ物らしい楽しさ全開..とまではいかないなあ。いや良い点いろいろリストアップはできるんだけど、あまり推したくないところがある。 |
No.1131 | 5点 | バルカンの火薬庫- アルセーヌ・ルパン | 2023/04/06 12:39 |
---|---|---|---|
ボア&ナルの贋作ルパン2作目。前作「ウネルヴィル城館の秘密」のラストで、第一次大戦が勃発することになるのだが、本作はそれを2年ほどさかのぼる話..だけど、第一次大戦の背景となったバルカン情勢に取材した話になっている。
でも幕開けからシャトレ座でのバレエ・リュスの伝説的な舞台をルパン(セルニーヌ公爵)が見物している!ニジンスキーとカルサヴィナの「薔薇の精」である。すごいな~羨ましいというかなんというか(小説の人物を羨ましがっちゃいけないが)。 この帰りがけにルパンが遭遇した乙女のピンチ。見逃したらルパンじゃない....これをきっかけに、不思議な強盗事件・精神病院に囚われたその妹と誘拐事件などなどの怪事件がこの乙女の周囲で起き、それをルパンが助けようと奮闘する話。だから、ルパンというよりも分身のセルニーヌ公爵の冒険譚。 しかし、その背景にはセルビアの大公の秘密の恋が絡み、最後はこの乙女の城館でのラブロマンスと、対立するハンガリーの刺客との闘争、といった展開。 まあだから「ウネルヴィル」と違って、ルブラン作品のパスティーシュの色は薄く、ルパンを主人公としたロマンス色の強いオリジナルの活劇になっている。それでもルパン、最後にはしっかり推理して殺人犯人を暴くミステリ要素がしっかり組み込まれているんだが、ボア&ナルの狙いはなんとなく、わかる。 王室のラブレター争奪戦というロマン色というのは、やはり「ボヘミアの醜聞」を連想するが、「醜聞」自体は1889年のマイヤーリンク情死事件(「うたかたの恋」)からヒントを得たものでもあろう。あるいはセルビア大公の「ミカエル」という名前から、あるいは架空の小国シリリアからたとえば「ゼンダ城の虜」を連想したりもする。そういった「ルリタニアン・ロマンス」の味わいを贋作ルパンとして構築してみせた、といったあたり。 それでも展開はやや地味かなあ。登場人物はこの姉妹が中心でかなり少ない。まあ、警官あがりでルパンと行動を共にする私立探偵モングージョがなかなかナイスなキャラ。 |
No.1130 | 6点 | 不自然な死- ドロシー・L・セイヤーズ | 2023/04/03 11:08 |
---|---|---|---|
「ブラックマスク」の件が気になるので、本作やろうか。
いや結構この話、リアリティがあるんだよね。最後まで問題になる犯行手段の件も、突飛なトリックではない(聞いたことはあるが、フツーの状況ではよっぽどの量がないと問題にならないようだし、直接的なやり方には違和感がある)し、具体的な動機となった法律の問題も、似たような話で評者もちょいとアタマが痛い。そうしてみると、この作品の「いい部分」というのは、現実の社会に根付いた「あるあるネタ」に近いようなリアルな部分だ、と結論できると思う。セイヤーズは松本清張同様にトリックメイカーだけど、トリッキーではないんだ。話のアウトラインだけを取ったら「ブラックマスク」に載ってもおかしくない非情なシリアルキラーの話なのかもよ。 いやだから、というか、クリスティとセイヤーズの違いみたいなものも気になるのだ。同じ女流とはいえ、中流上層出身で貴族探偵を起用するセイヤーズがイギリス社会の現実に即したリアルな話が得意なのに対して、クリスティの捉えるイギリス社会にリアルな味わいがない。これ意外かもしれないが、実はクリスティの両親はアメリカからイギリスに出戻った(※後記)人らしく、クリスティのバックグラウンドって、イギリスの地縁血縁のシガラミから脱したあたりにある。セイヤーズのいい面は「イギリスのローカルをリアルに描いた小説」である部分だし、クリスティのいい面は「インタナショナルで普遍的な小説」である部分なんだと思う。「イギリスのミステリ」という面ではクリスティ(とイギリスびいきなアメリカ人のカー)が特殊であり、セイヤーズの方がたとえばイネスやらクリスピンやらアリンガムやらに直接つながる面があるんだろう。 イギリスのリアル、という面だと、2組のビアン?なカップルが描かれた小説...と読めなくもないあたりも面白い。いや実はクリスティの「予告殺人」でも、田舎町で養鶏を営む女性二人組の話があったりして、本作ともヘンな共通性がある。「オトコ勝りな女」が、独力で社会生活を送ることができるようになった、最初の世代のストーリーとしてセイヤーズは読むのが、海外での最近のトレンドになっているんだろうなぁ。 うんまあ、ちょっとセイヤーズ、追いかけようか。 後記:クリスティの両親の経歴について、弾十六さんからのツッコミあり(掲示板#34467「RE:アガサさんのルーツ」参照)。ありがとうございます。実情はもう少しややこしいですが、一般的な意味での「イギリス人」というものとはちょっと違う面があります。 |
No.1129 | 7点 | 黄金の褒賞- アンドリュウ・ガーヴ | 2023/04/01 22:23 |
---|---|---|---|
ガーヴというとシリーズキャラクターを頑固なくらいに排斥し、無名で平凡な善人が時ならぬ「悪意の脅威」に晒されて、右往左往・七転八倒するプロットが十八番のわけだ。本作はそれを純粋化したような話だから「道の果て」あたりが近い。
子供と妻の命を我が身を投げうって偶然助けた見知らぬ男。主人公は退役軍人と称するこの男への負い目から、とんでもない運命に巻き込まれる。主人公が善人であり世間知らずの学者体質だからこそ、この話の趣きがあるのだが、今回は「イベント」自体は中盤であっさり片付いてしまう。だからこそ、話の進行の中で「どんなかたちでのドツボが待っているのか?」と読者がアタマをひねるのが眼目で、現在進行形のスリラー要素がない、というのが大きな狙い。結構珍しいタイプの話じゃないのかな。 だから本作、ガーヴの中でも地味といえば地味な作品だし、「考えオチ」みたいな面があるヒネった小説だ。そういう罠といえばそうだが、それを最後にするりと....ガーヴのハッピーエンドのお約束はしっかり守られている。 「ガーヴは甘口」と仰るのはわからないわけではないが、これが王道というものでしょうよ。 |
No.1128 | 7点 | 奇相天覚- 高山和雅 | 2023/03/30 10:17 |
---|---|---|---|
SFマンガというものは、ちょっと主流から外れた扱いされつつも、それでも一定の地歩を保っているものだ。でも「マニアックなハードSFマンガ」となると、マーケットは限られる。高山和雅といえば、一時講談社モーニング誌で活躍しはしたが、単行本の多くは青林工藝舎(要するにガロ系)から散発的に出ているだけで、作品評価の高さの反面、極めてマイナーな作家にとどまっている。
というわけでハードSFの代表作の「天国の魚」を取り上げるつもりなのだが、まずは小手調べ。モーニングに前半を連載した後で、後半を書下ろしで出した伝奇SFの本作である。メジャーの仕事なので、ある程度キャッチーは狙っている。 辻占で生計を立てる容貌魁偉な天覚は、街で角の生えた男と遭遇する。その男の邪気にただならぬものを感じた天覚は、赤ん坊に生えた角をこの菊池という男の額に移植したことを調べる。菊池の行方を追って天覚は戸隠村を訪れるが、山中にダイダラボッチと呼ばれる巨石遺跡と、それを守護するイズナ使いたちとの、独鈷杵を巡る争いに巻き込まれる。しかしこれは鬼と人類の超歴史的な闘争の最終決着の幕開けだった....舞台は飛鳥からアイスランドへと移り、地球レベルでの地殻変動を天覚は防ぐことができるか? まあこんな話。「暗黒神話」+「ヤマタイカ」といった伝奇SFマンガの王道な雰囲気。しかし、絵柄は大友克洋をサイケデリックにしたような...というと、分かったような分からないような。この超古代のガジェットたちが実に縄文サイケデリックなデザイン、かつ「鬼の因子」の発動による変身が強く諸星流の「あんとくさま」テイスト、さらに「地上最強の男竜」みたいなパースの美もあって、グラフィックな楽しみが強くある。 逆に言えば、主人公の天覚、プロレスラー体格で坊主頭、と読者のいわゆる「感情移入」を期待しないような造型、というのがメジャー作品としてはかなり異色。いやキャラはすべてクールに外面的に描かれるだけで、そこらへんでも「SFの矜持」が窺われる。 まあとはいえ、アクションの連続で話が進んでいくから、スケールの大きさに讃嘆しながら読み進めればいい。そこらへんはメジャー仕事である。ガロ系SFな「天国の魚」だとこういうキャッチーな要素が切り捨てられて、ずっと渋くなるのだが、これを一人の作家の振幅として楽しむべきだろう。 (個人的には伝奇SF次世代の有名作品の「七夕の国」あたりとヒケを取らないとおもうのだがなあ...) |
No.1127 | 7点 | 建築探偵の冒険 東京編- 藤森照信 | 2023/03/28 13:09 |
---|---|---|---|
久々に反則したい。「探偵」ってタイトルがついているからまあいいじゃないの。
ポオの「群衆の人」が都市の不定形な群衆のイメージを「探偵」の目で観察した作品だったわけで、「都市の観察者としての探偵」というものは、実はミステリの成立の足元で同時に立ち現れていた...そう捉えるならば80年代の路上観察学会やら考現学といった動きはそのまま「探偵」活動だった、と言ってもいい。赤瀬川原平「超芸術トマソン」と並ぶ「都市の探偵」はこの藤森照信の「建築探偵」ということになる。 この本は東京都内に残された洋館建築を藤森が足でルポするエッセイなんだけども、そういう「探偵活動」、管理人に怪しまれ、犬に追いかけられ、はたまた誰も立ち入らないバックヤードに侵入しetc,etc な活動をユーモアを交えてレポートしている。小説のつもりで読んでも、いいんじゃない? 扱われる建築は「ダダイズム建築」として名高い東洋キネマ、クラシックな東京駅、ゴシック聖堂を内包する聖路加病院などなど、今では幻の建築も含まれるが、そういった東京の名建築の楽しみどころや由来を探検し探偵していく話である。実際、東洋キネマなどは著者のレポートがきっかけで無名の設計者への聞き取りも実現して、建設の経緯なども明らかになったそうだ。 訪れた建築にはマッカーサーが接収して本部とした第一生命館もある。以前、細野不二彦の「東京探偵団」の話を書いたことがあるが、その一編「星条旗の幻」(コミックス6巻)はこのビルが舞台で、本書に載っている写真がおそらくマンガの描写内でも模写されているし、このビルの土台の話もこの本から取材したものと思われる。原作みたいなものだな。 まあ80年代に元気よく東京の学生生活を送った人には、大変懐かしい本であろう。この本で取り上げられた建築のほとんどがそのままではもうすでに存在していないわけで、消え去った昭和への哀悼の念を改めて感じる。 「探偵」は必ずしも犯罪事件を追わなくてもいい、というのが「日常の謎」ミステリならば、本書だって立派に「日常の謎」かもしれないや。 |
No.1126 | 6点 | 一角獣殺人事件- カーター・ディクスン | 2023/03/27 19:20 |
---|---|---|---|
そういえば手元に別冊宝石63号があるので確認してみたのだが、1957年の訳者も国書刊行会が1995年に新訳で出した訳者も、田中潤司である。38年ぶりの旧訳者による改訳。訳文を対照してみたが、まったく新たに訳し直した訳文になっている。藤原編集室が企画した国書刊行会「世界探偵小説全集」の目玉だった作品。「こんなクラシック出して大丈夫?...でもね、マニア根性としては...」というあたりを突いた企画で、ギョーカイを動かしちゃったわけだが、こんな「仕掛け」も潜んでいたことが面白い。
「スパイとか怪盗とか大時代的な作品」で一般評価の低い作品なんだけども、いや、悪くないよ。人の出し入れがごちゃごちゃしている欠点はあるけども、導入のファース風味活劇がしっかりとした伏線になっているので、そういうあたりを肯定的に評価したい。 というかさ、今の読者が嫌がる理由って、「ありえないくらいの偶然から、話がもつれている」というあたりじゃないのかな。けどこれ「不可能」を解くためにはそうでないといけないから、十分推理可能だと思う。まあカーの独特の掟破りな傾向から「当てにくい!」という声があるのはわかるのだが。 まあ怪奇趣味にポイントはなくて、どっちかいえばケン&イヴリンのラブコメ冒険が軸の作品だと思うといいのかも。これも日本のマニアが嫌がる要素ではあるか。 そうしてみるとマニア向けなのかそうでないのか、ビミョーなあたりも妙に評者は面白い。 (あ、あと凶器の英語名称に評者は興趣を感じる。調べてみて) |
No.1125 | 5点 | 海の門- ボアロー&ナルスジャック | 2023/03/26 16:26 |
---|---|---|---|
義弟メリベルと不動産会社を経営するセーブルは、狩の後に恐喝者の訪問を受けた。ショックを受けたメリベルが猟銃で自殺するのをセーブルは止められなかった。しかし、セーブルはこの義弟と入れ替わって逃亡するという夢を抱いた...妹に言い含めてセーブルは会社が建てた無人のリゾートマンションに潜伏する。その元になぜか侵入してきた謎の女の正体は?
という話。ボア&ナル中期らしい悪夢的なサスペンス。貴族的な義弟に対するコンプレックスがあったのかな....とか思うのだが、このセーブルの入れ替わりの説得力があまりない。それを言っちゃおしまいんだがね。孤独な潜伏者としてのサバイバルのリアリティが眼目。でも無人のはずのマンションに誰かが隠れている?訪れてきたはずの妹が消失したのはなぜ?とかね。やや無理筋な謎設定もあるのだが、無理に無理を重ねた感がある。 まあそれでも最後に主人公が「対決」に赴くあたりに、ややノワール風の味わいがあるのが面白いか。フランス人だからそんな雰囲気が出るのも当然かな。 でなんだが、ポケミスの登場人物一覧での人物紹介で、ややバレに近い記載があるのが評者は興醒め。編集者はもう少し気をつけようよ。 |
No.1124 | 4点 | メグレを射った男- ジョルジュ・シムノン | 2023/03/25 09:07 |
---|---|---|---|
「死んだギャレ氏」「国境の町」は入手を諦め気味だから、評者的には第一期メグレの最後の残り。駄作というか、第一期の終盤でシムノンがヤル気なくしていた作品という評価が多いもの。
いやね、それでもツカミとかいいんだ。公用をひっかけてバカンス気分で旧友を訪れようとメグレはボルドーに向かった。寝台列車の上寝台の男の落ち着かない様子に迷惑したメグレは、その男が急に列車から飛び降りたのを目撃した!後を追うメグレは、その男に銃で撃たれる。負傷したメグレは田舎町ベルジェラックのホテルで、呼び寄せたメグレ夫人と旧友を手足にベッドの上で、猟奇殺人鬼の事件の捜査を始める.... 面白そうでしょ!列車内でのイライラ感やら興味を持ったメグレが単独行動でムチャやるあたり「サンフォリアン寺院」みたいだし、田舎町アウェイ事件で旧友と対立するのは「死体刑事」やら「途中下車」やら第二期以降によく出るパターンだし、それに珍しいベッド・ディティクティヴが絡む。モチーフ的には大変興味深い..... 原題は「ベルジェラックの狂人」。アウェイのメグレが被害者でベッドに釘付けなせいもあって、街の有力者からは「(内心)妄想を育んでいて、おかしいのでは?」と思われるのともかけてあるが、行きずりの女とSMプレイの果てに心臓に針を刺して殺す猟奇殺人鬼やら、街の有力者の秘密の趣味やら、メグレらしからぬ派手でサイコな話。でもこれが全然、物語として効いていない。何かリアリティのない背後事情と、シムノンらしいといえばらしい家庭悲劇で話がアチラの方向に逸れていって行ったきり。 瀬名氏は本作を「浮ついている」とバッサリ。らしからぬといえば、らしからぬ作品。 |
No.1123 | 6点 | ちゃっかり女- ボアロー&ナルスジャック | 2023/03/23 10:07 |
---|---|---|---|
1970年代前半に日影丈吉がHMMの上に訳載していたボア&ナルの短編の翻訳をまとめた短編集。ネタ元の短編集が1971年に出ていて、その翻訳書の体裁は取っているが、訳者あとがきによると、日影が訳したもので収録していないものもあれば、HMMには載っていない新訳もあるようだ。短編集の完訳ではなくて書誌としてはややこしい。
ポケミスで250ページほどで、24作収録(原著は33作)。ショートショートに近いポケミス5ページ程度のものもあるが、ポケミスで10ページほどの作品が多い。前半のシリーズ風のものは、精神科医を主人公にした連作5作、メグレの孫弟子のような刑事を主人公にした連作が7作。精神科医主人公の連作は「迷探偵」度が高いわりにつまらない。刑事主人公のものはロジック逆転を含んだ本格テイストが強い。一応密室殺人で手口からきれいにロジックが決まる「疥癬かき羊」が優秀。 後半は本当に雑多。モーリス・ルヴェル風で残酷味と皮肉が効いたスケッチみたいなものもある。翻訳表題作の「ちゃっかり女」はボア&ナルお得意の男女の機微をひねったトリック。後半の方が「奇妙な味」に近づいてきて、九死に一生を得たことを聖母に感謝して巡礼を思い立つギャングの話「願掛け」やら、プレイボーイに騙された女たちが結託して制裁を下す「女豹」、密室の中で黒猫が灰色猫・白猫に変身する謎解き「かわり猫」など、最後の方がヘンな話が多くて面白い。 ボア&ナルの多彩さを楽しむ短編集、ということになるのかな。気楽に書いていて、大したことない作品も多いから、全体的にはこんな採点。日影丈吉の訳にクセが強いから、やや読みづらいか。 |
No.1122 | 7点 | 世界短編傑作集5- アンソロジー(国内編集者) | 2023/03/19 09:21 |
---|---|---|---|
さて評者もこのシリーズ最終巻。今となっては「現代」を扱ったはずの最終巻も大古典になっている。昔読んだときには「創元の海外ミステリのモダン」の定番紹介だった本だったのだが、隔世の感も強いなあ(約50年前か...)
だから古典的な「名探偵小説」だとマーチ大佐登場の「見知らぬ部屋の犯罪」くらいしかない、ということにもなる。「黄色いなめくじ」だと名探偵登場ではあっても、清張の「鬼畜」を連想するのが自然じゃないのかな。貧困問題を陰鬱な心理描写でドラマチックに描いたヒューマンな味わい。 「心理」が重視されることもあって、小説としての側面が追及されることになるから、長めの作品にいいものが多い。「ある殺人者の肖像」なんてそうじゃないかな。子供のプライドと親の愛の相克がよく描けていて、心が痛い作品。 中編で名探偵小説、といえばネロ・ウルフ登場の「証拠のかわりに」が、モダンな意味での「名探偵小説」の回答、ということになるのだろう。キャラクター小説の側にシフトして、それで成功している人気シリーズのわけだからねえ。いややっぱり楽しいよ、これ否定しちゃいけないことだと思ってる。前にも書いたが、ウルフ&アーチ―物って、ホームズ探偵譚にあった「度胸一番の駆け引きや土壇場での機知」といった「ミステリのパズラー化」の中で意図的に無視された部分の楽しさを、しっかりと再現したシリーズなのでは?なんて評者は思っているのだ。 だから逆に、短い作品というのは「アイデア・ストーリー化」してしまう。それは当然なのだが、技巧に走るわけだから、定型的な要素を排除したインパクト重視の語り口に傾いてくる。だからこそ「ミステリ古典」からはこちらも逸脱しつつあるわけだ。 というわけで、評者もいろいろと考えることも多いこのシリーズでした。 |
No.1121 | 7点 | ウネルヴィル城館の秘密- アルセーヌ・ルパン | 2023/03/14 13:49 |
---|---|---|---|
最近ボア&ナル再開したし、ルブランやってるし....で問題の贋作ルパン。
いや本サイトだと「著者:アルセーヌ・ルパン」にせざるを得ない。シリーズ5作も新潮文庫で出た3冊はアルセーヌ・ルパン著、サンリオからの第4作はボワロ=ナルスジャック、ポプラ社ジュヴナイルのみの翻訳の最終作「ルパン危機一髪」はポプラ社ボア&ナル・ルパンの通例で用心深く南洋一郎の名前しかない.... シリーズの評がいろいろな著者名に散乱することになる。まあ仕方ない。 このボア&ナルの贋作シリーズは、ルブラン遺族に了解を取って、ルパン自身が書いた回想録から...という設定になっている。世界再現度は高いし、シリーズ内登場人物もそれとなくいろいろ登場。設定年代も第一次大戦直前で「813」あたりの時代。ルパン自身が車やサイドカー付きバイクを運転したりもする。それでも焦点はウネルヴィル城館に隠された二月革命動乱時の秘密とは?と「813」っぽい。いや事件も「813」のアルテンハイム男爵みたいなガルスラン男爵が表の敵役で、暗躍する謎の殺人鬼は誰?というあたり、「813」を彷彿させる内容。「続々813」みたい、といっちゃあ褒めてるのかけなしているのか? でも真相は結構面白い。ミステリ度が高い、と言ってもいい。ちょっと評者の評価がいいのはそのせい。財宝の隠し場所が二転三転するあたりもいいしね。欠点はルパン、というよりも「ルパン三世」っぽい。要するに、チャラい。本家はもっと誇大妄想的だから、それがマジなロマンの味わいになっていると思っているんだ。 パスティーシュ・パロディの羞恥心がないのが、天然の味。 |
No.1120 | 7点 | 毒を食らわば- ドロシー・L・セイヤーズ | 2023/03/11 13:19 |
---|---|---|---|
今回は手に入りやすい創元ではなくて、幻戯書房「ストロング・ポイズン」で。
なんでわざわざ新訳?というと、 本書を翻訳した動機は、英語圏で盛り上がりを見せるセイヤーズ研究が国内においてはまったく見当たらないからに他ならない。 と訳者解題で書いているように、セイヤーズのミステリを「フェミ小説」で読んでやろう、という狙いがあるからなんだね。確かに本作の面白さというのは、ピーター卿が陰のオーナーの「タイピスト会社」、実は女性探偵社の大活躍を描いたシスターフッドなスリラーと見るのがいいし、また Akeru さんがご指摘のような、なぜピーター卿が無実の罪を着せられたハリエットに一目惚れするか?が「最大の謎」だったりするあたりでもある。そういうトピックが海外で取り上げられている、のは確かにセイヤーズという作家の、ミステリ外での影響力の高さとも相俟って、ごく当然のアプローチでもあるわけだ。 社会的に期待される探偵のイメージと男性性の不安の間で引き裂かれながらも、ウィムジィはヴェインを救うために男らしい探偵であり続けなければならない。 とまあ、訳者(男性)はフェミ視点を活用してこういう結論を出してくるわけである。「男性性の毒」をピーター卿が自ら飲み干して....とかね。見当外れでもなかろうが、ハリエットがヴァーニア・ウルフやフォースターやストレイチーなどのブルームズベリー・グループの周辺にいたらしいなど、第一次大戦後の女性の社会進出と経済的に男性から独立した「働く女性第一世代」のセイヤーズ自身の自画像としてのあたりを追及してもいいんじゃないかな。 でなんだが、あともう一つ。本作のトリックって大変有名なもので、本作がそのオリジナルとされているのだが、評者が発見したことを書いておこう。本作は1930年の出版だが、ハメットの1929年の「ブラックマスク」掲載の短編に、このトリックが使われている。パズラー的な使い方じゃないが、シニカルでリアルな話になっているので、これもなかなか優れた使い方だと思うよ。でも評者は「トリック先願主義」みたいなものには懐疑的だな。セイヤーズが「ブラックマスク」を読んでいたとは思わないから、この短い間に同一トリックで出ている、というのは、現実の事件か事故で話題になったことがあったのだろうか?なんて勘繰る。どうだろう? (いやごめん、セイヤーズって「不自然な死」の中で「ブラックマスク」を小道具に使っている...じゃあ、やっぱオリジネイターはハメットじゃん) |