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クリスティ再読さん
平均点: 6.41点 書評数: 1327件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1327 6点 暗い燈台- アンドリュウ・ガーヴ 2024/11/22 23:14
ガーヴの中でも冒険小説色が強い...というか、凶悪な青年ギャングによって占拠された、僻地の灯台の職員たちのサバイバルの話。だから細かく言えばミステリというよりも冒険小説だと思う。
まあガーヴ、冒険小説味のあるミステリが主体だけども、時折「冒険小説」以外の何ものでもない作品を書いたりもする。「レアンダの英雄」なんてそうじゃない? でも、ガーヴらしさ、というのは善人が不意に悪人たちに脅かされる話、という面で一貫していると思うよ。「黄金の褒章」とか「道の果て」とか、そういう話で、とくに「道の果て」の人より自然が好きなネイチャー指向がしっかりと出た作品だとも感じる。

灯台という閉鎖空間の中に、ギャング3人+そのスケ vs 灯台職員3人という構図だから、「狭苦しい孤立した環境」での闘争が主眼。まあそりゃさあ、そういう閉鎖空間に慣れている灯台職員と、慣れてなくてすぐにイライラしだす町育ちのギャングじゃあ、最初から勝負は見えてるよ(苦笑)
ギャングたちは自滅するのが当然というものだ。

(執筆が後の「罠」の翻訳が先にはなるが、本作がポケミスで訳された最後のガーヴ。今のところ訳された最後のガーヴは、創元の「諜報作戦/D13峰登頂」。これはガチの山岳小説だから、未訳のガーヴって冒険小説のウェイトが高いのかしら...後期の未訳作は9作ほどあるみたいだ。1978年まで書いているんだもんねえ)

No.1326 8点 証人たち- ジョルジュ・シムノン 2024/11/22 11:18
シムノンのロマンの中でも、上位に位置する傑作じゃないかな。

ガチンコの裁判劇なのだが、まずは裁判長が主人公、という面でも異色中の異色だと思うよ。弁護士が主役の裁判劇なら描きやすいのもあって世の中に氾濫しているし、検事でもいろいろある。裁判では受動的な役割である裁判官をメインに据えて、「人間を本当に理解できるのか?」「理解したとしても、誤解ばっかりで他人をこういう人と決めつけていないか?」といったテーマを深掘りしている。
その中には主人公の裁判長の妻との関係も含まれている。主人公自身の過去の軽い浮気の話も、その裁判を傍聴する黒衣の女性によって、たびたび主人公の意識に登る。また、ベッドに寝たきりとなっている妻が「意図的に自分を困らせるためにそうしているのでは?」という疑惑もあれば、またこの裁判の被告が、妻のご乱行に怒って殺したのでは、という裁判の行方を自分の妻の引きこもりのきっかけとなった妻の浮気話と、主人公は重ね合わせずにはいられない。

こんな2日間の裁判が、妻の求めによって深夜薬局に妻の薬を買いに行かされ、その結果風邪をひいた主人公の前夜の話から始まっていく。裁判も行方も気になるが、妻との関係にも懊悩するさまが、熱に浮かされた主観の中で丁寧に描かれる。シムノンって一時的な病気・体調不良をちょっとした「きっかけ」につかうのが実に上手だと思うよ...メグレが酷い風邪を引いたのが印象的な短編もあれば、「ビセートルの環」のように入院生活をテーマにしたロマンもあるしね。

(バレかな?)
まあそういう小説だから、この事件の真相について、ちゃんと解明されるわけではない。アメリカを舞台にしてアメリカで書かれた「ベルの死」に続いて、同様のテーマをアメリカ時代最後に書かれたと目される本作が扱っている、ということにもなるだろう。

No.1325 5点 クロイドン発12時30分- F・W・クロフツ 2024/11/21 11:58
評者クロフツは苦手だけど、嫌いではない。だから本作とスターヴェルくらいはあとやりたいと思っている。
で倒叙有名作だから、本作をやらないというのは評者的にもありえない。昔読んだ時もフツーに流した作品。今回の再読では「意外なくらいに倒叙じゃないんだ...」というのが一番の感想。

要するに「倒叙と犯罪心理小説とどう違うか?」というのは大きなテーマだと思っている。本作だと「犯罪心理小説」のウェイトが思っていた以上に強い、というのが結論で、犯人のスウィンバーンの犯行に至る経緯がクロフツらしく事細かに叙述される。

玄関ホールから響く足音は『運命』そのものの歩みに聞こえた。さあ、今こそ度胸と自制心を示す時だ。少なくとも予備知識は頭に入っている。ピーターから話を聞いていて本当によかった。あそこでピーターに会っていなかったら、このありがたくない来客に不意を衝かれていたはずだ。うっかりぼろを出してもおかしくない。今その心配はない。備えはできている

リアル、って言えばそう...なんだけども、何したこう思ったを丁寧に全部描きたがるクロフツの良いとこ悪いとこ全部出ている文章だと思う。書けば書くほどキャラの個性が潰れていく。
逆に耄碌のあまりに不条理な対応をして結果として殺されるアンドルー伯父が、スウィンバーン視点だからこそ「老害...」と妙な個性が出てくるのとは対照だと思うよ。いやその点犯人に評者は同情しちゃう。
逆に詳細な描写に魅力があるのは、モーター工場のデテールやら、経営者として従業員の身を思いやるあたりで、そういう良さとキャラの平板さとが、ひっかかりのない「読みやすさ」につながっているのかもしれない。

まあ法廷場面もその後の反省会にも、とくに意外な話が出るわけではない。「盲点!してやられた!」というような、ミステリとしての意外性がなく、「倒叙」らしいスリリングな攻防感が全然でていないことにもつながる。
タイトルの「クロイドン発」って、そんな突発事件で行動がシビアになっている状況でなければ、実はバレなかったのかも?と勘繰りかねない「犯人の不運」を示しているのかもね。平凡に企まれ、平凡に露見した気の毒な「実話風殺人物語」のようにも感じてしまう。

いやさ、冒頭の飛行機旅行の10歳の少女ローズ視点、これ描きようによっては絶対に魅力的になるものなのに、この子その後どこに消えたんだろう?これが最大の残念ポイントかもしれない。

No.1324 7点 死んだギャレ氏- ジョルジュ・シムノン 2024/11/20 11:10
国立国会図書館デジタルコレクションにて。

ロワール川沿のホテルで起きた事件に急遽駆り出されたメグレ。被害者は行商人という触れ込みで、クレマンという名を名乗って何度も泊まっていたが、実はエミール・ギャレという本名で勤め先も偽装だった。格式を見せつけようと虚勢を張るが、貧相さを隠せないギャレとその妻。人生の失敗者にしか思えない、偽りだらけの人生の男のどういう「嘘」が事件を導いたのか?

こんな話。メグレ物第二作と呼ばれるけども、創元文庫の裏表紙の作家紹介では「最初の推理小説」と書かれている。まあ気持ちはわかるんだよね。「怪盗レトン」ってメグレらしくない。「レトン」以前にも脇役メグレの登場作が存在するようで、その延長線で書かれたような印象が今となってはある。ならば本作が「メグレ第一作」。あらすじをまとめたけど、これなら普通にメグレ、でしょ。

そもそもあの男は何ごとかを待ちもうけることに、その生涯のすべてを送ってきたのではなかろうか?....。ごくわずかのチャンス....それさえなかったんだ!

こんな人生とミステリらしいトリックとが融合している。まあ、トリックがあるメグレ、として変に有名な作品かもしれないけど、トリックの扱いで小説としての深みを増すという佳作だ。
入手が難しい作品なのが本当に勿体ない。一部の本格マニアのシムノン敬遠も、本作が読みやすければ解消するんじゃなのか?と思うくらい。おすすめ。

(個人的にはフランス王党派の消長というのも興味ある。今はブルボン本家は断絶していて、オルレアン家vsスペインブルボン家vsボナパルティストで復辟運動が細々と続いているそうだ)

No.1323 6点 ひそむ罠- ボアロー&ナルスジャック 2024/11/19 10:51
シムノン風味のボア&ナル。
そう思うのは「裏切り」の感情に悩まされ、本人から見ればある意味「不当に」出世したという爆弾にも似た思いを抱えながら、危うい成功生活を送る男が主人公なあたり。いや本作の主人公って実に善人なんだよね。そして腐れ縁の果てに殺されることになる男も、だらしはないが悪人とも言いにくい。そんな悪のない「不運」としか言いようのない世界。
まあ後期ボア&ナルって、冷徹に殺人を企む殺人者の登場率が下がってきて、わけのわからない状況で、嫌々殺人に手を染めるとか、そういうリアルさが主眼になってくる。けど、プロットの仕掛けはしっかりあって、うっちゃりを食らわすのもお約束。評者は後期の方が好感を持てるなあ。今回はリアルなフランス戦後政治が背景にあって、ミステリとしては弱くても、大河ドラマのような読み心地。

ドイツ占領中の暗い夜で、学校教師の主人公プラディエは襲撃を受けた男プレオーを偶然助けた。プレオーは対独協力者と噂され、この襲撃もレジスタンスによるものらしい。危うさを感じながらもプラディエはプレオーに友情めいたものを感じる。プラディエは家庭教師として有力者のマダム・ド・シャルリュスのシャトーに通い養子のクリストフの勉強を見るのだが、このシャトーが実はレジスタンスの隠れ家であることを知る。さらに、プレオーはマダムの前の夫でもあり、マダムに恋するプラディエは、プレオー暗殺の命を受けた....優柔不断なインテリのプラディエには荷の重い仕事でもあり、結局プレオーを殺さずに済むが、運命の悪戯でプラディエは、プレオー暗殺者としてレジスタンスの英雄に祭り上げられた! 戦後には政界の有力者として日々を過ごすプラディエは、クリストフが士官として従軍するアルジェリア戦争と、それに伴う政界の動揺に心も揺れるのだが....

というあたりの設定の話。第二次大戦でドイツに占領されたフランスには、ヴィシー政府などの対独協力者を追求する元レジスタンス、という構図で戦後処理があったわけだ。これ結構フランス人にとってトラウマ的でセンシティヴな出来事でもある。対仏協力をした女性が髪を丸坊主にされてリンチされたとか、そういう話もあるもんなあ。さらにこの小説に背景にはアルジェリア戦争があり、ドゴールの下で戦った元レジスタンスがフランス軍の中枢を占めている事情もあって、政局が不安定になり短命政府が続く政情。その中での左派政治家としてのプラディエの苦闘が描かれている。この状況は結局はドゴールが収集することとなり、アルジェリア独立を受け入れて第五共和政が始まるのだけど、「親分のドゴールに裏切られた!」と恨む軍人たちが暗殺を策謀する(「ジャッカルの日」)といったあたりが頭に入っていると、この話の連続性が理解できてリアルに受け取られるだろう。

No.1322 8点 鼻行類- ハラルト・シュテュンプケ 2024/11/18 09:04
ミステリかといえば怪しいが、サイエンス・フィクションには間違いないので取り上げようか。評者も大好き、ファンが多い本。

たくさんの鼻で立ってゆったりと
ナゾベームは歩く
自分の子どもたちを引き連れて

とドイツのユーモア詩人、クリスチャン・モルゲンシュテインが描いた詩から発想し、生物学者が「鼻で歩く哺乳類」というアイデアで作り上げた生物についての、系統的なパロディ学術論文である。太平洋の孤島ハイアイアイ群島で独自の進化を遂げた哺乳類である。その環境に適応して多彩な形態と生態をもち...いや奇想天外な形態と生態を誇る。
・大きな耳を羽ばたかせて飛行するダンボハナアルキ
・鼻汁を滴らせて釣りをする川辺に佇むハナススリハナアルキ
・鼻で飛び跳ねるトビハナアルキ
・四本の丈夫な鼻でのし歩くモルゲンシュテインオオナゾベーム
などなど、奇抜な生物が一つの進化系統として学術的に詳細に記述されていく。

中には哺乳類でありながら固着生活を営むもの、さらには寄生生活を送ってプラナリアと誤解されるような退化を遂げた鼻行類も存在する...それらがこの島では系統的に残されているために、プラナリアから空飛ぶダンボまでを、連続的にたどることのできる「同じ形質」の多彩な適応として描かれて読者を説得するのである!

まさに「手の込んだホラ話」として、SFとしか呼びようがない(苦笑)

実はこのハイアイアイ群島は戦時中に日本軍の捕虜収容所から脱走したスエーデン人によって発見されたそうだ。まさに日本の近海に存在する....のかもよ。ただし秘密の核実験に伴う事故により、ハイアイアイ群島は消滅し、鼻行類は絶滅したとされている。一部の標本が博物館に残されている、という話はあるようだ。

No.1321 6点 化石の荒野- 西村寿行 2024/11/17 14:06
評者の世代といえば「西村寿行」と聞いたら、原作映画がコケにコケた作家、というイメージが強いんだ(苦笑)でこれは角川映画の神通力をもってしても、どうにもならなかった西村寿行。評者ご贔屓監督の一人である長谷部安春が監督し、渡瀬恒彦が主演で、ヒロインが浅野温子。それでもコケるものはコケる。

ワンマンアーミー風の刑事が殺人容疑の罠にハメられて、米軍謀略機関・自衛隊空挺団・与党政治家の私兵の3つ巴の争いの果てに、自身のルーツと終戦の混乱の中で隠匿された秘密が明らかになる...そんな枠組み。で、西村寿行らしく、四国鋸山、八ヶ岳、大雪山と山岳アクションが連続する。キャラとしては先天性痛覚脱失症で「痛み」が理解できない米軍のエージェント山沢と、主人公のライバル的立場の政治家の息子との対決にウェイトがある...全体の構図を一言で言えば「因縁ハードボイルド」ということになって、湿度が高すぎる。

まあそれでも、米軍謀略機関とかSFチックなニュアンスも感じる。エンタメとしてはツルツル読めて普通に面白い。

で映画は出来が残念でも有名。う~ん、役者は豪華なんだよね。グラサンの渡瀬は大門団長みたいだし(当たり前)、痛みが理解できない山沢がジョーの弟郷鍈治(ご贔屓)、でも痛覚脱失症の設定はなし。
公開後にプロデューサーにあるまじきくらいに角川春樹が作品をコキ下ろしていることもあるし。どうも全体の流れからすると、「野性の証明」みたいなのを角川春樹は狙った印象だけど、監督の長谷部はヘンにパロディックに「外した」感覚を出しているところもあって、それが忌憚に触れたのかな。全体にノリの軽さみたいなものを感じるから、原作との相性もあまりよくはなかろう。脚色もお金かかりそうなところを微妙に外しているしなあ。
まあ、西村寿行の本質に、情念によって支えられてはいるがファンタジーなコアがあり、それを映画というモノで語るリアルの世界に落とし込むと、安っぽくなるという回避不能な大問題があるのかなあ。

というわけで、しばたはつみの主題歌の熱唱っぷりが心に痛いぜ。名曲だと思う。

No.1320 6点 運河の追跡- アンドリュウ・ガーヴ 2024/11/16 13:26
ガーヴでも「ツートップ」と併称される「メグストン計画」「ギャラウェイ事件」に挟まれて刊行されたはずなのに、なぜか邦訳されなかった作品が、論創社からやっと2014年に出版された。

不思議といえば不思議。まあ後半がイギリスの運河を舞台の追いかけっことなるので、運河や閘門・主人公たちが使う「ナローボート」と呼ばれる個人でレンタル可能なボートなどの、特殊な知識が翻訳に必要だった、というような事情で敬遠されたのかもしれない。ガーヴってそういうデテールの作家だもんね。

ただし、今改めて読むことになって、良かったのかな?と思うこともある。本作の悪役は会社経営者の夫。優秀なセールスマンだが、モラルを欠いた行動をためらわない傾向があり、妻で主人公のクレアは常々危うさを感じていた。社員に対するあまりの仕打ちに憤慨したクレアは、一歳の娘を連れて別居するが、縒りを戻したい夫はなんと娘を誘拐して取引条件にしようとする...

もう典型的なモラハラ夫というか、ガチのサイコパスなんだよね。確かに優秀なセールスマンで...とかリアリティがありまくる。そして離婚調停のコジレから娘を誘拐とか、離婚後共同親権問題が今話題になっている状況とか考えると、70年ほど前の外国の話でも、妙なリアリティが今になって出てきたようにも感じる(苦笑)

でこの夫は別件もあり逮捕されるのだが、娘の行方だけはガンとして口を割らない。サイコパスらしい意地の張りっぷり。で、クレアと付き合いのあるカメラマンが娘の行方を追って、運河地方を借りたナローボートで駆け回る話。

まあ「ボートの三人男」とか有名なユーモア小説もあるし、ガーヴでも「カックー線事件」がやっぱりボートの探索行の話、またセイヤーズも「学寮祭の夜」でもボートの大きなエピソードがあるし、クリスピンの「消えた玩具屋」もボート遊びが追っかけのテーマになっている。意外にイギリス・ミステリではポピュラーな話題のようにも思うが、どうやら本作の運河地方は、イングランドとウェールズの境界の北部あたりらしい。おそらく「カックー線」「殺人者の湿地」といった話はイングランド南東部の話で方向違いのようだ。イギリスのボート文化は地方色がいろいろあるんだなあ。

まあ、遊びじゃなくて「川上生活者」ともなると少ないのかもしれない。
逆にシムノンにも初期が特に「川上生活者」の話が多い印象があるね。放浪者気質のアウトローに憧れる気持ちがテーマかもしれない。
でも読者は土地勘があるはずもないから、地図とかサービスしてほしかったな(苦笑)

No.1319 5点 Dの複合- 松本清張 2024/11/15 23:27
中学生の頃に入院したことがあって、その時に誰だかが入院お見舞に持ってきてた本。清張にしてはバリバリの駄作なのが、何か懐かしい。

民俗学ばかりで書いたのでは現代性がない。少なくとも殺人事件がはいれば、現代の古代とのつなぎになるというのだった。いくら旅好きな読者でも、古臭い話ばかり聞かせられていれば縁遠くなる。やはりこういう紀行にも、ナマな事件が挿入されないと読者の共感を呼ばないというのだった。

と主人公の作家先生、伊瀬は旅行編集者の浜中に引きずり回されて、浦島伝説・羽衣伝説、そして一年前に死体を埋めたという投書から始まる殺人事件も含む「殺人紀行」に付き合わされるという話。清張といえば邪馬台国論争の一方の旗頭を務めるくらいに古代の伝説・考証・神事など大好きだし、「点と線」だって交通公社の宣伝誌「旅」連載だし...と、「本格古代ロマン旅情ミステリ」とでもいうべき作品のわけである。いやちょっとメタ入ってる?

というわけで「ちょっとメタ入ってる」あたりが、一番シラケるあたりかもしれない。作為がありすぎて、引き回されるのが最後の方は鼻につき始めるし、実はかなり狭い人間関係の中で企みが張り巡らされることもあって、ロマンのスケールとミステリのスケールが釣り合っていない。

まあでもサヴァン症候群ともいわれる数字狂の女性は、「点と線」に登場する「影の犯人」を連想させる。本作だとずいぶん薄幸という印象になるけどもね。

No.1318 7点 メグレと政府高官- ジョルジュ・シムノン 2024/11/12 21:38
個人的には大変好み。キャラの深みよりもサスペンスで引っ張っていく3期初めあたりにしかないタイプの作品じゃないかな。重苦しいサスペンスが張り詰めていてそれを買う。

メグレが「救う」ことになる公共事業大臣ポアンと、メグレは自分との共通点をいろいろ感じて「嫌な」事件であるにもかかわらず積極的に介入していく。その共通点の一つがメグレ自身も「政治的な罠」にハメられて一時ヴァンデの機動隊に左遷された経歴があったりすることだ。だからメグレも政治嫌いを公言するのだが、レジスタンスから政治の世界に祭り上げられた、朴訥なポアン大臣が「意図的に証拠を隠ぺいした」とする疑獄から救おうとする。

メグレにしては珍しく敵役風キャラも登場し、正義派風の立場をうまくとって政界を操ろうとする代議士マスクラン。高級レストランでのメグレとの対決場面は腹芸の見せ場で結構。奇矯な正義感から問題の証拠書類を掘り出す変人学者ピクマールは、シムノンは描きにくいタイプだったのかな。ドロップアウトした元刑事というと、どうもシムノンは成功したキャラはいないが、今回もそれほどのキャラではない。
まあ、スカッとした解決ではないのが、シムノンらしいといえばシムノンらしいし、ちょっと松本清張風味のリアルも感じたりする。

トリビア的には、大臣の出身地に在住の友人に電話して、大臣の人となりを聞くシーンがあるが、この友人は「途中下車」に登場のシャボ―。あとこの時代では「最新」の扱いで複写機が登場するけど湿式らしい。青焼の仲間のようだ。懐かしい....

No.1317 9点 思い乱れて- ボアロー&ナルスジャック 2024/11/11 15:45
なぜか初読。いや~本作今まで読んでなかったのは情けない。素晴らしい。
ミステリと言うよりも、小説としての完成度が半端なくて、ボア&ナルの理想の集大成かもしれないや。

密会現場を押さえられたことで、逆上し夫を殺した間男。その死体を事故に見せかけて始末するが....というごくごくありふれた基本線。これを巧妙な味付けで読ませきる。殺された夫はシャンソンの巨匠。妻は夫の歌を歌って名を馳せた歌手、間男は若いピアノ伴奏者。事故として片づけられてほっとした二人のもとに、一枚のレコードが届く。そのレコードには、裏切った妻に捧げる夫の新作シャンソンと、夫の妻へのメッセージが吹き込まれていた。別に夫は旧知のレコード製作者にこのシャンソンを送り、レコード化を依頼していた...

そんなシャンソン、夫を裏切り殺した妻としては、知らぬ顔で唄えるわけもない。夫の愛人らしい歌手が歌い大ヒット。それによって二人は追い詰められていく...

この設定が秀逸。夫は死んだはず。しかし、二人の関係はお見通しで、他にどんな手を打っているのかわからない。そんなサスペンス。そして夫は本当の天才シャンソニエで、妻も、そして作曲者として売り出そうと狙っていた間男もその才能に圧倒されているため、余計にこの罠が恐ろしい。
だから、芸道小説としての面白さも強く出ている。夫の天才っぷり(ゲンスブールかいな)が説得力があるために、ミステリとしてしっかり成立しているわけだ。

後半に警察で妻が例のシャンソンを唄うシーンもあって、これがなかなかの名場面。いやぜひ映画化希望!と言いたいくらい。

それだけじゃなくて、実はこの小説、愛の不条理、とでもいった男女のすれ違いをしっかり描いた恋愛小説としての妙味も素晴らしいんだよね。

物が人間の愛を受けるように、男たちがおとなしく愛されていればいいとあたしは思った。人間はそれらの物をながめ、さわり、そして行ってしまう。あたしは男たちが言葉のない大きな風景みたいだったらいいと思った。

こんな女の愛と、一途に思い詰める間男の愛。それらが必然的な別れとなる中に、ミステリの真相が仕組まれている。実にボア&ナルらしい達成感のある名作だと思うよ。

No.1316 7点 ミステリイ・カクテル(推理小説トリックのすべて)- 事典・ガイド 2024/11/08 22:31
大変なつかしい本。70年代というと、渡辺氏の「13の密室」などの「13の〜」アンソロ・シリーズも懐かしいんだが、これも同時期に出た本。乱歩の「類別トリック集成」に基づいてエッセイ風にトリック論をしてみた評論である。

乱歩という人は密室分類もそうだけども、マニアックにトリックをコレクションして分類することに情熱を傾けた。日本のミステリ界自体がこの影響を受けて「トリック至上主義」みたいなカラーが、アマチュアに至るまで形成されたわけである。まあこれ自体の功罪はいろいろと考えないわけでもない。無論こういうカラーは海外にはなく、日本の独自のミステリ受容ととらえるべきなのだが...それでも渡辺氏の「師・乱歩」への思いみたいなものが、今回強く読んでいて感じられもした。

乱歩は、おなじ本格物でもヴァン・ダイン、クイーン流の、あらかじめ犯罪にかかわる正確なデータをすべて提示して、作者と読者が犯人さがしの智的闘争をするというタイプを好み、フレッチャーやクロフツ流の、データがつぎつぎ変化して、読者が最後まで引きずり回されるタイプを好まなかったのである。

と乱歩を評しているあたり、乱歩という人の個性をよく捉えている。逆に渡辺氏が「13のアリバイ」は編まなかったのも、そういう師への想いがあったのかもと想像する。その分を鮎川哲也が「下りはつかり」などのアンソロで補ったのかもしれない。

だからか「類別トリック集成」から少しズレた話題である、「14.未完の悲劇」の章が昔からずっと気にかかっていたことを思い出す。さまざまな理由で完結しなかったミステリの話題を扱った章である。木々高太郎の中絶作「美の悲劇」、乱歩の中絶作「悪霊」、虫太郎の遺作「悪霊」、安吾の「復員殺人事件」(高木彬光が補作したことでも有名だが)、十蘭の遺作で妻によって完結した「肌色の月」...「ミステリ自体がミステリ」なこういう作品の「ミステリな運命」に改めて今回、出逢いなおしたことの感慨にふけったりするのは、評者も老いたからなのだろうか。

No.1315 7点 パコを憶えているか- シャルル・エクスブライヤ 2024/11/07 11:15
最近スペインづいているからバルセロナを舞台とする本作。

ギャング組織vs復讐に燃える刑事...というと、実はカラーは「最悪のとき」とかに近いようにも思うんだ。ハードボイルド?といえばそうかもしれないけども、「パコを覚えているか?」という言葉から伺われる復讐譚・連続殺人から来るサスペンスもあり、また皆さんご指摘の意外な犯人とか、いろいろな要素が混ざっている。
確かに血の気の多いスペイン人という民族性(まあエスノ・ステロタイプとか言わんでくれ)をベースにして、カトリック信仰やら地域的な対立やらエキゾチックな要素がてんこ盛りのせいもあって、実はファンタジックな味わいが強く出てもいる。まあだから、やや強引なハードボイルドな要素も意外な犯人も、そんな雰囲気の中に融合していて、不思議な読み心地になっている。仕掛けが成功していることは否めないし、エクスブライヤというある意味正体不明(苦笑)な大家の懐の深さも推し量られる。

ちょっとした奇作(秀作なのは間違いないが)という印象。

No.1314 5点 新聞社殺人事件- アンドリュウ・ガーヴ 2024/11/04 22:57
ガーヴって「モスコー殺人事件」でも描かれたように、なかなか成功したジャーナリストだったようだ。さらに新聞記者主人公っていくつかあるしね。なら新聞社を舞台にしたミステリだって書きたいじゃないの。ガーヴ名義3作目が本作。

けどちょっと変わったミステリ。新聞社の閉じた人間関係の中で青酸カリを使った毒殺事件が連続する話。でもね、最初の殺人からもう犯人視点での描写もあって、読者には犯人は明白。それでも全体的なスタイルはパズラー風というか、普通にミステリ。けどけど犯人の心理主体ではないから犯罪心理小説でもないし、捜査側との攻防に主体を置いた倒叙でもない。こんなバランスのミステリを読んだことはないけど、それはどっちも中途半端で効果的じゃないからかな。

精神のバランスがおかしくなっている犯人像はリアルだが、こんだけオカしきゃ周囲が気づきそうな気もする。あと新聞社の内部事情の描写は当たり前だけどリアル。だから逆にちょっとしたメロドラマが二つもあっても、どっちもお約束っぽく今一つ。

設計を間違えたミステリ、という印象。ガーヴにしては読みどころがないようにも感じる。それでもリーダビリティがいいのがガーヴ(苦笑)

No.1313 6点 メグレと田舎教師- ジョルジュ・シムノン 2024/11/01 17:39
メグレの事務室の前「煉獄(水族館)」に居座り、自分が無実の罪で逮捕されかけているとメグレに訴えた男。メグレはその男(田舎教師)に同道し、護送を名目にボルドー地方の海岸沿いの田舎町を訪れた。カキを白ワインに浸して食べるために(苦笑)

というわけで、メグレは「田舎は嫌いだ..」と言いながらも、それが田舎出身者のコンプレックスの裏返しであることが暗示される。田舎町の人々 vs 不倫事件を起こした妻をかばって田舎落ちした学校教師、のありがちな対立の中で、孤立したインテリは、地元民ながら「村の嫌われ者」として爪はじきされる老嬢の死の責任を押し付けられようとしていた。
「メグレあるある」なビジター試合話で、「途中下車」とか「死体刑事」とか連想する作品は多いけど、本作がいちばんまとまりがいいと思う。少し力が抜けているというか、田舎教師の冤罪もどこまで村人がホンキか知れたものじゃないし、3人の子供たちの微妙な関係性がクローズアップされて、シリアスな味わいを意図的に弱めたようなあたりが、変化球になって成功しているのかな。

まあとはいえ、フランス人の「寝取られ亭主」に対する風当たりの強さというのは、外国人にはうかがい知ることが難しい感情みたいだ。挫折したインテリが抱えた不名誉が、この冗談みたいな事件をこじらせたようなものだ。ファンタジーにしては後味が悪すぎるが、それが作品の苦みになっている。

一人の女がこれほどまでに女らしさを放棄してしまっているのはめったに見たことがない。ぼんやりした色のドレスの下の体はやせて疲れていた。二つの乳房はおそらく空っぽのポケットのように垂れ下がっていることだろう。

田舎教師の不倫妻の描写だが、気の毒なくらいに辛辣。でもメグレ全盛期ならではの人間観察。

No.1312 6点 悪魔のようなあなた- ルイ・C・トーマ 2024/10/29 21:14
中学生時分、ボア&ナルの名作「悪魔のような女」と混同していた思い出があるよ(苦笑)改めて読み直し「タイトル似てるのダテじゃない」。

主人公ジョルジュは自動車事故で九死に一生を得たが、記憶を失っていた。付き添うのは「妻」を名乗るクリスチアーヌ。妻は自分をジョルジュ・ロムリーだと主張するが、自分にはジョルジュ・カンポとしての記憶が不鮮明ながらある...退院して南仏の広大な屋敷で、妻と友人のフレッド、ベトナム人の召使のキエムらに囲まれて療養生活を送る。しかし、妻が主張する自分の過去がどうにも自分のものだとは思えずに、ジョルジュは苦悩する。そして、続けて起きる不思議な事故。ジョルジュは妻と通じたフレッドが自分を殺すなり精神病院に入れて、財産を乗っ取る陰謀を企んでいると考え始める....

こんな話。いやはや、まさにボア&ナル調。「影の顔」とか「牝狼」とか「砕けちった泡」とか、似たような...とすぐに連想が働く作品が目白押し。でもタッチが意外なくらいに軽妙。心理描写よりも会話の方が多く、ボア&ナルの類作の重苦しさがない。アイデンティティの崩壊とかそういうネタなんだけども、さほど深刻にならずに自分が誰か分からなくなってオカしくなる人の話としてまとめられている。

いかにもボア&ナルな訳題だが、実は原題は「迫害マニア」だそうだ。こっちの方が適切だと思うよ(苦笑、だけど本当は「迫害偏執症」くらいが正確かも)

No.1311 7点 宝石泥棒- 山田正紀 2024/10/28 22:27
エスニックで豪奢な神話世界。

今本作を読むと誰もが「RPGっぽい」と思うんじゃないかな。よく構築されたファンタジー世界であるし、そのファンタジー世界の裏にあるSFのロジックが露になったときに、予感したものがベールを脱ぐ姿に惜しいような感情も持つ。言い換えるとRPGの「嘘くささ」がやはり嘘くさいものであり、そういう事情への幻滅感が「SF」の特性でもあるのかもしれない。

それでもこのファンタジーとSFの融合っぷりで連想するのは諸星大二郎の「孔子暗黒伝」なのだ。実際、東南アジア的な第一章、中国的な第二章、急転してSFとなる第三章という世界構成にも、評者は「孔子暗黒伝」の影を感じる。しかし、双六的な諸星に対して、RPGである山田正紀に「異常なほどの先駆性」を感じる、感覚の上で「断絶」と呼びたくなるものもまた別途興味深いところでもあろう。

いやマジでアニメ化希望(苦笑)主題歌は...「空なる螺旋(フェーン・フェーン)」といえばさ、

絹の道をゆく 東の風に乗り さあ五色の旗 なびかせて行こうよ
珊瑚や瑠璃ダイヤモンド あふれる楽園(ZELDA「Dancing Days」)

No.1310 6点 カディスの赤い星- 逢坂剛 2024/10/25 16:14
さて1987年度協会賞受賞作。80年代後半の日本産冒険小説の盛り上がりの一翼を担った作品でもある。

PR会社勤務の中年男の主人公は、取引先の楽器会社からの依頼で、本場スペインからのギター製作者ラモスを招聘する企画を主導する。その老ギター製作者の内密の依頼で、とサントスという通り名のギタリストを探すことを依頼された..しかしこのサントス、実はラモスの元からかつてダイヤを埋め込んだギターを盗んだ過去があり、実はそのギターを何としても取り返したい、という裏の狙いがあった。主人公はこのギタリストが遺したわずかな手がかりを追っていく...ラモスに同行したその娘フローラと恋仲らしいギタリストのパコが、このサントスの息子では?という疑惑も浮上し、なおかつフローラの背後にスペインの過激派組織の影が見え隠れする。ラモスの怒りを買ってフローラはスペインに戻されるが、どうやらパコは例のギターを持ってスペインに渡ったようだ。主人公はフローラとパコとギターを追ってスペインへ..

こんな話。この作品読み直して、主人公の気取りっぷりなど、バブル期のイケイケな高揚感が甦るんだよね。実は作中ではフランコの死や過激派テロと絡めて1975年の話になっているんだけど、そうだとするとサントスがスペインに渡ってギターを盗んだのが1950年代になって、戦後じきで日本人の海外渡航が強く制限されていた時代になる。辻褄合わないよ。ホイチョイとパラレルな時代の物語として読んだ方が、ずっといいだろう。

というかね「Japan as No.1」のこの時代に日本人が「自信」を持ったことが、とくに海外を舞台とした冒険小説の隆盛に繋がったんだと思うんだ。そのような時代の証言が久々に読むと感じ取られて面白い。

作品的には、スペインでフランコ暗殺を止めようとするあたりから、話がつまらなくなってくる。前半のサスペンスを後半まで維持できないような印象。サントスの正体とか「意外!」と言わせたかったんだろうけど、どうも人物像との整合性に疑問符が付く。

前半面白いのに、その面白さを後半が台無しにしていると思う。評価このくらいにしておこうか。

No.1309 5点 章の終り- ニコラス・ブレイク 2024/10/23 21:13
評者三大苦手作家の一角だね。
森村誠一、マーガレット・ミラー、ニコラス・ブレイク。共通点は何だろう...ヘンに意識過剰でユーモアを欠いた文章かな。イギリス教養派なら始祖のセイヤーズからイネスでもクリスピンでもPDジェイムズでも全然楽しめるんだけど、ブレイクだけはダメ。

いやほんと読んでて楽しくない。アリンガムの「判事への花束」に似た家族経営の出版社での殺人に、インテリ遊民的な探偵が介入する話。キャンピオン氏も別に魅力的とは思わんが、ナイジェル・ストレンジウェイズは....う〜ん、人間と思えない。非アマチュアで依頼を受けて動く私立探偵だけど、ヘンにインテリ。彫刻家の彼女アリでも、慇懃というかヨソヨソしいキャラ。顔が見えない。よくこんなキャラをヒーローにしたなあ(困惑)

事件も、被害者の過去とこの出版社の人々との過去の因縁が暴かれて、そんななかで動機もいろいろ浮上。とはいえ著作の「迫力」をネタに議論する部分とか、作者の背景から「やりたい!」ことなんだろうけども、こういうのを正面切ってやられると、ベタにしか思えないんだ。作者は有名詩人だから「自分は、できる、資格ある!」と思ってやったんだろうけども、読者としてはそれほどの面白みや説得力を感じるわけではない。やはりフィクションには、「フィクションの論理」や正義があるんだと思うんだ。

反発とか苦手感を自分で意識していると、逆に悪い点をつけづらい。5点で勘弁して。

No.1308 4点 家康暗殺 謎の織部茶碗- 森真沙子 2024/10/22 18:31
茶道ミステリのつもりだったが...確かに古田織部の死をめぐる謎についての歴史推理には違いない。茶道家元の長女が骨折入院し、男主人公がサポートするわけで、ベッドディティクティヴの定型をなぞっているわけ。それに加えて、このヒロインをめぐる次期家元候補の争いと一方の事故死という謎まで加わる...

それでも「歴史ミステリ」色が強くて、茶道ミステリというカラーは薄い。結局何をしたいのか?って戸惑いながら読んでいくような印象。歴史ミステリとしての着地点も?という感想だし、強引にこれを現代の事件につなげているけどもねえ。

確かに歪んだ織部茶碗って、飲み口がかなり限定されると思うよ。変なところからは本当に飲みにくいものだ。それがあまりちゃんと説明されていないし、毒を潜ませるにも限度があるというものだ。

まあ織部という人物って相当ヘンな人だったんだろう。井戸茶碗って業の深い茶碗だから、それこそ「お化け」が出そうなモノだけど、それを織部が4つに割って継ぎ直した「十文字」という茶碗を実見したこともある。いや、さらにオカしくなってて妖気みたいなものがあったからねえ。そういう意味だとこの作中でも少し触れられる、司馬遼太郎が珍しく織部みたいな茶人を主人公に書いた短編「割って、城を」が正鵠を得ている部分ってあると思う。

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クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
採点傾向
平均点: 6.41点   採点数: 1327件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(99)
アガサ・クリスティー(97)
エラリイ・クイーン(45)
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ロス・マクドナルド(26)
ボアロー&ナルスジャック(24)
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