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クリスティ再読さん
平均点: 6.38点 書評数: 1602件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1602 6点 離愁- ジョルジュ・シムノン 2026/06/28 14:04
さてシムノン未読も少なくなってきたが、本作は映画はトランティニャンとロミー・シュナイダーで有名作。評判がいいので思わずDVDをゲットしたので、のちに追記することにする。ミステリ色はかなり薄いけど、ラストシーンを深読みすると、ひょっとしてミステリかもしれない。

1940年5月、ドイツ軍はオランダとベルギーの国境を越えて、フランス国内に殺到した。ベルギー国境近くの町フュメイに住むラジオ商マルセルは、妻のジャンヌと娘のソフィーを連れてフランス南部への脱出を図る。しかし、妻子は女性用の客車に、マルセルは有蓋家畜車両に分乗することになる。軍事輸送と空襲などを経て、車両は繋ぎ変えられて、マルセルは妻子とはぐれてしまう。マルセルが乗る車両に後で乗り込んできた女性、アンナとマルセルは男女の仲になってしまい、逃避行を共にする。フランス中西部のラ・ロシェルに到着した二人は....

シムノンはこの開戦の段階でこの近辺でベルギー難民の受け入れの公職についていたりするから、シムノンの実際の見聞ベースの話である。とはいえ、戦争小説であるか、というとずいぶん違って、たまたま同じ車両に乗り合わせて極限状態を共にした男女の結びつきの話。いやあえて「恋」とか呼びたくない。マルセルには逃避行で生き別れた妻子があり、それをラ・ロシェルでは探すのが仕事。アンナはユダヤ系チェコ人亡命者のようで、侵攻までは監獄にいたらしい。そんな男女のたまたまの遭遇と関係をえがく、けっこう機微の微妙な小説。まあシムノン、こういうあたりは親切に説明したりしない作家だからねえ。

恋でもない、不倫でもない、冒険でもない、運命でもない、苦難を乗り越えた者の同志的結合でもない、憐みでもない、そういう説明しがたい男女関係だ。だから小説のラストシーンはある残酷な真相をそれとなく示している。映画は結末が違うようなので、それを楽しみにしよう。

No.1601 6点 黒星博士- 山中峯太郎 2026/06/27 11:13
人並さんに便乗して評者もさせていただきます。

いや実に楽しく読んだww
「国事探偵」である。スパイじゃないのが素敵であり、ヴィランの黒星博士に二十面相の面影があって、なかなかの人物だ。「亜細亜の曙」の巌窟城首領も軍人らしいフェアな闘士であり、ヴィランだからとけして貶めない描写が気風のいいあたり。数々の発明から「国宝少佐」と呼ばれる緒方少佐に「アケチくん!」風の対応を取っているのがなかなかカッコイイ。「★」だけのカードを残していくんだなあ。

でこの黒星博士が盗んだ機密は、建造中の「戦艦武蔵の設計図」「電進大汽艇の模型」「磁式水雷の模型」の3つ。いや戦艦武蔵って大和級二番艦で極秘に建造されて...と思ったら、昭和9年の作。まだ史実の戦艦武蔵は建造計画も始まっていない(笑)いかにもの新戦艦のネーミングとして、付けたくなる名前だから、偶然一致したわけだ。「電進大汽艇」は説明を読むと早い話、ウクライナ戦争で大活躍中の自爆型水上ドローンだ。「磁式水雷」は相手の磁気で誘導される「百発百中の水雷」だそうだ。これはちょっと厳しいかなあ。でも設定はリアル。

脱出や追っかけが後半は特に主になるわけで、味方として特高課が出てきたりするよ(苦笑)戦前の警察・軍事・社会の「常識」で書かれたスパイスリラーだから、何というか「高い城の男」みたいなパラレルワールドSFみたいに思える時もあったりもする。そう読むと、なかなか凄い。

「亜細亜の曙」が詰め込み過ぎなのと比較すると、ジュブナイルとしてしっかり整理された読みやすさがある。またいい意味でツッコめる作品でもあるなあ。
人並さんありがとうございます。

No.1600 6点 死の競歩- ピーター・ラヴゼイ 2026/06/26 17:19
カーでいえば「ハイチムニー荘の醜聞」がヴィクトリア朝というわけで、同じくらいの時代が舞台、というかホームズのデビュー直前期の1879年。この時期に流行した6日間耐久競歩レース「ウォッブルズ」の最中で起きた殺人!

6日間耐久で、延々と競技が続き、農業ホールのトラックをぐるぐる回って歩きぬいた累計距離の勝負。眠ったり休んだりしてもいいが、その分、差が付けられる過酷な競技。優勝候補本命は紳士階級の軍人チャドウィック大尉。対抗は下層庶民からの叩き上げのダレル。狭義が始まって、2日目、凄い勢いでスパートしだしたダレルが突然けいれんを起こした...死因はストリキニーネ。この捜査にクリッブ部長刑事とサッカレイ巡査が挑む!

こんな話。もちろん近代オリンピック以前のスポーツ、ということで、庶民は賞金目当てのプロとして参加するという、野蛮な部分を隠さない「見世物」の側面もあるスポーツである。だから昔は、ストリキニーネが興奮剤としても使用されていていた、というのも興味深い。ドーピングもやりたい放題だったわけだ(苦笑)もちろん、結果には皆お金を賭けてやっている。ギャンブルでもあるんだよ。イギリスだなあ、でもある。

だから殺人があったくらいでは競技中止にはならないんだ。競技続行のまま操作は続き、そして第二の殺人も...競技の行方も、犯人探しも並行で動くのが小説として大変面白い。

近代スポーツ以前のスポーツのあり方の実録再現的な興味と、スポーツの結果、犯人探しと興味をそそる小説としての設計が優れている。
ミステリとしての充実感はさほどでもないんだけど、小説としては実に読ませるな。「ミステリの祭典」だから控えめにして6点。でももっと、面白い。
(解説でもマッコイ「彼らは廃馬を撃つ」のマラソンダンスを引き合いに出す。似たようなものだね)

No.1599 6点 復讐の女神- フレドリック・ブラウン 2026/06/25 20:09
「まっ白な嘘」に続く1963年のミステリ短編集。2023年に「死の10パーンセント」が日本オリジナル短篇集で編まれているのを別にして、生前のオリジナル短篇集で言えば、ミステリ短編集は2冊、SF短編集が4冊となってミステリの方が少ないことにはなるかな。
軽く調べたが、SF短編は戦前も戦後もブラウンは盛んに書いているけども、ミステリ短編はほぼ1940年代にしか書いていない。だから1951年に編まれた「まっ白な嘘」は最近作+過去のお気に入りで出来たベスト集みたいなものだろう。それに対してこの1963年に編まれたこの短編集は、過去のパルプ時代1940年代のアンソロという性格のもののようだ。だから明らかに時系列では「まっ白な嘘」よりも前の作品メインということになる。

だから「まっ白な嘘」と比較すると、こっちはオーソドックスにミステリしている感じが強い。その分おとなしいかな。「笑う肉屋」みたいな破天荒な作品とか実験的な作品はない。
本作だと「生命保険と火災保険」「姿なき殺人者」と、ファランクス生命保険の勧誘員ヘンリー・スミス氏活躍作を収録。パルプな味わいがあるなあ。シリーズで書いていたフシもある。「毛むくじゃらの犬」あたりは軽ハードボイルドといった感覚のものだし、中編「踊るサンドイッチ」はまさにウールリッチ調。

だから、パルプ作家ブラウンを把握するにはナイスな短編集ということになろう。才気はもちろんあって、最初からソツなく読ませる技に長けた作家だな。

個人的にはアホっぽい趣のある「すりの名人」が好き。「黒猫の謎」は改訳版の「サタン1.5世」の方がタイトルはいいかな。猫は九つの命を持つ、っていうから、復活したのか子どもなのか?を巡って意外な真相。「象と道化師」はブラウン大好きなサーカス話。エドくん第二作「三人のこびと」が楽しみになった。

No.1598 6点 シカゴ・ブルース- フレドリック・ブラウン 2026/06/22 17:18
「死にいたる火星人の扉」「アンブローズ蒐集家」とシリーズ中盤作を先にやってしまい、「しまったな、エドくんストーリーとして最初から追うんだった」と後悔したことで、シリーズ第一作に回帰することにした。

まだ18歳、見習い印刷工で、同じ職場の父ウォレスと一緒に働くエドくんが主人公。その父が夜の路地で撲殺された。この父の死によって、継母のマッジ・マッジの連れ子で生意気盛りの少女ガーティとで成立していた、エドの「家庭」は崩壊していく...いや、マッジとガーティと直接の仲たがいをしたわけではない。それぞれが結びつく理由をただただ失くしてしまったからだけなのだ。エドは父の弟アンブローズ(アム伯父)に逢いに行き、父の若き日の冒険を聞いて、実直な印刷工として働く父の意外な側面を見つける。そして、アム伯父と共にウォレスの死の真相を追求していく...

こんな話。エドはナリと頭は大人と言えても、ココロはまだ子供なんだ。これが如実に伝わってくるのがブラウンの筆力。バーに行って酒を飲むのもまだビクビクもののエド君だから、アム伯父はエドにとっての「大人の世界への案内人」でもある。人間関係にしっとりとしたリアルがあって、これが読みどころ。
最後の方にはヤクザの情婦としっぽりと...
ここらへん「手斧が首を切りにきた」と共通するテイストだ。あっちが本作のリライトみたいな側面があるんだね。

ミステリとしては特筆するところはないといえばはない。風俗ミステリといえばその通り。でも小説としてはナイスだ。

高層ビル最上階のバーで、アム伯父がエドに、シカゴの街を「でっかい低俗なキャバレー(fabulous clipjoint)」として示すことから原題が来ている。このでっかいが金次第のボッタくり酒場という「世間」に、エド君は乗り出していくのである。

No.1597 6点 亜細亜の曙- 山中峯太郎 2026/06/18 22:51
なんとなく気になって読んでみた。
三一書房「少年小説体系」なので、余裕があったら人並さんオススメな「黒星博士」もするかもね。

月報に横田順彌氏が一文を寄せていて「現代世界でジェームズ・ボンドがやっていることは、もうとっくのむかしに、本郷義昭がやっているのだ」とまで書いているよ(苦笑)いや本当にやっていることは和製007。潜入して捕えられて、敵の首領との駆け引きの中で脱出の機会を窺う話。敵は⚪︎国が南洋に築いた、恐怖鉄塔を擁する巌窟城に立て籠る怪傑。対する本郷義昭は中国人に化けて潜入するが、その絶大な能力がバレて身元を暴かれる(苦笑)ボンドガールはいないが、同じく恐怖鉄塔に囚われの身のインドの黒人王子ルイカールが相棒。この巌窟城は日本進攻のための軍事拠点であり、毒ガス工場もあったりするが、日本が開発した無限自進機(要するにロケット弾)の図面を奪って研究し試作していたりする。液体空気を推進力として、それが爆発する新兵器。描写はSF度高いが、内容はかなりリアルに第二次世界大戦の新兵器を反映しているね。怪力線という光線が新兵器キーになっていて、これが三種類あるという話からすると、放射線のαβγ線の三種みたいなイメージかな。

でパブリックイメージだと大アジア主義ってイメージ悪いけど、本作あたりは当然、インド人・中国人と一緒にアジアから植民地主義者の白人を追い出そう、というのがベース。中国人は⚪︎国人側についているのもいるけど、白人でもドイツ人は味方。なかなか現金に情勢を反映している。派手な活劇が続き、最後は大爆発で巌窟城は崩壊。

そりゃ本郷義昭、スーパーマンだけど嫌味がないな。北辰一刀流の皆伝で剣侠児の異名があって、「本郷剣侠児」と呼ばれたり、「わが本郷は」とか地の文で贔屓されたりとか、講談調の語り口は古臭いが、筋目の通った胆力ベースの駆け引きで絶体絶命のピンチを切り抜けていく。チートと感じるようなことはない。

だから本郷はなかなかヒーローとしてカッコいい。ご都合主義は仕方ないが、意外に危機の連続が過ぎてメリハリが薄い。語り口が過剰なのでやや疲れるところがある。
まあそれでも、完全に007だよ。そう見ると、なかなか凄い。

No.1596 5点 死んだ耳の男- エド・マクベイン 2026/06/17 17:07
本作でやっと訳書では「デフ・マン」表記になる。訳題が「死んだ男の耳」と言うわけのわからないタイトルなんだが、原題は"Let's hear it for the deaf man" で「デフ・マンに拍手を」くらいの意味になるようだ。言うまでもなく、名前を言ってはいけないあの人の三度目のお勤め。趣向だが、デフ・マンは8年おきくらいにずいぶん後期まで間隔をおいて登場してくれるので、デフ・マンを定点観測するような気持ちでちょっと追ってみよう。

なんだけども、本作も60年代後半から70年代初めの87不振期の作品。久々に87の面々と遊びたくなった「電話魔」は87にわざわざ「わたしは帰ってきたよ」な電話をかけるあたりから始まる。律儀なもんだw で、87に意味深な写真を送りつけてくる。もちろん犯罪予告のわけだ。まさに「かまってちゃん」でもある。

しかし、ミステリとして捉えた時には、デフ・マンのシリーズは「犯罪予告」についての様々なバリエーションを展開するという目的があるんだよね。そういうネタをマクベインが思いついて、作品化するアイコンが、デフ・マンと言うことでもあるんだ。カットバックでデフ・マンが仲間を集めて銀行強盗を企んでいるのが描かれていく...それに並行していつもの87の日常編が。「猫」とあだ名のついた空き巣は現場に署名がわりに子猫を残していく(クリングくん担当)、キリストみたいに磔刑になった状態で発見されたヒッピーの殺人事件(キャレラ担当)。クリングくんもクレアを亡くした悲しみから立ち直り、新たな出会いが!赤毛のファッションモデル、オーガスタ・ブレア嬢ね。

まあ、どれもこれも事件は派手なわりに、あまり真相が面白くない。期待するとややがっかりかな。凡作。風俗的にはフラワーチルドレンとかバイカーが絡んでいて、70年代のサブカル風景が懐かしいなあ。

No.1595 6点 狂った殺し- チェスター・ハイムズ 2026/06/15 17:23
棺桶&墓掘りだねえ。うん、このシリーズ、ファンキーなのが何と言っても魅力だ。ハーレムの有力者ビッグ・ジョーが亡くなり、その通夜の席で牧師が三階のテラスから落ちたら、そこにパンを満載した籠があって怪我もせずに...でも牧師が通夜の席に戻ってみると、そのパン籠には刺殺死体が!

という始まり。イカレてるでしょう?で、このビッグ・ジョーの葬式になるんだけど、例の牧師が主催するホーリー・ローラー教会で。いやこの教会、クエーカーの一種みたいに神がかりになって床を転げまわるというイカしたキリスト教教会!さらに埋葬のための葬列も「聖者が街にやってくる」風のジャズバンド大行進!

こんなハーレムの風俗のファンキーさにやられるよ。こういう環境なら「フランケンシュタインとキングコング」と呼ばれる棺桶&墓掘りコンビもしっかり、馴染む。

まあ真相に多少トリッキーなあたりもあるけど、既読のハイムズ作品の中ではおとなしい方かな。こんなくらいの評価で勘弁して。

No.1594 6点 シャイニング- スティーヴン・キング 2026/06/13 20:48
小説、そこまでいいのかな?
まあ普通に幽霊屋敷ホラーだし、シャーリー・ジャクスン以降の「少しづつキャラが影響を受けておかしくなっていく」モダンホラーの流れを決定づけた作品ではあるんだ。例によって映画と一緒に鑑賞したのだが、本作についてはキングがキューブリックの映画を悪しざまに罵っている件には凄く納得もするが、逆にそれでもキューブリックの判断の正しさにも軍配を上げたいんだ。要するに大衆的な悪意を表看板にしているキングと、アメリカン・エリートの粋の部分であるキューブリックとは、絶対に理解し合えないな~というのが正直な感想だ。

キングの小説を読んでいると、ホラーというよりも、アル中とDV性癖に本人も悩み、癇癪から子供を傷づけたことを悔いるのだけども、どうしても手が挙がってしまう、ダメな父親の物語なんだよね。だから本当はシャイニングという超能力は親子の和解の道具であるべきなんだけども、これが小説中ではちゃんと機能していない。そもそも悪霊がどうこう言うよりも、まずダメな父親の「親への呪縛」をどうにかしないといけない。妻のウェンディもやっぱりそういう屈折も抱えているから、困った夫婦といえばそうなんだろう。だから心理を丁寧に書けば書くほどホラーから遠ざかってしまう小説なんだ。

逆にキューブリックは心理を完全に切り捨てている。映画は小説みたいな内的独白で作るもんじゃない。とくにダニーなんて5歳の子供であり、その内面性なんてしっかり描くのは不可能だから、表層のかわいさと、大人の視線では浸透し得ない不可視な内面で描いていくしかない。ジャックもウェンディもこれに合わせて描かれるから、ジャックは突然オカしくなるように見えるし、ウェンディも見苦しいくらいに焦り錯乱しながら追い詰められていく。そういう表層性に徹底的にこだわったのがキューブリックの映画なんだ。この冷たい目線、心理に浸透しない目線がキューブリックの真骨頂なのだ。

評者とか封切に行ったわけだよ。今となっては陳腐化しているけども、最新発明だったスティディカムの滑らかな移動撮影に憧れ、まさに悪霊が追跡しているみたいだと感嘆し、空撮のスケールに圧倒され、弦チェレやペンデレッキを選ぶセンスの良さにさすがと思う。そういう映画であるのだが、アラン・レネの「去年マリエンバートで」のキューブリック版なんだって気がついた。移動撮影でフォローしていくのもそうだし、幾何学的な迷路庭園もマリエンバートの売り物のフランス庭園と照応する。そして、悪霊たちが見せる過去のイメージとの多重の重なりも、マリエンバートが組み替えている多重な時間軸のテーマと一致するわけだ。

だから、小説は庶民、映画は貴族。そういうズレの面白さを味わうものなのかな。(キングって実はスピレインの血族みたいに感じるが...どうだろう?)

No.1593 7点 虚像淫楽(角川文庫版)- 山田風太郎 2026/06/10 20:46
実は評者、一番最初に読んだ風太郎が、ここらへんの短編作品だったんだ。だから山田風太郎=医学知識を活用したSM猟奇心理ミステリ作家、と長らく誤解していたりした(苦笑)ミステリマニアの中学生なんだもん、仕方ないよねw
だから風太郎忍法帖も実態以上の過剰なエログロなイメージで捉えていたなあ。角川での「魔界転生」の映画化もそういう誤解を助長してくれていた。いや落差大きいよ。

まあ「眼中の悪魔」と「虚像淫楽」を比較したら、やっぱり「虚像淫楽」の方がいいなあ。「はい、千明先生!」にホダされるよ。こんなにもアクロバティックな恋愛ができるんだ、という偉観に打たれるというべきか。

でガチのゴシックミステリでほぼ中編の「厨子家の悪霊」。いやまあなんというか邪悪な話だが力作だね。佐清マスクみたいな仮面が小道具として効いているのがいい。「蝋人」は忍法帖がトリックになったようなバカ密室といえばそうか(苦笑)でも一途な恋心が泣かせる、ミステリから「はみ出た」話。いいなあ。個人的には本書で一番好き。

「死者の呼び声」は多重な枠小説。叙述トリック好きな人はこういうの好きそうだ。「さようなら」はファンタジックな味わいが素晴らしい佳作。こういう「思い」が詰まったような作品は好きだ。

「黄色い下宿人」はまあ、ホームズ・パステーシュとして有名なもの。そしてロンドン留学中でホームシックからちょいとオカしくなってる夏目漱石が登場。後年の作品で有名人を出したがるあたりの萌芽がここにあるわけだ。漱石とホームズが探偵合戦をするという趣向はとても美味しいから、さらに模倣もあるわけだし。なんだけど、漱石と探偵といえば「草枕」でね、

普通の小説はみんな探偵が発明したものですよ。非人情なところがないから、ちっとも趣がない

と「人のひる屁への勘定」する「探偵」に漱石が憤懣を抱えているあたりが何といっても面白い(苦笑)

No.1592 4点 死時計- ジョン・ディクスン・カー 2026/06/08 23:43
そもそもあまりいい評判を聞かない作品である。大きな時計の分針が凶器になっている、という一点で「意外な凶器作品」で有名かな。カーの場合「緑のカプセルの問題」での時計の針の使い方の方がずっと素敵なんだけどもねえ。

本当にややこしい状況下での刺殺事件である。読者はフェル博士たちに導かれて殺人直後の場面に居合わせるんだけども、それでも状況がよく把握できない...困ったな。で現場は監視型密室に近いと見ることもできる。そうしてみると原題の「Death-Watch」は「死の監視」に掛けたタイトルでもあるわけだ。でも凶器となる針は塔にはめ込む大時計のものなので、こっちは clock だろうよ。ただし、作中で時計職人のフリをした刑事を、時計を「clock」と呼んで職人らしい「dial」で呼ばないことで本職の職人が見破る話が出ている。ややこしいなあ。クリスティの「七つの時計」は「The Seven Dials Mystery」だからねえ。

プロットは綾がなくて退屈。ダラダラしている。登場人物は最初に出て以降、あまりマトモに再登場しないキャラも複数いるくらいに、キャラの印象が薄い。もう少しプロットを工夫してほしいあたり。そして真相は...う~ん、カーの狙いはわかるんだけども、どうも魅力的でない。フェル博士が解明しても「...説明不足?」となるようなもの。どうしても時計の針が凶器でなければいけないほどの魅力的な理由もない。

まあカーが年4本長編を書いていた時期の作品だ。駄作も仕方ない。タイトルだけが妙にカッコイイし、創元推理文庫の初期に出ていたが70年代あたりはずっと手に入らなかった作品。不条理に神秘的なイメージを持っていたよ。

No.1591 8点 危険な関係- 新章文子 2026/06/04 17:10
笹沢左保の「招かれざる客」を破っての乱歩賞受賞作。今のミステリマニアが比較して読んだら、「何故だ!」と言いかねない作品かもしれないよ。気持ちはわかるんだ。評者はそれでも本作に軍配を上げるな。

というのはね、笹沢左保一般に、というか「招かれざる客」が特にそうだけど、ベースにあるのが甘口のロマンティシズムなんだよね。もちろん笹沢の大衆作家としての成功にこの甘口のロマンティシズムが貢献したことは承知の上だが、本作のドライで非情な戦後派の若者心理の活写と巧妙なミステリへの畳み込みの見事さと比較したときに、圧倒的に「招かれざる客」は類型的で古臭く見えるんだ。選考も満場一致というのはこういう判断が働いているよ。

ハタを膝を打ちたくなる秀抜な心理描写が続出する。主人公からして二回も自分が命を狙われていることを知りながらも「自殺だった!」と言い張るキャラ。この主人公高行が嫌がらせのように関係者を集めて、首つり自殺のまねごとをする。大金持ちなのにバンドマンとしてドラムを叩く男のこの屈折感。周囲を固めるのは、妹だが高行と対立する高飛車なお嬢様のめぐみ。この少女は「春琴抄か!」となるくらいに、思いを寄せる運転手にツラくあたる。高行に「自殺しろ!」と手紙を送った、因縁の関係があるバーのマダム緋絽子、緋絽子が美男を見込んで新店舗の店長に抜擢した勇吉。勇吉は高行が万引きするのを目撃して、高行と奇妙な意気投合をするあたり絶妙なキャラ設定だが、出世欲からめぐみをモノにしようと画策する。などなど、クセ強めキャラが生き生きと描かれている。

この小説の偉いところは、これらのキャラの関係性が相互にネットワーク的に張り巡らされているところである。人並さんが「人物相関図のメモまで作りながら物語を読み進めた」とおっしゃるのに完全に納得する。そのくらいの相互関係の複雑さが半端ない。まさに「生きたミステリ」というべきだ。
こんな濃密な人間関係の中だからこそ、冗談のような自殺に便乗した思い付きの殺人もあっていい。そう思わせる圧倒的な筆力で読ませる小説なのである。

《お兄ちゃんはよっぽど生命冥加のある人や》とめぐみは思った。《でも、あれであのまゝ死んではったとしても、お兄ちゃん自身、うちに殺されたとは判らへんのやし、それにあんなお兄ちゃんのことや。生きて何が仕度いという希望もなさそうやし、別にどうということもあらへんだやろうなア》

この京都弁のドライなイケズ感がなんといっても素晴らしい。そういうミステリ。

No.1590 5点 ひきがえるの夜- マイクル・コリンズ 2026/06/02 18:20
久々にネオ・ハードボイルド。片腕探偵ダン・フォーチュンの三作目。「恐怖の掟」だとヤンキーぽかったダンだけど、本作だともちょっと落ち着いた感じ、というか負け犬っぽさが出てきちゃってるなあ(苦笑)

今回は話の中心にキューバのスラムから成りあがった俳優のヴェガがいる。「レイ(王)」と呼ばれる大物である。フォーチュンの恋人マーティもヴェガのステージに抜擢されて出演するが、ヴェガがちょっかいを出すのを嫌がって、恋人のフォーチュンに一言いわせるためにヴェガの元に送り込まれたことから始まる。片腕のフォーチュンはヴェガにパンチ一発ノックアウトされる。弱いぞダン。その場に居合わせた女優アニーの印象が強くダンには残る。ダンはヴェガとアニーが雨のキャフェテリアで何事かの交渉をするのを目撃...しかしアニーは失踪。ダンはその姉のもとを訪れて、ヴェガに一泡吹かすためにアニーの行方調査に自分を売り込む。

こんな風に話は始まる。いやダン・フォーチュン、けっこう私怨で動いているよ(苦笑)そしてハスラー(やり手)でハングリー精神旺盛なアニーの肖像にダンは魅かれるものがある。ノースカロライナの田舎で結婚して二人の子を産みながら、ニューヨークに出て女優の道を選んだ女。姉から演劇人の恋人を奪い、ヴェガとも打算的に付き合い、なんと二人の子と元夫の面倒まで見ている、伊藤野枝か!ってくらいの傑物だったりする。このアニーの人生が興味深く、この女の個性がエンジンになって話を進めている。

だからミステリ的な謎の興味は薄い。大した話ではないからバレるけど、話の背景にハリウッドの赤狩りが翳を落としている。ヴェガのモデルというと、裏切者エリア・カザンにリー・ストラスバーグを足したような造形。だからマーロン・ブランド気取りの俳優志望も登場。そんな話。ややまとまりが悪いかな。

No.1589 5点 月射病- ジョルジュ・シムノン 2026/05/31 17:56
さてやっと現在進行中の東宣出版の「シムノン ロマン・デュール選集」に追いつくことができた。例の瀬名秀明氏の監修で6冊出るのかな。
で本作は瀬名氏の連載だと本作は「赤道」という映画化タイトルで項目(第36回)がある。この項の「ただ将来、ひょっとして何かの間違いが起こって(?)日本にシムノンブームが再来し、新たに訳出紹介が進むことがないとも限らない」が叶いつつあるようで目出度いなあ。

というわけで瀬名氏肝入りの作品である。舞台は仏領ガボン。アフリカ舞台のシムノン作品はいくつかあるんだけど、瀬名氏は長島良三氏が営業的配慮で紹介を渋ったのではなどと憶測している。「フェルショー家の兄」の背景の話とか、「しっぽのない小豚」収録の短篇「命にかけて」がアフリカの話だから、少しくらいは紹介されていないわけでもないか。

シムノンお馴染みのボルドーの街ラ・ロシェルの名家出身の青年ティマールは、一旗揚げようと伯父の紹介でガボンに渡った。上陸した港町リーブルヴィルのホテルでティマールはホテルの女主人アデルとわり無き仲になる。アデルは黒人ボーイの殺人に関りが?ティマールとアデルは上流のジャングルの借地権を買い取り川を遡るが、リーブルヴィルでは黒人ボーイ殺人事件の裁判が?

という話。ティマールは意気揚々とアフリカに渡ったわけだけど、女に溺れてデング熱にかかったりなど、目的を見失いどんどんと衰えて自滅的な行動を取ることになる。それをアフリカの強い日差しによって罹る「日射病」というよりも、狂気の月光として「月射病」と喩えて、「幻想のアフリカ」というべきものを描こうとしている雰囲気。夢破れたティマールは「アフリカなんて、存在しない!」と言い切ってしまうのだが、主観的な小説だね。
う~ん、青年の客気みたいなものと、すべてを飲み込む異郷という対立軸の小説かもね。川を遡るあたりコンラッドの「闇の奥」を意識しているみたいに見える。
意気込みは買うし、瀬名氏が「別なシムノン」を提示したいという思いはわかる。でももう少ししっかり展開した小説で読みたいな。

No.1588 6点 探偵X氏の事件- 別役実 2026/05/30 16:53
「綾辻行人・有栖川有栖のミステリー・ジョッキー2」に本書収録の「六連続殺人事件」が収録されたこともあって、意外な知名度があるのかな?別役実の探偵Xシリーズでもショートショートの集成で200pの本になんと50本も収録している。

山高帽にモノクル・ループタイ、右手に拡大鏡をもった肥った男、X氏。1作3ページくらいでガンガンと飛ばしていく。そのロジックといえばブラウン神父も真っ青、ルーフォック・オルメスも大爆笑な超絶ロジック。たとえば落ちていた耳の持ち主を探すのをX氏が依頼されると...実は「私にはこれまで耳が三つあって、それがようやく今、二つになったところだから」もう捜査は止めてくれとの手紙が届く(「耳事件」)その他にタイムパラドックスみたいな「予言殺人事件」もあれば、「あさってのジョー」が犯人の「密室殺人事件」もある。はげ頭の男が殺される「はげ頭連続殺人事件」ならばホワイの部分で大笑い。しかし出口のない教会で花婿が失踪する「花婿失踪事件」ではドイルの某作のトリックが...となにげに優れたアイデアと馬鹿馬鹿しいコントとが入り混じる。

極北の短篇ミステリ集かもよ(苦笑)
けどこの三冊で探偵X氏も全部かなあ。ミステリファンにもウケる作品集だと思う。
(書誌情報がおかしいので補足。1986年11月20日初版、王国社発行。復刊ドットコムにも登録があるので復刊するかも?)

No.1587 6点 血の伯爵夫人- レイ・ラッセル 2026/05/30 09:38
確かに異色作家短篇集の「嘲笑う男」は今一つだったけども、それでも表題作に相当する「サルドニクス」は面白かった。「嘲笑う男」ではゴシック・ホラーは「サルドニクス」だけであとはSFか奇譚だったのだが、どうやらこの人はホラー作家としての評価が高いようだ...で長編「インキュバス」を読むとアメリカンなモダンホラー。どういう作家かさらに謎になる。というわけでもう一冊の短編集がこれ。副題で「モダン・ゴシックの精髄」とついているから期待。

結論から言うと、この人の訳書では一番面白い。短編5作を収録し、「血の伯爵夫人」は例のエリザベート・バートリの独白でその生涯を振り返る話。この人については澁澤龍彦や種村季弘が紹介し桐生操の「血の伯爵夫人」が詳しく語っている「女吸血鬼」。ラッセルは史実というより自由な創作に近く、エリザベートの血の渇きを彼女の本質というよりも周囲に流されたような形で描いている。どっちかいえば夫フェレンツとの普通の恋愛話が良く描けているようにも感じちゃって困ったなあ...だからエリザベートは「ハメられた」ような印象。長編にした方が面白いと思うよ。
ラッセルとしては「サルドニクス」、本作(原題「サングギアリウス」)、「サジタリウス(いて座)」と「S」始まりのゴシック三部作という体裁らしい。機会があれば「サジタリウス」もやりたいな。ポケミスの「新・幻想と怪奇」に収録のようだ。

個人的に一番好きなのは「彗星の美酒」。なんとロシア五人組を扱っているというクラシックネタでもなかなかニッチな着眼点。無能なディレッタントと思われていた男が急に作曲の才を発揮して五人組を驚かせる。次回作は「カラマーゾフの兄弟」のオペラ化!現在「ファウスト」をヒネったオリジナル作を企画中...その真相は?という話。リーダーだったバラキレフの精神病によるキャリア中断やムソルグスキーのアル中廃人っぷりなど、そういうあたりがヒントになっているようだ。
「ビザンチン宮殿の夜」は「市民ケーン」の裏話みたいなものかな。大金持ちの映画製作者がホストとして呼び寄せた因縁の男女たち。ホストの狙いは自分に対する陰口を突き付けるという自虐的なものだったのだが...これなかなかいい。しかし、あえて結末でひっくり返すのがなんかもったいない。
「仮面の暗殺者」は中南米の小国の大統領の訃報を巡って、その取材に赴いた記者が遭遇する陰謀の話。これは意外な真相によって話が破綻するという困ったもの。そういうことしない方がいいよ。話を逆転することが自己目的化しているみたいである。
「悦楽の分け前」は催眠術を悪用して..というSFみたいなホラ話。ここでも「市民ケーン」のザナドゥがキーワードとして登場する。

まあ何というか、実力はあるんだけども、その実力の使い方がヘンテコな作家。困る。
(そういえばバートリ伯爵夫人を扱った劇の周囲を描いたホラー「痛苦の聖母」が出ているようだ。何と作者はご贔屓のブラックバーン!そのうち読もう)

No.1586 7点 愚かものの失楽園- パトリック・クェンティン 2026/05/27 20:31
「失楽園」っていうと有名な不倫話だったよね、とかつい余計なことを思い出してしまう(笑)原題は "shadow of guilt" だから「罪悪感」という程度の意味で関係がないし、創元で本書が出たのはずっと昔だ。

なんだけど、本書の文芸設定、評者は好きだなあ。PQのお得意パターンだけど、金持ち一族の妻で「社交婦人」、社交界での女ボス的な立場にあるしっかり者のコニーの肖像が素晴らしい。有能なビジネスマンの夫を引き立てて一族に迎え入れ、養女にも優しく厳しく育てる良妻賢母なんだけども、夫はどうも妻の有能さ・立派さに気後れしている...コニーは養女に自分の自慢の甥を娶せようとするのだが、養女アラもそんなコニーに不当な反発をしておかしな男と...その色事師の男が殺される。

このコニーが悪女?違うよ、だってコニーはホントに頑張っているんだ。だからこそこの殺人事件で家族が崩壊しようとする瀬戸際で、コニーが夫に独白する。

わたしは、いつでも正しいことをしようと努力してーそのあげく、どんなことになって?そのためにわたしを憎むようになっただけだわ。

これが本当に悲しい。読んだ感想で一番近いのはクリスティの「無実はさいなむ」。危機の中で、家族の紐帯という呪術めいた絆が浮かび上がるさまがいい。だから「PQお得意の悪女もの」とまとめてしまうのは残念。そういう話ではないよ。人間ドラマがミステリを強く上回った作品である。

No.1585 6点 グレイ・フラノの屍衣- ヘンリー・スレッサー 2026/05/25 22:32
短編名手スレッサーのミステリ最初の長編。MWAの処女長編賞をもらってる。

スレッサー自身も働いていた広告業界の話。開高健の「巨人と玩具」とかセイヤーズの「殺人は広告する」と近い話といえばそうか。セイヤーズと違ってアメリカの話だから、捻った会話でも英文学の出典とかでややこしいことはない(苦笑)主人公デヴィッドは、ニューヨークの広告代理店期待の若手。幹部社員が病気になり、デヴィッドがその仕事を引き継ぐ。幼児用食品メーカーのバーク食品の宣伝で赤ん坊を「バーク・ベビー」と名付けてキャンペーン・ベビーにするモノだった。カメラマンの不審な交代やら事故死、そして殺人までも?

ポケミス200ページ程度なのに登場人物一覧に20人も並んで壮観だが、混乱しない。キャラ造形がうまいんだな。依頼主のバーク食品の社長の妙に憎めない我儘ジジイといったキャラが素敵。また伯爵夫人と呼ばれる女社長がデヴィッドに娘を押し付けようとするけど、一見清楚、実は..とかナイスなエピソードも。多彩で癖の強い人物たちの群像劇としては面白いけど、ミステリとしては標準的。

スレッサーもしないとなあ。

No.1584 6点 虎の牙- モーリス・ルブラン 2026/05/24 18:10
長いねえ。横溝正史の作品中で密室の例として本作が上がっていて、「どんなのだっけ?」と思い急遽。だから戦前にはよく読まれていた作品であり、乱歩も褒めている。ルパンだってトリックがあるんだよ。

で実際、本作で登場する密室はなるほどな出来で、決して悪くはない。それ以上に機械仕掛けがあり、これがちょいとしたミスディレクションの役割を果たしているのがナイスだなあ。洗練感はないが、これにヒントを得たと思しき横溝の密室モノよりも心理的な辻褄はよろしい。

2億フランの財産をめぐって、一族根絶やし級の大虐殺劇になる。その他にとばっちりで死ぬ人も色々。というわけで凶悪犯罪度の高い作品なんだけど、それでもクイーンっぽい操りモノだったりする。狙いはわかるし、黒幕犯人の凶悪度がヒドいもんだけども、その分話が迂遠になってやたらと長くて閉口する。ルパンのピンチと脱出も、糸をひく謎の敵手という感覚で、直接対決までやたらとかかる。

で本作というと、今どきほぼネタとしか言いようのない、「モーリタリア帝国アルセーヌ一世陛下」という話が外せない。「813」の後自殺に見せかけて身を晦ましたルパン。フランス外人部隊に身を投じてそこでも活躍するが...色々あって仏領西アフリカ連邦のベースになる征服国家を樹立してしまう。そこにルパンの旧部下を招いて活躍させて、とかまあホラ話でもスケールだけはデカい。
それでも万一を考えて警察に残しておいた子分マズルーの、ルパンに魅了されて忠誠心絶大なんだけども、警察官としての誠実さは失わなくて、あえてルパンの言うことを聞かなかったりするのが、なんかイジらしい。素敵。

というわけで、リーダビリティはいいから長くてもツルツル読める小説なんだけども、結構疲れる。あ、そうか、バカなことばっかりしているヒロインに魅力がないんだよなあ。6点評価は激甘。密室トリックが割と気に入っているから加点って感覚。
まあ、本作でルパンは打ち切り、というつもりだったんだけども、そうも行かずに「八点鐘」で復活。でも過去事件という設定で、時系列で次の作品が「特捜班ビクトール」。ここではルパンは初老だから、10年くらい飛んでいる感覚。

No.1583 7点 密室殺人- 鮎川哲也 2026/05/23 16:22
「赤い密室」しないとね〜と思っていたけど、実は「青い密室」は初読だったりする。というわけ赤白青全て揃った本ということで本書を。

当然赤白青は全て星影龍三モノだけど、なんか鮎哲さんの愛みたいなものがあまり感じられないキャラだな。まあ「嫌な奴」造形で有名なんだけども。
で当然、密室といえばコレな「赤い密室」だけど、「困難は分割せよ」な強い手品趣味が窺われる作品。左手の使い方がナイスだね。赤だけ70ページ近くあって長いけど、白青は40ページくらいで短い。「白い密室」は雪足跡密室だけどもちょっと変形で、変形由来のあたりが特殊事情というべきかな。「青い密室」はまあ意図的に作ったわけではない密室。青は花壇の花の芽って話は知ってた(苦笑)

まあだから、いわゆる「密室ファン」が好きなのは、「赤い密室」だけじゃないかな?ガチ密室とか本格密室という言い方をしてもいいのかもしれないよ。白青はモダン・ディティクティヴ風に捉えたら面白いと思う。

で「矛盾する足跡」はどっちかいえばフーダニットかもしれないな。トリックから犯人がわかるタイプ。いやこういうの好きなんだけど。足跡解釈で密室かも?な設定。「スカートをはいた大藪春彦」伊達邦子って大爆笑。「死者を笞打て」風のキャラ設定で、本格ミステリ作家の「私」をみんなでイジる話w

「海辺の悲劇」は...密室じゃないでしょうこれ。似たようなのバーテンでなかったっけ?

本書の解説が島崎博氏で、幻影城でのお付き合いからのエピソードをいくつか紹介。鮎哲さん酒たばこ一切ダメは、伝説だと言っている。少量可らしい(苦笑)作家って好奇心が旺盛でないと務まらないと思うんだ。

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クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
採点傾向
平均点: 6.38点   採点数: 1602件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(121)
アガサ・クリスティー(97)
エラリイ・クイーン(49)
ジョン・ディクスン・カー(36)
ボアロー&ナルスジャック(26)
ロス・マクドナルド(26)
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