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[ 社会派 ]
石の下の記録
大下宇陀児 出版月: 1951年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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1951年01月

春陽堂書店
1953年01月

河出書房
1956年01月

講談社
1973年01月

双葉社
1995年05月

No.2 5点 クリスティ再読 2025/10/02 10:07
探偵作家クラブ賞受賞作。「虚像」とならぶ作者戦後の二大長編というわけだけども...う~ん「虚像」ほどじゃないなあ。不良学生グループを中心にして、学生による教授排斥から、学生強盗、性的乱脈、学生高利貸として「白昼の死角」やら「青の時代」で描かれた「光クラブ」といった、戦後のいわゆるアプレ青年風俗を描きつつ、保守政界の再編と絡んだ買収工作とその政治家殺人事件、失踪した元将軍はひょっとして三無事件みたいなクーデター計画か?となかなかに盛りだくさんの事件が取り扱われている。その分、散漫に流れているように感じた。

確かに本作の登場人物で一番よく描けているのは、光クラブに相当する学生高利貸を始める笠原である。とはいえねえ、やはり三島の「青の時代」と比較するまでもなく、かなり浅薄。最大の問題は、この学生グループは「S大」という仮名で描かれているけど、光クラブの山崎晃嗣は東大生だったわけ。三島とも面識があったようで、ちょっと歪んだエリート思想が「青の時代」でも読みどころになってた。このS大の同級の園江新六が愚昧で狂暴な男として描かれているから、ホントにエリート大学なのかよと、怪しくなってしまう。さすがに東大生強盗というのは聞いたことがない(苦笑) 
さらに形式的な主人公でもある藤井有吉が被害者の政治家の息子で、絵にかいたような優柔不断のボンボン。こういう主人公像が「人生の阿呆」でもそうだけど、戦前に流行ったんだよね。こういうあたりがどうも古臭くも感じてしまうんだ。こんなドラ息子と心中することになる娘さんが気の毒で仕方がないよ....
意外にいいキャラなのが有吉の義母になり一時笠原と浮気をする貴美子。貞節なのかワガママなのかよく分からないあたりにヘンなリアルがあるけども、実はキャラ設定のミスなのかもしれない...怪我の功名みたいな気がする(苦笑)

というわけで、意外なくらい「時勢がよく分かってない」作品だと思うよ。
「虚像」だと確かに「社会派の先駆だよね」という新しさがあったけど、本作は戦後風俗を描きながらも、見る視点が「戦前的」だと思う。そうしてみると、いかに松本清張の「社会派」が「戦前のモダニスト小説」の延長だった戦後の探偵小説の「書き方」を更新したものであるのか、改めて感じ入ることになる。

No.1 7点 2013/05/08 23:09
昭和23~25年に雑誌に連載され、昭和26年の探偵作家クラブ賞を受賞した作品です。戦後の時代状況を捉えた風俗小説として評価が高く、木々髙太郎が絶賛したというのも納得できます。高木彬光『白昼の死角』のモデルにもなった光クラブ事件もいち早く取り入れられています。しかし今回久しぶりに読み直してみて、ただ当時の風俗というよりむしろ社会派の先駆的作品であるとの印象を強く持ちました。
謎解き的な興味から言えば、確かに弱いでしょう。トリックのための言い訳はやはり苦しく、誰でも怪しいと気づいてしまいます。またトリックと今書きましたが、実はそう呼べるほどのものでもありません。動機にもなった犯人のある誤解については、そのことが語られる場面での人物出入りを工夫すれば誤解に説得力が増したのに、とも思いました。そういった不満もありますが、全体的には楽しめました。


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