皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
斎藤警部さん |
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平均点: 6.69点 | 書評数: 1304件 |
No.464 | 8点 | 蝶々殺人事件- 横溝正史 | 2016/01/19 18:41 |
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ちょっと複雑な遠距離アリバイと、簡素な超短距離アリバイ。この二つだけで豪華版なのに、そんなアリバイ崩しを二つも含みながら、何故か容疑者さえ絞りきれないまま結末突入! そして真犯人の意外なこと意外なこと(評者が最初に睨んだ人物でしたが、途中から無意識にリスト外になっていました。。) このWアリバイ崩しと意外な犯人の一夫二妻マリアージュ(?)をくるりと包み込んでいるのが、まさかの、、、、おっとここまで。 真犯人以外にも’意外な役割’が最後に明かされる登場人物も複数人いたりして、本当に造作の贅沢な、それでいて小粋に機敏なる名品です。それもこんな太古の昔(1946=昭和21年)によくもまあ、ねえ(ためいき)。。 終始漂う明るくユーモラスな雰囲気も素敵だわ。その明るさの要因の一つさえ、また最後になって明かされるというね。。本当に分厚い推理小説ですよ、頁数は然程で無くとも。
蟷螂の斧さん仰る通り、類推されるのはクロフツのようでいてクリスティですよね。その理由は大きな声では言えません。。 【ここよりネタバレ的】 というか、鮎川哲也と中町信を掛け合わせた様なストーリーではないですか(二人ともぐっと後年なのに)。 まさかの●●トリックだったとはね。。 |
No.463 | 6点 | まっ白な嘘- フレドリック・ブラウン | 2016/01/19 16:58 |
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若かりし頃、緩めに愉しませてもらいました。本業SFの合間に本気の趣味で書いてたんでしょうか、こういうの。氏のSF短篇に較べると若干切れ味甘いのが愛嬌です。有名な「うしろを見るな」なんかタイムパラックスで包み込んでSFミステリに仕立てる手もあったかな、なんて思っちゃったりなんかしちゃったりなんかして。「叫べ、沈黙よ」や「史上で最も偉大な詩」の様に大きく振りかぶった感のある作品が印象深いけど、本格パズラーやハードボイルド風を含め、意外とジャンル的バラエティに富んだ一冊に仕上げてあるのが好感触ですね。
笑う肉屋/四人の盲人/世界がおしまいになった夜/メリー・ゴー・ラウンド/叫べ、沈黙よ/アリスティッドの鼻/後ろで声が/闇の女/キャサリン、おまえの咽喉をもう一度/町を求む/史上で最も偉大な詩/むきにくい林檎/自分の声/まっ白な嘘/カイン/ライリーの死/うしろを見るな |
No.462 | 7点 | 地獄の読書録- 事典・ガイド | 2016/01/17 14:47 |
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高校の頃、ハードカバーの安い古本を買ってチョコチョコ覗いたもの。小林信彦氏の簡素にしてユーモラスな文章が好きでした。当時氏の小説もいくつか見てみたけど、こちらの書評本がぐっと面白かったなあ。
当時の新作がメインですが、往年の抄訳や悪訳(? 一部の旧訳に対する氏の悪態が凄くて笑っちゃう)が生まれ変わった当時新訳の古典名作もチョイチョイ現れるのが良いアクセント。 当時新作の書評でやけに興味を引いたのが鮎川哲也「鍵孔のない扉」の不可能興味(応用度高い特殊密室トリック)の概説。もちろんネタバレは無し。「鍵孔」を実際に読んだのはずっと後になりましたが、その間もず~っと、簡潔で掴みの良い氏の書評が頭に残り、読了して「なぁるほど、そういう事だったのねぇ~」と感慨深くもスルンと腑に落ち、、おもむろに葉巻へ火を点けたものです。(最後のは嘘) |
No.461 | 6点 | あるフィルムの背景- 結城昌治 | 2016/01/15 15:18 |
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残酷なツイストに翻弄され、躍動ある暗黒が沁み入る、救われない物語八篇。
惨事/蝮の家/孤独なカラス/老後/私に触らないで/みにくいアヒル/女の檻/あるフィルムの背景 (角川文庫) 「みにくいアヒル」の最後、この根深い醜さには耐えられん。 「惨事」は悲惨極まりない小噺。 「老後」の後を引く怖さにあなたも是非、撃たれたし。 ちょっと長い表題作は、過去に撮影された「ブルーフィルム」の存在に翻弄されるサスペンスの好篇。 それにしても、どの作も題名から不吉なイメージが一気に迸(ほとばし)りますねえ。 |
No.460 | 7点 | メグレと火曜の朝の訪問者- ジョルジュ・シムノン | 2016/01/15 13:39 |
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ストーリーの大半は、事件の起こる「ゼロ時間」に向かって進む「マイナス時間」のサスペンス。 警察にメグレを訪ねた夫曰く「妻が私を殺そうとしています。」別途、妻曰く「夫の精神状態がおかしいんです。」同居する妻の妹(わけありの淋しい女)は夫との慎ましやかな密会現場を見られ、妻は職場のボス(その妻は金持ち!)とただならぬ関係を匂わせるが。。 事件の萌芽を見せ付けられたメグレは「まだ起こっていない犯罪だから、もやもやする」と漏らす(本来の語義通りのサスペンスだ)。 果たして、本当に犯罪はまだ行われていないのか? と読者は暗い舞台裏に想いを馳せることも可能だが。。
同じ家に住む「三人」の内、或る一人が、残りの二人を殺害しようとする、しかし、その結果は。。。 という構造なのか? または、一人が別の一人を? 或いは二人で残りの一人を?? まさか、そこに自殺も絡んで来るとか。。。 そんなつかみ所の無い疑心と最終章標題(目次は無い)の意味深さが溶け合う時、騙し絵の様にミステリはくるりと向きを変え。。事件が起こって「プラス時間」に移行した途端、ストーリーは急遽謎解きに転じる! 物語の主題である「三人の本当の人間関係」が、最後に、死人が出る事件の真相構造として露呈、解決される。メグレはそこで手を引く。司法の手に回ったら、気の滅入る事件には関わりたくないと。 *正直、最終章の切ない謎解き急展開に1点upです。 |
No.459 | 5点 | 十七年の空白- 西村京太郎 | 2016/01/13 09:31 |
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十七年の空白/見知らぬ時刻表/青函連絡船から消えた/城崎にて、死/琵琶湖周遊殺人事件
(祥伝社文庫) 思わせぶりな題名に魅力的な謎、推進力ある筋運び、存外淡々とした中継部から尻すぼみの結末。。 これの典型みたいな表題作が愉しめる人向け。私は嫌いじゃない。 良質の読み捨て短篇集として、命や心に余裕があるなら目を通すも良し。 どうでもいい私事ですが、台風で電車止まっちゃって色々あった日に、飛ばされそうな屋外にて蕎麦を啜る様に一気に読んだ本でした。良い想い出です。 |
No.458 | 7点 | 展望車殺人事件- 西村京太郎 | 2016/01/13 09:01 |
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重い反転の「友よ、松江で」、十津川警部過去の友情に絡んだドラマ「特急『富士』殺人事件」、大掛かりなトリックが色彩豊かに陰影も深い表題作等、一定の重みある爪痕深めの短篇集。 量産すれど堕せず、京太郎。
友よ、松江で/特急「富士」殺人事件/展望車殺人事件/死を運ぶ特急「谷川5号」/復讐のスイッチ・バック (新潮文庫) |
No.457 | 8点 | 天啓の殺意- 中町信 | 2016/01/12 18:07 |
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便宜と混濁を兼ね備えた不思議な登場人物表(あれ?○○レベルがごっちゃになってないか・・?)の企みは。。と思えばその謎はすぐ解決。いや、その安心感にこそ何か企みでも潜んでいないか。。。 序盤を読み進めば早くもモヤモヤのドミノ倒し。浮かび上がる先駆者オーラには気品あるほくそ笑みが光っています。
アンバランスの仮面を被ったバランス、その構成の妙、分割の妙、それは叙述の妙。同じ中町叙述でも「模倣」の如く結末反転で物語が萎んでしまう(実像が幻影より小さい)ケースとは逆にむしろ物語が何段階か膨らむ(実像が幻影より大きい)構造になっているのが素敵。どちらも知的興味レベルでは同等の大範疇に整理されるものの、気持ち(エモーション)の問題としてはやはり、後者の突き動かされる感動にこそより惹かれる評者であります。 乱暴に纏めてしまえば某著名作の真相隠匿方法を複雑化した、って事なんだろうけど、実際そうだと思うけど、そんな簡単な物言いだけでは到底済まされまい。読んでみなけりゃその真価は味わい得ない。やっぱり小説だから。 そうそう、大事なこと言い忘れる所でしたが本作品にはちょっと驚きの「意外な探偵役」趣向がありましたね。しっかり伏線張ってるのが(当たり前の事とは言え)ニクい。 7.74点相当の8点。 |
No.456 | 7点 | 予知夢- 東野圭吾 | 2016/01/11 02:37 |
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シリーズ第一作『探偵ガリレオ』が面白物理学啓蒙書風だったのに較べ本作は小説としてのミステリ興味方向に焦点を移している感触。もやもや出来る度合いも高い。事件の核心となる事象に「超自然現象としか思えなさ」をより強く注入しているのがその一因か。 |
No.455 | 6点 | 探偵ガリレオ- 東野圭吾 | 2016/01/11 02:29 |
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手練れの物理学啓蒙本といった趣の強い本作からは「これが本物の物理トリックだ!」とでも言いたげな底力への自負が垣間見える。ミステリへの本筋興味とは若干ずれるだろうが、その知的興味喚起は大いにミステリと親和性があり、愉しく刺激的な読み物として成立している。 |
No.454 | 10点 | 本格篇「眼中の悪魔」- 山田風太郎 | 2016/01/09 03:01 |
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眼中の悪魔/虚像淫楽/厨子家の悪霊/笛を吹く犯罪/死者の呼び声/墓掘人/恋罪/黄色い下宿人/司祭館の殺人/誰にも出来る殺人
(光文社文庫) 「はじめての風太郎ミステリ」として広く読まれて欲しい本。(そういや評者がむかし某アンソロジーで初めて読んだ風太郎が表題作「眼中の悪魔」でありました)味が深く癖は強いが読みにくい代物では決してない、と言いたい所だが現代の本格作家一般に較べれば格段と文章が練れて凝っており語彙選択の宇宙も広大、この絢爛たる流儀に馴れずして到底サクサクとは行けないのかも知れない、それもまた良しと呑み込んでいただく他ございません。 たとえば清張で言う’社会派’の’社会’の部分を’医学’に置き換えた様なドラマ性も豊かにディープな医学派本格ミステリ「眼中の悪魔」から、最早新本格と呼ぶしかない最後の「誰にも出来る殺人」(長篇)まで、途中決して素通り出来ない魅力的な各駅を経て一気に駆け抜ける(なんか言葉が矛盾してますが)風圧も快い破壊力抜群の一冊です。「風太郎ミステリと言えば」の代表作も数多く収録され、氏の胆力気力充実ぶりを概観するにもってこいと言えましょう。「厨子家の悪霊」の分厚いおぞましさと反転の速度感、「虚像淫楽」に沁み込んだ切れ味眩しい耽美も素敵ですが、個人的には何より「司祭館の殺人」にて放射される苦しくも堅牢な人間悲劇 in whodunitのぎらぎらした暗黒図が忘れえぬ味だ。「死者の呼び声」、「墓掘人」等、比較的無名な作もどれもこれも皆凄い。 君は、読まなければいけない! |
No.453 | 8点 | 黒い樹海- 松本清張 | 2016/01/08 12:10 |
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こりゃぁ滅法いい、真実(マジ)面白い。目次に見える各章のシンプルな題名から一々魅力的だ。如何にも含蓄の吹き込まれたオープニングの失踪顛末を経るとそこには、厳格の著者にして意外なゲーム性が拡がる。誠実感あるロジック考察も適時現れ、存外な迄の遊戯興味を唆す。物語が進んで朧気に全体像も見えかける辺りから堰を切って「或る人物」への抵抗感ある疑惑が微量ずつ静かに噴出するのだが。。 古(いにしへ)の南武線沿線、多摩川沿いの惡暗いムードも昭和30年代ノスタルジーを誘う、作者初期の好篇です。 さて、これは清張流の、厚み有る通俗小説トライアルなのだろうか? ともあれ、エンディングには幾つかの意味でホッとしましたよ。。
或る人物の「握手です。」云々には笑ったなぁ。キャバレーだかクラブの一節でキン・シオタニ(イラストレーター)の得意芸を思わす漫画家が出て来るのは面白い。実際の樹海が舞台にならないのが若干寂しかったかな。でも満足。祖父の遺品にて読了。 【逆ネタバレ、というかネタバレ】 わたしゃ途中から「まさか『幻の女』じゃないだろうなぁ」とハラハラし通しでしたよ。 |
No.452 | 4点 | 棺の中の悦楽- 山田風太郎 | 2016/01/06 12:30 |
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*長篇単体です。光文社文庫「傑作選凄愴篇」の方ではなく。
好きな風太郎だけど、本篇は微妙なところで自暴自棄の奇想連射がいまひとつ上滑り。最後の反転、そこに至る前にこれだけ暇無く箍の外れた乱脈奇行を鼻先で見せ付けられた後では驚くに驚けず嘆くに嘆けず。 |
No.451 | 5点 | 深夜の弁明- 清水義範 | 2016/01/06 12:03 |
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間延びしたショート・ショートめいた人間くさい短篇集。半分(?)は珍しくミステリ、残り半分は専門のパスティーシュ、と著者が明言しています。さて、どれどれどれがミステリなのか、題名の並びを見ただけで見当付くかな? ミステリ篇の中に一つ、ちょっとフレンチなチェスタトンみたいのがあり、目を引いた。もちろんパスティーシュ篇もフルスロットルで快調ですよ。
喋るな/乱心ディスプレイ/茶の間の声/百字の男/よく知っている/超実践的犯罪論/黄色い自転車/岬の旅人/浮かばれない男たち/シャーロック・ホームズの口寄せ/解説者たち/父より一言/コップの中の論戦/三流コピーライター養成講座/欠目戸街道を辿る/深夜の弁明/二十一世紀新小説応募作品 |
No.450 | 7点 | 王を探せ- 鮎川哲也 | 2016/01/06 07:31 |
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亀取二郎が容疑者だけで四人もいると思ったら何と「第五の亀取二郎」まで登場するという実にカメトリィでトレンディな不可思議プロットを誇る作品。しかし最初から同姓同名に必然性が与えられている安定感は頼もしい。
ま、若干お遊びカラ回りの感もありますがね。 |
No.449 | 8点 | 死びとの座- 鮎川哲也 | 2016/01/06 02:39 |
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ATJT(鮎川哲也の叙述トリック)! 見事に釣り吊り上げられました!
殺されたミッキー中野は人気絶頂のロック歌手ジャッキー上野のそっくりさんタレントやて、誰やねんそれ、ミッキー吉野の立場は?? 一般にあまり評判芳しくない様子ですが、わたしはとても好き。 でもまあ、ファンを自認するひと向けですかね。氏の長篇最終便。(その後に「白樺荘」を完遂させて欲しかった。。) |
No.448 | 7点 | 寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁- 島田荘司 | 2016/01/06 01:18 |
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いやぁ、寝台特急ってそんなに壁薄いんだぁ、参ったなぁ音が漏れちゃうよ、色々と。
などとあらぬ誤解をしていた中学生の頃が懐かしいです。嘘です。だいたい「秒」は幅というか長さの単位じゃないだろ、っていう。 人によっては’邪道’と受け取るかも知れない、ガッツ溢れる豪速変化球のTM(トラベル・ミステリー)ですね。 色々盛り込んで、ひとまず成功と言えましょうよ。 社会派要素は期待(ないし警戒)しなくていいよ。 |
No.447 | 7点 | 消える「水晶特急」- 島田荘司 | 2016/01/06 00:57 |
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バカだが、美しさがある、この豪腕トリックには。
それはそうと、小説もかなりの面白さだ。 見逃すな! ←いろんな意味で(?) |
No.446 | 6点 | シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー | 2016/01/05 11:21 |
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探偵役は二組三人(ポアロ等有名人は不在)。登場人物表に書ききれない程のキャラクター群が雪深い静寂の郷に賑わいの空気を震わす。寒空の冬を舞台とした古典ミステリは素敵にcozyな味わい。真相糾明に驚きも無し。それでいい。呆気ない尻すぼみは飽くまで謎解きの領域だけ。
しかし、真犯人当てられなかった。。登場人物表瞬殺でまず間違いないと思ったんだがなぁ。。まさかの動機まで一瞬で思い当たったのに。。’意外な結末’にも騙された感まるで無し。それでいい(w)。 '負け手’を数えた馬鹿話のくだり、これはただの小休止だろうか? まさかね。。と思えば直後、二手の探偵役が合流、かと思いきややはり三人二組のまま、一人がサイドを乗り換えただけ.. これはいったい結末の何に繋がる動きなの? と気を引くプロットのギミックも効いた。 真犯人弾劾とはまた別の、意外な結末もある。真犯人ならぬ真探偵が最後は物語の襞に埋れた形になるを潔しとするも粋だ。予想外の二人による最後の会話がキラキラ素敵で、雪焼けしそうだったぜ。。 裕次郎のデビュー年、昭和三十一年初版の創元社世界推理小説全集(箱カバー)で読みました。巻末解説、中島河太郎先生の”そして誰もいなくなった”に託す推理小説の未来への期待が眩しかった。まるでロックンロールの未来をスプリングスティーンに見たジョン・ランドーの時めきの様な、されど胸中に鎮めた深い興奮が垣間見えて、泣けました。 |
No.445 | 6点 | 自負のアリバイ- 鮎川哲也 | 2016/01/04 11:14 |
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随分と遅れて来た鮎川ファンの私としては、昔の角川文庫鮎哲名作選に入ってた様な短篇は大抵、後発の創元推理文庫や光文社文庫(集英社もね!)のアンソロジーで読み漁ったものでありますが、これらの作品群を再読するに当たりわざわざ(ささやかな)プレミア付きの角川古本を買ってすると言うのは「道楽読み」以外の何物でもありません。そもそも鮎川を読む事自体道楽に決まってるだろってなもんでありますが、それに輪を掛けてのメタ道楽をせずにいられないのが鮎川ファンの宿命、いや単に私の趣味趣向というものであります。前述した後発文庫繚乱のお陰か本気のプレミアまで付いていない(安い)のがついついの購買欲を誘うのも看過すべからぬ要因ですね。
で、この一冊。「鮎川哲也名作選」と銘打った短篇集で「自負のアリバイ」と来たらこりゃ相当に大きな期待が掛からないわけがありません。事実、LPレコードを樽やトランクの様にアリバイの媒体に使った(かの作品達ほど複雑じゃありませんが)表題作は氏の音楽趣味露出と相俟って興味津々のトリック展開を垣間見せてくれますが。。 偽装の露見が、伏線は充分あったにしても、まさかそんなトリックと何の関係も無い拍子抜け。。 これだったら倒叙形式にせず普通の順叙本格ミステリで、挑みゃ解けそうなアリバイトリック詳細に想いを馳せさせてくれた方が良かった。「自負のアリバイ」なる重みある題名は別の傑作短篇用にとっておいて良かったのでは。。でも詰まらなヵぁないんですけどね。 てんてこてん/声の復讐/憎い風/離魂病患者/自負のアリバイ/灼熱の犯罪/錯誤/尾のないねずみ/冷雨 (角川文庫) さて他に個別コメントしとくと、本格色の強い「離魂病患者」は意外な結末に意外と気付かせない文章技巧が見事。ほとんど小学生向け推理クイズの様な”どうしてバレたんでしょうか?”の「灼熱の犯罪」は内容だけ取れば鮎哲らしからぬエロさ横溢で小学生には不向き。某作品に登場する、浪曲出身流行歌手が唄う架空のヒットソング「涙のスットコドッコイ」って一体どんな歌なんだよ!!(笑)と読むたびに思いを馳せてしまいます。「てんてこてん」、バッドエンドじゃなくて良かったよ、それが意外で面白いんだけどね、ハハ。 さて、うーん、全体通して倒叙推理クイズみたいなのが多いなあ。それをわざわざ小説の意気込みで書き上げるのが良いのだけれど、「これってもしかして昔学研の小学生用学習雑誌に書いてた小学生が主人公のミステリークイズを大人向けに書き直したんじゃないの!?」と思ってしまう作品が目立ちますね。でも好きよ。 |