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斎藤警部さん
平均点: 6.69点 書評数: 1409件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.569 5点 牧場に消える- 佐野洋 2016/07/05 01:38
洋チャンが本作の取材のため半年だか一年だか競馬界にどっぷり浸かったとか言う”競馬ミステリ”長篇。その割に力作感はあまり無いが。。サラブレッドの成長を撮影した貴重な記録フィルムがすりかえられた。。。。という事件から始まる正体の見えない疑惑への追及劇。結末に意外性は薄いけど、ある種の社会派スリルで押し切ってまずまず。 

No.568 6点 赤い熱い海- 佐野洋 2016/07/01 00:46
飛行機事故の死者は三名、疑惑たっぷりの行方不明が一名。森村誠一に遊び人の艶を吹き込んだ様な展開にちょっとハードな旅情が魅力。探偵役はなんと四人~わたしはこの事件の探偵です、わたしもこの事件の探偵です、おいらもこの事件の探偵です、おっとアチキだってこの事件の探偵です~という逆シンデレラの罠状態(??)。結末に意外性の新機軸有りだが、やや企画と技巧に走ったか。ま悪かない。

No.567 8点 英仏海峡の謎- F・W・クロフツ 2016/06/28 18:28
こんなご時勢、海峡を挟んで英仏両警察の友情物語をじっくり味わうのも乙だ。
滑り出しから最高品質の抑制あるスリル。早くも胃の辺りがゾワゾワするあからさまな疑いと、目を疑うキラメキへの期待。仮にヒネリの浅い結末でもそれなりに満足させてもらえそうな予感さえ溢れ出る。
ウェールズはスウォンジーのハウエル署長、最高だ。彼の描写に続くノールズの知識持ちぶり暴露も最高にリフレッシング!クェイル船長も素敵さ、アイウィルキッシュー! 最終コースに至って俄然切実さが屹立する証人達の描写の全てがジャスト・ヴィヴィッド!!鮎川さんは実際やはり最高の手本にしたんだろうなあと腹落ち実感。そして最初に来た逮捕のタイミングのキラメキ!くっそう、誰が本命本ボシなのやら終盤よいとこまで来てさっぱり五里霧中の四面楚歌のビーフカレーメンチカツやなぃか、まして真相ザ・ホール・バディなど見えん、楽し過ぎるぜ人生のくせにこの野郎!フリーマンが如何にしてスリルや心臓直撃と言った光沢あるポイントでエラリーやジョンはもとよりアガサまでばっさり凌駕してやろうと意気込んだか、そのアイディア結着の脳髄を探る思いだ。土壇場前に来て容疑者レイモンドの的確精妙な、冷静保身を射程に賭けたかの推理絵巻。それから更にまだ幾悶着越えて。。。リアリティ有るどんでん返しの閃きが、そこにはあった! 或る単純な幾何学計算の魅惑! 今度こそ犯人をこいつと絞って良いのか、まだもう一段来るのか。。ラストラップ前から、会話も地の文も徹底した逆説表現にガッチリ掴まれた信頼と友情の暖色タペストリーを繕い始めた。まるで夕陽だぜ。。。。最後の一文が某ハードボイルド著名作そっくりなのは笑った。
海洋活劇でも経済サスペンスでもないが、その二つを背後に匂わせた甲斐は充分にある本格推理「アリバイ破り<<<犯人捜し」警察小説。鮎川好きには悪くない。 そうそう、本作には「ポンスン事件」のタナー警部も結構な役どころ(フレンチの同僚)で登場しますよ!

No.566 7点 死者を笞打て- 鮎川哲也 2016/06/24 18:48
冒頭喰い道楽のシーンがやけに印象に残る、、、ちょっとした怪作。
「鮎川哲也」氏が登場し、あからさまに特別枠の異色作であると匂わせます。当時の人気作家連(名前はどれも軽くもじってある)が社交仲間役で大勢出演、当時既に幻の域だった(それこそ後年鮎川氏がその発掘に心血を注いで自己の創作を疎かにした)消えた作家達の名前も多数登場、これは魅力です。前述の「鮎川哲也」氏の著作『死者を笞打て』にまさかの盗作疑惑が掛けられます。終戦間もない幻の時代の或る女流作家がオリジナルの作者だと言うのですが。。??

んで・・・・・・・普通だったら見え透く筈の犯人が、 この異様な雰囲気に呑まれてか最後まで全く分かりませんでした。人の心というのは不思議なものです。
代表長篇短篇群をいくつも読んだ後に手を出せば、なかなかに愉しいでしょう。


【ネタバレ】
「無名の作家」という存在を実に巧みにミスディレクション(ほとんど叙述トリック)に活かしている作品ですよね。

No.565 7点 パラレルワールド・ラブストーリー- 東野圭吾 2016/06/23 19:42
これぞ謎。。。 もし清張が延々と長らえていたら、この話の核心あたりでサブジャンルを越え東野に玉座を渡す契機を自覚したのでは? などと妄想。
通常現実と現実科学と空想科学が4D空間でトリプル交錯するような、バリンジャーの「消された時間」を本気の科学者スピリットで綺麗に建て直し彩り直したかのような機軸感満載。しかし科学の子の良心に殉じ過ぎたか、、こんなスウィートなタイトル付けてからに何たるビターでスクェアなストーリー展開。いっそ甘ったるい現実感無きファンタジーで良かったのに、この題名を割り振るなら。幻想遊泳の世界に拡散させず最後きっちり全ての謎にミステリ流儀の落とし前を付けたのは剛腕天晴れだが、そんな強面の作品ならしっかり強面の表題を冠して欲しかった。『邂逅』とか(?)。
しかし泣けなかったなぁ。。最後に不意打ちのエピローグで奥歯を噛み締めさせて欲しかった。期待は外れた。それでも相当に面白い。この圧倒的底力は何なんだ??

No.564 7点 砂の城- 鮎川哲也 2016/06/22 11:45
とっくの昔に読んだと永年勘違いしてたのを初読、家にあった古い角川文庫。未発表の長篇を発掘された様でちょっと得した気分。
タバコ屋のおやじに通話料を払ったり、合鍵一つ作るのに一手間だった(従ってアリバイ成立にじゅうぶん関わり得た)時代か。。浜松町辺りの本屋の名前が粋だねえ。7.49で惜しくもの7点。

鉄道と雑誌、二つのアリバイトリックの衝撃は弱くスマートとも言えませんが、それぞれの捜査過程、それぞれ更に地方刑事篇と鬼貫篇(但し一部の地方刑事と同行)に分かれるその過程がそれぞれに滋味深く面白く(めちゃそれぞれ言うてます)、やはりどこを切っても玩読出来る、ありがたい一冊でした。そうそう、二つの事件の接点が見えた瞬間から急速に繋がり始める、真相解明の有機的拡がりがね、地味ながら腹にずっしり来る要所連峰でしたね。
言い間違えてネズミイラズw なにしろインテリタイプ、てどないなタイプやw パンをたべているふたり連れ。。
複数のアレを使ったアリバイトリック、黒いやつや朱のやつもそうだけど、クローズアップマジックを連想させる脳内手品が本当に鮎川さんは得意なんですなあ。
 
贋作ローンダリングの遡及追跡はポイント過多で眩惑の魅力満載!まるでハードボイルド流儀を思わす込み入り様ですが、一方でその最中に忍び込むクスクス笑いを誘う鮎川さんの珍妙な名前趣味、いつもながらキュイっとやられてしまいました。
「だけど、あのふたりはそのどちらでもなかったです。」 おぉう、そこのアナタ見てたねぇ。
鬼貫の登場も最高、それ以前の刑事達も最高。鬼貫登場から瞬殺で捜索の空気が引き締まり、一ページ、一ページが冷静にしてスリルに満ちた偽装アリバイ崩しの水際立った領域を敢然と航行。このせいぜい数十頁の、表情は厳しくも語り口はアットホーム、どこか寂しげで濃密な最終コースは、それ迄の主に地方刑事達による、激しい展開にもどこかしら緩さと優しさを見せた捜査物語の存在感あったればこその際立ち。
最終章、警察側第二の主役と見える島根の槇刑事(EXILEオリジナルメンバーMAKIDAIの親類筋かも知れん)の口から全真相の纏めが語られるという細やかな構成の妙も良い。彼は鬼貫と違って酒がイケる口の所帯持ち。。

No.563 7点 フェアウェルの殺人 ハメット短編全集1- ダシール・ハメット 2016/06/21 12:06
アウトローの風を謙虚に吹かせて宮仕え。しじゅう叩く減らず口の切れはともかく、ここぞの正鵠パンチは流石に激烈。スピードがものを言い過ぎの素早い解決。頭良すぎだよ、探偵。でも話の賢さが常に先行ってるから不自然に見えないんだな。 「いつも映画ばかり観て云々。。」長い台詞ながら一瞬のカミソリシュート炸裂(この感覚は不思議)! かの著名作のプロトタイプ風「新任保安官」。私にはこっちが「血の収穫」よりずっといい。あの男女のつがいも最高だ。 交換手。。。嗚呼。 むしろ『読者への挑戦』を挟んで欲しい素敵なハードボイルド推理(当て推量)クイズ「夜の銃声」。皮肉過ぎて残酷だがどうにも笑える簡潔な落語オチも最高だ。 ちょっと長めの政治ファンタジー小噺「王様稼業」も明るいゴルゴ13風で悪くない。反転のつもりだよな、認めるよ。 言い忘れたが全作どれもいいよ!

フェアウェルの殺人/黒づくめの女/うろつくシャム人/新任保安官/放火罪および…/夜の銃声/王様稼業 .. 全篇コンティネンタル・オプもん
(創元推理文庫)

ところで、おっさん様も言及されました、訳者あとがきの
> できれば一編ずつ別個にお読みいただいたほうが味が変ってよろしいかと思う
は本当にハァ?と返さずにいられない余分の言い訳ですね。ハードボイルドにそぐわないこと甚だしい(笑)。

No.562 8点 新宿鮫- 大沢在昌 2016/06/16 13:25
HYYY(早く読みたいゆっくり読みたい)の典型。KUNU(これが売れずに何が売れる)の代表。YYDD(よくぞ世に出した、でかした)!結末の締まりだけミステリ視線じゃ(要は小説として)急にちょっと緩くなるゆえ、ただそれだけで大幅減点!それでも8点(8.46くらい)難なくキープ。本当に良く仕上がったA級娯楽小説。短いラストシークエンスも最高に泣ける。アタイはモリアーティよりルパンよりホームズがいいけど、悪いけどサメよりキヅが好きだな。 ”鮫島は無言でその様子を見守った。。” 桃井も最高だが俺はやっぱ木津だな。藪も本当に魅力的な奴だ。もちろんサメも充分いいんだぜ。「彼」って誰やねん。。ライヴハウスで喧騒と感傷を撒き散らす音楽の描写には期待以上のリアリティ。これが嬉しい。(歌詞は別)

No.561 5点 東北新幹線(スーパー・エクスプレス)殺人事件- 西村京太郎 2016/06/10 16:00
記憶違いでなければ。。おいらがはズめて手にした京太郎は本作。京さん原作のドラマはチョィチョィ観てましたけどね。 ライヴ感覚溢れる、、実際の東北新幹線の中で読みました。そスたらまンヅ(そうしたら何と)長い長い蔵王トンネル通過中、ほんとに蔵王トンネルの場面を通過しちゃったよ、っていう。ま実際長いんだから確率的にそんな珍しい事じゃァないんだどもなス、ありャなかなかの萌え体験でしたよ。 

で、当時の読んでの感想は
「今まで読んでたような推理小説と較べるとずいぶん薄味だが。。。。どういうわけだか面白い。」
「冒頭のつかみが凄いなあ。。 だんだん尻すぼみになるんだけど、、ま詰まらないまで落ちないからいいや。」
「やたらと、句点(、)は、多い、が、スイスイ読みやすい!」
「流石に書き慣れてる!」
「意外とシャラくさくない!」
「青臭さのかけらも無い!」
「こりゃ売れるのも納得!」
「そっかー、鉄道だからってアリバイものとは限らないんだなー」
「サスペンス小説が得意な人なんだな、きっと。」
と言ったあたり(ずいぶん多い)。 その後しばらくして、何処かしらか摑んだ情報を頼りに初期(黄金期?)の諸作にちょっとずつ手を付けて行くわけです。。

既に滅茶苦茶ハイペースな量産期に入っている時代の作品ですが、それでも一定の密度はきっちりキープしています。やはりこの人の作品は最低でも5点。まず4点には落ちないね。

No.560 5点 真相- 横山秀夫 2016/06/09 12:19
暗くて重い割に底の浅い作品が並ぶ。読ませてはくれる、それも高速で。 通しの標題としてはともかく、この表題作単体に何故「真相」 と名付けるのか? もっと深みも重みも備えた会心の一作が生まれた時のために取っておくべきではなかったか? BoAちゃんの中ヒットシングル「永遠」は有機的32ビートに水際立ったメロディが寄り添う美しいミディアム・バラードだが、いかんせんその象徴性高い「永遠」なるタイトルには歌詞からして合ってないんじゃないかって感覚がどうしても残り、その題名により相応しいスローバラードか何かが出来上がった時のために「永遠」の名は取っておけばよいものを。。とリリース当時強く惜しんだものです。横山さんの「真相」にも同じことを感じます。それにしてもBoAちゃん顔が老けたなあ、このまえTVで見てびっくりしたよ。
過去の犯罪、過去の交友関係と現在の選挙戦がいらつきたっぷりに絡み合う「18番ホール」はまるで都会的キレを失った佐野洋のよう。洋チャンに無い社会派の洞察は味だけど、踏み込みが浅いんだよなあ。他に医学アルバイトの話も、地獄空手部の話も、どれもこれも失業を通奏低音に置いた重苦しいストーリーでありながら、どうしてこう、浅い。。 まあ決して詰まらないモンじゃないけどさ、本気ではのめり込めなかった。

だけど、最後の「他人の家」、これはいいねえ。これぞ社会派反転劇ですよ。うっすら連城ミキティ思い出しちゃったよ。心理要素の強い嵐の逆襲暴力シーンも言葉少なに鮮烈、納得。もう眼も鼻もないって。。 ネタバレ風なことを言うと、限られた時間を活かして、しっかり新しい命が宿せますように。。。。

No.559 7点 十字屋敷のピエロ- 東野圭吾 2016/06/08 14:45
わくわくさせる如何にもの新本格設定は肩透かしか。。と思えば最後にギャンと言わされました。ギャフンとまではならないがギャンくらいは行ったw しかしその企図は堂々たるもので、氏の後年の諸作を考えればこの設定なら更にもう二段深い所まで侵攻出来たのではとも思えてしまうが、本作は本作で充分立派。6.5でギリギリの7点。

No.558 8点 ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン 2016/06/07 22:44
流石の力作。 切れ味より突貫力。 『読書への挑戦』の置き場所が最高。こりゃ萌えるわ。。
多重解決のふりをした様な重層的ロジックの響き合いは眩(まばゆ)いばかり。



【以下ネタバレ!】

まさか登場人物表が犯人隠匿最大のミスリードだったとは!全く疑ってもみなかった!「犯人ではありえない側の人達」だと決め付けていたよ!(なんとか山荘か!) この犯人設定、普通だったら”●ンフェア”の五文字で糾弾されておかしくない所、これだけ重厚な謎解きスクラップ&ビルドの果てにやっと。。という達成感でいい意味で押し切ってしまうんだね。如何にも怪しい人物が本当にまさかの犯人、かと思うと覆される、というパターンを繰り返すからこそ効力を発揮する謀略の目くらまし。それにしても真犯人が警察の人間でなくて本当に良かったと○ン○・○○ィ-世代の私はつくづく思ってしまうのです。

【!ネタバレここまで】



ジョアンはともかく筆跡専門家のユナちゃんが気になるのは、少女時代のユナちゃんを連想させる所為かしら。
それと、愉しい気分のまま快い寂しさを纏うラストシーンがね、すごく好きなんですよ。

No.557 4点 ブラジル蝶の謎- 有栖川有栖 2016/06/05 14:10
表題作は事件現場の色彩鮮やかなヴィジュアル・イメージに魅了されるが、解決はなんだかなあ、尻すぼみ。。
蝶つながりで“バタフライ・エフェクト”にモチーフを得た「蝶々がはばたく」は明瞭な企画がはまってそれなりに印象残したかな。。 他は。。まぁいいです。 (←良い、の意味ではない)
でも4点キープ。

No.556 4点 ロシア紅茶の謎- 有栖川有栖 2016/06/04 16:03
つまんないのがたのしい、ってとこ。心が弱ってる時に癒されるぬるま湯作品集としてなかなか。この人ならではのcozyな感覚は時に恋しくなる類のものです。それにしても緩い。。別にどきどきワクワクを求めちゃいないが。。何が暗号やねん。。でも「屋根裏」には大いに笑うたで! 表題作はいい意味でちょっぴりシリアスでちょっとだけ熱いけど。。やっぱトリックというか事件の見せ方がなぁ、どこかしら緩いや。だけどこのトリックいつか実行してみよっと。(冗談ですよ)
最後の「読挑作」で劇的な逆転サヨナラダブルホームスチールをちょっとだけ期待しましたがダメでしたね。本作には他作に見受けられた仄甘い雰囲気さえ感じられず、ただ固くて乾いて面白くないだけ。トリックの根幹に少し感心はした。もっとスリリングに魅せてくれればなあ!
ハッタリや見得切りとクロスしない時の、しかもほんわかムードでもない時の有栖川有栖は自分には本当にダメ。EQと同じだ。

No.555 6点 奇しくも同じ日に……- 佐野洋 2016/06/01 23:58
いやー、表題作の後味悪いこと、佐野洋なのに、佐野洋で野球の話(プロでなく高校野球)なのに!
あっさりとはしているが割と内容有りめ(なんだその言葉)の短篇集。 これもまぁファン以外に薦めてもいい、のかな。。 

奇しくも同じ日に・・・・・・/屋根の上の犬/切り抜きの意味/風流な使者/白い雲/なぜ、いまごろ/絡んだ糸/灰色の軌跡/消えた女
(講談社文庫)

No.554 7点 匂う肌(講談社文庫版)- 佐野洋 2016/06/01 22:13
ピンク・チーフ/虚飾の仮面/匂いの状況/賭け/匂う肌/反対給付/死者からの葉書/内部の敵/手記代筆者
(講談社文庫)

割と「いい内容」の短篇選集。ひとまずファン以外にも軽く薦められるレベルか。
最後尾の「手記代筆者」なる題名が清張っぽくて唆る。

No.553 6点 ゴメスの名はゴメス- 結城昌治 2016/05/31 19:30
詰めは甘いが面白い、読みやすい。往時の南北ベトナム情勢、サイゴン周辺の不穏ながら何処か緩い空気を皮膚感覚で記録に留めた(と想像される)のは立派。しかし小説としては粗や隙も目立ち、結城先生には誠に恐縮だが滲み出るB級感が否めず、そのへん何ともアンバランス。思い出した頃に唐突なユーモアが快調に炸裂してはすぐ止まる。急に友情や感傷が現れたり、惹かれた女はすぐ忘れたり、どうにもストーリーのテクスチュアが凸凹し過ぎて落ち着かない。ハードボイルド風の比喩や言い回しにも取って付けたような脆さが。。時の試練にいささか参っちゃってるかな、ナウな感覚で読めばこりゃ最早一種のパスティーシュではないかと苦笑する格好付けシーンも多々。。でも、繰り返すけど読みやすいし面白えのよ、このスペエ小説は。

No.552 5点 消された時間- ビル・S・バリンジャー 2016/05/30 12:11
最後の瞬間、昔のコント風に ♪チャン・チャン! と本当にジングルが鳴っちゃいそうなレベルの「チャンチャン終わり」には唖然もいい所ですw たしかに「事件捜査の章」の合いの手が有るからこそ「自分捜しの章」のスリルも際立つわけですが。。
読んでる間はサスペンスと不可解性の鬩ぎ合いも強く、決して詰まらない本では無いのですがね、だからこそ4点にはどうしても落とせないのであるがァ~
しばらく前のこと、実家に行ったら、ここしばらくミステリに興味無かった我が老父が(私が実家に置いて来た)この本読んでましてね、老い先そう長くなかろう父が、よりによって。。! と軽いショックを受けたものですw どうせなら「歯と爪」(これも置いて来た)にしなよ~ って。せっかくの読書習慣復活に水を差したくないので、言いませんでしたけど。

No.551 7点 歯と爪- ビル・S・バリンジャー 2016/05/30 11:51
マニアだったら「返金用」「保存用」「読書用」と三冊買うモンよ、と先輩に釘を刺されたものです。嘘です。

主人公は何を目的に何を為したのか、に想いを巡らせばその趣きはなかなか独特の深みがあります。嵌められた敵役にむしろ同情を感じてしまうのは。。これも奥の深い味わいってやつなのか?しかし某人物の焦燥だとか懐疑だとか終局になってやっと描写され始めるのは、物語の特殊な構成上仕方無いかも知れないが、裁判の章の、ひいては小説全体のサスペンス感を多少なりとも減速させてやしないかな?これでもっとキリキリするような不安定感を持続して味わえる文章だったら、【ここから一瞬ちょっとネタバレ】ラストが反転の無い収束(叙述による誤認トリックは袋とじ内の早い段階で明らかにされ、更にもう一段の捻りは無い)ってのも全く文句は無いんだけど。
でもやっぱり、主人公敵役それぞれの全く違うラストシーンがどちらも印象的ですね。主人公はこれから一体どうするつもりか。(敵役は、どこかでピン!と来ることは無いのか。。?) 

オールド・ソウルファンにはどうしてもO.V.ライトの名ミディアム・バラード”A NICKEL AND A NAIL”を連想させずにいない“THE TOOTH AND THE NAIL”なる原題は、証拠物件の”歯と爪”以外に慣用句としての”歯や爪さえ使って=なりふり構わず必死で(闘う)”という意味を掛けておりなかなかグッと来る。日本語で喩えれば”猫の手も殺人事件”(ゆるっ!w)みたいなとこでしょうか?殺人現場には切断された猫の手が落ちており、折からのホニャララでてんてこまいの××県警は。。みたいな?? って何言ってんだか。

そうですね、「赤毛の男の妻」ほどではなくも、一読の価値は多いに認められるのではないかと思いますよ。
エルヴィスのデビューに当たる1950年代中盤で”エレキギターのハウリング音”ってのが一般白人にどう響いたのかも興味津々でした。

No.550 6点 殺人者は21番地に住む- S=A・ステーマン 2016/05/27 17:46
企画の輪郭がくっきりした、クリスティを思わせる古典ですね。詰めは甘いですね。大胆な犯人設定ですね。ヒネリがありますね。ちょっと弱いトコありますね。面白かったですね。  

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斎藤警部さん
ひとこと
昔の創元推理文庫「本格」のマークだった「?おじさん」の横顔ですけど、あれどっちかつうと「本格」より「ハードボイルド」の探偵のイメージでないですか?
好きな作家
鮎川 清張 島荘 東野 クリスチアナ 京太郎 風太郎 連城
採点傾向
平均点: 6.69点   採点数: 1409件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(59)
松本清張(56)
鮎川哲也(51)
佐野洋(40)
島田荘司(38)
アガサ・クリスティー(37)
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