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[ 本格 ]
隅の老人の事件簿
バロネス・オルツィ 出版月: 1977年08月 平均: 6.67点 書評数: 9件

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東京創元社
1977年08月

No.9 8点 クリスティ再読 2019/06/10 21:56
一口に「ホームズのライヴァル」と括られる短編ミステリ専門ヒーローがいるわけだけども、評者の見るところ、そのうち3人だけが「名探偵」から意図的に逸脱しているように思うのだ。「隅の老人」「プリンス・ザレスキー」少し時代が下るが「ポジオリ教授」、この3人は短編で謎を解き明かしながらも、いつしかその謎の彼方に消えていくような印象を評者は受ける。
というわけで評者「隅の老人」を非常に買っている。正体不明、紐を結んだり解いたりする奇癖、犯罪に強く共感する反社会性に加えて、純粋に新聞・検死審問などのオフィシャルな情報だけを語って、未解決の事件の真相を解釈してみせる....ひょっとしたら、その推理はまったくデタラメなホラ話なのかも知れないし、聞き手のミス・バートンを誤導するためのミスリードなのか、本当のところ、よくわからない。
実際、物語の結末が証拠によって隅の老人の推理が裏付けられる話は(おそらく意図的に)ほぼないし、推理の結果因果応報というのも、作中で描かれはしない。語られる検死審問の詳細も、ただ単にリアリティを与えるための口実に過ぎないかのようだ。ありふれた金銭欲などの卑小な動機しか描かれないし、突飛なトリックはなくて、ありふれた人物誤認のバリエーションがあるだけだ。本作のリアルと老人の穿った解釈は互いに食い合って、あたかも奇怪な結び目と化しているかのようだ。
だからこそ、「隅の老人最後の事件」がああいう結末であっても読者に対する裏切りではない。あれは、ああでなくてはいけないのだろう....隅の老人は消え失せる。それこそミス・バートンが見た血なまぐさい悪夢のように。老人がすべての事件の犯人なのかもしれないのだ。

(隅の老人は、新聞とか検死審問とかパブリックな情報源だけで推理するわけで、自身の調査などアクティブな捜査を一切しない探偵、という意味で「安楽椅子探偵の先駆」という評価がされたのでは?という気がするんだよ。「安楽椅子探偵」という字面とその後の概念の成立に引きずられて、否定するのはどうかと思うんだが...)

No.8 7点 斎藤警部 2016/05/10 19:40
探偵役の設定に負うのが大きいか、独特のぬめった空気感が好きだ。ホームズを思わせる古風な題名が並ぶのも良い。心理トリックの光る作品が印象深い。店の片隅に居座るだけでなく、意外と外向きの行動も見せる老人。しかし犯罪の真相は内に秘めようとする老人。多くのフォロワーを唆した(?)「最後の事件」はもはや伝説だね。

フェンチャーチ街の謎/地下鉄の怪事件/ミス・エリオット事件/ダートムア・テラスの悲劇/ペブマーシュ殺し/リッスン・グローヴの謎/トレマーン事件/商船〈アルテミス〉号の危難/コリーニ伯爵の失踪/エアシャムの惨劇/《バーンズデール荘園》の悲劇/リージェント・パークの殺人/隅の老人最後の事件
(創元推理文庫)

ところで「ABCマート」ってまさか「ABCショップ」に因んだ名前じゃないですよね? 靴と言えば紐が付き物だけど。。。

No.7 8点 ロマン 2015/10/24 23:40
老人がカフェの片隅の席で記者一人に自分の推理をとつとつと語る安楽椅子探偵の先駆け的な作品。物的証拠ではなく検死審問でのやり取りなどから得られた情報のみで組み立てられる論理は秀逸。事件の様相もバラエティに富んでおり飽きの来ない作品。特に最終話の印象が読後にまで強く残る作品。

No.6 6点 ボナンザ 2015/01/05 17:53
どの作品も短編として秀逸。ただ、ややマンネリな真相ではある。
最後の事件はやや唐突か。

No.5 7点 おっさん 2012/05/26 16:34
20世紀初頭に、歴史ロマンの書き手オルツィ男爵夫人が余技的に創造した、正体不明の妖しい“名探偵”キャラ・隅の老人は、都合3冊の短編集に登場しますが、我国では、ついに個々の作品集の完訳はなされませんでした。
今回取り上げる、創元推理文庫の<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>版のラインナップは、以下の通り。

①フェン・チャーチ街の謎 ②地下鉄の怪事件 ③ミス・エリオット事件 ④ダートムア・テラスの悲劇 ⑤ペブマーシュ殺し ⑥リッスン・グローヴの謎 ⑦トレマーン事件 ⑧商船<アルテミス>号の危難 ⑨コリーニ伯爵の失踪 ⑩エアシャムの惨劇 ⑪≪バーンズデール荘園≫の悲劇 ⑫リージェント・パークの殺人 ⑬隅の老人最後の事件

③~⑪までが、第1短編集The Case of Miss Elliott(1905)収録作品で、それを①と②、および⑫と⑬の、第2短編集The Old Man in the Corner(1909)の収録作がはさむ、サンドイッチ型の構成になっています。
クラシック・ミステリ・ファンには周知のように、単行本化が遅れた第2短編集の収録作のほうが、じつは先に書かれており(1901年から02年にかけてThe Royal Magazine に連載。ちなみに第1短編集収録作品のほうは、1904年から05年にかけて同誌に連載)、そちらが仕掛けのある連作としてある意味完結しているため、“傑作選”という形でまとめるとすれば、その仕掛けを生かすためにもこうした形にならざるをえず、第2短編集をベースに訳した早川ミステリ文庫版『隅の老人』でも、第1短編集から採った作は、配列上、中間にまとめられています。

さて。
先日、『ゲームシナリオのためのミステリ事典 知っておきたいトリック・セオリー・お約束110』(ソフトバンク クリエイティブ)という本を読んでいたら、「安楽椅子探偵」の項で、「喫茶店の隅の席に座り、名前も職業も不明なことから、ただ「隅の老人」と呼ばれているこの男は、女性記者のポリー・バートンから迷宮入りとなった事件の概要を聞かされ、見事な推理を披露します」という記述にぶつかり、アラアラと思いました。
いまだに、こういう認識が世間では通っているのか。
舞台を<ABCショップ>に限定し、老人とポリーの会話でストーリーを進行させ、取り上げた事件の“真相”を導き出す――といっても、巻末の見事な解説で戸川安宣氏が指摘されているように、このシリーズは、独自の調査をし事件の解釈に関して自己完結している老人が、一方的に、自説をポリーに開陳するだけ。
鮮やかな企みを浮かび上がらせることはあっても――たとえば、黄金時代を先取りするようなトリック小説としての⑥。ホームズ譚などを読んでいても、そこからすぐ、クリスティーらの黄金時代パズラーが輩出するイメージはわきませんが、あいだにオルツィを置くと、ミステリの発展史が納得しやすい――基本的に憶測で、推理の確実さに乏しく、ポオが「マリー・ロジェの謎」で創始した“安楽椅子探偵”ものとは似て非なるものです。
それは本来、弱点であるはず。
しかし。
同趣向の作が積み重なることで、主人公キャラの謎と異常さ(頭の良い犯罪者への賞賛、“真相”を公表することへの無関心)が増していき、ついに作品集の締めである⑬の結末に達すると・・・
それまでの曖昧さが、立ちあがったリドル・ストーリー的全体像に吸収され、いつまでもあとを引く謎というプラスに転じる、逆転を見せます。

さて。
そんな、きわだったこの一篇というより連作的コンセプトで忘れ難い本書ではありますが、最後に筆者の考えるベストをあげておきましょう。
躊躇なく③です。
先に、黄金時代を先取りするような、トリック仕掛人たるオルツィ像について書きましたが、ここでの作者は、もう一歩踏み出している。
よく似たストーリーのw ⑫と比較すると一目瞭然なのですが、これはじつは、重要容疑者の提示する偽アリバイを打ち砕く――話ではないのですね。
最近、フリースタイルから増補版が出た、名著『黄色い部屋はいかに改装されたか?』のなかで、論客・都筑道夫は、トリックのためのトリック、「列車や飛行機の時間が狂ったり、偶然、知人にあったりしたら、たちまち不可能になるような犯罪計画」を、本格ものの行きづまりの原因として難じました。
それを念頭に置いて、この「ミス・エリオット事件」を読むと、アクシデントに対応した計画の軌道修正のアイデアの新しさが、よくわかります。
モダーン・ディテクティヴ・ストーリイの芽は、古典期の作品のなかにもあるのです。

No.4 6点 E-BANKER 2011/12/17 15:23
ロンドン・ノーフォーク街にある『ABCショップ』(喫茶店?)の片隅に居座り、チーズケーキを頬張る変なおじいさん、こと、名もなき「隅の老人」が活躍する作品集。
今回は、創元版の「ホームズのライヴァル」シリーズで読了。

①「フェンチャーチ街の謎」=シリーズを通じて「隅の老人」の相手役となるミス・バートンも最初から登場。前述の「ABCショップ」の紹介を含め、冒頭の作品に相応しい。
②「地下鉄の怪事件」=さすがにロンドンにおける地下鉄の歴史は古い!と変な所に感心。「金は10の犯罪のうち9までの動機になりうる」という台詞はシリーズ全編に共通するプロット。
③「ミス・エリオット事件」=この作品をはじめ、たびたび登場するのが「人の入れ替え」または「誤認」に関するトリック。
④「ダートムア・テラスの悲劇」=ちょっとした思い違いが事件の鍵となる・・・。あまり印象には残らず。
⑤「ペブマージュ殺し」=これは「動機」がどうかなぁ? 登場人物の配役を無理やり割り振った感じ。
⑥「リッスン・グローブの謎」=これはなかなか面白い。トリックの実現性云々は置いといて、プロット自体は多くの長編作品へも応用可能なもの。でも、実の娘がねぇ・・・金って怖い!
⑦「トレマーン事件」=こんな大掛かりな謎を隅に座りながら解決してしまう・・・何だか妄想のようにも見えるが・・・。
⑧「商船アルテミス号の危難」=単なる殺人事件ではないところがやや異色の作品。本筋とは関係ないが、このアルテミス号の積荷というのが、「ロシアが旅順にて使用する速射砲」っていうことは、時代背景から考えて日露戦争で使用するための武器?!
⑨「コリーニ伯爵の失踪」=これなんて、まさにこの作品集の「典型」とも言える作品。周りも簡単に騙されるなよなぁ・・・
⑩「エイシャムの惨劇」=またまた「入れ替え」ならぬ「取り違え」がプロット。
⑪「バーンズデール荘園の惨劇」=今回は「金」と「愛情」。この2大動機が絡み合うところがミソ。
⑫「リージェント・パークの殺人」=要は初歩的なアリバイトリックだが、暗闇で仕掛けるからこそのトリックが面白い。
⑬「隅の老人最後の事件」=まさに「最後の事件」に相応しいが、最終的に動機や事件の背景・構図が不明のまま終了。この辺りがドルリー・レーン譚などとは違ってる。

以上13編。
ごく薄手の本なのだが、独特の読みにくさもあって、読了まで結構時間を要してしまった。
全体的には、他の方の書評にもありますが、とにかくプロットの似通ったものが多いということかな。さすがに似ている作品を13も続けて読むと、どうしても1つ1つの印象が弱まるのは避けられない。
そういう意味でいうと、ホームズ作品の方が優れているということになるのだが、ホームズのように実際に現場に出向いたり、関係者と会話したりというところがない分、純粋に謎解きを楽しめるという気はした。
まぁ、これがいわゆる「安楽椅子型探偵もの」(隅の老人は純粋な安楽椅子探偵とは違うようだが)の「良さ」かな。
(⑥や⑫辺りが面白かった。あとは⑧・⑬を除けば似通った感じ・・・)

No.3 6点 りゅう 2011/04/27 22:10
 隅の老人については、名前は以前より知っていましたが、作品に関しては、先日、「世界短編傑作集」で「ダブリン事件」を読んだのが初めてでした。今回、ハヤカワ・ミステリ文庫の方で短編集を読みました。いずれの作品も、喫茶店の片隅で隅の老人が婦人記者ポリーに迷宮入り事件の経過や推理を語って聞かせるというパターンで、最後に隅の老人は事件の意外な真相(?)を浮かび上がらせます。隅の老人の推理は仮説に基づくもので、警察の捜査には一切協力せずに放置したままなので、その推理が真実なのかどうかははっきりしません。隅の老人の推理には必然性がないので、私の推理でも良いのではと思った作品もありました。全作品ともそれなりに面白いのですが、特筆すべき出来栄えの作品はありませんでした。最終話の「パーシー街の怪死」は意味深な終わり方をしています。隅の老人って、いったい何歳なのでしょう?

No.2 6点 kanamori 2010/09/05 17:36
いつもABCショップの片隅に座り、女性記者ポリーに事件の謎解きを披露する正体不明の老人。早川ミステリ文庫「隅の老人」の方を読みました。
この連作ミステリは、本国では2冊の短編集に分かれていて、創元、早川版ともにそれぞれから数冊セレクトしているため、両社の収録作は微妙に違います(重複は6作品)。収録最終話がともに同一作品になるのは必然ですが。
老人の奇妙な癖が最終話の伏線になるなど構成は巧妙で、このタイプの連作ミステリの先駆として、いまでも充分評価できるのではと思います。

No.1 6点 mini 2009/02/11 09:24
ホームズのライヴァルの一つで創元文庫版
隅の老人は安楽椅子探偵の代表みたいに言われるが、解説にもある通り実際は裁判を傍聴しに出かけたりとかなり活動的である
しかも聞き手の女性記者は本当に話を聞くだけで事件の依頼をするわけでもでなく、隅の老人が一方的に事件の概略を述べ自分の推理を語って聞かせるのだから、その場で初めて事件の内容を聞いて推理しているわけじゃない
つまり隅の老人は前もって事件の概要を知っていたわけで、下調べや調査をする余裕があった事になるので、こういうのは厳密には安楽椅子探偵とは言わんだろう
真の意味で安楽椅子探偵と言うならやはりM・P・シールの「プリンス・ザレスキーの事件簿」だろう

他のライヴァルたちと比較した場合の隅の老人の特徴はどんでん返しに切れ味があることだ
他のライヴァルよりも作者オルツイは探偵小説の”コツ”というものを最も良く会得理解していたのだろう
他のライヴァルたちの中には切れないナイフでステーキをごしごしやって切ってるようなのも多いからね
一方で短所をはっきり言えば、ずばりワンパターンな事だ
トリックは大抵が一人二役かその変形パターン
得意技は真相Aと思わせておいて真相Bてなパターン
3~4作読んだら免疫が効いて他の作も真相がほぼ看破できてしまう
コツが分かり過ぎてしまうのも作家にとって良くないのかも


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