皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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斎藤警部さん |
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平均点: 6.70点 | 書評数: 1341件 |
No.581 | 5点 | スペイン岬の秘密- エラリイ・クイーン | 2016/08/03 12:19 |
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短篇でピリッと効かせりゃ光るネタを、わざわざ長篇サイズに薄めてないか?
謎解きはスカスカで物語もさして面白いワケじゃないが、どういうバランスの機微が働いたか、割と愉しく読める。 最後エラリイが事の顛末を街往く車(デューセンバーグ!)の中で語るシーン、語る内容よりそのシチュエーションがやけに鮮烈。あそこだけは大好きだなあ。。「ギリシャ棺」の終幕以上に好きだ。 |
No.580 | 7点 | シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン | 2016/08/03 12:05 |
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サスペンスを煽るべく使命を帯びた不気味な人物や不審人物が何人も登場しますが、主人公(?)のシャム兄弟が決してそちら側ではなく爽やかな少年たちとして描かれているのが良いですね(穿った見方をすればそのお蔭で彼らを容疑者リストから外せなくなる)。しかし「巨大なカニ」って。。某バンド(バンヅ)のシルエットロゴじゃないんだから。
カードを巡る云々も、そのロジックだけ取りゃ何だかなァという気もしますが、独特の閉ざされたサスペンス感あるからこそなかなかの興味を唆ってくれます。スペクタクルな山火事避難の大団円(?)もエキサイティングで良いよ。唸らせはしないけど、読ませる本だね。 |
No.579 | 6点 | 母性- 湊かなえ | 2016/08/02 10:15 |
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イヤよイヤよでスルスル読めてスッキリ爽快。私は変態でしょうか。
辛い過去を持つ人が思ったよりいっぱいいたし、そこから愉しい未来に繋げた人も何人もいた。しかしあの、ほとんどバカ結末と呼びたくなる予想外の大団円はいったい何ですか、と(笑)。 |
No.578 | 7点 | 緋色の記憶- トマス・H・クック | 2016/08/01 12:16 |
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フーダニットならぬフーダイド? 予想外のホワイダニット、そしてホワイナットダニット。。。 そもそもイットは何を意味するか。
混在するカットバック/フラッシュバックを繰り返した挙句「ゼロ時間」にぶち当たってもまだ過去・現在・未来(?)の謎がどっぺりと痕を残しまくり。だいたいこの物語の「ゼロ時間」は本当にそこなのか? 文庫あとがきで紹介されていましたが「雪崩の様子をスーパースローモーション映像で見せられるような」って喩え、ズバリです。 出だし数十頁はちょっと退屈、しかしこの退屈はじっくり味わっておくべきです、真相の驚きに最後やられる為に。 湯気の立つホットアップルサイダー。。。。 |
No.577 | 9点 | 赤い帆船(クルーザー)- 西村京太郎 | 2016/07/29 10:54 |
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こりゃズッシリ来たねえ、唸りますよ。 読み逃していた海洋期京太郎の傑作、十津川のデビュー作をようやく髄までしゃぶり尽くす事が出来ました。 あいつがポルシェで死んだ東京の夜、あいつはレースで太平洋の真っ只中。。。。 色んな所で意表を突いて人がどんどん死に、誰をどう疑えばいいのか焦点も定められないままサスペンスは加速熟成拡散深化。このアリバイ偽造の魂(ソウル)はマリアナ海溝よりも●●●●●●●●●●(←●●過ぎる洒落)よりも深くて暗いよ、もう最高よ!我が愛して止まないミステリにおける対称性の美が、思いも寄らない、まるで復讐的な深淵から突き上げて来るのには驚きましたよ。 十津川がいきなりタヒチ語でおどけ出した(?)のは驚いたなァわらぅたなァ。。しかし、まさか。。いゃ まさか その アレのそれが あいつ。。。さて、そんなピンポイントで、まさかのパスポートによるアリバイ成立押し!本には指紋、旅券に押印てか! 「男性」と書いて「ガイズ」! このタイミングで、その杉山!? そこでふと思ったのが、その故意の遅延性云々を鉄道領域へと雪崩の如く適用させてみたら、そこには如何なる異化美あふれる風景が。。ということ。 松本清張「火と汐」のサーチアンドデストロイ級ネタバレにゃあ鼻からペチンコ玉も飛び出したってナもんですが、それはそれでしっかり必然性あるネタバレでした。 と思うと或るシーンではあのシュガーベイブの山下達郎さんが事件周辺に登場(?)、あわよくばまさか共犯の一翼ベェイベでは。。。なかろうかと妄想もしてみたよ。色々あらァな。。 しかしすげーなー、京太郎さん絶対クロフツの海洋アリバイもんに真っ向勝負挑んだんじゃろ、自信満々の体(てい)でよ。 ‘課長は皮肉でなく言った。’←痺れる一文だ。 或る漢字語の振り仮名に’イントリーギング’じゃなく’スプレンディッド’! “チバシ”というその響きに一抹の疑い。。まさかポリネシアのどこかの島ににそんな名前の邑でもあるんでないかと。。(笑) 待てよ、もしもアガサク的に意外な犯人吊るし上げショーをやるのが主眼ってんなら、まさかあの●●●●●が真犯人だったりはしないでしょうか。。。。?? と忙しい多方向疑惑の渦に呑まれながらもストーリーは高速航行を続けます。 さて、愈々こんな終局近くに来ても。。。何たる彫りの深いアリバイ工作だよ! 一瞬「地球は丸いから。。」なんてナンセンスな考えなんぞしちゃったじゃないか。 罪の無いヨット談義。。ライフジャケットの秘密(ちょっと怖い)。。’その時に調整’か、よし俺もそうしよう。 心理の小道具は’飲料水’かよ。。。。どこまでも慎重な犯人(ヤツ)。ヨットマン十津川も思わずシンパシィ・フォー・ジ・海の悪魔でねえがよ。 いや、信じるよ・・十津川よ! いや、まさかのその、殺した人数の見込み違いの水平線。。。。 十津川推理の部分は晴天正解、だがしかしその領域外には予想を超えた。。って、抉(えぐ)りのラインが深すぎるじゃないですか、京太郎さん。真犯人が、第一のターゲットを無事仕留めた事を確認した経緯前後、そこに、嗚呼、まさかの複数の悪魔的要因が爪を尖らしていたとは!! ふたたび、信じよう。。まるで伊藤由奈の歌だ。。過去の妙な経験が嫌な形で役に立った。。暗い机の引出し。。 なんだか最後のほう、質実剛健でスポーツマンシップにのっとった連城みたいになっていません?? 複雑にして深すぎるよー。。。。。こりゃまるで「三つの棺」のアリバイ版を狙ってるんじゃないですか??? ミステリ世界で普通だったら白けさせるもの代表たる「偶然」がこんなにも泣かせる輝きを。。。何故なら、そこに海があるから。。。。それだけじゃあない。 これは大事なことだから明記しておきますが、本作には京太郎さん悪癖のアンチクライマックスは有りません。 それにしても、十津川の直上司が近未来の十津川そのものだ。まさか、鬼貫ではあるまいな。。 もちろんですね、いわゆる冷静に考えたら(以下全略) |
No.576 | 9点 | ナボコフの一ダース- ウラジーミル・ナボコフ | 2016/07/25 12:51 |
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怖ろしく濃度の高い純文学作品ですが。。。。一部ミステリファンの趣味には大いなる親和性があると信じ、登録します。
私にとって「奇妙な味」重量級の理想短篇集です。(軽量級は『くじ』) フィアルタの春 /忘れられた詩人 /初恋 /合図と象徴 /アシスタント・プロデューサー /夢に生きる人 /城、雲、湖 /一族団欒の図、一九四五年 /いつかアレッポで…… /時間と引き潮 /ある怪物双生児の生涯の数場面 /マドモアゼルO /ランス (サンリオSF文庫) |
No.575 | 9点 | くじ- シャーリイ・ジャクスン | 2016/07/25 12:35 |
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有名な表題作のラストスパートぶりも凄いが、何より「魔性の恋人」の芳醇な味と薫りにもう何十年もシビれてる。。。 気色悪いほどサドゥン・エンドの作品がいくつか有るなあ、これがまた、たまらないのよ! 私にとって「奇妙な味」軽量級(と言っても充分重い)の理想短篇集。(重量級は『ナボコフの一ダース』)
良い痴れて /魔性の恋人 /おふくろの味 /決闘裁判 /ヴィレッジの住人 /魔女 /背教者 /どうぞお先に、アルフォンズ様 /チャールズ /麻服の午後 /ドロシーと祖母と水平たち /対話 /伝統ある立派な会社 /人形と腹話術師 /曖昧の七つの型 /アイルランドにきて踊れ /もちろん /塩の柱 / 大きな靴の男たち /歯 /ジミーからの手紙 /くじ (早川書房 異色作家短篇集) |
No.574 | 7点 | 詩的私的ジャック- 森博嗣 | 2016/07/22 17:08 |
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西野園の乱心の直後に西の空の色合いの描写云々、ここは痺れた。三浦グッジョブのシーンもちょっと泣けた。 しかしまあ、どいつもこいつもバカばかりで、嬉しいよ。バカじゃないかも知れない犀川さん!その「人間の進路の広角さ」ってのは、3Dはおろか4Dフィールドまで視野に入ってるんですか?
椅子取りゲームは Extreme Game の洒落かい? って一瞬思った。 んで、そこに「空気弁」と来るとは! なんかそんなミステリの根幹から外れた感想ばかり出て来る。 でもエンディングが見せる、ある定義の豊かなゆらぎ具合は素敵だな。。 大和田獏みたいですよね、森ミステリって。 なんか弱いんだけど、面白いんだからそれで最高さ。後期レッドツェッペリン的な、程よく大げさな割に程よく弱いみたいな、そんな浮遊するシニフィアン(咳..)的良さに満ちていますね。7.47相当の7点。何処かが惜しいのね。 ところで例の「英語で云々」はまさか目くらましのための見え透いた逆トリックてやつでしょうか? 思えば処女出版作の「F」趣向ってのもGT(逆トリック)そのものだったのかな? |
No.573 | 7点 | 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー | 2016/07/19 12:09 |
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有り体のミステリだったら十中八九あのジョニー(仮名) 。。って誰や? 。。が犯人! と序盤の決め打ちで満場異論無し(!?)の所だが。果たして。。。
舞台が語られ、殺人が起き、取り調べは順次進み、すっきりシンプルな物語構成。ところが終盤に至り何かしら深い所から引っ剥がされそうな暗雲の予感が。。。その挙句に解き明かされた真相は、意外と、絢爛絵巻の趣とは全く異なる堅実さ溢れるもの。それでも小説力の強さに牽引され、アガサクにしては地味目の話ながらもかな~ぁりの面白さ噴出。 ただ、中身が地味なのはOKだけど、題名のギラリ感と合ってないかもね。(原題も) 【ネタバレ】 終わり近く、ポワロが語る折角のダミー解決でもうちょっと引っ張っても。。とは思いましたが、あんまりそっちを強調すると肝心の真相の方が霞んでしまうのかも知れません。ダミーの方が、心理的により強烈で残酷で、意外性もありますものね。 |
No.572 | 7点 | 特捜検屍官- 島田一男 | 2016/07/15 12:10 |
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日本の夏、昭和の夏に島田一男だ。
よくある話かと思えばまさかの奇想押し、それも粋なヤツ。 間違い無い、昭和日本のチャンドラーは、もとい、マーロウは、シマイチだね(本当か?)。 中に一作「十津川さん」が登場したのは、ちょぃと萌えたね。もちろん、あの人では、ないんだよ。 検屍官の主人公が、母無しの愛娘を思う気持ちが、ほんのさり気ない言葉で触れられるのがいい。 ただ、検屍だとか鑑識とかならではの”とっかかりの妙”だとか独特の視点の斬れ味、ってのとは違う気がするんだよ、どれも普通の本格謎解き風で。けど、全く文句言う気がしない。抑えられチャうんだよねェシマイチ先生には。 まだ夏だ。もう二冊くらい行くか、島田一男。 屍臭を追う男/虹の中の女/素足の悪魔/黒い爪痕/雨夜の悪霊/大凶の夜/決定符(きめて) (青樹社文庫) そいゃ中に一つねえ、有名推理クイズのネタそのものの消失トリックのがあるんだけど、まさかこの作がそのオリジナル、って事なのかいな?? |
No.571 | 7点 | その女アレックス- ピエール・ルメートル | 2016/07/14 12:27 |
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この通俗流行りモンは悪くない。警察の三人+一人も魅力有る。キツネに摘ままれる感じのタイミングで唐突に緩やかに視点が変わったりして、、、各章の長さ短さが行ったり来たりなのも、悶えるほど掴まれてしまいます。。ネズミ群との覚醒した戦記は恐怖の一方でなかなかの知的興味を惹く。血の確保って、それか。。「封筒に入れて云々」「レーニンです」気だるい様で勇気も見せるユーモラスな言葉達もちらほらと。
常識の底力でちびりちびりと露わにされる、ある種の壮大さ有る違和感。奇妙な、大きな消失トリック。。または移動トリック。。? と思ったら。。 決してそこに大きな謎が横たわっていたというわけでもなく、、いやそんな所だけではない、原始少年さん仰った通り後出し、後付けの「逆伏線」めいたものに最後一気に襲われるような感覚。かと思うと伏線になり得たであろう数々の事柄(これがまた、いっぱいあるのよ)がミステリ的には結局放ったらかしのままだったり。。ストーリーの構成も何かにつけてバランス欠いてるよね。。でも私は嫌いじゃない。読んでて面白いんですもの!こいつ飛ばしてるよね!! 見えない「読者への挑戦」、確かに受け取りました、第三部の前で。 お よ よ よ よ・・ですよ。 こんだけ話をとっ散らかしといて最後のコースじゃ気持ちいいくらい論理攻め、って何よ! 復讐方法とカットバックの合わせ技でサスペンス古典の「○と●」を彷彿とさせもしたかな。 最後の最後、嫌な役回りだった判事がよくぞの一言を放ってくれた。主人公も微笑んだ。忘れえぬシーンだ。 【最後、未読の人は絶対に覗いてはいけないネタバレ】 アレックスは幼い頃に局部を硫酸で焼かれていた、という終盤で明かされるショッキングな事実から、ひょっとして元々アレックスは「男子」だったのでは。。との線も疑ってみたのだが。。 違いましたね。。 |
No.570 | 8点 | 検事 霧島三郎- 高木彬光 | 2016/07/06 17:57 |
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宮崎の焼酎には白霧も黒霧もあるが、本作で活躍するは検霧こと検事の霧島だ。
検察/警察小説、社会派推理、ナックルボール的変化球ハードボイルド要素、複雑な恋愛メロドラマに中国大陸過去の因縁、もちろんジワジワ来るサスペンスと、謎解き!五百頁超の長さに見合って内容テンコ盛り、だがその一部分はひょっとして’幻影’ではないだろうかとの疑惑もチラリ。。これがニクいんだ。 少壮検事の霧島。その婚約者はヤメ検大物弁護士の娘。ところが、ある日を境にこの親子の周りに不穏な人物が現れ始め、大物弁護士はあろう事か殺人事件の容疑を負った状態で忽然と姿を消してしまう。そこにはヘロインの流通と総選挙(!)が絡んでいると見られたが。。 とにかく愉しい展開一杯。一郎はいい兄貴だ。他にも魅力的なバディが何人も。重要登場人物の一部に、味方どうしでありながら、体を束縛されているわけでもないながら、お互い何をして何を狙っているのかさっぱり分からない領域が高角度に有るという特殊状況。 プロットは、ハードボイルド流儀かと思うくらい複雑だ。 事件の、ではなく”サスペンスの多重解決”めいたスリリングな趣向もシビレる。 しかし、まさかとは思うが本作は「長いお別れ」への巧まざるオマージュになっていたりしないだろうか、、などと思わせる流れもあった。 港町の検事か。。。 「だいぶ話が細かくなって来たね。」この台詞最高だね。 虚を突き或る一瞬、ハード&ドライ過ぎてとてもハードボイルドの矜持空域内とは思えない凄い台詞も飛び出した、しかも放ったのは好感度高げの主人公。主人公側の、本当に味方同士なのかの不透明感、更には不信感、の先の見えない乱反射で素晴らしくバイブスの上がる中途の柔らかな残酷絵巻は味読を強いちゃって仕方無い。。。。 もう、誰も信じられない、霧島三郎さえも、、と思ってしまう読者の弱い心に被せるかの様に地の文まさかの混乱ぶり・イン・終盤もいいとこ。何ですか、その急な泣かせの、名前の言い間違いは!と思うと泣かせる特殊シーンで笑わせたり(笑)。もう、随分終わり近くに至ってまで味方どうし思惑すれ違っての隠し合い伏せ合い キキィーーッッ!! 敵が味方かまだまだ分からない不安感は、きょうだいはもとより親子どうしの間柄まで射程内だ。 「この犯罪で一番得をするのは誰か」 なんて延髄痺れるタイミングである人物に言われちゃったよ。 どこまでも本格ニュアンスの残り香を沈澱させ続けるタイプの推理小説にしては、特に終盤コース、筋の巡りが込み合い過ぎでねえかと、まるで粗筋紹介文章だけで何ページも進行してる、ってくらいの展開密度でないかと、ふと思う。 さていったい誰々がどれだけ大きな嘘を付いているのだああ~~。更には、騙しの意図が必ずしも悪意に依るものではない、かも知れない、との強烈な暗示が会話文の一瞬に適時ドロップ。何処かで’大いなる幻影’が密かに深呼吸している兆候は嗅げないか? 何処かに、凄まじい鋼鉄の意志を持った何者かがシラっとすましている影は覗けないか? 長い小説。 大作にして力作。 怪作の匂いさえ仄かに漂う快作だ。 犯罪資金源と精神○○のナニに、ほんのりご都合良しのきらいはあるが、許せましょう。 複雑な犯罪捜査物語をサラリと締める寂しさと希望のエンディングは印象的。 その最終幕の前半、主人公のあまりに野暮天丸出しの長い台詞はどうかと思うが。(故意に勘違いの振りをしたのではないと地の文に明記してある) でもいいんだ、これで。 響くなあ、余韻。 ところで冒頭触れた芋焼酎「霧島」だが、ご存知の方はとっくにご存知、他にも妙にプレミアム感を纏う「赤霧」、特別企画の「金霧」、桃色ラベルの「ピン霧」(正しくは「茜霧島」)なんてのもある。最後のは個人的にあまり美味しくない。 ザ・ローリング・ストーンズのファースト・アルバムは「ザ・ローリング・ストーンズ」。 ザ・キンクスのファーストは「ザ・キンクス」。 ザ・ビートルズの場合は事情が違うが 検事 霧島三郎の第一弾は「検事 霧島三郎」。 シリーズ探偵役としちゃあ随分と厳しい船出になったものですが、これほどまで翻弄された甲斐はあったと言える、ドラマチックキラキラで重厚至極な逸品と言えましょう。 さあ、読もう。 追記 古い角川文庫を読んだのですが、巻末の滋味深い解説は誰が書いたのかと思っていたところ、最後に故「夏樹静子」先生の名前があったのは泣けました。 |
No.569 | 5点 | 牧場に消える- 佐野洋 | 2016/07/05 01:38 |
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洋チャンが本作の取材のため半年だか一年だか競馬界にどっぷり浸かったとか言う”競馬ミステリ”長篇。その割に力作感はあまり無いが。。サラブレッドの成長を撮影した貴重な記録フィルムがすりかえられた。。。。という事件から始まる正体の見えない疑惑への追及劇。結末に意外性は薄いけど、ある種の社会派スリルで押し切ってまずまず。 |
No.568 | 6点 | 赤い熱い海- 佐野洋 | 2016/07/01 00:46 |
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飛行機事故の死者は三名、疑惑たっぷりの行方不明が一名。森村誠一に遊び人の艶を吹き込んだ様な展開にちょっとハードな旅情が魅力。探偵役はなんと四人~わたしはこの事件の探偵です、わたしもこの事件の探偵です、おいらもこの事件の探偵です、おっとアチキだってこの事件の探偵です~という逆シンデレラの罠状態(??)。結末に意外性の新機軸有りだが、やや企画と技巧に走ったか。ま悪かない。 |
No.567 | 8点 | 英仏海峡の謎- F・W・クロフツ | 2016/06/28 18:28 |
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こんなご時勢、海峡を挟んで英仏両警察の友情物語をじっくり味わうのも乙だ。
滑り出しから最高品質の抑制あるスリル。早くも胃の辺りがゾワゾワするあからさまな疑いと、目を疑うキラメキへの期待。仮にヒネリの浅い結末でもそれなりに満足させてもらえそうな予感さえ溢れ出る。 ウェールズはスウォンジーのハウエル署長、最高だ。彼の描写に続くノールズの知識持ちぶり暴露も最高にリフレッシング!クェイル船長も素敵さ、アイウィルキッシュー! 最終コースに至って俄然切実さが屹立する証人達の描写の全てがジャスト・ヴィヴィッド!!鮎川さんは実際やはり最高の手本にしたんだろうなあと腹落ち実感。そして最初に来た逮捕のタイミングのキラメキ!くっそう、誰が本命本ボシなのやら終盤よいとこまで来てさっぱり五里霧中の四面楚歌のビーフカレーメンチカツやなぃか、まして真相ザ・ホール・バディなど見えん、楽し過ぎるぜ人生のくせにこの野郎!フリーマンが如何にしてスリルや心臓直撃と言った光沢あるポイントでエラリーやジョンはもとよりアガサまでばっさり凌駕してやろうと意気込んだか、そのアイディア結着の脳髄を探る思いだ。土壇場前に来て容疑者レイモンドの的確精妙な、冷静保身を射程に賭けたかの推理絵巻。それから更にまだ幾悶着越えて。。。リアリティ有るどんでん返しの閃きが、そこにはあった! 或る単純な幾何学計算の魅惑! 今度こそ犯人をこいつと絞って良いのか、まだもう一段来るのか。。ラストラップ前から、会話も地の文も徹底した逆説表現にガッチリ掴まれた信頼と友情の暖色タペストリーを繕い始めた。まるで夕陽だぜ。。。。最後の一文が某ハードボイルド著名作そっくりなのは笑った。 海洋活劇でも経済サスペンスでもないが、その二つを背後に匂わせた甲斐は充分にある本格推理「アリバイ破り<<<犯人捜し」警察小説。鮎川好きには悪くない。 そうそう、本作には「ポンスン事件」のタナー警部も結構な役どころ(フレンチの同僚)で登場しますよ! |
No.566 | 7点 | 死者を笞打て- 鮎川哲也 | 2016/06/24 18:48 |
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冒頭喰い道楽のシーンがやけに印象に残る、、、ちょっとした怪作。
「鮎川哲也」氏が登場し、あからさまに特別枠の異色作であると匂わせます。当時の人気作家連(名前はどれも軽くもじってある)が社交仲間役で大勢出演、当時既に幻の域だった(それこそ後年鮎川氏がその発掘に心血を注いで自己の創作を疎かにした)消えた作家達の名前も多数登場、これは魅力です。前述の「鮎川哲也」氏の著作『死者を笞打て』にまさかの盗作疑惑が掛けられます。終戦間もない幻の時代の或る女流作家がオリジナルの作者だと言うのですが。。?? んで・・・・・・・普通だったら見え透く筈の犯人が、 この異様な雰囲気に呑まれてか最後まで全く分かりませんでした。人の心というのは不思議なものです。 代表長篇短篇群をいくつも読んだ後に手を出せば、なかなかに愉しいでしょう。 【ネタバレ】 「無名の作家」という存在を実に巧みにミスディレクション(ほとんど叙述トリック)に活かしている作品ですよね。 |
No.565 | 7点 | パラレルワールド・ラブストーリー- 東野圭吾 | 2016/06/23 19:42 |
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これぞ謎。。。 もし清張が延々と長らえていたら、この話の核心あたりでサブジャンルを越え東野に玉座を渡す契機を自覚したのでは? などと妄想。
通常現実と現実科学と空想科学が4D空間でトリプル交錯するような、バリンジャーの「消された時間」を本気の科学者スピリットで綺麗に建て直し彩り直したかのような機軸感満載。しかし科学の子の良心に殉じ過ぎたか、、こんなスウィートなタイトル付けてからに何たるビターでスクェアなストーリー展開。いっそ甘ったるい現実感無きファンタジーで良かったのに、この題名を割り振るなら。幻想遊泳の世界に拡散させず最後きっちり全ての謎にミステリ流儀の落とし前を付けたのは剛腕天晴れだが、そんな強面の作品ならしっかり強面の表題を冠して欲しかった。『邂逅』とか(?)。 しかし泣けなかったなぁ。。最後に不意打ちのエピローグで奥歯を噛み締めさせて欲しかった。期待は外れた。それでも相当に面白い。この圧倒的底力は何なんだ?? |
No.564 | 7点 | 砂の城- 鮎川哲也 | 2016/06/22 11:45 |
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とっくの昔に読んだと永年勘違いしてたのを初読、家にあった古い角川文庫。未発表の長篇を発掘された様でちょっと得した気分。
タバコ屋のおやじに通話料を払ったり、合鍵一つ作るのに一手間だった(従ってアリバイ成立にじゅうぶん関わり得た)時代か。。浜松町辺りの本屋の名前が粋だねえ。7.49で惜しくもの7点。 鉄道と雑誌、二つのアリバイトリックの衝撃は弱くスマートとも言えませんが、それぞれの捜査過程、それぞれ更に地方刑事篇と鬼貫篇(但し一部の地方刑事と同行)に分かれるその過程がそれぞれに滋味深く面白く(めちゃそれぞれ言うてます)、やはりどこを切っても玩読出来る、ありがたい一冊でした。そうそう、二つの事件の接点が見えた瞬間から急速に繋がり始める、真相解明の有機的拡がりがね、地味ながら腹にずっしり来る要所連峰でしたね。 言い間違えてネズミイラズw なにしろインテリタイプ、てどないなタイプやw パンをたべているふたり連れ。。 複数のアレを使ったアリバイトリック、黒いやつや朱のやつもそうだけど、クローズアップマジックを連想させる脳内手品が本当に鮎川さんは得意なんですなあ。 贋作ローンダリングの遡及追跡はポイント過多で眩惑の魅力満載!まるでハードボイルド流儀を思わす込み入り様ですが、一方でその最中に忍び込むクスクス笑いを誘う鮎川さんの珍妙な名前趣味、いつもながらキュイっとやられてしまいました。 「だけど、あのふたりはそのどちらでもなかったです。」 おぉう、そこのアナタ見てたねぇ。 鬼貫の登場も最高、それ以前の刑事達も最高。鬼貫登場から瞬殺で捜索の空気が引き締まり、一ページ、一ページが冷静にしてスリルに満ちた偽装アリバイ崩しの水際立った領域を敢然と航行。このせいぜい数十頁の、表情は厳しくも語り口はアットホーム、どこか寂しげで濃密な最終コースは、それ迄の主に地方刑事達による、激しい展開にもどこかしら緩さと優しさを見せた捜査物語の存在感あったればこその際立ち。 最終章、警察側第二の主役と見える島根の槇刑事(EXILEオリジナルメンバーMAKIDAIの親類筋かも知れん)の口から全真相の纏めが語られるという細やかな構成の妙も良い。彼は鬼貫と違って酒がイケる口の所帯持ち。。 |
No.563 | 7点 | フェアウェルの殺人 ハメット短編全集1- ダシール・ハメット | 2016/06/21 12:06 |
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アウトローの風を謙虚に吹かせて宮仕え。しじゅう叩く減らず口の切れはともかく、ここぞの正鵠パンチは流石に激烈。スピードがものを言い過ぎの素早い解決。頭良すぎだよ、探偵。でも話の賢さが常に先行ってるから不自然に見えないんだな。 「いつも映画ばかり観て云々。。」長い台詞ながら一瞬のカミソリシュート炸裂(この感覚は不思議)! かの著名作のプロトタイプ風「新任保安官」。私にはこっちが「血の収穫」よりずっといい。あの男女のつがいも最高だ。 交換手。。。嗚呼。 むしろ『読者への挑戦』を挟んで欲しい素敵なハードボイルド推理(当て推量)クイズ「夜の銃声」。皮肉過ぎて残酷だがどうにも笑える簡潔な落語オチも最高だ。 ちょっと長めの政治ファンタジー小噺「王様稼業」も明るいゴルゴ13風で悪くない。反転のつもりだよな、認めるよ。 言い忘れたが全作どれもいいよ!
フェアウェルの殺人/黒づくめの女/うろつくシャム人/新任保安官/放火罪および…/夜の銃声/王様稼業 .. 全篇コンティネンタル・オプもん (創元推理文庫) ところで、おっさん様も言及されました、訳者あとがきの > できれば一編ずつ別個にお読みいただいたほうが味が変ってよろしいかと思う は本当にハァ?と返さずにいられない余分の言い訳ですね。ハードボイルドにそぐわないこと甚だしい(笑)。 |
No.562 | 8点 | 新宿鮫- 大沢在昌 | 2016/06/16 13:25 |
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HYYY(早く読みたいゆっくり読みたい)の典型。KUNU(これが売れずに何が売れる)の代表。YYDD(よくぞ世に出した、でかした)!結末の締まりだけミステリ視線じゃ(要は小説として)急にちょっと緩くなるゆえ、ただそれだけで大幅減点!それでも8点(8.46くらい)難なくキープ。本当に良く仕上がったA級娯楽小説。短いラストシークエンスも最高に泣ける。アタイはモリアーティよりルパンよりホームズがいいけど、悪いけどサメよりキヅが好きだな。 ”鮫島は無言でその様子を見守った。。” 桃井も最高だが俺はやっぱ木津だな。藪も本当に魅力的な奴だ。もちろんサメも充分いいんだぜ。「彼」って誰やねん。。ライヴハウスで喧騒と感傷を撒き散らす音楽の描写には期待以上のリアリティ。これが嬉しい。(歌詞は別) |