皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ミステリ初心者さん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 377件 |
No.297 | 6点 | オーデュボンの祈り- 伊坂幸太郎 | 2022/01/08 00:39 |
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ネタバレをしています。
これは私が読んだことのないジャンルの本です。ミステリ的ではないので、評価が難しいです。 ファンタジーのような、SFのような、童話のような…。ただ、物語全体的に、なんとなく寂しいような雰囲気があり、好みを言えば、もうすこし物語の起伏が欲しかったかもしれません。 読後感は爽やかで、非常に良いものでした。また、文章に癖がなく、すいすい読むことができました。 不満点はあまりないのですが、静香のサックスを聴いた島民の様子が見たかった! |
No.296 | 7点 | 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 | 2021/12/27 19:21 |
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ネタバレをしています。
歌野さんの作品は、一貫して文章が読みやすいです。この本も、読了までにさほど時間がかかりませんでした。 1つの長編の扱いかと思いますが、4つの事件(物語)に共通のトリック?が用いられており、1つ解けると大体が芋づる式に解けてゆきます(笑)。連作短編(中編)の趣がありました。 推理小説的要素について。 絵本風のナノレンジャーの話から始まります。この話は、最後の最後で種明かしされますが、それまでに3つの事件が解決さえれたあとなので、ナノレンジャー自体は伏線として使われている気がします。 ところで、髭のおにいさんは、どうやって井戸から水を出すのでしょうかね? サイフォンの原理?は、たしかより低い位置にしか水を運べませんよね? ポンプなどを使うのでしょうかね。 次に、メキシコ海岸の切り裂き魔の事件が始まります。タイトルとあまりにかけ離れた場面設定に面食らいました(笑)。 これも最後らへんに解決編があります。実は、まったくわかりませんでした(笑)。アメリカのハリケーンは、それほどまでに強力なのですね。 アメリカでは台風に人名をつけることを利用した叙述トリックが使われております。面白い試みですが、この話全体的には、ちょっと長すぎた印象があります。 158ページまでいくと、安達ケ原の鬼密室がはじまります。 戦中の日本の時代の物語であり、主人公が少年で、奇妙な館の奇妙な老婆がいて、少年が鬼を何度か目撃し、現地の子供は鬼の唄を歌い、老婆が客を殺す伝説?があり、アメリカ兵が迷い込んできたり…。非常にいろいろな妄想を掻き立てられる要素が多く存在し、わくわくしながら読みました。雰囲気が三津田信三さんの刀城言耶シリーズのようで最高でした。 密室殺人事件が起こった際に、私は中庭がプール化することに気づいたのですが、伏線は多かったため、フェアだからだと思います。河瀬が気づかないのはちょっと疑問ですが、河瀬は鬼や霊魂の存在を強く信じているからですかね。 ただ、細かい部分では不満があります。事故死が多いんですよね…。個人的には、殺意を持った犯人がトリックを使って殺人するほうが好きです。 途中、現代の話になり、そこでまた一つ事件が起こります。その解決で全体の"水によって運ばれる"という要素がばらされているので、細かい部分以外では実質の解決編といえるかもしれません。それ以外にはあまり印象に残りませんでした(笑)。 総じて、なかなか凝っている、良い作品だと思いました。安達ケ原の鬼密室パートが特によかったです。館もの・密室もの・パニックホラーとしても悪くなかったと思いました。 蛇足ですが、この作品で年間50冊読破達成しました(多分)!! 私は読むのが遅いうえ、筋トレ熱が上がってきているので、過去2年よりきつかったです(笑)。 |
No.295 | 7点 | モルグ街の殺人・黄金虫-ポー短編集Ⅱミステリ編-- エドガー・アラン・ポー | 2021/12/17 00:38 |
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ネタバレをしております。
ミステリ好きを自称するなら読んでおかねばならないとおもい、購入しました(笑)。解釈が難しい話もありましたが、レベルの高い短編集だと思いました。 ・モルグ街の殺人 ミステリを好んで読んでいると、一度はネタバレされてしまう超有名作品ですね。世界最古のミステリとする説もあるそうですが、最古とは思えないほどの驚きの展開で、むしろ現代にこそありそうなネタですね! ・盗まれた手紙 これも有名作品ですね。ただ、やっぱり警部は本当に見つけられないのかなと疑問に思ってしまいます(笑) ・群衆の人 解釈が難しい話でした。RPGゲームで、重要なNPCだと思いきや、モブだった時のような感じでしょうか(笑)。この人は孤独恐怖症なのでしょうか? ・おまえが犯人だ さすがに展開は読めましたが、ラストは衝撃の追い詰め方でしたね。精密検査などが無い時代?なのか、自白でないといけなかったのでしょうかね。 ・ホップフロッグ トリペッタにワインをかけられた瞬間、すさまじい怒り?で歯ぎしりをして、その怒りを抑え込み、王様を殺す仮面舞踏会のネタを提供する姿が、どことなくクールに思えます(?)。道化師というところがいいですね。 破滅的なエンドかと思いきや、逃げおおせたのですね(笑)。 ・黄金虫 意味ありげな不気味な虫、黄金虫が重要か…と思いきや、それを包む紙が重要とは(笑)。暗号物は読んでいてすごいなと思う反面、自分には解けるわけがないと謎を放棄してしまいます(笑)。 amazonなどの評価を見ると、どうやら訳が良くないみたいですね…そういえば、なんだか意味がつかみづらいこともありました(笑)。 |
No.294 | 6点 | スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ - 森川智喜 | 2021/12/10 01:15 |
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ネタバレをしています。
本格ミステリ大賞作品ということで、期待しながら買いました(笑)。 非常に明るい作風で、どちらかというとライトノベル的なノリもあります。テンポもよく、鏡のおかげでママエが推理放棄して速攻で解決します(笑)。テンポについては良い面と悪い面があると思うのですが(笑)。 推理小説部分について。 1話目の教師の話はマジックなのでアレですが、自転車を盗まれた少女の話はなかなかに面白かったです。意図的にではないにしろ、友人と一緒にいたことを話から省いてしまって、読者とママエとイングラムすべて情報が足りていない叙述トリックのような(そうじゃないような(笑))感じがしました。私は、 運動嫌いなのにスポーツショップに行くのが少しだけ引っ掛かりましたが、体育で使うなにかを買うのだろう…とスルーしてしまいました(笑)。それが悔しかったです。 中盤から、頭のいい本物の探偵である、三途川と緋山が加わって頭脳戦が繰り広げられます。依頼人夫人の危機だったとはいえ、ママエがまた答えだけ聞いた論理性のないことを言ってしまい、窮地になります(笑)。 終盤にはいると、后があらわれ、敵側に鏡を使った攻撃が始まります。三途川は頭の良さを自負しているだけあり、鏡の使い方が天才的です。誰の声でも偽装できるし、強力な爆弾にもなるとは思いつきませんでした。 不満点。 あまり読者に解き明かそうとはさせてない本です(笑)。どこか、頭のいい登場人物の推理バトルをながめているだけの感覚に陥ります(笑)。面白かったから良いのですが…。三途川の犯行をあらかじめ読者に提供し、それがなぜ成功しなかったかを推理する倒叙形式なら楽しめましたが、結局は三途川の作戦が失敗したのは運が無かったから(緋山が偶然ママエのところにくる・あほな后がべらべらしゃべる・偶然覚醒が間に合った緋山が鏡を壊す)であり、ミスが無いと倒叙形式も論理的には楽しめませんね。 皆さんの書評やアマゾンレビューを拝見したところ、三途川が殺人計画を鏡に聞けばよいという意見がありました。なるほど!その通りですね(笑)。小説にはなりませんが、なぜか私は思いつきませんでした(笑)。しかし、鏡によるシュミレートは100%ただしい未来を映すわけでないですし、三途川がミスしたわけではありませんしね。鏡の指示通りであっても失敗する確率もあるわけです(ある…よな…?) |
No.293 | 7点 | 陰獣- 江戸川乱歩 | 2021/12/04 01:20 |
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ネタバレをしています。また、私の読んだ本には短編の蟲も入っていたので、そちらのネタバレもしています。
乱歩のなかでも、かなり高評価作品だったので、期待して読みました。期待通りの素晴らしい作品だと思います。 異常な平田と大江春泥の手紙の恐怖にはじまり、少しずつ被害者小山田六郎や静子の異常性が明らかになっていき、私こと寒川も異常になっていき、登場人物の多くがどこかしらおかしさがありました。ラストもあえて真相は謎にしておくことでホラー感が増しております。罪悪感系ホラーみもありますね。 推理小説としては、読者に様々な妄想をさせるようなミスリードや、静子=大江春泥説への伏線があり、丁寧に作られています。登場人物の少なさから、静子=大江春泥説を思いつく読者は多いでしょうが、それでも楽しめると思います。 総じて、ミステリホラーの教科書のような作品だと思いました。 次に、同時収録されていた蟲についてです。 こちらはミステリ味の少ない、どちらかといえばホラーです。私はそれほど乱歩をよく知っているわけではありませんが、蟲のほうが私の中の乱歩が書くイメージでした(笑)。 主人公・柾木はただ静かに暮らしたい、厭人癖があったけど善良な人物だったのに、恋によって徐々に狂ってストーカーと化していくのがなんとも恐ろしいです。殺人を犯してから、死体をどうにか腐らせないように苦心する描写にぞっとします。 私は、柾木が死体いじりをしだしたときに、「そうか、死体が腐ってウジ虫が沸くエンドだな!タイトルの蟲はウジ虫のことだったんだ!」と思っていましたが、まったくそんなことはありませんでした(笑)。wikiによると、死体を腐らせる微生物のようです。 |
No.292 | 6点 | 白銀荘の殺人鬼- 愛川晶 | 2021/11/28 19:15 |
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ネタバレをしています。
シリーズ初作のKillerXは読了しております。軽く調べてみますと、この白銀荘~を最初に読むのがいいと書かれていたので、今回は本作を購入しました。 文章は本格度が高く、かなり読みやすかったです。読了までに時間がかかりませんでした。 主人公格の人物が三重人格であり、ほぼストーリーの主観の文が美奈子という女性の人格です。美奈子による倒叙形式のミステリのような感じでした。さらに、美奈子が意識を失い、他の人格に支配されているときは読者からは何が行われているのかがわからず、美奈子の人格が再び起こった時にはまた新たな殺人が起こっています。美奈子は殺人者でもあり、他の人格が起こした殺人を推理するものでもあるという、非常に奇妙な状況が個性的です。 文章の相性が良かったのか、すいすいよめたのですが、若干不快な描写がありました。 推理小説部分について。 黒岩が露骨に女性っぽいし、最後まで生き残っている。晴代の人格が現れている?ときには主観の美奈子は認知できない。こうなると、推理小説のお約束そして、美奈子が殺した描写がない部分は黒岩が殺人を犯している…というところはまあ予想しました(笑)。ただ、黒岩の性別詐称の推理小説的な狙いと、カオリンの首無し死体の意味、そして序盤の弁護士岩室とその部下の存在がいまいち私の中でつながってこなくて、真相を当てる事ができませんでした(涙)。 難癖点。 ・一人二役系にもかかわらず、カオリンと黒岩どちらも見ている人物がいます。主人公もいれて2人でしょうか? 大幅な変装をしていないと思うし、黒岩の行動が成功するとは思えません。 ・美奈子の人格が消えるとき、都合よく黒岩が殺人を犯すというタイミングができすぎている。これは、ドンデン返しを構成するうえでは仕方ないことですが。 ・真相を当てられてない私で恐縮なのですが、本作全体的に個性的な部分が足りてはないと思います。たしかに三重人格が主人公というのは面白い趣向でしたが、黒岩の性別詐称と二人一役は珍しくありませんね。 ちょっとわからないことなのですが、結局灯油を抜いたり、死体を掘り起こしたりしていたのは晴代なのでしょうか? 最後の文章からは、案外順一の人格も現われていて、メモを書いていたようですが…殺人鬼が二人という文は、いろいろ察していたのでしょうか? |
No.291 | 5点 | そしてミランダを殺す- ピーター・スワンソン | 2021/11/22 20:09 |
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ネタバレをしています。
4人程度の主観の人物の文章からなる、倒叙形式のようなミステリです。個人的には非常に非常に読みづらく、申し訳ないですが退屈でした。 はじめは、妻の浮気を目撃したテッドが、偶然であった女性と殺人計画をする話でした。ここまではなかなか面白みがある展開だったのですが、その後は大きなイベントが起きず、平坦な物語が続きます。私は、こういう2時間ドラマ的で本格度が低い作品の大抵は叙述トリックドンデン返し系統と思い込んでおり、本来なら注意深く文章を読み、伏線とミスリードを予想する必要があると思っているのですが、あまりの文章との相性の悪さに、斜め読みをしてしまいました…。まあ、それほど大きな伏線もなかった気がしますので逆に良かったです(涙)。 200pもの退屈さに耐えると、テッドがやっと殺されて物語が大きく動きます。ここでやっと面白くなってきたのですが、頭がよさそうなミランダが考えた?計画は杜撰で面白くないし、そのミランダもすぐに死んでしまいました…リリーとの頭脳戦の展開ならわくわくしたのですが(笑)。 リリーと警察のキンボールが主観の物語になってから、また退屈な文章になっていき、最後の驚きの展開を期待して、気合で読んでいきました(笑)。ラストは2点程度面白い展開もありましたが、買ったときについてきた帯に書かれた文章の"最低でも3回の驚愕を保証!"はあまりにも大げさに書かれ過ぎています。 総じて、キャラクターたちの心情や背景を楽しめる人にはお勧めかもしれませんが、本格推理小説好きからしたらあまり良いところごない…という感想です。ファンの方には申し訳ないのですが、前評判から期待値を上げ過ぎた私も悪かったかもしれません。 |
No.290 | 5点 | 双孔堂の殺人~Double Torus~- 周木律 | 2021/11/10 17:07 |
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ネタバレをしています。
癖の強い数学者、十和田が探偵の館系のシリーズです。前作がなかなか面白かったので買いました(笑)。 今回もクローズドサークル…ではあるのですが、事件が起こるのは1度で、2人いっぺんに殺されています。途中、鳥居が失踪する事件も起きますが、どちらかというとクローズドサークルのわくわく感は薄いです。 探偵である十和田が自白し、逮捕されるという衝撃の展開で、文章の主人公格は警察である宮司になります。十和田は安楽椅子探偵なのですが、意味の分からない(笑)難しい数学の話をして宮司をイライラさせています。そういう変人感をだせるのは安楽椅子探偵で正解だと思います。 私には難しすぎる数学の話?が多いですが、それ以外は読みやすい文章であり、読了まで時間はかかりませんでした。 推理小説部分について。 館ものらしい大規模な仕掛けは、館ものが好きな読者にとっては垂涎です。これは本当に気が付かれないのかな…?という疑問は残りますが(笑)。宮司のエレベータに乗った時の描写は怪しいので、いろいろ考察しましたが、真相を当てる事ができませんでした(笑)。 全体的には、本格推理小説のツボを押さえた作品であり、安心感があります。しかし、館もの特有の謎としては小粒であり(当てられなかったから恐縮ですが)、長くて難しい数学の話をのぞいてしまえば、短編~中編ぐらいに収まりそうな内容の薄さを感じました。佳作にはもう一歩足りない印象です。 |
No.289 | 6点 | アルモニカ・ディアボリカ- 皆川博子 | 2021/11/02 20:04 |
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ネタバレをしています。また、前作のネタバレにもなってしまっています。
前作からの続編となっています。ただ、過去の話も多いのです。 前作よりもすこし読みづらさを感じました。 登場人物が結構多いです(笑)。現在の事件、エスターの過去事件とアルモニカ・ディアボリカについて、ナイジェルの過去についてと、大きく3つあります。共通している登場人物も多いですが、人物の総数自体も多く、読むのに苦労します。 また、前作の登場人物だったナイジェルが死んでしまったことで、ダニエル先生やその元弟子たちが少し暗い感じになってしまい、またナイジェルとエスターの過去の話もやや悲惨で、読み進めるのに苦労しました。 推理小説部分はというと、それほど本格色は強くなく、ミステリというよりかはミステリ的要素を含む小説のような感じです。過去話と現在の登場人物の認識をずらすことは珍しくないです。前作もそう独創的なトリックというわけではなかったのですが、物語の舞台設定とトリックがマッチしていて素晴らしかったです。しかし、本作はナイジェルの過去話が主になっているような印象で、前作より本格色はおとなしめになったと思います。 総じて、読みやすさやキャラクターが活き活きとしていた感じも、推理小説としても、前作よりやや落ちてしまったと感じました。 |
No.288 | 5点 | 告白の余白- 下村敦史 | 2021/10/18 19:46 |
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ネタバレをしています。
突然帰省してきた兄が遺書を残して自殺するという、衝撃の始まりでした。双子の弟が兄の元恋人?の女性やその関係者に探りを入れ、真相を暴く…という内容なのですが、始まりに対してミステリ要素が薄く、ただ読むのに疲れました…。 京都の独特な文化や気風になにかしらの伏線が張られているとは思ったのですが、中盤あたりまで読んでも、あまりミステリらしいことが起こらず、本格好きとしては読むのに苦労しました。 ラストの展開も、ものすごく驚きのあるドンデン返しというわけでもなく、最後の100ページぐらいは斜め読みしてしまいました。キャラクター達の本音やこれからにもあまり興味が持てず…。 |
No.287 | 6点 | ドロシイ殺し- 小林泰三 | 2021/10/11 19:20 |
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ネタバレをしています。また、シリーズのネタバレもしてしまっているかもしれません。
シリーズ3作目です。ちょっとかわいくてどこか狂ったメルヘンな世界と、それと連動したような現実世界での出来事が交差するのが恒例になっています。とても読みやすく、毎回読了まですぐです。メルヘンの世界での登場人物の一部と、物語の主観の一人のビルが、ちょっとアホな会話をしているところが合わない人もいるかもしれません。ただ、個人的には、今回のビルはアホなようで賢いような、哲学的な問答があって面白かったです。 推理小説部分もなかなか満足しました。 犯人当ての核となる部分は勘違いから生まれたもので、それほど濃厚ではありませんが、ヒントを残してくれているのがありがたいです。また、これまでのシリーズを逆手に取ったような叙述トリックも用いられており、シリーズファンも驚かされてる工夫があり、マンネリ感は感じませんでした。 私は、ドロシイとおばあさんの会話を露骨に疑っており、メルヘンが舞台での会話ならどうなるか?を考えていました。会話を成立させるために、おばあさん側が狂っていることも考えましたが、それがイマイチ犯人当てにつながってこなくて、本全体を解くことはできませんでした。 大変読みやすく、推理小説部分も損なわれていないシリーズで重宝しておりますが、作者が亡くなられてしまったようで、次のティンカー・ベル殺しが最後になってしまいます。ショックです…。 |
No.286 | 6点 | 聖母- 秋吉理香子 | 2021/10/04 19:19 |
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ネタバレをしています。
苦労を重ねた不妊治療の末に生まれた我が子を守るためなら何でもする母親と、幼児を連続殺人する犯人の視点が交互に書かれた作品です。 不妊治療と幼児の殺人、一部を切断する…など、やや読みづらい内容が多かったです。しかし、文章自体の読みづらくなく、内容のわりには早めに読了できました。 序盤から、叙述トリックの臭いがプンプンしていたので、あからさまに警戒して読みました。 田中真琴が女性であること、真琴の母親が死体処理をして証拠隠滅をしていたことは読めたのですが、肝心の保奈美が真琴の母であるということと、真琴が薫の母であることが予想できませんでした(涙)。結末を読んだ瞬間に、どうしてこれが気づかなかったのか、自分はなんてアホなのか…と慟哭しました(笑)。真琴が女性であるならば、作者は何かしらの目的があってやっていることなので、必死にその可能性を考えたのですが…。やられた感はあったし、しかも、「これは絶対にわからないだろう」という感じではなく、わかった可能性も十分にあった、そんな絶妙な難易度が心地いいです。 推理小説としては、ツボが抑えられた叙述トリック系としてよくできていたと思います。ただ、2018年発売としては、もう少しだけプラスアルファが欲しいところです。しかし、母と息子・母と娘の構図を母・娘・孫娘の構図と錯視させることをフルに活かすならばこれ以上のひねりはいらないのかもしれません。 |
No.285 | 6点 | 姑獲鳥の夏- 京極夏彦 | 2021/09/28 00:11 |
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ネタバレをしています。分割文庫版を読みました。
全体的にホラーや怪奇の色が濃い小説です。 登場人物の多くがどこか変であり、事件の焦点である久遠寺の家族が一見まともなのですが物語が進むにつれて異様な感じになっていきます。最後には、タイトル通り妖怪の要素も絡みつつ、衝撃のあるストーリーで終わります。 また、この小説には妖怪的な怪奇は起こっておりません(たぶん)が、榎木津が過去に起こったことを映像として見えるような、特殊能力?のようなものを持っています。また、それがミスリードにもなっております。 京極堂による、妖怪や宗教や脳科学的な話はかなり長いです。私には難しい話もあったので、読了までかかってしまいました。京極堂の話が正しいかそうでないかはさておき、読んでいて興味深いものが多数ありました。苦痛ではありませんでしたし、また、伏線も多く含んでおり、ただの衒学では終わっていないのが良いところでした。 推理小説的要素について。 推理小説としてみた場合、登場人物に嘘つきや常識では考えられない行動をとる人がおおく、また精神が不安定だったり、記憶障害だったり、主観の関口すらその傾向があり、推理することは不可能かと思います。 推理小説としてでなく、ホラーあるいは広義としてのミステリーとして読めば、読み物として面白かったです。 総じて、ストーリーや怪奇的なものは乱歩っぽく、人間の汚いところは横溝っぽく、丁寧にちりばめられた伏線とミスリードはクリスティーのような小説でした(ちょっとほめ過ぎか…?)。 やや現実的ではない要素が多いため、読者の推理が楽しめる小説ではなく、私の好みではないのですが、つまらなかったわけではありません。 |
No.284 | 7点 | 兇人邸の殺人- 今村昌弘 | 2021/09/20 18:26 |
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ネタバレをしています。
待望のシリーズ第3作! 非常に読みやすい文章に、丁寧な描写や館見取り図、ワトソン役葉村による容疑者タイムテーブルなど、全くストレスがありません。かつ、今回も現実には存在しない巨人や、人体実験を受けた生き残りなどをうまく絡めつつの犯人当てや不可能トリックは健在です。 非常に濃厚な本格要素がおおいです。主に4つあり、それぞれすべて水準が高かったです。 前半の、探偵剣崎比留子による犯人当ては、倒叙形式でのミステリになっており、これだけでも1冊分の価値がありました。正直いって、この部分が一番出来が良かったです。ただ、挑戦状、あるいはそれを示唆する文が無かったために(自分はそう感じましたw)、私があれこれと考える前に比留子が解いてしまいました(涙)。読者と共に解く本というよりかは、探偵比留子が勝手に解くのを眺める小説のようで残念です(笑)。まるで、石持浅海。挑戦状がついていれば大幅加点するのですが、この作者は従来の推理小説を揶揄することを多く書いており、絶対に挑戦状などつけないでしょうね。 次に、誰が雑賀を殺したか?という犯人当てについてです。中華包丁関連の話や、不木の首切りなど、非常に論理的で隙が無い犯人当てでした。たとえ、雑賀の首の謎(いつ切ったのか、いつ運んだのかなど)がわからなくても、とりあえず犯人当てはできるという趣向(?)であり、フェアさを感じました。 雑賀の首はいかにして切られたか、については、密室などと同じ系統の不可能犯罪ととらえて読みました(笑)。血のトリックによる、首を切られた時間の詐称は盲点でした…。剛力が雑賀の死体の発見した後では、首を切るのは非常に難しくなってしまうため、むしろ剛力が発見した時点で切れていたのではないかとも考えてしまいましたが、それだと馬鹿ミスですね(笑)。ただし、生き残りは出血死しない的な要素がありますが、これは説明不足と思います。あと、巨人が雑賀を発見して首を切るか?は偶然の要素が絡みますし、第一犯人の狙った通りの時間ではなかった偶然もあっての不可能犯罪なので、どちらかというと好みではありません。 最後に、いかにして鍵をゲットするかという問題。まるで、北山猛邦氏のような狂気じみた方法で、大変気に入りました(笑)。負け惜しみですが、北山猛邦作品だったなら、解いた自信があります(笑)。 総じて、個人的シリーズ最高傑作の魔眼の匣よりかは劣るものの、推理小説としての密度と水準は依然として高く、早くも次の新作が待ち遠しいです。 |
No.283 | 4点 | 黒い仏- 殊能将之 | 2021/09/06 19:31 |
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ネタバレをしています。
前半は事件を追う中村警部による警察小説と、探偵石動によるトレジャーハントのような内容です。警察小説は情報が徐々に出るタイプが多く、個人的にはあまり得意ではありません。トレジャーハント部分もあまり興味のない仏教や漢詩の話が出てきて、いまいちページが進みませんでした。 かと思ったら、いきなり幽遊白書(?)のような法力による妖怪バトルが始まりました(笑)。これには仰天です(笑)。 やがて、探偵が犯人(?)のアリバイに利用されてことを知ってから事件が大きく動きます。指紋を全て消す必要があったことから、石動の推理は私も予想することができたのですが、その先はさすがに無理すぎますね(笑)。 以下、難癖点。 これまでも、現実に実現不可能な力や存在を前提にした小説を見たことがありますし、それに対して抵抗はありません。しかし、本作品は過去読んだどの作品よりもミステリになっていませんでした。 大きく2パターンあると思います。 ①名探偵が推理を披露し、事件が一件落着したとおもわれたが、よく考えると論理的に間違った点が1点あり、やはり幽霊や妖怪だったのか…というオチ。 ②あらかじめ現実にはないもの(幽霊や超能力やゾンビや魔法)の存在を明らかにし、能力を細かく定義しておき、それを推理に組み込むタイプ。 本作品は、そのどちらでもなく、夢落ちなどと同レベルの話でした。ぶっちゃけると全く好みではありませんでした。 |
No.282 | 6点 | 誰も僕を裁けない- 早坂吝 | 2021/08/29 18:06 |
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ネタバレをしています。
この作者の本は、たしか4冊目になります。どれも明るい作風で読みやすく、一瞬で読み終わります。この本も例外ではなく読みやすかったです。しかし、レイプ事件や自殺が話に絡み、さらに上木らいちのチョメチョメも失敗し、前作よりかは暗いというかまじめというか? ギャグ調や、メタ的なネタ、チョメチョメシーンなどユニークな要素があるシリーズですが、実は無駄な場面があまりない、洗練された本格推理小説でした。ギャグっぽい文章に推理小説がすこし付け加えられたものではなく、すべての要素が解決・ミスリード・伏線となっていると思います。さんざん使われた回る館のネタもあまり既視感がないように思える工夫がされていましたし、ラストの驚きの要素にも寄与してました。 わたしは、戸田と埼の物語と上木らいちの物語を別々に書くということは叙述トリックと決めつけていました(笑)。なので、戸田が行為を行った館は、東蔵邸だと決めつけていたのですが…あとのことはさっぱりわかりませんでした。殺人(三世殺し)を、犯人と人が同居する部屋で殺人が行われるとは、前代未聞?のトリックですね(笑)。 戸田の目撃した春日部に似た女性は上木らいちだったということは、いくつかのヒントで感づきました。 読みやすい本が読みたいが、質も確保したい。そんなときに重宝するシリーズです。 |
No.281 | 6点 | だれもがポオを愛していた- 平石貴樹 | 2021/08/21 20:04 |
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ネタバレをしています。
雰囲気が大変よく、まるで翻訳物のように楽しめます。魅力的な謎もおおく、ポオ作品の見立て3連続であり、かつ推理小説的要素以外の無駄なものが一切なく、ページ数の割に内容が大変濃かったです。 挑戦状付きということもあり、メモを取りながら読んだのですが、メモだけでものすごい分量になってしまいました。にもかかわらず、解決編ではそのことごとくが回収され、無駄のなさを再確認できました。 若い女性が探偵役なのですが、必要以上に漫画的でもない点もいいですね。 実は、この作品が読みたいために、アッシャー家の崩壊がはいった短編集を買って読みました。アッシャー家の崩壊を事前に読んでおくことで、この作品全体を楽しむだけでなく、”アッシャー家の崩壊を犯罪小説として読む”も面白く読むことができました。 推理小説部分について。 非常に細かい論理によって驚きの真相が明らかになります。この、どんでん返し的結末と、論理的な犯人当ては相性が悪いと個人的には思っています。どんでん返しには多少無理がつきものですしね。ちゃんと推理小説として両立しているのが素晴らしいです(しかし、難癖点もあり)。 私は、いまいち当てられませんでした。 予想できたことは、作品のあらゆるところから、かなりロバートが事件にかかわっていることがわかりました。さらに、チェリー・ジャックリーンの犯行時刻の矛盾から、共犯的だと感じました。 小屋の窓が割れていたことから(ペンチ問題も含む)、まずロバートが棺を運び(アッシャー家の崩壊の見立て)、何者かが解錠できないかつドアを破壊できないものが窓を壊して何かし、犯人が黒猫やベニレスの見立てを行った順だと思いました(3人存在した)。窓を割ったのはメアリアンだとも感じましたが、まさか内側で割られていたとは…これには、自分のバカさを呪いましが。 ロバートが妹を殺すために爆破したわけがないと最後まで思っていて、そこから推理が進みませんでした。小屋の問題(メアリアンが棺に入れられていたこと)がわかれば、メアリアンが死んだと装ったこと、メアリアンが家に戻ったことなどがもしかしたらワンチャン予想できたかもしれません…。 以下、難癖部分。 読者から見れば、共犯が3人いるようなものです。しかも、全員が全員、どこかで不幸な偶然や幸運な偶然が起きていて、これでは真相を完璧に予想できるのは不可能と思われます。少ないながらもヒントが出ていて、解決編の真相ならば最も無理なくすべての謎を解決できるとは認めますが。 難易度的に、”アッシャー家の崩壊を犯罪小説として読む”は解決編前に入れても差し支えないと思うのですがどうでしょう(笑)。ニッキもこれを読んで犯人を当てたようですしね。すこし、真相に触れているので難しいのでしょうかね。しかし、やはり本作品は難易度が高すぎる気がしますよ(笑)。 |
No.280 | 6点 | だれがコマドリを殺したのか?- イーデン・フィルポッツ | 2021/08/18 19:54 |
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ネタバレをしています。
2015年の割と新訳を買いました。実は、赤毛のレドメイン家を買おうとしたのですが、なかなか新訳で買えませんでした(笑)。 さて本作ですが、訳が新しいためか、非常に読みやすく、ページが進むのが速かったです。しかし、事件発生までが長く、主人公ノートンと妻ダイアナの愛憎劇でかなり費やされます。自分には合っていなかったようで、「はやくだれか死んでおくれよ…」と思いながら読んでしまいました(笑)。 ダイアナが謎の病気にかかってからが事件性がでてきて面白くなるのですが、まあこの手のトリックはミステリファンならば1度は体験するような類ではあり、察してしまいました(笑)。それに、ちょっと現実離れしているとも思えます。姉妹が似ているところ、ダイアナの演技力が高く女優志望だったこと、事件後はノートンとマイラ(ダイアナ)があまり会っていないことなど、読者に納得感をもたらす要素がちりばめられているところはよかったです。 |
No.279 | 6点 | ウッドストック行最終バス- コリン・デクスター | 2021/08/12 20:01 |
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ネタバレをしています。
ニコラス・クインの静かな世界以来のコリン・デクスターの作品を読みました。 個人的には、非常に読みづらかったです(笑)。警察視点で事件の捜査が進むので、情報が少しずつ明らかになっていき、途中でモース警部が推理をする→新情報が明らかになり否定される→新しい推理…の流れなのですが、私はこの流れの推理小説があまり得意ではありませんでした。事件の最初から読者が推理を楽しめる情報が提供されるアリバイトリック系・犯人当て・不可能犯罪などは、それについて考えながら読み進めるので退屈しないのですが。 多重解決系としてみても、ちょっとパンチ力が足りない感じでした。論理的な推理、突飛な推理、いろいろな可能性が語られるとよかったのですが、モース警部による最後の推理以外はよく覚えていません。多重解決というより、後期クイーン問題(?)の連続のほうが正しいのでしょうか? また、主観の人物の文章もころころと入れ替わり、それも読みづらさを感じました。 しかし、モース警部による真相の解明のシーンの推理は圧巻でした。非常に論理的だったと感じましたが、読みづらさもあり、私にはとても当てられなかったでしょう(笑)。 あとは、モース警部の悲恋が書きたかった?のか作品全体的にまじめな雰囲気なのが残念でした(笑)。私のモース警部のイメージはもうちょっと面白おかしいキャラターだったような気がしますが、まあ私のモース警部歴はまだ2冊目なのでよくわかりません(笑)。 |
No.278 | 6点 | 木製の王子- 麻耶雄嵩 | 2021/07/30 18:59 |
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ネタバレをしています。
この作者の作品は割と久しぶりに読んだ気がします。 この作者にしては、わりと王道な本格推理小説の色が濃い作品でした。ところで、私はこの木更津悠也が出るシリーズは、初作の翼ある闇しか読んでないのですが、大丈夫だったんでしょうかね(笑)。 ちょっと不思議な館で起こる連続殺人。館で暮らす一家は常識人にみえて、すこしずつ異常さがでてくる。登場人物(主観の一人)の過去には、この一家の子供かと思われる人もいて、かといって冷たくあしらわれたりして、興味がそそります。 ただ、文章自体はやや読みづらさを感じました。主観の人物がコロコロ変わり、かつ人数も多いです。さらに、音楽、絵、宗教などについての文が個人的に興味がなくて読むのがきつかったです(笑)。主観人物や、宗教の話は、それぞれラストにもかかわってくるのですが、もうちょっと短くしてほしかったです。 推理小説的要素について。大きく分けて、晃佳殺しのアリバイと、宗教的で意外な動機が良かったです。一家の秘密もダイナミック(?)で楽しめました。 晃佳殺しについて。容疑者達の非常に細かいタイムテーブルと、それについての検証がなされています。図を文を交互に見て、やっとのことで理解していきました。ピブルの会で毒チョコ張りの推理合戦(?)していましたが、吉村の解答は単純ながら盲点で楽しめました。私は吉村の答えにはたどり着けませんが、タイムテーブルを見た瞬間、全員グル臭いな…と感じてしまいました(笑)。晃佳が整形を繰り返していたという情報が出てからは、白樫家偽家族を確信しました(笑)。 作者視点では、犯人の犯行の動機と偽一家は、晃佳殺し(全員グルでタイムテーブル通りに動いてアリバイ形成)がやりたかった結果作られたのだと思いますが、動機面もなかなか狂っていて(?)楽しめました。私は全く予想できませんでした。ただ、あれだけ血を見た殺人事件の割に、ラストが極めてあっさりですね。安城と倉田の何かしらのリアクションを書いてほしかったですね。 総じて、若干読みづらさもあったものの、本格推理小説として破綻していないレベルでの驚きがあり楽しめました。この作者は、すべてをぶち壊すラストを書きがちという印象が、個人的にはありました(笑)。 |