皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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いいちこさん |
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平均点: 5.67点 | 書評数: 546件 |
No.386 | 6点 | オリンピックの身代金- 奥田英朗 | 2018/07/27 08:43 |
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客観的事実が一部先行し、その後に各登場人物の行動・心理が叙述される、倒叙的な構成を取っており、その時間軸の間隔が短縮する作品後半においては、サスペンスが大きく減退する構成となっている。
その点において、本作の構成は全体として非常に緻密であるものの、長尺すぎるという評価にならざるを得ない。 また、本作の主題、つまり日本社会が敗戦から立ち直っていく高度経済成長時代、とりわけその象徴的な存在である東京オリンピックの背景にある、理不尽な格差社会に対する課題認識は評価する。 しかし、その課題認識に対する主人公のアクションが、テロリズムという形態を取ることに違和感が拭えないのである。 確かに、日本の富の多くがオリンピックの開催地たる東京に落ちるのであろうが、主人公の仲間たちをはじめ、各地方もその恩恵に多少なりとも浴するのは間違いない。 にもかかわらず、それに対する反発がテロリズム、しかもそのエネルギーが政治ではなく警察に向かうのが不可解と言わざるを得ない。 主人公による麻薬の常習が、そうした行動原理の不可解さに対するエクスキューズであるように感じられる点は非常に残念 |
No.385 | 3点 | 名探偵の証明- 市川哲也 | 2018/07/09 17:08 |
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まず叙述の拙劣さは、これまで私が読んできたミステリ作家の中でも1・2を争う、商業出版としていかがなものかというレベル。
作中で発生する事件と、その推理プロセスは、それが本作の主題ではないことを差し引いても、何ら評価できるものがない。 それでいて、名探偵の存在意義を問う本作のメインテーマからも、印象に残るものが何もない。 当然厳しい評価にならざるを得ない |
No.384 | 3点 | 終着駅殺人事件- 西村京太郎 | 2018/07/02 18:37 |
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作品の底流をなす抒情性等、全体としてのテイストは決して嫌いではない。
ただ、全登場人物が殺されることによって真犯人が判明するプロットとはよいとして、その間実証的な捜査を全く行なわず、情緒的な言動に終始する捜査陣の無能ぶりはいかがなものか。 その他、犯行プロセス全体の合理性・フィージビリティの低さ、トリックのレベルの低さなど、本格ミステリとして評価できる点がない |
No.383 | 7点 | 天空の蜂- 東野圭吾 | 2018/06/27 11:22 |
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みなさんが指摘しているとおり、著者の抜きんでた先見性を立証する作品。
執筆当初から映画化を意識したかのようなキャッチーなプロットもお見事。 人物描写、とりわけ犯人の背景にある人間関係と犯行動機の作り込みには甘さも感じるが、良質なサスペンスであり、ギリギリ7点の評価 |
No.382 | 5点 | 火刑法廷- ジョン・ディクスン・カー | 2018/06/19 16:09 |
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提示された謎の不可解性は強烈だが、その真相は数々のご都合主義的な偶然と小粒なトリックによるもので、拍子抜けと言わざるを得ない。
にもかかわらず、非常に長尺の作品であり、それでいて読者への伏線も不十分であることから、本格ミステリとして評価することは難しい。 そうした性格から、本作は最終盤のどんでん返しによって完結するサスペンスと解したいが、その視点からは意外性が不十分な印象 |
No.381 | 7点 | ギリシャ棺の秘密- エラリイ・クイーン | 2018/06/08 20:26 |
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登場人物が非常に多いにもかかわらず、犯人と目される人物が限定的で、かつ少数の証拠で容易に絞り込まれてしまう点で、筋肉質かつエレガントな「オランダ靴」には遠く及ばない。
また、プロットに盛り込まれたエピソードやガジェットが、その巨体に見合う十分な効果を挙げておらず、中だるみを強く感じさせる印象。 真犯人の衝撃を買って7点の最下層 |
No.380 | 6点 | サウスバウンド- 奥田英朗 | 2018/05/31 08:46 |
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個々のエピソードは面白いのだが、他の作品にない説教臭さと、まとまりの無さを感じさせ、主題が曖昧な印象が強い。
読み物としては一定の水準に達しているのだが、著者の本来の力量が発揮されておらず、読者の期待に応えているとは言いかねる作品 |
No.379 | 5点 | 陰の季節- 横山秀夫 | 2018/05/02 13:50 |
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いずれの作品も小粒ではあるものの、一定の水準を保っているのは間違いない。
ただ、ご都合主義的な偶然や登場人物の不可解な言動等、リアリティの弱さ、主人公の推理が論理性に乏しく、飛躍が散見される点で、ミステリとしてのツメの甘さが散見される点は気になった。 読了順が逆になったことで、著者の後日の飛躍を実感させられる読書となった |
No.378 | 5点 | ジェリーフィッシュは凍らない- 市川憂人 | 2018/04/27 11:38 |
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伏線・ディテールに至るまで非常によく考えられた作品。
ただ、そもそもフーダニットを放棄した作品であろうから、犯人が直感的に分かってしまうのはよいとして、肝心のハウダニットも想定の範囲を脱していない。 各所で綱渡り、ところによってはアンフェアな仕掛けが講じられているのに、それだけの効果が挙げられていない。 著者の確かな実力は感じられるものの、作品の構想自体に難があり、それが十全に発揮されていない |
No.377 | 5点 | QED 六歌仙の暗号- 高田崇史 | 2018/04/17 15:51 |
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各登場人物の目を覆うようなオーバーリアクションをはじめ、叙述そのものの拙劣さ、ヒロインがワトソン、つまり探偵の引き立て役として全く機能していない点など、第一作の難点は改善されていない。
最も重要なガジェットの1つであるダイイングメッセージが、ハナから「七」に見えない点も大きな難点。 歴史解釈がもし著者のオリジナルだとすれば、高く評価することができ、5点の最下層としたが、ミステリとしては平凡で、歴史解釈とミステリの両者が有機的に連携しているとも言えない。 |
No.376 | 6点 | 百器徒然袋 雨- 京極夏彦 | 2018/03/30 14:16 |
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キャラクター小説としての色彩が強く、長編ほどのスケール感・完成度に達していない点で、百鬼夜行シリーズの同人誌的なスピンオフ作品という評価が妥当だろう。
それでも本格ミステリとして一定の水準に達しているし、何より読物として抜群に面白く、6点の上位 |
No.375 | 6点 | 体育館の殺人- 青崎有吾 | 2018/03/26 19:32 |
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真相解明プロセスの論理性の高さ、作品の各所に配されたガジェットの活用の巧みさ等、デビュー作としては出色のデキだろう。
明かされた真相がややもするとサプライズに乏しく、犯行計画のフィージビリティにもやや難点を感じるが、全体としては極めて堅牢な本格ミステリであると言えよう。 6点の最上位 |
No.374 | 4点 | 幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート- 倉知淳 | 2018/03/16 10:33 |
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著者の日常の謎系作品は、真相が飛躍する衝撃とリアリティの絶妙なバランス、それを解明するプロセスの論理性の高さが特色であるが、そのいずれにおいても「猫丸先輩の推測」はもちろん、「猫丸先輩の空論」にも遠く及んでおらず、4点の下位 |
No.373 | 6点 | 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー | 2018/03/06 15:26 |
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プロット全体の重要な前提となる、ある事実が判明した瞬間、プロットが一挙に反転し、真犯人が特定されるという構成の妙は買う。
しかし、犯行の動機や目的に比して、その手段があまりにもリスキーであり、それが全く露見しなかったことも含めて、リアリティが感じられない。 真相解明に至る推理のプロセスにも疑問が残り、世評ほどに高く評価することはできない |
No.372 | 8点 | 背徳のぐるりよざ セーラー服と黙示録- 古野まほろ | 2018/02/28 15:35 |
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何と言っても「太平洋戦争終了直前から閉鎖されたカトリックのムラ社会」という奇想天外な舞台設定が奏功。
これにより本シリーズと横溝の名作の世界観を折衷し、十戒の遵守という設定により、本格ミステリと親和性の高い論理世界を実現している。 ホワイダニットを解明する前提となる真相は、その内容にやや疑問を感じる点が残るものの、そうした事態が発生する蓋然性は高く、本作のタイトルに込められた意図も含めて強烈な破壊力を持っている。 フーダニットは真相とそれを解明するプロセスもさることながら、その証明の手際が実に鮮やか。 以上、細部には毀誉褒貶があるものの、本格ミステリとしての骨格の堅牢さを評価してこの点数 |
No.371 | 7点 | 神秘の島- ジュール・ヴェルヌ | 2018/02/20 19:12 |
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「海底二万里」以上に、緻密に組み上げられた莫大なガジェットが、本作の魅力の源泉であり、その抜きん出た構築の才は高く評価する。
一方、こども向けの作品であることも影響しているのか、登場人物がことごとく万能であり、ご都合主義的な幸運に再三恵まれるなど、スムーズすぎるプロットがサスペンスを減じているのは事実。 とりわけ、リンカーン島の生活インフラは、あのような少人数がわずか4年間で建設できるかと言えば、大いに疑問が残るところ。 しかし、総合的な評価としては、非常に面白い作品であり、リーダビリティの高さも相まって、高いレベルにあるのは間違いない |
No.370 | 2点 | 四神金赤館銀青館不可能殺人- 倉阪鬼一郎 | 2018/02/01 17:07 |
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著者の作品を読むのは4作目だが、もはや限界という印象。
とにかく趣向がワンパターンすぎるうえ、さまざまなアイデアが必然性、すなわちプロットとの関連性もなく、ただ並べられているだけで、思い付きの域を出ていない。 また、この真相であれば何でもアリになるのは当然で、好意的に評価できる点がない |
No.369 | 6点 | 火刑都市- 島田荘司 | 2018/01/25 14:48 |
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評論家が必ず著者の代表作の一つに挙げ、著者自身もそれを自認し、自画自賛している一方、市井のファンからは、「一定の評価はするものの、奇想天外なトリックがなく、犯人の動機を構成する主題に納得できず、サスペンスも弱い中途半端な作品」と評されることの多い本作。
一連の犯行の不可解性と、そこに秘められた謎(=本作の主題)、それを盛りあげるストーリーテリングの妙(改稿を重ねた全集を読了したからかもしれないが)は高く評価するものの、本作の主題が本件犯行動機に成り得るか、仮に成ったとして本件犯行のような態様を取るか、という点には疑問を感じた。 ご都合主義的な登場人物の配置や、その魅力の乏しさも減点材料であり、この評価 |
No.368 | 6点 | 影の車- 松本清張 | 2018/01/15 15:23 |
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非常に短いセンテンスで、抑制の利いた表現でありながら、優れた描写力を示す筆致に、高い筆力が伺われる。
一方、ミステリとしては、プロットや登場人物の行動に合理性を欠く点も見受けられ、犯人の小さなミスや偶然から、その犯行・底意が露呈するプロットのパターン化が目に付くところ。 一部に突出した作品が見られるが、それ以外は概ね平均点よりやや上に止まっており、そのアベレージの高さは称賛に値するものの、「黒い画集」とは確実に差がある印象 「張込み」と文字どおり同工異曲であり、同様の評価であるが、読み慣れてきたからなのか、同作よりわずかに劣っているのか、「張込み」よりわずかに下と位置付けた |
No.367 | 6点 | ほうかご探偵隊- 倉知淳 | 2018/01/12 20:55 |
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作品冒頭に提示される不可解な謎と、その解明プロセス、二転三転する真相に至るまで、隙のない完成度を誇り、大人の読書に耐え得る作品。
想定している読者層からやむを得ないのだが、スケールはやや小粒であり、プロットのごく一部に無理も感じられることから、この評価に止めるが、一読の価値のある佳作であることは間違いない。 挿入されたイラストが非常にかわいらしい点も特筆したい |