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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1706件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.406 8点 完全なる首長竜の日- 乾緑郎 2017/11/01 10:09
 情感を程好く伝える的確な文章とどっちへ進むのか予測が付かないストーリーに乗せられているうちに世界が溶け出してしまった。なんでもアリなシチュエーションも、そのこと込みで面白ければアリだと私は思う。
 難点を挙げるなら、サリンジャーの短編について内容をかなりバラした上で自作品とリンクさせていること。あそこまでバラさないと成立しないレヴェルの引用は控えるべきだと考える。

No.405 4点 りら荘事件- 鮎川哲也 2017/10/30 12:39
 非常に強い既視感。勿論それは鮎川哲也の子供達の作品を沢山読んだせいであって、本作のほうが元ネタである(だからと言って、今読んでがっかりした気持が帳消しになるわけではない)。ミステリとは形式に縛られたスタイルであるとまざまざと感じた。“人間が描けていない”との評は本書にこそ贈られるべきではないか。ポンポン殺し過ぎだ。刑事があまりに牧歌的&無能である点はまぁ大目に見よう。

No.404 7点 一の悲劇- 法月綸太郎 2017/10/24 09:02
 新本格の作家が誘拐を主題にするなら、このくらい捻るのは当然だよねぇ。一人称の文章の自己批判的な部分は、意図的なものだとしても少々鼻に付いた。事件関係者が限られているので、ダミーの解決編の度に消去法で網が絞られて、真犯人に到達した時にはちっとも“意外な犯人”ではなくなってしまったのが勿体無い。

No.403 7点 美少年椅子- 西尾維新 2017/10/24 09:00
 遂に今回は明確な謎を伴う事象が姿を消し、前作と次作への橋渡しのためだけで一冊刊行するに至ってしまった。まぁ、謎解き要素の低いギャングものとか警察小説で、レギュラー登場人物の一日を描いて終わり、みたいなのもあるから、それをライトな学園ものに応用するのもアリでしょう。物凄く良い方に解釈するなら、もしかすると、“事件→捜査→解決編”といった定石を意図的に外して、シリーズの一冊ごとにパターンを変えていこうという、ミステリに対する批評を含んだ試みなのかもしれない。私は好きだ。

No.402 8点 オーバーロードの街- 神林長平 2017/10/24 08:56
 介護施設の入所者虐待からスタートして、行為の主体とは、意志のありかとは、とどんどん発展しスールアップする。しかし延々とディベートで話を広げがちなこの作者にしては、何が進行しているかが明確で、良い意味で判り易いストーリー。最後の喧嘩のシーンはカタルシス満載だし、比較的きちんとまとめて終わっている感じも私には好ましかった。
 (どうでもいい感想)大麻良というネーミングでふと思ったのだけれど、英語圏でディックという名前は昨今どういう扱いなのだろうか。

No.401 7点 失われた過去と未来の犯罪- 小林泰三 2017/10/17 08:52
 全体的にそこまで“犯罪”という要素を前面に出した話ではないので、このタイトルはどうなのか。期待したほどミステリ寄りではない。
 双子の姉妹のエピソードは「双生児」(『完全・犯罪』収録)と同じ基盤を別方向に発展させたもの、だよねぇ。面白くはあるがこういう使い回しは感心しないなぁ。 
 と、引っ掛かる点はあるが、論理の積み重ねがいつの間にか歪でスラップスティックな情景を作り出す手法は粘着質な作者ならでは。“記憶”というテーマは小林泰三SFの特質に合っているのだろう。但し本作はグロ抜き。

No.400 8点 少女は夜を綴らない- 逸木裕 2017/10/16 12:58
 こういう、殺伐とした青少年の心象を描いたミステリは好き。その手の話ではどうしても定番になってしまうネタ、といったものはあるわけで既視感を覚えた部分もあるが、それでも尚、良く出来ていると思う。
 イヤな事柄を本当にイヤな感じで書くのが巧み。適度に意外でテンポの良い展開でページを繰らせ、なかなか説得力の有る落とし所に上手く着地している。難を言えば、ボー研の後輩のキャラクターが薄い(ので、後半いきなりしゃしゃり出て来た印象)。
 私は読みながら『オーダーメイド殺人クラブ』(辻村深月)を思い出していたが、本書の方をより高く評価する。

No.399 4点 ダマシ×ダマシ - 森博嗣 2017/10/12 13:17
 今に始まったことではないが、思い付きだけで場当たり的に書き進めて、色々綻びが出たけれど書き直すのは面倒なので、ひとの心の曖昧さを免罪符にして辻褄を合わせた、という感じ。本作では、わざわざ殺すほどの必然性が全く無い、という点が致命的。あの人が偶然あの人の顔を知っていてあっさり身元が割れるのも手抜きとしか思えない。他にも合点の行かない記述は多く、森博嗣の近作は不自然ポイントを探す為に読んでいるかのような私である。

No.398 6点 ゴースト- 山田正紀 2017/10/02 07:20
 摑みどころのない描写は話が進むにつれますます曖昧になり、雨に打たれて迷い込む街は更に荒涼とし、足下はどんどん覚束なくなる。幾つかの短編を内包する形で街がいびつに崩れて行く。話の核だけを取り出せば他愛ないものかもしれないが、構成と文章による巧みなコーティングで読者の気を滅入らせる手管は筋金入りだ。まぁ厳しく評するなら、“虚構性を重視した本格ミステリ”という得意の芸風で一冊焼き増ししただけ、ではある。
  俎凄一郎というのは綾辻行人の館シリーズに於ける中村青司のような存在で、館ならぬ街シリーズといったものを意図していたのだろう。私は(ファンの欲目もあるにせよ)面白いと思ったが、中断するほど不評だったのだろうか。とはいえこの作者には『神狩り』(1974年)の続編を2005年に発表したという前科もあり、シリーズが突如再開される希望が皆無とは言い切れない(と思いたい)。

No.397 6点 完全・犯罪- 小林泰三 2017/09/25 11:07
 「双生児」。それまでは強引であっても一応論理の積み重ねで転がして来た話に、最後の最後で唐突に不条理な異物(“終わりではなかったの”)が突っ込まれて終幕、というのはやっぱり話がおかしいと思う。しかし、そのひとが嘉穂であれば事の成り行きをペラペラ話す理由も無いんだよね。というか、“そうだ。一つ方法がある。”ってなんのこと?
 「隠れ鬼」「ドッキリチューブ」は前半を読めば後半の見当も付いてしまうが、それでもダレることなく一息に読まずにはいられない文章の気持悪さが素晴らしい。

No.396 6点 Y駅発深夜バス- 青木知己 2017/09/19 12:44
 「九人病」が一番良かったが、最終章の二重三重の仕掛けはいらなかったのでは。
 表題作。トリックは面白いが、第三者の行動に依存する側面が強いことと、その時間が数時間に亘る長さであることが難点。彼が途中で何か目立つことをすればアウトであって、私だったらこの計画には乗らないなぁ。
 「猫矢来」。加害者の行為の危険度を考えると、警告のしかたが幾らなんでも遠回し過ぎだと思う。
 全体として。ミステリに対する誠意は伝わって来るが、だからといって飛距離が物凄く長いわけではない。

No.395 7点 T島事件 絶海の孤島でなぜ六人は死亡したのか- 詠坂雄二 2017/09/14 11:12
 好きなタイプの作品だし前半は面白いのだが、それに比して結末の爆発力に欠けた。がっかりと言う程ではないが、何かもう少し違ったまとめ方があったのではないかという気もする。
 本を手に取った時、“表紙のタイトルに難読でもないのにわざわざルビを振っている、あれっ、濁らないんだ?”とチラッと気になったが、それがああいう伏線だったとは。

No.394 4点 本陣殺人事件- 横溝正史 2017/09/11 10:55
 期待した程おどろおどろしくないし、どうにもギクシャクして感じられる部分が散見され、探偵小説というよりは事件の報告書、もしくは推敲前の未定稿を読んでいるような気分だった。犯人の心情、また両者の主導権の変遷、と言った部分が興味深かったが特に後者はさらりと流されていて残念。ホームズもののネタバレは編集判断でカット出来ないのだろうか(せめてタイトルを伏字に!)。差別用語なんかよりよほど“不適切な表現”だと思うのだが。粗筋紹介の“新郎新婦が惨殺されていた”というのはアンフェアな表記では?
 「車井戸はなぜ軋る」と「本陣殺人事件」は、事件の真相の構造がうっすらと共通していないか。被害者ふたりのうち片方が……とはいえそれ自体はよくあるパターンだし、二度ネタだと非難するようなことではない。並べて読むと似ているなぁと思うくらいで。であるからこそ、これを併録したのは戦略ミスだ。「車井戸はなぜ軋る」は、面白いのに結末でがっかり。しかもそのがっかりは作品そのもののせいではない。別の本に収録されていればこうは思わなかった筈だ。私の感動を返して欲しい。

No.393 4点 見たのは誰だ- 大下宇陀児 2017/09/05 09:00
 第一部の強盗のくだりはそれなりに面白く読めたが、そのあとは場当たり的に展開して無理にまとめたような感じで苦笑することしきり。これが発表時点で探偵作家としてキャリア30年の作者によるものだから困っちゃうなぁ。
 この時代は“恋人”のニュアンスで“愛人”と言ってたんですね。

No.392 6点 ビブリア古書堂の事件手帖7- 三上延 2017/09/04 09:35
 単なる思惑の擦れ違いではなく悪意が絡んでいるせいで、一連の出来事が作為的な“大金をかけたゲーム”のようになっている。色々因縁はあるにせよ、なんでそんなのを相手にするの? という感じである。単独で読めば面白いが、シリーズの終幕としてこういうカラーの話を持ってきたのは少々残念。
 歯磨きしながら読書は私もするなぁ。

No.391 8点 虹を待つ彼女- 逸木裕 2017/09/04 09:34
 これは面白い。(良い意味で)長沢樹あたりと共通する空気を感じた。
 工藤の嫌な奴っぷりや、似て非なる榊原みどりのキャラクターが良い。細かなエピソードや脇役の配置も巧みで、そのおかげで結末の“失恋”にも説得力がある。
 ただ晴の内面が(一応の説明は施されたが)ブラックボックスなので、厳しく言うなら“読者受けを狙った不思議ちゃん”のまま終わった点がちょっと残念。生前の彼女はこんなことを考えていたのか!と視界がガラッと変わるような驚愕を期待していた。前半が面白かったので期待値が膨れ上がってしまったわけです。

No.390 7点 ドローン探偵と世界の終わりの館- 早坂吝 2017/09/01 09:26
 種明かしの1ページ前で叙述トリックに気付いてしまった。他には、彼等はみな何かの病気で一定時間ごとに薬(=アレ)を飲まないと命に関わる、なんて案もあったが……余計なことには気付かないほうがより驚けたんじゃないかと思うとちょっと残念。ところでこの真相だと、零が“壺を振り下ろして”ドローンを破壊しようとするのは苦しいのでは。

No.389 4点 罪の声- 塩田武士 2017/08/31 07:17
 31年前の未解決事件を新聞社と俊也が同じタイミングで調べ始める、という偶然はアリか?今になってここまで辿れた線を、当時何故警察は逃したのか?
 実在の事件をネタにしたという以上のプラス・アルファはあまり感じられず、“出落ち”のような印象。この作品自体が広義での“便乗商品”であって、作中のマスコミ・社会批判はそのまま自身に返って来るのである。あまり私の好みではなかった。

No.388 8点 ここから先は何もない- 山田正紀 2017/08/29 09:10
 予備知識無しで粗筋も知らずに読んだので(これが良かった)、ミステリのリアリティの枠内に留まって説明を付けるのか、SFの領域に踏み込むのか、ラスト直前まで判らずページを繰る手が止まらなかった。ここまで話を大きくするかと驚くやら呆れるやら。『謀殺のチェス・ゲーム』と『神狩り』をいいとこ取りして混ぜたよう。作者あとがきによれば『星を継ぐもの』(ジェイムズ・P・ホーガン)への不満を解消する為に書いたとの由。

No.387 6点 密偵手嶋眞十郎 幻視ロマネスク- 三雲岳斗 2017/08/21 11:22
 第一次世界大戦後の日本軍部と防諜機関の揉め事アレコレをラノベ的マナーに上手く落とし込んだ冒険活劇。意外な展開と言う程ではないし、キャラもさほど立ってはいないし、それなりの筆力を有するひとがそのつもりで書けばこのくらいのものは出来るだろうという気はする。ただ、どこがどうと言うわけではないが、なにがしかのプラス・アルファが含まれているような好感を持ったことは認める。

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虫暮部さん
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泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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