皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.21点 | 書評数: 2015件 |
No.20 | 8点 | ナイルに死す- アガサ・クリスティー | 2020/10/30 17:13 |
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犯人がこういうポジションで、自分の疑われ易さを踏まえた上で、非常に能動的に騙しに来る、と言った感じの似た印象の作品は過去作に幾つかあって、“また?”との思いが否めなかった。中近東が舞台だからどう、ってことは特に無かった。とは言え良く出来ていて、代表作という評価に異議は無い。
作家のオッターボーン夫人がイチ推しキャラ。“血文字のJ”は、犯行に於いて全く必然性が無いし、犯人の稚気を表すにも中途半端だし、不要だったのでは。 |
No.19 | 6点 | もの言えぬ証人- アガサ・クリスティー | 2020/10/27 14:53 |
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ボブがなんともチャーミング。“彼”と訳されているが原文も“ he ”なのだろうか。とはいえ犬が“変な音をたてて失礼。しかしこれが僕の仕事なんだよ”とか話すわけないのであって、それはみなヘイスティングズおいちゃんの脳内変換であって、ならば真にチャーミングなのはこっちか。依頼者の“何も言ってない手紙”も可笑しい。 |
No.18 | 7点 | ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー | 2020/09/30 11:30 |
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大胆な犯行だな~と思ったが、4人中1人だけ動き回れる状況がブリッジのルール上必然的に生ずるわけね。そこは予習してから読みたかった。
終盤の展開――Lが自白、MがLを訪問(この時どのようなやりとりがあったのか全く藪の中)、翌日新たな死が二つ。非常にタイミング良く連続しており、しかしそれらは連鎖反応と言うわけではなく概ね偶然。それでいいのか? なんとも妙な気分だ。 “人を殺して巧みに逃げおおせた者達を集める”という設定は魅力的。3年後に『そして誰もいなくなった』で大々的に再利用しているのは、作者もそう思ったからだろうか。 |
No.17 | 8点 | ABC殺人事件- アガサ・クリスティー | 2020/07/05 11:26 |
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ABCパターンは(少なくともそれ単体では)机上の空論に思える。従って、メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧、と言う状況で再読するにあたり、正直期待薄だったが――いやいやとんでもない。
作者は私のツッコミなど予め呑み込んでその先を書いていたのだ。『ABC殺人事件』を名乗りつつ、実は重要なのはABCではなく裏テーマじゃないか。思い返せば全編を通じて退屈な場面が皆無だったのも凄い。でも髪に関するいじりは御手柔らかに! “ABCパターン”なる呼称を生み出す程に本作があのプロットの代表例として評価されている事実こそ、此度の私にとって最大のミス・ディレクション。 |
No.16 | 5点 | 雲をつかむ死- アガサ・クリスティー | 2020/06/26 12:03 |
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21章で自作品のネタバレを。駄目だポアロ、その真相は内緒でしょ。
“あの連中(考古学者)ときたら、ほら吹きばかりですよ”にもニヤリ。 探偵作家クランシイ氏が考えた解決も捨てがたい。 |
No.15 | 5点 | 三幕の殺人- アガサ・クリスティー | 2020/06/26 12:01 |
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ハヤカワ版です。
動機の有無について、心の奥の奥まで他者が証明することはどだい無理なのである。“犯人にはパーティ出席者の大多数に対する秘かな殺意があって、誰でもいいから殺したかった”という推測を否定することは出来ない。それ故に、最初の殺人の動機は是が非でも本人の口から語って欲しかった。 ところで第一幕の3。ポアロ曰く“ウィスキーはめったに飲みませんので。砂糖水を少々いただければ”――これはジョーク? 砂糖水を飲む習慣が本当にある? |
No.14 | 7点 | オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー | 2020/06/04 11:52 |
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メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧、と言う状況で読み返すと、本作は一幕の舞台劇の如し。いやむしろTVのドッキリ企画か。役者による芸風の違いも(それなりに)書き分けていて見事。肩に力が入ってつい失言しちゃう人。素のままで通したようなハマリ役。そして別人格を演じ切った名優……。 |
No.13 | 6点 | エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー | 2020/06/04 11:51 |
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殺人発生以前からポアロが巻き込まれている設定だが、巻き込んだ人物の考え方は“作者の都合”のようで不自然に感じた。
ところで、7章の冒頭。 ポアロ「尋問はしたのでしょうな?」 ジャップ警部「しましたとも、そして、あの十四人が一人残らず云々~」 これは次作についての大胆な伏線か、それとも自分が何気なく書いた台詞に触発されてアレを思い付いたのか。 |
No.12 | 5点 | 邪悪の家- アガサ・クリスティー | 2020/03/30 12:23 |
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ネタバレするけれど、ラストの部分が良く判らない。
ポアロが犯人に仕掛けた罠は“然るべき状況を整えれば、犯人はFに濡れ衣を着せるべく行動するだろうから、そこに見張りを付けておく”と言うこと? 弁護士は口が堅く、ポアロは遺言状の内容を教えて貰えなかった。従って偽遺言状の騒ぎはポアロにとって想定外。“偽造者をとっちめましょう”と言ってNを芝居に引っ張り出したのではない。じゃあどう説明したのだろう? “降霊会であなたが登場すれば犯人は驚いてボロを出すでしょう”とか? 名目はどうであれ自分にとって好都合な状況だから話に乗るかな? 20章がまるごと意味不明。Jは自殺もしくはうっかり自分を撃ったということ? ポアロが電報で確かめたかった二点とは何か? “本名”と“手術の日程”? 斯様に、きちんと作中に書いておいて欲しかった事柄が色々ある。 |
No.11 | 5点 | シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー | 2020/02/25 10:54 |
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冒頭の降霊会は魅力的な謎だが、作中では殆どフィーチュアされていないので、もしやシレッと“本物の心霊現象”として片付けるのか、と心配(期待?)してしまった。
まぁ冷静に見れば犯人が最も怪しい行動を取っている。しかし心情の描写に少々アンフェアな記述があるような。だから見破れなかったのだ、と強弁はしないけど。 トリックは良いし、動機の設定も上手い。高評価出来ないのは、中盤の地道な調査行が退屈だから。それにその成果のうち犯人究明に直接役立った手掛かりって最後のアレだけ……? |
No.10 | 6点 | 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー | 2020/01/30 12:32 |
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随分と俗っぽい牧師さんだ。GOOD!
ところどころにさりげなく埋め込まれたユーモアも冴えている。 「夜中の十二時にスーツケースを持って、森の中で何をするつもりだったんでしょう?」 「ひょっとすると――古墳の中で眠るつもりだったのかもしれませんよ」 とか。これに何も突っ込まずにシレッと続くところが GOOD! “最初はまさかアクロイドではと疑った”←私も! |
No.9 | 5点 | 青列車の秘密- アガサ・クリスティー | 2020/01/09 12:01 |
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次々に新しい人物が登場して、ええっ多過ぎるよと思ったが心配無用、読み進めるとそれぞれ適切なところに落ち着きスッキリ整理された物語だ。この作者には紋切り型のキャラクターを生き生き描く才があり、風俗小説として面白い。ミステリとしてはつまらない。
あの人の頭文字が●だとは、推測は可能だが気付かなかった。“彼女(メイド)の名前はエレンなんですか、それともヘレンなんですか”と言う台詞が日本人向けの伏線なのである。 |
No.8 | 3点 | ポアロ登場- アガサ・クリスティー | 2019/11/14 10:41 |
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この中の一編が雑誌に混ざっていたなら、枯れ木も山の賑わいと言えないこともない(誤用ではない)。しかしこうして一冊にまとめて枯れ木だらけの山にしちゃうと……面白い部分が皆無と言うわけではないが、これがいいねとタイトルを挙げるほどのものは見当たらなかった。 |
No.7 | 5点 | ビッグ4- アガサ・クリスティー | 2019/11/01 11:47 |
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登場人物も殺人もざっくりと記号化されていて、妙に効率良く事件をこなすさまはゲームのよう。そのテンポのおかげで、出来が悪い割につまらなくはない。 |
No.6 | 7点 | アクロイド殺し- アガサ・クリスティー | 2019/08/30 10:06 |
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“アクロイド”って何だろう? セルロイドやアルカロイドからの連想で普通名詞だと考えたのだ。“~殺し”と言うからには、被害者の何らかの属性を示す語に違いない。モンゴロイドのように人種を表すのか。悪のアンドロイドって意味ではまさかあるまい。えっ、単なる被害者の名前? なーんだ。
そんなことを思った小学校時代、幸いネタバレ無しで読めたので結末で驚愕、海外のミステリを読む大きなきっかけになった。 さてそれを今読み返したところ、意外な程に面白い。物語序盤にそんな兆しは欠片もないのに何故あの人があの人を殺すのか? また、言動の不可解な人物が幾人も見受けられる。 つまり、メインのネタはどうしたって忘れようがないけれど、詳細についての記憶は曖昧――そんな状況が、本書を優れた倒叙ミステリに変貌させたのだった。 |
No.5 | 5点 | チムニーズ館の秘密- アガサ・クリスティー | 2019/08/26 10:20 |
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奇妙な偶然の一致や、なんでそうなるのか不思議な言動が満載。ミステリの国と言うスラップスティックな架空世界の物語、と割り切っても、物凄く面白いとまでは思えなかった。其処此処に見受けられる妙なユーモア感覚は評価出来る。 |
No.4 | 3点 | 秘密機関- アガサ・クリスティー | 2019/05/01 12:49 |
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作品としてのポテンシャルが低いので本気で読むとアラが目立ってしまうような。トミーとタペンスは若気の至り全開で意外に軽佻浮薄なキャラクター。場当たり的に感じられるストーリー展開がメタ的に面白くはあった。 |
No.3 | 5点 | スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー | 2018/07/31 14:06 |
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最後に出て来る証拠品はあまりにもわざとらしく、処分に困るなら食ってしまえと思った。 |
No.2 | 4点 | ゴルフ場殺人事件- アガサ・クリスティー | 2017/06/16 12:35 |
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中盤、二つ目の死体の死因が実は……とか、被害者の目論見とか、面白味を感じる部分もあったが、全体としてはそれほどでもない。
ポアロが、冷酷で邪悪な性格は親子で遺伝する、みたいなこと言ってるのは嫌だな~。 |
No.1 | 8点 | そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー | 2014/07/02 20:13 |
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20年ぶりくらいに再読。おおまかな流れは覚えていたけれど、しっかり楽しめた。
気になったのは、彼等の“罪状”である。私見を述べると、少なくともミス・ブレント(使用人を解雇しただけでしょう?)、マッカーサー将軍(私情を挿んだのは褒められたことではないが、戦争中であり誰かが死を覚悟で危険な任務に就かねばならなかったのでは)、マーストン(彼の事例はあくまで事故。道徳心に乏しいという理由で罰を上乗せするのが公正だとは言いがたい)を死刑に値すると見做すのは厳し過ぎる、と思う。他の者もそんな極悪人揃いというわけではないし。 |