皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
kanamoriさん |
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平均点: 5.89点 | 書評数: 2426件 |
No.1206 | 7点 | 夜明けの睡魔- 評論・エッセイ | 2010/10/04 18:54 |
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海外ミステリの読書案内本のなかでは、かなり良質な内容で、切り口がユニークで興味を掻き立てられる書評が多く楽しめた。
第1部の<夜明けの睡魔>は、ミステリマガジンに80年から連載され、主に当時の翻訳話題作を毎回取り上げている。ラヴゼイ、ジョイス・ポーター、デクスターなどの本格派から、ニーリイ、フリーマントルまで幅広い。ヒラリー・ウォーのフェローズ署長ものをパズラーとするのは強引ですが。 第2部<昨日の睡魔>は、古典の名作を取り上げ、乱歩の呪縛を解いた客観的再評価を試みていて面白い。「そんなに傑作ですか?Yの悲劇」から始まり、各名作を容赦なく斬っているが、最後はきっちりフォローしている点に、作者のミステリ愛を感じる。 東京創元社の文庫で再読したが、早川書房編集部の何人かに感謝の言葉を述べた「あとがき」を再録しているのには笑った。 |
No.1205 | 7点 | 暗く聖なる夜- マイクル・コナリー | 2010/10/04 18:17 |
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前作「シティ・オブ・ボーンズ」でロス市警を退職したハリー・ボッシュの私立探偵としての第1作。
シリーズも9作目でマンネリ回避の意味もあると思うが、私立探偵ものということで、初めてボッシュの一人称形式になっています。 ただ、プロット自体は刑事時代のものとさほど変わらず、未解決事件の再調査の過程で予想外の真相が浮かび上がるというもの。年末各種ベストテンの上位に入った作品ですが、出来はシリーズの標準作だと思います。まあ、期待が大きすぎたのかもしれませんが。最後のエピソードはシリーズ読者にとって感涙ものではありました。 ちなみに本作下巻では、ロバート・クレイスが生み出した私立探偵エルヴィス・コールがカメオ出演するオマケの趣向があるので、お見逃しなきよう。 |
No.1204 | 6点 | 雪崩連太郎幻視行- 都筑道夫 | 2010/10/03 17:52 |
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トラベル・ライター雪崩連太郎シリーズの第1連作短編集。
地方の不思議な事象や怪奇現象を取材中に、事件に遭遇するというのが基本パターン。 事件の謎は一応解決されるのだが、最後にどこか割り切れない部分が残るという不思議な味わいがありました。怪奇小説と本格ミステリを融合したユニークな短編集。 |
No.1203 | 8点 | ゴールド・コースト- ネルソン・デミル | 2010/10/03 17:20 |
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天性のストーリー・テラーぶりが存分に発揮されたデミルの傑作のひとつだと思います。
アメリカ上流階級の古い荘園屋敷が並ぶロングアイランド北岸、ゴールド・コーストに住む弁護士夫婦の隣に、マフィアのボスが引っ越してきたところから物語が始まります。 主人公の弁護士ジョン・サッターのジョーク混じりの語り口は作者の真骨頂。一風変わった夫婦のセックスライフから、乗馬、テニス、ヨットセーリングなど上流階級の生態が映像的に描かれていて、門番夫婦をはじめ周囲の人々の存在感ある造形の確かさにも脱帽です。 隣人ベラローサが、主人公夫婦それぞれを別のアプローチでアチラの世界に取り込む手際はいかにもと思わせますね。カピッシ? サッターの一人称の語りが軽妙な分、終幕のカタストロフィがより衝撃的なものに思えました。栄枯盛衰、時代は常に移り変わるというテーマが浮かびあがってくるエンディングも素晴らしい。 |
No.1202 | 5点 | 殺意の演奏- 大谷羊太郎 | 2010/10/02 18:42 |
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芸能界ネタと密室トリックが作者のトレード・マークのようで、乱歩賞の本書も例に漏れない内容でした。
二つの密室トリックに二重構造の暗号、メタミステリのような技巧的な全体の構図まで、本格パズラーに対する並みはずれた情熱は感じましたが、筆力が伴っていないので、小説としてあまり面白いとは思えなかった。 |
No.1201 | 5点 | 二重死体- 桜田忍 | 2010/10/02 18:08 |
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著者の作品は(福田洋名義を含めて)初読み。
警備員の環視状況下におけるマンションでの墜落死がメインの謎で、主役級の大高ら所管刑事達の緻密でリアルな捜査状況はそれなりに読ませます。中盤で一つのトリックを早々に明かしておきながら、事件の様相が次々と変転していくのも面白かった。 難点は、無味乾燥の文体で登場人物に魅力が感じられないのと、真犯人の設定が反則ぎみなところ。図解入りの最初の殺人のトリックは、B級本格にふさわしいバカバカしさがある。B級でもB級なりに読む楽しみがある。 |
No.1200 | 7点 | 時をきざむ潮- 藤本泉 | 2010/10/01 19:08 |
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岩手県の海沿いの閉鎖された村を舞台にした土俗伝奇ミステリ、”エゾ共和国”シリーズの第2弾。
排他的な白蟹村近辺での連続アベック失踪事件を発端に、捜査する所轄の巡査が、最後に巻き込まれ目にする村の禁忌が最大の読みどころ。古代儀式や満潮時には沈没するある仕掛けなど、不気味な村そのものが一種の主人公になっていると思います。 ただ、本格ミステリ寄りの工夫は、かえってシリーズのテイストからずれている感じもします。 |
No.1199 | 6点 | 蝶たちは今…- 日下圭介 | 2010/10/01 18:41 |
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主人公の大学生が旅先の宿でボストンバックをすり替えられる。その中に入っていた手紙の謎を発端とするサスペンス・ミステリで、乱歩賞受賞作です。
手紙の差出人も宛名の人物も既に死んでいたという、”死者から死者への手紙”という謎はなかなか魅力的です。中盤の平板な展開と、真相が何となく察せられる技巧の拙さがありますが、フランス・ミステリを思わせる幻惑的な雰囲気は好みです。 |
No.1198 | 6点 | 的の男- 多岐川恭 | 2010/10/01 18:07 |
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成り上がりの実業家の男が7人の人物から次々と命を狙われる物語を、連作短編形式で描いたクライム小説。
それぞれのエピソードで色々な殺害方法が繰り出され、結局失敗に終わるのですが、なかにはギャグとしか思えない殺人手段があって面白い。 多少の緊迫感もありますが、一歩間違えればクライム・コメディになってしまうところを絶妙のバランスでサスペンスを醸し出しています。最後のオチはいまいちですが。 |
No.1197 | 5点 | 暗い日曜日- 仁木悦子 | 2010/10/01 17:51 |
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ミステリ短編集(角川文庫版)。
主人公(視点人物)もしくは探偵役が、仁木兄妹、三影潤、浅田悦子、小さい子供というふうにヴァラエティに富んだ構成になっていて、本格&サスペンスと作風もバランス良く分かれた作品集でした。 なかでは、本格パズラーの仁木兄妹もの「暗い日曜日」が読み応えのある力作。 |
No.1196 | 7点 | 針の誘い- 土屋隆夫 | 2010/10/01 17:37 |
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千草検事シリーズの3作目で、子供の誘拐事件と衆人環視状況での母親殺しがメインの本格編。
後者のトリックはちょっとアレですが、小さなトリックを積み重ねて真相を隠蔽する手際はなかなか巧妙だと思った。重厚ではないが、硬質な文体が誘拐ミステリの緊迫性を助長しており物語の雰囲気創りは成功していると思います。書かれた時代を考慮すれば、誘拐ミステリの佳作と言えると思います。 |
No.1195 | 5点 | 桃源遥かなり- 陳舜臣 | 2010/09/30 18:51 |
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ミステリ5編収録の短編集。
戦前・戦中の事件に中国人の主人公を絡ませた作品が多い。ミステリとしては薄味ながら、持ち味の歴史ロマンの香りが読み心地のいいものにしています。その代表例が表題作の「桃源遥かなり」で、主人公が戦前に東シナ海に浮かぶ海賊の島で過ごした過去の生活と殺人事件を回想する話。 「天山に消える」は不可能興味横溢で一番ミステリ度が高いですが、真相は少々腰砕けで物足りない。 |
No.1194 | 5点 | 男と女の探偵小説- 梶龍雄 | 2010/09/30 18:28 |
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ノン・シリーズのミステリ短編集。
後期の著者は、長編ではトリッキィなコード型本格ミステリを量産する一方、短編は浮気妻やストリッパーを探偵役にしたシリーズものの通俗ミステリが主体となりました。 本書収録作は、玉石混淆とはいえ、初期の青春ミステリのテイストもある戦時中の事件の回想もの「追憶の中の殺人」や、トリックに工夫を凝らした「イ2号館の幽霊」など、佳作もあり楽しめた。 |
No.1193 | 4点 | 前後不覚殺人事件- 都筑道夫 | 2010/09/30 18:06 |
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滝沢紅子シリーズの長編ミステリ第3弾。
メゾン多摩由良団地周辺を舞台にした集団探偵ものの軽本格ですが、今作は主人公格の紅子が不在で、残りの民雄、春江らのメンバーが四重密室殺人に挑みます。 メンバーのロンド形式で事件が語られていきますが、チャーリー・チャンやディー判事など、脱線ぎみのマニアックな海外ミステリなどの蘊蓄のみが印象に残る作品でした。 |
No.1192 | 6点 | 死体置場は空の下- 結城昌治 | 2010/09/30 17:47 |
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軽ハードボイルド連作短編集。
「わたし」ことフリーの私立探偵・佐久を主人公にして、久里十八探偵事務所から回される8つの事件を扱っています。 ミステリ的には、第1話の「死んだ依頼人」のトリッキィな構図の反転が読ませます。恐喝、誘拐、素行調査など依頼事案に殺人事件が絡むパターンを繰り返しますが、二人の軽妙なやり取りが飽きさせません。 脇役だった四谷警察署の郷原部長が、最終話で意外な活躍をするのも楽しい。 |
No.1191 | 7点 | 遠きに目ありて- 天藤真 | 2010/09/30 17:21 |
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安楽椅子探偵ものの連作短編集。
主人公は脳性麻痺による身障者の少年で、アームチェア・ディテクティヴというより車椅子探偵と呼ぶのが正しいかもしれません。仁木悦子の長編「青じろい季節」の脇役の登場人物を、了解を得て借用しています。 密室トリックやアリバイ崩しなど、5編とも本格ミステリではあるものの、ロジックの巧妙さなどは長けているとは言い難く、作者特有の牧歌的ユーモアも控えめですが、印象に残る作品集です。社会的弱者に対する暖かい眼差しは、仁木作品に通じるところがあるように思いました。 |
No.1190 | 7点 | 七人のおば- パット・マガー | 2010/09/29 18:03 |
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「被害者を捜せ!」と同趣向で”被害者当て”ミステリに再度挑んだ傑作です(犯人も不明ですが「夫殺し」と明記されているので、被害者が分かれば犯人も分かる)。
不完全な情報から過去の思い出を回想して、誰が殺されたかを模索する構成は前作と同じですが、本書の読みどころは、おば達の人物造形の絶妙な書き別けでしょう。被害者当ての興味と併せて過去のエピソード自体が楽しめる。 冒頭の友人からの手紙のあるミスリードが意外な真相に寄与している点も巧いと思いました。 |
No.1189 | 6点 | 私の愛した悪党- 多岐川恭 | 2010/09/29 17:42 |
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本書は作者の持ち味が出た軽妙なミステリで楽しめた。
20年前に誘拐された赤ん坊は三人の娘のうちの誰かという謎を縦糸にして、小悪党の詐欺師の数々の騙しの手口のエピソード、下町のラーメン屋ビルに住む人々の人間模様、誘拐事件の真相を知る人物の連続殺人と、ピカレスクからフーダニットまで色々な読みどころが盛り込まれています。 冒頭にプロローグに続いてエピローグを配する構成がユニークで、ラーメン屋の娘の一人称視点で語られる顛末に読者を引き込むことに成功していると思います。 |
No.1188 | 5点 | 赤い霧- ポール・アルテ | 2010/09/28 21:07 |
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19世紀末の英国を舞台にしたノンシリーズの歴史ミステリ。
前半部は、奇術実演中の密室殺人の謎を中心とした本格ミステリで、後半は一転、シリアルキラーもののサスペンスに変わるプロット自体は面白いと思いました。 しかしながら、ともに中身のほうは不満足。密室トリックは平凡ですし、切裂きジャックの真相も多くの先達のアイデアを超えるものではありませんでした。この設定で”あの人物”を登場させるのも食傷気味です。 |
No.1187 | 5点 | 変人島風物誌- 多岐川恭 | 2010/09/28 20:52 |
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瀬戸内海の小島を舞台にした犯人当てミステリ。
都会の生活を捨てた5組の隠棲者たちの間で発生した複数の殺人事件を、作家志望の青年の手記で綴ったオーソドックスな本格編でした。 主人公のソフトな語り口は読みやすいが、複雑な男女関係が少々わずらわしいのと、島の絵地図を見ても位置関係が分かりずらいのが難点。密室&足跡トリックのチープさは時代性を考えれば止むを得ないのかもしれません。 |