皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格/新本格 ] 私の愛した悪党 |
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多岐川恭 | 出版月: 1960年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 4件 |
講談社 1960年01月 |
宝石社 1963年01月 |
講談社 1985年09月 |
東京創元社 2000年10月 |
No.4 | 6点 | 人並由真 | 2021/09/13 07:31 |
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(ネタバレなし)
創元文庫でカップリングの『変人島』をすでに読了しているため、こちらもそろそろ片付けようという気分で読みだした。 作風は、CSの衛星劇場か日本映画専門チャンネルで、旧作・白黒の庶民派コメディ映画(雑居アパートもの)を観ているような味わい。雪さんのおっしゃる天藤真っぽいというのは、自分もまったく同感だった。 良くも悪くもミステリとして、どのくらいまで深い浅い程度のものを提示してくれるのか、終盤までまったく読めない。 だから基調のコメディ小説という感触の方に寄り添って読んだが、そういう尺度で測ると好感は持てるしつまらなくはないが、一方でどこをどう褒めるほど面白くもない、という印象であった。小林信彦くらいの戯作っぽさがあったなら、もっと話が弾んだだろうなあ。 誘拐された娘が現在は結局は誰かは、評者のような(中略)読み方をしている人間には伏線というか手がかりが明白で、すぐにわかってしまう。だからソコは表向きのミスディレクションで、もうひとひねりあるのではと期待したが。 一方で明らかに浮いた感じの殺人劇とフーダニットの方に関しては、とにもかくにも印象的ではあった。トリックの描写が段階的な部分で読み手のビジュアル志向を刺激するのは『変人島』によく似ている。 それでも読み終えてみれば、メインの若い恋人たちにはちゃんと好感とそれなりの思い入れは育まれていた。 なんか掴みどころのないというか、こちらの指の間をすり抜けていく種類の魅力が全開の一冊という感触もあるが、それこそこの作品の個性でもあろう。 |
No.3 | 7点 | 雪 | 2021/07/03 08:11 |
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流行作家・笹雪郷平氏の実の娘は果たして誰なのか? ひとり娘が赤ん坊のときに誘拐されてから二十年――。親娘の再会を巡って、隅田川の見える下町の中華料理店兼下宿屋・珍来荘に住むはたちの少女、小泉ノユリ、阿木かや子、松林緋沙子の周囲に起こる争いと殺人を人情たっぷりのコメディ風に描いた意欲作。プロローグにつづいてエピローグが冒頭にくるという、構成の妙を示したユニークなミステリー。
『虹が消える』に続き昭和35(1960)年、講談社「書下し長篇推理小説」叢書(他の執筆作は鮎川哲也『憎悪の化石』、高木彬光『死神の座』、佐野洋『脳波の誘い』など)の一冊として発表された著者の第四長篇で、同年には処女長篇以来縁のある河出書房新社から第五長篇『静かな教授』も刊行されている。『悪人の眺め』『手の上の情事』『おとなしい妻』等の各収録短篇を執筆していた頃でもある。 作品としては二部構成で、犯人サイドから描いた女児誘拐事件の経過と二十年後の笹雪親娘の対面を、匿名のプロローグ&エピローグとして一部に括り、ユニークな住人の集まるボランティア下宿・珍来荘で起こった連続殺人事件と人間ドラマの顛末を、その後に提示している。自然に物語に引き込む巧みな手法で、読者は第二部に至りプロローグの誘拐犯、遠州・カンの字・チョロはどの人物なのか、またエピローグで登場するヒロイン・笹雪藍子は三人娘の誰なのかを予想する事になる。 これまでの斜に構えた主人公から滋味のあるドラマ中心の筋立てに舵を切った作品で、コン・ゲーム紛いの小遣い稼ぎに勤しむ憎めない似顔絵描き・万代海二を初め、手品師の兼ちゃんや人相見の栗山さん、艶歌師で緋紗ちゃんの兄の省一さんや仲仕の吉さんなど、道楽半分の経営だけあって、殺人にもめげないユニークな下宿人たちの和気藹々とした交歓が描かれる。 トリックは正直大したものではないのだが、ミスディレクションの巧みさやストーリー上の工夫、そして何より下町情緒溢れる人情ものの温みが光る作品で、この描写が良いだけに一種の楽園から追放された藍子の哀愁と、最後に激しい思いを圧し殺すその切なさが身に染みてくる。初期だけに結構な濃密さを湛えた、ちょっと天藤真のミステリを想起させる佳作と言える。 |
No.2 | 5点 | 蟷螂の斧 | 2012/09/14 16:35 |
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「変人島風物詩」とカップリング。プロローグで誘拐事件が起こり、引き続きエピローグ(20年後)となる。そしてエピローグに至る経過が描かれるという構成です。ミステリー度は高くはないのですが、ユーモア(オチャラケ系ではない)があり楽しめました。 |
No.1 | 6点 | kanamori | 2010/09/29 17:42 |
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本書は作者の持ち味が出た軽妙なミステリで楽しめた。
20年前に誘拐された赤ん坊は三人の娘のうちの誰かという謎を縦糸にして、小悪党の詐欺師の数々の騙しの手口のエピソード、下町のラーメン屋ビルに住む人々の人間模様、誘拐事件の真相を知る人物の連続殺人と、ピカレスクからフーダニットまで色々な読みどころが盛り込まれています。 冒頭にプロローグに続いてエピローグを配する構成がユニークで、ラーメン屋の娘の一人称視点で語られる顛末に読者を引き込むことに成功していると思います。 |