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[ クライム/倒叙 ] 人でなしの遍歴 |
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多岐川恭 | 出版月: 1961年01月 | 平均: 5.50点 | 書評数: 2件 |
東都書房 1961年01月 |
東京創元社 2001年04月 |
No.2 | 5点 | 雪 | 2021/08/14 17:48 |
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毒殺未遂・射殺未遂・撲殺未遂と、ひと月ほどの間に三度も殺されかかった出版業喬文社社長・篠原喬一郎は、殺すならうまくやってくれと希う反面わけもわからぬまま殺されることにはやはり抵抗を覚え、誰が狙っているのかを探ろうとする。自分に恨みを持つ人間の中から候補者を選び、訪ね歩く篠原の奇妙な遍歴の幕切れは?
『お茶とプール』に続く、多岐川恭の第十二長篇。一年間に八長篇四作品集を送り出した昭和三十六(1961)年の作だが、創元推理文庫版〈あとがきに代えて〉では〈『変人島風物誌』『異郷の帆』は昨年書いたものだし、『仮面と衣裳』は中篇を書き改めたものだから、ことしの書き下ろしと言えるのは、『お茶とプール』とこの作品だけということになる。〉と謙虚。そのせいもあってか『お茶~』とある種共通する匂いを持った、その後何度も挑戦する事になる「複数の人間から同時に殺意をもたれる主人公」テーマの嚆矢となる作品に仕上がっている。 ただし最初だけあって出来はあまり良くなく、「ちょっとアンフェアかな?」という発言の通り解決も肩透かし。ミステリとして見れば不満も残る。 だが過去に陥れたり体を奪ってきた都合六人の犠牲者を訪ねる喬一郎が、卑屈さもなく残りの人生も僅かと割り切る態度で、かなり爽やかな雰囲気を醸し出しているのが妙なところ。前作主人公の香の残るこの〈臭みの無い野心家像〉が本書のキモだろうか。我利我利亡者のエゴイズム一辺倒でもなく、愛する者には真摯な誠実さを見せる類の人間で、終章では一種ヒーローめいた行動を取るのも興味深い。完成形の『的の男』などには明らかに劣るが、この著者らしい一筋縄では行かない味わいの小説である。 |
No.1 | 6点 | こう | 2009/12/13 01:03 |
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大分以前に「落ちる」の短編集を読んだことしかなかったのですが本格ミステリフラッシュバックを見て手にとってみました。「人でなしの遍歴」「静かな教授」の2長編が収録されています。「人でなしの遍歴」は何度か殺されかかった主人公が殺されるのは構わないが誰に殺されるかは知りたいと自分に恨みをもつ何人もの人間を巡礼する物語、「静かな教授」はいわゆるプロバビリティの犯罪を扱った作品でした。
そもそも「人でなしの遍歴」は本格的要素が強くなくあまり犯人が誰かということも重要ではなさそうですし「静かな教授」も当時としては珍しいであろう倒叙作品ですがあまり真新しさは感じられません。何より両作品とも緊迫した雰囲気がなくのんびりした印象がありのめりこめませんでした。 ただ不思議な味わいがありました。 |