皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.54 | 6点 | グッドナイト- 折原一 | 2024/02/10 12:40 |
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出ました! 折原お馴染みのプロット。一棟の集合住宅を舞台に、どこか頭や精神のねじ曲がった住人たちが互いにくんずほぐれつを繰り広げる・・・
本作の舞台は都内の私鉄駅から徒歩15分程度(?)、木造の古びたアパート『メゾン・ソレイユ』。さあ、折原ワールドの開幕! 単行本は2022年の発表。 ①「永遠におやすみ」=連作の頭は、どこかねじ曲がった母子の登場。読み進むうちに当然出てくる違和感。「うん?」「この息子は・・・?」。で、物語は進み、突然の殺人劇へ。で、ラストはお決まりの新聞記事。 ②「ドクロの枕」=不眠症に効くという特別装丁の豪華本。稀代のミステリー作家・梅野優作の「髑髏枕」(ドクロマクラ、ドグラ・・・ではない)。落選してばかりの作家志望の男・坂口はどうみても「倒錯のロンド」を思い出させる・・・ ③「デス・トラップ」=ラストはまさか、の展開。「201号室」はどうしていつもこんな運命になるのか・・・。そして202号室からは相変わらず「チャポーン」という滴の音が聞こえてくる。 ④「泣きやまない夜」=話は変わり、夫のDVから逃げ出した母娘が『メゾン・ソレイユ』にやってきた。それを追ってくる暴力夫。なのだが、やはり最後はお決まりの如く反転?させられて・・・ ⑤「見ざるの部屋」=大作家「梅野優作」を監禁?することに成功した梅野の大ファンの美女。物語は「監禁された男」と「それを探ろうとするルポライター」の二者の視点が交錯し、徐々によく分からん構図に・・・ ⑥「自由研究には向かない小説」=ここで、新たな主要キャストが登場(ここで?)。なんと12歳の少年。なのだが、大人なみの頭脳と鋭い洞察力を併せ持つ。彼もまた、謎の作家「梅野優作」の存在の前におかしくなっていき・・・ ⑦「ラストメッセージ」=連作の最終話。ということは当然種明かしとなるべきなのに・・・なってません! いや、なってるのか? これが真相というのならばだが・・・ 以上6編+1で構成される連作短編集。 すみません。私は好きです。 いや、むしろ待ってました。こんな、折原成分全開の「折原ワールド」ミステリーを! 「天井裏の散歩者」シリーズ、「グランドマンション」と連なる、「ある集合住宅に住む、おかしな住人たちが繰り広げる滅茶苦茶な折原ワールド」シリーズ(そういう呼び方をしたくなる)の続編なのか? やはり、このシリーズ?にも一定の需要はあるっていうことだな。 もうこれは、私がどうのこうのいう作品ではありません。折原名人による「伝統芸能」とでもいうべき世界。 もちろん、「まったく楽しめない」「なんだ、こりゃ?」「つまらん」「いい加減にしろ!」などという感想を持つ方もいらっしゃるでしょう。(むしろそれが太宗かも) そういう方は、どうぞ壁に投げつけてください。(本作にも出てくるように、芳香剤を染み込ませて枕にする手も) しかし、もう令和ですよ、202x年ですよ!大丈夫ですか、編集者の方? 出版社の方? もしも正気ならば、また続編を出してください。絶対読みますから。 ただ、作者の加齢が心配。やっぱり、本作にもそこは滲み出ている。仕方ないことではあるが・・・ |
No.53 | 6点 | 双生児- 折原一 | 2022/08/06 11:51 |
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今さら「双子トリック」メインのミステリー?
タイトルだけからすると、そう思ってしまうのだけど、そこは折原一だから・・・。きっと作者らしい仕掛けがあるに違いない(多分) 2017年の発表。 ~安奈は自分にそっくりな女性を街で見かけた。それが奇怪な出来事の始まりだった。後日、探し人のチラシが届き、そこには安奈と瓜二つの顔が描かれていた。掲載の電話番号にかけるとつながったのは・・・。さつきは養護施設で育ち、謎の援助者「足長仮面」のお陰で今まで暮らしてきた。突如、施設に不穏なチラシが届く。そこにはさつきと瓜二つの女性の顔が描かれていて・・・。<双生児ダーク・サスペンス>~ これはかなりな「竜頭蛇尾」ではないか? 散々&長々と読者を引っ張ってきて、メイントリックが「双子」ではなく「〇〇子」だなんて・・・。読者もさすがに気付いていたけど、まさかその程度のオチじゃないよね、って思ってた。 でも、このエピローグ。もはや、作者も引っ張りすぎてギブアップしてしまったような投げやり感。それはいただけない気がした。 途中までは良かったのだ。いかにも折原って感じで、昔の調子よかった頃の作品の風合いに似ていて、「一体どんな仕掛けなんだろう?」って期待させてた。 折原の面白い作品っていうのは、どこか捻じ曲がった登場人物たちが、途中からもはや作者の手を離れたかのように縦横無尽に大暴れしているような感覚。読者にとっては「もう、どうなってるの?」とでも叫びたくなるような感じ、とでも表現すべきか。それでも、ラストには一定のオチや収束が図られ、ミステリーとしての体裁を保っている。 こんな感じなんだけど、本作はうーん。最初に触れたとおり、竜頭蛇尾だ。 「双子トリック」を持ち出すっていうのもなぁー。当然、先例を逆手に取るという方向性しかないのだけど、これでは逆手に取り切れてないと思う。 ただ、プロットとしては決して悪くはなかったのだ(と信じたい)。こういう手の作品に慣れてない読者なら、まずまず引き込める程度の面白さはある。 ただ、如何せん、折原作品を読み込んできた一ファンとしては、どうしても高評価するわけにはいかない。登場人物と同様、こちらの感覚も捻じ曲がりすぎているのかもしれない。 |
No.52 | 4点 | 傍聴者- 折原一 | 2021/10/02 09:11 |
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文藝春秋社で折原といえば、そう、足掛け20年以上も続く「~者」シリーズである。
六年ぶりの最新刊となる今回のタイトルは「傍聴者」ということで、当然裁判絡みのお話となる。そして、下敷きとなった現実の事件は例のあの「毒婦」の事件だろう・・・。2020年の発表。 ~交際相手に金品を貢がせ、練炭自殺に見せかけて殺害した牧村花音。平凡な容姿の彼女になぜ男たちは騙されたのか。友人を殺されたジャーナリスト・池尻淳之介は、真相を探るべく花音に近づくが・・・。彼女の裁判は「花音劇場」と化し、傍聴に通う女性たちは「毒っ子倶楽部」を結成、花音は果たして毒婦か?聖女か?~ ウィキペディアによると、「~者」シリーズは本作で第14作目とのことである。 並べてみると、①「毒殺者」(1992)②「誘拐者」(1995)③「愛読者」(1996)④「漂流者」(1996)⑤「遭難者」(1997)⑥「冤罪者」(1997)⑦「失踪者」(1998)⑧「沈黙者」(2001)⑨「行方不明者」(2006)⑩「逃亡者」(2009)⑪「追悼者」(2010)⑫「潜伏者」(2012)⑬「侵入者」(2014)⑭「傍聴者」(2020)、となる。(※但し、①③は当初別タイトルで発表され、後で改題されたもの) いやいや、よく続いたもんだねぇ・・・。数多のミステリー作品が量産される昨今、こんなに長きに亘って愛されてきた(?)シリーズも珍しいのではないか。 新聞の三面記事に取り上げられるような現実の事件を題材に取り、うだつの上がらないノンフィクションライターが、事件の真相を探るうち、まるで底なし沼に絡めとられるように、事件そして関係者の渦に巻き込まれていく・・・。同じようなプロットを使いながらも、作者の卓越した叙述トリックのバリエーションで読者を手玉に取っていく。 何よりも、「現実」と「虚構」の狭間をうまい具合にぼかしながら、読者に「一体なにが起こっているのか?」という思いを抱かせ、頁をめくる手を止めさせない技術。こんなのは折原にしか書けない、いや書こうとしないジャンルだと感じる。 個人的ベストは世評も高い⑥かなぁー。改題された①③はともかく、初期の作品は叙述トリックにも新鮮味があって、「驚き」のレベルも高かったように思う。まぁどうしても後半にいくほど、プロットにも無理矢理感が出てくるのはやむを得ないところだろう。 えっ!? 本作の評価は!って? まぁ・・・いいじゃないですか。作者の六年間の想い、いや苦悩を表すかのような出来、というところでしょうか。 ハッキリ言えば、『ネタ切れ』なんでしょう。でも、そんな私の感想を裏切るべく、15作目が発表されることを祈っております。(何年かかるかな?) |
No.51 | 5点 | 死仮面- 折原一 | 2019/12/04 21:57 |
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作者の趣味嗜好が色濃く出た長編(だと思う)。
文藝春秋社で折原というと、長らく続いている「・・・者」シリーズなのだが、新しい展開なのだろうか? 2016年の発表。 ~突然、死んだ夫は名前も職業もすべてが嘘だった。真実を求めて、妻の雅代は彼の遺した小説を読み進める。そこには奇妙な連続少年失踪事件が描かれていた。ストーカー化した前夫の影に怯えながらも、雅代は一軒の洋館に辿り着く。何が現実で、何が虚構か? 折原ワールド全開の長編小説~ うーん。やっぱりネタ切れなのかな、という思いを強くした作品だった。 今まで散々目にした折原作品の焼き直しと評すればいいのか、何とか面白くなるエッセンスだけは込めましたというのは分かるのだが、如何せん2019年時点では古臭さが目に付いてしまう。 (これも折原を読み過ぎのせいかもしれないが・・・) プロットとしては紹介文のとおりで、「現実」と「虚構」を交互に描きながらも、徐々に両者の境目をボヤかしていき、やがてはどっちがどっちか分からなくさせる手法・・・とでも言えばいいのか。 まぁ、今までも作者が手を変え品を変え取り組んできた趣向ではある。 慣れていない読者だと、作品世界に酔うということもあるのかもしれない。(私は酔いませんでしたが・・・) 一応、ミステリーという体裁をとっている以上、ラストには現実的な解決を付けようとしているのだが、これがまた大変に微妙。 それほど多くない主要登場人物の配役というか、立ち位置が次から次へと変わるため、どうにも混乱してしまうのだ。 混乱させることが狙いなら、作者の企みは成功しているのかもしれないけど、そういう狙いではないだろう。 今回は雰囲気自体安っぽいホラームービーのようだった。 巻末解説では横溝正史の同名作品や「ドグラ・マグラ」などの影響という点に触れてるけど、それもネタギレゆえの苦肉の策かなと思えてしまう。 ・・・どうにも辛口の評価しか出てこないなぁー。たまにはガラリと作風を変えた作品を読んでみたいという気もするけど、これはこれで折原の長所というところもあるから難しいねえ。 |
No.50 | 5点 | 帝王、死すべし- 折原一 | 2019/05/19 11:23 |
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ノンシリーズの長編。
タイトルはE.クイーン後期作品を想起させますが、内容等含めて一切関係なし。 2011年の発表。 ~息子・輝久の日記を盗み見た野原実は衝撃を受けた。『てるくはのる』日記には赤裸々ないじめの告白があったのだ。服の下の無数のミミズ腫れ。中心にいるらしい「帝王」とは誰か? 夜の公園で繰り返される襲撃事件。息子は学校を大混乱させることを考えているらしい・・・。叙述トリックの名手が用意した驚倒の結末とは?~ 本作は1999年、京都市伏見区で起こった実在の『てるくはのる』事件が下敷きとなっている。 これまでの折原作品でも実在の事件がモチーフになっている作品は多いので、まぁ“いつもの手”ということ。 作中で「日記」が多用されるのも、もはやお約束という感じだ。 いつもながら、読んでるうち訳が分からなくなるストーリーなのだが、本作は主に①「帝王」の正体、②「てるくはのら」事件の犯人、③いじめ問題の真相、の三つのエピソードが複雑に絡み合いながら進行していく。 そして、やっぱり登場する“ねじ曲がった“(或いはねじ曲がっていく)人たち。 主役である野原実・輝久親子はもちろん、妻・娘。そしてノンフィクションライターの男、クラスメートたち、担任教師etc いったい誰がまともで、誰が狂っているのか、見極めがつかないまま終章になだれ込んでいく。 そしてラスト。これが果たして「驚倒」というレベルなのかは別として、ここでようやくタイトルの真の意味が分かる仕掛けになっている。 で、数々の折原作品を読了してきた私の評価は・・・「中の下」。 作品全体を貫くプロット或いは仕掛けが、「○王の○○」に集約されてしまうとしたら、途中さんざん付き合わされてきたエピソードの数々はなんだったの?っていう感想になってしまう。 もしかして、これって「スカシ芸」なのか? 読者に「○○だけかよ!」って突っ込まれたいだけ? っていうことまで邪推してしまう。 まぁ、他の方の評価がおしなべて低いのもやむなしでしょう。 さすがの折原もネタ切れか? ファン(?)としては心配だな。 (これが折原作品ちょうど50冊目の書評だったのだが・・・失敗したな) |
No.49 | 5点 | 侵入者 自称小説家- 折原一 | 2018/09/11 21:13 |
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かれこれ二十年以上続いている「○○者」シリーズ。
実際にあった事件を元にしている本シリーズだが、今回はあの超有名未解決事件「世田谷一家殺人事件」がモチーフ。 2014年の発表。 ~クリスマスの朝、発見された一家四人の惨殺死体。迷宮入りが囁かれるなか、遺族は“自称小説家”の塚田慎也に調査を依頼する。彼が書いた同じく未解決の資産家夫婦殺人事件のルポを読んだという遺族。ふたつの事件の奇妙な共通点が浮かび上がり、塚田は「真相」に近づくため、遺族を出演者とした再現劇の脚本を書き始めるのだが・・・~ う~ん。 「これは随分とっちらかってるなぁー」って思いながら読んでいた。 最近の作者の作品にまま見られるんだけど、登場人物たちが作品のなかで自分勝手に動き出して、それを作者も黙認しているとでも表現すればいいのか・・・ 作者も妄想してるし、登場人物も妄想してるしで、こうなると読者は「一体、今って地の文なのか、妄想世界なのか、どっち?」って、ふわふわしてしまうのだ。 ちょっと前までの作品なら、それでもラストが近づくとそれなりに現実感のある解決に向かっていたのだが、本作はただ曖昧なままラストを迎えることになる。 こうなると、もはや「これはなに?」っていう感覚だ。 (「ピエロ」も「百舌の早贄」も引っ張りすぎ!) 現実の事件をベースにルポライターが事件を追いながら、徐々に現実と虚構の境目を捻じ曲げていく・・・という本シリーズの基本プロットももうそろそろ限界ということか。 よく読めば、今までの作品のプロットの寄せ集めということもできるし。 (「再現劇」も過去にあったしなぁ) まぁとにかく駄作ということだ。 せっかく「世田谷一家殺人事件」という破格の大物を出してきたんだから、もうちょっとやりようがあったのではないか? それでもファンとしては、出ればまた手に取るんだろうね・・・ |
No.48 | 5点 | 赤い森- 折原一 | 2016/11/08 22:18 |
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2010年に発表された長編、と言うべきか、“ツギハギ”作品と言うべきか・・・
「黒い森」という作品が先行して発表されているが、直接的なつながりはない。 ~「あの家で何が起こったのか、実際のところ誰も知らないんだ・・・」。樹海の入口に立つ民宿の主人は、客の反応を窺いながら満足げにうなずいた。森の奥深くにある山荘で起こったとされる一家惨殺事件。その真相を知ろうと足を踏み入れた者が遺した「遭難記」。謎に惹かれ、また新たな若者が森の奥へと招かれた・・・。迷いと惑い、恐怖が錯綜する驚愕のダークミステリー~ 本作は祥伝社の400円文庫として刊行された「樹海伝説~騙しの森へ」と「鬼頭家の惨劇~忌まわしき森へ」の二作をそれぞれ章立てとし、新たな書き下ろしである「第三章」を加えてひとつなぎとした形式。 「樹海」をめぐるリドルストーリーという共通項はあるものの、どうだろうな・・・やっぱり無理矢理つなげた感は否めないかな。 「盛り上げ方」はいかにも折原っぽい。 一見して狂った人物や、実は狂っている人物が次から次へと主人公たちを恐怖に追い込んでいく。 読者の期待もそれに従っていやがうえにも高まっていく・・・ これでミステリー的に納得感のあるオチが付けられれば「良作」という評価になるのだけど、本作ではそのようなオチは用意されていなかった。 これをリドルストーリーとして好意的に捉えるか、「なんじゃこりゃ? オチがないじゃん!」って捉えるかは読み手次第。 (まぁ一応オチらしきものはあるのだが・・・) 折原ファンの私としては、「まぁこれも折原らしいかな・・・」というような感想になる。 これだけの作品数を誇る作家なのだから、全作品が素晴らしいということにはならないだろう。 まずまず、という評価でいいのではないか? かなり甘めですが・・・ (文庫版のP.403~406がツボ! 相当こわい) |
No.47 | 6点 | グランドマンション- 折原一 | 2016/02/21 17:48 |
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2013年発表の連作短篇集。
(単行本化に当たって、「リセット」「エピローグ」の新章を加え、長編or連作形式にまとめたとのこと・・・) 「グランドマンション1号館」という集合住宅を舞台に相変わらずの折原ワールド全開となるのか?? ①「音の正体」=子供の跳ね回る音や赤ちゃんの泣き声etc・・・上階の騒音に悩まされる独り身の男。折原作品によく出てくるちょっと精神の歪んだ独身男なのだが、その男が右往左往した結果行き着いたところは・・・最後に反転! ②「304号室の女」=過去の折原に似たようなタイトルの短編があったけど、それとはちょっとテイストの異なるもの(過去のはホラー風味だったような・・・)。まっ、でもたいしたことはない。 ③「善意の第三者」=本作の主要登場人物のひとりとなる「民生委員を務める男=高田英治」が繰り広げるドタバタ劇の一編。いかにも折原らしいラストのツイスト感・・・っていう感じだ。 ④「時の穴」=急に密室殺人(じゃなくて密室窃盗)がテーマとなる一編。しかし、変わった人物ばかりが住んでるマンションだわ。 ⑤「懐かしい声」=タイトルどおり(?)「オレオレ詐欺」がテーマとなる一編。高齢者が多く暮らす「グランドマンション1号館」でオレオレ詐欺の被害者が続出するなか、容疑者らしき若者を追い詰めたところ・・・意外や意外・・・という展開。 ⑥「心の旅路」=ここまで来て新たな登場人物に纏わる話。これは時間軸をずらすというよくある叙述の手なのだが、さすがに折原がやると手馴れている感が半端ない。 ⑦「リセット」=追加された一編。八十代も半ばを過ぎ、ついに恍惚の状態に陥った老婆。元気で矍鑠としていたはずが、毎日毎日同じ質問を住人に繰り返すハメに・・・当然そこにはある仕掛けが・・・ってそれは分かるよ! 折原好きなら! ※エピローグ=ということでラストのオチ! 以上7編+α いやいや、これは旧タイプ折原作品。 とある集合住宅を舞台に住人たちが繰り広げるドタバタ劇というと、「天井裏の散歩者~幸福荘殺人日記」(1993)を思い出してしまうけど、プロットの軸は今回も同ベクトル。 それぞれの登場人物は一人としてまともではなく、それぞれどこかねじ曲がってるわけで、彼らが勝手に動き回るストーリーを名指揮者よろしく作者が最後にまとめあげる・・・という技なのだ。 まぁ小粒ではあるなぁー。 でも安心して楽しめる連作短編には仕上がってると思う。この手の作品が好きな方には十分お勧め。 (ある意味名人芸という域だと思うのだが・・・) |
No.46 | 7点 | 潜伏者- 折原一 | 2015/10/12 18:07 |
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「~者」シリーズも重ねてもう・・・第何作目だ!?
正直なとこ、何作目か分からないほど続いている本シリーズ。大いなるワンパターンなのか、はたまた作者のライフワークと言えるシリーズに育ったのか?(どちらか分からん??) 2012年発表。今回は1979年から90年にかけ北関東で発生した四件の幼女誘拐殺人事件がモチーフとなっている。 ~若手のルポライター・笹尾時彦は、新人賞の下読みのバイトで奇妙な原稿に遭遇した。「堀田守男氏の手」と題された原稿は、どうやら北関東でつぎつぎに起きた少女失踪事件を題材にしているようなのだ。興味をそそられた笹尾は、パートナーの百合子とともに調査に乗り出した。容疑者、被害者家族、そして謎の小説家の思惑が交錯するとき、新たな悲劇の幕が開く!~ 今回は感心した! いきなりこう書くと、「いったい何だ!?」と思われそうだが、読了後そう思ってしまった。 ノンフィクションライターの主人公が事件を追っていくうちに、登場人物たちの泥沼の人間関係に翻弄され、いつの間にか叙述トリックの術中に嵌っている・・・ 「~者」シリーズを超簡単に説明するとこんな基本プロットなのだが、ここまでシリーズが続いていく中で、読者を飽きさせない新機軸というか、新たな“見せ方”を提供している。 (ではどこが新機軸かと問われると困るのだが・・・) しかしまぁ、このシリーズの登場人物たちは・・・ 特に本作では、途中からもう、『勝手にひとりひとりが動き出して、しっちゃかめっちゃかに暴れだす・・・』という表現がピッタリ。 ここまで複雑に入り組んだプロットもそうないだろう。 (一人二役ではなく、○人○役なのが本作の白眉か?) 「潜伏者」の正体が実は・・・というプロットもさすがに旨い! 今回拘ったであろうフーダニットについては「どうかなぁ??」という気がしないでもないが(確かに分かりやすいしね)、全般的には作者の円熟した“腕前”が十分に味わえる良作だと感じた。 縛りのあるプロットのなかで、何とか工夫していこうとする作者の「拘り」に今後も期待したい。 どうも判官びいきのような評価になってしまったけど、やっぱり「折原好き」なんだなと感じた次第。 きっと次作も北関東で事件は起こるんだろうな・・・ |
No.45 | 6点 | 仮面劇- 折原一 | 2015/01/11 21:09 |
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1992年に発表された本作(「仮面劇~MASQUE」)。
今回、文藝春秋社が「~者シリーズ」として「毒殺者」のタイトルへ改題し再刊行。 「仮面劇」では既読なのだが、改題に当たって直しが入っているとのこと・・・ ~妻に五千万円の保険金をかけたMの殺人は大成功のはずだった。だが、謎の脅迫者の電話に悩まされることになる・・・。一方、五千万円の保険金をかけられた妻は夫の行動に不信を抱いた。もしかして・・・? どんでん返しにつぐドンデン返し。実際の事件に想を得た「・・・者」シリーズの原点となった「仮面劇」を改訂改題して復刊~ 比較的初期の折原らしいテイストを感じる作品。 この頃は生真面目に叙述トリックに取り組んでいたよなぁーということを強く感じた。 (この生真面目さが吉と出るか凶と出るかが問題なのだが・・・) ただ、佳作レベルの作品に比べると叙述の切れ味は今ひとつという印象。 三章立てになっており、さらに「入れ子」構造となっているのが最後に判明するのだが、この「入れ子」が全く活かされていないのだ。 ということで、読者が「あっ」と思わされるのはラスト近くのワンセンテンスのみ。 ただし、この仕掛けも伏線があからさまな分、ちょっとサプライズ感に欠けるんだよなぁー 本作が過去に起こった「トリカブト殺人事件」に発想を得ているのは周知の通り(?)。 まぁ「・・・者」シリーズは全て新聞社会面のB級ニュースに着想を得ているのだが、巻末解説でその辺に作者が触れているのが興味深かった。 ただ、「冤罪者」「失踪者」頃のクオリティが徐々に落ちている感が強いので、そろそろ「これぞ折原!」という作品を期待したい。 (やっぱり「仮面劇」というタイトルの方がベターだと思うけどなぁ・・・) |
No.44 | 4点 | クラスルーム- 折原一 | 2014/06/15 14:16 |
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理論社のミステリーYAシリーズとして発表され、前作「タイムカプセル」の姉妹作品的位置付け。
「タイムカプセル」は埼玉県立栗橋北中学三年A組の物語で、本作は三年B組の物語。 相変わらずの折原ワールド全開の長編作品。 ~栗橋北中三年B組は恐怖に支配されていた。竹刀を手放さない暴力教師・桜木慎二。優等生とワルとが手を組んで、夏の夜、桜木を懲らしめようと呼び出した同じ教室で、十年後、夜のクラス会が開かれるという。だが案内状の差出人・長谷川達彦を知る者はいない。苦い思い出の校舎で明かされる驚くべき真相とは!?~ これは・・・今まで何度も読んできた「折原作品」だ。 日本推理作家協会賞受賞作で作者の代表作とも言える「沈黙の教室」。そしてその姉妹作が「暗闇の教室」。 今回はそのジュブナイル版的位置付けとして、「タイムカプセル」と本作「クラスルーム」が発表されたというわけ。 確かに本作のキープロットとして登場する「肝試し」は、「暗闇の教室」でも重要な設定として出てきていたし、前作「タイムカプセル」の登場人物も一部登場するなど、同じ作品世界を共有している(らしい)。 まぁそんなことはいいのだが、いかんせんプロットに捻りがないのが致命傷。 一応、ラストには常識的な解決が用意されているのだけど、それがあまりにも「とってつけた」ような感じがして肩透かし。 せっかく「肝試し」を出してきて、ホラー要素を加えていたのに、この真相では「お笑い系」にしか思えないのだ。 ジュブナイルだから・・・といえばそれまでだけど、もうそろそろネタ切れなのかも・・・ 本作は登場人物のキャラも中途半端で印象に残らないのがなおイケない。 ということで、批判ばかりになってしまったけれど、折原ファンであれば「お付き合い」程度でも一読はしなければ・・・(なんて寛容!) 最近低調な作品が続いているので、そろそろ新機軸のプロットを一発披露して欲しい (前作との比較なら、まだ「タイムカプセル」の方が読める感じ・・・) |
No.43 | 5点 | チェーンレター- 折原一 | 2014/02/24 22:23 |
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2001年に別ペンネームの『青沼静也』名義で発表された本作。
角川ホラー文庫へ収録される際、『折原一』名義で晴れて(?)出版されることになった模様・・・ (出版社側の事情なんだろうなぁ) ~「これは棒の手紙です。この手紙をあなたのところで止めると必ず棒が訪れます。二日以内に同じ文面の手紙を・・・」。水原千絵は妹から奇妙な「不幸の手紙」を受け取った。それが恐怖の始まりだった。千絵は同じ文面の手紙を妹と別の四人に送ったが、手紙を止めた者が棒で撲殺されてしまう。そしてまた彼女のもとへ同じ文面の手紙が届く。過去の「不幸」が形を変えて増殖し、繰り返し恐怖を運んでくる。戦慄の連鎖は果たして止められるのか?~ ちょっと中途半端かな・・・と思わせた作品。 「棒」ってなに?って多くの方が疑問に感じるだろうが、要は「不幸」という字を崩していくと「棒」になったというような意味。 ただし、振り返ると「棒」がいるっていう景色は、確かにシュールな怖さがある。 ホラー文庫とはなっているけどホラー色は薄く、同じ折原の「・・・者」シリーズに似たようなプロットの作品になっている。 「ああそうだったのか・・・」と思いきや、また別の疑問と恐怖が訪れる・・・という展開。 ただ、ミステリーとしての仕掛けは単純というか、他の作品と比較しても小粒だし、サプライズ感はない。 まぁ「叙述」をそれほど前面に出さないで発表したのだろうから、致し方ないのかもね。 ということで、前述のとおり中途半端という評価になってしまう。 チェーンレターというテーマ自体もやや安直。 他の折原作品と比べても高い評価は無理かな。 (「青沼静也」はもちろん「犬神家の一族」のアノ人物を意識している。でもこれは、明らかに「折原」って分かるよなぁ・・・) |
No.42 | 6点 | 追悼者- 折原一 | 2013/08/25 13:58 |
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文藝春秋社で折原といえば・・・かれこれ10年以上続けて新作が発表され続けている「○○者」シリーズ。
というわけで、今回は現実に起きた「東電OL殺人事件」をモチーフとした、その名も「追悼者」。 主人公が”売れないノンフィクション・ライター”という設定は拘りなのでしょうか? ~東京・浅草の古びたアパートで絞殺された女性が発見された。昼間は大手旅行代理店の有能な美人OL、夜は場末で男を誘う女・・・。被害者の二重生活に世間は注目した。しかし、ルポライター・笹尾時彦は彼女の生い立ちを調べるうち、周辺で奇妙な事件が頻発していたことに気付く。「騙りの魔術師」が贈る究極のミステリー~ 世間的な評価は他のシリーズ作品と比べて高いようなのだが・・・ 処女作品以来、数多く作者の作品に接している身としては、「並み」という評価になるなぁ。 とにかく既視感アリアリなのだ。 インタビュー記事や手紙などをプロットの軸に据え、主人公のノンフィクションライターが事件関係者の過去や周囲をほじくっていく、という展開は、これはもう「○○者シリーズ」の定番。 そして、次第に主人公の周囲に怪しい事件が頻発するようになり、謎の人物が次々に登場してくる。混沌とした中盤を経て、「これどうなってるの?」と思ってるうちに、終盤~ラストで鮮やかにひっくり返される・・・ これもいつもの流れだ。 本作では、OLを殺した真犯人探しのほかに、彼女自身の正体までもが謎の中心にあり、読者は最後まで作者の罠に引きずり回されることになる。 こう書くと、何だか褒めてるような、すごく面白いようにも思える。 でもなぁ、全体的な(叙述)トリックの出来栄えは「やや小粒」って感じではないか。 ある登場人物に仕掛けられた「○○」なども、面白いとは思うが、これってどこかに伏線が撒かれていたのか? 何となく風呂敷を大きく広げた割には、回収したモノは少なかったように思える。 中盤の冗長さもやや気になった(これも本シリーズの特徴ではあるが)。 同シリーズ作品でいえば、個人的には「冤罪者」「逃亡者」あたりの方が上とみた。 でも、さすがにまとまっていて、水準以上の面白さはあると思う。 (残るは「潜伏者」か・・・) |
No.41 | 6点 | 逃亡者- 折原一 | 2013/03/19 23:55 |
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文藝春秋社で折原といえば、「・・・者」シリーズというわけで、本作で果たして何作目なのでしょうか?
(それだけ長らくご愛顧いただいているということなのでしょう) 2009年発表の作品。 ~同僚だった女性に持ちかけられた交換殺人の提案にのり、一面識もないその夫を殺した罪で逮捕された友竹智恵子。だが、警察の不手際から逃走に成功した彼女は、整形手術で顔を造り変え、身分を偽り、逃亡を続ける。時効の壁は15年。DVの夫、そして警察による執念の追跡から、智恵子は逃げ切ることができるのか?~ なかなかの大作だが、大筋は「いつもの折原作品」という読後感。 紹介文のとおりで、本作は実際に起こった『松山ホステス殺人事件』とその被告だった福田和子をモデルとしている。 「一章:追われる者」から「三章:霧の町」までは、警察の手から逃走した智恵子が新潟~青森~庄原(広島県北部の小都市だよ)と逃げ場所を求め転々としていく様が切々と描かれる。 「この展開いつまで続くんだ?」とか「叙述トリックはどうした?」と思っていると、「五章:最後の旅」から一転。 新たな登場人物が現れ、徐々に話が混迷していく・・・ ここまで来ると、いつもの折原ワールドに突入。 精神が捻じ曲がったような人物が入れ替わり立ち替わり、物語のなかで暴れまわる。 ただ、ラストはサプライズといえばサプライズだが、他の佳作と比べれば予定調和というレベルだと思う。 (何となく、過去の作品のアレとアレをくっつけたような気がしたのだが・・・) まぁでも、それほど悪くない水準かな。 ちょっと長すぎるのは玉に疵だが、読者を引き込む力というのはそろそろ円熟の域に達してきたのかもしれない。 時間のあるときに一気読みすることをお勧めします。 (今回は馴染みのある地名がいろいろ出てきたなぁ・・・) |
No.40 | 5点 | タイムカプセル- 折原一 | 2012/12/20 22:17 |
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理論社の「ミステリーYA!」シリーズの第1回配本の1つとして出されたのが本作。
このシリーズ自体、あまり馴染みがないのですが、どうやら(?)ジュブナイル向けの作品のようです。 ~栗橋北中学校三年A組の有志8人が埋めたタイムカプセル。誰も会ったことのない不登校の生徒・不破勇の小説もその中にあった。10年後、メンバーたちに「選ばれ死君たち」宛ての不気味な案内状が届く。卒業式に出られなかった石原綾香は、当時のメンバーと会うが、ある言葉を聞くとなぜか誰もが口を閉ざす。そしてタイムカプセルの開封の日が訪れる・・・~ いつもの折原作品。しかも「良くない方の」・・・。 これでは、「沈黙の教室」(日本推理協会賞受賞の作表作!)の焼き直しと言われても仕方がない。 しかも、ジュブナイル向けのせいか、若干デフォルメされてる(「怖さ」も中途半端)。 そして、極めつけが「不破勇」の謎! こりゃ、単なるおフザケだろう!(冒頭の卒業式のシーンが伏線になってるところは思わず笑ってしまった) プロットそのものは悪くないんじゃかないかと思うんだよなぁ。 「タイムカプセル」といういかにもノスタルジックな存在。それ自体がそもそも「秘密めいた存在」だし、過去の甘酸っぱいような記憶まで内包しているようなものだし・・・ ただ、本作はそれがあまり生かされてないということに尽きる。 加えて、オチが中途半端で既視感ありあり。 などと、さんざんケチをつけてまいりましたし、折原作品のなかでも評価は下位ということになるでしょう。 (袋とじの意味は殆どないと思うんだけど・・・) |
No.39 | 4点 | 望湖荘の殺人- 折原一 | 2012/10/21 21:27 |
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1994年発表。ノンシリーズ長編(黒星警部シリーズと勘違いしてた・・・)。
作者得意の叙述トリック系作品とは一味違う味わいなのだが・・・。 ~大型家電量販店の経営者・二宮大蔵に毒の塗られた剃刀と殺人予告の脅迫状が届いた。いったい誰が? 大蔵はある人物の協力を得て容疑者を5人に絞り、信州の山荘パーティーに招待した。目的は殺人者の抹殺! 大型台風が山荘を襲った夜、招待客が次々に死んでいく。生き残るのは誰だ。結末が最終ページまで分からない本格推理~ プロットが煮詰まらないまま出版しました、っていう感じ。 作者の初期作品なら、叙述トリック全開の作品か黒星警部を主人公とするお笑い系パロディミステリーのどちらかという気がしてたのだが、本作はそのどちらにも属さないのが珍しい。 でも、最後まで読んでると、「どっかで読んだことあるような・・・?」という感覚だったのだが・・・ CC(クローズド・サークル)で動機の分からないまま登場人物が次々殺されていくという展開は、西村京太郎「殺しの双曲線」を思わせる。 ただなぁ、終盤~ラストがショボイ。 予期せぬ登場人物の闖入というのはある程度予測されていたし、死者が生き返るというようなプロットにも緊張感がないので成功しているとは言い難い。 如何せん、要は「やっつけ仕事」というような読後感が拭えないのだ。 最終章に全てをひっくり返すかのような記述があるが、これは蛇足だろう。 まぁ作者のコアなファンでなければスルーしてもOKという評価。 |
No.38 | 7点 | 漂流者- 折原一 | 2012/07/31 21:21 |
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文春文庫で折原といえばこの「~者」シリーズ。
本作はもともと「セーラ号の謎」というのがメインタイトルだったが、サブタイトルだった「漂流者」を正タイトルとして文庫化。 ~妻と担当編集者の3人でダイビングに出掛けた人気推理作家・風間春樹。潜水中の事故で助けを求めたが、不倫関係にあった2人に見捨てられる。風間は流れ着いた島から自力で無人ヨットに辿り着いたが・・・。航海日誌、口述テープ、新聞記事等に仕組まれた恐るべき騙しのプロットとは? 叙述ミステリーの傑作長編~ なかなかの力作ではある。 映画「シーラ号の謎」をメインのバックボーンに据え、N・ブレイク「野獣死すべし」さらにはA.クリスティ「そして誰もいなくなった」までもモチーフに加えるというところが、いかにも折原らしい。 ミステリーファンなら「ニヤリ」とするようなプロットだが、普通の作家なら消化不良を起こしかねないように思うが、そこはさすが! 終盤に向かうにつれて、徐々に混迷の度合いを増していく複雑なプロットをうまい具合に処理している。 まぁ、折原を読み慣れた読者なら、それ程のサプライズは感じないかもしれないが、ヒネリ具合は他作品と比べても高いレベルではないか? 最終章(エピローグ)を前に事件の構図が明かされるが、最初は別々だったはずの2つの大きな流れが徐々に絡み合い、もつれていくところが読者の眼前で展開されるが、実はその裏で巧妙な叙述トリックが仕掛けられているのだ。 この辺りは、ちょうど脂の乗った頃の作品ということだろう。 難を言えば、詰め込み過ぎたためにやや中途半端になっているところか。 あとは、ある人物に仕掛けられた「欺瞞」なのだが、これはちょっと卑怯な気がする。ネタバレになるが、○田○と□原はかなり人物像が違うはずなのだが・・・(「それくらい気付けよ!」ってことなのかな?) トータルで評価すれば、折原作品としては「中の上」というのが妥当な線。 |
No.37 | 8点 | 水底の殺意- 折原一 | 2012/05/27 21:37 |
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旧タイトル「水底の殺意」。1993年発表の作者初期の作品。
いかにも「折原」という“凝った”プロットが味わえる。今回、久々に再読。 ~「次はお前だ!」 恐怖の「殺人リスト」に、また一人の名前が記された。会社のコピー室に置き忘れられた1通の書類から始まった連続殺人事件。つぎつぎにリストに加えられる名前。しかもその通りに殺人が起こる。密かにせせら笑っている真犯人とは誰か? 折原トリックの魔術が最後の最後まで読者を欺き続ける傑作サスペンス~ これは好きだ。 折原ほど、「佳作」と「駄作」がはっきりしている作家も珍しいと思うが、本作は「佳作」に当たるという評価。 とにかくプロットがよく練られている。 本作は「殺人リスト」という小道具が存分に生かされていて、読者はこの殺人リストにきりきり舞いさせられること請け合い。 リストに加えられる人物が章ごとに視点人物として登場し、折原作品らしく“彼(彼女)らが”勝手に動き回るところが実に面白い。 なぜ「殺人リスト」が何種類も登場するのか、という謎についても、ラストできれいに解き明かされており、ミステリーとしても十分に合格点が与えられる内容だと思う。 それに加えて、本作はリーダビリティも十分。グイグイとストーリーに引き込まれます。 ラストのドンデン返し(?)が少しショボイというところが弱点かなぁ・・・ (蛇足かも) その辺りがきれいにまとめられていたら、素晴らしい作品になっていたかも。 とにかく、軽い気持ちで十分に楽しめる作品でしょう。 (ちょっと誉めすぎかも・・・) |
No.36 | 3点 | 黄色館の秘密- 折原一 | 2012/02/26 14:17 |
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1998年発表の黒星警部シリーズ。
黒星警部をはじめ、部下の竹内刑事や葉山虹子といった、いつものドタバタメンバーが今回もなぜか集結(?) ~実業家の阿久津又造一家が住む「黄色館」は、世界の珍品を集めた秘法館でもある。ところが、犯罪集団「爆盗団」から純金製の黄金仮面を盗むとの予告が! そこへのこのこ現れた密室マニア・黒星光警部。黄金仮面が宙を舞い、密室で人が死ぬ世紀の怪事件を見事なまでに掻き回す。犯人は一体誰なんだ?~ 相変わらずバカなシリーズです。 「~者」シリーズの重く、シリアスな作風とは大違い。ひたすら軽く、ひたすらおちゃらけたストーリー。 ジョークの分かる人しか読まない方が賢明でしょう。 一応「密室殺人」が出てきますが、正直怒り出したくなるレベルのトリックというか解法。 タイトルは古の名作「黄色い部屋の謎」をもじってるのですが、パロディにもなってない。 まぁ、いいんですけどね。最初からまともなトリックなんか期待してませんから・・・ 黒星警部は基本的に真相を複雑に捻じ曲げる役割ですから、最初から黒星警部の推理を無視すれば、簡単に真相に辿り着ける。 ただ、今回の「竹内刑事登場」のくだりはどうですかねぇ? 思わず脱力感に陥ってしまいました。 マトモなミステリーに飽きた方以外はスルーしても全然OK。 (「模倣密室」以来、新作の出ない本シリーズですが・・・やっぱり不評なのかな?) |
No.35 | 8点 | 覆面作家- 折原一 | 2012/01/15 15:19 |
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初期の「叙述トリック全開!」作品。
実に折原らしい、折原にしか書けないストーリー&トリック。 ~顔に白頭巾をかぶって、ひたすらワープロを打ち続ける男。行方不明だった推理作家・西田操は7年振りに帰還して長編「覆面作家」の執筆に取り掛かった。それが、憎悪と殺意の渦巻く事件の発端だった。劇中の小説と現実が激しく交錯し、読者を夢魔の世界に誘い込む。真相は覆面作家だけが知っている・・・~ これは好きだなぁ・・・ 今回再読なのだが、こういう作品を読んだことがきっかけで「折原好き」になったんだよねぇ・・・ 当初、立風書房から出た単行本の帯には、「化けの皮は何枚被っているのか?」というコピーが付いていたらしいのですが、まさにこの言葉がピッタリ。 2人(?)の「覆面作家」が織りなす作品世界が徐々に歪んでいき、「いったいこの話は何重構造なのか?」と思わされてしまう。 ここで終わると「メタミステリー」っぽくなるが、本作は一応の合理的解決が付けられるところがミソ。 もちろん、かなりこじつけっぽいところはあるにはあるが、こんな奇想天外な話にオチを付けるだけでも十分満足。 さらに、ラストに2度ほどひっくり返されるが、そこはやや蛇足気味かな・・・ まぁ、もちろん「嫌いな人は嫌い」だとは思いますが、シャレの分かる方には十分お勧めできる作品かと思います。 (「覆面作家」って、モデルはやっぱり北○ ○氏のことなのかな?) |