皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.452 | 9点 | 私が彼を殺した- 東野圭吾 | 2011/04/15 23:08 |
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加賀刑事シリーズ第5弾。
「どちらかが彼女を殺した」に続く、"最後まで犯人の名前が明かされない”究極のフーダニット! ~婚約中の男性の自宅に突然現れた1人の女性。男に裏切られたことを知った彼女は服毒自殺を図った。男は自分との関わりを隠そうとする。醜い愛憎の果て、殺人は起こった。容疑者は3人。事件の鍵は女が残した毒入りカプセルとその行方~ いやぁ、これはスゴイ作品ですね。 「どちらかが・・・」にもかなり感心させられましたが、今回はそれ以上。 前回の「三人称一視点」から、「一人称一視点」に変わったことも、読者をさらに煙に巻く効果を発揮しているようです。 加賀刑事シリーズには何かしら毎回感心させられてますが、今回の「毒入りカプセル」の推理もかなりのもの。 毒入りカプセルを被害者に仕掛ける機会ばかりを考えているところへ、「○○物」自体の伏線まで張られていたとは・・・(袋綴じ解説を読んで初めて気付いた) ネタバレサイトもいくつか閲覧したため、一応真犯人については理解しましたが、個人的にはもうちょっと飛躍して考えてたので、やや拍子抜け感はありますけど・・・ とにかく、ミステリー作家としての作者の「腕」の確かさを改めて感じることのできる「必読の書」という評価で間違いなし。 (そんなに短いわけでもないのに、あっという間に読了してしまいました。さすが東野圭吾・・・) |
No.451 | 6点 | バラ迷宮- 二階堂黎人 | 2011/04/15 23:05 |
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二階堂蘭子シリーズの作品集。
第1作品集「ユリ迷宮」に続く第2弾です。 ①「サーカスの怪人」=人間大砲というのがかなり血生臭い。こういう奇術的トリックは作者の得意技ですね。 ②「変装の家」=トリック自体は普通。「盲目」の人物が出てきた時点で想像がつく。 ③「喰顔鬼」=ホラーじみた話だが、真相には特に捻りがなかった・・・ ④「ある蒐集家の死」=ダイニング・メッセージもの。推理クイズのようなストーリー&プロット。なんかスッキリしないなぁ・・・ ⑤「火炎の魔」=ある化学物質を使えば人間を簡単に焼死させられる・・・ということ。 ⑥「薔薇の家の殺人」=フーダニットについては読み応えあり。最後の捻りもなかなか効いている。まあまあの秀作。 以上6編。 蘭子シリーズとしてはちょっと喰い足りないような印象。やっぱり長編向きの探偵&シリーズだと思います。 クドイくらい大時代的で、薀蓄やドロドロした展開で、というんじゃないと満足できない! これぞファン心理。 (⑥はなかなか面白い。他はどれも今ひとつの出来ですねぇ) |
No.450 | 8点 | 幻の女- ウィリアム・アイリッシュ | 2011/04/10 21:43 |
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450冊目の書評は、サスペンス界の巨匠が贈る不朽の名作で。
「ファントム・レディ」の追走劇がNYの街を舞台に繰り広げられます。 ~1人街を彷徨っていた男は、奇妙な帽子をかぶった女に出会った。彼は気晴らしにその女を誘い、自宅に帰ると喧嘩別れした妻の絞殺死体を発見してしまう。刻々と迫る死刑執行の日、彼のアリバイを証明してくれる唯一の目撃者"幻の女”はどこにいるのか?~ さすがに「不朽の名作」と冠されるだけはあります。 事件の日以降姿を消してしまった「幻の女」の謎、そして幻の女を追い掛ける中で、次々と消されていく関係者の謎・・・読者の煽り方がうまいですね。 そして、ラストの大ドンデン返しはサプライス感たっぷり! ○○○○の言動は確かに不自然なんですよねぇ・・・「謎」の部分が、そのまま「仕掛け」に直結しているわけで、読者は「なるほどねぇ」と思わされるわけです。(ちょっと分かりにくい書き方ですけど・・・) もちろん、論理的にみておかしなところはいろいろ目に付きます。 特に、「真犯人が危険を冒してそこまでやるか?」というのは感じるところですし、単に買収しただけですから、警察関係者が少しでも疑問を持てば、犯人側の目論見が瓦解するのは明らかなわけで、かなり結果オーライな計画には違いありません。 ただ、本作にそういう目線は不必要でしょう。 ロジックなんて脇に置いといて、「小説」としての何ともいえない雰囲気や香りを楽しむべき作品だと思います。 本作のほかにも、氏の作品に多大なる影響を受けた作家は大勢いるでしょうし、そういう意味も含めて、”敬意を表すべき作品”という評価で間違いなし! (「夜は若く、彼も若かった。夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」・・・確かに名フレーズかも) |
No.449 | 7点 | ソロモンの犬- 道尾秀介 | 2011/04/10 21:35 |
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ごく初期に書かれた青春3部作の1つ。
作者に対する個人的なイメージとは真反対の爽やか系ミステリー。 ~秋内たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい助教授に相談に行く。そして、予想不可能な結末が・・・~ これは、「予想外」に面白かった! そんな大したトリックやら、叙述的仕掛けがあるわけじゃないですが(多少はありますけど)、なぜか引き込まれるものがある・・・そんな作品。 特に「犬」の生態に関してはなかなか興味深かったですね。 「事故」に付随して起こった「犬」の不可思議な行動・・・それを動物生態学から解き明かしていくというのも割りと新鮮な感じがしました。 「叙述系のトリック」はちょっと上滑りしているかなぁー いわゆる「○○オチ」に近いので、ちょっとレベルが低い気がする・・・ フーダニットもややいただけない。ラストまでに真犯人の情報がなさすぎるためちょっと唐突。 というような欠点も垣間見えますが、トータルでは十分お薦めできる水準の作品かと思います。 後味も爽やか・・・ (こんなウブな大学生、今どきいるのかな?) |
No.448 | 8点 | 幸福荘の秘密―新・天井裏の散歩者- 折原一 | 2011/04/10 21:32 |
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「天井裏の散歩者」の続編。
前作と共通する登場人物が"ハチャメチャ”に暴れる・・・妙な連作短編集。 ~偉大な推理作家を慕い、多くの推理作家の卵たちが集まったかつての「幸福荘」を訪れた"わたし”は、花束を抱えた怪しい女性を目撃。その直後、1枚のフロッピーを手に入れた・・・~ ①「密室の奇術師」=オチは脱力系。ただ、盛り上げ方はさすが・・・ ②「後ろを見るな」=まさに「折原トリックの王道」といえば登場人物が途中で気絶させられるパターン。 ③「最後の一人」=一人称の「僕」の正体は? これも折原叙述トリックの王道。 ④「作者の死」=またも"魔性の女”登場(前作にも登場する例の彼女)。③のオチがつくが、またしても脱力系。 ⑤「ファンメール」=さすがにここまでくると、オチは途中で想像できる。 ⑥「実作者」=クドいほど畳み掛けられる「叙述トリック」・・・慣れない読者は、「いったいどういうこと?」と思わされるでしょう。 ⑦「パラレルワールド」=まさにタイトルどおりのパラレルワールド。折原好きなら、これで最後のオチは想像がつくはず。 ⑧「幸福荘の秘密」=最後の最後でまたしても脱力系のオチとは・・・こんなネタでここまで引っ張る作者の「心意気」に拍手。 以上8部に分かれてますが、連作短編というよりは、変格の長編という方が合っているかもしれません。 まぁ、これは「バカミス」ですよねぇ・・・でも、好きだなあ・・・これ。 折原ファン以外の方が読んだら怒り出すかもしれませんが、こんな遊び心たっぷりの作品、そう滅多にお目にかかれないような気がします。 (細かいアラ探しは禁物。ひたすら作品世界を楽しみましょう) |
No.447 | 6点 | 密室に向かって撃て!- 東川篤哉 | 2011/04/05 22:52 |
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烏賊川市シリーズの第2弾。
「謎解きはディナーの後で」で超意外なブレイクを果たした作者が贈る「お笑い系本格」ミステリーです。 ~烏賊川市警の失態で持ち逃げされた拳銃が次々と事件を引き起こす。ホームレス射殺事件、そして烏賊川市きっての名家の屋敷では一人娘の花婿候補の1人が銃弾に倒れる。花婿候補3人の調査を行っていた名探偵鵜飼は、弟子の流平とともに密室殺人の謎に挑む~ う~ん。相変わらず"お笑い系ミステリー”が冴えてます。 今回は、衆人環視の準密室で起こる殺人事件の謎がメインテーマ。 ただ、サプライズがあるかと思っていた真犯人については、意外なほど「普通」・・・ 「銃弾の数」がアリバイトリックの鍵となるわけですが、ちょっと強引というか、現実味が薄いのが気になるところ。先に起こったホームレスの事件や「肉」の件も、必要性あるんですかねぇ? 伏線にしたかったのは分かりますが、これもちょっと現実性が薄い・・・ まぁ、分かりやすいといえば、分かりやすいと思いますので、鵜飼よりも先に真相解明も十分可能ではないでしょうか。 本格ファンにも「お笑い系」ファンもある程度満足できる作品かとは思います。 (しかし、これほどブレイクするとは、まさかねぇ・・・) |
No.446 | 5点 | 髑髏城- ジョン・ディクスン・カー | 2011/04/05 22:50 |
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アンリ・バンコランシリーズの3作目。
ガチガチの本格好きの読者が泣いて喜ぶような設定&仕掛けで一杯の作品。 ~ライン河畔に聳える古城、髑髏城。その城主であった稀代の魔術師が謎の死をとげてから十数年。今また現在の城主が火だるまになって城壁から転落する事件が起きた。この謎に挑むのは、ベルリン警察のフォン・アルンハイム男爵と宿命のライバル、アンリ・バンコラン~ この紹介文を読めば、期待せずにはいられませんよねぇ・・・ 河畔に聳え立つ2つの謎多き古城、不審な死を遂げた魔術師、火だるまで落下する死体、独仏2人の名探偵対決・・・etc いったいどんなオチを付けてくれるのかという期待を一心に読み進めましたが、結論は「裏切られた」の一言。 もったいぶって、こんな大層な設定を持ち出すほどのトリック&プロットではありませんでした。ロジックが薄弱すぎ。 名探偵対決も意味あるんですかねぇ? 本作にインスパイアされ書かれた、加賀美雅之の「双月城の惨劇」や二階堂の「人狼城の恐怖」のインパクトがあまりにも大きいため、悪い部分だけが目立ってしまったところもあるかもしれません。 まぁ、カー&ガチガチ本格好きの方ならいいけど、それ以外の方にはちょっと・・・っていう評価です。 (バンコランものは初読ですが、やっぱり中期以降の良作の比ではない感じ・・・) |
No.445 | 5点 | チルドレン- 伊坂幸太郎 | 2011/04/05 22:48 |
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"変な男”陣内や全盲の男、永瀬らを主人公とする連作短編集。
相変わらずの「伊坂ワールド」で、独特のストーリーが紡がれます。 ①「バンク」=タイトルどおり、銀行強盗の話。この話で、陣内・鴨居と永瀬・ベスが出会う。それで、結局強盗は狂言だったのかどうか分からぬままなんですけど・・・ ②「チルドレン」=①から12年後の話。家裁の調査員となった陣内と一人の少年が織り成す不思議なストーリー。で、結局何が言いたい? ③「レトリーバー」=ゴールデン・レトーリーバーの本当の意味は「・・・」。真相はミステリーっぽいオチになってます。 ④「チルドレンⅡ」=ラストのライブハウスのシーンが印象的ですが、「それは非現実的でしょう?」って感じ。 ⑤「イン」=これもよく分からない話。要は、全盲なんて全然関係ないじゃん!ってことを言いたいのか? 以上、5編。 作者自身、「短編の形をした長編」と解説しているとおり、年代を行ったり来たりしながら、変な男「陣内」を中心として、ほんわかしたストーリーが続きます。 決して嫌いではないのですが、本作については、さすがに「ちょっと・・・」っていうほど方向性のはっきりしない雰囲気のため、高い評価はしにくいよねぇ・・・ (作者の作品のほとんどは仙台が舞台となってますが、今回の大震災がどのように影響するのかちょっと心配・・・) |
No.444 | 7点 | 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン | 2011/03/30 23:18 |
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ゾロ目444番目の書評はこの作品で。
伝説のSF大作。読み応えありです。 ~月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後5万年を経過していることが分かった。果たして、現在の人類とのつながりはあるのか? やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された~ さすが、前評判にたがわぬ面白さ。ハードSFという取っ付きにくさを通り越して、グイグイ引き込まれました。 壮大な謎、ミステリーですよねぇ・・・ 月面で発見された5万年前の「人間」は、何と現代の人類以上の科学力を有していますし、木星の衛星で発見された宇宙船はさらに太古のもの・・・ 現代の常識ではまったく計り知れない事実ですし、真相も実に面白い。 類人猿とホモ・サピエンスとのミッシング・リンクという大いなる謎にも、1つの解答を示しています。(本当にそうならロマンチックですねぇ) 文章は何だか科学論文を読んでる感じがして、読みにくさは感じますが、たまには、宇宙や人類のルーツといった壮大なミステリーに触れてみるのもいいのではないでしょうか? (この作品の舞台は21世紀半ば頃で、すでに宇宙旅行が当たり前になっているという設定になってます。しかし、現実は原子力の制御に四苦八苦しているのが現実なわけで・・・) |
No.443 | 7点 | 闇の底- 薬丸岳 | 2011/03/30 23:15 |
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乱歩賞受賞後の長編第2弾。
今回のテーマは「性犯罪」・・・ ~子供への性犯罪が起こるたびにかつて同様の罪を犯した前歴者が殺される。卑劣な犯行を、殺人で抑止しようとする処刑人サンソン。犯人を追う刑事、長瀬。そして、過去のある事件が2人を結びつけ、前代未聞の劇場型犯罪は新たな局面を迎える~ 処女長編「天使のナイフ」でも感じたことですが、この作者は盛り上げ方がウマイ。 結末に向かって「ドキドキ感」がどんどん高まっていくというのは、ミステリー作品にとって非常に重要なことだと思います。 途中で「いかにも」というダミーの容疑者が想起されるように書かれてますが、これは「きっとミスリードだろう」と思いながら読み進める・・・じゃあ誰がサンソン? というドキドキ感がたまりません。 真相はサプライズ感十分なのですが、今回はラストが割りとあっさり書かれてるのがちょっと残念。 いずれにしても、読み応えは十分の佳作という評価でいいでしょう。 (重いテーマですが、その辺はあまり気にならず・・・一気読みできます) |
No.442 | 5点 | 親不孝通りディテクティブ- 北森鴻 | 2011/03/30 23:13 |
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鴨志田鉄樹と根岸球太の通称カモ・ネギコンビが博多を舞台に暴れる(?)連作短編集。
氏の作品には、「おいしい食べ物」がつきものですが、今回はカクテルの薀蓄が満載。 ①「セブンス・ヘブン」=結婚紹介所で知り合った理想の夫婦が心中してしまった理由は? 結構強引な結末。 ②「地下街のロビンソン」=テッキ(鉄樹)が頼まれた人探し。それがあらぬ方向へ・・・ ③「夏のおでかけ」=のんびりしたタイトルですが、これも「偶然」があらぬ結果へ・・・ ④「ハードラック・ナイト」=少女売春絡みの話。「今どきの高校生は・・・」って感想になっちゃいますね。 ⑤「親不孝通りディテクティブ」=まさに"親不孝通り”で起こった事件。ありがちと言えばありがち。 ⑥「センチメンタル・ドライバー」=2人の高校時代の宿敵が登場。ラストはつらい結果に・・・ 以上6編。 凸凹コンビが身の回りで起こるちょっとハードな事件を解決していくストーリー・・・どっかで読んだことあるなぁというプロットが多いような気がします。 全体的にはハードボイルドとしても喰い足りず、純粋な謎解きとしても喰い足りないですね。 博多弁(「・・・たい」「よかろうもん」)もちょっとウルサイ感じ・・・(博多出身の方、すみません!) (軽~い気持ちで読むのが向いてます) |
No.441 | 7点 | 恐怖の谷- アーサー・コナン・ドイル | 2011/03/26 23:11 |
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S.ホームズもの最後の長編。
ストーリーは「現在の事件」と「過去の回想」の2部構成。 ~モリアティ教授の組織にいる人物から届いた暗号文。その謎を見事に解いたホームズだが、問題の人物はすでに館で殺されていた。奇怪な状況の殺人を捜査する謎解き部分と、事件の背景となったアメリカの「恐怖の谷」におけるスリルとアクションに満ちた物語の2部構成による長編作品~ いやぁ、前評判どおりで、ホームズものの長編4作品の中では抜群に面白い! ホームズもの長編の代表作といえば、今まで「バスカヴィルの魔犬」かと思ってましたが、それは大きな間違いでしょう。 他の方の書評にもありましたが、第一部で起こる現在の殺人事件については、正直たいしたことない。ラストで若干アッと思わされるくらい・・・ ということで、本当に面白いのは第2部。 「緋色の研究」や「四つの署名」も同じような2部構成でしたが、いわゆる「事件の背景」部分は付録的な位置付けに近い感じでした。でも本作は面白いよ。 何だか、昔のB級洋画のような雰囲気なのですが、ラストはなかなか唸らされること請け合いです。 コンパクトなところもGood! (モリアティ教授を持ち出す必要性はほとんど感じませんでした。まぁ、作者のサービス精神ってところですかね?) |
No.440 | 6点 | ネジ式ザゼツキー- 島田荘司 | 2011/03/26 23:09 |
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御手洗潔シリーズの超長編。
プロット的には「眩暈」に似た感じですね。(ただ、「眩暈」よりは落ちる) ~記憶に傷害を持つ男、エゴン・マーカットが書いた物語。そこには、蜜柑の木の上の国、ネジ式の関節を持つ妖精、人工筋肉で羽ばたく飛行機などが描かれていた。ミタライがそのファンタジーを読んだとき、エゴンの過去と物語に隠された驚愕の真実が浮かび上がる・・・~ 相変わらずの「島田節」が炸裂!っていうところでしょうか。 とにかく、一見しただけでは「ありえない」「単なるファンタジー」でしかないと思われたストーリーが、御手洗のロジックで解き明かされる快感! ただ、そのロジックはいつものとおり「偶然の連続」で起こったという奴・・・ だったら、正直「何でもありじゃん」と思ってしまいますが、そこは他の作家とはスケールが違うわけです。 結局最後には「すごいねぇ・・・」と思わされてしまいます。 特に、今回は「ネジ」にすっかり騙されました。そりゃそうですよねぇ・・・単純に考えれば、そういう「カラクリ」になってるのは自明なのに、他があまりに突拍子ないため、それには気付かない・・・んですねぇ。 まぁ、島田節に酔いたい貴方にはお薦めの一冊です。 (ページ数の割にはスイスイ読めました。) |
No.439 | 6点 | アイルランドの薔薇- 石持浅海 | 2011/03/26 23:07 |
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作者のデビュー長編。
本格ミステリーにアイルランド問題を絡めた硬派な作品です。 ~南北アイルランドの統一を謳う武装勢力NCFの副議長が、スライゴーの宿屋で何者かに殺された。宿泊客は8人、そこには正体不明の殺し屋が紛れこんでいた。やはり犯人は殺し屋なのか? 宿泊客の1人、日本人科学者フジの推理が「隠されていた殺意」を炙り出していく~ 古くから南北が激しく対立しているアイルランドという土地、警察が介入できない隔絶されたB&B(宿屋)というクローズド・サークル・・・作者らしさは、デビュー作から健在って言わんばかりの特殊設定下で殺人事件が発生します。 フーダニットで言えば、真犯人はやや意外、殺し屋は「いかにも!」という感想でした。 まぁ、たいへん丁寧かつ生真面目に作りこまれたストーリー&プロットですし、アイルランド問題という政治的なトピックを使ってうまい具合にミスリードさせている辺りは「さすが」と思わせます。 ただ、評価としては「可もなく不可もなく+α」というレベルでしょうか。 (探偵役のフジについては、あまりデータが示されなかったので、最後に何か企みでもあるのかと思いきや、何もなくスルー・・・だったら、単発で終わらせず再登板してもらいたいですねぇー・・・なかなか魅力的な造形なので) |
No.438 | 7点 | 鬼流殺生祭- 貫井徳郎 | 2011/03/21 01:14 |
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九条&朱芳シリーズの第1作。
明治維新から数年たった東京を舞台とする本格ミステリーです。 ~維新の騒擾燻る帝都東京の武家屋敷で青年軍人が殺された。被害者の友人で公家の三男坊、九条惟親は事件解決を依頼されるが、容疑者・動機・殺害方法、すべて不明。調査が進むほどに謎は深まるばかり。困惑した九条は博学の友人、朱芳慶尚に助けを求める~ 呪われた血を持った大家族の旧家、「雪密室」、バラバラ死体など、本作はいわゆる「コード型ミステリー」の条件を1つ1つ踏まえた作りになってます。 ただし、フーダニット&ハウダニットについてはかなり評価が分かれるでしょうねぇ。この真相に行き着くにはロジックだけでは不可能でしょうから・・・ まぁ、それをカバーするためのホワイダニットなのでしょう。 真犯人は、「如何にも犯人らしい」人物なので読者も気付きやすいでしょうし、「裏の真犯人」とでも言うべき人物もまぁ想定内・・・ こういった「血の呪い」系のストーリーは、横溝や二階堂黎人などが得意とする分野ですし、既視感はどうしても感じてしまいます。本作の隠れキーワードになっている「○○○○○」についても、最初から伏線は見え隠れしてましたので、「やっぱりそうか」という感じでした。 まぁ、こういうコード型は好き嫌いがはっきり分かれるでしょうが、個人的にはストライクですね。ただ、二階堂氏らに比べるとどうしても迫力不足なのは否めないかなぁ。 (こういう作品は古い時代設定が似合いますね。本作も例に洩れずで、その辺の雰囲気はなかなかいいものを持った作品だと思います。) |
No.437 | 5点 | アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン | 2011/03/21 01:12 |
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国名シリーズ第6作。
2万人の観客が見守るなか、ロデオのスターが銃殺されるというド派手な事件の謎をエラリーが追及します。 ~NYのスポーツの殿堂でロデオが行われていた。40人のカウボーイが拳銃を片手に荒馬を操りトラックを駆け巡る。一斉に銃声がとどろく・・・その瞬間、先頭に立つロデオ・スターの体が馬上から転げ落ちた。2万人の大観衆が見守る中で、犯人は如何にして犯行を成し遂げ、凶器を隠せたのか?~ 今回の謎は、フーダニットのほか、密閉された競技場というクローズド・サークルから忽然と姿を消した凶器(22口径)について・・・ ということは、変格の「密室モノ」という見方もできるわけですが、その真相はかなり強引というか、「そんなこと!」というようなもの・・・ (2万人の観客やロデオの関係者に対して、さんざん凶器探しをさせられたクイーン警視の立場はどうなる?) フーダニットの方も、「ご都合主義」と揶揄されてもしようがないかもしれませんねぇ。「読者への挑戦」の中で、「ハリウッドへの手紙」云々という記述をわざわざ入れているのが伏線になってるのが、唯一納得させられたくらいです。 まぁ、ロジック的にはそれほど変ではないような気はするんですが、舞台設定がちょっと難しすぎたような気がします。(なぜ、こんな場所で殺人を起こしたのかが納得いかない) 他の良作に比べて評価が低くなるのも仕方ないかなという感じ。 (エラリーが最初から○○○に気付いていたというのは驚き。いかにそれが推理の帰結とはいえ、いきなりそんな結論になるかなぁ?) |
No.436 | 6点 | 聯愁殺- 西澤保彦 | 2011/03/21 01:09 |
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(引き続き、ミステリーを楽しむことのできる喜びを噛み締めながら・・・)
ノンシリーズ。 なかなか手の込んだ面白い手法を盛り込んでいる作品。 ~大晦日の夜。連続無差別殺人事件の唯一の生存者である梢絵を囲んで推理集団「恋謎会」の面々が集まった。4年前、彼女はなぜ襲われたのか、犯人は今どこにいるのか。ミステリー作家や元刑事などのメンバーが様々な推理を繰り広げるものの・・・~という粗筋。 前半から中盤に渡って繰り広げられる推理合戦は、バークリーの名作「毒入りチョコレート事件」を完全に意識したプロット&展開のように見えます。 しかしながら、真相&ラストは、本家とは異なっていて、ある明確な回答が示される。(それがサプライズ!) フェアかアンフェアかと聞かれれば、確かに後出しジャンケン的なところもあるため、アンフェアな気はしますが、これはこれでプロットの妙という見方もできるのでは? 冒頭部分もうまい具合に「効いて」おり、サプライズ感を増す結果に。 ただ、この真相なら、果たして途中の推理合戦にそれほど意味があるのかという気がしないでもないところが「ちょっと気になります」かねぇ・・・ まぁでも、現代ミステリーらしい切れ味とテクニックを感じられる佳作っていう評価でいいでしょう。 (ラストは割りとブラックなオチ。あと登場人物の名前がややこしくてなかなか覚えにくい・・・) |
No.435 | 7点 | 邪馬台国はどこですか?- 鯨統一郎 | 2011/03/19 14:53 |
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作者のデビュー連作短編集。
日本史・世界史で馴染みの深い題材について、「アッ」と驚く解法を見せてくれます。 ①「悟りを開いたのはいつですか?」=ブッダ(釈迦)は本当に悟りを開いたのかという謎。ブッダは想像よりも実に人間くさい人物だったんでしょうか? ②「邪馬台国はどこですか?」=本作の白眉。邪馬台国は「北九州」か「畿内」にあったというのが定説ですが、作者(宮田)が主張するのは、「邪馬台国東北説!」。でも「そうかもしれない」と思わされてしまう。邪馬台国は大いなるミステリーですねぇ・・・ ③「聖徳太子はだれですか?」=これも大胆な仮説。「聖徳太子=推古天皇=蘇我馬子説!」。まぁ、聖徳太子が架空の人物というのは割りによく目にする説ですが、ここまで大胆な説だと面白い。藤原不比等ってホント歴史上のフィクサーですねぇ・・・ ④「謀反の動機はなんですか?」=これは「本能寺の変」がなぜ起こったのかという謎。作者(宮田)の回答は「信長の○○」・・・ドラマ等の影響で、信長といえば「豪快な英傑」というイメージですが、これを読むとイメージが一変しちゃいます。 ⑤「維新が起きたのはなぜですか?」=明治維新の謎。確かにいろいろおかしなことが多いんですよねぇ・・・これもある一人の人物の暗躍があったからという説。でも「○○術」には驚いた。 ⑥「奇跡はどのようになされたのですか?」=イエス・キリスト復活の謎。この辺の宗教絡みはアレルギーのある分野ですが、分かりやすく解説されていて頭にスッと入ってきました。 以上6編。 歴史好きにとってはたいへん面白いテーマが並んでます。(本当のマニアの方にはレベルが低いのかもしれませんが) どれも、現在の通説が虚構にすぎず、ちょっと角度を変えて見れば、こんな見方ができるんだということですよね。なかなか面白い! やっぱり、歴史って「大いなるミステリー」ということを改めて感じさせられました。 (やっぱり、②がベストでしょう。③や④、①も興味深い) |
No.434 | 6点 | 能面殺人事件- 高木彬光 | 2011/03/19 14:51 |
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処女作「刺青殺人事件」に続く作者の第2長篇。
神津恭介ではなく、作者自身を探偵役として登場させるなど、凝った作りになっています。 ~資産家の当主が、寝室に置かれた安楽椅子で死んでいた。現場は完全な密室状態で、死体には外傷がなかった。傍らには呪いを宿すという鬼女の能面が残され、室内にはジャスミンの香りが妖しく漂っていた~ 「古きよきミステリー」というべきガジェット満載の作品ですが、いろいろと問題点を含む作品のようです。 「密室」については、ほぼ完全無欠な密室ですが、トリックがやや分かりにくい。「回転窓」というのはどういう窓? 殺害方法については、あとがきで作者も反論を試みてますが、やや化学的論拠を欠いているというのは事実のようです。 そして、一番の問題点は例の「アクロイド的手法」・・・まぁ、冒頭から叙述的トリックを仕掛ける雰囲気をプンプンさせてますから、ラストのドンデン返しは想定内ですが、探偵役が都合3人入れ替わるのはちょっと分かりにくいプロット。 というわけで、評価が分かれる作品ですが、全体的な雰囲気やプロットそのものは個人的に好みの範疇ですし、十分楽しめました。 今回、光文社の復刻版で読みましたが、同時集録されてる短編の方がむしろ出来のいい作品のような気がします。 「第三の解答」=ポーの名作「盗まれた手紙」に載せたプロットが面白い。 「大鴉」="顔のない死体”もの。 |
No.433 | 6点 | 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー | 2011/03/19 14:48 |
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(今こうしてミステリーを味わえる喜びを噛みしめながら、書評を考えてます・・・)
フェル博士の初登場作品。 カーらしい怪奇趣味に溢れた雰囲気が味わえます。 ~チャターハム牢獄の長官を務めるスタバース家の者は、代々首の骨を折って死ぬという伝説があった。この伝説を裏付けるかのように、今しも相続を終えた長子マルティンが謎の死をとげた。『魔女の隠れ家』と呼ばれる絞首台に不気味に漂う苦悩と疑惑と死の影・・・~ 不気味な伝説や舞台設定、小道具がオカルティズムを盛り上げており、何ともいえないカーらしい作風です。 ほとんどの登場人物にアリバイが成立するなかで、唯一アリバイがなく、いかにもダミーの犯人らしい登場人物は最後に○○・・・ アリバイ崩しについては、要は使い古されたトリックですが、それを作者特有の怪奇趣味でうまい具合にコーティングしてあるため、読者に見えづらくなってる、ということですよね。その辺は割と単純です。 「暗号」についてもそんなに捻りはなく、恐らくイギリス人だったら苦労せず解けるだろうレベル・・・ まぁ、カー全盛期の始まりともいうべき作品ですし、トータルの出来としては悪くないでしょう。「カー入門編」としてはいいかもしれません。 (フェル博士初登場作のためか、博士の人となりが割りとよく紹介されてるのが興味深い。それにしても、カーの怪奇趣味とは相容れない「天真爛漫な性格」ですねぇ・・・) |