皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1862件 |
No.682 | 7点 | 検死審問 インクエスト- パーシヴァル・ワイルド | 2012/05/02 23:31 |
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江戸川乱歩が1935年以降のベストテンのひとつとして挙げたことで知られる、古典的名作。
作者のワイルドはミステリー作家というよりは、劇作家として著名な人物。 ~『これより読者諸氏に披露いたすのは、尊敬すべき検死官リー・スローカム閣下による、初めての検死審問の記録である。コネチカットの小村にある女流作家・ベネットの屋敷で起きた死亡事件の真相とは?陪審員諸君と同じく、証人たちの語る一語一句に注意して、真実を見破られたい』・・・達意の文章から滲む上質のユーモアと鮮やかな謎解きを同時に味わえる本書は、ワイルドが余技にものした長編ミステリーである~ 1940年という発表年を考えると、たいへん斬新で面白い切り口の作品だと評したい。 劇作家が本職の作者ならではなのかもしれないが、とにかく登場人物たちが生き生きと描かれ、その人たちが発する言葉の1つ1つで性格や考え方が手に取るように分かるようになっている。 そして、何より秀逸なのが「構成の妙」だろう。 一見すると、全く関係のない身の上話や想い出話をしているようにしか思えない場面が続くのだが、後で読むと実は伏線が仕掛けられていたことが分かる・・・というのが何とも心憎い。 (個人的には、ある登場人物に対する見方が、前半と後半で全く異なっていることに違和感を抱き続けてきたのだが・・・やっぱりそこには仕掛けがあった!) 殺人事件の謎そのものはたいしたことはなく、死亡推定時間やそれに伴うアリバイといった通常の捜査手順はまったく踏まないという異例の展開。 その辺り、ロジックやトリックこそミステリーの醍醐味という読者にとっては、やや消化不良になる作品かもしれないが、さすがに乱歩が激賞しただけのことはある、というのがトータルの感想。 (ギャグのセンスも時代を考えるとなかなかのもの。ニヤッと笑わされるところが多い。) |
No.681 | 6点 | 奇談蒐集家- 太田忠司 | 2012/04/28 22:16 |
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街中のとあるバーを訪れると、不可思議な実話を求める「奇談蒐集家」とその助手が待ち受けている・・・
奇談を語る人物と、奇談を一刀両断する不思議な助手が織り成す連作短編集。 ①「自分の影に刺された男」=最初の奇談は、昔から自分の影に怯えていた男が、ある日本当に影に背中を刺されてしまう・・・というもの(?) 謎自体は魅力的だが解決は実にアッサリ。 ②「古道具屋の姫君」=商店街の骨董屋に置いていた「姿見」の中に映された美少女。男は姿見の中の美少女を手に入れるため、姿見を高額で買ってしまう。こうやって書くだけで真相は見え見えのような気はするが・・・ ③「不器用な魔術師」=舞台はパリ。奇談の話し手は、パリに修行に来ていた若き女性シャンソン歌手。彼女は自分を魔術師だと言う男に出会う。そして、彼女のアパートが火事で焼け、隣室の女性が死に至る事件が起きたとき・・・これは実にミステリーっぽいプロット。 ④「水色の魔人」=少年時代に遭遇した少女誘拐魔=「水色の魔人」。少年の目の前で魔人は消え、残されたのは2人の少女の遺体・・・これはちょっと雑な気がする。 ⑤「冬薔薇の館」=これが一番ブラックな作品。真相は逆説的だが、ここまでアレに拘る「動機」はブラックとしか言いようがない。でもちょっと既視感が強い。 ⑥「金眼銀眼邪眼」=ファンタジー&ホラーっぽい作品。伏線は巧妙に撒かれてるので、真相解明では「なるほど!」と唸らされた。 ホットドックがおいしそう・・・ ⑦「すべては奇談のために」=本作は①~⑥に登場する奇談蒐集家「恵比酒」と助手・氷坂そのものの謎に迫る・・・奇談蒐集家なんて怪しい奴は実在するのか? 連作短編らしい小憎らしいオチが用意されている。 ①~⑥までは典型的な安楽椅子型探偵もの。 まぁ、バーで誰かの不思議な体験や事件を聴き、その場で探偵役が即座に解き明かす・・・っていうスタイルはいくつも先行例が思い浮かぶよね。 あまり込み入ったプロットではなく、探偵役の氷坂があっさり解決してしまうので、若干物足りなさは感じる。 全体の「締め」となる⑦は、作者の「熟練」を感じさせる。やっぱり連作短編はこうでないと・・・ トータルでは水準級+アルファという評価。 (⑤⑥辺りが個人的には好み。③もまずまず。) |
No.680 | 10点 | 下町ロケット- 池井戸潤 | 2012/04/28 22:15 |
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第145回の直木賞受賞作。
今や作者の独壇場となった感のある「勧善懲悪系熱血企業小説」(そんなジャンルあるか?)。本作もまさにそのド・ストレート作品。 ~「その特許がなければロケットは飛ばない」・・・。大田区の町工場が取得した最先端特許を巡る中小企業vs大企業の熱き戦い。かつて研究者としてロケット開発に関わっていた佃航平は、打ち上げ失敗の責任をとり研究者の道を辞し、親の跡を継ぎ従業員200名の会社・佃製作所を経営していた。モノ作りに情熱を燃やし続ける男たちの矜持と卑劣な企業戦略の息詰まるガチンコ勝負。夢と現実、社員と家族・・・かつてロケットエンジンに夢を馳せた佃の、そして男たちの意地とプライドを賭した戦いがここに!~ いやぁー、不覚にも読みながら涙が出てきた。 熱い(熱すぎる)オヤジたちの物語なのだが、「夢とは?」「会社とは?」「人生とは?」など、いくつもの疑問符を私自身に突き付けられたような気がして、なんとも胸が詰まるようなシーンがいくつもあった。 (『会社とは何か。なんのために働いているのか。誰のために生きているのか・・・』 中盤のこの台詞が胸を突いた・・・) 「佃製作所」の従業員として登場するキャラクター1人1人が、作品の中で生き生きと主張し、悩み、そして喜び・怒る。そして、何より主人公である佃航平の姿が「モノつくり日本」の矜持を体現しているようで、何とも心強い。 (日本という国はこういう拘りや仕事へのプライドがあるからこそなのだ) もちろん、現実はこんなうまくいかないことばかりだし、今時こんな絵に描いたような会社なんて絵空事だろっていう感想を持つ方もいらっしゃるだろう。 仕事柄、中小企業の経営者と話す機会がままあるのだが、会社の規模を問わず、経営者が背負っている責任というのは私のようなサラリーマンとは比べ物にならないほど大きい。 普段、アホな上司や使えない部下に嘆いたり、逆に優秀な同僚に囲まれ劣等感を感じたり、サラリーマンにはサラリーマンなりの苦労もあるけど、詰まる所、自分の仕事や会社にプライドを持とうよってことだろう。 さすがに直木賞受賞作という看板だけのことはある作品。 まぁ「空飛ぶタイヤ」とプロットが完全に被っているが、そんなことは関係なし! たまには、こういう「泥臭い」「男臭い」作品を読んで、忙しい日常生活の中で忘れがちな「夢」や「エネルギー」を思い出すのもよいのではないでしょうか。 ミステリーではないし、ちょっと甘い評価かもしれないが、久しぶりに10点を進呈。 (久しぶりに読書で興奮してしまった・・・ちょっと青いね) |
No.679 | 7点 | デス・コレクターズ- ジャック・カーリイ | 2012/04/28 22:12 |
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「百番目の男」に続くカーソン・ライダー(刑事)シリーズの2作目。
サイコサスペンスだけではない、謎解き要素もふんだんに取り入れた秀作。 ~死体は蝋燭と花で装飾されていた。事件を追う異常犯罪専従の刑事・カーソンは、30年前に死んだ大量殺人犯の絵画が重要な鍵だと知る。病的な絵画の断片を送り付けられた者たちがつぎつぎと殺され、失踪していたのだ。殺人鬼ゆかりの品を集めるコレクターの世界に潜入、複雑怪奇な事件の全容に迫っていくカーソン。彼を襲う衝撃の真相とは?~ 評判に違わぬ面白さ。 紹介文だけ読んでると「サイコ」的な味付けが強いのかと身構えるが、その辺りはそれ程でもなく、純粋&良質なサスペンスという感想になった。 殺人鬼たちの「ゆかりの品」を集めることに執念を燃やすコレクターという裏側の世界を事件の背景として使いながら、真犯人が張り巡らせた見事なトリックや罠をかいくぐって、真相に到達する主人公。しかし、最後の最後でまたも犯人の罠に嵌ってしまう・・・ 事件の構図を二重三重に構築し、読者をラストまで飽きさせないプロットは、さすがにランキング上位の作家でしょう。 そして、何よりも強烈なのが真犯人のキャラクター(!) これはスゴイ。これ程救いようもなく悪いヤツは久しぶり。 まぁ、単純に言えばミステリーにはお馴染みの「○れ○○り」トリックなのだが、まさかあの人物がねぇ・・・と思うこと必至だろう。 主人公のパートナーの刑事や美人レポーターのキャラも立っていてリーダビリティーも十分。 (極めつけは主人公の兄・ジェレミーの存在だが・・・) 現在4作目まで発表されているシリーズであり、残りの作品も読みたくなった。 (不気味な表紙の意味は終盤、サビの部分を読めば分かる) |
No.678 | 6点 | 花と流れ星- 道尾秀介 | 2012/04/24 22:38 |
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真備&道尾シリーズ(という呼び名でいいのか?)初の短編集。
ホラーテイストの強い長編に比べると、普通のミステリーっぽい作品が並んだという印象。 ①「流れ星のつくり方」=さすがに評判の高い作品だけのことはある。特に、ラスト2行目が強烈&衝撃。思わず「成る程!」と唸ってしまった。少年が登場する作品は作者の十八番(おはこ)と言えるが、「気付きそうで気付けない」というのが本作のスゴさを表しているといえそう。 ②「モルグ街の奇術」=「モルグ街」といえば、もちろんE.A.ポーだが、正直あまり関連性はない。本作はあまりにも本格ミステリーっぽいトリック&プロットなのが、逆に作者の作品としては新鮮。ラストの奇術の謎は結局どうなのか? ③「オディ&デコ」=タイトルの意味は終盤で判明。本作では真備に代わって道尾が探偵役を務めるが、真相は何とも可愛らしいというか切ないもの。でも、本当に「アレ」は「そんなふうに」見えるのだろうか? ④「箱の中の隼」=舞台はある新興宗教団体の教団建物。真備の代役として潜入した道尾が巻き込まれる謎と、教祖の謎の行動。事件の構図はかなり大掛かりなのに、その結果として生み出された事件&謎そのものはスケールが小さいので、何かチグハグした印象になってしまった。 ⑤「花と氷」=誤って孫娘を死なせてしまった老人の悲しみが心を突く作品。だが、プロットとしては小粒で全体的にサラッと流したような印象が残った。 以上5編。 割と直球のミステリー短編が並んでて、逆にちょっと驚かされた・・・っていう感じ。 (このシリーズだから、てっきりホラーテイストが強いのかと思ってたので) ①は国内短編のランキングでも上位に出てくる作品であり、さすがの出来栄え。②も面白く読ませていただいた。 ただ、③以降は徐々に薄味になっているので、トータルで平均すれば水準プラスアルファという程度の評価に落ち着く。 |
No.677 | 6点 | ABAの殺人- アイザック・アシモフ | 2012/04/24 22:36 |
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SFの巨匠・アシモフが遺した本格ミステリーの1編。
ABA(アメリカ図書販売)の年次大会を舞台に、作者が実名で登場する(?)珍しい作品。 ~アメリカ図書販売協会(ABA)の年次大会で新進作家が死んだ。シャワー室で裸のまま倒れた拍子に頭を打ったらしい。第一発見者の作家・ダライアスは彼を一人前の作家に育て上げた男だったが、部屋の中にごく微量のヘロインが落ちているのを見逃さなかった。しかし、そのヘロインは警察が到着する前に何者かによって拭き取られていたのだ。殺人事件だと直感したダライアスは、独自の調査を始める。アメリカの出版会を舞台に、流行作家の死を巡るさまざまな人間模様・・・~ 実にテンポのよい作品。 発表年は1976年と、一昔も二昔も前の作品だが、ウィットに富んだ会話による進行は非常に新鮮で、さすがに並みの作家でないと感じさせる。 主人公で探偵役のダライアスが、事件の関係者との会話の中からある人物のある齟齬に気付き、真犯人に罠を仕掛けるラストは、本格ミステリーならではの「ゾクゾク感」を得ることができる。 作者本人が実名で登場するが、自虐的なキャラにデフォルメされているのはご愛嬌か? 作家に付き物の「ある道具」が事件解決の鍵になるのだが、登場人物の会話の中に伏線がうまい具合に分散されて置かれてあり、それがラストに効いてくる辺りがニクイ。 難を言えば、事件発生までの前置きがやや長く、ちょっと冗長かなぁというのが1つ。 あとは「動機」。あからさまに示されてはいるのだが、真犯人と動機が結びつくという必然性というか連動性に今一つしっくりこないというモヤモヤが残った(→なぜ、真犯人が○○と関係することになったのか、という部分) まっトータルで評価すれば佳作ということでよいでしょう。 (アシモフもハズレのない作家の1人だな) |
No.676 | 7点 | 天使の屍- 貫井徳郎 | 2012/04/24 22:33 |
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1996年発表。作者の長編第4作目が本作。
大人と子供のジェネレーションギャップという永遠のテーマを主題とした作品。 ~平穏な家族を突然の悲劇が襲った。中学二年生の一人息子が飛び降り自殺したのだ。そして遺体からはある薬物が検出された。なぜ彼は14歳で死ななければならなかったのか。原因はいじめか。それとも? 遺された父親はその死の真相を求めて、息子の級友たちを訪ねて回る。だが、世代の壁に阻まれ思うにまかせない。そして第2の悲劇が起こる。少年たちの心の闇を描く長編ミステリー~ なかなか重苦しいテーマだな。 息子がなぜ自殺したのか(自殺したようにみえる)、父親が動機を探る・・・というプロットは岡島二人の「チョコレートゲーム」と酷似してますが(他の方も指摘してましたね)、こっちの方がより陰惨で救いのない少年たちの心の闇が描かれてる。 体や考え方は妙に大人びているのに、精神的には全く未成熟で短絡的に死を選択してしまう・・・本作は10年以上前に発表された作品だが、今現在はさらにこのギャップは広がっているのだろう。 (ありきたりな意見だが、あまりにも満たされた生活の中で、なにが本当の「幸せ」なのか分からないまま成長してしまうのだろうか?) ミステリー的な面では、ラストに少年の父親が解き明かす少年たちの連続自殺(?)に隠された「謎」がキーとなるが、ちょっと唐突感はある。(まさかチェスタトンが引き合いに出されるとはねぇ・・・) ただ、前半のある何気ない会話の中に、事件の鍵となる伏線がさり気なく置かれるなど、「さすが貫井」というものは十分に感じられた。 ホワイダニットの面白さを味わえる作品でしょう。 (親として子供に先立たれる悲しみとは? という重いテーマを突き付けられる作品でもある) |
No.675 | 5点 | 廃墟に乞う- 佐々木譲 | 2012/04/17 23:10 |
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第142回の直木賞受賞作。
ある事件が元で任務を離れた刑事・仙道を主人公とする連作短編集。 ①「オージー好みの村」=北海道はニセコ、ヒラフというと、今やオーストラリア人に席巻されてる町(らしい)。そこで起こった殺人事件の容疑者にされたオージー(オーストラリア人)を救うためやって来た仙道だが・・・ ②「廃墟に乞う」=今や寂れ果てた旧炭鉱町を故郷に持つ男が、再び起こした殺人事件。男はやはり故郷へ戻ってくると思われたが、そこには哀しい母子の想い出があって・・・ ③「兄の想い」=今回の舞台はオホーツク海を望む小さな漁師町。気性の荒い漁師たちが幅を利かす町で、妹想いの兄貴がとった行動が事件の焦点に・・・ ④「消えた娘」=札幌のはずれの町で消えた1人の女性。娘を追って名寄から出てきた父親が縋った男はまたも仙道・・・。女性を監禁する趣味を持つ容疑者が判明するが、消えた女性はなかなか見つからず・・・ ⑤「博労沢の殺人」=舞台は日高・浦河地方の牧場地帯。大牧場のオーナーだが、商売柄敵の多い男が殺害される。そして、容疑者として挙がったのは2人の息子たち・・・。因みに「博労沢」は架空の地名だそうです。 ⑥「復帰する朝」=刑事に復職するため、札幌に戻ろうとする仙道に電話が・・・。結局、依頼主のために帯広まで向かうことに。そして巻き込まれた殺人事件と、知ることになったある女性の裏側の貌(おーコワッ!) 以上6編。 上記のとおり、本作は北海道のあちこちで起こる事件に、主人公である休務中の刑事・仙道が巻き込まれてしまうというスタイルをすべてとってます。 ベテラン作家らしく、何とも言えない「安定感」を感じる作品が並んでいて、さすが直木賞を取るだけのことはある・・・というのが表向きの感想。 ただ、「なぜだか分からないけど、あまり面白くない」というのが真の感想。 まぁ警察小説だから、本格ミステリーほど「謎解き」に関する面白さを追及するのは酷だが、全ての作品が最初から最後まで割と平板に終わったなぁという読後感になってしまった。 (「それがしみじみしてていいんだ」という方も当然いらっしゃるとは思うが・・・) 小説である以上は、やはりもう少しエンターテイメント性が欲しいと思うのだが・・・。 |
No.674 | 6点 | オックスフォード運河の殺人- コリン・デクスター | 2012/04/17 23:08 |
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1989年発表のモース警部シリーズ。
今回は病床に臥せったモース警部が、資料を元に100年以上前の殺人事件を解き明かす・・・というどこかで聞いたようなスタイル。 ~モース主任警部は不摂生がたたって入院生活を余儀なくされることになった。気晴らしに、彼はヴィクトリア朝時代の殺人事件を扱った研究書「オックスフォード運河の殺人」を手に取った。19世紀に一人旅の女性を殺した罪で2人の船員が死刑になったと書かれていたが、読み進むうちにモースの頭にいくつもの疑問が浮かんでくる。歴史ミステリーの名作「時の娘」を髣髴させる設定でおくる、英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞作~ 何か不思議な感覚の作品だった。 紹介文のとおり、モース警部が安楽椅子型探偵となって、凡そ書物だけを元に過去の殺人事件を解き明かすのだが、終盤、モースがなぜその真相に気付いたのかが、読者には皆目見当が付かないのだ。 読後に「なぜ?」と思っていたが、早川文庫版の法月綸太郎氏の解説を読んでると、デクスターに対するある評論家の言葉の引用があり、『デクスターの小説には魅力的な謎がない。なぜなら、謎が生じるためには、ある程度の情報がなければならないのに、その程度の情報すらデクスターは読者に与えようとしないからだ・・・デクスターのつまらなさ、納得のいかなさは、解決のつじつまは合っていても、なぜモースがその解決に至ったのかという点に、全く説得力のないことから来ている』とのこと。 まさにそうなのだ。 私が読後に感じたモヤモヤ感はこの評論家の言い分がピッタリ当て嵌まる。 (法月氏は、この批判に対する反論を試みているが・・・) まぁ、この批判は言い過ぎのところもあるが、本作も事件の真相(言い換えれば「からくり」)そのものは、なかなか魅力的なもので、「へぇー」と思わないでもなかったのだが、それに対する読者への伏線やらヒントは特になく、そういう部分でどうしても納得感が得にくい気がしてならない。 ただ、本作は「歴史ミステリー」という面もあるので、普通のミステリーとは若干趣を異にしているし、決してつまらない作品という訳ではないのでお間違えなく!(と、フォローしておく) (本筋とは全然関係ないが、モース警部がなぜ美女にモテるのかは全く不明・・・) |
No.673 | 4点 | パラドックス学園 開かれた密室- 鯨統一郎 | 2012/04/17 23:05 |
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「ミステリアス学園」に続くミステリーそのものをパロディした怪作。
あの“ワンダ・ランド(湾田乱人)氏”が再度登場。 ~パラドックス学園パラレル研究会、通称「パラパラ研」。ミステリー研究会志望のワンダはなぜかこのパラパラ研に入部することに。部員はドイル、ルブラン、カー、クリスティ・・・と錚々たる名前を持つ者ばかりだが、誰もミステリーを読んだことがないなんて・・・! やがて起こる密室殺人と予想もできない究極の大トリック! 鯨ミステリーのまさに極北~ ひとことで言うと、「よくもこんな本書いたなぁ・・・」。 敢えて分類するなら、メタ・ミステリーになるのかもしれないが、そんな分類なんて意味なし。 前作の「ミステリアス学園」を既読だったので、マトモなミステリーではないとは思っていたが、ここまでバカバカしいとは・・・ 本当のミステリー初心者がこれを読んだら、混乱すること間違いなし。 (これをミステリーの中心点とは思わないだろうが・・・) ちなみに紹介文にある「密室」と「究極の大トリック」については途中でだいたい察しがついたが、相当脱力感あり。 「○○の○」を真の犯人とした当りは、まぁある意味、「究極」なのかもしれないが・・・ でもなぁー、これを「面白い!」と評価するには、相当懐の深い心がないとムリだよ! 作者らしいと言えばそうなのだが、この「おフザケ」をどこまで楽しめるのかで本作の評価も変わってくるでしょう。 どうでもいいが、なぜポール・アルテが校長で、ピーター・ラブゼイが教頭なのか? (ニコラス刑事にも笑ったが・・・) |
No.672 | 7点 | 陽気なギャングの日常と襲撃- 伊坂幸太郎 | 2012/04/15 12:43 |
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話題作となった「陽気なギャングが地球を回す」の続編。
またもや「あの4人」が復活! ドタバタしているように見えて、決めるところは決める。 ~嘘を見抜く名人は刃物男騒動に、演説の達人は「幻の女」探し、精確な体内時計を持つ女は謎の招待券の真意を追う。そして、天才スリ師は殴打される中年男に遭遇・・・。天才強盗4人組が巻き込まれた4つの奇妙な事件。しかも、華麗な銀行襲撃の裏に「社長令嬢誘拐」がなぜか連鎖する。知的で小粋で贅沢な軽快サスペンス~ 相変わらず面白いなぁー 本作は「陽気なギャング」の続編なのだが、パワーアップしてる。 4人のキャラは最高。特に「響野」。 こんな面白い奴、なかなかいないよ。 本作は当初、4人がそれぞれ主人公として登場する「連作短編」として発表される予定だったものを長編に改編されたのだが、ミステリー的には正解だと思う。 まぁ、そもそも正統なミステリーではないのだが、一見無関係に見える4つの事件が、同じ登場人物や事件の舞台をとおして1つに収斂していくというのは、読んでて気持ちいい。 とにかく「伊坂ワールド」には強い引力があるとしか思えない。 こんな癖のある文章や世界観なのに、いつの間にか作者の世界(舞台か?)に引き込まれてしまう。 これこそが、作家としての力量なんだろう。素直に脱帽。 続編も是非出して欲しい。 (どうでもいいが、大久保が良子さんと無事結婚できたのかが気になる) |
No.671 | 6点 | ミミズクとオリーブ- 芦原すなお | 2012/04/15 12:42 |
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直木賞受賞作「青春デンデケデケデ」で有名な作者が描くミステリー。
恐らく作者がモデルと思われる主人公と、安楽椅子型探偵役の妻が織り成す、しみじみと味わいのある連作短編集。 ①「ミミズクとオリーブ」=美人妻に逃げられた旧友を救うため、ひと肌脱ぐことになった主人公。ただし、実際に謎を解いたのは妻ということで、ここに人妻兼名探偵が新たに生まれることに。 ②「紅い珊瑚の耳飾り」=今度はちゃんとした(?)殺人事件が舞台。主人公の友人で刑事の河田から情報を得るだけで、見事に謎を解く。本編だけではないが、女性独特の感性や見方が、事件解決の端緒になるというプロットが目立つ。 ③「おとといのおとふ」=タイトルは犬や猫にとって「耳障りがいい」と感じる言葉なんだそうです。(「お」行が動物にとっては一番いいとのこと) 今回も殺人事件の謎を解くのだが、これくらいならいくら田舎の警察だって分かりそうなものだが・・・ ④「梅見月」=本編は、主人公と妻が結婚する契機になった過去の事件。これもなぁ、実に何てことない真相。 ⑤「姫鏡台」=これも女性独特の見方が事件解決のきっかけとなる。確かに、男性目線では気付きにくいのかもしれないが、女の勘は怖いってことだよね。 ⑥「寿留女」=“スルメ”と読む。これも何てことない夫婦間のちょっとした揉め事を妻が見事に大岡裁きでケリを付けるというプロット。そんなことより、妻がつくる酒の肴の数々がおいしそうで・・・ ⑦「ずずばな」=讃岐地方の方言で「ヒガンバナ(曼珠沙華)」のことらしい。同じマンションの部屋で夫は溺死、妻はフグの毒に当って死ぬという珍しい事件なのだが・・・あっさり解決。 以上7編。 何とも味わい深くて良い作品。 さすがに直木賞作家だけのことはあって、特になんてことない描写なのに、実に心地よく読者の心に染みてくる。 (出てくる妻の料理の数々も何ともおいしそうで・・・特に魚料理!) 殺人事件は出てくるが、作風としては「This is 日常の謎系」とでも言うべきもので、好き嫌いはあるでしょうが、本格物やサスペンス、ハードボイルドなど「硬い読み物」ばかり読んだ後、こういう作品に出合うとホッとさせられる。 誰にでもお勧めできる佳作という評価でよいのではないでしょうか。 (②がベストかな。後はどれも同レベル) |
No.670 | 6点 | 暁の死線- ウィリアム・アイリッシュ | 2012/04/15 12:39 |
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名作「幻の女」と並ぶ作者の代表作。
1944年発表のタイムリミット・サスペンス。 ~故郷に背を向け、大都会NYの虜になったダンサー稼業の女性の前に、突然姿を現した風来坊青年。彼は奇しくも女性と同じ故郷、同じ町の出身、すぐ隣の家の子であった。その青年がいま殺人の嫌疑に問われているという。潔白を証明するための時間はあとわずか5時間しか残されていない。深夜のNYを舞台に、孤独な若い2人が繰り広げる犯罪捜査のドラマ~ さすがに時代を感じさせるが、タイムリミットサスペンスの古典的名作という評価は正しい、 というのが感想。 他の方が書評しているとおり、夜明けまでに「何が何でも」解決しなければならないという理由はないように思う。 (どうしてもそうしたいなら、もっと強い理由があった方がいい。) そこが、サスペンスとしての致命的な弱さにつながってるのは確か。 こんな短い時間で次々と証拠や関係者が出てくるというのも、「ご都合主義」と言われても仕方ないんだろうなぁ・・・ まぁでも、本作の「肝」はそんなことより、NYという得体のしれない「怪物」に挑む若い2人の姿を描きたかったんではないか? 2人の本当の敵は、真犯人なんかではなく、NYという巨大都市の夜の闇という訳です。 この辺りは、東京に来た田舎者と同じで、ある意味時代を感じさせる・・・(今どき、こんなこと考えないだろうから) 全体としてサスペンスにあるべき緊張感にはやや欠けるが、何ともいえない作者の文章を味わえるのがいい。 ちょっと煮え切らない書評ではあるが・・・ (さすがに「幻の女」よりは1枚落ちる) |
No.669 | 7点 | 六つの手掛り- 乾くるみ | 2012/04/07 21:26 |
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「林兄弟の三男坊」で、大道芸とマジックの達人・林茶父を探偵役とした作品集。
作者がロジックに徹底的に拘った6つの作品が小気味よく並びます。 ①「六つの玉」=大雪に囲まれた一軒家で一晩を過ごすことになった4人。初対面なのに翌朝に発生した密室殺人というわけで、典型的なミステリーっぽいのが本作ですが・・・茶父の解き明かす真相はかなり「突飛」ではないか? 「六つの玉」とツララから、そこまでのことが次々に解き明かされるとは・・・。 ②「五つのプレゼント」=1人の女性に届く5つのプレゼントのうち、1つが何と爆弾だった、という謎なのだが、茶父の解法はなかなか見事。それよりも、茶父の姪・仁美が前座的に指摘した解法の方が個人的には面白いと思った。これって人間心理だからね。 ③「四枚のカード」=事件現場に残った4つのESPカード(十字やら波、星のマークを書いたカードね)。しかもそのうち3枚は端っこが破られていた・・・。アリバイとマジックをうまい具合に融合させてるのがいい。動機はまぁ、置いといて・・・ ④「三通の手紙」=これは、まぁワン・アイデアから膨らました作品なんだろうな。固定電話を使ったごく単純なアリバイトリックが、写真を使ったミスディレクションとうまく連動できている。 ⑤「二枚舌の掛け軸」=6編のなかでも本作がどうやら一番評価が高いようなのだが、個人的にはあまりピンとこなかった。掛け軸の薀蓄はなかなか面白かったが・・・ ⑥「一巻の終わり」=さすがにこれはムリヤリ感がある。どうしても「一」に関するものを書きたくて、しかも洒落たタイトルで・・・というのが先にあったんだろうか? そもそもこんなアリバイトリックなんて、警察の捜査が入ればすぐに崩れるのでは・・・ 以上6編。 6編ともロジックを追求して追求した作品。 リアリティは全く無視した特殊な設定下(犯人と被害者が初対面など)なのだが、パズラーの面白さが満載といっていい。 たまには、動機やら事件の背景なんかは無視して、徹底的に「犯人当て」に取り組むというのもいいのではないか。 (作者が楽しそうに書いてる感じがするのも好ましい) |
No.668 | 7点 | 緑は危険- クリスチアナ・ブランド | 2012/04/07 21:23 |
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本格ミステリー黄金世代を継承したC.ブランドの長編代表作。
戦時下の野戦病院を舞台に、コックリル警部が探偵役として登場、真犯人を見事解き明かす。 ~ヘロンズ・パーク陸軍病院には、戦火を浴びた負傷者が次々と運び込まれていた。郵便配達人のヒギンズもその1人だった。3人の医師のもと、彼の手術はすぐ終わると思えた。だが、患者は喘ぎだし、まもなく死んでしまう。しかも彼は殺されていたのだ! なぜ、こんな奇妙な場所で、一介の郵便配達人は死を迎えることになったのか。「ケントの恐怖」の異名をとるコックリル警部登場。黄金期の探偵小説の伝統を正統に受け継ぐ傑作本格ミステリー~ さすがに評判どおり、端正なパズラーという印象が残った。 「戦時下の野戦病院」という舞台設定のためか、全体的に重々しく暗い雰囲気が漂い、独特の読み心地を感じた。 医療ミステリーの“はしり”なのかもしれないが、それほどの医療知識は不要であり、純粋に「犯人当て」が楽しめる。 特に、第2の殺人で、「被害者が手術着を着ていた」謎を解き明かすロジックが見事。 ある医療用具を使ったトリックとの連動であり、それが連続殺人の動機にもつながっていて、本作の「肝」と言える。 ただ、トリックを解き明かした後の真犯人の絞り込みについては、何となくモヤモヤ感が残った。 コックリルの説明が今一つのためかもしれないが、故意に「ある人物」を真犯人に誤認させる(ミスディレクション)手口があからさますぎる気が・・・ (まぁ、好みの問題かもしれないが) でも、完成度としてはやはり秀逸な本格ミステリー。「古き良きミステリー」を堪能できる1冊なのは確かでしょう。 (訳がせいか、ちょっと読みにくさを感じた) |
No.667 | 5点 | ひらけ!勝鬨橋- 島田荘司 | 2012/04/07 21:20 |
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1987年発表、作者初期のノン・シリーズ作品。新装版にて読了。
世間から見捨てられた「老人たち」を主人公にした珍しい(?)作品。 ~館長が悪質な詐欺に引っ掛かり、ヤクザに引き渡しを要求されたO老人ホーム。威圧的なヤクザと能天気な老人たちの熾烈な攻防が始まった。ついに立ち退きを賭けてゲートボールの試合で決着をつけることになった。コーチ役の翔子を中心に結束を固めた老人たちの「青い稲妻」チーム。汚い手口でプレーするヤクザなチーム。そんなとき、老人ホームで殺人事件が発生する。笑いと涙のユーモア長編ミステリーの傑作~ これはミステリーじゃないな。 一応連続殺人事件が起きるが、これはほんの付け足し程度の扱いだし、真相も何だかウヤムヤのまま収束してしまう。 本作の読みどころはズバリ「ゲートボールの実況中継」シーンと「月島での老人たちのカーチェイス」シーンの2つだけと言いたい。 (別に悪い意味ではないのだが、正直ほかの場面は全く記憶に残らなかった・・・) 「ゲートボール」については、ルール解説を交えながら「青い稲妻」チームのキャプテンである本田叡吉が、さながら将棋のように相手チームと戦法の読み合いを行う・・・ゲートボールってそんなに頭を使うスポーツだったんだねぇー そして極めつけが、老人たちがポルシェ911を駆って、ベンツに乗ったヤクザたちをカーチェイスの末に海へ落とすという無茶苦茶さ! まさに「ミスター荒唐無稽」というべき作者の本領発揮でしょう。 この2つ以外の部分が実に冗長なのですが、「負け組」の象徴として登場する老人たちが最後に見せてくれる「意地」にまずはスッとさせられます。 ポルシェやバイクなど、作者の趣味が存分に生かされていて、初期の頃の何とも言えないエネルギーが行間から伝わってくる。 まっ、作者のファン以外には面白くもない作品かもしれませんが・・・ (主人公の老人たちが、本田・鈴木・山波・豊田・川崎って・・・凝り過ぎ!) |
No.666 | 7点 | 鮫島の貌 新宿鮫短編集 - 大沢在昌 | 2012/04/01 16:35 |
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ゾロ目666冊目の書評は、大好きなシリーズの最新刊で。
「新宿鮫シリーズ」初の短編作品集。 短編になっても、やっぱり鮫島は鮫島なのだが、本作では超意外なあの人たちもゲスト出演(!) ①「区立花園公園」=新宿署に異動したばかりの鮫島が登場。そういう意味で、本作は「新宿鮫エピソード1」的な位置付けかも。とにかく、今は亡き桃井警部の雄姿が読めて、それだけでもうれしくなった。 ②「夜風」=①に続いて悪徳警官が登場し、鮫島と対決。ヤクザと警官は紙一重とはよく言ったものだ。 ③「似たものどうし」=本作ではさるマンガで有名な「あのキャラクター」がなぜか登場。しかも鮫島と知り合いの様子。でも、なぜ知り合いなのかは全く不明・・・(モッ○リはしなかったのか?) ④「亡霊」=死んだはずの男が新宿の街をうろついている・・・まさに「亡霊」かと思いきや、真相は? ⑤「雷鳴」=これはラストの捻りが効いている秀作。お得意のヤクザの抗争をネタに意外な真相がラストに用意されている。 ⑥「幼馴染み」=③に続いて超意外な「あの人物」がなぜかゲスト出演。しかも、なぜか藪鑑識員の幼馴染みとしての登場・・・舞台が浅草で警察官といえばこの人でしょう。そう「両○○吉」(!) ⑦「再会」=鮫島が高校の同窓会に出席。これ自体も珍しいエピソードだが、元クラスメートとして登場する視点人物にはある秘密があって・・・鮫島のカッコよさが引き立つ。 ⑧「水仙」=鮫島に協力を申し出る1人の美女。その美女のおかげで、凶悪犯を逮捕できたのだが、彼女には大きな秘密があった・・・ ⑨「五十階で待つ」=新手の詐欺事件に引っ掛かる半端者たち。ラスト、鮫島に真相を知らされた感想は「なーんだ」。 ⑩「霊園の男」=「新宿鮫Ⅸ~狼花」で華々しく散った「間野」。彼の墓参時に会ったある肉親。ある意味好敵手だった男の死は鮫島にとっても一抹の寂しさを誘う・・・ 以上10編。 「新宿鮫シリーズ」には独特の雰囲気があり、それが鮫島のキャラクターや新宿・歌舞伎町の雰囲気と何とも言えない相乗効果を生み出している。 本作は、短編としても短めの作品が並んでおり、1つ1つはいつもより薄味なのだが、逆に鮫島のいろいろな一面が窺えて、ファンとしては面白く読むことができた。 ただ、やっぱり本シリーズは長編が読みたい。序盤からヒリヒリしたような緊張感、そして中盤から一気に加速して終盤に突き進んでいくスピード感。そして、何とも言えない余韻の残るラスト・・・ これこそが20年経っても色褪せない「新宿鮫」の魅力だろう。 (しかし、まさかあんなキャラクターを出してくるとはねぇ・・・懐深いわ!) |
No.665 | 6点 | 死の扉- レオ・ブルース | 2012/04/01 16:32 |
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英国の正統派本格ミステリー作家、L.ブルースの長編第9作目。
素人探偵・キャロラス・ディーンの初登場作品。最近、創元文庫で出版されたものを読了。 ~のどかな英国のニューミンスターにある小間物屋で発生した二重殺人事件。深夜の凶行によって店を営む強欲な老婦人エミリーと、地区を巡回していたスラッパー巡査が犠牲となった。町にあるパブリックスクールの歴史教師で犯罪研究を趣味とするキャロラス・ディーンは、事件の調査に乗り出すことに。町の嫌われ者だったエミリーのおかげで、容疑者にはこと欠かないこの事件を、素人探偵はいかに推理するのか?~ 実に正統派な「英国本格推理小説」という評価がピッタリ。 一夜にして二人の男女が惨殺されるのだが、重々しさや暗さは一切なく、ただ純粋に謎解きが楽しめるプロットは賞賛できる。 そして、このL.ブルースという作者。ものの本には、英国でA.クリステイと並び称される「ミス・ディレクションの名手」とのこと・・・ 本作もその評価を地でいく作品なのは確か。 素人探偵・ディーンが、多くの容疑者や関係者たちに順番に丹念に話を聞くのだが、そこには伏線と読者を誤った道へ導くべく罠が待ち構えているのだ。 そうやって書くと、何だかスゴイ作品のように思えるが、正直な感想「そこまでスゴクはない」。 パズラーものとして、連続殺人を犯す「動機」としては有りだとは思うが、現実的ではないよなぁ・・・ あと、殺害時刻前後の登場人物の絡み具合が複雑すぎて、ちょっと途中で整理がつかなくなってしまった点、ちょっとやり過ぎかも。 まっ、でも決して嫌いなジャンルではありませんし、他作品にも手を伸ばしたくはなった。 (英国本格物で「意外な犯人」というと、なんで「この職業の人」が多いんだろうか? 単に思い過ごし?) |
No.664 | 5点 | 智天使の不思議- 二階堂黎人 | 2012/04/01 16:31 |
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二階堂蘭子と双璧をなす作者のシリーズ探偵・水乃サトル登場作品。
シリーズ初の倒叙ミステリーとのことだが・・・ ~昭和28年、一人の金貸しが殺された。警察は没落華族の若い女性とその家の元使用人を犯人と断定。だが、2人には難攻不落のアリバイがあり、事件は迷宮入りしてしまう。その女性は後に一躍人気マンガ家になるが、34年後今度は彼女の元夫が不審死を遂げる・・・2つの事件を追う名探偵・水乃サトルは、悪魔的な完全犯罪計画を見破れるのか?~ 可もなく不可もなくといった感想。 倒叙物ということで、犯人視点から事件が語られるわけだが、それが水乃サトルが耳にする事実(伝聞)と微妙に食い違っている・・・ その「食い違い」こそが、作者が仕掛けた「欺瞞」なのだが、如何せんサプライズが小さすぎる。 結構もったいぶって引っ張り、警察が解き明かせず迷宮入りしたという割にはアリバイトリックがしょぼい。 (「紅白歌合戦」ネタの奴ね) 「智天使」とか、悪魔的な犯人と煽るほど、真犯人のキャラ・造形が強くないのもちょっと興ざめ。 まぁ、本シリーズ自体、当初からそれほど面白いわけでもなく、なんでこのシリーズに拘るんだろうと個人的には思ってるんだけど・・・ 特に今回は、いつもの軽いノリではなく、シリアスな作風・展開のため、サトルのキャラにも合ってない。 この手の倒叙ミステリーが好きな方以外にはあまり薦められないねぇ。 (ラストの「大オチ」もちょっと唐突だし、取って付けたような感じ) |
No.663 | 4点 | シャーロック・ホームズ最後の解決- マイケル・シェイボン | 2012/03/24 00:39 |
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世界のミステリー史上に燦然と輝く名探偵・シャーロック・ホームズのパスティーシュ作品。
時は1944年、ホームズは何と齢89歳(!)という設定。 ~声を失ったその少年には親友のオウムがいた。彼の代わりのように不思議な数列を連呼するオウムが・・・。少年は9歳。親を失い、祖国を離れ、英国南部の片田舎で司祭の営む下宿屋に引き取られていた。彼が巻き込まれた奇禍とはある殺人事件とオウムの失踪。養蜂家の老人に司祭一家のドラ息子、謎の下宿人。オウムはどこに? そして犯人は?~ 新潮文庫で150頁程度の中編というべき分量で、中身も含めて小品。 ホームズは1903年に探偵業を引退し、サセックスの丘陵地帯で養蜂家となって余生を過ごしたという設定になっており、紹介文に出てくる「養蜂家の老人」とはつまりホームズのこと。 89歳という年齢には勝てず、老骨に鞭打って少年のために最後の冒険を試みる姿や、久しぶり帰ってきたロンドンで、第2次世界大戦で傷つき、アメリカ人が跋扈する姿を見て感慨にふける姿など、ホームズファンならば何とも言えない気持ちになりそう。 一応、殺人事件が起きるのだが、解決のための材料が読者に与えられる訳でもなく、事件は唐突に解決してしまう。 しかも、その場面が何と「鳥目線(!)」 ホームズものの秀作の雰囲気を真似てるかというと、そこまでのレベルに達しているということでもないので、パスティーシュ作品としても中途半端な印象。 まぁ、本当のシャーロキアン以外ならスルーしてもOKでしょう。 (1人寂しく余生を過ごすホームズというのも何だか切ない・・・) |