皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.632 | 7点 | メルカトルと美袋のための殺人- 麻耶雄嵩 | 2012/02/01 22:00 |
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銘探偵・メルカトル鮎登場の作品集第1弾。
メルカトルのキャラはかなり強烈でブッ飛んでますが、プロットそのものは短編らしい作品が並んでます。 ①「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」=密室トリックとアリバイトリックの融合自体は「よくある手」ですが、まさか「○○学習」がトリックの鍵になっているとはねぇー。そういやぁ、むかし、雑誌の巻末広告なんかでよく見たよな・・・ ②「化粧した男の冒険」=「木は森に隠せ」とはブラウン神父から脈々と受け継がれているトリックの1つですが、本作もいわばその変形(メルカトルもそう言ってますが・・・)。これは、非常にシンプルなプロット。 ③「小人間居為不善」=メルカトルが自身の探偵事務所に事件を呼び寄せるために出したDM(ダイレクトメール)。それに掛かった1人の富豪が、彼に身辺の警備を依頼しますが、実は・・・という流れ。これはプロットからして面白い。 ④「水難」=ちょっとオカルトめいた作品だし、トリックそのものはなかなか大掛かり。ただ、事件現場の状況が美袋らの説明だけではやや分かりにくいのが難。真犯人特定のロジックはいいと思うが・・・ ⑤「ノスタルジア」=メルカトルが「犯人当て小説」を書き、美袋に挑戦するという変わったプロット。まぁ、メルカトルが小説を書くという時点で普通じゃないわけで、やっぱり真相も普通じゃなかった。 ⑥「彷徨える美袋」=学生時代の友人を巡った事件に巻き込まれ、殺人犯の疑いをかけられてしまう美袋。当然ながら、メルカトルに真相究明を依頼するわけですが、真相はとんでもないことに・・・ ⑦「シベリア急行西へ」=これも珍しい。シベリア鉄道の列車の中で発生する殺人事件って、まさかトラベルミステリー(!?) これも一種の密室を取り扱っているが、トリックそのものはよくある手だと思う。 以上7編。 最初にも書いたように、キャラの奇天烈さ以外は、実に正調なミステリー短編作品と言っていい。 ロジックもシンプルだが、よく効いてる作品が多く、作者のミステリー作家としての資質&力量が推察できる。 まぁ、長編ほどのクドさがないので、逆に「麻耶キチ」(そんな言葉あるのだろうか?)にとっては物足りないのかもしれないが・・・ (①~④はどれも水準以上。逆に⑤~⑦は水準以下のように感じた) |
No.631 | 5点 | 名探偵に薔薇を- 城平京 | 2012/02/01 21:58 |
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第8回鮎川哲也賞最終候補作であり作者の長編処女小説。
2部構成で独特の味わいを持ったミステリー。 ~始まりは各種メディアに届いた『メルヘン小人地獄』だった。それは途方もない毒薬を作った博士と毒薬の材料にされた小人たちの因果を綴る童話であったが、やがて童話をなぞるような惨事が発生し、世間の耳目を集めることに。第一の被害者は廃工場の天井から逆さに吊るされ、床には血文字、そして更なる犠牲者・・・。膠着する捜査を尻目に、招請に応じた名探偵の推理はいかに?~ 正直、評価が難しいなぁ。 ただ、思ったより世間的な評価が高いのは驚いた。 2部構成のミステリーで、第1部では『メルヘン小人地獄』という童話の見立て殺人をめぐる謎。 それは、名探偵・瀬川みゆきの卓越した推理力であっけなく解決される。そして、第2部では更なる殺人と、名探偵たる瀬川の苦悩が書かれる・・・ うーん。あまり興味ないんですよねぇ・・・、名探偵の「苦悩」などというテーマには。 第2部は、途中から真相が二転三転しますが、第1部であれだけ快刀乱麻の活躍をした名探偵としては、何だかお粗末な気がしてしまう。 それがまぁ「苦悩」なんだということかもしれないが、「ふーん」という感想しか湧いてこない。 こういう作品を「後期クイーン問題」などというお題目で評価するのもどうかなぁという感じ。 何だが全否定のような書評になりましたが、作者の「読ませる力」というのは十分に感じることはできた。 (やっぱり鮎川哲也賞のレベルは高いね) |
No.630 | 6点 | エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン | 2012/01/28 00:01 |
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名探偵E.クイーンが大活躍する作品集。
短編になり、ますますロジックの冴えた作品が並んでるなあという印象。 ①「アフリカ旅商人の冒険」=エラリーが大学の教授となり、3名の学生に探偵術を指南するという趣向が面白い。学生が示した解答を全て退け、エラリーが解き明かす解答は、まさに「意外な真犯人」っていうやつ。 ②「首つりアクロバットの冒険」=他に手っ取り早い殺害方法があるにも拘わらず、無理やり首つり殺人という方法を選んだ謎。ロープの結び目という1つの事象から全てが解き明かされる。 ③「一ペニイ黒切手の冒険」=こちらは、ホームズものの名作「六つのナポレポン像」を思い起こさせるプロット。貴重な古切手が盗まれるが、ばら撒かれた証拠は全て○○○だったということ。 ④「ひげのある女の冒険」=これは一種のダイイング・メッセージもの。それはいいのだが、この真相はあまりにもリアリティがないのではないか? いくら隠ぺいしたとしても、普通気付くよ! ⑤「三人のびっこの男の冒険」=殺人&誘拐現場に残った3人分の靴の跡。しかも全てが「びっこ」のような跡だった・・・。真相は短編らしい逆転の発想。ありがちといえば、ありがちだが。 ⑥「見えない恋人の冒険」=本作のエラリーはなかなかアクロバティック。墓あばきにより、死体の検分を行った結果、「意外な真犯人」が判明する。これは切れ味のあるロジックが決まった作品。 ⑦「チークのたばこ入れの冒険」=殺人現場に残された「たばこ入れ」から導かれるエラリーの明快なロジック。これも「意外な真犯人」というプロットなのだが、ちょっと分かりにくい印象。 ⑧「双頭の犬の冒険」=旅の途中のエラリーが事件に巻き込まれていく様子がなかなか面白い。ただ、中身そのものはあまり感心しないが・・・ ⑨「ガラスの丸天井付き時計の冒険」=これもダイイング・メッセージものだが、やや変化球気味。「閏年」をテーマにしたロジックがなかなか珍しい。ただ、そこまであからさまなことするかなぁ・・・という疑問は残る。 ⑩「七匹の黒猫の冒険」=猫嫌いのはずの老婦人が、なぜか毎週黒猫を1匹ずつ買い求める謎。これは「謎」としてはかなり魅力的。 事件は殺人&殺猫(!)事件に発展するが、これもラストは「意外な真犯人」が華麗に指摘される。 以上10編。 さすがにクイーンは短編になってもクイーンってことかな。 どれも徹底したロジックが特徴的ですが、何となく「ロジックのためのロジック」というような作品も混じっている印象。 まぁ、でも読者が推理していくには楽しい作品が揃っているので、そういう意味ではやはり読む価値有りでしょう。 (①⑩が中ではお勧めかなぁ。ダイイング・メッセージものはちょっといただけない気がした) |
No.629 | 5点 | 天使の眠り- 岸田るり子 | 2012/01/27 23:58 |
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2006年発表の長編第3作目。
女性ならではの視点が生かされた独特のミステリー。 ~京都の医大に勤める秋沢宗一は、同僚の結婚披露宴で偶然13年前に別れた恋人・亜木帆一二三(ひふみ)に再開する。不思議なことに、彼女は未だ20代の若さと美貌を持つ別人となっていた。昔の激しい恋情が蘇った秋沢は、一二三の周辺を探るうちに驚くべき事実をつかむ。彼女の愛した男たちが、次々と謎の死を遂げていたのだ。気鋭が放つ、サスペンス・ミステリー~ プロットは面白いが、無理やり感が漂う気がした。 例えるなら、最初に「入れ物」があって、そこに何とかして「中身」を押し込んだ・・・とでも言えばいいのだろうか。 謎の中心は、「一二三が本物かどうか」という点と、「過去のパートナー(夫)が殺されたのどうか」という2点に絞られる。 が、最初から如何にも怪しげな人物が、さも関係ありそうに登場しているので、途中でだいたいのカラクリには気付いてしまった。 文庫版あとがきで解説の千街氏が、本書について「心理トリックとストーリーの融合の見事さ」に触れてますが、確かに秋沢の視点と感情がうまい具合にミスリードを誘うように工夫されてるのが、作者のうまさだとは思う。 ただなぁ・・・動機はまぁいいとして、こんな犯罪そもそも思いつくか?? 相当割に合わない犯罪のような気がしてならないし、この「連続殺人」は背景から考えても真犯人にとって危険性が高すぎるのでは? この辺りが「入れ物」に無理やり詰め込んだような感覚、言い換えれば「プロットのためのプロット」のような気にさせられるのだ。 これがやっぱり気になった。 トータルの評価ではこんなもんかなぁー (因みに、「致死性家族性不眠症」は実在する病気で、その原因は本当にプリオンのようです。) |
No.628 | 6点 | ジェネラル・ルージュの凱旋- 海堂尊 | 2012/01/27 23:55 |
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田口&白鳥シリーズの3作目。
2作目の「ナイチンゲールの沈黙」とほぼ時を同じくして東城大病院で巻き起こる事件の顛末が描かれます。 ~伝説の歌姫が東城大学医学部付属病院に緊急入院した頃、不定愁訴外来担当の田口のもとには匿名の告発文書が届いていた。「将軍(ジェネラル)」の異名をとる救命救急センター部長の速水医師が特定業者と癒着しているという。高階病院長から依頼を受けた田口は仕方なく調査に乗り出すことに・・・~ ちょっと失敗したなぁー 前作(もしくは並作というべきか)「ナイチンゲールの沈黙」を読んでから時間が経ってしまったため、その辺の関連性が若干よく分からなかった。(まぁあまり関係ないとも言えるが・・・) でも、相変わらずのスピード感&プロットの妙って言えばいいのか、とにかく見事な医療エンタメ小説だと思います。 ミステリー要素云々でいうなら、「謎解き」部分は皆無に等しいのであるが・・・ 今回のテーマである「救急医療」というのは、確かに現代医療にとっても重要課題の1つであり、この作品の主人公である速水医師のような存在がなければ、恐らく救急医療は崩壊してしまうのだろう。 個人的には、佐藤医師がリスクマネジメント委員会で言い放った台詞(速水医師に対するヤツね)と、その後の速水の佐藤に対する態度が最も印象的だった。 これこそ、ワガママで独善的と言われながらも、その肩に重い責任を負って生きている男の矜持なんだろう。 せっかく久々に本シリーズを読了したので、次作以降も早めに読んでおこう。 (姫宮がこの後桜宮病院に潜入するということは、「螺鈿迷宮」に続くわけですよね・・・) |
No.627 | 7点 | 消えた奇術師- 鮎川哲也 | 2012/01/21 21:33 |
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名探偵・星影龍三登場作品をまとめた光文社文庫版の作品集。
名作の誉れ高い「○い密室」シリーズも収録した「お得」な1冊。 ①「赤い密室」=やっぱりこれは名作中の名作。ごく短い作品だが、逆に余計な部分は一切なく、ロジックに徹しているところがいい。 「密室」トリックとはこうあるべきだし、これこそ「困難は分割せよ」の見本。 ②「白い密室」=これは「雪密室」の見本。とはいえ、赤・青に比べると落ちるよなぁ・・・ロジックはまぁ分かるのだが、それ以外の動機やら何やらが弱いので、何となく全体的にグラグラしている印象。 ③「青い密室」=ロジックが見事な密室。ラストの星影の推理は戦慄すら感じた。今現在から見れば、ありふれたサプライズではあるのだが、短いだけに切れ味が鋭い。 ④「黄色い悪魔」=これはどうかなぁ・・・ まぁ思惑とは違う「密室」という視点は面白いが、やっぱり若干こじつけ感はある。アナグラムも本筋とあまり関係なく、単なるお遊び程度。 ⑤「消えた奇術師」=短い作品だが、これも逆転の発想が見事に決まっている。ただ、トリックそのものはすぐに想像がつくレベルではあるが・・・ ⑥「妖塔記」=①~⑤とは若干趣の異なる作品(田所警部も出ないしね)。トリックの要点はこれまでと同様、逆転の発想。ここまでくると、トリックはほぼ予想どおり。 以上6編。 さすがに秀作が揃ってるっていう感じ。今さら改めて書評する必要はないかもね。 『田所警部=星影龍三コンビ』って、そのまんま『名なしの私立探偵=三番館のバーテン』と同じイメージ。 (①は言わずもがなの名作。あとはやっぱり③でしょう) |
No.626 | 7点 | さよならドビュッシー- 中山七里 | 2012/01/21 21:31 |
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第8回「このミス」大賞受賞作。
ミステリー・プラス・音楽スポ根(?)とでも言うべきか・・・ ~ピアニストからも絶賛! ドビュッシーの調べに乗せて贈る音楽ミステリー。ピアニストを目指す遥、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、一人だけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが、周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生するが・・・~ 素直に楽しめしたし、面白かった。 他の方の書評のとおり、ミステリーとしては確かに稚拙かもしれないし、オチも分かりやすい。 それは認めます。 特に火事の場面の伏線があまりにも分かりやすくて、ラストの大オチもミステリーを読み慣れた読者なら予想はつくはず。 「殺人」についても、これでは無理やりミステリーっぽくするために、取ってつけたような感じが拭えない。 それでも、作者の筆力というか、読者を引き込む力というものは確かに感じた。 「クラシック音楽」は全くの門外漢だが、いつの間にか頁をめくる手がやまなくなるような感覚・・・これこそやはり読書の醍醐味だろう。 (まぁ、ミステリー的評価とは本来別かもしれないが・・・) 次々と新作を発表する作者の力量はやはり確かだったということかな。 (全身皮膚移植というのは、現代の医学的に見てもリアリティのあることなのだろうか?) |
No.625 | 7点 | 赤毛のレドメイン家- イーデン・フィルポッツ | 2012/01/21 21:29 |
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ミステリーランキングには必ず名前を挙げられる1922年発表の名作。
江戸川乱歩が激賞し、自身が「緑衣の鬼」として翻案した作品としても有名。 ~1年以上の月日を費やして、イギリス・ダートムア地方からイタリア・コモ湖畔に起こる三重四重の奇怪なる連続殺人事件。犯人の脳髄に描かれた精密なる「犯罪設計図」に基づいて、一分一厘の狂いもなく着実冷静に決行されていく。三段構えの逆転と、息もつかせぬ文章の味は、万華鏡の如く絢爛として、緻密であり、サスペンスに富み重厚なコクのある世界的傑作~ う~ん。さすがですねぇ・・・ 数多のランキングで上位に押される作品だけはある。 それだけの気品というか、オーラを確かに内包している。 「緑衣の鬼」を既読のため、フーダニットについてはほぼ最初から予想がついていたものの、それでもプロットの妙は十分に味わえた。 もちろん90年近く前の作品だし、古めかしさは隠せず、純粋なミステリーとしての評価よりは、ミステリー部分+文学的要素としての評価をすべきなのでしょう。 しかしまぁ、ジェニーこそ「毒婦」の極みだねぇー ジェニーに手玉にとられるブレンドンの哀れなこと・・・他人事とは思えなかった(!) 真犯人の造形の見事さも本作のグレードを高めている要因なんだろう。 かなりボリュームのある作品ですが、未読の方は十分一読の価値はありだと思います。 (できれば、本作→「緑衣の鬼」と読むべきだろうなぁ。個人的に逆になったのは失敗だった) |
No.624 | 6点 | ミハスの落日- 貫井徳郎 | 2012/01/15 15:22 |
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すべて外国の都市を舞台にしたノン・シリーズの作品集。
街の魅力的な風景が目に浮かぶようで、トラベルミステリー的な味わいも感じられます。 ①「ミハスの落日」=スペインの観光都市・ミハスが舞台。30年前に起こったある密室殺人の謎が明らかにされますが、トリックそのものは超偶然の結果というもの。本作は「後期クイーン問題」とも絡めて描いたと作者は語ってますが、イマイチ伝わらず・・・ ②「ストックホルムの埋み日」=主人公は伝説的な刑事を父に持つ男・ロルフ。父の人生を否定しながら自身も刑事となり、気付けば父と同じ境遇と化していた自分・・・既視感はあるが、なかなか味わい深い。 ③「サンフランシスコの深い闇」=3人の夫がすべて亡くなり、そのたびに保険金を受け取る美女。当然、保険金殺人の疑いがかかるわけですが、美女の過去や身辺を探るうちにある疑惑が浮かび上がってくる。 ④「ジャカルタの黎明」=売春婦が連続して殺される事件が発生しているジャカルタ・コタ地区。ハンサムな夫と別れた主人公の売春婦が夫殺しの疑いをかけられるが・・・。ラストはサプライズある真相が明らかになる。 ⑤「カイロの残照」=主人公はツアーガイドの男。あるアメリカ人美女のガイド役を務めることになったが、美女からある事件に関する協力を求められることに・・・そして、男にも危険が及ぶことになるが、意外なラストが訪れる。 以上5編。 5編は完全に独立した話だが、「美女が登場し、それが事件に深くかかわってくる」という共通項がある。 (やっぱり、「事件の陰には女あり」ということなんでしょうね) 貫井氏らしいトリックや練られたプロットなど、ミステリー的なインパクトを期待すると、ややスカされる感じはあるが、どの作品も深い味わいがあり、さすがに作家としての懐の深さを感じさせる。 旅のお供には良い作品でないでしょうか。 (④⑤辺りがお勧め。因みにストックホルムの街中は美女で溢れているらしいです。住んでみたい・・・) |
No.623 | 5点 | 死刑台のエレベーター- ノエル・カレフ | 2012/01/15 15:21 |
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1956年発表のサスペンス。
元々映画の方で有名だった作品ですが、近年日本でも映画化され話題に・・・ ~緻密に練り上げた完全犯罪を実行したジュリアンは、その直後に思わぬことからエレベーターに閉じ込められてしまう。36時間後にようやく外に出た彼を待ち受けていたのは、思いもよらない身に覚えのない殺人容疑だった。エレベーターに閉じ込められていた彼にはアリバイがない。しかも、閉じ込められた理由は決して話せないのだ。偶発する出来事が重なる中で追い詰められていく男の焦燥と苦悩を描き切ったサスペンスの傑作~ 決して「つまらない」わけではない・・・という微妙な読後感。 ストーリーは、主人公であるジュリアンのほか、彼の妻や兄、そして2組のカップルと多視点で語られていくが、中盤まではジュリアンが苦境に追い込まれる過程が分かるのみ。 そして、終盤はにっちもさっちもいかなくなり、袋小路に追い込まれていくジュリアンの姿が描かれていく。 個人的には、本作一番の読み所はサスペンス要素ではなく、登場人物たちの「エゴイズムのぶつかり合い」ではないかと思います。 正直、サスペンス的にはたいしたことはない。 「男の欲望」と「女の欲望」が、それぞれ嫌らしく交錯し、1人の人間がついには罪を負ってしまうことの刹那・・・ その辺が、映像化に向いているところなのでしょう。 (とにかく、ジュリアンの妻・ジュヌビエーブが嫌な奴・・・) |
No.622 | 8点 | 覆面作家- 折原一 | 2012/01/15 15:19 |
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初期の「叙述トリック全開!」作品。
実に折原らしい、折原にしか書けないストーリー&トリック。 ~顔に白頭巾をかぶって、ひたすらワープロを打ち続ける男。行方不明だった推理作家・西田操は7年振りに帰還して長編「覆面作家」の執筆に取り掛かった。それが、憎悪と殺意の渦巻く事件の発端だった。劇中の小説と現実が激しく交錯し、読者を夢魔の世界に誘い込む。真相は覆面作家だけが知っている・・・~ これは好きだなぁ・・・ 今回再読なのだが、こういう作品を読んだことがきっかけで「折原好き」になったんだよねぇ・・・ 当初、立風書房から出た単行本の帯には、「化けの皮は何枚被っているのか?」というコピーが付いていたらしいのですが、まさにこの言葉がピッタリ。 2人(?)の「覆面作家」が織りなす作品世界が徐々に歪んでいき、「いったいこの話は何重構造なのか?」と思わされてしまう。 ここで終わると「メタミステリー」っぽくなるが、本作は一応の合理的解決が付けられるところがミソ。 もちろん、かなりこじつけっぽいところはあるにはあるが、こんな奇想天外な話にオチを付けるだけでも十分満足。 さらに、ラストに2度ほどひっくり返されるが、そこはやや蛇足気味かな・・・ まぁ、もちろん「嫌いな人は嫌い」だとは思いますが、シャレの分かる方には十分お勧めできる作品かと思います。 (「覆面作家」って、モデルはやっぱり北○ ○氏のことなのかな?) |
No.621 | 5点 | 悪魔に食われろ青尾蠅- ジョン・フランクリン・バーディン | 2012/01/09 21:45 |
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1948年に発表されたサイコ・サスペンス風ミステリー(と言えばいいのか)。
1人の女性音楽家をめぐって、まるでエンドレスストーリーのような展開が・・・ ~精神病院に入院してから2年、エレンはようやく退院が許された。愛する夫の待つ家に帰り、演奏活動再開を目指し練習を始めようとするが、楽器の鍵の紛失に始まり、身辺では不穏な現象が相次ぐ。そして、久々の日常に改めて馴染もうとするエレンを嘲笑うがごとく日々増大する違和感は、義姉が連れてきた男を見た途端に決定的なものになる。封印されていた過去がもたらす悪夢の果てに訪れる衝撃の結末とは・・・~ これは正直よく分からん! 他の方の書評どおり、確かに出版された年代を考慮すれば、本作の先進性は明らかだし、賞賛に値するものなのでしょう。 創元文庫版のあとがきによれば、アメリカではこの年代に同種の作品がそれなりに発表されていたようですし、特に「精神分析」というテーマが登場するのもこの頃のようです。 主人公であるエレンの「頭や心の中の深遠」が次々に描かれ、これは現実なのか、妄想なのか、はたまた夢なのか、読者にとっては五里霧中で、とにかく最後まで翻弄され続けます。 ただ、個人的には好みの方向性ではなかったなぁ・・・ 再読すればもう少し腑に落ちるのかもしれないが、やっぱり現実と仮想の区別が今一つはっきりしないという状況では、オチの衝撃度も味わいきれてない気がしてならない。 そういう意味では、読み手を選ぶ作品という印象。 (こんなに薄い本なのに、時間かかったなぁ・・・) |
No.620 | 7点 | 刺青殺人事件- 高木彬光 | 2012/01/09 21:43 |
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江戸川乱歩の推薦を受け、1948年に発表された作者の伝説的処女長編。
名探偵、神津恭介の初登場や、日本家屋での密室殺人など様々な形容詞を伴って語られる作品ですが、今回はハルキ文庫版にて読了。 ~東大医学部標本室に残された100体もの刺青を施された人皮。中でもひときわ目を引くのは、極彩色に彩られた妖術師「大蛇丸」 の妖艶かつ不気味に浮かび上がる刺青であった。そして、この刺青こそかつてそれを巡っての、怪しくも狂おしい一連の殺人事件を引き起こしたものに他ならなかったのだ。巧緻に仕組まれた密室の謎が紡ぎ出す奇怪な惨劇に名探偵・神津恭介が挑む。日本推理小説史上に燦然と輝く不朽の名作!~ 今さら私なんぞが書評するべき作品でもないとは思いますが・・・ 読了してみて、やはり歴史的な意義の大きい作品であることは間違いと再認識させられました。 もちろん、2012年の現在から見れば、齟齬や不満点もあるにはあるのですが、それを指摘するのは野暮というものでしょう。 (とは言いつつも・・・) まず「密室」ですが、浴室を舞台にした機械的(初歩的だが)トリック。説明文を読んで一応は納得したが、正直感心はしなかった。まぁこれについては、多くの方が指摘しているとおり、物理的効果を狙ったものではなく、「心理的効果」を狙った密室なのだというロジックでまずは納得。 個人的には、本作一番の白眉は「密室」ではなく、「胴体のない死体」とアリバイトリックとの連動性だと思います。 更に、「双子」と「刺青」という要素も絡んでくるわけですし、ラストで神津によって明かされる「逆転の発想」が後世に与えた影響は大きいと思うなぁ・・・ (個人的には、島田荘司「出雲伝説7/8」のトリックを思い出してしまった・・・) ヴァンダインの向こうを張った「心理試験」が、囲碁と将棋というのも日本的で何か好感を持った。 「刺青」やら「三すくみ」といった不気味な装飾を施して煙に巻いていますが、真犯人の造形を含め、本作の骨子或いはプロットは非常にシンプルなものではないかと思います。 いずれにしても、紹介文のとおり、日本推理小説史上に欠かすことのできない作品という評価は否定できないでしょう。 |
No.619 | 7点 | 白戸修の事件簿- 大倉崇裕 | 2012/01/09 21:40 |
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頼まれると断れない、お人好しの大学生・白戸修が巻き込まれる事件の数々。
なぜか始まりはいつも「中野駅北口」っていうのも面白い。 ①「ツール&ストール」=殺人犯の濡れ衣を着せられた先輩を救うため、スリ専門の元刑事となぜか真犯人探しに奔走する修。1日動き回ったあげく、最後にドンデン返しが待ち受ける。 ②「サインペインター」=街中の電柱なんかによくある「ステ看」(サラ金なんかの看板ね)。この「ステ看」のバイトを急病の友人から無理やり振られた修。そして巻き込まれる「ステ看」張りの縄張り争い。そして最後には意外な構図と、修の思いやりが明らかに・・・ ③「セイフティゾーン」=本作では、何と銀行強盗の現場に遭遇する修。たった1人の味方・芹沢とともに4人の犯人グループと対峙することになったが、実は芹沢にも大きな秘密があった・・・。ラストのシーンにホッとさせられる。(確かに掃除道具って強力な武器にもなるよなぁ) ④「トラブルシューター」=今回は、ストーカー被害に悩む女性を守る私立探偵の相棒になぜか無理やり引っ張りこまれる修。想像を超えて執拗さを発揮するストーカーに翻弄されるが、これも終盤には意外な構図が浮かび上がる。 ⑤「ショップリフター」=今回はデパートの万引Gメンになぜか巻き込まれる修。本来の万引きGメンから携帯電話で指示を受け、右往左往するが、罠にはまり窮地に! そして、ラストにはまたしてもドンデン返しが・・・ 以上5編。 主人公である白戸修のキャラが効いてるし、ドタバタ感も面白い。 毎回、訳の分からないうちに犯罪に巻き込まれ、右往左往している途中で、裏側にある真のカラクリに気付くというプロットは共通しているが、読者も白戸に感情移入しやすく、作者が用意するオチや仕掛けに素直に楽しめた。 たまには、こんな「ホッと」する作品集もいいね。 (オチのインパクトでは①がいいかな。③もなかなか好きだけど・・・) |
No.618 | 7点 | 鋼鉄都市- アイザック・アシモフ | 2012/01/05 22:53 |
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1953年に発表された伝説的SF作品。
近未来(?)の地球、そして宇宙を舞台としたSF&本格ミステリー。 ~突然、警視総監に呼び出されたニューヨーク・シティの刑事ベイリは、宇宙人惨殺という前代未聞の事件の担当にされてしまう。しかも、指定されたパートナーは、ロボットのR・ダニールだった。ベイリは早速真相究明に乗り出すが、巨大な鋼鉄都市と化したニューヨークには、かつての地球移民の子孫であり現在の支配者である宇宙人たちへの反感、人間から職を奪ったロボットへの憎悪が渦巻いていたのだ・・・傑作SFミステリー~ さすがに、伝説的なSF作品だけのことはある。 ここでいう「宇宙人」とは、いわゆる「異星人」ではなくて、その昔地球から宇宙へ旅立ち、適当な惑星に住み始めた地球人のことを指している。そして、地球(本作の舞台はアメリカであるが)は、人間の住むスペースが「シティ」という閉ざされた空間に限られ、それ以外の場所は誰もいない、危険な場所という設定になっている。 (地球のすべてのエネルギーが原子力に依存しているという設定がなかなか皮肉だが・・・) そして、本作のテーマが「人間対ロボット」という図式。 これがいかにも1950年代に発表された作品ぽい。恐らく、この時代でいえば最先端に近いアイデアを盛り込んで本作は書かれているとは思うのだが、やはりどうしようもなく「古臭い」というか「時代」を感じさせてしまう。 恐らく、この時代のロボットは、いわゆる「ロボットらしいロボット」(昔の特撮ヒーロー作品みたいな奴?)を踏まえているため、作品中に出てくる「ヒューマノイド型(=人間と同じ造形をしている)」というのは、かなり大胆な発想だったのだろう。 その辺の、ベイリとダニールのやり取りはある意味興味深く読めた。 そして、本筋の殺人事件だが、真相はちょっと腰砕け気味。 ベイリは仮説を立てては壊し、立てては壊しというトライ&エラーを繰り返し、真相に行き着くわけだが、捨て推理の方が何だか魅力的な解法に見えたのだが・・・ ただ、ロボット工学三原則についてのやり取り(ベイリ、ダニールと博士の)はなかなか面白かった。 トータルで評価すれば、歴史的意義を含め、十分に手に取る価値有りと断言できます。 |
No.617 | 5点 | 屋根裏の散歩者- 江戸川乱歩 | 2012/01/05 22:51 |
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乱歩を代表する短編とも言える本作。角川文庫の「江戸川乱歩セレクション」で読了。
表題作のほか、「暗黒星」を併録。両作とも明智小五郎登場作品。 ①「屋根裏の散歩者」=世の中のすべてに興味を失った男・郷田三郎は、探偵・明智小五郎と知り合ったことで「犯罪」への多大な興味を持つ。彼が見つけた密かな楽しみは、下宿の屋根裏を歩き回り、他人の醜態を覗き見ることだった。そんなある日、屋根裏でふと思い付いた完全犯罪とは・・・ 実は初読なのだが、こんなにシンプルな作品だったんだねぇ。 郷田が残した1点の瑕疵から明智が彼の犯罪を暴くわけだが、他の乱歩作品と比べても、クドさや変態的趣味といった雰囲気は薄く、ラストも割とあっさり終わる。 この作品がこんなにも後世に影響を残したのは、屋根裏を這いまわり、他人の醜態を上から覗き見るという、そのビジュアルや想像力をかきたてる点にあるのだろう。 ②「暗黒星」=とある洋館で次々起こる謎の殺人事件と常に現場に登場する「黒マントの男」・・・ 本作は実に「乱歩らしい」作品。文庫あとがきによると、乱歩自身こういう作品を「探偵活劇」と自嘲的に呼んでいたとのことだが、確かにプロットが似通った作品がいくつもある。 少しでも乱歩に親しんだ読者であれば、恐らく20ページ程度読んだところで、真犯人や本作のプロットには予想がつくはず。そして、ラストは「やっぱりねぇ」という感想に・・・。 でも、これこそ「乱歩」作品というテイストを味わいたければ、手頃な分量だし、こんな作品こそという気にはさせられた。 |
No.616 | 6点 | 人間の証明- 森村誠一 | 2012/01/05 22:48 |
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2012年、一発目に何を読むかなぁーと思案し、セレクトしたのが本作。
発表当時、角川春樹事務所が大々的にメディアとタイアップし、シリーズ探偵となる棟居刑事が生まれた記念すべき作品。 ~「母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?」 西條八十の詩集をタクシーに忘れた黒人男性が、ナイフで刺され、都心のホテルの最上階に向かうエレベーターの中で死亡した。棟居刑事は被害者の過去を辿って、霧積温泉から富山県へと向かい、ニューヨークでは被害者の父親の過去を突き止める。日米共同の捜査の中であがった意外な容疑者とは? 映画化・ドラマ化され、大反響を呼んだ作者の代表作~ さすがにスケールの大きさを感じる作品。 主人公である棟居刑事を中心として、複数の登場人物の視点でストーリーは進行しますが、1人の黒人男性の殺人事件がこんなにも多くの人物の過去や人生と絡んでいたなんて・・・ 本作も、「高層の死角」などの本格ミステリーと同様、刑事たちが靴底をすり減らして丹念に捜査を進め、最後には真犯人に行き着くダイナミズムが描かれてますが、トリック云々ではなく、あくまで「社会派」寄りの作品になってます。 終盤、登場人物の過去が見事に(都合よく?)つながり、犯罪の背景や動機があからさまにされる刹那・・・そして、「人間の証明」という深遠なタイトルの意味に気付かされるとき、やっぱり本作のスゴさは感じましたね。 親子愛を西條八十の浪漫あふれる詩とタイアップさせ、徐々に人間関係が乾いてきた時代の姿を浮かび上がらせます。 ただまぁ、作品の質でいえば「好き嫌い」が分かれる作品でしょうねぇ。 トリックやら仕掛けがあるわけではないので、その辺は期待せぬよう・・・ (読んでると、何となく松本清張作品を読んでるような気にさせられたし、「砂の器」とのプロットの類似性というのも確かに感じた。) |
No.615 | 6点 | サム・ホーソーンの事件簿Ⅱ- エドワード・D・ホック | 2011/12/31 16:08 |
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アメリカ・ニューイングランドの片田舎の村の青年医師、サム・ホーソーンが大活躍の作品集第2弾。
前作同様、不可能犯罪がてんこ盛り! ①「伝道集会テントの謎」=サム医師以外誰もいないはずの部屋で突然男が刺殺される謎。サム自身が容疑者にされるが、結末はちょっと尻つぼみ気味。 ②「ささやく家の謎」=幽霊が住むとされる1軒の家で、幽霊らしき男を見た次の瞬間に、その男が死体として出現する謎。仕掛けとしてはまずまずだが・・・ ③「ボストン・コモン公園の謎」=舞台はいつものノースモントを飛び出し、ボストンのど真ん中の公園で起こる連続殺人事件。しかも全員針による毒殺という謎。これは、意外な真犯人を特定するロジックが秀逸な作品。 ④「食料雑貨店の謎」=繁盛している雑貨店の店主が銃殺される事件が発生。これは普通のパズラーっぽい。 ⑤「醜いガーゴイルの謎」=陪審員に選ばれたサム医師が巻き込まれる。裁判中に判事が青酸で毒殺されるという謎。ダイイング・メッセージが「ガーゴイル・・・」なのだが・・・。 ⑥「オランダ風車の謎」=ノースモンドにもついに「病院」が開業されるが、医師として採用された黒人医師をめぐって不可思議な焼死事件が起こってしまう。やっぱり、1920年代という設定らしく「黒人」に対する偏見が一般的だったことが窺える。 ⑦「ハウスボートの謎」=小さな湖に浮かべたボートから4人の男女が突如煙のように消え失せてしまう謎。こういう風に書くと、まるで「マリーセレスト号事件」のように摩訶不思議な謎のように見えますが、トリックはかなりチャチなもので偶然に頼り過ぎ。 ⑧「ピンクの郵便局の謎」=新規開業した郵便局の開業の日、大きな金額の小切手を入れた書留が忽然と消えてしまった謎。ポーの名作『盗まれた手紙』が引き合いに出されてますが、真相はちょっとリアリティに欠けるような気がする。まぁ、タイトルからして意味深ではあるが・・・ ⑨「八角形の部屋の謎」=ドアも窓も完全に密閉された部屋で起こった殺人。そう、まさに「ザ・密室殺人事件」ということ。トリックについては、シンプルで面白いが、細工の跡がかなり残ってしまうのが玉に瑕。 ⑩「ジプシー・キャンプの謎」=銃創がないのに、心臓に銃弾が残って殺されている男の謎と、一晩で忽然と消えたジプシーの謎。特に前者は不可能趣味が溢れていて題材として面白い。解法もなかなか。後者はちょっと乱暴。 ⑪「ギャングスター車の謎」=ギャング一味に拉致されてしまうサム医師が巻き込まれる消失事件。ちょっと分かりにくい設定だったが・・・ ⑫「ブリキの鵞鳥の謎」=曲芸飛行機といういわば「空飛ぶ密室」の中で刺殺された男の謎。確かに人の目があるとはいえ、遠くから見てるわけだから、こういったトリックも考えられなくはないのだろうが・・・ ⑬「長方形の部屋の謎」=本作はボーナス・トラックで、サム医師ではなく、レオポルド警部もの。同部屋だった2人の男のうち1人が殺され、もう1人はまる1日死体と同居していた! ラストにその理由が明かされるが・・・ 以上13編。 相変わらずの不可能犯罪だらけという感じの作品集ですが、印象としては玉石混交。 謎の提示は興味をそそられるものばかりだが、実際のトリックや仕掛けはちょっと腰くだけになっている作品も割と多い気がした。 そういう意味では、やはり短編集第1弾よりは落ちるかなという印象。 (中では、やっぱり③や⑨かなぁ) |
No.614 | 6点 | 林の中の家- 仁木悦子 | 2011/12/31 16:06 |
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乱歩賞を受賞した「猫は知っていた」に続く作者の第2長編。
ポプラ社から出ている復刻版で読了。 ~サボテンマニアの豪邸で留守を預かることになった仁木兄妹。ある日、深夜の電話で呼び出された2人は、有名劇作家の自宅で起きた殺人事件に巻き込まれてしまう。緻密に張り巡らされた伏線と鮮やかな推理、マイペースな植物学者の兄と、好奇心旺盛な妹の凸凹コンビが醸し出すユーモラスな雰囲気が、絶妙にブレンドされた本格ミステリー作品~ 作者らしい実に丁寧なプロット&筆致。 まだまだ戦後の香りが残る「東京」の雰囲気が出ており、読んでて何となくほのぼのしてしまう・・・ ラストには関係者一堂を集めて、お決まりの「真犯人指摘」までやってくれるし、全体的には堂々たる本格ミステリーたる要件を備えている。 真犯人はちょっと予想外だったなぁ・・・ でもって、ここからはちょっとした苦言なのだが・・・ 一言でいうと「詰め込み過ぎ」。 登場人物がかなり多いし、3つの異なる家族が入り乱れて登場し、それぞれに複雑な交友関係があるため、メモを丁寧に取っていかないと途中で混乱してくること必至。 主にはアリバイトリックなのだが、「偶然の要素」も複数登場しているので、これを読者がロジックのみで解き明かすのはちょっと難しいのではないか? そのため、ラストの謎解き自体も相当に「力技」のように思えた。 ということで、前作(「猫は知っていた」)よりは落ちるという評価になる。 (昭和34年発表ということで、当時の何となくのんびりした時代の雰囲気が伝わってくる・・・) |
No.613 | 7点 | 白い狂気の島- 川田弥一郎 | 2011/12/31 16:04 |
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乱歩賞を受賞した「白く長い廊下」に続く第2長編。
前作で職場の病院を追われた形となった医師・窪島と恋人・ちづるのコンビが再び事件に挑む。 ~狂犬病清浄国の日本で、39年振りに患者が発生した。台風が接近し孤立した幹根島を襲う白い狂犬の恐怖。誰が、いつ、どこから、島に持ち込んだのか? 島に赴任した青年医師・窪島は恋人のちづるの協力を得て、事件解明に乗り出すが、謎はますます深まるばかりに・・・。前作に続く迫真の医学ミステリー~ これは予想以上に面白かった。 前半は「狂犬病」の発生に怯える島民や窪島医師の姿を中心とした「パニック小説」的な味わいで、後半は一転して「誰が、なぜ」狂犬病を持ちこんだのかという「謎解き」が中心となる。 2つの違う「味」が楽しめる「おいしい」作品という感じ。 納得性はあるが、予想の範囲内というべき真犯人が指摘された後に、更なるドンデン返しが待ち受ける終盤もなかなか。 とにかく怖いわ、「狂犬病」が!! 一応、ウィキペディアでも調べてみたが、本作発表の約20年後の現在でも、「狂犬病」は発病すればほぼ100%の致死率、そして確たる治療法のない病気らしい。(ワクチンはあるが・・・) 窪島が狂犬に立ち向かう箇所は、なかなか戦慄モノ。 敢えて短所を探すなら、二兎を追ってる分、やや中途半端感があるところか。特に、最後に明かされる真の「動機」については、ちょっと荒唐無稽な気がする。 でも、まぁ十分に楽しめる作品ですし、もう少し評判になってもいいのでは? (何か、犬飼うのが怖くなってきた) |