皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.712 | 5点 | 林真紅郎と五つの謎- 乾くるみ | 2012/07/03 22:29 |
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地方の名家・林家の四男坊である真紅郎を探偵役とした作品集。
同じ林家の三男・茶父(さぶ)が主人公である「六つの手掛かり」読了したため、遡って本作を手に取ることに・・・ ①「いちばん奥の個室」=この「個室」とはあるホールの女性トイレ。少し前に別の場所にいたはずの女性が、なぜかあっという間にトイレの中で後頭部を殴られ瀕死の重傷を負う、という謎。こう書くとかなり高等なトリックが出てきそうだが、使われたトリックはあろうことか「○○」・・・。いやぁ、まさかねぇ・・・、これはいわゆる反則じゃないか? ②「ひいらぎ駅の怪事件」=舞台は地方駅のホーム。階段の上からの転落事件と、デジカメ盗難事件が発生するのだが、これもかなり偶然っていうか、「ふーん」としかいいようがない真相。 ③「陽炎のように」=旧友の妻が脳死判定を受け、臓器を提供するという事件が発生。そこに昔起こったある事件を絡めているのだが、結局は真紅郎の妄想に過ぎなかった、っていうことか? まるで「霊」が降りてきたように思わせぶりに書いているが、この真相もちょっといただけない。 ④「過去からきた暗号」=本作だけが文庫書き下ろしの好編。小学生時代に作った暗号文を20年後に解き明かすという趣向。暗号はポーの「黄金虫」やホームズものの「踊る人形」の焼き直しではあるが、解読したと思わせてもう一回ひっくり返されるだけよくできているとも言える。これは暗号を含め楽しめる。 ⑤「雪とボウガンのパズル」=犯人と思われる足跡なく残された死体・・・というよくあるプロットの変型版。凶器はボウガンということで、足跡は問題にならないのではという推測を抱くが、ある目的のために○○を使ったというところにプロットの「肝」がある。 以上5編。 「六つの手掛かり」はとにかくロジック一辺倒で、作者も楽しんで書いているのが分かる作品になっていたが、本作は狙いがちょっと曖昧な気が・・・ 真紅郎が得意とする「シンクロ推理」(真紅郎だからシンクロ・・・)も別になにか特徴があるわけではなく、インパクトに欠ける。 まぁ、初期作品ということもあるのか、粗が目立つ作品という印象が残った。 (④がベスト。⑤は普通。①~③はちょっといただけない。) |
No.711 | 5点 | 泥棒が1ダース- ドナルド・E・ウェストレイク | 2012/06/27 22:04 |
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作者の代表的キャラクター、泥棒のドートマンダー氏が活躍する作品集。
ハヤカワ・ミステリの「現代短編の名手たち」シリーズで読了。 ①「愚かな質問には」=妻を騙して渡した“偽物の”ブロンズ像を巡ったトラブルに巻き込まれたドートマンダー氏。帰るはずのない時間に帰ってきた妻にバッタリ出くわしピンチに陥るが・・・ ②「馬鹿笑い」=牧場からのサラブレッド強奪に協力するハメになったドートマンダー氏。しかし、相手は人間の意志が通じない「ケモノ」たちで、ついには隣の果樹園を巻き込んだ大騒動が起こってしまう・・・ ③「悪党どもが多すぎる」=銀行強盗に入ろうと地下金庫に大穴を開けたドートマンダー氏と相棒。しかし、何とその銀行にはすでに別の銀行強盗が押し入っていた・・・。これはなかなか面白いプロット。 ④「真夏の日の夢」=NYから逃げ出したドートマンダー氏が匿われたのが田舎の芝居小屋。しかし、そこで売上金強盗が出没し、その容疑者にされてしまう・・・。 ⑤「ドートマンダーのワークアウト」=なぜかショート・ショート。 ⑥「パーティー族」=盗みに入ったパーティー会場で、警察が押し入ってくるピンチ・・・。とっさにドートマンダー氏の取った行動は、ウェイターへの変身。 ⑦「泥棒はカモである」=警察からの追っ手を撒くため逃げ込んだポーカー台。ところが、そこにも警察がやってきてさらなる大ピンチに陥る・・・。ラストはなかなかヒネリが効いてる。(まさに「カモ」) ⑧「雑貨特売市」=ドートマンダー氏の商売仲間・アーニーの自宅で起こった騒動。大量のテレビをアーニー氏に売り付けようとした男女二人組には思わぬ秘密が・・・(そうきたか!) ⑨「今度は何だ」=ダイヤを盗んだはいいが、それを運ぶのに悪戦苦闘するドートマンダー氏。地下鉄やらタクシーやら利用する交通機関ごとに“たいへんな目に合う”ことに・・・特にラストは笑ってしまった。 ⑩「芸術的な窃盗」=昔の泥棒仲間が足を洗い、画家の道へ。そして個展を開いているというその男からある仕事を依頼されるドートマンダー氏。だが、そこはやっぱり一筋縄にはいかないわけで・・・ ⑪「悪党どものフーガ」=これだけはドートマンダーではなく、ラムジーを主人公とした作品。よく分からなかったが・・・ 以上11編+作品紹介の序文あり。 作品のプロットとしては、スマートな泥棒であるはずのドートマンダー氏が、依頼人や相棒たちの不手際によりピンチに陥り、ラストには解決・・・ということでほぼ共通。 アメリカンジョークっぽく「ニヤッ」と笑える作品も多く、さすがに「名手」という気もするが、個人的には好きなタイプではなかった。 (ウェールズ系の「ディダムズ」ネタで何回も笑わせようとしているが、アメリカ人には「ツボ」なのだろうか?) |
No.710 | 5点 | 仮題・中学殺人事件- 辻真先 | 2012/06/27 22:02 |
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愛称・ポテトとスーパーの2人組が活躍するシリーズ第1弾。
策士・辻真先がミステリーの限界(?)に挑んだ野心作(本当か?)。 ~推理小説の歴史を紐解けば「黄色い部屋の謎」や「アクロイド殺し」など、犯人の意外性で売り出した名作があまた存在する。ところがこれまで、どんな物語にも不可欠な人物であるのに嘗てこれを犯人に仕立てた推理小説というのは1編もなかった。読者=犯人である。そう、この推理小説中に伏在する真犯人は君なんです!~ 確かにちょっと「早すぎた」作品だと思った。 読者を犯人とするのは、今となってはメタ・ミステリーのテーマのようになっているが、本作の出版当時では相当に斬新だったはず。 「仕掛け」自体は個人的にはそんなに面白いとは思わなかったが、このチャレンジ精神には敬意を表したい。 特に、冒頭の「章」が実に効いている。 (これは騙されるよなぁ・・・) 作中作のプロットはかなり小粒。 最初の特急「かもめ」のトリックは西村京太郎作品に同一のものあり。(これって「あ○つ○」と同じだよねぇ) 密室トリックは正直付録レベルで、誉められるようなレベルではない。 まぁ、騙されたと思って読んでみるのもいいんではないか? (因みに、高木彬光「刺青殺人事件」はかなりネタバレを含んでますのでご注意を) |
No.709 | 6点 | 七日間の身代金- 岡嶋二人 | 2012/06/27 21:58 |
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1986年発表。男女二人組の素人探偵が活躍するノンシリーズ。
「人さらいの岡嶋」という異名をとる作者の「誘拐もの」。 ~プロデビューを目指す若き音楽家カップルの千秋と要之介。ある日、富豪の後添いとなった友人から、弟と先妻の息子が一緒に誘拐されたという相談を受ける。身代金の受け渡し場所は、どこにも逃げ場のない湘南の小島。にわか探偵と化した2人は真犯人を追うが・・・。誘拐と密室の二重の謎に挑む、傑作青春ミステリー~ さすが、作者の「誘拐もの」らしく、十分水準級の面白さ。 誘拐の相手が「成人男性2名」ということからして普通の誘拐事件ではない。 2人の他にも、関係がありそうな男女1組+関係ありそうもない男性1名も同時に行方不明になるなど、中盤まではとにかく謎が謎を呼ぶ展開。 そして、主人公の女性が事件の構図を見抜いて以降は、「島」と「地下室」という二重の密室が立ち塞がる。 地下室の密室トリックはあまり感心はしなかったが(何しろ、トリックの鍵がアレですから・・・)、見せ方はやはりうまい。 中盤までの謎が伏線として、ラストは見事に回収される手練手管は作者ならではなのだろう。 (まぁ偶然が重なったというプロットがどうかという問題はあるが・・・) 真犯人の造形は確かにキモイかもなぁ・・・最後の「自白」がちょっとエグイ。 いずれにしても「人さらいの岡嶋」の名に恥じない作品なのは確かでしょう。 (個人的には「どんなに上手に隠れても」が作者誘拐もののベスト) |
No.708 | 6点 | 黒いカーテン- ウィリアム・アイリッシュ | 2012/06/19 22:00 |
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ウールリッチ名義で1941年に発表されたのが本作。
「黒いアリバイ」ほか一連の“ブラックシリーズ”の1つ。 ~ショックを受けたタウンゼントは記憶喪失から回復した。しかし3年の歳月が彼の頭の中で空白になっていた。この3年間何をしてきたのか自分には分からない。教えてくれる者もいない。しかし、不気味につけ狙う怪しい人影がタウンゼントの周囲にちらついている。異様な状態のもとで殺人者として追われる人間の孤独と寂寥を圧倒的なサスペンスで描く~ このシンプルさが逆に斬新かも。 創元文庫版で200頁足らずの分量だが、サスペンスとしての材料、魅力は十分に詰まっていた。 西暦2012年の今を基準とするなら、確かに物足りなさはあるし、他にいくらでも同系統の秀作はあるだろう。 ただ、この時代に本作を書いたことに価値があるのだ。 本作でも十分にハラハラできたし、伏線の絶妙さを味わうことができた。 そういう意味ではスゴ味すら感じる。 ただ、多くの「?」が消化されないままに終わってしまったのがいかにも残念。 (気付かなかったのか? 放っといたのか?) 特に、なぜタウンゼントが記憶を失ったのかという、この手のサスペンスには必須と思われるプロットが完全にスルーされていたのは、いくら何でも・・・ まぁよい。とにかく、手頃な分量で古典的名作が読めるのだから。 (ルスが何とも可哀そうだ・・・) |
No.707 | 6点 | ブラジル蝶の謎- 有栖川有栖 | 2012/06/19 21:58 |
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国名シリーズの作品集では第2作目に当たる作品。
火村&アリスの名(?)コンビが今回も活躍。 ①「ブラジル蝶の謎」=殺人現場に残されたアマゾン河流域に住むという美しい蝶、蝶、蝶・・・。携帯電話を使ったアリバイトリックは、推理クイズレベルの小品だが、アイデアは光る作品。 ②「妄想日記」=大豪邸の庭で炎に包まれた死体が発見される。そして、被害者が軟禁されていた部屋に残された「謎の文字で綴られた日記」。死体を燃やした理由が印象的。 ③「彼女か彼か」=殺害された被害者は美しいニューハーフ。これはどこかで「人物誤認」を仕掛けてるなというのは、最初から察してしまうが、余りにも予想通りのトリックかな。 ④「鍵」=殺人現場に残された1本の謎の「鍵」。家や部屋の鍵でもなく、宝石箱や時計の鍵などでもない、では? いやぁー、こんな鍵って本当にあるんだろうか? ⑤「人喰いの滝」=「足跡」に関するトリックは数多いが、これは相当シュールなトリック。フーダニットの方に工夫がないのが惜しいが、これも見せ方の問題かな。 ⑥「蝶々がはばたく」=これも「足跡」に関するトリックなのだが、これは生涯一度しか使えないトリックだろうなぁー。作者あとがきを読んで納得したが、そういう時期だったんだんだねぇー。 以上6編。 全体的には、短編らしいワンアイデアの光る作品が並んだなぁーという感想。 アリバイやら密室といった「肝」になる部分は正直たいしたことはないのだが、予想よりは面白く拝読させていただいた。 (個人的に本シリーズはそんなに評価してないので・・・) 氏の短編を読んでると、「短編作品とはこう書くんだ」というのが何か分かるような感じがする・・・ (ベストは①かな。あとは⑤) |
No.706 | 5点 | 「裏窓」殺人事件 tの密室- 今邑彩 | 2012/06/19 21:56 |
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「i~鏡に消えた殺人者」に続く、警視庁捜査一課・貴島柊一シリーズの第2作。
作者らしい軽いオカルト風味の効いた作品。 ~自殺と見えた密室からの女性の墜落死。向かいのマンションに住む少女は、犯行時刻の部屋に男を目撃していた。少女に迫る犯人の魔の手・・・。また、同時刻に別の場所で起こった殴殺事件も同一人物の犯行と見られるが・・・。衝撃の密室トリックに貴島刑事が挑む。本格推理+怪奇の傑作!~ 良くいえば「まとまってる作品」。悪くいえば「地味」とでもいうべきか・・・ プロットはよく練られてるし、女流作家らしく洗練されてる。 プロットのメインは王道ともいうべき「アリバイトリック」。 最初から小道具として「時計」が再三登場するので、読者としてもトリックの大筋には気付いてしまうのが難だが、見せ方はうまい。 電話や「音」を伏線などで効果的に使ってるのもなかなか。 そして、もう一つのサプライズが真犯人と動機。 この「動機」はスゲエなぁ・・・ 普段は至極まともな人間なのに、特定の部分だけは常人では考えられないほどの異常さを示す。 これぞ狂人の考え方なのだろうが、迫力があって犯人の造形としては成功しているだろう。 さらに、追い打ちをかけるような、複雑な事件の背景・・・ まぁ、これも1人の脇役のエピソードに長々文字数を使ってるので、「なんかあるな」とは察してしまった。 というわけで、誉めるべきところは多いものの、個人的には前作の方が好き。 (貴島刑事の謎は徐々に明らかにされるものの、まだまだ秘密の多い過去がある模様・・・) |
No.705 | 6点 | 密室の如き籠るもの- 三津田信三 | 2012/06/16 15:44 |
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刀城言耶シリーズ初の作品集。
短編3編のほか、表題作は長編と言ってもおかしくないくらいの分量。 ①「首切の如き裂くもの」=喉切り魔が何人もの女性を手にかけたといういわくつきの現場。そして、またしても若い女性が喉を切られる事件が発生する・・・。主題は「凶器消失」なのだが、確かにトリック自体は斬新。ただ、何となくビジュアル的には説明されてもちょっと想像つかない感じにはなる。結局、過去の事件の真相はそのままスルーされたのもやや残念。 ②「迷家の如き動くもの」=山奥の村の境界にある一軒の古家。少しの時間差を置いて通りかかった人間が、その家を見たり見なかったりする・・・。これも①と同様、真相解明で「ふんふん」とは思ったが、ビジュアル的にはちょっと思い描きづらい。家屋消失トリックもそうだが、この手のトリックは見せ方が難しい。(その分、作家の手腕次第とも言えるが・・・) ③「隙魔の如き覗くもの」=ふすまなどのちょっとした隙間に潜んでいるとう怪物が「隙魔」・・・。昔からこの「隙魔」に魅入られてしまった女性が巻き込まれる殺人事件。要はアリバイトリックなのだが、トリックの「肝」となるある「仕掛け」については、ちょっと無理があるように思える。プロット的にはシンプルで①②より面白いが、トリック自体は小品。 ④「密室の如き籠るもの」=表題作。旧家の猪丸家に現れた記憶のない謎の女・葦子は、開かずの間だった蔵座敷で狐狗狸さんを始める。だが、そこは当主・岩男の前妻たちが死んだ場所だった。刀城言耶が訪れた日も狐狗狸さんが行われるが、密室と化した蔵座敷の中で血の惨劇が起こる・・・~ これはとにかく「密室講義」がうれしかった。こういう読者サービスっていうか、本格ファンの心をくすぐる仕掛けは単純に喜んでしまう。 (嫌いな方は、「何で」と思うだろうが・・・) で、肝心の「密室トリック」なのだが、ちょっとスッキリしないというか、奇をてらい過ぎではないか? 「赤箱」やら「狐狗狸さん」やら、ここまで魅力的かつ禍々しい“道具立て”をしたにしては「深み」を感じないトリックに思えた。 1人1人の登場人物についても、分量の制約上といえばそれまでだが、ちょっと書き込み不足のような気が・・・ トータルでは、やっぱり本シリーズに対する「期待」には届かなかったという感想になった。 (そもそもハードルが高いのではあるけれど) まぁ短編向きではないんだろうね。 |
No.704 | 6点 | 迷走パズル- パトリック・クェンティン | 2012/06/16 15:42 |
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1936年発表のパズルシリーズ第1作。(巻末解説によると邦題に苦心したようですが・・・)
最近、創元推理文庫として出版されたものを読了。 ~演劇プロデューサーのピーター・ダルースは2年前に妻を亡くしてから酒浸りになり、とうとう入院加療の身となった。とある晩、彼は「ここから逃げろ、殺人が起こる」という自分の声を聴いてパニックに陥る。幻聴か? その話を聞いた療養所のレンツ所長は、少し前から院内に不穏なことが続発しているので調べてくれと頼んでくる。かくして内偵を始めたところが美女と恋におち、折しも降りかかった殺人事件の容疑から彼女を救うべく奔走することに・・・~ 邦訳がいいし分量も手頃ということで、実に楽しい読書にはなった。 「精神系の療養所」という舞台装置が実に効いているのが本作。 入院患者たちは、精神のどこかしらに問題があり、スタッフ側の人間も何となくキナ臭い人物が揃っている・・・ その辺り、容疑者候補も多士済々で、フーダニットとしての面白さを備えていると言えるのだろう。 ラストは、主人公・ダルースが名探偵ばりに真相究明!と思いきや、ドンデン返しが待ち受けてるし、出版年度を勘案すれば実にアイデア満載、古さは全く感じなかった。 ただし、ロジックの積み重ねで真犯人究明というわけではない点が、やはり不満要素にはなるかなぁー。 「動機」はまぁいいとして、真犯人の「ある特徴」というのは後出し的に出されたという印象は免れない。 (まぁ、不可思議な「声」のカラクリにピン!とくれば、察せなくはないが・・・) 一読者としては、もう少し伏線に工夫があればという気にはなった。 ただ、評価としては十分水準級はクリアしてるし、シリーズの初っ端ということなので、2作目以降に期待というところ。 (こんな明るい病院って・・・なかなかない!) |
No.703 | 5点 | 王を探せ- 鮎川哲也 | 2012/06/16 15:39 |
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鬼貫警部と丹那刑事の名コンビが活躍する人気シリーズの1作。
1979年に「王」と題して発表された中編を加筆修正し、改称したのが本作。 ~だから、どの「亀取二郎」が犯人なんだ? その「亀取二郎」は2年前の犯罪をネタに恐喝されていた。耐え切れず、彼は憎き強請屋・木牟田を撲殺する・・・。警察が被害者のメモから掴んだのは、犯人が「亀取二郎」という名前であること。だが、東京都近郊だけで同姓同名が40名。やっと絞り出した数人は全員アリバイを持つ、一筋縄ではいかない「亀取二郎」ばかり。鬼貫・丹那のコンビが捜査するなか、犯人は次なる凶行に及ぼうとしていた・・・~ プロットは面白いが、なんとも中途半端な読後感だった。 紹介文のとおり、犯人の名前は事件の発生直後に判明しているのだが、同姓同名が多いうえに、5名に絞られた容疑者たちは全員鉄壁のアリバイを持つ、というのが本作の「肝」だ。 (「亀取二郎」なんていう珍名がそんないるか? という当然の疑問は置いといて・・・) となると、本シリーズの定番である「アリバイ崩し」の出番。 今回のアリバイトリックは確かに「凝ってる」。 途中、鬼貫警部が犯人が弄したであろうトリックを説明してくれるが、実はこれが捨てトリック。 ただ、終盤に判明する真のトリックがショボイ、っていうかある意味強引。 この時代の「急行列車」ならでは、ということなのだが、新幹線や特急列車に馴染んだ現世代の方々には想像つかないんじゃないか? 死亡推定時刻の「誤認」についてはウマイようだが、かなり「雑」にも思えた。(タイトルも本筋との関係が薄いのではないか?) まぁ、鮎川作品としては晩年に発表されたもので、トリックの見事さよりは、リーダビリティーや作者らしい軽妙な語り口を楽しむべき作品のような気がする。 (本作でも事件の舞台の1つとして「鎌倉周辺」が登場・・・好きなんだねぇー) |
No.702 | 6点 | 詩的私的ジャック- 森博嗣 | 2012/06/10 18:55 |
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1997年発表、S&Mシリーズの4作目。
今回も「密室」をキーワードにした連続殺人事件が犀川の推理の対象に。 ~大学の施設で女子大生が連続して殺された。現場は密室状態で死体には文字状の傷が残されていた。捜査線上に浮かんだのはロック歌手で大学生の結城稔。被害者と面識があったうえ、事件と彼の曲の歌詞が似ていたのだ。N大学工学部准教授・犀川創平とお譲様学生・西之園萌絵が、明敏な知性を駆使して事件の構造を解体する~ 一般的な評判ほど悪い作品とは思わなかった。 (S&Mシリーズ作品としては評価の落ちる作品のようだが・・・) 「密室」については、howよりもwhyに拘ってる。 あまり書くと思いっきりネタバレになるが、第1,2の殺人そのものと密室トリックが、第3,4の殺人のいわば「前フリ」になっているというプロットは個人的には好き。 この辺りは、「理系ミステリー」というオリジナリティというよりも、実は古式ゆかしい本格ミステリーのプロットを応用したもので、水準以上の質の高さを窺わせる。 (死体に残した傷に関する欺瞞なんかも、まさに正統本格ミステリーそのもの) 他の多くの方が指摘している「動機」については、確かにちょっと荒唐無稽だ。 探偵役の犀川も動機の探求はそもそもやる気がないし、ラストに判明した動機については、そこまでその人物に対する書き込みや伏線もないのだから、アンフェアと言えなくもない。 でも、そもそも本シリーズの動機へのアプローチは、従来のミステリーとは一線を画している筈。 「どうでもいい」とまでは言わないが、まぁ二の次という取扱いでいいのだと思った。 以上のとおり、特に悪くはないのだが、他作品に比べるとちょっと落ちるかなという評価には賛成せざるをえないかな・・・ |
No.701 | 6点 | パノラマ島奇談- 江戸川乱歩 | 2012/06/10 18:51 |
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乱歩代表作の1つとも言える本作。今回、角川ホラー文庫版で読了(本作では『奇譚』)。
表題作のほか、中編「石榴」を併録。 ①「パノラマ島奇譚」=売れない物書きの廣介は、極貧生活ながら独特の理想郷を夢想しつづけていた。彼はある日、学生時代の同窓生で自分と容姿が酷似していた大富豪・菰田が病死したことを知り、自分がその菰田になりすまして理想郷を作ることを思い付く。荒唐無稽な企みは、意外にも順調に進んでいったのだが・・・ 非常に乱歩テイスト溢れる作品だなぁーという印象。 中盤は主人公が無人島に築いた理想郷の描写が続くのだが、描写がいかにも乱歩風。 とにかくしつこく、読者の心を徒にザワザワさせるような描写・・・ これって、本当にこの時代の読者に受け入れられたのだろうか? 私のようにホラーテイストに弱い読者には、その辺りが何となく不思議なのだ。 (これって、キレイに書けば、要するに「テーマパーク」だよなぁ・・・) ラストに現れる「北見小五郎」なる人物。これって、完全に明智小五郎だろうな。(なんで苗字だけ変えたんだろ?) 確かに、他の作家では書けない乱歩らしさを味わうことはできるが、個人的にはあまり好きになれない作品。 ②「石榴」=本作はE.C.ベントリーの名作「トレント最後の事件」に触発されて書いた作品とのことだが、個人的にはこちらの方が①よりよっぽど好み。 主人公が旅先で出会った紳士に過去の事件(「硫酸殺人事件」)を語って聞かせるが、ラストにどんでん返しが・・・というプロット。 硫酸で顔を潰された死体というだけで、古臭い入れ替わりトリックが想起されるが、古臭いのは致し方ないところ。 終盤でジャンケンが引き合いに出されて、「裏の裏」か「裏の裏の裏」かという話が出てくるが、見せ方はやっぱりこなれててうまいなという感想にはなった。 ラストのドンデン返しも想定内ではあるが、とにかく短編らしいキレ味や余韻を感じられる良作という評価。 (指紋の件は、時代性を勘案してもちょっと捜査がずさん過ぎる気はしたが・・・) |
No.700 | 9点 | 長いお別れ- レイモンド・チャンドラー | 2012/06/10 18:48 |
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記念すべき700冊目の書評は、ハードボイルド史上最大の傑作とも言える本作をセレクト。
1954年発表。R.チャンドラー畢竟の名作とも言える本作。 村上春樹訳版「ロング・グッバイ」とどちらにしようか迷ったが、やっぱりチャンドラーと言えばこっちだろと思い、清水俊二訳版で読了。 ~コーヒーをつぎ、タバコに火をつけてくれたら、あとはぼくについてすべてを忘れてくれ・・・妻を殺したと告白して死んだテリー・レノックスからの手紙にはそう書かれていた。彼の無実を信じ、逃亡を助けた私立探偵F・マーロウには心の残る結末だった。だが、別の依頼でテリーの隣人の失踪の理由を探るうち、マーロウは再び事件の渦中へと巻き込まれてしまう。ハードボイルドの巨匠が瑞々しい文体と非情な視線で男の友情を描き上げた畢生の傑作!~ うーん。さすがにスゴイ・・・ 書評なんぞをグダグダ書くような作品ではないような気がする。 とにかく、本作については、ミステリー的にこうだとか、ここが惜しいなどと細かい粗さがしをすべきではないし、しない。 文庫版で500頁を超える大作なのだが、読んでるうちに完全に作品世界に呑みこまれてしまった。 まさにこれがマーロウという男なのだ! わずかの期間、友人だったレノックスという男のために、危険を顧みず事件の渦中に身を投げ出していく姿、2人の美女に翻弄されながらも己の本分を貫こうとするスタンス・・・ ニヒルなだけではない、熱い心を宿しながらも決して表にはそれを見えない、それが男の美学。 二転三転する終盤からラストにミステリー要素を垣間見ながら、静かなラストへ。 そしてまた、ラストの1行が実に小粋で心憎い。 とにかく、「ハードボイルドの最高傑作」の金看板は決して誇張ではないという評価。 何とも言えない作品の高貴さと奥行きを是非味わって欲しい。 (やっぱり美しい薔薇にはトゲがあるってことかなぁー、って陳腐な感想・・・) |
No.699 | 8点 | クライマーズ・ハイ- 横山秀夫 | 2012/06/05 15:56 |
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1985年に発生した日航ジャンボ機墜落事故。突如発生した未曾有の大災害に沸き立つ地方新聞社を舞台にした、作者渾身の作品。
事件が発生してはや25年以上が経過・・・時の流れは早いね。 ~1985年。御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者・悠木和雅が全権デスクを任命される。一方、ともに谷川岳に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相克、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは?あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる。作者渾身の傑作長編~ これは熱いねぇー。それ以上に「男くさい」って言うか、「男くささが充満した」作品。 作者自身、日航機事故発生当時は、群馬県の上毛新聞社の記者だったという経緯もあって生まれた作品なのだろうが、とにかく臨場感がハンパではない。 これまで、作者のプロットのうまさ、筆の確かさは他作品で十二分に味わってきているが、本作はそれにプラスして、読者への訴求力とでもいうべき「熱き魂」を感じざるを得なかった。 主人公の悠木は、作者を投影した姿なのだろうか? とにかく、彼の事件記者という仕事に対する「姿勢」そして「想い」が心に染みた。 内面では、仕事に対しても、家族に対しても自信を持てないのに、それでも自分が信じた「新聞記者」に向かって突き進んでいく姿、そして行動力、汗・・・全てが男の矜持を表しているようで何とも「眩しい」のだ。 やっぱり、男っていうのは己の仕事に「誇り」を持てないようではダメなのだろう。 それを今さらながら思い知らされたような気分。 で、本筋については、ラストが測ったようなハッピーエンドで終わったのが救われたような、ちょっと陳腐なような複雑な感覚。 もう少し余韻をひくようなラストならもっとよかったかとは思う。それが唯一の不満点。 まぁ、決してミステリーではありませんので、評点としてもこの程度に留めますが、「小説」としてなら15点くらいは付けたい作品。 (御巣鷹山がこんな惨状だったのなら、東日本大震災後は一体どんな惨状だったのか? 想像を絶する・・・) |
No.698 | 5点 | 猫丸先輩の空論 超絶仮想事件簿- 倉知淳 | 2012/06/05 15:54 |
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大好評(?)猫丸先輩シリーズの連作短編集。
前作に引き続き、タイトルは他作家の有名作をもじってます(見れば分かるか・・・)。 ①「水のそとのなにか」=毎夜、ベランダに1本ずつ置かれる水のペットボトルについての謎。真相はいわゆるメッセージなのだが、でもこんなしち面倒くさいことやる奴いるかぁ!? と思ってしまう。 ②「とむらい自動車」=これも実に「空論」らしい推理。まぁ、犯人(?)の方の気持ちは分からんでもないが、何もここまでしなくてもねぇ・・・ 本シリーズの名バイプレーヤー・八木沢君がもしや?と思わせたのは読者へのサービスか? ③「子ねこを救え」=実にほのぼのさせられる作品。こういう幼馴染みの関係ってフィクションの世界ではよくあるけど、実際はないんだろうなぁ。(本当にあったら羨ましい・・・) ④「な、なつのこ」=「スイカ割り」に公式ルールがあるというのは初耳。しかし、これも「どうでもいいような」話ではあるなぁー。一応、タイトルが真相をうまく表しています。 ⑤「魚か肉か食い物」=確かに、こういう女性の体(内臓)っていったいどうなっているのか興味あるなぁ・・・。やっぱり、細胞レベルで常人とは全然違ってるんだろうなぁーって、本筋はどうでもよくなってる。 ⑥「夜の猫丸」=本シリーズには珍しく、多少オカルトタッチの作品(たいしたことないけど・・・)。これも本筋とは関係ないけど、八木沢君が高校の同級生たちのことを心配してる姿がしみじみとしていてよい。 以上6編。 相変わらずの作風&プロットで、ファンならば楽しめることは請け合い。 ただ、本当に「空論」だし、「日常の謎」もここまで下世話なレベルにまで落とされるとちょっとツライ感じにはなった。 まぁ、いまさら猫丸先輩にシリアスな探偵役は似合わないだろうし、これはこれで次作に期待するとしよう。 (ベストはと聞かれると困るが、敢えて言えば⑥かな・・・) |
No.697 | 5点 | 水晶の栓- モーリス・ルブラン | 2012/06/05 15:51 |
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1910年に発表されたアルセーヌ・ルパン登場の有名作の1つ。
大昔にジュブナイル版で読んだ記憶はあるのだが、内容は全く思い出せない・・・。今回、創元版で読了。 ~大規模な運河汚職事件の唯一の証拠を握り、それによってフランス政界を思うままに牛耳っている実力者ドーブレック代議士に対して、英雄A・ルパンは敢然と立ち上がった。しかし相手はルパンを上回る怪物で、部下に裏切られたルパンは不運と失策と敗北を続け、再三窮地に陥る。ドーブレックの手から汚職の証拠品さえ取り上げれば、さしもの悪徳代議士もその神通力を失うのだが、誰の目にも晒されている、最もありふれた隠し場所が却って盲点になりルパンにさえ分からない。それは一体?~ まずまず楽しめた、っていうような読後感。 本作の読みどころは、①ルパンがいつもの快刀乱麻ではなく失敗を繰り返す、というプロットと②汚職の証拠品の隠し場所の謎、この2点だろう。 まず①だが、 今回は、ルパンとは思えない迷いや手際の悪さが重なり、特に前半~中盤にかけては「らしくない」ルパンの姿が描かれることになる。 まぁ、これを人間味あって新鮮と取るか、らしくなくて嫌だと取るかは人それぞれかと思うが、個人的にはこういう展開も十分「あり」だとは感じた。 美人に弱いというのは毎度毎度のことだが、今回は特にそれが目に付くのが若干気にはなったが・・・ (そんなにクラリッスって魅力的には思えなかったが・・・) で、②の方だが、 この趣向は、ポーの「盗まれた手紙」以来、多くの作家たちが繰り返し巻き返してきたもので、今回もその1つとは言える。 途中でダミーの隠し場所が何種類か登場してきて若干うるさいが、ラストにルパンが辿り着いた「真の隠し場所」は確かに意外といえば意外。まぁ、紹介文のとおりで「盲点」そのものではあるだろう。(結構、伏線は張られてたんだよなぁ) タイトルの「水晶の栓」が最終的にはあまり関係なくなってくるのが、若干物足りない気にはさせられた。 ①②以外の部分はそれほど特筆するところはなし。 全体的にはやっぱり、他の有名作よりは1枚落ちるかなという印象。 |
No.696 | 6点 | 上高地の切り裂きジャック- 島田荘司 | 2012/06/01 23:13 |
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御手洗潔シリーズの中編2つで構成された作品集。
2003年発表。「奇想」をテーマにこの時期続けざまに出された作品の1つ。 ①「上高地の切り裂きジャック」=女優は腹を切り裂かれ、内臓を抜き取られ、代わりに石を詰め込まれた惨殺死体で発見された。いったいなぜ、何のために? そして容疑者には鉄壁のアリバイが・・・。切り裂きジャックが日本に甦ったかのような猟奇殺人に名探偵・御手洗潔が挑む。 タイトルにはあるが、本文中では「切り裂きジャック」の文字は一切出てこない。というのも、作中に描かれる事件自体が本家に遠く及ばないほどスケールが小さいからだろうか? 臓器が抉り取られた理由というのも、実に下世話な理由だし、動機も推して図るべし・・・ 御手洗は遠く北欧から、石岡からのメール&電話だけでアッという間に真相を見抜くのだが、こんな物証だけで真相を見抜くなんて、もはや「名探偵」なんていう域は超えて、「超人」としかいいようがない。 ちょっと不満の残る作品という感想。 ②「山手の幽霊」=こちらの方が個人的には好み。 いかにも「御手洗もの」という味わいなのだが、事件の舞台が平成2年で、まだ御手洗が石岡とともに横浜・馬車道に住んでいるころの事件なのが理由か? ストーリーは、2つの突拍子もない事件の相談が御手洗のもとに持ち込まれ、見た目は全く別々の出来事と思われた事件が、御手洗の頭脳により見事につながり、解決されていくというプロット。 これは、もう御手洗もの短編の定番中の定番。(個人的には「山高帽のイカロス」を思い出してしまった・・・) 真相ももう、「定番中の定番」、“偶然の連続”というやつ。 ということで、島田ファンなら安心して楽しめる作品という感じでしょうか。 (加えて、横浜という街についての歴史の勉強にもなる・・・) |
No.695 | 7点 | ウィチャリー家の女- ロス・マクドナルド | 2012/06/01 23:09 |
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名作「さむけ」と並ぶ、作者の代表作。
私立探偵・リュウ・アーチャーが今回も渋くキメてくれます。 ~フィービ・ウィチャリーが失踪したのは霧深い11月のことだった。それから3か月、彼女の行方は杳として知れなかった。そして今、私立探偵のアーチャーは、父親の大富豪ホーマー・ウィチャリーに娘の行方を探してくれとの依頼を受ける。フィービの失踪は彼女の家庭の事情を考えれば、当然のことだった。調査を進めるアーチャーの心にフィービの美しく暗い影が重くのしかかる! アメリカの家庭の悲劇を描き出す巨匠の傑作~ やっぱり何ともいえない作品世界。 リュウ・アーチャーは、F・マーロウほどニヒリストではないが、淡々と捜査を進めるなかにも、熱い心の存在・動きを行間から漂わせている気がする。 誰もがアーチャーには秘密を打ち明けてしまう。これを「ご都合主義」と呼ぶのはたやすいが、彼の造形・キャラクターがあればこそのプロットなのだろうと思う。 さて、本作も単なるハードボイルドではなく、謎解き要素も加えた「本格系ハードボイルド」とでも言うべき作品。 まぁ、あの人とあの人の○れ○○りというのは、正直無理があるような気がするが・・・ (いくらそれっぽくしたとしてもなぁー。年齢が違いすぎるだろ。) ラストになって急浮上する人物については、中盤以降「いかにも」というような配役になっていて、この真相は大方の予想通り。 アーチャーが気付くのが逆に遅すぎるくらいじゃないかと・・・ とにかく、全盛期の作者の脂の乗った作品なのは間違いない。 個人的には、「さむけ」の方がやはり上かと思うので、評点はこのくらいで。 |
No.694 | 6点 | おやすみラフマニノフ- 中山七里 | 2012/06/01 23:07 |
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デビュー作である「さよならドビュッシー」に続く音楽ミステリー第2弾。
前作に続き、天才ピアニスト・岬洋介が探偵役として登場。 ~第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は、初音とともに秋の演奏会を控えプロへの切符をつかむため練習に励んでいた。しかし、完全密室で保管されていたはずの時価2億円のチェロ・ストラディバリウスが盗まれた。彼らの身にも不可解な事件が次々と起こり・・・。ラフマニノフの名曲とともに明かされる驚愕の真実!美しい音楽描写と精緻なトリックが奇跡的に融合したミステリー~ 「小説」としては面白かった。 前作もそうだったが、とにかく「音楽についての描写」は圧倒的。 ストーリーの中盤にある晶と洋介の演奏場面、そして終盤、音大で行われたリサイタル(オーケストラ)場面・・・双方とも、ピアノやバイオリンの奏でる圧倒的なパワーや美しい旋律が「文字」を通して伝わってくる。 いやぁー、この辺りの筆力にはやはり脱帽いたします。 ただ、ミステリーとしてはお世辞にも誉められない。 っていうか、単なる付け足し。(これも前作と同様だが・・・) メインは、チェロの名器が密室から忽然と姿を消す、という謎なのだが、このトリックがヒドイ。 はっきり言えば、なくてもいいくらい。 また、ピアノの破壊(グランドピアノの中に水を2リットル注ぐという荒ワザ!)の謎についても、途中で大方の予想は付いた。 まぁ、そういった「瑕疵」を差し引いても、読む価値は十分とは言えそう。 特にラスト1行が何とも美しい・・・ (因みに、ラフマニノフは20世紀前半に活躍したロシア生まれの作曲家。) |
No.693 | 6点 | 出口のない部屋- 岸田るり子 | 2012/05/27 21:52 |
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「密室の鎮魂歌」でデビューした作者の第2長編。
作者らしい独特の世界観が滲み出る作品、という印象。 ~赤いドアの小さな部屋に誘われるように入り込んだ3人の男女。自信あふれる免疫学専門の大学講師・夏木祐子、善良そうな開業医の妻・船出鏡子、そして若く傲岸な売れっ子作家・佐島響。見ず知らずの彼らは、なぜ一緒にこの部屋に閉じ込められたのか? それぞれが語りだした身の上話に散りばめられた謎。そして全ての物語が終わったとき、浮かび上がってくる驚くべき事実・・・~ 何とも言えない読後感の残る作品だ。 2作目とは思えないほどのストーリーテリングで、グイグイ読まされてしまった。 紹介文からすると、岡島二人の「そして扉が閉ざされた」のようなストーリーなのかと予想されるが、全く異質な世界。 ロジックやトリック云々から解決を導くといったタイプのミステリーではない。 鋭い読者なら、読み進めていくうちに徐々に作者の仕掛けた伏線に気付くだろうが、なかなか凝った構成になっている。 特に、「作中作」の部分がクセもの。 ただし、前半部分にかなり伏線というか、ヒントは撒かれているので、すべての真相が示される「エピローグ」の前で大筋のプロットに気付くのではないかな。 でも、あの医学的技術(○転○手○)ってそんなにスゴイのかなぁ・・・。 (京都の売れっ子○○になれるくらいなんだから、相当スゴイ技術なんだろう) その辺が衝撃的な真相と相俟って、若干疑問には思えたが、マズマズ評価できる作品でしょう。 |