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E-BANKERさん
平均点: 6.00点 書評数: 1845件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.785 8点 過ぎ行く風はみどり色- 倉知淳 2012/11/21 22:58
1995年発表。愛すべきキャラクター・猫丸先輩登場。
猫丸先輩ものとしては、今のところ唯一の長編作品(貴重だね)。

~邪険な扱いしかしなかった亡き妻に謝罪したい・・・一代で財を成した傑物・方城兵馬の願いを叶えるため、長男の直嗣が連れてきたのは霊媒師。自宅で降霊会を開いて霊魂を呼び寄せようというのだ。霊媒のインチキを暴こうとする超常現象研究家までもがやって来て方城家に騒然とした雰囲気が広がる中、兵馬が密室状態の離れで撲殺されてしまう。霊媒は方城家に悪霊が取り付いているいると主張、かくて調伏のための降霊会が開かれるが、その席上で第二の惨劇が起きてしまう!~

久々に叙述トリックで「一本取られた!」という感じ。
叙述トリックの「見本」とも言えるし、切れ味だけならまさに一級品。
例えていうなら、読者はさしずめ「疑似餌に食いついた魚」というところだろうか・・・「ある登場人物」に対して最初から一定のガードをかけておいて、最後に更なるドンデン返しが待ち受けているのだ。
後で少し読み返してみたが、確かに伏線はきちんと張られているのだ。その辺りは「さすが倉知」というべき。

残りの密室やらアリバイトリックは単なるおまけ。
特にアリバイトリックは、叙述を成立させるためだけに存在しているだけで、取って付けたようなレベル。
あとケチを付けるなら、やっぱり動機かな。
ここまでのボリュームにしたのなら、せっかくだから動機ももっとそれらしいものがあっても良かったかなと思った。

まぁ、でも十分楽しめる内容だし、本格好きなら是非とも読むべき作品でしょう。
降霊会という舞台や密室殺人というと、J.Dカーの「プレーグコートの殺人」をどうしても思い起こしてしまうが、そこは猫丸先輩シリーズらしく、暗さや重々しさは全くないので、オカルト的なものは苦手という方も心配無用。
(降霊会での霊媒師の手口はちょっと無理があるような気がしたが・・・)

No.784 6点 ある閉ざされた雪の山荘で- 東野圭吾 2012/11/21 22:56
1992年発表のノンシリーズ長編。
「仮面山荘殺人事件」との相似形が有名だが、ある意味非常に実験的な作品という気がする。

~早春の乗鞍高原のペンションに集まったのは、オーディションに合格した男女7名。これから舞台稽古が始まる。演じるのは、豪雪に襲われ孤立した山荘での殺人劇だ。だが、一人また一人と現実に仲間が消えていくにつれ、彼らの間に疑惑が生まれてくる。果たしてこれは本当に芝居なのか? 驚愕の終幕が読者を待つ本格ミステリー~

重厚な本格ミステリーではないが、「さすが」と思わせるプロット。
本作については未読だったとはいえ、作者の他作品の解説や何かの書評で大まかなプロットは知っていた。
ということで、「芝居」か「本当の殺人」かという部分については特に迷いなく読み進めたのだが・・・

まぁ、そんなことより、本作の肝は第四章(第四日目)で明かされる「あのこと」だろう。
ひとことで言うなら「典型的な叙述トリック」なのだが、叙述系作品を読み慣れた読者ならば「やっぱりそうきたか!」という感想になるかもしれない。
(「視点」についてはもはやミステリーファンの常識だもんなぁー)
でも、この大トリックを徹底的に生かすべく、考え抜かれたプロットであるのは確か。
伏線の張り方にも「さすが」と感心。

ただ、テクニカルな面では高評価なのだが、小説としてはやや陳腐な作品と感じは否めないと思う。
そのため、評点としてはこんなものかな。
(本作の解説も法月綸太郎氏。よく解説書いてるよなぁ、っていうか他の作家の作品よく読んでるよなぁ・・・)

No.783 7点 フリークス- 綾辻行人 2012/11/14 21:56
1996年、カッパノベルズとして発表された作品だが、今回角川文庫で新たに出された版で読了。
久々に綾辻作品を読んだのだが・・・

①「夢魔の手-313号室の患者」=発狂した母親の病室へ日夜見舞いに訪れる息子。ある日、彼は自身が書いた過去の日記を見つけ、読み始めるのだが・・・。ラストの捻りというかひっくり返しが強烈。短いが秀作だと思う。
②「409号室の患者」=交通事故に遭い、最愛の夫を亡くした妻。自身も大怪我を負い、顔には醜い傷が残ったという強迫観念に襲われる。妻の手記を読み進める形で進行する本作だが、ラストにはやはりドンデン返しが待ち受ける。作者あとがきによると、本編は京大ミステリー研時代の習作をベースにしているということなのだが、さすがにウマイね。
③「フリークス-546号室の患者」=表題作だけあってなかなかの力作。フリークス=畸形たちが織り成す殺人事件で、密室まで登場するのだが、これは本格というよりはやはりホラー寄りの作品なのだろう。得意の「作中作」を使ったプロットで、作者の企みに最後まで振り回されることになる・・・。ラストはちょっと中途半端かな。

以上3編。
これまで綾辻のホラー寄りの作品(「囁きシリーズ」や「殺人鬼」など)は意識的に避けてきたが、本作くらいからトライしてみるかと思い立ち手にしたのだが、これは読んで正解だった。
これぞまさに「綾辻ワールド」なのだろう。敢えて表現すれば「幻想的」という言葉になるのかもしれないが、独特の世界観に呑みこまれていく感覚は、やはり作者の腕の成せる業だと思う。

もちろん「館シリーズ」などの本格群が好きなのだが、本作も十分評価に値する作品。
(①~③まで同レベル。個人的には①がやや好み)

No.782 7点 毒蛇の園- ジャック・カーリイ 2012/11/14 21:54
カーソン・ライダーシリーズの第3弾。
ジェットコースター・サスペンスの旗手として、J.ディーヴァーに次ぐ存在として認識されつつある作者。その冠に相応しい作品。

~惨殺された女性記者。酒場で殺された精神科医。刑務所の面談室で毒殺された受刑者。刑事カーソンの前に積み重ねられる死、死・・・。それらをつなぐ壮大・緻密な犯罪計画とは? 緊迫のサイコ・サスペンスと精密な本格ミステリーを融合させる現在最も注目すべきミステリー作家カーリイの傑作!~

いやぁ、面白いなぁー。
回を重ねるごとに、作者のストーリー・テリングが進歩している感じがするし、何より先が読めない展開が続いて、読者を飽きさせないのが素晴らしい。
連続殺人事件に端を発した今回の事件。捜査を進めるカーソンと相棒のハリー刑事の前に立ち塞がったのが、モビール市に君臨する大富豪・キンキャノン家。そして、徐々にこのキンキャノン家の「異常さ」が明らかになっていく中盤。
終盤ではカーソン刑事にお約束の大ピンチが訪れ、やや意外(?)なラストを迎える・・・

こんな風に書くと、ちょっと紋切り型のサスペンスのように見えるが、カーソンの捜査の進捗に合わせて登場人物たちの「人となり」や裏側の性格が明らかになっていくプロットが実に小気味いいのだ。
(悪く言えば単純なのかもしれないが・・・)
そしてもう一つの特徴が、犯人のキャラクター設定! 「百番目の男」でも「デス・コレクターズ」でも強烈なキャラの犯人が登場したが、本作の犯人もなかなかのインパクト。

今回やや本格要素が少ないという評も聞こえるが、個人的にはあまり気にならなかった。
そこそこ分量もありますが、とにかく時間が気にならないほど没頭できる作品だと思う。
前2作との比較では迷うが、犯人役のキャラの強烈さではやや落ちるかな。
(カーソンの兄・ジェレミーが登場しないのは確かにちょっと残念)

No.781 5点 ここに死体を捨てないでください!- 東川篤哉 2012/11/14 21:51
大好評(?)の烏賊川市シリーズの第5作目。
鵜飼や流平、朱美などお馴染みのメンバーが今回もお馴染みのドタバタ劇を展開します。

~妹の春佳から突然かかってきた電話。それは殺人の告白だった。かわいい妹を守るため、有坂香織は事件の隠ぺいを決意。廃品回収業の金髪青年を強引に巻き込んで、死体の捨て場所探しを手伝わせることに。さんざん迷った末、山奥の水底に車ごと沈めるが、あれ? 帰る車がない! 二人を待つ運命は? 探偵・鵜飼や烏賊川署の面々が活躍する超人気シリーズ~

これは大トリック一発勝負の作品。
このトリックは作者が温めてたものなんだろうなぁ・・・。
他の舞台設定やプロットは、すべてこのトリックを生かすためのものだろう。
確かに自然現象としてコレが存在するのは認めるけど、果たしてどこまでリアリティのあるものなのか、かなり疑問符。
まぁ、周到に伏線は張ってるし、そもそもリアリティ云々とは真逆の作風だから許されてるけど・・・
(あと、やっぱり図解はあった方がいい)

作者の作風もここまで回を重ねてくると、慣れるというか今回はちょっと鼻に付いた。
TV番組など映像化にはこういうシリーズものは向いてるかもしれないけど、今後はちょっと違う方向性の作品も読んでみたい。
まぁ、昨今の大ブレイクは作者にとっても予定外だったのではないかと思うので、どうしても注目されてしまう現状はツライのかもしれないけど・・・(って邪推か?)

というわけで、「大トリック」自体は好きだが、本作の出来はイマイチ評価しない。
(コンドラバスケースの件はミステリーファンの心をくすぐるが、本当にコンドラバスケースに死体が入るのだろうか? )

No.780 7点 二人の妻をもつ男- パトリック・クェンティン 2012/11/09 23:00
1955年発表。ホイーラー単独執筆の長編としては「わが子は殺人者」に続く2作目に当たる。
作者の代表作という位置づけの作品だろう。

~ビル・ハーディングは現在C.J出版社の高級社員として社長の娘を妻に迎え幸福な生活をおくっていた。ところがある夜、偶然のことから彼は別れた最初の妻、美しいアンジェリカに再会してしまう。彼女は悲惨な境遇にあるようだったが、なぜかビルの差し伸べた救いの手を頑なに拒絶するのだった。この時からビルの生活に暗い影が差し始めた。そして生活の激変、恐ろしい殺人事件の渦中へと巻き込まれていく・・・~

さすがに「名作」と評されるだけの価値はある。
十分に練られたプロットにとにかく感心させられた。それが読後の印象。
作品は全て主人公・ビルの視点で語られており、彼が殺人犯というわけではないのだが(別にネタバレではないだろう)、自身の立場や前妻の容疑をかわすため、探偵役であるトラント警部の追及に汲々とすることになる。
この辺りまでは、まるで「倒叙もの」のような味わいで読み進めることになるのだ。
(二人の女性の間で揺れるビルの姿は優柔不断そのものでちょっと嫌悪感すら感じる造形)

だが、トラント警部の鋭い捜査の前に、問題の夜の真相を話してからストーリーは一変することになる。
ここからは「犯人捜し」の要素も加わり、スピード感を増した展開から、怒涛の終盤に流れ込む。
(ただし、事件の重要な鍵となるある登場人物間の特別な関係が後出し的に出てくるため、純粋なフーダニットは無理だろう)
ラストで判明する真犯人はなかなか意外。
個人的にはてっきり「ダミー」の方の犯人が本命と考えていただけに、作者のプロットの深さにはしてやられたという感じ。
登場人物は決して少ないわけではないのだが、それぞれの造形がプロットにピタリと当て嵌まり、とにかくサクサクと読み進めることができるリーダビリティーにも感心。

敢えて難をいえば、より強いサスペンス感を期待する読者にとっては、やや平板な印象を持つかもしれない、というところ。
その辺りは作風の問題だろうが、個人的にはやや割引要素にはなるかな。
(男って、結局美しい女性には抵抗できないのかもねぇ・・・)

No.779 6点 往復書簡- 湊かなえ 2012/11/09 22:57
手紙でのやり取りをもとに、ミステリー風味のスパイスを利かせた連作短編集。
「二十年後の宿題」は最近、吉永小百合主演映画の原案になるという快挙!

①「十年後の卒業文集」=高校時代、同じ部活動(放送部)に所属していた男女6名。その中の2人の結婚式で集まったことをきっかけに過去の事件の真相が徐々に明らかになる。結局、誰も悪くないということなのかな?
②「二十年後の宿題」=定年前に入院したある女性教師は、過去の悲しい「事故」に関わった教え子6名のその後の人生を心配していた。そして、女性教師の代わりに別の教え子がこの6名に会い、その内容について手紙でやり取りを行う、というのが粗筋。「事故」は決して一面的なものではなく、6名それぞれが違う角度から見て感じていたのだ。ラストに判明する女性教師の「配慮」と「救い」が読み手の心を温かくさせる。(さすが、映画の原案になるだけある内容)
③「十五年後の補修」=これがある意味最も作者らしいのではないか。もったいぶってなかなか明かさなかった過去の「事件」。その内容と真相が明らかになったと思いきや、毒のある真相が徐々に炙り出されていく・・・。人間の「記憶」ってやつはこういうふうに都合よくできているものなのだろう。
④「一年後の連絡網」=これは文庫化に当たって新たに収録されたボーナストラック的作品、というか③の後日談的位置付け。まぁ、何につけ良かった良かった!

以上4編。
さすがにウマイね。売れるわけだよ。
スマホやタブレット端末全盛のこのご時世に、敢えて「手書きの手紙」に拘ったのが本作。
③の登場人物が手紙の中で「手紙のよさ」について書いているが、確かにそのとおりなんだよな。
同じ言葉を書いても「字」は全員が違うわけだし、手紙でしか書かない言い回しってやつも確かにある。
「手紙」をミステリーの小道具に使うという発想は別に目新しくはないが、読み進めるほどに徐々に書き手の本音や心理が明らかになるという趣向には唸らされた。

まぁ、ミステリー的な観点からはそれほど推すところはないが、読んで損のない作品なのは間違いない。
(③がベストだが、②も良い。①はやや落ちるかな)

No.778 7点 ひげのある男たち- 結城昌治 2012/11/09 22:54
1959年発表。四谷署所属「ひげの」郷原部長シリーズ。
とは言え、事件の謎を解くのは郷原部長ではなく別の探偵なのだが・・・

~古ぼけたアパートの一室で発見された若く美しい女性の変死体。ひげが自慢の郷原部長刑事は捜査に乗り出すが、事件には常にひげのある男の影がつきまとう。犯行当日、アパートの周辺で目撃された不審なひげのある男。被害者と旅館へ頻繁に出入りしていたひげのある男。これらの男は同一人物なのか? 果たして犯人なのか? 一人のひげのある男によって引き起こされた事件は一人のひげのある男によって解決されることに・・・~

瑕疵はあるが、個人的にはそれなりに楽しめた。
とにかく最初から最後まで「ひげ」、「髭」、「ヒゲ」に彩られた作品。
ということは、無論トリックとしては変装による「人物誤認」であり、それを如何にうまく見せるのかが作者の腕の見せ所だろう。
作者としてはダミーの「ひげのある容疑者」を複数用意し、読者をミスリードするというのが基本的なプロット。

フーダニットについてはそれなりに伏線を用意しているし、ロジックはそれなりに効いている。
でもまぁ「それなり」なんだよなぁー。
ロジックは効いてるのに、読後に感じた違和感の正体は他の方の書評を読んでて理解できた。
CCでもないのに、なぜか真犯人の選択肢が妙に○○サイドの人間に寄っているのだ。
(まるで、サプライズ感をどうしても演出しなければならないとでもいうように)
これでは確かに「犯人当て推理クイズ」レベルと判断されても致し方ないかもね。

ただ、個人的には楽しめたし、軽妙な筆致と癒し系(?)の登場人物たちも好ましい。
発表年を勘案すれば、それなりに評価して良いのではないか。

No.777 10点 毒を売る女- 島田荘司 2012/11/03 23:09
『特に』記念すべきゾロ目、777冊目の書評は島田荘司の傑作短編集で。
1988年発表。光文社では「展望塔の殺人」に続くノン・シリーズ第2作品集。久々に再読。

①「毒を売る女」=~夫に性病をうつされ、それが不治の病と知ったとき若妻は狂った! 大道寺靖子は秘密を打ち明けていた友人とその家族に対して、次々と鬼気迫る接触を始め・・・~

これは初読時、相当インパクトがあったというか、正直ゾッとした。病に侵された女性も、その女性から病をうつされたと勘違いをした女性もそれぞれに狂っていく姿にとにかく戦慄が走る。人間の弱さや恐ろしさを身に染みて感じる作品。
②「渇いた都市」=これは作者のストーリーテリングのうまさに唸らされる作品。一人の小市民が転落していくプロットというのは使い古されているが、計算され尽くしたようなラストが切れ味十分。
③「糸ノコとジグザグ」=~“糸ノコとジグザグ”という風変わりな名のカフェ・バー。だが、店名の由来には戦慄すべき秘密があった!~

これは名作と名高い短編作品。この時期の作者の作品には「東京」という街の都市論が頻繁に登場していたが、本作もそれに影響を受けている。作中に登場する問題の電話は暗号というほどのレベルではないが、作者のファンであれば真相は容易に掴めるだろう。巻末解説にもあるとおり、名もなき人物として登場する「演説好きの男」は”あの男”意外にあり得ない。
④「ガラス・ケース」=これはショート・ショート。示唆に富んでいるというべきか、オチだけの一発勝負と言うべきか。
⑤「バイクの舞姫」=外車とオートバイ、そしていい女。これもこの時期によく登場するプロット。
⑥「ダイエット・コーラ」=これも示唆に富んでいるというべきか。作者の着眼点に感心。
⑦「土の殺意」=本作では唯一吉敷刑事(当時)が登場(完全に脇役扱いですが・・・)。不動産バブルや地上げ屋など、ふた昔前の話ではあるが、主人公の老人の主張は実に合点のいく内容。ホント、日本人の悪いところだよね。
⑧「数字のある風景」=ショート・ショート。これは謎の作品だなぁ・・・。

以上8編。
これは今のところ「マイベスト短編集」的な作品。
①でも書いたが、初読時には「占星術殺人事件」などと並んでかなり衝撃を受けたのが思い出される。
今回再読してみて、「ミステリー作家・島田荘司」の類まれな才能とアイデアが惜しげもなく詰め込まれた作品集だと改めて感じた。
長編とは違って、大掛かりなトリックや破天荒なプロットはないが、何とも言えないサスペンス感や切れ味、男女の心の機微など、短編にあるべき要素がバランスよく配合されている上質な作品が並んでいる。

というわけで、短編集としては初めて最高の評価を捧げたい。
(ベストは間違いなく①だろう。もちろん③や②も良い。④⑥⑦も味わい深い)

No.776 6点 瞬間移動死体- 西澤保彦 2012/11/03 23:05
1997年発表。作者初期のSF風特殊設定ミステリーの一作。
今回は最近出版された新装版にて読了。

~作家である妻の殺害をたくらむヒモも同然の婿養子。妻はLAの別荘、夫は東京の自宅。夫が「ある能力」を使えば、完璧なアリバイが成立するはずだった。しかし、計画を実行しようとしたその時、事態は予想外の展開に・・・。やがて別荘で見知らぬ男の死体が発見される。その驚愕の真相とは? 緻密なロジックが織り成す本格長編パズラー~

うーん。分かりにくい!
っていうか、こんなこと真面目に考える作者って・・・やっぱり変わってる!
こういう特殊設定ミステリーは作者の十八番だし、どんな驚くべき真相が待ち受けてるかと思ってたけど・・・
それ程でもなかったかなぁ。
前半は主人公の超能力の詳細やそれを生かすための舞台設定の説明でかなり回りくどくなっている印象なのもやや割引材料だろう。

本作の「肝」はタイトルどおり瞬間的に移動した「死体」の謎。
ただ、無関係と思われた登場人物の相関関係が後出し的に判明するので、この真相はちょっと予想がつかなかった。
簡単に言えば、「超特殊なアリバイトリック」と思えばいいわけだ。
でもまぁ、嫌いじゃない。
こんな変なミステリーがあってもいいんじゃない。

「七回死んだ男」や「人格転移の殺人」と比べるとちょっと落ちるという評価だが、一読する価値は有りだろう。
(全然関係ないけど、主人公の劣等感はなんか分かるなぁ・・・)

No.775 8点 湖中の女- レイモンド・チャンドラー 2012/11/03 23:02
1943年発表。F.マーロウ登場の第4長編作品。
やっぱりチャンドラー&マーロウがハードボイルドの到達点だなと認識させられる作品。

~別荘の管理人が大声を上げて指差したものは、深い緑色の水底で揺らめく人間の腕だった。目もなく口もなく、ただ灰色のかたまりと化した女の死体が、やがて水面に浮かび上がってきた・・・。マーロウは1か月前に姿を消した会社社長の妻の行方を追っていた。メキシコで結婚するという電報が来ていたが、情夫はその事実を否定した。そこで、湖のほとりにある夫人の別荘へ足を運んだのだが・・・。独自の抒情と文体で描く異色大作!~

やっぱりいいねぇ。独特の静寂さと緊張感を兼ね備えた筆致が何とも言えない。
(清水俊二氏の名訳の力も大きいのだろうが)
マーロウが依頼されたのは、単なる「人探し」のはずだったのだが、捜索を進めるうちにいつものように事件の渦中に巻き込まれていく。
山奥の湖に沈められた死体を見つけ、ついには問題の妻の情夫だった男の死体まで発見してしまう・・・
もちろん本格ミステリーのように、手掛かりや伏線がきちんと用意されているわけではないのだが、マーロウの推理は登場人物たちをそれぞれの役割へ的確に割り振っていくのだ。
本作は余計な脇道にも入らず、とにかくマーロウの推理の筋道も実に明確。

ラストに判明するサプライズについては、最初から「十二分に予想されていた結果」なので特に驚きはない。
真犯人についても意外といえば意外だが、これもまぁ想定内。
・・・って、そもそもこういうギミックを期待しているわけではないのだから、全然OK。
他の方の書評にもあるとおり、今回はマーロウと警察官とのやり取りがなかなかの読みどころ。
こういうのがやっぱり「古き良きハードボイルド」なんだろうなぁ。

作品の雰囲気も好ましく読みやすさも十分で、高評価に値する作品だと思う。
(今回、美女フロムセットとの×××シーンは結局なかったなぁ・・・)

No.774 6点 光と影の誘惑- 貫井徳郎 2012/10/27 21:06
1998年発表。ノンシリーズの作品集。
集英社文庫版もあるようだが、今回は創元文庫版で読了。

①「長く孤独な誘拐」=愛する我が子を誘拐された夫婦が犯人に指示されたのは「違う子供を誘拐せよ」。警察にも告げず、犯人の指示どおりに身代金誘拐に手を染める夫婦に待っていた「暗い」現実・・・。ラストはドンデン返し的カラクリも明らかになる。
②「二十四羽の目撃者」=舞台はなぜか米・サンフランシスコの動物園。ペンギン舎の前で発生した殺人事件は、犯人の逃げ場のない密室だった、というのが粗筋。これは「密室」の解法としては最もシンプルなトリックではないか? それだけ無理のないプロットとも言える。作者らしからぬハードボイルド風タッチが新鮮。
③「光と影の誘惑」=これはもう、最終章でどれだけ「驚けるか」にかかっている。成る程、このオチがあるからこその「書きぶり」だったわけだな。そこに至るまでの展開がやや冗長で退屈なだけに、「エッ!」という気にはさせられた。
④「我が母の教えたまいし歌」=この真相・オチは途中でさすがに気付いた。短編らしい一発勝負のプロットではあるが、もう少しうまく書けたのではないか? 

以上4編。
正統派の短編集といった趣きの作品。
トリックのメインは、初期作品だけにデビュー長編「慟哭」と同ベクトルのものが多い。

うまいといえばうまいが、全体的にはもうひと捻り欲しいかなぁという読後感。
評価としては水準級+αというのが落とし所ではないか。
(①~③はほぼ同レベル。④はやや落ちるかな。好みにもよりますが・・・)

No.773 6点 料理長が多すぎる- レックス・スタウト 2012/10/27 21:04
1938年発表。ネロ・ウルフシリーズの長編作品。
美食家ネロ・ウルフらしい舞台設定が特徴。

~世界各地から選出された15人の名誉あるシェフたちは、保養地のカノーワ・スパーに次々と姿を見せ始めていた。そして晩餐会が催されるまさに前日、ソースの味ききに興じていたシェフの1人が刺殺された。この集いに主催として招かれていた。蘭と麦酒を愛し、美食家を自認するネロ・ウルフは誇り高き名料理長たちを前に重い腰を上げたが・・・。全編に贅を凝らした料理が散りばめられた華やかな作品~

「まずまず」という読後感。
名料理人たちの間の葛藤や争いを読者に対する「エサ」としてちらつかせ、「実は・・・」というプロットは良く練られている。
その辺りは好印象。
ネロ・ウルフが疑惑を持つに至った真犯人の「齟齬」自体は初歩的なのだが、このポイントに気付くかどうかは読者の注意力と「勘所」次第だろう。

ただ、殺人事件が起こった舞台設定や、容疑者・関係者たちの動きなどが今ひとつ分かりにくいのが「難」。
これは訳のせいかもしれないが、そもそもあまり整理付けて書かれていないということもありそうだ。
その後のネロ・ウルフの捜査過程で一応は理解できるのだが、どうせなら事件発生時点でもう少し丁寧に説明すべきだと思う。

まぁ、フーダニットについては見どころはあるし、時代背景を勘案すればこの軽い筆致も賞賛すべきだろう。
ということで、この程度の評点に。
(名料理人がこれだけ登場する割には、料理自体の描写は少ないような気が・・・)

No.772 5点 セリヌンティウスの舟- 石持浅海 2012/10/27 21:01
2005年発表。作者の第6長編作品。
人間の「内面」にスポットライトを当てたある意味「実験的作品」ではないか。

~大時化の海の遭難事故によって、信頼の強い絆で結ばれた6人の仲間。そのなかの一人、米村美月が青酸カリを呷って自殺した。遺された5人は、彼女の自殺に不自然な点を見つけ、美月の死に隠された謎について推理を始める。お互いを信じること、信じ抜くことをたったひとつのルールとして・・・。メロスの友の懊悩を描く、美しき本格の論理~

趣向としては面白いかもしれないが、個人的にはストライクとは言い難い。
そんな作品。
紹介文のとおり、本作は死亡した女性が本当に自殺したのかという謎を、仲間の5人がディスカッションし追及していくというプロット。
謎の鍵となるのは、青酸カリの入っていた「瓶のフタ」と、同じ遭難事件に巻き込まれ生死を共にしたという「過去の絆」・・・
やはり「自殺」したのだという結論に落ち着こうとするたび、それを否定するかのような事実が明らかになってしまう。

まぁ、動機を含めてちょっと「狙いすぎ」かなという感想は持った。
作品の背景に、太宰の「走れメロス」をちらつかせ(因みにセリヌンティウスとはメロスが自身の代わりとして捕虜に差し出した友人のこと)、リアリティと高貴さを演出しようとしているのは分かるのだが、読後に改めて考えてみると、何だか突拍子もないストーリーのようにも思えてきた。

一筋縄ではいかない作者の作品らしいとは言えるのかもしれないが、あまり高い評価はできないかな。
(どうでもいいけど、「ジャイアントコーン」って酒の肴になるようなものだっけ? アイスクリームでは?)

No.771 4点 望湖荘の殺人- 折原一 2012/10/21 21:27
1994年発表。ノンシリーズ長編(黒星警部シリーズと勘違いしてた・・・)。
作者得意の叙述トリック系作品とは一味違う味わいなのだが・・・。

~大型家電量販店の経営者・二宮大蔵に毒の塗られた剃刀と殺人予告の脅迫状が届いた。いったい誰が? 大蔵はある人物の協力を得て容疑者を5人に絞り、信州の山荘パーティーに招待した。目的は殺人者の抹殺! 大型台風が山荘を襲った夜、招待客が次々に死んでいく。生き残るのは誰だ。結末が最終ページまで分からない本格推理~

プロットが煮詰まらないまま出版しました、っていう感じ。
作者の初期作品なら、叙述トリック全開の作品か黒星警部を主人公とするお笑い系パロディミステリーのどちらかという気がしてたのだが、本作はそのどちらにも属さないのが珍しい。
でも、最後まで読んでると、「どっかで読んだことあるような・・・?」という感覚だったのだが・・・
CC(クローズド・サークル)で動機の分からないまま登場人物が次々殺されていくという展開は、西村京太郎「殺しの双曲線」を思わせる。

ただなぁ、終盤~ラストがショボイ。
予期せぬ登場人物の闖入というのはある程度予測されていたし、死者が生き返るというようなプロットにも緊張感がないので成功しているとは言い難い。
如何せん、要は「やっつけ仕事」というような読後感が拭えないのだ。

最終章に全てをひっくり返すかのような記述があるが、これは蛇足だろう。
まぁ作者のコアなファンでなければスルーしてもOKという評価。

No.770 7点 プレーグ・コートの殺人- カーター・ディクスン 2012/10/21 21:25
H.M卿を探偵役として初めて登場させた記念すべき作品。
早川版の「プレーグ・コートの殺人」というタイトルの方が著名だろうが、最近出た創元版(「黒死荘の殺人」)にて読了。

~私ことケン・ブレークは、友人ディーンに幽霊屋敷で一夜明かしてくれと頼まれ、マスターズ警部を伴って黒死荘へ出かけた。かつて猛威を振るっていた黒死病に因む名を持つ屋敷では降霊会が開かれようとしていたが、あろうことか術者ダーワースは血の海と化した石室で無残に事切れていた。庭に建つ石室は厳重に戸締りされており、周囲に足跡はない。そして、死者の傍らにはロンドン博物館から盗まれた曰くつきの短剣が・・・。関係者の証言を集めるが埒もあかず、陸軍省の偉物に出馬を乞う!~

全体的には「さすが名作といわれるだけある」という作品。
前半はいかにもカーという感じで、怪奇趣味に彩られたオドロオドロしさ全開の雰囲気。
そして、降霊会というオカルト趣味全開の舞台で発生した殺人事件がかなり強烈。
今まで様々な密室に出会ってきたが、ここまで堅牢な「密室」はなかなかお目にかかれない。

その解法もかなり独創的トリック!
凶器の特殊性については、ストーリー中ではそれほど触れられてなかったため、H.Mの推理を読んだときは唖然とさせられた。
ただ、これはそういう知識がないと読者には解明不可能だろう。そこがやや気になる。
(鑑識では全く分からなかったのだろうか・・・?)

そしてもう一つの「ヤマ」がフーダニットに関するミス・ディレクション。
これは読者によっては、かなり「無理筋」という印象を持つ方もありそうだ。
古いタイプのミステリーにはこういう「錯誤」を使ったトリックがよく出てくるが、人間の「勘」とか「感覚」ってそこまでヒドくないだろう(騙されないだろう)という気にはさせられる。
まぁ、それをカバーするための真犯人の造形なり設定が効果的に成されているし、まずは作者のアイデアそのものが十分に面白いとは思えた。

前評判+期待どおりかという言われると、若干落ちるかなという評価にはなるが、全体的なバランスや出来は作者の作品中でも上位なのは間違いない。
(初登場のため、H.M卿の人となりがいろいろ説明されてるのが新鮮)

No.769 7点 鍵のかかった部屋- 貴志祐介 2012/10/21 21:22
「硝子のハンマー」「狐火の家」に続く防犯探偵シリーズの第三弾作品集。
嵐・大野君主演の月9ドラマは結局一度も見なかったが、原作の方はどうなのか?

①「佇む男」=二次元~三次元、そして「時間軸」を密室トリックを構成する要素に取り込む発想が見事。少年の証言等重要な鍵が後から出てくるのが若干引っ掛かるが、まずは水準以上の作品だろう。
②「鍵のかかった部屋」=これが本作の白眉か。今まで触れてきた「密室」の中でも五指に入りそうなほどの「堅牢さ」。真犯人は最初から一人に絞られていて、コイツ対榎本の知恵比べ的要素が楽しめる。細かな伏線(物証)が丁寧に撒かれていてはいるが、「仕掛け」に徹底的に拘ったトリックは普通の読者にはちょっと解明は難しいレベル。
③「歪んだ箱」=欠陥住宅が今回の「密室」の舞台。つまり、普通に施錠された密室ではなく、建付けの悪さのため「鍵」なしで開けられない部屋で殺人事件が起こるのだ。しかも、今回のトリックは超絶的! よくこんな発想できるなぁ・・・。探偵役としての榎本の冷静沈着さと青砥弁護士の大ボケ振りが際立つ。
④「密室劇場」=前作「狐火の家」に収録された「犬のみぞ知る」の続編だが・・・作者の「おフザケ」としか思えない。

以上4編。
今さら言うまでもないが、徹底的に「密室」に拘りぬいた本シリーズ。
特に今回は肩透かしのような「密室」ではない正統派のやつが目立つ。
密室を構成する(しようと考えた)真犯人の「心理」を推理の過程にする榎本の捜査方法がロジカルで、他の密室作品と一線を画しているように思える。

話題先行の作品ではあるが、中身も十分評価に値するレベルだろう。
(やはり表題作の②がベスト。③もその発想に拍手)

No.768 7点 私という名の変奏曲- 連城三紀彦 2012/10/14 21:16
1984年発表。
何とも言えない粘着質な語り口とトリッキーなプロット・・・そして後を引く読後感。これぞ「連城の長編ミステリー」でしょう。

~その冷ややかな微笑としなやかな身のこなしで世界的ファッションモデルとして活躍中の美織レイ子が自宅のマンションで死体となって発見された。彼女を殺す動機を持つ七人の男女・・・そしてそれぞれが「美織レイ子を殺したのは自分だ」と信じていたのだ。果たして真犯人は誰なのか? 華やかな外見の裏にさまざまな欲望が渦巻くファッション界を舞台に展開される殺意の万華鏡~

実に、これぞ、まったく、正統派の「連城」作品。
別作品「どこまでも殺されて」では、一人の男が七回も殺されるという不可思議な「謎」に挑戦しているのだが、本作はいわばその裏側(発表順は本作が先)。
七人の男女がそれぞれ一人の女性を殺したという不可思議な「謎・状況」に挑戦しているのだ。
この魅力的な謎を単なるファンタジーに留めず、本格ミステリーとして一定のロジックでもって成立させてしまうのが作者の力量。
そして叙述トリックの極致ともいえる作品全体に仕掛けられたプロットの「妙」。
もう「職人芸」と言うしかない。

今回、中途で何となくトリックの仕掛けには気付いたように、メイントリック自体の難易度はそれほど高いわけではないと思う。
それよりも、例えば「浜野」の人物設定や割振りに感心。こういう細かい点にまで拘ってるのがスゴさなんだろう。

ただ、個人的には「暗色コメディ」や「どこまでも殺されて」よりはやや落ちるかなという評価。
(スゴさに慣れたせいかな。本作が「初連城」ならもっと衝撃を受けていたかも・・・)

No.767 5点 ヒルダよ眠れ- アンドリュウ・ガーヴ 2012/10/14 21:12
1950年発表。ガーヴ名義での処女長編作品。
早川文庫で比較的最近出た新訳版にて読了。

~仕事を終えて帰宅したジョージを迎えたのは、ガスの充満した台所とそこで息絶えた妻・ヒルダの姿だった。自殺と思えたが、死体に外傷があり警察の追及はジョージへと向かう。逮捕、そして裁判へ。そこへ帰国したジョージの戦友・マックスは、友の無実を信じ独自の調査を始める。だが、ヒルダの周囲の人々に聞き込みを行ううちに、そこに意外な事実が・・・強烈なサスペンスで一世を風靡したガーヴの代表作!~

「知名度ほどの面白さは感じなかった。」
というのが正直な感想だろうか。
アイリッシュの「幻の女」を想起させるプロットと丁寧な筆致で、発表年を勘案すれば一定の評価はすべきかと思うのだが、いかんせんミステリーとしての面白さには欠けるとしか思えない。

「探偵役」を務めるマックスが、主人公「ヒルダ」の正体を過去に遡って調査を行う。調査が深まるほどに明らかになるヒルダの異常な人格・・・この辺りのくだりは緊張感やフーダニットへの期待感も相俟ってドンドン読者を惹きこんでいく。
ところが、いよいよ終盤に差し掛かった「第12章」で、突然に真犯人が判明してしまい、その後はさしたる山場も盛り上がりもなくラストを迎えてしまう・・・
これはやはりミステリーとしては致命傷ではないか?
極端に言うと、12章以降は字を目で追ってくだけで十分という程度なのだ。
これでは「お勧め!」とは言い難い。

ということで高い評価はできないのだが、ヒルダについて、『(ヒルダは)その後内外のミステリーに登場するいわゆる境界性人格障害やサイコ系のヒロインの先駆けである』という文庫版解説には何となく納得させられた。
(でもまぁ、こんなヒドイ女と離婚もできない男なんて・・・何か身に染みる・・・)

No.766 7点 掌の中の小鳥- 加納朋子 2012/10/14 21:10
1995年発表。「ななつのこ」「魔法飛行」に続く連作短編集。
「加納朋子らしさ」を堪能できる作品。

①「掌の中の小鳥」=本作品集の主人公の男性(冬城圭介)と女性(穂村紗英)が視点人物となり、2つのシーンが順に語られる。特に紗英視点でのお婆ちゃんの行動&トリックが心に残る。碁石の件は誰でも知ってるような気はするが・・・
②「桜月夜」=紗英の幼馴染みとの過去の事件に纏わる謎が主題。紗英が語る話の齟齬に瞬く間に反応する圭介だが、それを上回る「老紳士」の存在は・・・。ついでにバーテンダーまでねぇ。
③「自転車泥棒」=これは好編。ちょっとした伏線から事件(?)のからくりが明らかになる爽快感。これこそ短編の良さだろう。
④「できない相談」=またもや登場する紗英の幼馴染みと彼の仕掛けたトリック。トリック自体はよくある手だと思うのだが、使い方がうまい。
⑤「エッグ・スタンド」=本作の舞台となるバー「エッグ・スタンド」。今回は圭介がバーテンダーの泉さんへ悩み事を相談するという形式で進行。圭介の小学校の同級生が関係する事件を通じて、圭介と紗英を巡るラブストーリーもいい感じで・・・FIN。

以上5編。
いいね。これぞ作者にしか書けない作品世界だろう。
何より、人物の描き込み&造形が実に秀逸。読んでいるうちに自分が作品世界に迷い込んでしまってるような感覚。
ミステリー的に見ればどうかと思うのだが、日常の謎系の作品集の良さを詰め込んだ作品。

こういう作風が「嫌い」でなければ、一度手に取ってみては如何でしょうか。
(③④が実によい。他もまずまず。まっでも30歳超えたおっさんの読むものではないかも・・・)

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