皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.1132 | 3点 | 黒い仏- 殊能将之 | 2015/05/04 15:06 |
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2001年発表。
「美濃牛」に続き、名探偵石動戯作が登場する二作目の長編。 今までの書評を読んでいると、とにかくヒドイ評価が並んでいるけど果たして・・・? ~九世紀の天台宗僧侶・円載にまつわる唐の秘宝探しと、ひとつの指紋も残されていない部屋で発見された身元不明の死体。無関係に見えるふたつの事柄の接点とは? 日本シリーズに沸く福岡、その裏で跋扈するふたつの力。複雑怪奇な事件の解を名探偵・石動戯作は導き出せるのか・・・? 賛否両論、前代未聞、超絶技巧の問題作~ うーん。これは普通の人なら「なんじゃこりゃ!」ってなるだろうなぁ。 これがアリなら、アリバイトリックなんて自由自在ってことだし・・・。 でも、まさかここまでブッ飛んでいるとは思わなかった。 (犯人サイドが探偵に協力している・・・ってことだよねぇ) いったい何が狙いだったんだろうか? 一応本格ミステリーの体裁をとっているけど、それと真逆のプロットを併用している・・・ 分からん。 これをどのように評価すればいいのか。 既存のミステリーの枠組みをぶっ壊して、新しいパラダイムを創りだすという意味合いか? まっ、あれこれ邪推するのは無粋という奴だろう。 こういうミステリーの「やり方」もあるってこと。 ただ、やっぱり肯定的には受け取れないなぁ・・・ (頭が硬すぎるのだろうか?) |
No.1131 | 7点 | 水中眼鏡の女- 逢坂剛 | 2015/04/29 17:11 |
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1990年発表のノン・シリーズ短篇集。
いずれも精神疾患をテーマにしたサイコサスペンスが並んでいる。 ①「水中眼鏡の女」=目が開けられないといって水中眼鏡を掛けたまま精神科を訪れる美貌の女性。眼科的疾患は何もなく精神的な原因と診断され、医師による治療が始まる・・・。物語は医師による診療場面とこの女性と夫との歪んだ関係を描くパートの二つが交互に進行していくのだが、ラストには大いなる仕掛けが明らかにされる。これが実にキレイに嵌っている。多くの読者は「アッ」と思わされるのではないか? ②「ペンテジレアの叫び」=精神的ダメージにより口がきけなくなった女性の相手役として雇われた美那子。かかりつけの精神科医との仲を疑う美那子は、実は女性の病気は治癒しているのではないかとの疑念を抱く。そして、それぞれの夫を巻き込みながら、歪んだ夫婦関係を清算する大事件が起こる・・・。ラストは皮肉な結末に。 ③「悪魔の耳」=二人を殺した現場で、犯罪の相棒である弟を刑事に銃殺された男。逮捕後、精神疾患と診断され長期入院していた男が退院した。弟を殺した二人の刑事に復讐するため・・・。それぞれの大切な人を殺されまいと必死になる二人の刑事だが、危惧された犯罪が起こってしまう。 以上3編。 作者の得意技のひとつであるサイコ・サスペンス。 その面白さが十分に出た作品集に仕上がっていると思う。 いずれも歪んだ人間、狂った人間が登場するのだが、一見してそれと分かる人間だけではなく、意外な人物が実は歪んでいた・・・ という展開。 よくある手といえばそうなのだが、ラストに向け徐々にスピードアップし、緊張感が増していく展開というのは、サスペンスとしては王道だろう。 三編とも短編らしい切れ味もあり、良質な短篇集と評価できる。 (個人的には①よりも②が好き。もちろん①も佳作。③はやや落ちるかな) |
No.1130 | 3点 | チャーリー・モルデカイ (1) 英国紳士の名画大作戦- キリル・ボンフィリオリ | 2015/04/29 17:10 |
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1973年発表。原題“Don't point that thing at me”
ジョニー・デップ主演で映画化されるという快挙に及び、角川書店より急遽刊行されたシリーズ第一作。 サブタイトルは「英国紳士の名画大作戦」・・・ ~マドリードで盗まれたゴヤの名画。イギリスで捜査を担当する臨時主任警視のマートランドは、学友の画商チャーリー・モルデカイを訪ね手掛かりを得る。ナショナル・ギャラリー、ターナー作品の裏に隠された一枚の写真。石油王クランプフのビンテージカーを外交封印のもとにアメリカに運ぶ仕事を引き受けたモルデカイだが、マートランドに弱みを握られ、汚れ仕事を押し付けられて・・・。怪作ミステリーの第一弾~ これは一体なんと言えばいいのか・・・? とにかくハチャメチャで、展開が早すぎてついていけない! 今までの話はなんだったんだ? の連続。 で、結局なに? 敢えて言うならこんな感じ。 読了後、あまりにもよく分からなかったので、普通ならパラパラと再読するところなのだけど、今回はそんなことすら思いつかなかった。 これは映像向きなんだろうなぁ・・・ 英国流のジョークや悪ふざけの応酬、登場する人物たちはいちいち下品で野趣な雰囲気。 正直、途中でプロットを追い掛けるのは諦めてしまった。 シリーズ一作目だし、本来なら続編を手に取るべきなんだろうけど、これはなぁ・・・ 先に映画でも見ていれば違うのかもしれない。 ということで、読者を選ぶ作品という世評はそのとおりだろう。 で、私は“選ばれなかった”ということだ。 (ラストも中途半端でよく分からん!) |
No.1129 | 7点 | 有限と微小のパン- 森博嗣 | 2015/04/29 17:08 |
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S&Mシリーズの最終作にして最大のボリュームを誇る本作。
もちろんシリーズの集大成。 1998年発表。 ~日本最大のソフトメーカーが経営するテーマパークを訪れた西之園萌絵と友人・牧野洋子と反町愛。テーマパークでは過去に「シードラゴンの事件」と呼ばれる死体消失事件があったという。萌絵たちを待ち受ける新たな事件。そして謎また謎・・・。核心に存在する偉大な知性の正体は・・・? S&Mシリーズの金字塔となる傑作長編~ いやぁー長かったなぁー 回を重ねるごとにボリュームが増えていった本シリーズ。 最終作となった本作では文庫版でついに800ページを超える分量まで成長(?) でもまぁそれだけの価値のある量と質を備えた作品と言えるのではないか。 ありえないほど堅牢な“密室”で起こる殺人事件。 これまで数々の物理的なアプローチで「密室」を攻略してきた犀川&萌絵だが、これほどの堅牢さに果たして解はあるのだろうかという疑問を抱きながら読み進めていった。 そしてその解がアレ、なわけだ。 ・・・なる程。そういうことか・・・。これがアンフェアだとかリアリティに欠けるという評価はあるのかもしれないが、個人的には十分受け入れられるものだった。 そのために壮大な舞台装置が必要だったわけだし、このスケール感はなかなか真似できない。 (もちろん突っ込み所はいろいろあるのだけど・・・) そして真賀田四季である。 それほど本筋とリンクしていたわけではないと思うのだが、やはり彼女の再登場なしではシリーズ最終章は成り立たないということなのだろう。これが「すべてがFになる」の時点で構想されていたのなら、作者はバケモノだ。 ファンタジックなラストも本シリーズらしい。 この後に続くVシリーズにも大いに期待したい。 (結局すべてが中途半端に終わったような感じもあるけど・・・) |
No.1128 | 7点 | 真夜中の相棒- テリー・ホワイト | 2015/04/16 23:20 |
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1982年発表の作者デビュー作。
本作は同年のアメリカ探偵作家クラブ最優秀ペーパーバック賞を受賞した記念すべき作品でもある。 原題“Triangle” ~アイスクリームを愛する青年ジョニーは殺し屋だ。依頼は相棒のマックが持ってくる。ひとりでは生きられないジョニーをマックが過酷な世界から守り、ジョニーが殺しで金を稼いで、ふたりは都会の底で生きてきた。相棒を殺された刑事が彼らを追い詰めはじめるまでは・・・。男たちの絆と破滅を暗く美しく描いた幻の名作!~ 『相棒』である。 水谷豊の相棒は何回か変わっているが、本作の「相棒」の絆は強固だ。 ギャンブルと女に狂ったハンサムなマックと、あまりにもシャイでひとりでは世間に出られないジョニー。 「殺し」の役割を与えられたジョニーは、とにかくマックに嫌われないために自らの“仕事”を続けていく。 それが何とも言えない「哀愁」を醸し出している。 とにかく“悲しい”のだ。 マックもジョニーも、そしてふたりを執拗に追いかける手負いの刑事サイモンも・・・ 三人とも、決して抗うことのできない運命の波に呑まれていく。 第三章ではついに三人が一堂に会することになるのだが、そこには更なる悲劇が待ち受けることになる。 これも運命の残酷さを感じないではいられない。 「幻の名作」という惹句も決して誇張ではない。 『ああいい小説だなぁーと素直に思った』という池上冬樹氏のことばが言い得て妙。 いい作品です。 (夜、静かに読書をしていると、何とも言えない悲しい気分に包まれる・・・) |
No.1127 | 5点 | 青き犠牲- 連城三紀彦 | 2015/04/16 23:19 |
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1989年に発表された作者の第五長編。
昨今のプチブームに合わせて、光文社より復刊され読了。 ~高名な彫刻家の杉原完三が、自宅兼アトリエから姿を消した。一ヶ月後、完三は武蔵野の森から遺体で発見された。犯人は誰なのか。高校三年生の息子・鉄男の出生の秘密、美貌の母と鉄男の異常な関係など、杉原家の抱える歪んだ家族関係が明らかになり、容疑は息子の鉄男に向けられるが、仰天の顛末とは・・・? ギリシャ悲劇を絡めた連城初期の傑作長編ミステリー~ まさにタイトルどおり。 本作で示されるのは「青き犠牲(いけにえ)」なのだ。 登場するのは連城作品らしい“歪んだ人々”たち。 歪んだ人々の発する言葉は、果たして本心なのか、それとも真っ赤な嘘なのか・・・? 読者は最後までケムに巻かれることになる。 本作のもうひとつのモチーフがギリシャ神話に描かれている「母子の異常な関係」。 息子と姦通してしまう母、父親を殺してしまう息子。 果たしてこの事件はギリシャ悲劇を正確に模しているのか・・・どうか? そこはやはり連城。まともな終わり方ではない。 真相は“裏の裏”なのか、“裏の裏の裏”なのか、はたまたさらなる裏が待ち受けているのか・・・ ただ、切れが今ひとつなのは否めない。 他の佳作では、思わずのけぞるほどのサプライズや切れ味の妙を感じるのだが、本作はそこまでの印象はない。 悪い意味で何となくムズムズ感が残る・・・感じなのだ。 というわけで、評点はやや辛めになる。 (こういう女って・・・怖いねぇー) |
No.1126 | 5点 | 追憶のカシュガル- 島田荘司 | 2015/04/16 23:18 |
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2011年発表の連作短篇集。
~進々堂。京都大学の裏に佇む老舗珈琲店に世界一周の旅を終えた若き御手洗潔は日々顔を出していた。彼の話を聞くため、予備校生のサトルは足繁く店に通う・・・~ 今回は文庫版(「御手洗潔と進々堂珈琲」と改題)にて読了。 ①「進々堂ブレンド1974」=軽い導入部的一編。御手洗の相手役となるサトルの少年時代の淡い恋の話。この頃って、年上の女性に憧れるものなんだろうなぁー ②「シェフィールドの奇跡」=ハンディキャップを持つ人々に対する偏見は洋の東西を問わずということか。御手洗という登場人物を通じて、作者はよく社会的弱者へのいたわりの思いを読者に伝えているが、本作もそれがよく出ている。 ③「戻り橋と彼岸花」=“彼岸花=曼珠沙華”という花を象徴的存在として、戦時中の日本と韓国の関係を描いた作品。どこまで実話に沿っているのか不明だが、こういう話に接すると心が痛くなってくる。ラストはある伏線が明らかにされるのだが、それが見事に作品に華を添えている。 ④「追憶のカジュガル」=現在、新疆ウイグル自治区にある街・カシュガル。砂漠にあるオアシス都市、東西文化の結節点として、昔よりあらゆる民族から征服を受けてきた街・・・。そんな独特な雰囲気を持つ街で御手洗が出会ったのは、パン売りの少年と白髯を蓄えた老人。その老人は日本に纏わる過去を有していた・・・。アキヤマが死ぬ間際に発した『アジア人としての誇りを持って・・・』という言葉が泣かせる。 以上4編。 他の方も書いているとおり、本作はミステリーではなくいわゆる「謎」は登場しない。 御手洗が体験談がひたすら語られる・・・・のだ。 本作が楽しめるかどうかは、その体験談をいかに楽しめるのかにかかっているのだが、個人的には・・・微妙。 とにかく御手洗潔が好きという方には必読なのかもしれないが、少年時代を描いた「Pの密室」といい本作といい、そこまで御手洗を超人にしなくても・・・という気にはさせられた。 せっかく連作形式にしたのなら、もう少しそこに凝ったプロットを仕掛けて欲しかったしなぁ・・・ まぁ、いい話ではある。 |
No.1125 | 6点 | 浅草偏奇館の殺人- 西村京太郎 | 2015/04/06 21:14 |
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1996年発表の長編ミステリー。
十津川警部をはじめ作者のキャラクターが全く登場しない異色の作品。 ~戦争の足音が忍び寄る昭和七年。エロ・グロ・ナンセンスが一世を風靡した浅草六区の劇場、偏奇館で三人の踊り子がつぎつぎに殺された。京子十八歳、早苗十九歳、節子十八歳。ひとりは川に浮かび、ひとりは乳房を切り裂かれ、ひとりは公園の茂みの中に・・・。事件の真相を尋ねて、私は五十年ぶりに浅草を訪れたのだが・・・~ 作者らしくない筆致&プロット。 これまでトラベルミステリーや初期の本格或いは社会派ミステリーを何冊も読んできたが、いずれとも違う感覚・・・なのだ。 十津川警部や亀井刑事、左文字進のテンポ良い会話を中心に、高いリーダビリティで読ませる作品ではなく、止められない連続殺人事件を切々と描写する、何とも言えない哀愁感の漂う作品。 それもこれも事件の舞台設定のためだろう。 軍部が日本全体に徐々に侵食し、戦争に突き進んでいく暗い世相。 そんな中で唯一、民衆のための娯楽の街となった浅草六区。エノケンをはじめとして大衆娯楽の世界に力の限りを尽くす若者たち・・・ これが何とも言えない“哀愁感”を生んでいる。 本筋の殺人事件の謎自体はまぁたいしたことはない。 入れ子構造になって、過去の事件を振り返るというようなプロットの場合、普通ならもう少し「サプライズ的な仕掛け」があって然りなのだが、本作にはそこまでの仕掛けは込められてない。 でもいいのだ。 本作はそういう作品ではない。きっと作者は書きたかったのだろう。 この時代の浅草を。 確かに暗くつらい時代だったのかもしれないが、みんなが一生懸命生きていた時代・・・ たまにはノスタルジーに浸ってみるのもいいのではないか? (当時からの店が今まだあるのが浅草のスゴイところ・・・) |
No.1124 | 8点 | ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー | 2015/04/06 21:12 |
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1946年発表の長編ミステリー。
もちろんエルキュール・ポワロ物の長編だが、本国で特に評価の高い作品として知られている。 ~アンカテル卿の午餐に招かれたエルキュール・ポワロは少なからず不快になった。ホロー荘のプールの端でひとりの男が血を流し、傍らにピストルを手に持った女が虚ろな表情で立っていたのだ。だがそれは風変わりな歓迎の芝居でもゲームでもなく、本物の殺人事件だったのだ! 恋愛心理の奥底に踏み込みながら、ポワロは創造的な犯人に挑むが・・・~ 「小説」としてなら尋常ではないほど高いクオリティと言えるのではないか? 読後まずそんな風に感じてしまった。 多くの人が書いているとおり、確かに純粋なミステリーとしての評価なら、他の有名作の方が数段出来はいいだろう。 ただし、「小説」としてならもしかするとコレがNO.1なのかもしれない。 (小説というよりも舞台劇と言う方が似つかわしいが・・・) とにかく登場するひとりひとりの人物描写がスゴイ。 どこか少しずつマトモでない、捻れた感情を持つホロー荘に集う人々。 そして、ひとりの男性を巡って複雑に絡み合う感情の末に起こってしまう殺人事件。 ごく単純だったはずの殺人事件が、少しずつ複雑な様相を示していく・・・ 今回のポワロはいわゆる名探偵としての役割は果たしてない。 最終的にはひとりの女性の命を救い、事件を丸く収める役目を果たしているのだが、自身の推理を披露する機会はほぼ皆無。 (途中ではグレンジ警部から最有力容疑者という扱いまで受けてしまう・・・) プロットそのものも既視感はある。 それでもこれはやっぱりスゴイ作品だと思う。 人間の心理こそがミステリー。そういう思いが投影された作品なのだろうし、女流作家ならではの細やかな筆致は男性には真似できない。 ・・・ということで決して低い評価はできない。 (ヘンリエッタの感情は「優越感」という奴ではないのか?) |
No.1123 | 6点 | 犯罪ホロスコープⅡ 三人の女神の問題- 法月綸太郎 | 2015/04/06 21:11 |
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~Ⅰ(「六人の女王の問題」)に続き、黄道十二宮の後半戦が描かれる本作。
というわけで、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座・・・それぞれに纏わる事件がテーマとなっている。 ①「宿命の交わる城で」=天秤座。作者あとがきにも触れられているが、「あるキング」のパイロット版とも言えそうな作品。つまりは“交換殺人”がテーマとなっているのだが、そこは策士らしくひと捻りもふた捻りも仕掛けてある。でもこれって「策士、策に溺れる」の典型だな。 ②「三人の女神の問題」=蠍座。オリオンと毒蠍の逸話はギリシャ神話で有名だが、それをモチーフにうまく取り込んだ作品。プロットとしては、ラストに事件の構図をきれいに反転させるのが旨い。携帯の通話記録もこんなふうに使えばフーダニットの材料になるんだねぇ・・・。サブタイトルとして使われているだけある作品。 ③「オーキュロエの死」=射手座。ギリシャ神話に因んだ名前のアナグラム(駄洒落?)は本作の特徴だが、何か無理矢理感はある。これもラストでひっくり返されるが、②よりは唐突。 ④「錯乱のシランクス」=山羊座。ダイイングメッセージを扱った作品なのだが、これはかなり強引というか無理矢理。こんなメッセージに気付く奴いるか? 楽譜の薀蓄はなかなか面白かったが・・・ ⑤「ガニュメデスの骸」=水瓶座。やり手の女性実業家が一千万円の身代金を用意した相手は何と「亀」・・・。長年飼っていた“愛亀”とは言うが、そこには大きな秘密が隠されていた・・・ラストにタイトルの意味が明かされて納得。 ⑥「引き裂かれた双魚」=魚座。④~⑥は“よろずジャーナリスト”飯田才蔵がサブキャラとして登場し、事件を賑わしている。いかにも怪しいオカルト専門家の変死が主題なのだが、ちょっとごちゃごちゃしたプロット。 以上6編。 さすがに短編職人(個人的に勝手に命名しているだけですが・・・)法月綸太郎! という感じ。 星座に因んだ作品を十二もひねり出すだけでも大変なのに、どれも水準級若しくは水準以上の作品に仕上げているのは賞賛に値する。 もちろん“縛り”がある分、無理矢理感のある作品もあるのだが、それは致し方ないかな・・・ まぁできれば、なんの縛りもなく伸び伸び書いてもらった方が、面白い作品になるのかもしれないけど、そこはそこ。こんな凝った連作短編集も面白いとは思った。 (ベストは他の方と同様②で決まり。後は①③の順。) |
No.1122 | 7点 | ブラックスワン- 山田正紀 | 2015/03/28 17:39 |
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1992年発表の長編ミステリー。
SFがホームテリトリーである作者が書いた本格ミステリー。 ~世田谷の閑静な住宅街にあるテニス・クラブで、白昼、女性の焼死事件が発生した。ところが、捜査を進めていくうちに焼死した橋淵亜矢子は十八年前に行方不明になっていたことが判明。当時女子大生だった彼女にいったい何が起こったのか? 焼死事件とのつながりは何なのか? 雪の瓢湖に舞う「ブラックスワン」をキーに、青春時代の謎を追う本格ミステリーの傑作~ 「さすがに旨い!」・・・そんな読後感。 ハルキ文庫版の巻末解説は折原一氏なのだが、氏曰く「本作はバリンジャーの『歯と爪』を完全に意識した作品」とのこと。 言われてみればそのとおりかな・・・ ということはつまり、折原一の作風にも似ているわけで、個人的に何となく感じていた既視感にも納得がいった。 いわゆる叙述トリックの衝撃度という意味では「そこそこ」というレベルなのだが、本作の良さはそんなところにはない。 “雪の瓢湖(白鳥の飛来地で有名)”という荘厳な舞台装置、いかにも謎めいた複数の手記・・・ これはもうプロットの勝利というほかない。 (元新聞記者の男が過去の事件を追うというスタイルも折原の「・・・者」シリーズっぽい) これは先日「人喰いの時代」を読んだときにも感じたことだが、とにかく読者の「気を惹く」技に長けているのだ。 つぎにどのような展開が待っているのか・・・ こう思わすことのできる作者、作品はやはり魅力的だというしかない。 そして何より「嫌らしさのない」「上質感」のある文章、筆致。 これも一流の証だろうと思う次第。 ちょっと褒めすぎのようにも思うが、一読の価値はある。 (西村京太郎を思わせる冒頭のアリバイトリックっぽいシーンって、結局何だったのか・・・) |
No.1121 | 6点 | 盲目の鴉- 土屋隆夫 | 2015/03/28 17:38 |
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1980年発表の千草検事シリーズ作品。
前作(「妻に捧げる犯罪」)から八年ぶりに発表された作者の第八長編に当たる。 ~評論家・真木英介が小諸駅前から姿を消した。数日後、千曲川河畔で真木の小指の入った背広と「鴉」の文字が見える紙片が発見された。一方、世田谷の喫茶店では、劇作家の水戸大助が『白い鴉』と言い残して死んだ。何者かに毒殺されたのだ。ふたつの事件の間を飛び交う「鴉」につながりはあるのか? 千草検事の推理が真相を抉る傑作文芸ミステリー~ 作者らしい“地味”だが“丹念”な本格ミステリーに仕上がっている。 ひと言で表すとそんな印象。 紹介文にもあるとおり、当初は二つの事件が別々に進行し警察は手をこまねくのだが、千草検事が「鴉」という共通項を発見するに及び、二つの事件が密接に絡まってくる。 この辺りのストーリー展開は巧みで安定感十分。 序盤~中盤は事件の背景、「鴉」の意味など、いわば「動機探し」がプロットの中心。 終盤に差し掛かるまでに真犯人はおおよそ目星がつくのだが、捜査陣の前に鉄壁のアリバイが立ち塞がる。 というわけで終盤はこの「アリバイ崩し」がプロットの中心。 電話がトリックの鍵となるのだが、時代背景とはいえ、いかにも「作り物めいた」ところがちょっと頂けない気はした。 (犯人が実質これだけでアリバイを構築したというところに納得性が薄い) とはいえ、作品全体には何とも言えない寂寥感や悲哀感が漂い、格調高い作品に仕上がっているのは間違いない。 千草検事と野本刑事の頭脳派・体力派コンビは紋切型といえば紋切型で、ともすると二時間サスペンスのような雰囲気になりやすいのが玉に瑕。 本作も堅実な作風好きの方には良いが、冗長さがあるのも否めないかな・・・ 他の佳作よりは評価は落ちる。 (本作は、短編「泥の文学碑」をベースに長編に焼き直した作品) |
No.1120 | 5点 | 大渦巻への落下・灯台 -ポー短編集Ⅲ SF&ファンタジー編-- エドガー・アラン・ポー | 2015/03/28 17:36 |
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新潮社の編集によるE.A.ポーの短編集第三弾。
今回はSF、ファンタジー系作品を中心とした作品集となっている。 ①「大渦巻への落下」=舞台は北欧・ノルウェー沖。中型の漁船クラスの船が伝説の“大渦巻”に呑み込まれてしまう・・・のか? ラストは江戸川乱歩の某作品を思い出してしまった。 ②「使い切った男」=原住民との戦場で大活躍をした伝説の戦士。彼はいったいどんな男なのか・・・ということで話は進むのだが、ラストにはシニカルな結果が待ち受けている。 ③「タール博士とフェザー博士の療法」=タイトルはこうなっているのだが、話中にタール博士もフェザー博士も登場しない不思議なストーリー。とある精神病院を舞台に「鎮静療法」なる謎の療法が語られるのだが・・・ ④「メルチェルのチェス・プレイヤー」=“自動人形”と呼ばれ、対戦相手とチェスを指すことができる人形。要はからくり人形っていうことなのだろうが、本作はその「からくり=仕掛け」を延々と解説してくれる・・・。巻末解説によると、本作が後世のSF作品に与えた影響は小さくないとのことだが・・・ ⑤「メロンタ・タウタ」=作者の天文学への憧憬や興味が反映された作品。つまりはSF的な作品ではあるのだが、結局タイトルの意味はよく分からなかった。 ⑥「アルンハイムの地所」=これが一番よく分からなかった。主人公である詩人的造園家エリソンが、実はポー自身の投影になっているとのことだが・・・ ⑦「灯台」=実は未完の作品。ただし、舞台は北欧の海辺であり、①につながる作品ではないかという“いわく”があるとのこと。確かに魅力的な書き出しではある。 以上7編。 さすがジャンルを越え、多方面に才能を発揮した作者ならではの作品集。 正直、私のチンケな頭では理解できないものもあるのだが、脂の乗った時期に当たり、筆が乗っていることを思わせる作品が多い。 文庫巻末解説では、後世のSF作品への影響についても触れているので、SF好きの方は一読してみてもいいのでは? 本格しか読まないという方にはややキツイかも・・・ (個人的には、やたら自動人形の仕掛けに拘った④が一番印象に残ったのだが・・・) |
No.1119 | 8点 | ジェノサイド- 高野和明 | 2015/03/19 21:10 |
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2010年4月~2011年4月、『野生時代』誌にて連載された後に発表。大きな話題となった作品。
日本推理作家協会賞、山田風太郎賞受賞。その年の各種ランキングでもトップに推された超大作。 ~イラクで闘うアメリカ人傭兵と日本で薬学を専攻する大学院生。まったく無関係だったふたりの運命が交錯するとき、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。そして合衆国大統領が発動させた機密作戦の行方は? 人類の未来を賭けた戦いを緻密なリアリティと圧倒的なスケールで描ききり、その衝撃的なストーリーで出版界を震撼させた超ド級エンタテイメント!~ やはり評判はダテではなかった。 その圧倒的なスケールと緻密なプロットには素直に敬意を表したい。 日本、アメリカ、コンゴという三つの舞台で別々に進行するストーリー。 やがてそれは「進化した超人類」というキーワードで結び付けられていく・・・ 特にコンゴでの現地兵士たちとの戦いは圧巻の一言。 「まさかここまで酷いのか・・・」と絶句せざるをえない世界が容赦なく描かれている。 個人的には古賀研人というキャラクターに惹かれた。 科学者である父親を軽蔑しながら、自身も薬学の世界に身を置く矛盾。死んだ後も父親の業績を軽んじてきたが、ふたりの子供の命を救うべく命を賭けた新薬開発に心血を注ぐことになる・・・ (父親への捻れた思いって何か分かるよなぁー) ラストはご都合主義的な展開なのだが、そんな感想は超越してとにかく「手に汗握る」という感覚を久し振りに味わった。 本作を評価しない方は、「まるでハリウッド映画のような娯楽志向的作品」と思われるのだろう。 確かにそれはある。 多分に映像的でビジュアルを意識したプロットなんだろうと思う。 まぁでもそれこそが作者の目指す方向性なのだろう。 とにかく時間を忘れて作品世界に没頭させた筆力や展開力は賞賛に値する。 未読の方は時間のあるときに一気読みしてはいかがでしょうか。 |
No.1118 | 6点 | 七色の毒- 中山七里 | 2015/03/19 21:09 |
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警視庁捜査一課所属・犬養刑事を探偵役に据えた連作短編集。
タイトルどおり「色」をモチーフとした七つの事件が犬養を待ち受ける・・・ ①「赤い水」=一時期世間で物議を醸した“高速バスの事故”がテーマ。といっても、本作に登場する運転手は過剰労働をしていたわけではなく、死者も僅かにひとり済んだのだが、犬養の推理は事件の様相を反転させる。 ②「黒いハト」=イジメが原因で発生したある生徒の飛び降り自殺。ひたすら責任逃れをする学校側に世間の非難は集中し、イジメた生徒にもついには司直の手が伸びる。一件落着と思った矢先に飛び出す、犬養の鋭い推理! ③「白い原稿」=こりゃ思いっきり「水嶋○ロ」のアノ件がモチーフだな。作家はともかく出版社までもかなり批判していて作者は大丈夫なのだろうか? (実際「か○ろ○」は読んでないけど、そんなにヒドイのか??) ④「青い魚」=四十代にして独身の男の家に転がり込んだ若く美しい女性とその兄(!)。三人で海釣りへ出掛けたとき、事件は起こった! この「毒」と「魚」は事実なのだろうか? ⑤「緑園の主」=ホームレス襲撃事件とある少年の殺人事件。近接して起こった二つの事件には当然つながりがあった。事件の鍵は「緑園の主」であるアルツハイマー病の老婆なのだが・・・ ⑥「黄色いリボン」=“性同一性障害”がテーマの本作。女装の似合う細面の少年は自分の中にあった人格が、実は別に存在しているのではないかと疑いだす・・・。そこには思いもよらぬ「悪意」が潜んでいた! ⑦「紫の供花」=①の後日談的な作品。①で黒幕的な役割を果たした男性が今度は殺されることになるのだが、人格者として慕われた男性がなぜ殺されたのか? 岐阜県の田舎町にまで登場する犬養刑事・・・って神出鬼没。 以上7編。 「毒」っていうタイトルどおりのプロット。 どの作品にも直接の犯罪者以外に、裏で糸をひく黒幕が最後に明らかにされるのだが、その過程で読者は何とも言えない「悪意」を感じる仕掛けになっている。 特別派手なトリックがあるわけではないのだが、作者の“旨さ”は十分に発揮されていると思う。 超ハイペースで作品を量産できる作者って・・・やっぱ懐が深いってことだろう。 本作も水準級には仕上がっている。 |
No.1117 | 7点 | 第四の扉- ポール・アルテ | 2015/03/19 21:08 |
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1987年発表の長編作品。
作者のメインキャラクターとなるツイスト博士が登場し、フランスのミステリー賞も受賞したデビュー作。 ~オックスフォード近郊の村に建つダーンリー家の屋敷には奇妙な噂があった。数年前に密室状態の屋根裏部屋で、全身を切り刻まれて死んだダーンリー夫人の幽霊が出るというのだ。その屋敷に霊能力を持つと称するラティマー夫妻が引っ越してくると、さらに不思議な事件が続発する。隣人の作家アーサーが襲われると同時にその息子ヘンリーが失踪。しかもヘンリーは数日後、同時刻に別々の場所で目撃される。そして呪われた屋根裏部屋での交霊実験のさなか、またしても密室殺人が・・・~ 噂に違わぬ“意欲作”とでも言えばいいのだろうか。 何しろ本格ミステリー風のガジェットがてんこ盛り。 密室殺人はかなり堅牢なやつだし、交霊会や幽霊などの怪奇趣味が溢れ、“フランスのディクスン・カー”という形容詞はやはり的を得ていると思う。 ただし、黄金世代の本格ミステリーとは“似て非なるもの”には仕上がっている。 密室トリックについてはひと言物申したい方もいるだろう。 一応合理的な解決はなされているが、視覚的にかなり無理があるのは自明。 (歌○晶○氏のあのトリックと被るけど、規模的にみてこちらの方が難しいと感じる) 何より、不可能趣味以外に密室を構築した理由に欠けるのが弱点。 その他の謎についても割とアッサリ片付けられるものが多くて、マニアはちょっと食い足りない気にさせられるかもしれない。 本作の肝はそんなことより、作品全体に仕掛けられたトリックということになる。 読者は第三部を読み始めた途端、唖然とさせられるに違いない。 「これって、どういうこと??」って感じだ・・・ 世界観がひっくり返される展開というのは、最近の作品では珍しくないが、ここまで見事に“嵌められる”感覚というのは久し振り。 ラストには追い打ちのような一撃まで炸裂するという念の入れよう・・・いや、参りましたと思う読者も多いだろう。 まぁ惜しむらくは、詰め込みすぎでガチャガチャしていて、頭の中にスッと落ちてこないことか。 それでも、デビュー作としては十分合格点。 こういう作品を書こうという心意気だけでも買いたい。 |
No.1116 | 5点 | 密室殺人ゲーム・マニアックス- 歌野晶午 | 2015/03/07 14:48 |
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『密室殺人ゲーム王手飛車取り』『密室殺人ゲーム2.0』に続くシリーズ第三弾。
またもや“あの”レギュラーメンバー5名が推理ゲームで競い合う! (これが最終作品になるのだろうか?) ①「六人目の探偵士」=<aXe>が出題者となる本編は密室+アリバイがテーマ。ただし「アリバイ」については出題者が途中で放棄しすることに・・・。密室トリックについてはなぁー・・・リアリティはともかく、まぁ本作ならではの解法だろう。(アリバイトリックを放棄した理由は③で明らかになる!) ②「本当に見えない男」=「見えない男」といえば当然G.Kチェスタトンの名短編だが、本編は「本当に見えない」男なのだ。ということは透明人間か?? ってこれも本作らしいトリック。二段構えの出題になっていたのは別に関係ないような気がするけど・・・ ③「そして誰もいなかった」=これはいわゆる「ネタばらし」の章。まさにタイトルどおり、「誰も」いなかったのだ!(いやっ一人はいたってことだよな) これは正直脱力もの。 以上3編の構成。 一応①~③まで個別に書評したけど、本作に関しては個別の作品はあまり関係ない。 あくまで全体に仕掛けられた「企み」をどう捉えるか次第で評価は大きく変わる。 まぁシリーズも三作目となると、当然今までと同じプロットは通用しないわけで、作者なりの「捻り」は十分に効いているんじゃないかなぁとは感じる。 (こんなブッ飛んだプロットをシリーズもので実現させるのは至難の業ではないか?) ただし、③のネタバレトリックは安易だし、わざわざ五人の「外」の人間を登場させた割にはそこの仕掛けが浅すぎだし、今回はちょっと練り込み不足があったのも事実。 これ以上シリーズを続けていくなら、設定自体を一度見直す必要があるだろう。 でもまぁ個人的にはまずまず面白かったんだけど・・・ (「王手飛車取り」の頃はチャットそのものが斬新だったけど、さすがに今となってはねぇー) |
No.1115 | 5点 | 長野殺人事件- 内田康夫 | 2015/03/07 14:46 |
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2004年発表の旅情ミステリー。
光文社から発表されている作者の「地名+殺人事件」とタイトルものは、「旅情ミステリー」と銘打たれている(らしい)。 本作は、浅見光彦と「信濃のコロンボ」こと竹村警部の共演も魅力。 ~品川区役所で働く宇都宮直子は税金の督促で訪ねた男から、彼女が長野県出身者なのを理由にある書類を渡される。一ヶ月後、その男・岡根は長野県内で遺体で発見された。周囲に怪しい男も出現し、不安に駆られた直子は夫の友人である浅見光彦に相談する。一方、長野で岡根殺人事件を担当するのは「信濃のコロンボ」こと竹村警部だった。不正支出と知事選を巡る巨悪にふたりが挑む~ 久し振りの内田康夫である。 内田康夫ならば浅見光彦シリーズよりも「信濃のコロンボ」シリーズの方が好みなのだが、最近は殆ど発表されない。 その代わり、ふたりの共演作品というのが本作を含めて短い期間に二作出された。 (もう一作は『沃野の大地』。これも贋コメ事件をテーマとした社会派要素の強い作品) しかし、本作でもあくまで主役は浅見光彦である。 事件の大筋を解き明かすのも浅見だし、最後は竹村警部もほぼ浅見の指示で動くことになる。 相変わらず浅見は高級車「ソアラ」を運転してるし、母親に頭が上がらないし、旅先で美女と遭遇するけど結局深い仲には発展しないのである。 ここまで安定したシリーズキャラクターも珍しい。(これはやっぱり「水戸○○」をついつい見てしまうのと同じ心理なのだろうか?) 個人的には「長野」という地域限定探偵である竹村警部に本作だけでも主役を譲って欲しかったのだが・・・ (しかも「死者の木霊」以来の飯田署管内の事件だったのに!) で、本筋ですか? まぁいつものように連続殺人事件が起きて、まずまず意外な真犯人が判明するやつです。 今回は南信濃の名所旧跡紹介も満載ですので、旅のお供にもよろしいかと・・・ (「田中康夫」と「内田康夫」かぁ・・・まさか間違えて投票する奴がいたとは!) |
No.1114 | 6点 | 魔術師- ジェフリー・ディーヴァー | 2015/03/07 14:45 |
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2003年発表。
「石の猿」に続くリンカーン=ライムシリーズの五作目に当たる本作。 ジェットコースターサスペンスの代名詞ともいえる本シリーズもいよいよ佳境に突入! ~NYの音楽学校で殺人事件が発生。犯人は人質をとってホールに立てこもる。警官隊が出入り口を封鎖するなか、ホールから銃声が! しかし、ドアを破って踏み込むと、犯人も人質も消えていた・・・。ライムとサックスは犯人にマジックの修業経験があることを察知して、イリュージョニスト見習いの女性に協力を養成するのだが・・・~ “シリーズの原点に立ち返った”とでも評したらいいだろうか。 いくら人気シリーズとはいえ、回を重ねていくと当然「マンネリズム」という陥穽に嵌まりがちになる。 作者はその辺りは当然わきまえていて、三作目「エンプティ・チェア」では舞台をNYから南部の田舎町へシフト。四作目「石の猿」では相手を中国人の“蛇頭”というストレンジャーへシフトしてきた。 いずれもシリーズの保守本流からやや外すことで、読者の「飽き」を防ごうとする工夫が窺えるだろう。 しかし、本作はこれぞリンカーン=ライムシリーズと言うべき作品に仕上がっている。 舞台はNYはセントラルパーク周辺という大都会。ライムの相手は「魔術師(イリュージョニスト)」の異名を持つ殺人鬼! ふたりの頭脳戦をスピーディに描くプロットは、「ボーン・コレクター」や「コフィン・ダンサー」とシンクロする。 (やっぱり魅力的な犯人役が必要不可欠だな) そしてもうひとつの代名詞といえば「ドンデン返しの連続」なのだが、シリーズ最高峰のドンデン返しという作者の触れ込みに期待しすぎるとやや肩透かしを食うことになる。 そもそも今回の犯人役=「魔術師」の得意技自体が「誤導」、いわゆる「ミスリード」なのだ。 ってことは、そもそものところでミスリードがふんだんに仕掛けられているわけで、この上作品全体にドンデン返しが加わるとプロット的に混乱してしまうのかもしれない。 そういう意味では、「盛りすぎ」ということなのだろう。 原点に帰ったという点では好感触なのだが、やはり「コフィン・ダンサー」と比べると一枚も二枚も落ちるという印象。 次作に期待というところだ。 (法月綸太郎の文庫版解説は秀逸。実に的を得た解説だと思う。) |
No.1113 | 7点 | 犯罪カレンダー (7月~12月)- エラリイ・クイーン | 2015/02/26 22:20 |
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早川文庫版の上巻とも言える『犯罪カレンダー(1月~6月)』に続き、下巻である本書を読了。
その月に因んだ事件を扱うというのが大前提であるが、あまり関係のないような話も混じっているような気もする・・・ それはさておき、エラリーとニッキー・ポーターのコンビが何とも微笑ましい。 ①「墜落した天使」=7月。とある館で起こる殺人未遂事件を扱っているが、誰も撃てるはずのない空間で銃撃された不可能趣味が謎の本筋。いかにも犯人らしい疑似餌を取り除いていけば、真犯人に迫るのは容易だろう。 ②「針の目」=8月。冒頭に“海賊と略奪された財産の物語である”と書かれている本作。これもいかにも怪しい人物が登場しているので・・・こうなるよなぁー。 ③「三つのR」=9月。他の方も上巻に出てきた短編との類似性を指摘されているが、言われてみれば確かに・・・という感じ。でも個人的には好きな作品。ある人物の書いた筋書きどおりに殺人事件が起きるなんて、あの名作(「○の悲劇」)を想像させるではないですか?? ④「殺された猫」=10月。10月31日の復活祭の夜、ある建物の13階に集まる男女。照明の落とされた部屋に突然上がる悲鳴。明るくなった奥の部屋から発見される刺殺死体・・・っていう魅力的な謎を扱う本作。シンプル・イズ・ベストとでも言うべきエラリーの解法が見事に決まるラスト! ということで短編の良さが詰まった佳作。 ⑤「ものをいう壜」=11月。作中にチェスタトンの「見えない男」が引き合いに出されるなど、プロットに類似性が見られる本作。 ⑥「クリスマスと人形」=当然12月。貴重なダイヤモンドを散りばめた人形。その人形がクリスマスイブの当日NYのデパートで展示されることに。しかしあろうことか大怪盗“コーマス”がその人形を強奪することを宣言した・・・って、まさかクイーンがルパンばりの怪盗ものを書くなんて! コーマスにしてやられたはずのエラリーが余裕たっぷりなのが「なぜ?」って気がした。 以上6編。 突っ込みどころは結構あるのだが、短編集としてトータルで評価するなら十分水準以上だと思った。 上巻から通しで読むと同種のプロットに飽きがくるのかもしれないので、上下分けて読む方がベターかもしれない。 エラリーとポーター、そしてクイーン警視のやり取りはやっぱり魅力的だな。 時折登場するヴェリー部長刑事がすっかり道化役となっているのも面白い・・・(笑える) (個人的ベストは④だが、③や⑥も好み。あとはイマイチかな。) |