皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.1245 | 6点 | 月は幽咽のデバイス- 森博嗣 | 2016/06/25 21:53 |
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「黒猫の三角」「人形式モナリザ」に続くVシリーズの第三弾。
2000年発表の長編。 ~薔薇屋敷或いは月夜邸と呼ばれているその屋敷には、オオカミ男が出るという奇妙な噂があった。瀬在丸紅子たちが出席したパーティーの最中、衣服も引き裂かれた凄惨な死体が、オーディオ・ルームで発見された。現場は内側から施錠された密室で、床一面に血が飛散していた。紅子が看破した事件の意外な真相とは?~ これまた強烈な“変化球”本格ミステリーである。 当然ながら、作品ごとの出来不出来や若干のレベル差はあるけど、ここまで引き出しの多い作家は非常に稀だと思う。 今回もやはり登場する「密室」。 ただし、これがクセもの! そして、密室の謎に添えられた“こぼれた水”の謎がまたクセものである。 読み返してみると、案外分かりやすいヒントが散りばめられているなぁーと気付く。 例えば、床の凹み然り、現場に落ちていた“毛”然り・・・ ただし、真相がここまでアクロバティックなものだとはなかなか踏み込めなかった。 (終章までで何となく方向性は勘付いていたが・・・) 紅子の解説はまるで中学校の化学(理科か?)の授業のようだった。 前から思ってたけど、このVシリーズって、このレギュラーメンバー全員登場させる意味はあるのか? 少なくとも小鳥遊や香具山のサイドストーリーなどはいらないなぁと思ってしまうのだが・・・ 相変わらず保呂草は胡散臭いし、紅子VS夕夏の争いもしつこく書かれてるし・・・ 何か、本筋部分は今回かなり薄味というか、少量だったように思うのは私だけだろうか? それでもまぁ十分水準級での評価できる。 なかなか真似できないアイデアだしね。 |
No.1244 | 4点 | 盗作・高校殺人事件- 辻真先 | 2016/06/25 21:52 |
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「仮題・中学殺人事件」に続く、“スーパー&ポテト”シリーズの二作目。
今回も前作に引き続き“凝った”プロットが仕掛けられている模様。 1976年発表。 ~新宿駅の九番線ホームで電車を待っていた牧薩次の後ろで鈍い爆音とともに売店から黒煙があがった。パニック状態になった群衆は階段に殺到し、折り重なって転落した。病院に担ぎ込まれた薩次は同室の若い被害者ふたりと意気投合し、その中のひとり、三原恭助の実家の温泉旅館にそれぞれのカップルで出掛けることになった。だが、そこで密室殺人事件に巻き込まれることになる・・・~ 刊行当時、本作の帯に謳われていたのは、 『作者は、被害者です。作者は、犯人です。作者は、探偵です。この作品はそんな推理小説です』という言葉。 前作(「仮題・中学殺人事件」)では、読者=犯人という趣向に取り組んだ作者だったが、今回は更に難度が増したこととなる。 ただ、正直言って前作のトリック&プロットもかなり微妙だったし、無理矢理感たっぷりだった。 (読者=犯人というと、深水黎一郎の「ウルチモ・トルッコ・・・」の方が数段マシだった気が・・・) で、本作なのだが・・・予想どおりの微妙さ。 タイトルからして堂々と「盗作」と謳っているし、途中の「幕間」パートで「作中作」っぽい仕掛けが見え隠れしている。 残りページが少なくなるなか、いったいこれをどんな具合に収束させるかという不安がよぎるのだが・・・ 「なんじゃこりゃ?」というラストに突入することになる。 ちょっと表現しづらいけど、「分かりにくいし、小手先」という感じか? 密室トリックも二種類登場するけど、同様に「分かりにくいし、小手先」。 ちょっと辛い評価をしてしまっているけど、時代性も含めれば致し方ないのかも。 こういう“凝った”仕掛けにチャレンジすること自体を評価すべきなのだろう。 でも、面白いか面白くないかという二者択一なら、「面白くない」方に軍配を上げざるを得ない。 (実家がスーパーを経営しているからあだ名が「スーパー」って・・・安易すぎだろ!) |
No.1243 | 8点 | 縞模様の霊柩車- ロス・マクドナルド | 2016/06/19 18:04 |
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1962年発表。
作者十六番目の長編にして、もちろんリュウ・アーチャー登場作品。 ~幼くして実母に捨てられたハリエットは、いつか孤独で放縦な性格を身につけた女性になっていた。そして、二十五歳になり五十万ドルにのぼる叔母の遺産を自由にできる今となっては、誰も彼女の行動を抑えられなかった。そんな彼女が突然、メキシコから得体の知れない男を連れ帰った。財産目当てのプレイボーイか? 彼女の父と義母の不安は募った。男の身元調査を依頼されたアーチャーは、早速調査を開始した。しかし、車をとばす道中で行き交わした縞模様の霊柩車は、アーチャーの眼にただならぬ悲劇の前兆として映った!~ これは想像以上の傑作だった。 他の方も触れているように、本作は作者の代表作として名高い二作品(「ウィチャリー家の女」と「さむけ」)のちょうど間に挟まって発表された作品。 どうしてもロス・マクというと、かの二作品が有名すぎて、本作はコアなファン以外は“知る人ぞ知る”といった程度になってしまう。 でもまぁよく考えれば、まさに作者の絶頂期とも言える時期なんだよね。 アーチャーの造形やキャラクターも定着し、プロットも十分に練り込まれている。 これなら作者の「ベスト3」と呼んでも差し支えないだろう。 で、肝心の中身なのだが・・・ 正直なところ、中盤まではちょっとかったるいというか、方向性の定まらないような展開でやきもきさせられる。 ところが、“ボタンの取れたコート”という重要な証拠物件が発見される終盤以降は一転。 事件の構図は突然読者の前にくっきりと浮かび上がってくるのだ。 更には、「コイツって悪人だよなぁ・・・」と読者に思わせといて、最後にひっくり返しと悲劇が待ち受けるラスト。 うーん。やっぱりさすがとしか言いようがない。 何より、本作は登場人物ひとりひとりの書き込みが素晴らしい。 ハリエットやマークといった主要な登場人物以外の脇役でさえ、何とも言えない“渋み”を備えて描かれている。 それもこれもリュウ・アーチャーという探偵の存在に負うところなのだろうけど、何とも物悲しい、切々としたストーリーに実に嵌っている。 高評価せざるを得ないよなぁ・・・ (「縞模様の霊柩車」を乗り回す若者って・・・どんな奴?) |
No.1242 | 5点 | 残り全部バケーション- 伊坂幸太郎 | 2016/06/19 18:03 |
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2008年以降、段階的に発表されてきた物語に書き下ろしを加えて発表された作品。
溝口と岡田という魅力的な“裏稼業コンビ”が大活躍(?)する連作短篇集。 ①「残り全部バケーション」=離婚が決定した夫婦と娘の元にもたらされた一通のメール。それが風変わりなドライブの始まりだった・・・ということで、すでに読者は伊坂ワールドへ誘われることになる。 ②「タキオン作戦」=二番目にして連作中最も重要(かもしれない)エピソードが描かれる本編。父親に虐待されている少年を助けるために岡田の取った行動と、それに纏わる溝口やら他の面々のエトセトラ、etc・・・。タイムマシーンの話題も登場して何となくSFっぽい作りにはなっている。 ③「検問」=冒頭からまずは「おやぁ?」という疑問が浮かぶ展開。溝口のパートナーが岡田から謎の男“太田”にチェンジされている! でもそこのところの説明は一切なく、物語は進んでいく。警官が検問で見逃した理由は結局なんだったの? ④「小さな兵隊」=一転して岡田の少年時代が描かれる本編。岡田の友人である「ボク」視点で物語は進行していくのだが、岡田よりもボクの周辺の人物の方が面白いのはどうか? ⑤「飛べても8分」=単行本化に当たって書き下ろされた一編。ということは、連作のオチがつけられるのだろうと思いながら読み進めていくわけなのだが・・・。溝口の“謀ごと”はかなり大雑把だし、ラストも唐突に終了。 以上5編。 相変わらずの“伊坂ワールド”で、安定感抜群という感じだ。 溝口&岡田のキャラもなかなか良い。 本作はちょっと不満かな・・・ もちろん旨いのだが、ちょっと小手先が目立つというか、締め切りに追われて脱稿しました感が強い。 悪く言えば、これまで出てきたキャラクターを焼き直して、プロットを若干いじって登場させました・・・とも思えるし、「ラッシュライフ」やら「グラスホッパー」やら「陽気なギャング・・・」なんかのエッセンスを混ぜましたという印象が拭えないのだ。 (あくまでも印象ですが・・・) 確かに軽~い読書には適しているかもしれないが、あまり期待すると裏切られるよ。 でもまぁ繰り返し書くけど、この人天才だと思う。 |
No.1241 | 5点 | 微笑む人- 貫井徳郎 | 2016/06/19 18:01 |
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2012年発表。ノンシリーズの長編。
個人的に久々に作者の作品を手に取った・・・ということで、どうでしょうか?(何が?) ~エリート銀行員の仁藤俊実が、「本が増えて家が手狭になった」という理由で妻子を殺害。小説家の「私」は、事件をノンフィクションにまとめるべく取材を始めた。「いい人」と評される仁藤だが、過去に遡るとその周辺で不審死を遂げた人物が他にもいることが判明し・・・。戦慄のラストに驚愕必至! ミステリーの常識を超えた衝撃作!~ 作者の“狙い”は結局何だったんだろうか? ラストまで読了し、そう思わずにはいられなかった。 ネタバレみたいになるけど、本作にはいわゆる「解決編」はない。 紹介文のとおり、序盤から読者には魅力的な謎が提示されるのだが、最後まで明確な回答は示されず、あろうことか終盤になってさらに謎が積み重ねられて、そのまま終了してしまうのだ! 確かに「ミステリーの常識を超えた」作品なのかもしれないが、やっぱり何とも言えない残尿感は残ってしまった(汚い表現で申し訳ない!)。 プロットとしては特に目新しいものではない。 ノンフィクションライターがサイコっぽい犯罪者の跡を追いかけていくうちに更なる犯罪の影が・・・なんていうと、個人的には折原の「~者シリーズ」を思い出してしまう。 叙述的な仕掛けを企図するともろに被りそうだし、ホワイダニットをメインにするほど面白いネタではないし・・・ というわけで出てきたのが本作なのだろうか? こういう系統のプロットは嫌いでないだけに、もう少しやり方があったんじゃないかと思ってしまう。 ミステリーファンの哀しい性(さが)で、ドンデン返しを期待しすぎるのもいけないのかもしれない。 これはこれで余韻というか、何とも言えない残尿感を楽しむべきなのだろう。 でもあまり高い評価にはならないな。 |
No.1240 | 5点 | 魔術師を探せ!- ランドル・ギャレット | 2016/06/10 22:15 |
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~英仏帝国による統治が長く続き、科学的魔術が発達した世界。たぐいまれな推理力を持つ捜査官ダーシー卿と上級魔術師ショーンは彼らでないと解決できない特殊な事件の捜査に当たっていた。架空の欧州を舞台にした名作本格ミステリー~
というわけで、1964~65年にかけ、長編「魔術師が多すぎる」に先んじて書かれた連作短篇。 ①「その眼は見た」=このなかで一番本格ミステリーっぽい作品がコレだろう。ラストは意外な真犯人が指摘されるというプロットなのだが、捜査過程にショーンの「魔術」が使われるというのが本シリーズの特徴。 ②「シェルブールの呪い」=他の方も書かれているとおり、謎解きミステリーというよりは“スパイ謀略もの”に近い作品になっている。帝国VSポーランド王国という図式が本シリーズを貫く背景ということで、特に終盤はサスペンス感のある展開。 ③「青い死体」=亡くなった侯爵を収めるはずだった棺を開けてみると、すでに死体が入っていた。しかも、その体は全身青く染まっていた・・・という幕開けが印象的な三作目。途中まではダーシーとショーンコンビの捜査がテンポよく進んでいくのだが、途中からちょっとややこしくなってきて、分かりにくい展開になったような・・・ 以上3編。 冒頭の紹介文のとおり、本作は『魔術が使われる世界』という特殊な舞台設定が特徴。 時代設定としては、てっきり中世なのだろうと思っていたけど、文中には1960年代という表記があるため何か違和感を覚えてしまう。 で、問題の「魔術」なのだが、確かに捜査過程や犯罪の一要素として出てくることは出てくるのだが・・・ あまり関係ないかな? それがトリックやロジックに有機的に関わっているということではないし、極論すれば“単なる舞台設定or世界観”ということになる。 個人的に好みかと問われると、「かなり微妙・・・」という感じ。 (続編としての長編を読めば、また評価も違ってくるかもしれないが・・・) たまには毛色の変わった作品を読みたいという向きにはいいのかもしれない。 (「折れた竜骨」とは確かに世界観が似ている・・・かな?) |
No.1239 | 8点 | 奇面館の殺人- 綾辻行人 | 2016/06/10 22:14 |
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「暗黒館」(2004)以来、久々の「館シリーズ」(番外編的な「びっくり館」を除く)ということで、ファン待望の作品だったに違いない。
全十作を予定している(らしい)シリーズもついに九作目。 2012年発表の大作をようやく今回読了。 (別にもったいぶったわけでもないんですけど・・・) ~奇面館主人・影山逸史が主催する奇妙な集い。招待された客人たちは、全員奇面館に伝わる「鍵のかかる仮面」で顔を隠さなければならないのだ。季節はずれの大雪で館が孤立するなか、<奇面の間>で勃発する血みどろの惨劇。発見された死体からは何故か、頭部と両手の指が消えていた! 大人気「館シリーズ」待望の新作~ これはファンには堪えられない作品だろうなぁ・・・ 特に前作(「暗黒館」)がああいうファンタジックというか、えらく重い作品だっただけに、今回遊び心というか、いい意味で“軽く”、「パズラー」に徹したプロットはまさに原点回帰という言葉が相応しい。 作者あとがきにもそういうニュアンスの言葉が書かれていて、齢五十歳を超え、円熟期に入ったともいえる作者でも、こんな“若々しい”作品が書けるんだなぁと改めて感心した次第。 で中味なのだが・・・ 謎の中心は、探偵役の鹿谷が途中で指摘するように、①仮面に施錠がされたこと、②被害者の首&指切り、③関係者全員が睡眠薬で眠らされたこと、の三点。 ③については「館」シリーズならではの解法であり、最初からニヤリ。①②は有機的に繋がっているのだが、「被害者の入れ替わり」という当然想定される仕掛けを逆手に取った解法がニクイ!(ネタバレっぽいが・・・) 恐らく②に関する仕掛けから本作のプロットが広がっていったのだろうと推察するけど、こういうことを考えていく過程こそが、ミステリー作家としての醍醐味なんだろうな。 これが作り物っぽいと言う方に本作は合わないし、ここは徹底的に作者の遊び心に付き合うべきだろう。 エピローグの蛇足感については、他の方もいろいろと触れられているけど、設定の無理矢理感を少しでも和らげるための「オチ」ということなのかな? こんな奴が日本に○人もいるのか、という大いなる疑問はさておき、2016年の現在でこういう作品を楽しめることに敬意を表したい。 いよいよ次作がラストとなるのか? はたまた・・・? 評価はこんなもんだろう。 |
No.1238 | 6点 | 死者は黄泉が得る- 西澤保彦 | 2016/06/10 22:13 |
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1997年発表のノン・シリーズ長編。
作者としては八番目の長編作品となる本作は、お得意の特殊設定下のSF本格ミステリー(?) ~死者を蘇らせる装置のある謎の館。そこには“生ける屍”と化した女性たちが、生前の記憶をいっさい失ったまま、仲間を増やしながら生活していた。一方、その隣町では、美女をめぐる不可解な連続殺人事件が・・・。犯人の狙いとは? そして事件と生ける屍たちの関係とは? 意外なラストは他言無用、奇手妙手を尽くした本格ミステリー~ やっぱり変な作家だな!・・・って思ってしまった。 「七回死んだ男」や「人格転移の殺人」、「瞬間移動死体」などと同様、現実にはありえない超特殊設定状況での謎解きプロットの本作。 本作では「生前」と「死後」のパートが交互に語られていく展開。 そこには当然、作者の強烈な「仕掛け」が企図されている。 ただ、分かりにくいよなぁ・・・ 特に「死後」のパートは、ラストの種明かしまで、何を表しているのか、何を言いたいのか、さっぱり分からないまま進行していく。 もちろん終章では本作の「からくり」が開陳され、読者も「なるほど」と思うようにはなっているけど・・・ ここまで大掛かりで、超特殊設定が必要なのかどうかは正直よく分からん! これを面白いと思うか、なんじゃこりゃと思うかは、もはや読み手次第だろう。 個人的にはどうかって? 「まぁ、ありかな・・・」っていう感じ。 本作は山口雅也氏の「生ける屍の死」へのオマージュとして書かれた作品。 作者あとがきには、「生ける屍・・・」へのただならぬ敬意が触れられているが、作者なりの「生ける屍」が本作ということなのだろう。 どちらが上ということもないけど、本作の場合、殺人事件のトリックorロジックに「生ける屍」がダイレクトにはつながっていない点が弱いかなとは思った。 でも、まぁいいんじゃない。こんなブッ飛んだプロットをひねり出せるのも一つの才能に違いない。 ラスト一行も“気が効いてる”。 (J.Dカーの「死者はよみがえる」とは特段関係なし) |
No.1237 | 6点 | 死者の長い列- ローレンス・ブロック | 2016/06/04 20:09 |
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1994年発表。
マット・スカダーシリーズも重ねて第十二作目の長編ということなる。 原題“A Long Line of Dead Men” ~年に一度、秘密の会を催す男たちの集まり「三十一人の会」。はるか昔より会員の代替わりを繰り返しながら、現在の顔ぶれになったのは1961年。だが、それから三十二年後、メンバーの半数が相次いでこの世を去っていた。あまりに死亡率が高いことに不審を抱いた会員の依頼を受け、スカダーは調査を始めるが・・・。NYに暮らす都市生活者の孤独を描きながら、本格推理の要素を盛り込んだ傑作長編ミステリー~ 本作の特徴は紹介文のとおりで、ハードボイルドと本格ミステリーの融合・・・ということになる。 まず謎の提示が実に魅力的。 ある集団の半数以上が、実に長い年月をかけて死に至っている。ある者は事故で、ある者は自殺で、またある者は殺されて・・・ こんな大掛かりなプロットをいったいどのように収束させていくのだろうか? そこに期待は高まった! ただし、本格ミステリーと書いてはみたが、パズラー小説のように伏線がそこかしこに撒かれているわけではない。 フーダニットは唐突だし、真犯人にも正直なところ「こいつ誰だっけ?」と思う方が大半ではないか? そういう意味では、やはり今回も本シリーズらしく、作品の風合いというか、何とも言えない香気を楽しむべきなのだろう。 特に「動機」はなかなかぶっ飛んでいる。 っていうか、やっぱり私の小市民的価値観では理解不能だ。 人間ってこんなことで、ここまで長期間に亘る事件を企図するものなのだろうか? 我慢強さだけで言えば、あらゆるミステリーの犯人中最高レベルとも言えそう。 (最後はなかなか憐れだが・・・) まっでも、相変わらず安定感抜群のシリーズ。 今回、スカダーはついにエレインと結婚することとなる。 齢五十五にして、妙齢かつ才気溢れる妻を娶るとは・・・男として最高かもしれない。 実に羨ましい限り! 悔しいから評価は下げてやる!! (冗談) |
No.1236 | 5点 | ノックス・マシン- 法月綸太郎 | 2016/06/04 20:07 |
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2013年度の「このミス」第一位にも輝いた短篇集。
本格ミステリーをこよなく愛する(?)作者が書いたSF寄りの四篇(ということでいいのか?) ①「ノックス・マシン」=ノックスとは言うまでもなく、「ノックスの十戒」で有名なロナルド・A・ノックスなのだが、十戒の五番目『探偵小説には、中国人を登場させてはならない』とタイムトラベルを組み合わせた(?)サイケデリックなプロット。まっ、作者ほどのミステリー狂にしかできないお遊び・・・というところ。 ②「引き立て役倶楽部の陰謀」=ワトスン、ヘイスティングス、アーチー、ヴァン・ダインなど、お馴染みの引き立て役が一堂に会し、クリスティの「そして誰もいなくなった」に異議を唱える・・・という遊び心満載の一編。これも実にマニア向けというか、何ていうか・・・。読者を選ぶよなぁ・・・ ③「バベルの牢獄」=これは完全にSFなのだが・・・で、いったい何が言いたいのか?っていう感想にしかならない。でもこういう感想がそもそもおかしいのだろうな。 ④「論理蒸発-ノックス・マシン2」=①の続編。今度はE.クイーン国名シリーズ一の問題作「シャム双生児の謎」に『読者への挑戦』が挿入されていなかったこととタイムトラベルを組み合わせた(?)サイケデリックなプロット。これもまた作者のクイーン愛が爆発!とでも言いたくなる。 以上4編。 で、結局何が言いたいの? 以上書評終了! (でもいいのだけど)何がなんだか分からないうちに読了したわけなのだが・・・ これを「このミス」一位に押した方は本当にこれを理解したのだろうか? 「遊び心満載」なのはよく分かるんだけど・・・ 作者のノン・シリーズ作品集って割とこういう実験的なヤツが目につくよね・・・ こういう作品を出版させる版元もまずまずエライのかもしれない。 コレはこれでよしとしよう! |
No.1235 | 6点 | Rommy- 歌野晶午 | 2016/06/04 20:06 |
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1995年発表のノンシリーズ長編。
作者の作品としては、「信濃譲二シリーズ」終了後の充電期間を経て発表されたターニング・ポイントとしての位置付け(だそうです)。 当初の~そして歌声はのこった~からサブタイトルが変更された新装版で読了。 ~人気絶頂の歌手Rommy(ロミー)が、絞殺死体となって発見された。Rommyの音楽に惚れ込み、支え続けた中村がとる奇妙な行動の意味は? 一瞬目を離したすきに、Rommyの死体は何者かに切り刻まれ、奇妙な装飾が施されていた・・・。いったい誰が何のために? 天才歌手に隠された驚愕の真相とはなにか?~ 初期作品で読み残していた本作をようやく読了したわけなのだが・・・ なるほど これは“ターニング・ポイント”という表現が相応しいかもしれない。 明らかに「・・・家の殺人」のド本格とは違う肌触りのミステリー。 いかにも新本格というプロットで、若書きが目立った前三作と比べるとミステリー作家としての成長が窺える作品だろう。 プロットの根幹はある大技の「叙述系トリック」(という表現でいいのか?) この隠された大技が判明するラスト・・・すべてがガラガラと崩れていくカタストロフィを味わうことになる。 約二十年前の作品だし、まぁ今となっては分かりやすいネタと見る向きもあるかもしれないが、ひとつのミステリーを精緻に組み上げていくプロットとしてはよく出来ている部類だろう。 現在と過去を行きつ戻りつする構成の妙や、手記や歌詞などを駆使するなど、作者の持てるアイデアを詰め込んだ感もなかなか良いと思う。 ちょっと引っ張りすぎかなという気がするのが気がかりではあるが・・・ 中盤の冗長さを嫌がる方もいるかもしれない。 でもまずは水準以上の評価はできる。 実験的な作品でもあったと思うのだが、本作で自信を得た作者が、次作以降更なる飛躍を遂げたのだろうな・・・ (業界人の描写、書き方がちょっと陳腐かな・・・) |
No.1234 | 8点 | 歌うダイアモンド- ヘレン・マクロイ | 2016/05/23 23:06 |
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ベイジル・ウィリング博士が登場する二編を含めた作者の傑作集。
SFなど本格ミステリーの範疇に収まらない作品をはじめ、実にヴァラエティに富んだ構成。 (原書にはない中編を併録。やるね、東京創元社!) ①「東洋趣味(シノワズリ)」=「EQMM」誌でも高い評価を得た短篇。世界大戦前の中国というキナ臭い舞台設定がまずは嵌っているし、何となく小粋な作品に仕上がっている。 ②「Q通り十番地」=SF分類の一作目。人工的な食物で覆われた時代に、本物の「食物」を超高値で提供するモグリの店・・・。その店で繰り広げられる会話がテーマなのだが、なかなか面白いよ。 ③「八月の黄昏に」=SFのテーマ&プロットとしては“ありがち”なタイムトラベルもの。でもまずは旨いよね・・・。オチもきれいに付いている。 ④「カーテンの向こう側」=これも短篇らしい切れ味を感じる一編。他の作品にも言えることだけど、終盤までの盛り上げ方とラストの落としどころがとにかく旨い。 ⑤「ところかわれば」=これは・・・とにかく“ニヤニヤ”させられるというか、何ともいえない感覚の作品。分類としては勿論SFになるんだろうけど、個人的には全盛期(?)の「アンジャッシュ」のコントを思い出してしまった。 ⑥「鏡もて見るごとく」=これは代表作「暗い鏡の中に」の原型となった短篇。確かに短編の方がエッセンスが凝縮されていて、純粋な謎解きとしては上のように感じる。(まっ、これは好みの問題でしょうけど) ⑦「歌うダイアモンド」=⑥とこれはウィリング博士が登場する本格ミステリーなのだが、まさかあの有名なトリック&プロットが使われているとは思わなかった! 時代的にはク○○ス○ィの方が古いよな・・・ ⑧「風のない場所」=これは・・・実に味わい深い作品。いらないものをできる限り削ぎ落としました・・・って感じか。それだけに読者は考えさせられることになる。 ⑨「人生はいつも残酷」=本作がボーナストラック。過去に罪を被った曰くつきの町に帰ってきた主人公を巡る愛憎劇がテーマ。なのだが、ラストは見事な反転というか、これが動機(!?)っていう感じにさせられる。 以上9編。 これはもう「さすが!」というべき作品だろう。 文庫版あとがきで千街晶之氏も作者の短篇巧者ぶりに触れているけど、まさにその通り。 特にSFは意外だったけれど、意外や意外、むしろ本格物よりもよくできている感じすらする。 いずれにしても、これは「傑作短篇集」という評価がピッタリ! 作者の才能&力量に脱帽・・・という評価でよいのではないか。 (個人的にはやっぱり⑤がダントツ。他も粒ぞろいの作品が並んでいる) |
No.1233 | 7点 | この闇と光- 服部まゆみ | 2016/05/23 23:04 |
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2001年に発表された長編。
長短合わせた作品が二十篇のみという作者は2007年に夭折・・・ ~森の奥に囚われた盲目の王女・レイア姫は、父王の愛と美しいドレスや花、物語に囲まれて育てられた・・・はずだった。ある日、そのすべてが奪われ、混乱の中で明らかになったのは恐るべき事実で・・・。今まで信じていた世界そのものが、すべて虚構だったのか? 随所に張り巡らされた緻密な伏線と、予測不可能な本当の真相。幻想と現実が混ざり合い、迎えた衝撃の結末とは?~ なるほど・・・こういう作品だったのかと唸らされた次第。 最近、書店でかなり大げさなポップ(「○○店員がチョーお勧め!」みたいなヤツ)をつけて平積みされていたから、気になってはいたのだけど・・・ 純粋なミステリーと呼ぶには抵抗があるけど、これはこれで十分な謎とサプライズを備えた作品だろう。 文庫版解説の皆川博子氏は、本作について『・・・作品が放つただならぬ香気』と表現されている。 確かに、行間からにじみ出ているのは「香気」と表現すべき「気」なのかもしれない。 少なくとも、第一章だけを読んでいると、単なるファンタジーとしか思えない。 それがジワジワと反転していく刹那。 (一瞬にして反転するのではなく、読者に少しずつネタばらししながら反転させていくのがニクイ) 途中からいったいどういうオチ?という目線だったんだけど・・・ まぁこれはこれでいいんだと思う。 手練のミステリー好きならば、更なる大技、サプライズを求める向きもあるかもしれないが、それはそれで下品になるのかも。 現実と虚構の混ぜ具合も“ちょうどいい”と思う。 ということで、ひとことで言えば「よくできた作品」という評価。 さすがに直木賞候補になっただけのことはある。 それだけの雰囲気を持った作品。 |
No.1232 | 4点 | 子どもの王様- 殊能将之 | 2016/05/23 23:03 |
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2003年発表。
小野不由美「くらのかみ」、島田荘司「透明人間の納屋」と並び、子供向けの講談社ミステリーランドの第一回配本として発表された作品。 ~カエデか丘団地に住むショウタと親友のトモヤ。部屋に籠って本ばかり読んでいるトモヤの奇妙なつくり話が、ショウタの目の前で現実のものとなる。残酷な「子どもの王様」が現れたのだ! 怯える親友を守るため、ショウタがとった行動とは? つくり話の真相とは? 今は亡き作者が遺した傑作がついに!~ 本作と全然関係ない話で恐縮ですが、 毎週日曜日の朝に放映している、いわゆる「平成仮面ライダー・シリーズ」。 シリーズも回を重ね、はや二十近く(合ってるか?)の作品が発表されている。 わたしは朝食をとりながら、子供が見ているTVを横目で見ているわけだが、これが実にきちんとしたプロットなのだ! 私自身が子供の頃に見ていた「昭和・・・」とは大違い! 前段には謎を提示しつつ、いかにも伏線めいたシーンが何箇所も嵌め込まれ、シリーズ終盤にはその伏線がきちんと回収されていく。 そして何より「世界観」がきちんと示されているのだ。 「これが果たして小学生に理解できているのか?」といつも横で疑問に思う私なのだが・・・ で、何が言いたいのかといいますと・・・ この「ミステリーランド」シリーズって、子供をターゲットにといいつつ、やっぱり大人を意識した作りにしなければならないと思うわけです。 子供だからプロットも適当でいいという訳では決してなく、子供でもある程度は理解でき、しかも大人も楽しめる。 むしろかなり高いハードルが要求されていると思う次第。 で、本作なのですが・・・その水準には程遠いのではないでしょうか。 島田荘司や麻耶雄嵩のシリーズ作品には唸らされたのだけど、本作は一枚も二枚も落ちると思う。 これを読んで子供たちがミステリーの面白さに目覚める・・・なんてことはないだろうなぁー でもまあ、寡作の作者としては貴重&価値ある作品。 |
No.1231 | 6点 | だれがコマドリを殺したのか?- イーデン・フィルポッツ | 2016/05/15 16:35 |
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1924年。ハリントン=ヘクスト名義で発表された長編。
創元推理文庫創刊当時、「誰が駒鳥を殺したか?」とのタイトルで発表され、長らく絶版となっていたものを今回新訳にて復刊。 (他の方も書いてますので今さらですが・・・) ~医師のノートン=べラムは、海岸の遊歩道で美貌の女性に出会い、一瞬にして心を奪われた。彼女の名はダイアナ。あだ名は“コマドリ”・・・。ノートンは踏み出しかけていた成功への道から外れることを決意し、燃え上がる恋の炎に身を投じる。それが予測不能な数奇な物語の始まりと知るよしもなく・・・。さながら美麗な万華鏡を覗くように、目まぐるしくその姿を変える事件の行き着く先は?~ 『だれが殺したコック・ロビン』 というわけで、ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」でも有名なマザーグースの一節が、本作のモチーフとなっている。 (別に童謡殺人ではないが・・・) 作者の略歴や背景、作品の特徴や経緯などは戸川安宣氏の文庫版あとがきや、他の方の書評で詳しく書かれているので、重ねては書かない。 作者の代表作である「赤毛のレドメイン家」や「闇からの声」と比較しても、確かに本作はそれらに肩を並べるに値する出来ではある。 主人公ノートンとコマドリ、そして二人の近しい家族や友人。都合六人の男女がイギリス・フランスの田舎町を舞台に、愛憎渦巻く一大活劇を演じていく。 そう、まさに「愛憎」なのだ。 『可愛さ余って、憎さ百倍』 人間の感情は、時代や洋の東西を問わず一緒ということだろう。 この辺りを書かせると、作者はさすがに一流の腕前を発揮する。 野暮を承知でミステリー的な観点で見ると・・・ まぁ「○れ○○りトリック」は仕方ないかな、時代性を考えると。 このサイトで何回も書いたような気がするけど、人間の感覚ってそこまで鈍くないから、「○れ○○り」は正直あまり感心はしない。 でも本作の場合は、プロットの勝利だろう。 読者も「分かってて騙される」感があるのではないか? 一旦物語の世界に引き込まれると、ついつい作者のペースに巻き込まれてしまうのだろう。それだけの作品ということ。 (ところで探偵役のニコル=ハートはなぜ気付いたのだろうか? もしかして単なる勘?) |
No.1230 | 4点 | わたしたちが少女と呼ばれていた頃- 石持浅海 | 2016/05/15 16:34 |
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「扉は閉ざされたまま」「君が望む死に方」そして「彼女が追ってくる」に続く“碓水優佳シリーズ”四作目。
いずれも長編だった前三作と違い、本作は連作短篇となっているところがミソ。 そして、時代も遡って彼女が女子高生だった頃が舞台。 ①「赤信号」=名門女子高・碩徳横浜高校に広がるジンクス。『あの交差点で赤信号で止まると、受験に失敗する』・・・。そんな根も葉もない(?)ジンクスに立ち向かう優佳なのであった・・・ ②「夏休み」=高校三年の夏休み。受験勉強も大事だが、やっぱりコッチの方にも力はいるよなぁー、普通。 ③「彼女の朝」=特進クラスの中でもトップの成績を独占する「デキル女子」。しかし彼女の秘密は深夜の深酒なのか・・・? ただし、優佳の視線は冷静そのもの。 ④「握られた手」=クラスの中で異様に仲の良い女子二名。彼女たちの関係はやっぱり○○なのか? 「百合」って今でも使う言葉なのか? かなり違和感・・・ ⑤「夢に向かって」=受験勉強そっちのけで漫画家への道をひた走る女子高生。でも代々医者の家系の宿命で医学部を受験しなければならないのだが・・・ ⑥「災い転じて」=合格祈願で訪れた元旦の初詣。そこでの不慮の事故で大事な右腕を骨折してしまう女子。本番を一週間先に控えて落ち込んでいたはずの彼女が、なぜか急に元気になったのは? ⑦「優佳と、わたしの未来」=連作のオチとなる本編。単なるオチっていうか、①~⑥までの各編は⑦のためにあったというべきプロット。本作を通じての語り手であった上杉小春が優佳という人間の本性に気付くとき・・・ 以上7編。 これ、気持ち悪くないか?? 別にミステリーとして気持ち悪いって言ってるわけではなくて、いい年こいたおっさんが、女子高生どおしの会話を考えながら書いている姿を想像すると・・・ しかも、なんか出てくるキャラすべてがどうにも作り物っぽくて(当たり前なのだが・・・)、どうにも居心地悪い気分にさせられた。 プロットとしてもどうかなぁー 連作としてはよく練られているのかもしれないけど、短篇のひとつひとつは相当ユルイし薄味。 手頃な分量なのだが、どうにも手が進まなかった感じ。 このシリーズはやっぱり捻りの効いた倒叙の長編でこそ、ということなんだろう。 (⑦は「扉は閉ざされたまま」につながっていくという設定はなかなかニクイのだが・・・) |
No.1229 | 8点 | 写楽 閉じた国の幻- 島田荘司 | 2016/05/15 16:33 |
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2010年に発表された作者初の本格歴史ミステリー。
これまで多くの学者や文化人が挑んできた「写楽の正体」について、大ミステリー作家となった作者が肉薄する(のか?) 新潮文庫版では上下分冊のボリューム。 ~“世界三大肖像画家”とも称される写楽。彼は江戸時代を生きた。たったの十か月だけ・・・。その前も、その後も、彼が何者だったのか、誰も知らない。歴史すら、覚えていない。残ったのは、謎、謎、謎・・・。発見された肉筆画。埋もれていた日記。そして、浮かび上がる「真犯人」。元大学教授が突き止めた写楽の正体とは?? 構想二十年。美術史上最大の「迷宮事件」を解決へと導く、究極のミステリー小説~ どうだろうか? 文庫版の作者あとがきを読むと、「写楽の謎」に対する作者の並々ならぬ熱意が窺える。 確かに、これまで数多の評論家や学者、文化人や作家たちが魅了されてきた謎! これだけ諸説が飛び交う謎。これが古代の話なら分かるが、ほんの二百数十年前の江戸時代の話なのだ! これはまさに島田荘司がチャレンジするだけの大いなるミステリーといえる。 写楽の正体についての真偽は、本作を読了した後も正直なところよく分からない。 確かにこれまでの発想では解けない謎なのだから、突飛というか異なるアプローチをしていくしかないのは分かる。 解説を読んでも、かなり資料を綿密に調査したことが窺えるし、もしかしたら真相に迫っているのかもしれない。 (ウィキペディアを参照すると、直近ではどうも当初の「斎藤十郎兵衛」説に立ち戻っているようだが・・・) 読み物としての本作は作者らしい実に面白い小説に仕上がっていると思う。 いかにも島荘作品の登場人物らしい造形なのがどうかという感じはするが、こういう壮大なスケールの物語を紡げる才能というのは、やはり作者の真骨頂だろう。 長すぎるとか、江戸編はいるのかとか、いろいろとご意見はあるようだが、「これはこれでいいのだ」!! 個人的には近頃ないスピードで読み切ってしまった。 それだけ夢中にさせられたのだろうと思う。 「江戸」の姿を辿る・・・っていうと「火刑都市」や「奇想、天を動かす」、「網走発遥かなり」など初期の作品を思い出してしまった。 こういう話も作者の十八番だったんだよね。 やっぱり、良くも悪くも他の作家とはひと味も二味も違うなぁ・・・ (結局回転ドアの話は何が言いたかったのか、イマイチ不明) |
No.1228 | 7点 | 依頼人は死んだ- 若竹七海 | 2016/05/05 21:55 |
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2000年発表の連作短篇集。
最近久しぶりに続編が発表された、女探偵「葉村晶シリーズ」の第一作目が本作。 ①「濃紺の悪魔」=辞めたはずの探偵事務所から再雇用の話が・・・。結局フリーの立場で契約を結んだ晶が巻き込まれる事件。ある女性の警護が仕事なのだが、謎の人物にしてやられることに・・・ ②「詩人の死」=夫に自殺された友人と共同生活をおくることになった晶。その夫は現代には珍しく“詩集の売れる”詩人だったのだが・・・。そこにはある事情が隠されていたわけです。 ③「たぶん暑かったから」=これはもう、最後の一行が強烈なインパクトを残す一編と言うしかない! いやぁーこれはなかなか・・・ ④「鉄格子の女」=ある作家&画家の書誌を作成する仕事を引き受けた晶が巻き込まれる事件。途中、ある一枚の不思議な絵が登場し、その絵に纏わる謎が本作の鍵となる。 ⑤「アヴェ・マリア」=晶ではなく、同僚の探偵・水谷の視点で語られるのが異質な本編。なぜこういう設定となったのかは、終盤に判明するのだが・・・。何となく途中から察してはいたけど、まずまず旨いプロット。 ⑥「依頼人は死んだ」=表題作となってはいるけど、それほど佳作というわけではない。 ⑦「女探偵の夏休み」=②でも登場した友人みのりとともに三浦半島のリゾートホテルで夏休みを過ごすこととなった晶。で、やっぱり事件に遭遇する(?)というか、知らないうちに事件は解決していた(?) 作者の技が光る作品。 ⑧「わたしの調査に手加減はない」=夢の理由を調べて欲しいという無理難題が今回の仕事。なのだが・・・ちょっと分かりにくいかな。 ⑨「都合のいい地獄」=本作のみ単行本化に当たって書き下ろされた模様。①で登場した謎の人物が再び晶の前に現れる。しかも、周りの人物は彼のために・・・となってしまう! 結局そのからくりは謎のままでフェードアウト・・・。最後の一行は??? 以上9編。 これは想定外。予想以上に面白かった! 連作短篇としてもまとまってるし、一編ごとも短編らしいプロットや切れ味を感じる作品が多くて読み応えも十分。 晶のキャラクターもなかなか。 さすがに十年超えてシリーズ化していくだけのものはあると感じた。 敢えていうならハードボイルドになるかもしれないけど、ちょっと分類しにくい作品。 でもまぁこれなら続編も絶対読むだろう。 (個人的ベストは断然③で次点は⑤かな) |
No.1227 | 5点 | 飛越- ディック・フランシス | 2016/05/05 21:54 |
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「本命」「度胸」「興奮」「大穴」のつぎは「飛越」・・・
というわけで、1966年に発表された長編五作目がコレ。 「飛越」とは、競馬の障害レースで馬が障害物を飛ぶことを言います。(念のため) ~競走馬の空輸請負業者の馬丁頭に身をやつしたヘンリイ伯爵は、奇妙なことに気付いた。前任者がふたりとも行方不明になり、空輸中の馬が時に異様な興奮を示す・・・。競走馬空輸をめぐり何か恐るべき企みが遂行されている! かくして絶対的に不利な状況のままヘンリイはひとり敢然と調査に乗り出した。しかし、行く手に待つのは、見えざる敵の非情な銃弾に他ならなかった!~ やや一本調子なプロットかなという印象。 紹介文のとおりで、競走馬の空輸業務に携わっていた主人公が、業務を遂行しているうちに違和感を覚え、独自の調査をしているうちに敵の反撃に遭う・・・ というのがかなり大まかな粗筋。 要はいつものD.フランシス作品ということなのだ。 終盤に入る前にあらかたの謎は解明され、それ以降は敵の手に落ちた主人公が命からがら逃げ出すまでの冒険譚が描かれる。 これもまぁー 終盤必ず主人公がピンチに陥って、読者はハラハラさせられるが、結局何とか助かる・・・ っていう作者お約束のプロットなわけです。 (でも今回のピンチはなかなかハードですが・・・) 本作が特別酷いプロットとは思わないけど、ちょっと粗いかなというところは気になった。 空輸の謎も結局100%解明されないままラストを迎えているし、いつにもまして冒険スリラー要素が濃かったと思う。 飛行機にえらく詳しいことについては、作者の経歴とのことで納得。 その代わり、本作は競馬場のシーンがほとんど登場しなかったのだが・・・ 評価はうーん。高くはできないかな・・・ (イギリス人がいきなり一撃でイタリア人と恋に落ちるということはありえるのか?) |
No.1226 | 5点 | 男たちは北へ- 風間一輝 | 2016/05/05 21:53 |
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1989年に発表された作者のデビュー長編。
風間氏は数冊の作品を出した後、1999年に没した“知る人ぞ知る”的な作家(なんだろう)。 ~東京から青森まで・・・。緑まぶしい五月の国道四号線を完全装備の自転車でツーリングする中年グラフィック・デザイナー、桐沢風太郎。ひょんなことから自衛隊の陰謀騒ぎに巻き込まれ、特別隊に追跡されるはめになった! 道中で出会ったヒッチハイクの家出少年、桐沢、自衛隊の尾形三佐・・・。追う者と追われる者の対決、冒険とサスペンスをはらみつつ、男たちは北へ! 男たちのロマンを爽やかに描く傑作ロードノヴェル~ 無骨で汗臭い男たちの物語。 本作をひとことで言い表すとしたらそんな感じか? 主人公である桐沢が東京を出発し国道四号線を北上、ゴールの青森駅を目指す行程がひたすら描かれるストーリー。 とにかく旅行記さながらに途中の街町の風景や名物までも織り込まれている。 いったいどういうジャンル? ラストには何かミステリーっぽい仕掛けでもあるのか? などと考えていたのだが・・・ そんなことは考えてはいけないのだ! とにかく男たちは北へ向かうのだ! 中年も少年も自衛隊員も、ひとりの男として成長するのだ! 読んでくうちに、何だかこっちの太ももも自転車のこぎ過ぎで痛くなってきたような気分(嘘です)。 自衛隊の陰謀云々はいったい何だったのか? まるでコントのように茶々を入れるだけに終わったし、桐沢本人が言っているように、「最初から素直に返してって言えばいいのに・・・」ということに尽きるだろ! 自転車好きの方ならこういう冒険譚に心躍るんだろうなぁー 最近ならロードバイクっていうんですか、昔と違って坂道を登るのもだいぶ楽になってきてるっていいますし・・・ でも無理だなぁ。野宿なんてイヤだし・・・ |