皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.1825 | 6点 | 神津恭介の回想- 高木彬光 | 2025/02/15 14:20 |
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出版芸術社が編んだ”名探偵”神津恭介登場の短編集。
いやいや、もう、油ギトギトという感じ(表現が適当でないかもしれませんが)の作品が並んでいた印象。 単行本は1996年に発表されたもの。 ①「死せるものよみがえれ」=まずは初っ端の作品としては妥当なセレクションだろう。つまりは”ジャブ”的な作品。小市民が犯罪を犯すとこのようになってしまう、ということなのだが、最終的には名探偵・神津恭介が颯爽と登場して、主人公を窮地から救い出す。そして指摘される意外な犯人。まっ、意外でもないか・・・ ②「緑衣の女」=乱歩の「緑衣の鬼」を意識した作品なのだろうか。こちらは緑ずくめの恰好をした「女」が登場する。しかも「四本指」である。序盤から、それこそ、もう、これでもかというほどに、作者は「緑衣」「緑衣」とあおってくる。さぞかし、ものすごいトリックかと思いきや、うん。この時期のミステリにはありがちな着地点ではある。短編だと登場人物が少ないから、どうしても役割をそれぞれに振らなければならなくなる。そういう感が強い。 ③「白魔の歌」=戦前に活躍した名探偵なる人物のもとに届く「白魔」を名乗る者からの脅迫状。過去の名探偵は、「現代の」名探偵である神津恭介の出馬を強く要請する。そして、連続殺人事件が発生するなか、海外出張から戻った神津は、アッという間に真相解明・・・。でもこの動機は・・・ ④「四次元の目撃者」=これはなかなか面白かった。まるで四次元の世界のごとく空中に向かって開ける扉。そんな扉がある部屋で起こった密室殺人事件。魅力的な謎ではないか! ただし、密室の解法は、どこかで見たやつだな・・・(もしかしてこれが初なのか?) ⑤「火車立ちぬ」=熊本地方に伝わる言い伝え、それが「鴉」「猫」「狐」の三匹の動物が出てくる不吉な言い伝え。そして、現実に発生した殺人事件にも「鴉」、次の事件には「猫」の幻影が。神津は冷静に推理を行うが、真相はかなりご都合主義でこじつけ感が強い気がする・・・ 以上5編。 うん。まずまず面白い作品が並んでいた印象。もちろん時代がかりすぎて、「なんじゃこりゃ?」的な感想のものもありはしたけど、さすがは作者。どこか光るポイントがあるように思った。 短編から長編化したものや、改題したものなど、作品ごとの経緯はさまざま。 ただ、神津恭介の魅力は時代を超えてミステリファンの心に確実に響いている(であろう・・・) (個人的ベストは④) |
No.1824 | 6点 | スリーピング・マーダー- アガサ・クリスティー | 2025/01/26 13:39 |
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ミス・マープルシリーズの12作目であり、シリーズの掉尾を飾る作品でもある。
同じくポワロシリーズ最終作である「カーテン」と並び称されることも多いであろう。 発表は1976年だが、実際の執筆はかなり早い段階で行っていたと推察される。 ~若き妻グエンダは、ヴィクトリア朝風の旧家で新生活を始めた。だが、奇妙なことに初めて見るはずの家の中に既視感を抱く。ある日、観劇に出かけたグエンダは、芝居の終幕近くの台詞を聞いて、突如失神した。彼女は家の中で殺人が行われた記憶をふいに思い出したというのだが・・・。ミス・マープルが回想の殺人に挑む~ 紹介文にもあるとおり、本作は「回想の殺人」。つまり、かなり昔に発生した殺人事件を解き明かそうというプロット。 だからであるけど、特に序盤から中盤にかけては、実に曖昧模糊とした形で進行する。 序盤から事件に関わることとなるミス・マープルも、示唆的な言葉は発するが、具体的なことは何も語らず・・・ まあ、こういうプロットの常套手段として、そのときの関係者たちに面会を求め、過去の記憶を取り出そうとする。 そんなやり取りが相応に続いていく。 これを「冗長で退屈」ととるか、「情緒的で優美」ととるかで本作の見方は変わってくる。 で、当然ではあるけど、徐々に過去の事件の姿かたちが明確になっていくわけ、だと思っていたが、いろいろな推測は生まれながらも、どれが真実なのかはなかなか鮮明にならない、展開。 ただ、終章近くになり、ようやく容疑者が三人に絞られるところまでは進んでいく。 そして、唐突に取り戻される記憶、いきなり判明する真犯人。 うーん。この段階での第二の殺人というのは美しくなかったよなあー。あまりにもラスト前すぎて、口封じ以外あり得ない。 で、この真犯人。もう、いかにも、クリスティらしい「真犯人」だ。 意外性はあるのだが、あまりに「クリスティ的真犯人」すぎるのが、読者にとってはどう映るか? などなど、つらつら、割とネガティブな感想を書き連ねてきましたが、ここまで多くのミステリを生み出した作者ですから、ネタのストックは多いとはいえ、切れ味抜群のネタが湧いて出ることはなかったでしょう。 ただし、さすがに読者を惹きつける手練手管は見事。最後までそれほど飽きることなく読ませていただいた。 マープルも当初の「おしゃべり好きのおせっかい婆さん」という下世話な印象から、英国風でちょっとおしゃべりな貴婦人という印象になった。その分、もったいぶった言い方になってるので、ポワロとの重複感はある。 いずれにしても、まだ未読作は多いので、引き続き手に取っていきたい。 |
No.1823 | 4点 | 誰のための綾織- 飛鳥部勝則 | 2025/01/26 13:37 |
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作者の記念すべき(?)十作目の長編となるはずだった本作。
いやー、ついに読んじゃいました。ある意味、ミステリーの禁じ手に挑戦するという意欲的な作品になるはずだったのに・・・まさかの盗作疑惑が(もはや「疑惑」ではないのだろうな) 単行本の発表は2005年。 ※本作についてはもはや紹介文さえみつからず・・・ということでいきなり本筋へ いやー、クセが強い! 今さらちょっと前のはやりのフレーズを使いたくなる、そんな独特の読後感だ。 全体としては、作中作を利用しながら、ラストには爆弾級の大仕掛けが発動される。その辺りは実に作者らしいといえる。(てっきりこの仕掛けそのものが盗作に当たるのかと想像していたのだが・・・) この大仕掛けは・・・まあアリなのかもしれないけれど、最初から明らかにおかしかったからね。 あの状況で誰も「真犯人足りえない」し、それぞれのアリバイも終始曖昧なまま進行。 伏線だと指摘された部分も、「その程度で?」というほどのレベルである。 例の「館」の密室問題にしても、構造が分かった段階でほぼ察しがついてしまう状況、っていうことは捨て筋だなと・・・ という具合に最後まで何とも言えない「粗さ」、極論すれば「雑さ」が目立つ。 もしかして「ワザと」?という気がしないでもなかったけれど、前作に当たる「レオナルドの沈黙」はブッ飛んだなかにもマトモな作品だったからなー 10作目ともなれば、ど真ん中のストレートなんて投げてられないのは分かるけど、アイデア一発勝負だし、ここまで雑さが出るとちょっと評価はしにくい。当時の出版社もよく出したね・・・ まあ挑戦的な作品でしたということなのだと考えることにしよう。 でも盗作は実に残念で勿体なかったなあー。ミステリーとしてのプロット部分とはあまり関係ないしなあ。 とにかく新春から問題作をひとつ片づけた感じだ。 (「蛭女」については、とにかくコワー! 想像したくない・・・) |
No.1822 | 6点 | むかしむかしあるところに、死体がありました。- 青柳碧人 | 2025/01/26 13:35 |
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作者の「洋の東西昔ばなしパロディシリーズ」(と勝手に名付けてみました)の第一弾。
本作の好評を受けて、次作以降の発表、シリーズ化につながったものと推察します。本当? 単行本は2019年の発表。 ①「一寸法師の不在証明」=これは目の付け所が見事。「一寸」しかない男の不在証明なんてできるのか?と思ってましたが、そうきたか・・・。犯行の手口はかなり複雑で強引。そこまでの計画を短時間で思いつくとは、一寸法師、おぬし、やるな! ②「花咲か死者伝言」=これもなかなかのトリッキーぶり。真犯人についても「おぬし、ワルよのおー」とでも言いたくなる。テーマであろう“ダイイング・メッセージ”については、やや中途半端な出来かな。 ③「つるの倒叙がえし」=なるほど。これは評価が高いのも頷ける一編。終章を読むと、殆どの読者は「えっ!?」となるのではないか。それでもって、リドルストーリーをも思わせる構成。こりゃ、いっぽん取られたな・・・ ④「密室竜宮城」=まさか、この年になって、竜宮城内の見取り図を知ることになるとは・・・(二階建だったのね)。まあ「ヒラメ」の件は捨て筋感満載だったけれど、真相はなあー。「トトキ貝」の意味に気づけば分かるかもしれんが、まあ無理だよね。それでもってラストには③の設定までが生きてくるなんて。 ⑤「絶海の鬼ケ島」=確かに。これは「そして誰もいなくなった」のパロディになってるねぇ。よくもまあ、これは考え付いたな。これを思いついたときの作者のニヤケ顔が思い浮かぶようだ。ただまあ、冷静にみれば、めちゃめちゃ強引なプロットではある。(ところで、「鬼」を一頭、二頭と数えるのと、一匹、二匹と数えるのが混在している・・・誤植?) 以上5編。 これはもう、アイデアの勝利だろう。 当然強引なものもあるにはあるけれど、原作の設定や制限を生かそうとすれば、ある程度強引になるのはやむなしだろう。 ゼロから物語をひねり出すよりは、下敷きとなる物語からアイデアを膨らませるほうが楽といえば楽なのかも・・・ (それに誰でも知ってるむかしばなしだからね。そういう利点もありそう) アリバイ、ダイイング・メッセージ、倒叙、密室、そしてCCか・・・ ミステリーの「あるある」をうまく当てはめたものだね。 これはこれで「あり」だろう。 ただ、読了後の満足感は今ひとつではあったな。(個人的ベストは、やっぱり③かな。) |
No.1821 | 6点 | 6月31日の同窓会- 真梨幸子 | 2025/01/13 14:11 |
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実際には存在しない「6月31日」の開催で届く同窓会の招待状。
皆が憧れる幼稚園から一貫教育の女子高私立「蘭聖学園」に潜む大いなる謎とは・・・ 単行本は2016年の発表。 ①「柏木陽奈子の記憶」=冒頭から早くも不穏な空気が漂う。最初の犠牲者が出る。 ②「松川凛子の選択」=蘭聖学園始まって以来の秀才と謳われ、弁護士となった松川凛子。彼女は本作全体のキーパーソンのひとり。 ③「鈴木咲穂の綽名」=高校時代の綽名が「コメンテーター」の彼女。実に嫌な性格なのだが、彼女のもとにも案内状が届く。 ④「福井結衣子の疑惑」=松川のもとにまたもや相談にやってきた蘭聖学園OB。コイツもかなりのクセ者。ねじ曲がった性格で他人に不幸を招く。 ⑤「矢板雪乃の初恋」=本物のお嬢様である彼女。今度は松川の方から彼女の元へと出向くことになる。そして判明する過去のある事実(らしきもの) ⑥「小出志津子の証言」=⑤で浮かび上がった「恵麻」。彼女の人となりを知るために、またも松川は出張。過去の「恵麻」はどういう? ⑦「海藤恵麻の行方」=意外なところにいた?恵麻だが、すでに行方知れずになっていた。しかし、ここから物語は更に意外な方向へ ⑧「土門公美子の推理」=「推理」とあるが、別に真相が明らかになるわけではない。これまで作中で「クミコ」として登場してきた彼女もここにきて・・・ ⑨「合田満の告白」=蘭聖学園時代の綽名は「ゴウダマン」。でも本当は「アイダミツル」。もちろん女性です。 以上。①から⑦までは「月刊ジェイ・ノベル」誌に連載されたもの。⑧以降は書下ろしとなる。 『フッ化水素酸』って・・・そんなに恐ろしい薬物だったのね。触っただけで死に至るなんて、コワッ! 作者らしく企みに満ちた連作仕立ての作品。 各編のタイトルにもなっている登場人物は、全員が蘭聖学園の卒業生。全員が実にイヤーな性格で、ときにつるみ、ときに敵対し、ときにそれぞれの揚げ足をとる。 男が想像する「女子高あるある」かもしれない。 ただ、ラストが少し弱いかな。ここまでぐちゃぐちゃにしたのだから、もうちょっとインパクトのあるラストの方が良かった。 でも、最近作者の作品を定期的に読みたくなっている、そんな私がいる。 これって、ハマッてるってことだろう。 |
No.1820 | 5点 | 眠れぬイヴのために- ジェフリー・ディーヴァー | 2025/01/13 14:09 |
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リンカーン・ライム登場前の「初期」ディーヴァー作品。
これまで同シリーズをできるだけ発表順に、丁寧に読み継いできたんだけど、ここで少し時を巻き戻して過去作へ・・・ 1998年の発表。 ~記録的な嵐が近づく夜。精神病院を出た死体運搬車に積まれた死体袋を破って、筋肉隆々の巨漢が這い出た。彼の名は「マイケル・ルーベック」・・・俗にインディアン・リープ事件と呼ばれる凄惨な殺人事件の犯人だった。ルーベックは、裁判で自分に対して不利な証言をした女教師リズに復讐の鉄槌を下すため、脱走を企てたのだが・・・~ なるほど・・・ 他の方のご意見と重なる部分はあるけれど、「ワンパンチ足りない」というのが最もフィットした感想。 「リンカーン・ライム」シリーズのクオリティや、そのジェットコースター=疾走感の強いミステリーに慣れてしまったせいかもしれない。 本作でも、ラストにはサプライズ感のあるドンデン返しが用意されてはいる。 ただ、長い長い物語を読まされてきたわけだから、これくらいのサプライズはまあ当然あるよなあー、という程度にとどまる。 そこは、もう、作者ですから、どうしてもハードルは結構高く設定されてしまう。そこはやむなしだ。 ストーリーは、複数の登場人物たちの視点をとおして、かわるがわる語られ、徐々に進んでいく。(実際はほぼ一日だけのお話だったわけだ・・・) 順番に語られるなか、読者は徐々に作者の術中にはまり、真相とは別の方向に導かれていく。そこはまあ当然。 問題なのは、事件のきっかけ、或いは大元になっている「インディアン・リープ事件」。 この事件の詳細がなかなか明確にならず、読者はモヤモヤ感を持ったまま終盤へ突入していく。おそらく、ここに仕掛けがあるのだろうという予想をしながら、真実が詳らかにされるのは、もう本当にラストの直前。 ここにきて、ようやく事件の全貌が明らかとなる。 まぁ長いよね。引っ張りすぎだろう。 壮大な真実が出てくるのを期待しすぎていると、ちょっと拍子抜けのような気にはなるかも。 そこは、まあ、まだまだベストセラー作家になる前の作品ということで・・・ やっぱり、全体としては、分量と面白さがアンバランス、ということにはなる。 |
No.1819 | 7点 | 沈黙の町で- 奥田英朗 | 2025/01/13 14:07 |
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皆さま、かなり遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。昨年は元旦から激動のスタートでしたが、今年は平和でのんびりした正月だったのでは?(私はいろいろありましたが・・・)
さて、毎年新年一発目に何を読もうかと思案するのですが、今年は本作となりました(本当は別の作品を予定していたのですが、理由あってこうなってしまった) とにかく、まあ、単行本は2013年の発表です。 ~北関東のある県で、中学2年生の男子生徒が部室の屋上から転落し、死亡した。事故か? 自殺か? それとも・・・。やがて、その男子生徒が同級生からいじめを受けていたことが明らかになる。小さな町で起きたひとりの中学生の死をめぐり、町に広がる波紋を描く。被害者や加害者とされた子の家族、学校、警察など、さまざまな視点から描き出される群像小説で、地方都市の精神風土に迫る~ 新年早々、本当に重い話である。 本作の視点人物として登場する、いじめ・死亡事件の被害者、加害者の中学生、それぞれの親たち(特に母親)、校長をはじめとする教師たち、捜査を行う警察、事件を洗う検察官、そして取材する新聞記者・・・ 多くの関係者がひとつの死亡事件により、さまざまな想いを抱き、悶々とし、そして行動する。 作者はまるでそういう実在の事件を見てきたかのように、神の視点ですべてを俯瞰する。 そう、まるでドキュメントのようなリアリティ、雰囲気さえ醸し出している。ただ、決してドキュメントではない(当たり前だが)。 それぞれの人物の心の中まで深く炙り出しているのだから・・・ 本作では、中学生という時期の子供たちの特性についてもいろいろと考察している。 確かに。そういう時期かもしれない。加害者として描かれる中学生も、本来は明るく利発で、正義感の強い子だった。ただ、被害者の「空気を読まない」言動や周囲の雰囲気に吞まれ、やがて流されていく。 いやいや、全くミステリーの書評ではなくなっている… あと、「母親と父親の違い」も浮き彫りになる。子を持つ父親の方は心して読んだほうがよい。ただひたすら、子供に盲目的な愛情を注ぐ母親と、どこか一歩引いてみている父親・・・。当然、夫婦間で諍いが生じます。「盲目的」ということに、作者がどのように見ているかということが気になるところではありますが・・・ そして、どうしても気になるラスト。ラストのラストでついに真相が露わになる。で、これからどうなるのか? 気になるではないか 不幸のどん底のように思っている母親たち、現実に打ちのめされる加害者たち。彼らはこれからどうなっていくのか? バッドエンドもグッドエンドも用意されず、後は読者の匙加減でお楽しみください・・・ということ? とにかく、「人間の業」というものを考えさせられる時間だったなあー 毎年のように起こるいじめを引き金とする悲しい事件。そこには様々な関係者の悲痛な思いまでもが渦巻いている。フィクションを超えた、作者のリーダビリティの高さを十二分に味わうことのできる作品。 (でも重~い気持ちになるよ) |
No.1818 | 6点 | 月の夜は暗く- アンドレアス・グルーバー | 2024/12/31 13:37 |
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「夏を殺す少女」は確かに読んでいた。
ただ、明確に覚えているかというと、「うーん」・・・という感じではある。ヨーロッパ大陸に跨った作品だったよなあーって、曖昧! そんな作者の長編を再度手に取った。2012年の発表。 ~「母さんが誘拐された!」。ミュンヘン市警の捜査官ザビーネは、父親から知らせを受ける。母親は見つかった。大聖堂で、パイプオルガンの脚にくくりつけられて。遺体の脇には黒インクの缶が。口にはホース、その先には漏斗が・・・。処刑か、なにかの見立てか? ザビーネは、連邦刑事局の腕利き変人分析官とともに犯人を追う。そして浮かび上がったのは、別々の都市で奇妙な殺され方をした女性たちの事件だった。「夏を殺す少女」の作者が童謡殺人に挑む~ プロットや各種の道具立ては実に魅力的である。 なにしろ、童謡の歌詞のとおりの見立て殺人なのだから。国内の新本格やその後の数多の本格ものでもなかなかお目にかかれないテーマだ。 本筋とはあまり関係ないけれど、この童謡がなかなか残酷。よくもまあここまでやるなあーというほど残酷性が際立っている。もしかしてドイツの国民性? で本筋なのだが、主に三つのストーリーが冒頭から交互に進行していく。ただし、時間軸はねぇ。そこはいろいろと含まれているわけです。 プロットとしては、サイコ的な真犯人に焦点を当てたサスペンスの色合いが濃くて、フーダニットの興趣などは途中から放り投げられたようなところはある。というか、中盤にはほぼ特定されてしまう。 そこはある意味現代的にも見えるけど、個人的には残念な部分。 もう一つの読みどころが、主人公ザビーネとコンビを組むS.スナイデル(このSが大事らしい)。コイツが相当なクセ者。当初は交わることはないと思っていた二人が、徐々にコンビニなっていく過程もなかなか。 全体的には十分水準以上の面白さを感じることはできた。 でも、結構長いよ! |
No.1817 | 6点 | 探花- 今野敏 | 2024/12/31 13:33 |
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ついに「隠蔽捜査シリーズ」もVOL.9となった。足掛け何年だろう?
長く続くシリーズというのは、やっぱり面白くて読者の支持も強いからだろう。本作についてもそれは同じ。私にとっても、続編が待ち遠しいシリーズとなった。もちろん竜崎伸也の言動が読みたいのだ。 単行本は2022年の発表。 ~横須賀基地付近で殺人事件が発生。竜崎は、極めて異例ながら米海軍犯罪捜査局のリチャード・キジマ特別捜査官の参加を認め、そのまま日米合同捜査の指揮を執ることに。一方、八島圭介が警務部長として県警本部に着任。竜崎の同期で警察庁トップ入庁、決して腹の内を見せぬ男。八島には、前任地の福岡での黒い噂がつきまとっていた。さらに留学先のポーランドで息子の邦彦が逮捕されたとの一報が飛び込み・・・~ タイトルの意味は、中国の科挙制度でトップから三番目の成績の者のこと。竜崎が同期で三番目、つまり「探花」ということ。ちなみに、本作で竜崎の敵役として登場する同期の八島がトップ、科挙でいうところの「状元」(というらしい)。へぇ・・・ 肝心の本筋なのだが、前作でも書いたと思うけれど、とにかくスムーズすぎ! 特段のピンチもなく、真犯人逮捕。竜崎の周りで起こった不穏な空気も、竜崎の手にかかれば、同期トップだろうが、日米地位協定だろうが、衆議院選挙だろうが、ポーランド大使館だろうが、無事に解決してしまう。 それはそれで、もちろんいいのだけどね。 本作が神奈川県警異動後、二つ目の事件でまだ慣れないと作中で何度も独白している。ただ、そこは原理原則を貫く男、竜崎伸也。 神奈川県警の猛者どもも、手の内にいれた感がある。 ますます「理想の上司」となった竜崎。もはや無双といってもいいくらいだけど、シリーズはまだまだ続きそうな気配で楽しみも続いていく。 (先日たまたま山下公園付近を歩いていて、左手にある大きなビルをみると「神奈川県警」の文字が! これが竜崎のいるビルかあ!ってフィクション通り越して感嘆してしまった。ある意味「聖地巡礼」・・・) |
No.1816 | 6点 | #真相をお話しします- 結城真一郎 | 2024/12/31 13:31 |
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「小説新潮」誌に断続的に掲載された作品をまとめた作者の処女短編集。
日本推理作家協会賞受賞はいうまでもなく、作者の名前を世に高めることとなった作品。 2022年の発表。 ①「惨者面談」=昨今の中学受験戦争(?)は凄まじい。で、子供の成績を何としても上げようと親が雇うのが「家庭教師」。ということで、とある家庭を訪問した家庭教師派遣会社の営業マンが巻き込まれた事件。その家の母親の態度はどうみても「おかしい」のだが・・・。真相は二番底にある。 ②「ヤリモク」=昨今、マッチングアプリを悪用した詐欺事件が急増しているというニュースを、たまたま昨日の地上波で見た。で、本作は「詐欺」ではなく「コロシ」である。問題は「コロシ」の理由なのだが、目的を達したはずの真犯人に待ち受けるのは思いがけぬ事実・・・だった。 ③「パンドラ」=いつの世も「子供が欲しいのにできない」夫婦は存在する。そこで闇ルートに存在するのが「精子バンク」(闇ではないかもしれんが)。ここに登場する男性は、敢えて提供者であることを隠さずに提供し、成長した我が子(?)を前にして・・・。そこには予想外の不穏な結論も。 ④「三角奸計」=コロナ禍で流行った「リモート飲み会」がテーマ。大学時代からの仲良し三人組が久し振りに飲み会を開催することに。リモートで。飲み会が進行するなか、徐々に妙な方向に話は進んで、ついに・・・どうなった! 「そこまでやるかな?」というのが正直な感想だが。 ⑤「#拡散希望」=長崎市沖の島で成長している四人組の小学生。ある日唐突にそれはやってきた! その名もiphon7(7か・・・)。それを境に、四人組を取り巻く島の環境は変化していき、ついには殺人までも。真相は「いかにも今の時代!」的なもの。 以上5編。 またもや日本の最高学府出身のミステリ作家登場である。いったいどうしちゃったんだ! 最近の出版界、いやミステリー界は? 東大閥なのか?(一時は京大閥かということもあったけど) それはさておき、いやいや、実にスキのない短編集である。 AIがミステリーを書くと、こんなふうになるのではないかと一瞬勘ぐってしまう。それほど高水準だということ。 きっちりと前フリが効いていて、短編らしいラストのツイストもあるし、流行りのテーマも取り入れている・・・ うーん。否定的な感想を書けない。 でもまあ、昭和を知る者としては、「スキのないのが弱み」とでも強弁しておこう。あまりに優等生すぎるのもどうなの?って、単なる「妬み」です。 |
No.1815 | 6点 | 剣持麗子のワンナイト推理- 新川帆立 | 2024/12/05 14:12 |
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~亡くなった町弁のクライアントを引き継ぐことになってしまった剣持麗子。都内の大手法律事務所で忙しく働くかたわら、業務の合間に一般民事の相談にも乗る羽目になり・・・~
ということですでに地上波にも登場した弁護士・剣持麗子が巻き込まれる事件をまとめた連作短編集。 単行本は2022年の発表。 ①「家守の理由」=初っ端は軽~いジャブといった雰囲気の短編。でも、連作の第一話としては、重要な部分も含んでいるから注意が必要! ②「手練手管を使う者は」=またもや事件に巻き込まれてしまう麗子&(相棒役の)黒丑。しかも今度はどう見ても、コイツしか犯人はいない状況。で、タイトルの意味は最後の最後で分かることに。 ③「何を思うか胸のうち」=なぜか、麗子が所属する大規模弁護士事務所で開催される「大運動会」(!)が今回の事件の舞台となる。白熱の競技(→なぜかドッチボール)の後の更衣室で発見された変死体。死んだのは、最近転職してきた「細かくて、嫌われている」嫌な上司だった・・・ ④「お月さまのいるところ」=これまでとちょっと舞台が変わり、今回は深夜の丸の内で事件は起こる。そして、またもや巻き込まれてしまう麗子。痴呆症の老婆に連れられてきたアパートの部屋には首吊り死体が・・・。最後には意外な真相が明らかになる。 ⑤「ピースのつなげ方」=最後は連作の最終編らしく、これまでのつながりやカラクリが明らかとなる。いや、明らかになると書いたが、決してすべてが明らかになってはいない。これはシリーズ化への布石なのか? はたまた単なる消化不良なのか? 以上5編。 なかなかツボを心得た作品だと思う。飛びぬけて面白いわけではないけれど、連作の仕掛けといい、麗子のキャラといい、読者を惹きつける要素はいろいろある。 さすが、日本の最高学府出身者! 頭の出来の違いを感じてしまった。 総じて、器用な作家だなあーという感想。 シリーズ続編も読むでしょう。 |
No.1814 | 6点 | サマータイム・ブルース- サラ・パレツキー | 2024/12/05 14:10 |
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アメリカが誇る女性私立探偵のひとり、と言っても過言ではない(?)ウオーショースキー(通称ヴィク)。
シリーズ第一作となる本作は、ハードボイルドを愛する者なら避けては通れない(かもしれない)。 1982年の発表。 ~わたしの名はV・I・ウオーショースキー。シカゴに事務所を構えるプロの私立探偵だ。有力銀行の専務から、息子の姿を消したガールフレンドを探してほしいとの依頼を受ける。しかし、その息子はアパートで射殺されており、しかも依頼人自身も偽名を使ったらしい。さらに、わたしは暗黒街のボスから暴力を受け、脅迫された。背後に浮かぶ、大規模かつ巧妙な保険金詐欺・・・。空手の達人にして美貌の女探偵の初登場作品~ 舞台はシカゴ、である。これまで、NY、LA、サンフランシスコなど様々な街がハードボイルドのなかの私立探偵が活躍する舞台となってきた。 個人的にはやっぱりLAが一番ハードボイルドの似合う街、という気がしているけど、シカゴもなかなか。 (日本だとどうしても「新宿」しか思い浮かばんが・・・) 全米第三の大都市である。本作で主人公のヴィクは、この大都市のなかを縦横無尽に走り回り、へとへとになりながら全力疾走する。作中で語られるとおり、元々は名門シカゴ大学を卒業し、弁護士となった才媛である。それがどう狂ったのか、貧乏暇なしを地でいく私立探偵稼業で生計を立てている。 ただ、やはり魅力的なキャラである。それは、もう、間違いない。美貌もさることながら、イタリア系移民で同じく逞しい女性だった亡き「母親」の影響を受けた彼女。 強いだけではなく、どこか刹那的で、助けてあげたくなる存在。そりゃーシリーズ化されるよなあー で? 本筋は? そうでした。うーん。いや、いいですよ。ヴィクが請け負ったのは、ハードボイルドの王道「人探し」。 探しているうちに、いやおうなく事件に巻き込まれてしまい、事件は当初の想像よりもどんどん大きくなってしまう。 事件の動機はいつだって「金」、そしていつだって「愛憎」。 敢えて苦言を呈するなら、暗黒街のボスなる人物。あまりに紋切型で、かなりチンケ(部下たちもまとめて)。 あくまで脇役の脇役だからいいけれど、そのあたりにも拘って欲しかったな。 事件の「カギ」となる保険金詐欺についても、カラクリは単純。でもまあそこはやむなしかな。 これなら続編も読みたくなる、ということは良かった。 (ラストの彼女の大立ち回り。映像的にも映えるね。前の書評といい、季節か感を無視したセレクトでスミマセン) |
No.1813 | 6点 | 悪い夏- 染井為人 | 2024/12/05 14:08 |
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第37回の横溝ミステリ大賞受賞作。なのだが、横溝ミステリ大賞作品って、今まで読んでたかなぁ・・・?
鮎川哲也賞や江戸川乱歩賞に比べると、どうにも影が薄い気がしてしまう。 そんなこんなで作者のデビュー長編。2017年の発表。 ~26歳の守は生活保護受給者(ケース)のもとを回るケースワーカー。同僚が生活保護の打ち切りをチラつかせ、ケースの女性に肉体関係を迫っていると知った守は、真相を確かめようと女性の家を訪ねる。しかし、その出会いをきっかけに普通の世界から足を踏み外して・・・。生活保護を不正受給する小悪党、貧困にあえぐシングルマザー、東京進出を目論む地方ヤクザ。加速する負の連鎖が守を壮絶な悲劇へと叩き落す!~ 紹介文を参照しながら序盤を読んでいると、奥田英朗の「最悪」「無理」「邪魔」の三部作と似たプロットだなーと感じていた。主人公を含め何人かの不幸ごとを抱えた小市民たちが、それぞれに巻き込まれた事件、事故。当初はひとりずつだったものが、徐々に川の流れのように合流していき、何とも言えない偶然の結果、臨界点とでもいうべき”大クラッシュ”を迎えてしまう・・・そんな筋立て。 確かにそんな感じで物語は進行していく。ただ、奥田作品ではそれまで全く接点を持っていなかった人物たちが徐々に絡み合っていくのに対して、本作は普段からある程度「知った仲」、緩いながら同じコミュニティにいる人々であるのが異なる。 そして、最終的にはもの凄い「不幸」が待ってるんだろうなあーと予想しながら、その「臨界点」を待つことに。 で、迎えた終章。うーん。もの凄い「不幸」である。こんな偶然ある?っていうのは野暮なことで、これありきのプロットですから。 あとがきで、作者は「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」というかのチャップリンの言葉を引用している。なるほど、この言葉を下敷きに本作を書いたとすれば、なかなかに体現できている。 ほんと、デビュー作とは思えないほど滑らかな筆致と、読者を引き込む腕前である。 ただひとつ、難癖をつけるならば、中盤から終盤にかけての「加速感の不足」と「滑らかすぎる」ことか。まあこれも重箱のスミ的なものではある。 キャラも立ってるし、映像化向きなのも間違いなし。 |
No.1812 | 7点 | 卵の中の刺殺体 世界最小の密室- 門前典之 | 2024/11/24 13:43 |
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蜘蛛手啓司シリーズの六作目に当たる長編。
今回は「世界最小の密室」というそそられる惹句も付けられた大作。相変わらず少々ブッとんだトリックは出てくるのか? 単行本は2021年の発表。 ~宮村は店舗設計を任されている「コルバカフェ」のオーナーである神谷から、龍神池近くの別荘にコルバカフェの社員たちとともに招待される。しかし、道路につながる吊り橋が斜面の崩落により落ちてしまう。山道を迂回すれば戻ることができることから、落ち着いていた一同だが、深夜密室状態の部屋で神谷が殺されていた!~ 相変わらずの「大技」だなー、という感想。 いや、これは「いい意味」である。個人的に。もちろん、批判的にとるなら、「なんじゃこりゃ?」「大味なトリック」「こんな仰々しい仕掛けをして真犯人のメリットはあるのか?」「相変わらず偶然の連続じゃないか!」etc こういう思いを持つ方もいらっしゃるに違いない。(むしろ大勢はこっちか?) 作者といえば「密室」は付き物、ということで、今回も登場します。数種類の密室が。 ただ、連続殺人の現場となる2つの密室(厳密には不完全な密室だが)。このトリックはあまりいただけない。 まあ現実性を重んじたというとそうだし、むしろ密室を目くらましにして、殺人の成立を優先するための方便とも取れる。 で、もう一つが、冒頭にも触れた「世界最小の密室」。 これはまあ・・・なかなかの怪トリック。真の犯人の企図により、こうなったということになるのだけど、実際にその光景を想像するとかなりシュール。生きたまま「卵」の中に閉じ込められた人の心情を考えると、心が極寒になりそうだ。 本作の序盤から中盤は「手記」で構成され、助手役の「宮村」と脇筋である「ドリルキラー」を追うライターの視点で交互に語られる。ミステリーを読み慣れた者にとっては、「手記」は必ず仕掛けが埋め込まれていると承知しているもの。 そこは作者も当然意識して読者の上を行こうとするわけですが・・・ 本作の仕掛けは、うーん。どうかなあ? 蜘蛛手の解決編では当然、そこの仕掛け部分が明らかにされるわけで、最初は「えっ!」「そういうことか!」という衝撃はあったものの、段々不自然さの方が勝ってきたような感じは残った。 でも、まあ好きだな。こんなスケールの大きなプロット&トリック。偶然の連続でもいいじゃないか、犯人が斜面を〇〇を付けながら〇〇する!なんて、他の誰が考えるんだ! 今の本格ミステリーは特殊設定下でないと成立しないというのが多いなか、「特殊設定」ではなく「突飛な設定」でギリギリのミステリーを上梓し続ける作者には、やはり敬意を表したい。 (伏線があまりにあからさまなところはなかなか改善されないな) |
No.1811 | 6点 | 生れながらの犠牲者- ヒラリー・ウォー | 2024/11/24 13:42 |
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ストックフォード警察署長フェローズを探偵役とするシリーズ長編。
今回もジリジリという展開にヤキモキされる読者となりましたが、さて真相は? 1962年の発表。 ~自宅で寛いでいたフェローズ署長へ事件の報がもたらされる。成績優秀で礼儀正しいと評判の13歳の美少女バーバラが行方不明になっていると母親が電話をかけてきた。彼女が姿を消した前の晩、バーバラは生まれて初めてのダンスパーティに出掛けていた。だがパートナーの少年や学校関係者を調べても有力な手掛かりはつかめない。家出か事故か、それとも誘拐されたのか? 地道で真っ当な捜査の果てに姿を見せる誰もが息をのむ衝撃のラスト!~ なるほど。確かに「衝撃的」ではある。このラストは。 ただ、この真相に至るまでの過程が、もうジリジリというか、遅々として進まないというか、行ったり来たりというか、とにかくヤキモキさせられる。 真相が語られる終章のすぐ前まで、事件の目撃者が語っていたことが、つぎつぎと「嘘」「偽証」だと明らかになるという展開。 じゃあ、いったい何が真実なのか? 今更この段階になって「偽証」だなんて! などという読者の心配をあざ笑うかのような、今さらの真相・・・ これは・・・普通ならまず最初に気づくか捜査すべきだったのではないかな? 明らかに態度がおかしかったのだから・・・。 フェローズも嘘や偽証をここまで暴く能力があるのなら、最初からコレにも気づくべきなのでは?などと考えてしまう。 まぁそれは言うまい。 ここまで迂回してきたのは、真犯人の「動機」に納得性をもたせる意味合いもあったのだろう。 確かに。終章で長々と語られる「背景」「動機」には胸をつかれるものがあった。 ただ、属性が属性だけにね。ある意味「禁忌」だよね。 個人的には今まで読んだ作者の作品では上位というのが感想。 こういうのが作者の持ち味なんだろう、と好意的に解釈しました。 |
No.1810 | 5点 | 皇帝と拳銃と- 倉知淳 | 2024/11/24 13:40 |
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恐らく作者初の「倒叙ミステリー」の連作短編集。「ミステリーズ」誌に2007年から断続的に発表されたものをまとめたもの。
全編で探偵役となるのが、見た目がまるで「死神」を思わせる「乙姫警部」(見た目と名前のギャップが狙い?) 単行本は2017年の刊行。 ①「運命の銀輪」=冒頭の一編は、まさに「これぞ倒叙ミステリー」と呼ぶべきもの。ひとつのペンネームでふたりの共作をしているふたりの男。徐々に仲が悪くなり、ついに殺人までに発展してしまう。完璧なアリバイトリックを構築したはずが、そこに現れたのが「死神」・・・ 「銀輪」とはもちろん自転車のことなのだが、それが死神の不審を買い、トリックが瓦解してしまうことに。 ②「皇帝と拳銃と」=表題作となる作品だけあってよくできてる。マンモス大学で「皇帝」と呼ばれている大学教授。彼もまたアリバイを含む完璧な殺人計画をたて、実行に至る。だが、皇帝も「死神」の前では無力だった・・・。皇帝に徐々に迫っていく「死神」の姿が何とも印象深い。 ③「恋人たちの汀」=人気の若手劇団プロデューサーが起こしてしまった殺人。冷静にアリバイトリックを構築したのだが、現場に残された「A4サイズの不審な跡」。これが「死神」の関心を惹き、アリバイはあえなく瓦解してしまう。とは言っても、このトリック自体、かなり危ういものだと思うが・・・ ④「吊られた男と語らぬ女」=さすがに最後は変化球的なプロットを用意してきたな、という最終編。南青山の古びた雑居ビルで発見された男の首吊り死体。「死神」たち捜査陣は程なく女性容疑者を特定するのだが・・・。「死神」と毎回コンビを組む超イケメン・鈴木刑事はこの女性に恋心(?)を抱いてしまう・・・でもそこは全く発展せず。 以上4編。 よくできた「倒叙ミステリー」なのは間違いない。どれもフォーマットに則って、実に見事な手際だと思う。 最近「倒叙ミステリー」を読む機会が割と増えたような気がする。 もちろん刑事コロンボや古畑任三郎、はたまた最近なら「福家警部補シリーズ」が頭に浮かぶけど、フォーマットが定まってしまうと、どうしても同じような展開になるだけに、そこは魅力的な「探偵役」、そして魅力的な「真犯人」が必須になる。 そういう意味では、本作の「死神」こと乙姫警部はよくできた造形である。 犯行がうまくいき、一安心している真犯人のもとに突然「死神」が現れるのだから、映像化しても面白い素材だろうな。 まあ特別良くできてる、というほどではないけど、「倒叙」の良さ、面白さを味わうには打ってつけ、かもしれない。 さすが倉知淳。 (個人的ベストは②かな。③がやや落ちる。) |
No.1809 | 7点 | 碆霊の如き祀るもの- 三津田信三 | 2024/11/03 13:50 |
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刀城言耶シリーズの第七弾。比類なき(?)人気シリーズとなった感もある本シリーズ。
相変わらずの「分厚さ」に心が折れそうになる、かと思いきや、スイスイ読まされるところも本シリーズらしい。 単行本は2018年の発表。 ~碆霊様を祀る、海と断崖に閉ざされた強羅地方の村々。この地を訪れた刀城言耶は、村に伝わる怪談をなぞるように起きた連続殺人事件に遭遇する。死体に残された笹舟。事件の現場となった「開かれた密室」の謎。碆霊様が遣わすという「唐食船(からたぶね)」とは何なのか。言耶が真相にたどり着いたとき、驚愕の結末が訪れる!~ 久し振りの「刀城言耶シリーズ」となった。他の方の書評を見ると、過去作(「首無」や「山魔」かな)と比べるとやや不満・・・的な意見が多そう。 うん。確かに頷けるところもある。でも、まあ充分だろう。作中に仕掛けられた滅茶苦茶な数の伏線を考えると、作者のスゴさを改めて感じることができた。 そして何より、本シリーズ名物(?)。真相解明前の「数多くの謎の列記」。今回はなんと、合計70個もの謎が提示される!(殺人事件だけでなく怪談の謎も含まれるが) 果たして刀城言耶は70個もの謎をすべて解明できるのか?ページ数も少なくなってきたぞ、とつまらない心配をしたりしながら読み進める私。 で、今回はいつもよりまして「行ったり来たり」が多い印象。真犯人が示されたと思いきや、「いや、やはり・・・」と言っては否定され、今度こそと思いきや「いや・・・」と否定される。 これを繰り返すこと数回。ついにたどり着いた真相! 多分、これが先の「不満」のひとつの原因なのかも。 要は、割と「陳腐」なのである。こういうプロットは他作品でも幾度かお目にかかってるし、割と「何でもあり」「トリック軽視」という感覚をもたらしやすいように思える。 例えば紹介文にある「開かれた密室」の謎。つまりは人の目ある状態の「密室」=「準密室」のことなのだけど、これは捨て筋の方が数倍魅力的に思えた(特に滝と洞窟なんて、なんて魅力的!)。 最終的にやや現実的な真相にもってきたのは何故なのかな? で、問題の「終章」。もちろん「驚愕」といって差し支えないのだけど、なんとも「寓話」的な印象ではある。明かされなかった真相はいかに? というわけで、読書としては充分な満足感を覚えた。確かに「トリック」や全体的な「謎の構成の妙」では「首無」や「山魔」には敵わないけれど、ここまでの大作を遺漏なく作り上げる作者にはやはり敬意を表したい。 今回は殺人事件とともに、過去の怪談やその舞台となった村々そのものの謎についてもかなりの分量を割かれていた。賛否あるかもしれないけど、個人的には本シリーズの特徴として良かったのではと思う。 (なんか上から目線的でスミマセン・・・) |
No.1808 | 6点 | パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー | 2024/11/03 13:48 |
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ミス・マープル登場作品としては七番目に当たる長編。
タイトルだけを見てると、クリスティもトラベルミステリー書いてたのか?と思ってしまいますが、さて・・・ 1957年の発表。 ~ロンドンのターミナル、パディントン駅発の列車の座席でふと目を覚ましたミセス・マギリカディは、窓から見えた光景にあっと驚いた。並んで走る別の列車の中で、今まさに背中を見せた男が女を絞め殺すところだったのだ・・・鉄道当局も警察も本気にはしなかったのだが、好奇心旺盛なミス・マープルだけは別だった!~ 確かにこの導入部は実にそそられる。実に映像的でもある。 並走する別の列車のなかで、今まさに殺人が行われている現場を目撃するのだから・・・ 今回のマープルは、ほぼ完全に安楽椅子探偵である。で、マープルに代わって、事件の中心となるクラッケンソープ家へ単身乗り込むのが、“スーパー家政婦”アイルズバロウ女史。 このアイルズバロウがなかなか魅力的に描かれている。美貌も家政婦としての能力も絶品という設定。クラッケンソープ家のすべての男性に言い寄られる、というオマケ付。この当りも映像向きな作品という気がする。 そして、彼女のマープルにも負けないくらいの好奇心が、思わぬ場所での死体発見という結果につながる。 この死体は「いったい誰なのか?」というのが前半の謎の中心。事件の動機は、大富豪であるクラッケンソープ家の相続問題に違いないという筋でストーリーは進んでいく。そして発生する第2、第3の事件。 でも、多くのクリスティファンは知っている。「いかにもの本筋」は決して「真相」ではないことを。 当然、私自身も思いました。「こりゃ、絶対疑似餌(ぎじえ)に違いない」。 で、やっぱりそうでした。最終盤で明かされる意外な真相、意外な真犯人。 ただ最初から動機は読者に対してあからさまに示されてはいた。そういう意味では「なーんだ」というべき真相なんだけど・・・ うーん。他の方も触れていますが、どうも真犯人の動き方が理解できない。 死体の隠し方もそうだけど、ここまで事件を広げる意味は殆どなかったように思う。特に真犯人の「属性」を考えれば、もっともっと効率的なやり方はあったろうに・・・ この当りがどうにもモヤモヤした感じが残ってしまう作品。そこが今一つ高評価につながってない原因なのかも。 ただ、セントメアリミード村という狭い田園ミステリーではなく、広い舞台でも活躍するマープルの姿は割と新鮮に映った(これ本来ならポワロ向きの事件ではなかったかな?) |
No.1807 | 5点 | 時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2- 大山誠一郎 | 2024/11/03 13:47 |
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「アリバイ崩し承ります2」ということで、地上波ドラマ化もされた前作に続く続編が早くも登場した感じ。
いつまでネタは続くのか、若干心配なところはありますが・・・ 単行本は2022年の発表。 ①「時計屋探偵と沈める車のアリバイ」=アリバイ崩しの常套手段といえば、それは「場所の錯誤」という訳で、これぞtheアリバイ崩しとでも評したくなる初っ端。このくらい警察も気づけよ!というのは野暮なのだろうな・・・ ②「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」=今回の容疑者は、なんと政治資金パーティーに集まった500人もの証人がある、という設定。被害者の動きも大きなカギとなるのだが、ここの一工夫に作者の旨さを感じた次第。 ③「時計屋探偵と一族のアリバイ」=今回は容疑者が従兄妹どうしの三人。いずれにも当然のようにアリバイありとの状況で、一度に三人のアリバイ崩しを依頼することに。逆転の発想が光るな。 ④「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」=これはなかなかのテクニックが光る一編。ひとりの有力容疑者にふたりの被害者。ひとりの容疑者は当然同じ時刻にふたりの人間は殺せないわけだが・・・でも、かなりリスキーなトリックでは? ⑤「時計屋探偵と夏休みのアリバイ」=最終話のみ書下ろし。時計屋探偵が高校生の頃の事件。いわば、エピソード・ゼロ的なもの。ただ、期待したほどの大した仕掛けはなかった。 シリーズ前作。『「時を戻そう byぺこぱ』ではなく、『時を戻すことができました』」と書評で書いていたわけだが、あっという間に消えたねえ・・・ペ〇パ いやいや、そんなことはどうでもよくて、本作である。 全体的には前作よりもレベルアップしたような印象を持った。まあワンアイデアなのは同じなのだが、見せ方が旨くなったということだろうか。最近のお手軽な地上波ミステリー系ドラマっぽさはやむを得ないのかもしれない。 これなら次作も期待できるかな。 (個人的ベストは②かな。他もあまり差はない) |
No.1806 | 5点 | 友達以上探偵未満- 麻耶雄嵩 | 2024/10/06 14:18 |
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これは・・・麻耶雄嵩版のラノベなのだろうか・・・
なぜか三重県伊賀市を舞台にしたふたりの女子高生を主人公とした連作短編集。 単行本は2018年の発表。 ①「伊賀の里殺人事件」=「犯人当て」の趣向も取り入れた一編目。「伊賀」といえば、当然「忍者」とそして「松尾芭蕉」。ということで、忍者と芭蕉のコスプレ(!)をするイベントで発生した殺人事件。なんと、芭蕉の俳句の「見立て殺人」などの要素も盛り込んでいるんだけど、メインテーマは「広義の密室」と作者お得意の「細かいアリバイ」。でも、うーん。そんなに面白くない、ような・・・ ②「夢うつつ殺人事件」=今度の舞台は高校内の美術室。美術室内で部員の殺人事件が発生するんだけど、これにも「広義の密室」問題がある。①と同様、「犯人当て」の趣向はあるんだけど、最後はあまりにもアッサリと真犯人が指摘される。でも、うーん。そんなに面白くない。 ③「夏の合宿殺人事件」=今回は打って変わって、ふたりの主人公の出会いから始まり、中学校の文芸部時代にあった夏合宿で発生した殺人事件が舞台。つまり「過去の話」である。合宿所建物のどん詰まりの部屋で発見された死体、となるとやはり今回も「広義の密室」がテーマとなる。今回は「もも」と「あお」の推理対決のすえ、思わぬ真犯人が指摘されることに・・・。でも、うーん。今回はマズマズというところか。 以上3編。 「麻耶雄嵩」・・・三重県上野市(現、伊賀市)出身。知らなかった。ついに生まれ故郷を舞台に作品を書いたわけか・・・。市長にでもタイアップを頼まれたのか? まあそれはいいとして。本作。イタイです。麻耶雄嵩もいい年のオッサン。オッサンが女子高生コンビのミステリーを書くなんて無謀すぎる。③ではふたりの過去を描いて、人物面の肉付けを図ろうとしているけれど、特段成功していない。 ①②③とも作者らしいロジックこそ盛り込まれているけれど、如何せん練りこみ不足、迫力不足、なにより作品としての熱量不足。まあライトなミステリーを目指しました、ということなら仕方ないけど、作者のファンは本作のようなベクトル作品は求めていないような気が・・・ 作品ごとに思いもよらぬ趣向や仕掛けを産み出す作者なので、一概に否定する気はありませんが、本作を持ち上げる要素はない、かな。 ということで、「麻耶雄嵩」を欲している読者であっても、本作はスルーしてまったく問題ないでしょう。 (敢えていうなら③がベスト、ではあるが・・・) |