皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1809件 |
No.38 | 6点 | パディントン発4時50分- アガサ・クリスティー | 2024/11/03 13:48 |
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ミス・マープル登場作品としては七番目に当たる長編。
タイトルだけを見てると、クリスティもトラベルミステリー書いてたのか?と思ってしまいますが、さて・・・ 1957年の発表。 ~ロンドンのターミナル、パディントン駅発の列車の座席でふと目を覚ましたミセス・マギリカディは、窓から見えた光景にあっと驚いた。並んで走る別の列車の中で、今まさに背中を見せた男が女を絞め殺すところだったのだ・・・鉄道当局も警察も本気にはしなかったのだが、好奇心旺盛なミス・マープルだけは別だった!~ 確かにこの導入部は実にそそられる。実に映像的でもある。 並走する別の列車のなかで、今まさに殺人が行われている現場を目撃するのだから・・・ 今回のマープルは、ほぼ完全に安楽椅子探偵である。で、マープルに代わって、事件の中心となるクラッケンソープ家へ単身乗り込むのが、“スーパー家政婦”アイルズバロウ女史。 このアイルズバロウがなかなか魅力的に描かれている。美貌も家政婦としての能力も絶品という設定。クラッケンソープ家のすべての男性に言い寄られる、というオマケ付。この当りも映像向きな作品という気がする。 そして、彼女のマープルにも負けないくらいの好奇心が、思わぬ場所での死体発見という結果につながる。 この死体は「いったい誰なのか?」というのが前半の謎の中心。事件の動機は、大富豪であるクラッケンソープ家の相続問題に違いないという筋でストーリーは進んでいく。そして発生する第2、第3の事件。 でも、多くのクリスティファンは知っている。「いかにもの本筋」は決して「真相」ではないことを。 当然、私自身も思いました。「こりゃ、絶対疑似餌(ぎじえ)に違いない」。 で、やっぱりそうでした。最終盤で明かされる意外な真相、意外な真犯人。 ただ最初から動機は読者に対してあからさまに示されてはいた。そういう意味では「なーんだ」というべき真相なんだけど・・・ うーん。他の方も触れていますが、どうも真犯人の動き方が理解できない。 死体の隠し方もそうだけど、ここまで事件を広げる意味は殆どなかったように思う。特に真犯人の「属性」を考えれば、もっともっと効率的なやり方はあったろうに・・・ この当りがどうにもモヤモヤした感じが残ってしまう作品。そこが今一つ高評価につながってない原因なのかも。 ただ、セントメアリミード村という狭い田園ミステリーではなく、広い舞台でも活躍するマープルの姿は割と新鮮に映った(これ本来ならポワロ向きの事件ではなかったかな?) |
No.37 | 7点 | 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー | 2024/04/17 17:35 |
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ミス・マープルの初登場作品として著名な作品。
舞台となる「セント・メアリ・ミード村」も当然初登場。ポワロに並んでふたりも名探偵を生み出した作者の力量は計り知れない(と思ってしまう)。 1930年の発表。 ~嫌われものの老退役大佐が殺された。しかも、現場が村の牧師館の書斎だったから、普段は静かなセント・メアリ・ミード村は大騒ぎ。やがて、若き画家が自首し、誰もが事件は解決したと思った・・・だが、鋭い観察力と深い洞察力を持った老婦人ミス・マープルだけは別だった。ミス・マープルの長編初登場作!~ 今さら私ごときがこんなことを言うのも非常におこがましいのですが、「さすがに一流の書き手だわ!クリスティ」。 もちろん細部での突っ込みどころは数多くある。(特に解決編で銃声とあの音を聞き間違えたと片付けていることなどは結構酷いのだが・・・) でも、そんなこと関係ないよね。とにかく、すべての登場人物がそれぞれのキャラクターや重要度に則って過不足なく書かれていて、結構な数の登場人物なのに、殆どストレスなく頭の中に入っていく。それだけでも作者のスゴさが分かろうというものだ。 視点人物となる「牧師」と真の探偵役である「マープル」。この二人の頭の中は当然ずれていて、読者としては自然にミスリードされるように計算されている。おまけに本筋の事件とは直接関係のない脇筋の事件までもが旨い具合に織り込まれている。 この「脇筋」の放り込み方! これがクリスティの真骨頂かもしれない。(「ナイルに死す」当りでもこの脇筋の使い方を絶賛した記憶あり) で、真相についてなのだが、他の方も書かれているように、ひとことで言えば「実に人が悪い」。 特に(ネタバレだが)共犯者。主犯だけなら、そこまで思わなかったけれど、共犯者までとは・・・(まさか銃でねェ) まあ、この時代のミステリーでは「ありがち」なプロットではあるのだが、すべての余計なものを取り去った後に判明する真相の見事さ、これを体現していると思う。 ちょっと褒めすぎかもしれない・・・。 でも、「予告殺人」や「鏡は横にひび割れて」のマープルもの2大作品よりも、好みでいえば本作に軍配を上げたい。マープルのキャラも若干手探りだったせいか、それほどクドくないところも私にとっては良かった。 まあ、スゴイ作家です。改めて感心させられました。" |
No.36 | 6点 | 鳩のなかの猫- アガサ・クリスティー | 2023/07/23 14:14 |
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クリスティの長編で51番目、ポワロ登場作では28番目、つまりは後期or晩年の作品ということ。
他の方の書評を拝見しても、あまり評判はよろしくないようで・・・ 原題は""Cat among the Pigeons"" 1959年の発表。 ~中東の王国で起きた革命騒ぎのさなか、莫大な価値を持つ宝石が消え失せた! 一方、ロンドン郊外の名門女子校、メドウバンクにも事件の影が忍び寄っていた。新任の体育教師が何者かに射殺されたのだ。ふたつの謎めいた事件の関連はなにか? 女子学生の懇願を受けて、ついに名探偵エルキュール・ポワロが事件解決に乗り出した~ 「さすがに旨いもんだなぁー」というのが、読書中と読了後すぐの感想。 個人的にはそれほど悪い作品には思えなかった。評判が良くないというのも、作者のキラ星のような有名作品群との相対的な比較であって、名もないほかの作家が発表していたら、「へぇー」って具合に好意的に捉えていたかもしれない。 何より、舞台設定が魅力的。まさかクリスティがガチガチの学園ものを書くなんて・・・ それと、やはり“バルストロード校長”だ! こんな魅力的な(?)女性キャラ、そうはいないだろう。(今でいうなら「上司にしたい有名人」ランキングで絶対上位に入ると思う・・・) で、本筋に戻ると、うん。この真犯人の「隠し方」が実にクリスティすぎるのが確かに難点かもしれない。 怪しそうな人物が数名いて、読者としても消去法でひとりずつ消していくつもりが、作者の絶妙なワナにかかって・・・というのがクリスティの定番なのだが、今回のアリバイ処理はまあちょっと雑かなというところもある。 まぁでも旨いですよ。読者のツボは十分に分かってますと言わんばかりのプロットだし。 でもファンとしてはポワロが冒頭付近から登場して巧緻極まりない犯人役とがっぷり四つの好勝負をみたいね。 (ポワロ登場の未読作もあと数編となってしまった・・・) |
No.35 | 6点 | マギンティ夫人は死んだ- アガサ・クリスティー | 2022/10/29 12:22 |
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エルキュール・ポワロ24作目の長編。(未読のポワロ物のあと僅か)
今回は英国の田舎で発生したごく普通の殺人事件をポワロが旧知の警官に頼まれて再調査するというもの。 1952年の発表。 ~ポワロの旧友であるスペンス警視は、マギンテイ夫人を撲殺した容疑で間借り人の男を逮捕した。服についた血という動かしがたい証拠で死刑も確定した。だが、事件の顛末に納得のいかない警視はポワロに再調査を要請する。未発見の凶器と手掛りを求め、現場に急行するポワロ。だが、死刑執行の時は刻々と迫っていた!~ 紹介文を読むと、タイムリミットまで差し迫った緊迫感ある展開なのか?と想像してしまうけど、実際は田園風景が広がる英国の田舎で、かなりのんびりした展開が続いていく。 ポワロも要請を受けたはいいけど、関係者に話を聞きながらも、なかなかこれという手掛りがつかめないまま時は過ぎていくというまだるっこしい展開。 ただ、被害者が気にしていた「新聞日曜版に出ていた4枚の写真」という1つの手掛りをもとに、事件は大きく動いていく。そして判明する意外な真犯人・・・ まぁさすがの旨さですな。 緻密に計算された作者の「老獪な技法」が堪能できます。 他の方も書かれてますが、今回は割と登場人物が多くて、そういう意味ではフーダニットの興味は強い。どうせ、作者のことだからミスリードや「いかにも」という疑似餌が撒かれてんだろうな、という感覚で読み進めていくことになる。 で、この真犯人なのだが・・・。確かに、数多い登場人物の中では、派手めというかキャラが立っていた人物だったなぁーという読後感。この当りは、あまりに地味すぎるヤツを犯人にはできないしなぁーっていう苦しさも窺える。 今回、ポワロが自分が事件の再調査のためにやってきており、真犯人は別にいるということを敢えて喧伝して回り、真犯人の動きを炙り出すという捜査法を行っているのが斬新。自分が名探偵であるということも併せて伝えるのだが、その反応が薄いことに一喜一憂するポワロ、というところに作者のサービス精神というか、ユーモア精神(死語?)が出てて、ほほえましかったりする。 いずれにしても、よくいえば円熟期の作品。多少悪く言えば「晩年っぽい」作品、っていうことかな。決してつまらなくはないし、水準以上の面白さはあると思う。 |
No.34 | 5点 | ハロウィーン・パーティ- アガサ・クリスティー | 2021/11/20 10:47 |
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10月の末日は、今や日本人の年中行事の一つとなった「ハロウィーン」。ということで(少々遅れましたが)、本作をセレクト。
ポワロ物としては「カーテン」「象は忘れない」を残す後ろから三番目となる。つまり最晩期とも言える頃の作品。 1969年の発表。 ~推理作家のオリヴァ夫人を迎えたハロウィーン・パーティーで、少女が突然に殺人の現場を目撃したことがあると言い出した。パーティーの後、その少女はリンゴ食い競走用のバケツに首を突っ込んで死んでいるのが発見された。童話的な世界で起こったおぞましい殺人の謎を追い、現実から過去へと遡るポワロの推理とは?~ イギリスのとある田舎の街、見た目とは異なりどこか陰のある人々、突然に起こる殺人事件・・・舞台設定だけを取り上げると、いかにもクリスティ作品という感じなのだが・・・ その牧歌的というか童話的な世界観に踊らされているためなのか、どうもスッキリしない読後感だった。 巻末解説の長谷川文親氏も「本書には初期作品にしばしば見受けられるような派手な仕掛けは期待できない。ついでにいえばポワロの導き出す結論も、かなりの部分が偶然に助けられたように感じられ、鮮やかさの面で物足りなさを覚える読者がいても不思議ではない・・・」と書かれている。 うーん。同感。 過去に起こった事件or事実というのも、何となく曖昧模糊としているし、それが現在の事件につながっているのはよく分かるのだが、有機的につながっているのが見えにくいというのか、わざとそうしているのか・・・? さすがに、この頃のクリスティはプロットのネタ切れに陥っていたのかもしれない。鮮やかな仕掛けはもはや期待薄であり、これまでの手口を使いながら、いかにして作品を紡いでいくか。そうして生まれたのが本作ということか。 「動機」も見えにくい。ある登場人物の造形が大きく関わってくるのだが、それが子供殺しとどうもしっくりこないという気がした。 ということで、割合辛口の評価になってしまったけど、それもクリスティ作品への期待の高さ所以。 残り少なくなった作者(特にポワロもの)の作品なので、噛みしめるように味わっていきたい。 (ハロウィーンって本来のんびりした牧歌的なイベント、っていうか宗教行事だったはず。なぜ日本に来るとああいうどんちゃん騒ぎになるのかな?) |
No.33 | 6点 | もの言えぬ証人- アガサ・クリスティー | 2021/01/28 22:39 |
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だいぶ少なくなってきたポワロもの未読作品のひとつがコレ。
著名作の間に埋もれた佳作なのか、はたまた埋もれるべくして埋もれた駄作なのか? 原題は“Dumb Witness”(そのままだね) 1937年の発表。 ~ポワロは巨額の財産を持つ老婦人エミリイから、命の危険を訴える手紙を受け取った。だが、それは一介の付添い婦に全財産を残すという問題のある遺言状を残して、彼女が死んだ二か月後のことだった。ポワロとヘイスティングズは、死者からの依頼に応えるとともに、事件に絡む愛すべきテリア犬「ボブ」の濡れ衣も晴らす~ これ、設定だけを取り上げると“いかにもクリスティ”のように見える。 「悪意のある遺言状」や「五指に余る疑わし気な親族=容疑者たち」。「容疑者ひとりひとりの証言の齟齬、心理を読み、真相に迫るポワロ」などなど、数多の彼女の佳作と比べても遜色ない“枠組み”だと思った。 最終的にはミスリードが見事に嵌まり、斜め上から抉るような真相が語られるに違いない・・・ その筈だった。 実際は・・・やや微妙か。 他の方も書かれてますが、特に中盤の展開がモヤモヤしていて、すっきりしない。確かに伏線は張られてるし、ポワロの推理にも一定のキレはある。ただ、どうもね・・・ 序盤での不穏な空気間から醸し出される私の期待感からすれば、この真相はちょっと龍頭蛇尾に思えた。そういう意味では、本作が「埋もれてる」のもむべなるかな、ということなんだろう。 でも、日本国内でこの設定(上に書いた「悪意のある遺言状」など)なら横溝正史辺りが思い浮かぶけど、それならおどろおどろしい、血みどろの惨劇なんていう作風になっちゃうんだろうな。 これがクリスティにかかれば、英国の伝統的な田園風景のなかで、牧歌的とさえ言えそうな作風になるんだもんね・・・やっぱり違うよなぁと思った次第。 ちょっと辛口に書いてしまったけど、別に駄作というわけではない。水準給の面白さは十分備えてるし、何より「ボブ」が愛らしい。犬の言葉が理解できたら、こんな感じなのかな? |
No.32 | 6点 | カーテン ポアロ最後の事件- アガサ・クリスティー | 2020/08/24 19:53 |
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ようやく辿り着いた1,600冊目の書評。(最近読破のペースが落ちてるからなぁー)
選んだのは、ミステリーの巨匠(女性に対して「巨匠」はおかしいか?)A.クリスティが生み出した名探偵エルキュール・ポワロ最後の探偵譚。 ということで1975年の発表。(本当に最晩年だね) ~ヘイスティングズは親友ポワロの招待で懐かしきスタイルズ荘を再度訪れた。老いて病床にある名探偵ポワロは、過去に起きた何のつながりもなさそうな五件の殺人事件を示す。その陰に真犯人Xが存在するというのだ。しかもそのXはここスタイルズ荘にいるというのだ・・・。全盛期に執筆され長らく封印されてきた衝撃の問題作~ 最後の作品でもやはりクリスティはクリスティだし、ポワロはポワロだった。 そんな感想がまずは浮かぶ作品。紹介文にあるとおり、1975年発表とはいえ、実際に執筆されたのは1940年代初頭ということで、作者が最も脂が乗っていた時期に当たる。 じゃぁ、クリスティらしいのも当たり前の話かもしれない。 プロットは作者らしく実に緻密で細部まで抜かりない。 「館」ものらしく陰のある多くの人物が登場。相変わらず旨いよね、人物の書き分けが。 登場人物たちの1つ1つの行動、1つ1つの会話や言葉が、後々伏線だったと気付かされる刹那。 これこそがクリスティのミステリーの醍醐味だろう。 本作は”愛すべき?”相棒であるヘイスティングズが大きな鍵を握る。読者からすると歯がゆいくらい愚鈍で真っ正直な人物の彼(個人的にどうしても石岡和巳と被るんだよね)、彼の特徴が憎いくらい作品に生かされている。 (娘=ジュディスに翻弄される姿も痛々しいし・・・) そして何より舞台となるスタイルズ荘の存在。「締め」の舞台としてココを選ぶという作者のセンスに脱帽。 不穏で重々しい空気間を醸し出すことに成功している。 更には真犯人X。これはいわゆる「〇り殺人」ということになるのかな?(或いは「プ〇〇ビリ〇ィの犯罪」?) うーん。これも実に作者らしいのかもしれない。百戦錬磨の作者がやると、こんな大胆かつ緻密なプロットになるんだね。 いろいろとツッコミたいこともあるけど(ポワロの変装気付かないかねぇ・・・とか)、それは「言わぬが花」かな。 でも、全体的なレベル感からいえば、作者の作品群では中位の評価に落ち着く。 |
No.31 | 6点 | ねじれた家- アガサ・クリスティー | 2020/03/28 21:27 |
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クリスティ自身が気に入っている作品として挙げている作品。
個人的にも、ポワロもマープルも出てこないシリーズ外の作品を読むのは初めて(だと思う・・・)。 1949年の発表。原題“Crooked House” ~“ねじれた家”に住むねじれた老人が毒殺された。根性の曲がった家族と巨額の財産を遺して・・・。状況は内部の者の犯行を示唆し、若い後妻、金に窮していた長男などが互いに疑心暗鬼の目を向けあう。そんななか、恐るべき第二の事件が起こる。マザーグースを巧みに組み入れ、独特の不気味さを醸し出す女史十八番の童謡殺人~ これは評価の分かれるのも理解できる。そんな読後感。 そして、確かにこれならポワロもマープルも出せなかったんだなーと納得。 どなたかも書かれてますが、登場人物の誰もが薄々真犯人に気付いていると思われるのだ。 そんな事件にポワロが乗り出そうものなら、一瞬にして真相に至るだろう。 ただ、だから本作=駄作などということでは決してない。 むしろ逆。こんなミステリー、円熟期の作者でなければ書けない、いや書かない作品ではないか。 決して少なくない登場人物。特に“ねじれた家”の住人たちの書き分けは見事の一言。 読み進めるほど、一族の間に漂う不穏な空気を感じることになる。 本作、どうしてもあの名作ミステリーとの共通性が気になってしまう。 ただ、個人的には想定外の遺産相続に絡む連続殺人事件という部分で、「犬神家の一族」などを想起させられた。 もちろんテイストは大きく異なる。日本だと、出自とか「血の争い」とか言いそうだもんなー ただ、本作の静かだけど、独特の不気味さというのも捨てがたい魅力はある。 いずれにしても、さすがクリスティ女史。低い評価にはならないと思う。 |
No.30 | 7点 | 鏡は横にひび割れて- アガサ・クリスティー | 2019/07/20 16:44 |
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ミス・マープルものの長編としては「パディントン発4時50分」に続く八作目。
変わりゆくセント・メアリ・ミード村が事件の背景となる作品。 1962年の発表。 ~穏やかなセント・メアリ・ミードの村にも都会化の波が押し寄せてきた。新興住宅地がつくられ、新しい住人がやって来る。間もなくアメリカの女優がいわくつきの家に引っ越してきた。彼女の家で盛大なパーティーが開かれるが、その最中、招待客が変死を遂げた。呪われた事件に永遠不滅の老婦人探偵ミス・マープルが挑む~ いかにもクリスティ・・・という感想。 確かにこれならマープルものの代表作という評価が相応しいかもしれない。 大女優が主催したパーティー、大勢の、そしてどこかに秘密を抱えた招待客という道具立てが本格ファンの心を大いにくすぐる。 最後まで楽しい読書になったわけだが、ふと考えてみると、プロットとしてはごく単純というか、ほぼワンアイデアといってもいい。 “ホワイ・ダニット”が本作のメイン・テーマだろうが、ここをいかに隠蔽するかが作者の腕の見せどころ、ということ。 ただし、この「隠蔽」する方法というのがさすがというか、尋常ではない。 読者としてはどうしても“フーダニット”に目を奪われ、「アイツか、はたまたアイツか・・・?」と推理していくんだけど、そこはマープル女史の言葉を借りれば「自明」ということ。 あの登場人物のたった一言がすべてを解明する“ワンピース”になるのだ。そのカタストロフィこそが本作の白眉。 ただ、全体としては粗さも目立つ。 第二、第三の事件はいわゆる「口封じ」のためでしかなく、単なる添え物にしかなっていないことや、数々の登場人物たちも“賑やかし”的な役割が殆どで、事件と有機的に絡んでくる割合は少ない、などが目に付いたところ。 その辺りはやはり、ポワロものの代表作に比べれば評価を下げざるを得ないかな。 でもまぁさすがだね。 意味深なタイトルも良い。準佳作という評価でいいでしょう。 (ここまで事件が頻発するなんて、「呪いの村」って呼ばれても不思議ではない気が・・・) |
No.29 | 6点 | ヒッコリー・ロードの殺人- アガサ・クリスティー | 2018/12/10 22:06 |
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エルキュール・ポワロを探偵役とするシリーズとしては26作目に当たる作品。
(ポワロ物はだいぶ未読作品が少なくなってきたなぁー) 1955年の発表。 ~外国人留学生が多く住むロンドンの学生寮で盗難騒動がつぎつぎと起き、靴の片方や電球など他愛のないものばかりが盗まれた。だが、寮を訪れたポワロは即刻警察を呼ぶべきだと主張する。そして、その直後、寮生のひとりが謎の死を遂げる。果たしてこれらの事件の裏には何が・・・。マザーグースを口ずさむポワロが名推理を披露する~ マザーグースは特段関係なかったな・・・ で、大ミステリー作家・クリスティ女史としては、本作程度の作品なら赤子の手を捻るほどに簡単にできたのではないか? そう思わせる出来栄え。 別に酷いレベルというわけではないのだ。十分に旨いし、これを老練と言うのかもしれない。 紹介文のとおり、「不思議な盗難事件の裏側に隠された悪意」というのが本作を貫くプロット。 で、その悪意の隠し方が、もうさすがクリスティ。 何気なく書かれた物証や登場人物の台詞に伏線がふんだんに撒かれている・・・感じ。 中盤以降、伏線がつぎつぎに回収され、「悪意」が徐々に明らかになるやり方。 うん。やっぱり老練。その言葉がピッタリくる。 でもやっぱり他の方と同様、高い評価はできない。 登場人物が多すぎてごちゃごちゃしてるとか、終盤の盛り上がりが足りないとか、ポワロが軽すぎるとか、細かい点ももちろんあるんだけど、それ以上に作品の熱量の少なさがなぁ・・・ これがどうしても「小手先感」を出してて、イマイチ読む方も盛り上がらない結果になっているのだろう。 (ラストのサプライズも唐突で??だし・・・彼女と彼女が・・・関係ってね) 楽しめるか楽しめないかと問われれば、「楽しめる」と答えられる出来ではあるけど、評価はこんなもんかな。 |
No.28 | 6点 | エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー | 2018/03/08 17:58 |
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エルキュール・ポワロ探偵譚の七作目。
他の皆さんも書かれているとおり、創元版では「晩餐会の十三人」という別タイトルとなる本作。 1933年の発表。 ~自宅で殺されたエッジウェア卿の妻は、美貌の舞台女優ジェーン・ウィルキンスンだった。彼女は夫との離婚を望んでおり、事件当夜に屋敷で姿を目撃された有力な容疑者だった。しかし、その時刻に彼女はある晩餐会に出席し、鉄壁のアリバイがあったのだ・・・。数多の事件の中で最も手強い敵に立ち向かう名探偵ポワロ!~ 雰囲気は大好きだし、途中までは相当に期待が膨らんだ。 もしかして他の傑作に負けない佳作なのではないか?という気にさえさせられていた。 ただなぁ・・・メイントリックとなるアレがなぁーどうにもいただけない。 さすがにクリスティらしく、作中には用意周到に伏線が張り巡らされている。 それこそ読者のミスディレクションをいまかいまかと待ち受けるように。 途中にポワロが提示する五つの疑問も、いかにも手練のミステリーファンを意識したつくりだ。 「鼻眼鏡」やら「謎のイニシャル付きの宝石箱」やら「届かなかった手紙」やら・・・ 読者としては意識せずにはいられない小道具の数々。 さすがにクリスティ!って思っていた。 だからこそ、このメイントリックはねぇ・・・ 何回も書評で触れたように思うけど、「○れ○わ○」トリックは基本的に眉唾だと思うのだ。 人間の感覚はそこまで鈍くはないっていうか・・・ ただし、本作の場合、それは分かった上で更にその上(或いは裏)をいくというという点では十分ありなのかもしれない。 いずれにしても、「旨い」のは間違いない。 本格ミステリーとはこうでなくては、と思わせるに十分の大作。 真犯人のキャラも強烈だし。決して低い評価にはならないでしょう。 |
No.27 | 6点 | 死者のあやまち- アガサ・クリスティー | 2017/08/27 19:38 |
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1956年発表の長編。
ポワロものとしてはかなり後期の作品に当たる。 「ひらいたトランプ」で初登場した女流ミステリ作家・オリヴァ夫人が事件の冒頭を飾ることに・・・ ~田舎屋敷での催し物として犯人探しゲームが行われることになった。ポワロの良き友で作家のオリヴァ夫人がその筋書きを考えたのだが、まもなくゲームの死体役のはずの少女が本当に絞殺されてしまう事件が・・・。さらに主催者の夫人が忽然と姿を消し、事態は混迷してしまう・・・。名探偵ポワロが卑劣な殺人遊戯を止めるために立ち上がる~ 「(前期・中期の作品に比べて)随分作風が変わったような・・・」って、読み進めながらずっと感じていた。 良く言えば、明るくポップになったんだけど、悪く言えば、“軽く”なった・・・と言えばいいんだろうか。 作者も年をとるわけだし、時代は変わっていくのだし、当然作風もそれに合わせて変化していくものなのだろう。 でも、何となく初期作品の重厚さに惹かれてしまうという方が多いのではないだろうか。 (かくいう私もそうなんだけど・・・) それはさておき、本筋はというと、 見事なプロットと言えばそうだし、「そうきたか!よくある手だね」と言えばそう。 昔のミステリーにはありがちな○れ○わりトリックが本作でも登場。 これについては今まで何回も書いてきたけど、人間の目ってそこまで節穴じゃないだろ! って言いたくなる。 まぁ最終的にはそれが露見しそうになり、それを回避するために犯人側がかなり複雑な目眩しを仕掛けるわけだ。 (他の方はこの辺りの無理矢理感がお気に召さないのだろうな) そこはさすがにクリスティで、ポワロの推理が開陳されるやいなや、それまでもつれていた糸が一気にほどけるという快感・刹那を味わうことはできる。 (怪しいと思った奴がまっとうで、まっとうと思った人物が実は・・・っていう奴。まさに「どんでん返し」!) ただ、「葬儀を終えて」なんかもプロットとしては同じベクトルの作品だと思うけど、こっちは若干経年劣化を感じてしまうね。 あくまで高いレベルでの話ではあるんだけど・・・ |
No.26 | 10点 | ナイルに死す- アガサ・クリスティー | 2017/03/21 21:32 |
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クリスティのいわゆる「中近東もの」としては、「メソポタミアの殺人」に続く長編作品となる本作。
映画化でも著名となった作品。 1937年発表。 ~美貌の資産家リネットと若き夫サイモン・ドイルのハネムーンは、ナイル川をさかのぼる豪華客船の船上で暗転した。突然とどろく一発の銃声。サイモンのかつての婚約者が銃を片手にふたりを付けまわしていたのだ。嫉妬に狂っての凶行なのか? だが、事件は意外な展開を見せる! 船に乗り合わせたポワロが暴き出す意外極まる事件の真相とは?~ 意識的に読むのを後回しにしていた本作。 それだけ楽しみにしていたわけなのだが・・・これはもう期待をはるかに上回る出来だ。 これほど完成したミステリーにはなかなかお目にかかれないのではないか? 名作と言われる作者の作品にも数多く接してきたけど、個人的には本作がNO.1。 本格ミステリーと濃密な人間ドラマがこれほど見事に融合した作品も珍しい。 ということで書評終了! でもよいのだが、簡単に雑感を書くなら・・・ まぁ2017年の現在から見れば、フーダニットとしては「割と分かりやすい」。 手練のファンからみれば、いかにも「クリスティらしい」真犯人とはいえる。 ただし、動機といい、犯行方法といい、尋常ではないくらいの伏線とミスディレクションが仕掛けられている前半部分が見事。 まるでナイルの流れのように、ゆっくりとした展開で読者をやきもきさせるのだが、これこそが作者の深謀遠慮なのだからニクイ! 本筋の殺人事件のほかにも、窃盗事件や政治犯、正体を隠した人物など、複数の脇道が用意されている。 並みの作家なら、プロットを混乱させるだけに終わりそうなものだが、クリスティは違う。 最終盤。脇道を含め、絡んだすべての糸がポワロの灰色の脳細胞によって、見事なまでに解きほぐされる刹那! これはもう・・・“極上の料理を味わった”という表現がまさにピッタリ。 これ以上のミステリーを書くというのは至難の業なのではないか? それほどインパクトのある作品だった。最高点以外の評価はありえないだろうな。 (1937年いえば、日本では「盧溝橋事件」が発生し、日中戦争へ突き進んだ時代。そんな時代に英仏はこんな優雅な旅行を楽しんでいたんだねぇ・・・) |
No.25 | 5点 | 予告殺人- アガサ・クリスティー | 2016/04/29 14:04 |
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1950年発表の長編。
ミス・マープルものの長編としては、「動く指」に続いて五作目に当たる作品。 原題は“A Murder is Announced”ということで、「予告(または発表)された殺人」という方がピンとくる(と思う)。 ~その朝、新聞の広告欄を目にした町の人々は驚きの声をあげた。「・・・殺人お知らせ申し上げます。12月29日金曜日、午後6時30分より・・・」 いたずらなのか? 悪ふざけなのか? しかし、それは正真正銘の殺人予告だった。時計の針が予告された午後6時30分を指したとき、銃声が響きわたる! 大胆不敵な殺人事件にミス・マープルが挑む~ やっぱりマープルものとは相性が悪い・・・ そう再認識させられた本作。 タイトルや紹介文からすると、かなり派手で大掛かり且つドラマティック、っていうイメージを持ってしまうし、そこに期待感を抱く。 でもそこはマープルものですから・・・ 今回はいつものセント・メアリーミードからは離れているけど、相変わらず田園風景広がる英国の田舎町が舞台なわけです。 最初の銃撃事件こそ目を引くものの、その後は尻つぼみ気味。 これはやっぱり「龍頭蛇尾」と書かれても致し方ないだろう。 フーダニットについてもクリスティの典型ともいえる奴で、かなり分かりやすい部類。 ということで、高い評価はつけられないという感じになる。 ・・・などと辛口の評価をしてますが、 旨いのは旨いですよ! それは何といってもクリスティですから! 読者をミスリードさせる手腕は天下一品。 大勢の登場人物を用意し、ひとりひとりをうまい具合に配置させてるなぁーと改めて感心。 でもやっぱりクリスティはポワロものが断然面白いという結論に今回も落ち着いた次第。 (マープルの良作にはまだ出会えていない・・・) |
No.24 | 8点 | ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー | 2015/04/06 21:12 |
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1946年発表の長編ミステリー。
もちろんエルキュール・ポワロ物の長編だが、本国で特に評価の高い作品として知られている。 ~アンカテル卿の午餐に招かれたエルキュール・ポワロは少なからず不快になった。ホロー荘のプールの端でひとりの男が血を流し、傍らにピストルを手に持った女が虚ろな表情で立っていたのだ。だがそれは風変わりな歓迎の芝居でもゲームでもなく、本物の殺人事件だったのだ! 恋愛心理の奥底に踏み込みながら、ポワロは創造的な犯人に挑むが・・・~ 「小説」としてなら尋常ではないほど高いクオリティと言えるのではないか? 読後まずそんな風に感じてしまった。 多くの人が書いているとおり、確かに純粋なミステリーとしての評価なら、他の有名作の方が数段出来はいいだろう。 ただし、「小説」としてならもしかするとコレがNO.1なのかもしれない。 (小説というよりも舞台劇と言う方が似つかわしいが・・・) とにかく登場するひとりひとりの人物描写がスゴイ。 どこか少しずつマトモでない、捻れた感情を持つホロー荘に集う人々。 そして、ひとりの男性を巡って複雑に絡み合う感情の末に起こってしまう殺人事件。 ごく単純だったはずの殺人事件が、少しずつ複雑な様相を示していく・・・ 今回のポワロはいわゆる名探偵としての役割は果たしてない。 最終的にはひとりの女性の命を救い、事件を丸く収める役目を果たしているのだが、自身の推理を披露する機会はほぼ皆無。 (途中ではグレンジ警部から最有力容疑者という扱いまで受けてしまう・・・) プロットそのものも既視感はある。 それでもこれはやっぱりスゴイ作品だと思う。 人間の心理こそがミステリー。そういう思いが投影された作品なのだろうし、女流作家ならではの細やかな筆致は男性には真似できない。 ・・・ということで決して低い評価はできない。 (ヘンリエッタの感情は「優越感」という奴ではないのか?) |
No.23 | 6点 | メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー | 2014/07/11 23:26 |
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1936年発表。エルキュール・ポワロ物で十二番目の長編ということになる。
「ナイルに死す」や「死との約束」など中近東を舞台とした作品のひとつ。 ~考古学者と再婚したルイーズの元に、死んだはずの先夫から脅迫状が舞い込んだ。さらにルイーズは寝室で奇怪な人物を目撃したとの証言をする。しかし、それらは不可思議な殺人事件への序曲に過ぎなかった・・・。過去から襲い来る悪夢の正体をポワロは暴くことができるのか? 中近東を舞台にしたクリスティ作品の最高傑作!~ 全体的な感想で言うと、「さすがクリスティ!」という感じにはなる。 なにしろそつがないミステリーだ。 砂漠の中の遺跡発掘現場というクローズドサークル。しかも現場となる「館」も密室というわけで、これはもう「二重の密室」ということになる。(しかも「館」の平面図付きというのがミステリーファンの心をくすぐる・・・) 序盤から中盤へと、作者の巧みなストーリーに乗せられていると、いつの間にか終盤へ突入することに! そして、例のごとく神のような「ミスリード」にまんまと騙されることになるのだ。 今回は容疑者も結構な人数になるので、純粋なフーダニットとしても楽しめる。 で、問題はそのトリックなのだが・・・ 他の方が指摘しているとおり、この○れ○○りトリックは相当強引だろうなぁー。 古いミステリーではこの辺りが割と無視されているケースが多いが、現実的にはそれに「ピン」とこない奴はいないのではないか? そこはどうしても割り引かざるを得ない。 そしてもうひとつが殺害方法に関するトリック。 一種の○○殺人ということになるのだが、これはポワロならすぐに気付くのではないか? その程度のトリックには思えた。 (まぁこういうトリックを不自然ではなく登場させる手口こそ褒められるべきかもしれない) 個人的にはそう悪い出来には思えなかったが、作者の他の良作に比べれるとどうしても“それなり”の評価に落ち着く。 なにしろ作者については評価のバーが高くなるので、こういう評点になるよなぁ・・・ (看護婦の手記という形式は結局・・・?) |
No.22 | 6点 | 火曜クラブ- アガサ・クリスティー | 2014/02/11 01:05 |
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ミス・マープルが初登場した短篇集。
セントメアリーミードに住む男女が集まり、自身が体験した迷宮入り事件について披露するというパターンの作品が並ぶ。 ①「火曜クラブ」=クラブ設立の経緯が語られるシリーズ初編。初っ端からマープルらしい推理が語られるのだが、これってある意味偏見じゃないのか? ②「アスタルテの祠」=ゴテゴテした設定の話だが、ミステリーとしてのプロットは単純。骨組みはまさに「シンプル・イズ・ベスト」という感じだ。 ③「金塊事件」=人のいい甥のレイモンドが実に単純な詐欺に遭う・・・という話。これもプロットは単純明快。 ④「舗道の血痕」=これは短篇らしい捻りの効いた好編だと思う。血痕だけから事件のからくりを見抜くマープル女史の推理が冴える一篇。 ⑤「動機対機会」=意味深なタイトルだが、動機がある容疑者には機会がなく、機会のある容疑者には動機がないというのが今回の謎。これも短篇っぽいキレがある。 ⑥「聖ペテロの指のあと」=マープル本人が謎の語り手となる本編。一種のダイイング・メッセージもの。 ⑦「青いゼラニウム」=何となくホームズものの短編を想起させる作品。プロット自体は単純で、すぐに想像がつく。 ⑧「二人の老嬢」=これもプロットそのものは非常にシンプルなのだが、さすがに見せ方がうまい。それだけにラストでは真相に唸らされることになる。 ⑨「四人の容疑者」=ミステリーらしいタイトルの作品だが、ちょっと分かりにくいかも。 ⑩「クリスマスの悲劇」=被害者の死亡前と後で帽子の位置が違っている・・・この一つの物証だけで展開されるマープルの推理。さすがに手馴れている。 ⑪「毒草」=大勢の人が食べた料理に混入されていた毒。しかし死んだのはひとりだった・・・。しかし、ラストには見事にひっくり返される。 ⑫「バンガロー事件」=披露される謎はなかなか複雑で面白い事件に思えたのだが・・・ラストでは結構ガクッとさせられるかも。 ⑬「溺死」=⑫までとは毛色が違い、マープルがクラブのメンバーである元警視総監に村で発生した事件の「相談」を持ち込む、という形式の本編。マープルが明かす真犯人は意外性十分。 以上13編。 体裁だけを取り上げると、アシモフの「黒後家蜘蛛の会」などとほぼ重なるのだが、そこはやはりミステリーの女王らしく、実にクオリティの高い作品集に仕上げている。 上述しているとおり、プロット自体は実に単純な作品が多いのだが、とにかく見せ方がうまいのだろう。 でも、個人的にはクリスティなら“やっぱりポワロシリーズの長編”ってことで、マープルものは一段下の評価となる。 (個人的ベストは⑧⑬辺り。他なら②⑦⑫って感じか) |
No.21 | 6点 | ゴルフ場殺人事件- アガサ・クリスティー | 2013/07/03 22:04 |
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「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした作者&ポワロの長編二作目がコレ。
「ゴルフ場」というタイトルではあるが、単なる死体発見現場というだけで、ゴルフそのものは無関係なので悪しからず。 ~南米・チリで巨万の富を築いた富豪・ルノーが、滞在中のフランスの別荘地で無残に刺殺された。事件発生前にルノーから依頼の手紙を受け取っていながら悲劇を防げなかったポワロは、プライドをかけて真相究明に挑む。一方、パリ警視庁からは名刑事・ジローが乗り込んできた。互いを意識し推理の火花を散らす二人だったが、事態は意外な方向へ進んでいく・・・~ 僅か二作目としては「スゴイ」とも言えるし、「やっぱり二作目だなぁ」とも言える・・・そんな感覚。 要するに、ちょっと惜しいなという作品なのだ。 ミステリーとしてのプロットは“さすがクリスティ”という水準で、もう安定感十分。 一人の富豪の殺人事件に端を発する事件、関係者の態度や発言に隠された欺瞞から、思いもかけない事件の構図&背景が明らかにされる。 被害者は単なる被害者でなく、過去の事件と現在の事件が有機的に結び付いていく・・・ この辺りの展開はもう名人芸だな。 特に本作では、ヘイスティングスとの会話のなかで、ポワロが自身の推理法というか事件への取り組み方を詳しく解説(?)している場面がところどころ挟まれていて、こういう点でも興味深く読ませていただいた。 プロットとしての問題点は、冒頭から登場するある女性の存在&立ち位置だろう。 この登場人物は果たして必要だったのか? 一応ミスリードとしての役割なのだろうが、あまりにも白々しくて、正直ミスリードとしてはあまり機能していない。 作者としてはラストのドンデン返しのための「前フリ」が必要だったのだろうが・・・ (ヘイスティングスとの絡みが書きたかったということなのかな?) 作者としてはマイナーな作品扱いだけど、それほど遜色は感じないし水準以上の作品だと思う。 まぁ、敢えて「クリスティならコレ!」ということにはならないだろうが・・・ (ひたすら物証に拘った捜査を行うジロー刑事をこき下ろし、人間心理に基づく推理を行うポワロ。二作目で探偵役のパートナーが登場人物と恋に落ちる展開・・・って何か意味深だな) |
No.20 | 7点 | 死との約束- アガサ・クリスティー | 2013/02/07 22:11 |
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名作「ナイルに死す」に引き続き、中近東を事件の舞台とした作品。
エルサレム~ヨルダン~ペトラ遺跡など、個人的にも興味深い舞台背景なのだが・・・ ~「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ・・・」。エルサレムを訪れたポワロが耳にした男女のささやきは闇を漂い、やがて死海の方へ消えていった。どうしてこうも犯罪を連想させるものにぶつかるのか? ポワロの思いが現実となったように殺人は起こった! 謎に包まれた死海を舞台に、ポワロの並外れた慧眼が真実を暴く~ これも実にクリスティらしいなぁ・・・ ミステリー作家としての作者のスキル&テクニックが凝縮されたような作品ではないか。 クリスティの「うまさ」が読者をミスリードさせる「腕」なのだとしたら、本作はかなり高水準だと思う。 一人の老婦人に生殺与奪権を握られたかのような家族たち、そしてその一家と関わりを持ち、殺人事件に深く関わってしまう男女5名。 老婦人が殺害されたとき、当然「動機」により容疑者にされてしまう家族たち・・・ 一家の立ち振る舞いが余りにも戯画化されているため、読者の目線はどうしてもそこにフォーカスされてしまうが、作者=名探偵ポワロの目線は事件全体の大きな円(サークル)全体を捉えているのだ。 そしてラスト。ポワロの推理は、今までずれていたフォーカスを正確な位置に合わせてしまう。 本作ではそこがきれいに嵌っている。 (特に、何でもないように思えた前半のある場面が、実は事件全体に関わる大きな「鍵」になっている、という仕掛けが見事) 殺人事件が起こるまでがやや長いが、その分ストーリーをじっくり味わえると言えなくはない。 プロットやラストのサプライズ感でいえばやや小品かもしれないが、とにかく端正な本格ミステリーなのは間違いない。 (本作では、ポワロの「天狗ぶり」が特に目立つような気がした。まぁいつものことだが・・・) |
No.19 | 5点 | 邪悪の家- アガサ・クリスティー | 2012/10/03 23:16 |
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エルキュール・ポワロ物の第6長編。
創元版だと「エンドハウスの怪事件」だが、今回は早川のクリスティ文庫で読了。 ~名探偵ポワロは保養地の高級ホテルで、若き美女ニックと出会った。近くに建つエンド・ハウスの所有者である彼女は、最近3回も命の危険にさらされたのだとポワロに語る。まさにその会話の最中、一発の銃弾が・・・ニックを守るべく屋敷に赴いたポワロだが、五里霧中のままついにある夜悲劇は起きてしまった!~ いい意味でも悪い意味でもクリスティらしさの見える作品ではないか? 他の方の書評を見てると、評価が二分しているようだが・・・ 要はラストに明かされる「意外な真犯人」が「意外」に思えるかどうか、という点に評価の良し悪しがかかっているという印象。 こういうプロットはクリスティの作品ではかなり既視感を覚えるのは確かだろう。 メイントリックは平たく言えば「人物誤認」なわけで、これが如何に無理なく読者を騙せるのかがカギになる。 でもって、これはレベル的には分かりやすい・・・かも。 主人公と誤認されて起きた殺人事件という部分が、ミステリー好きにとっては十分結末を予想させるものに留まっている。 まぁでも、うまいといえばうまいよなぁ・・・(どっちだ?) 初心者であれば、十分サプライズ感を味わえる作品だろうと思うし、トータルで評価すれば平均レベルというところに落ち着く。 (不振に悩むポワロの姿が見もの。でも、ラストの小芝居はいるのか?) |