皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
|
---|---|
平均点: 6.04点 | 書評数: 1835件 |
No.135 | 7点 | 破滅の箱- 牧野修 | 2011/01/28 23:58 |
---|---|---|---|
金敷署のはぐれ者達が集まる、生活保安課防犯係特殊相談対策室、通称「駄目な方のトクソウ」。
ここを訪れるのは、自称霊能力者や呪われた箱に恐怖する者、宇宙人を警戒する男など、厄介な一般人ばかりである。 不思議な雰囲気をかもし出す連作短編集だが、それぞれの事件が少しずつリンクしており、感覚的には長編を読んでいるような感触。 「トクソウ」のメンバー達がこれまた個性的で、いずれの人物にも感情移入可能。 誰に移入するかは個人の好みであろう。 ミステリとして、事件の不可思議性やトリックなどを楽しむというより、警察小説として、或いはキャラクター小説として、とても楽しめる一作。 全編を通じて、裏に巨大な悪意の存在を暗示しており、それにより本作を味のある作品に仕上げている。 ミステリを主に読まれる読者には、馴染みの薄い作家かもしれないが、本書は一読の価値ありと言わせてもらおう。 |
No.134 | 4点 | 新・新本格もどき- 霧舎巧 | 2011/01/25 00:18 |
---|---|---|---|
第一話の『人狼病の恐怖』はそこそこ面白かったので、期待したが残念な結果に終わってしまった。
霧舎氏の初期の作品は結構好きで読んでいたが、それ以降は方向性が本格から離れてしまったようで、ミステリ界はまた一人本格の担い手を失った気がする。 本作に関しては、文体が合わなかったせいか、それとも私の読解力のなさのせいか、短編にもかかわらずストーリーが、すんなり頭に入ってこなかった。 登場人物にも魅力が感じられず、感情移入の余地もなく、所詮「もどき」だと思ってしまったのは、作者の目論見が外れてしまったとも言えるのではないだろうか。 |
No.133 | 5点 | 黒い森- 折原一 | 2011/01/21 23:52 |
---|---|---|---|
ミステリ・ツアーと称しての、樹海を彷徨う独特の雰囲気はなかなか楽しめた。
全体を覆う陰鬱なムードは、まさに折原氏の独壇場で、サスペンスとしての出来は悪くないと思う。 しかし、袋とじの必然性がまったくないと感じるのは、決して私だけではあるまい。 あまり意味のない、凝った構成はほとんどその効力を発揮していない。 全体的に内容が薄いし、ミステリとしてはかなり弱いと感じられるのは残念な限りだが、個人的にはそこそこ楽しめた。 |
No.132 | 4点 | 僕を殺した女- 北川歩実 | 2011/01/17 23:34 |
---|---|---|---|
これはいわゆる記憶喪失物の延長線上に位置する作品である。
しかしデビュー作ということを差し引いても、あれもこれもと詰め込みすぎて、方向性が判然としないのはいかがなものかと思う。 どうも読後感がスッキリしない。 様々な人間を登場させて、サイドストーリーを膨らませるのはよいが、煩雑な印象を拭えないまま読了してしまった。 ミステリとして期待している読者は、読むに値しないであろう。 |
No.131 | 5点 | 人格転移の殺人- 西澤保彦 | 2011/01/02 22:36 |
---|---|---|---|
正直なところ、事前に危惧していた嫌な予感が当たってしまった。
それは、「人格転移」による混乱と煩雑さである。 余程注意深く読まないと、個々の人格と身体の識別が難しい。 その辺りは出来る限り平板に分かりやすく描いているつもりだろうが、個人的にはやや難解な部分があったことは否定できない。 また、真犯人は予想通りだったし、オチも思っていた通りで逆に驚いた。 残念ながら、驚愕を味わう事はできなかった。 |
No.130 | 5点 | 明智小五郎対金田一耕助- 芦辺拓 | 2010/12/29 23:26 |
---|---|---|---|
はっきり言って表題作以外は、いまひとつ楽しめなかった。
フレンチ警部、フェル博士、H.M卿、ブラウン神父など著名な名探偵たちが登場するのはファンとしては嬉しいだろうが、事件そのものもそれ程興味をそそられる謎もなく、トリックも前例のあるものばかりで、正直感心しない。 結局一番美味しいところを持っていったのは、明智小五郎だろう。 やはり金田一も先輩に敬意を表して、ということなのか? |
No.129 | 7点 | 風が吹いたら桶屋がもうかる- 井上夢人 | 2010/12/25 00:07 |
---|---|---|---|
登場人物が事件の依頼者以外、物語の語り手のシュンペイ、心優しき超能力者ヨーノスケ、理屈屋で的外れな推理を展開するイッカクのみといった、一風変わった連作短編集。
それぞれの役割がはっきりしていて、個性もそれなりに感じさせてくれるし、何よりも読みやすいのが美点である。 事件も結構興味を惹かれるものがあり、軽めで楽しめるミステリを求める読者にとっては一読の価値はあると思う。 ワンパターンも、ここまで来ると逆に清々しい。 |
No.128 | 6点 | 武家屋敷の殺人- 小島正樹 | 2010/12/17 23:24 |
---|---|---|---|
まず何よりも冒頭の現実離れした日記には、いかにも島田荘司氏の好みそうな滑り出しでニヤリとさせられた。
この時点ではかなりの期待感を抱かせるが、長い第二章であっさり謎が明かされるのは、構成的に如何なものかと思ってしまった。 しかし、そこにもまた作者のミスリードも含まれているわけで、まさに詰め込みすぎ、の謳い文句の本領発揮と言ったところか。 全体としては、プロットが個人的にはイマイチと感じた。 トリックもよく考えられているし、謎の解明も緻密なだけに、もう少し上手く料理すれば、もっと傑作になっただろう、そう考えると惜しい作品ではないかと思う。 |
No.127 | 4点 | UFOの捕まえ方- 柄刀一 | 2010/12/09 23:33 |
---|---|---|---|
表題作が長編で、他の三作品が短編という風変わりな連作短編集である。
しかしながら、表題作以外はどうという事もない凡作が並んでいる。 肝心の『UFOの捕まえ方』は、秋田県のある町でUFOの目撃騒ぎの中、内臓の一部を抜き取られた犬の死体と共に、シャンデリアの上にうつ伏せに状態で男の死体が発見されるという、一見不可能犯罪物。 いかにも宇宙人の仕業に見せかけた殺人事件かと思いきや、真相はかなりありきたりなもので、驚くには値しない。 それよりも、この人の文体は私には合わない事を改めて思い知った作品であった。 |
No.126 | 7点 | 神のロジック 人間のマジック- 西澤保彦 | 2010/12/02 23:21 |
---|---|---|---|
序盤から中盤にかけては、ヌルいという印象しかなかった、タイトル負けしているなと。
しかし、このSF的設定と子供たちの何気ないやり取りの中に、いくつもの伏線が張られているので、油断は禁物である。 後半に入って、唐突に殺人が起こるが、それでもまだ今ひとつ退屈な感じは拭いきれない。 しかし、最後の最後で驚愕の真相が明かされる、これで私の本作に対する評価は一変した。 それまでの平板さや退屈さを見事に覆すだけの、強烈な真実に瞠目すべき作品であろうと思う。 |
No.125 | 6点 | ガラスの麒麟- 加納朋子 | 2010/11/27 23:39 |
---|---|---|---|
女性の作家らしい視点で描かれた佳作。
少女の心の微妙な揺れや、女性の心の奥底に潜む襞のようなものを、淡いタッチで上手に表現している。 連作短編集なのだが、どの作品も読者の心に訴えかけてくるような作風で、加納朋子女史独特の世界観で読ませる作品だと思う。 |
No.124 | 7点 | 赤い蟷螂- 赤星香一郎 | 2010/11/20 23:35 |
---|---|---|---|
「赤い蟷螂」を見た者には必ず災いが降り掛かる、というどこかで聞いたような話である。
前作同様、ホラーともミステリとも言えない、独特の作風で読ませる希少な作家の一人だといえる。 そのリーダビリティは非常に優れていて、かなり入り組んだ構成や人間関係を煩雑さを感じさせずに一気に読ませる手腕は認めざるを得ない。 中盤までの摩訶不思議な現象をどう収束させるか、その辺りがミステリ作家としての氏の腕の見せ所だが、見事に全ての謎を余すところなく解明して見せている。 ただし、肝心の「赤い蟷螂」の正体には拍子抜けの感は否めないし、それだけの理由で自殺までするか、という疑問は残る。 しかし、過去の呪いや怪奇現象などがふんだんに盛り込まれており、ホラーファン、ミステリファン、両読者を満足させるだけの面白さを十分備えているのは間違いない。 |
No.123 | 4点 | 依頼人は死んだ- 若竹七海 | 2010/11/16 23:28 |
---|---|---|---|
ほぼ女探偵、葉村晶の一人称で描かれる、主にホワイダニットを扱った連作短編集。
人間の奥底に潜む、醜さ、嫌らしさを容赦なく描写する作風は相変わらずである。 しかし、個人的には文章が心に響いてこなかったのは致命的だった。 もう若竹女史の作品を読むことはないだろう、さらば若竹七海。 この文体を許容できるファンの方には失礼かもしれないので、とりあえず謝っておこう、どうかご容赦願いたい。 |
No.122 | 5点 | 夢幻巡礼- 西澤保彦 | 2010/11/12 23:43 |
---|---|---|---|
どうも読後感がもやもやしている。
事件解決まで長かったが、それ程退屈だった訳ではない、それなりに楽しめたのは事実。 しかし、解決編はSFの趣向が入り混じって、話をややこしくしているし、どこで驚いて良いのか判然としなくて、スッキリしない。 だからといって、ストーリーに整合性がないわけではないのだが、残念ながらカタルシスには程遠かった。 |
No.121 | 4点 | クール・キャンデー- 若竹七海 | 2010/11/06 23:53 |
---|---|---|---|
ページ数の関係もあるだろうが、全体的に希薄な印象は拭えない。
登場人物の誰にも感情移入できないのは致し方ないかもしれないが、何気に悪意に満ちているのは好き嫌いが分かれるところではないだろうか。 それがこの作者の持ち味と言えなくもないが、それにしても主人公の渚には年相応の可愛げが感じられないのは痛い。 最後の一行は確かに驚かされたが、残念ながらカタルシスは味わえなかった。 |
No.120 | 8点 | 幽霊人命救助隊- 高野和明 | 2010/11/04 23:53 |
---|---|---|---|
泣いた、笑った、感動した、簡潔に表現するとこんな感じ。
しかし、暗いテーマを描きながら、これだけ読みやすいエンターテインメントに昇華させた小説を私は他に知らない。 うつ病、いじめ、離婚、借金、病気といった社会問題を内包しているのに、読んでいて暗い気分にならない。 それどころか、爽快感さえ味わえるシーンすらある。 勧善懲悪あり、アクションあり、笑いあり、涙ありの、読者に勇気と生きる希望を与える稀有な傑作だと思う。 |
No.119 | 10点 | 隻眼の少女- 麻耶雄嵩 | 2010/10/28 23:48 |
---|---|---|---|
久しぶりに本格ミステリと呼べる作品を読ませてもらった気がする。
若干の疵はあるものの、それを差し引いても文句のつけようのない完成度の高いミステリらしいミステリである。 因習深い寒村で起きた連続殺人事件という、横溝正史の世界観を丸ごと取り込んで、見事に反転させる手腕は賞賛に値する。 麻耶雄嵩ファンならずとも、ミステリ読者のすべてに薦めたい稀代の大傑作である。 |
No.118 | 6点 | 倒錯の死角−201号室の女−- 折原一 | 2010/10/22 23:30 |
---|---|---|---|
ダークな雰囲気、やや粘着質な文体、多重構造、叙述トリック、どれをとっても折原氏らしい作品である。
がしかし、期待通りの出来かと問われると、疑問視せざるを得ない。 また、最後の袋とじには全く必然性を感じない。 むしろ蛇足といってもよいかもしれない。 |
No.117 | 5点 | なみだ特捜班におまかせ!- 鯨統一郎 | 2010/10/16 23:29 |
---|---|---|---|
相変わらず波田煌子のおとぼけぶりは笑えるし、前作より益々磨きがかかっている。
それに反して、特捜班での活躍は見事と言える。 迷宮入りの難事件を大した捜査もしないで、次々に犯人像を指摘していく。 しかし、そのプロファイリングは冗談半分にしか思えないし、真犯人の逮捕も偶然とし考えられないような状況である。 まあ、猟奇殺人事件を扱っている割には、ほのぼのとしていて好感は持てるが。 また、特捜班のメンバーはバラエティに富んでいて、それぞれのキャラが生き生きと描かれていて楽しめる。 |
No.116 | 5点 | 怪痾- 雨宮淳司 | 2010/10/14 23:43 |
---|---|---|---|
病院の怪談シリーズ第三弾にして完結編。
前作『怪癒』に比べると幾分トーンダウンしている感もするが、医療に従事する者のみが知りうる、実話怪談の数々は相変わらず恐ろしいものがある。 最終話は人の生死に関わる真実なので、心臓の弱い読者は避けるべきだと思う。 怖いもの見たさで興味本位に読むと後悔すること請け合い。 |