皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.261 | 6点 | さらわれたい女- 歌野晶午 | 2013/01/24 21:43 |
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再読です。
巧妙なプロット、意外な展開、さすがに歌野晶午と言いたいところだが、いかんせん面白みに欠けるのがどうもね。 本格的な誘拐物では勿論ないし、さりとてユーモア・ミステリとも違う。サスペンスと呼ぶにはやや緊迫感に欠ける。 じゃあ、どういうスタンスで読み進めば良いのか、正直迷ってしまう。 しかしながら、十分水準点はクリアしているし、読みやすいので苦痛は感じない。 ところで、ジャンルは何に投票すれば良いのだろうか、本格か、サスペンスか、ちょっと迷ってしまう。なんとも表現しがたい作風なのだ。 ラストは、個人的にはこれで良かったのではないかと思う。 それほど意外性はないけれど、無難な着地の仕方だろう。 まあ、結局右往左往しながら、主人公の何でも屋と一緒に冒険を楽しむ作品なのかな。 |
No.260 | 8点 | 頼子のために- 法月綸太郎 | 2013/01/22 21:58 |
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再読です。
初読の際は、なんだか切ない読後感だったが、今回読み直してみて、全体を通して痛々しい印象を持った。 痛々しくなかったのは、唯一探偵の綸太郎のみで、登場人物それぞれが心に何かしらの傷をもっており、読んでいて辛くなるような心持がしたものだ。 一方、綸太郎は最初から「僕は真実の側につく」との言葉通り、最後の最後まで己のスタンスを貫いている。 この姿勢は、解説にもあるように、どちらかと言うとハードボイルドを思わせる。 従って、この作品は本格ミステリというよりも、ハードボイルド寄りのある(名探偵ではない)探偵の物語という側面を持っていると思われる。 さて、冒頭の手記に関してだが、私は一読後唯一首を捻りたくなるような記述があったことを除いて、特にこれといって不可解な点には気付かなかった。 その手記をもってして、再調査に乗り出し、真相に迫る法月綸太郎はさすがと言えるかもしれない。 しかし、最後に真犯人に対して、○○を促すような言動は探偵としていかがなものかとは思う。 たとえ真実の側についた人間だといえ、ここは思い留まらせるべき場面だった気がするが、どうなのだろう。この点も一つ後味の悪さにつながっているように思える。 まあしかし、様々な面で優れた作品であるのは間違いないし、端正な文章に載せて語られる氏の代表作と言って良いだろう。 |
No.259 | 8点 | 黒い家- 貴志祐介 | 2013/01/19 21:52 |
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再読です。
ネタバレするかも。 これぞホラー小説の真髄。誠に素晴らしい出来栄えの傑作である。 舞台が保険会社なので、生命保険、傷害保険、入院保険などの勉強にもなり、為にもなる小説。 そして、なんといっても怖いのである、それはもう心底。背中を這い上がるようなぞくぞくする怖さと、とても心臓に悪いショッキングなシーンの両面攻撃で、読者を恐怖のどん底に陥れる。 ハイライトはSが旦那の○○を○○してしまうところ、これはもう半ば予想していながら、トラウマになりそうなくらいの恐ろしさだ。 病棟の個室で、三善が恫喝するシーンが私のお気に入りなのだが、その百戦錬磨の三善が簡単にやられてしまうのはやや不満と言うか、不可思議で疑問が残る。 しかし、気になるのはその点くらいで、他は何を取っても完璧ではないだろうか。 前半のサスペンスフルな展開や、主人公の若槻が事件を追うミステリ的な趣向、後半の若槻とSとの対決はどれも読み応え十分である。 |
No.258 | 5点 | 思い通りにエンドマーク- 斎藤肇 | 2013/01/16 20:20 |
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再読です。
本棚から溢れた本を整理していて、たまたま目に付いた一冊。 今ひとつ覚えていなかったので、読み直してみようかと思い立ったのが運の尽き。 主人公である学生の僕が名探偵よろしく、いわゆる嵐の山荘状態での連続殺人を解決して凱旋するのだが、そこに待ち受けていた陣内先輩に一刀両断される。 曰く「お前の推理は滅茶苦茶だ」。というわけで、一旦解決を見たかに思われた密室絡みの連続殺人事件の真相を暴きに、陣内先輩と僕は再び惨劇の館へ向かう。 その前に「作者への挑戦状」(読者への挑戦)が挿入されるが、正直、真犯人はボンクラの私にも丸分かりであったし、動機も予想通り。 これだけ分かり易い謎も珍しい。 アリバイトリックはなかなかよく考えられているものの、密室トリックには大きな疵がある。 よく読めばいくつかの疑問点やアラが見えてくる、とても高得点は望めない凡作であろう。 |
No.257 | 6点 | 女囮捜査官 触姦- 山田正紀 | 2013/01/13 21:48 |
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再読です。
囮捜査官という、これまでにない捜査法を取り入れたなかなか斬新なアイディアを持つ新感覚のミステリ。 本格ミステリと呼ぶにはやや抵抗があるので、新型の警察小説とでも言うべきなのだろうか。 駅の女子トイレで起こる連続殺人事件、次々と現れては消える容疑者たち、囮捜査を巡って巻き起こる警察組織内での軋轢と人間関係、めまぐるしく展開していくストーリー、どれを取っても悪くない、むしろ面白い。 結末も良い感じで、意外な犯人像も十分納得のいくものだろうと考えられる。 ただ、最初から感じていた違和感が結局真犯人逮捕の決め手になろうとは、何とも脱力ものではある。 中身は薄味だが、読みやすい珍品の娯楽作と言えるだろう。 |
No.256 | 7点 | 水晶のピラミッド- 島田荘司 | 2013/01/12 21:33 |
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再読です。
初読では期待しすぎたあまり、今ひとつと感じたが、読み直してみて意外に面白いのを再認識した作品。 多くの方が指摘されているように、古代エジプトとタイタニック号のくだりは不必要なのかもしれないが、これがあってこそ物語が盛り上がるのではないだろうか。これらのエピソードが交互に配される事によって、御手洗シリーズの雰囲気作りに一役買っているように思われて仕方ない。 内容は密室あり、人工ピラミッドの最上階で溺死した死体という不可能犯罪あり、さらには謎の怪物まで出現して、まさに盛りだくさんで読者を飽きさせない。 またリーダビリティもさすがと言えるが、説明文がややくどく、若干分かりづらいのが難点かと思う。 レオナの台詞が芝居じみていて鼻に付くのも気になる。まあしかし、御手洗と対等に渡り合うためにはやむを得ないのかもしれない。 ラストの捻りも良い感じに決まっており、若干地味ではあるが、御手洗シリーズの面目は保っているのではないだろうか。 |
No.255 | 6点 | 龍は眠る- 宮部みゆき | 2013/01/08 21:50 |
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再読です。
平均点が高いのも分かるけどね。 めまぐるしく展開するストーリー、緻密なプロット、超能力に見えた現象を理論的に解釈する辺り誠に素晴らしいと思う。さすがに宮部女史だ。 しかしねえ、どうも盛り上がりに欠けると言うか、サスペンスらしい緊迫感がイマイチだと感じる。 超能力を持った二人の青年を中心に、人間関係はとても分かりやすく描写されているし、どの人物もそれなりに個性的ではある。が、もう少し心理描写とかを掘り下げてもらえたら、もっと傑作になった気がする。 初読の際はもっと面白かったと感じたので、再読したわけであるが、良かったのは第一章の超能力をトリックとして解釈したところまでと、七恵の性格の良さかな。 いずれにしても、本作は宮部みゆきの代表作の一つであるのは間違いないとは思う。 ただ、私にはちょっとヌルいと映った。 |
No.254 | 9点 | 首無の如き祟るもの- 三津田信三 | 2013/01/05 21:54 |
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再読です。
本来ならもっと早い時期に書評すべき作品だが、自分で言うのも何だけど、高得点が予想されるので慎重を期して再読にて評価した。 初読の際は単行本だったが、今回文庫版を読んでの書評とさせていただいた。 加筆、改稿されていたせいか、幾分読みやすくなっていたように思う。 前半から中盤にかけては、まどろっこしいというか、まわりくどい印象で、ワクワク感もあまりなかったし、ホラーの要素から来る背筋がゾクゾクするような怖さもさほど感じなかった。 これをもし島荘辺りが書いていたら、もっと面白かっただろうにと思うと少しだけ残念ではある。 だが、閉鎖された村での因習や、過去の因縁話など、ホラーの要素を絡めて繰り広げられる広義の密室での、首なし死体を露呈する連続殺人事件は非常に興味深いものがある。 後半の読者の推理はほとんど意味がないに等しいので、必要だったのかやや疑問に感じる。 しかし、さすがに刀城の推理は素晴らしい切れ味を見せる、これでもかと畳み掛けるような展開もとても読み応えがあって引き込まれる。 メイントリックは、首なし死体のバリエーションの新機軸と言えるものであり、過去に前例がない為非常に高い評価が期待できると思う。 それにしても一見複雑に見える謎の数々が、たった一つのヒントから芋づる式に解き明かされていく様はかなりのカタルシスが得られる、これはやはり総合的に見て高得点を与えねばなるまい。 従って、滅多に付けない9点とした。 |
No.253 | 5点 | 競作 五十円玉二十枚の謎- アンソロジー(出版社編) | 2013/01/02 19:39 |
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再読です。
若竹七海女史が学生時代、書店でアルバイトしていた時に実際遭遇したある不思議な出来事が本書の発端となっている。 その出来事とは、毎週土曜日の午後、ある男が50円玉二十枚を千円に両替してくれと頼んで、両替が終わるとそそくさと去っていく、というもの。 男はなぜ土曜日ごとに同じ書店で両替するのか、なぜ毎週50円玉が二十枚も貯まるのか。 その謎に、プロのミステリ作家たちと、一般公募の読者が挑戦する。 正直なるほど、と納得できる解答が提示されている作品はほとんどないが、中には面白いものもあるにはある。 個人的には一般公募の自動販売機ネタが最も良かった。解答としてだけでなく、一篇のミステリとしてよく出来ていると思う。 倉知淳のデビュー作?も公募の中に含まれており、猫丸先輩最初の事件も楽しめる。 |
No.252 | 6点 | ミステリーの愉しみ⑤奇想の復活- アンソロジー(国内編集者) | 2012/12/29 21:36 |
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再読です。
アンソロジーとは言っても、競作のお披露目の場なので、正確には新作書き下ろし競作集なのだろう。 単行本で830ページ、読み応えがあります。 いわゆる島田学派を始めとする新本格の面々と、それに準ずる創元社出身の作家ら19人が、さながら百花繚乱のごとく咲き乱れている。中には狂い咲きの様相を呈してる方も。 初読の際は司凍季が気に入っていたが、改めて読み直してみるとかなり感想が変わってくるものである。 特に印象深いのは、今邑彩、歌野正午、綾辻行人、竹本健治辺りだろうか。 一番のバカミスは津島誠司の『叫ぶ夜光怪人』で決まり、でも面白い。 |
No.251 | 6点 | 閉じ箱- 竹本健治 | 2012/12/22 21:37 |
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再読です。
全体を通しての印象は、玉石混合ですかね。竹本氏初の短編集。 ミステリ色の濃い作品もあるが、どちらかと言うと幻想味の強いホラーが多い。 そんな中なんと言っても傑作は『恐怖』であろう。氏自身もあとがきで書いているように、竹本氏の短編の代表作だと思う。 また、解説で山口雅也氏も書いているが、日本のホラー小説の最高傑作と言っても過言ではあるまい。 あと個人的に気に入っているのは『陥穽』である。 竹本氏はこの作品が嫌いで、出来れば自身の作品から抹消したいほど気に入らないらしいが、本作を編むに当たって少し見直したようだ、それほど悪くないのではないだろうかと。 他は正直特筆すべきものは見当たらないのだが、そこはかとない幻想味は竹本氏らしく、世界が反転するような、或いはあっと驚くような仕掛けはないし、ある程度展開やオチが読めてしまうものも少なくないが、雰囲気は十分味わえる。 こういう短編集は、一気に読むよりも少しずつじっくり読んだほうが印象に残りやすいかもしれないね。 |
No.250 | 7点 | 歳時記(ダイアリイ)- 依井貴裕 | 2012/12/20 21:50 |
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再読です。
作中作という私好みの構成だが、その問題の作中作がかなり読みづらいという難点を抱え込んでいる。 その為、あまり深読みすることなく流してしまったが、解決編を読むにつれ、もっと慎重にじっくり読み進めるべきだったと悔やんでみたりして。 なぜなら、この中に伏線が嫌というほど散りばめられているのだから。 作中作の少なくない違和感は、そのまま解決編へと直結している。 なるほど、確かに読者への挑戦が堂々と宣言されているだけあって、論理的に真犯人を導き出すことが十分可能となっている。 意外なエピソードが伏線になっていたりもして、なるほどと唸らされる事しきりであった。 ただ、動機だけは犯人の告白を待つ他なかったようであるが、これは致し方ないだろう。 とにかく本作はロジックに重点を置いた、良質の本格ミステリであるのは間違いない。 |
No.249 | 7点 | クラインの壷- 岡嶋二人 | 2012/12/18 21:33 |
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再読です。
初読の際は、もっとなんと言うかいかがわしい印象を持ったものだが、あれから20年、私も様々なミステリを読むにつれ、少々のことでは驚かなくなってしまっていたようだ。 あの頃ならおそらく8点は付けていたと思うが、やはり再読ということで若干割り引いて採点させていただいた。 面白いのは間違いないのだが、もう少し味付けが欲しかった気もする。 ミステリではないから、もっとサスペンスを利かせるとか、心理描写を掘り下げるとか、色々出来たと思う、その辺りがやや残念な要素ではないだろうか。 描き様によっては大傑作に化けた可能性もあると思うが、まあこのままでも傑作なのかもしれないね。 |
No.248 | 8点 | GOTH リストカット事件- 乙一 | 2012/12/15 21:32 |
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再読です。
寄せ集めと言われようが既視感があろうが、私はこの作品集を支持する。 なぜなら、本書は日常から遥か彼方の異次元の世界へ私を誘ってくれるから。 最終話の『声』こそ意味が分からない部分があったり、冗長さを感じたりするものの、その他は乙一氏にしてはミステリ的趣向をかなり取り入れているし、絶望や虚無を漂わせるグロい異世界は読む者に少なからず嫌悪感を味わわせる。 そこが本作を持って、評価を割れさせるところではないだろうか。 だが、私のような人生の階段を踏み外した者にとっては、それぞれが共感できる面を持っていて、相当な好感触である。 特に第一話の『暗黒系』、第二話の『リストカット事件』は一も二もなく好き。 主人公の「僕」にも、相手役の少女、森野にもなぜか好感が持てるのである。 まあとにかく、本作と『ZOO』は氏の作品の中でも別格な気がする。 あ、そうそう、『ZOO』も読み返さなくては。 |
No.247 | 7点 | 日曜の夜は出たくない- 倉知淳 | 2012/12/12 21:48 |
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再読です。
これ程バラエティーに富んだ連作短編集は他に類を見ないのではないだろうか。 しかも、それぞれの短編が水準以上を保持しているのは素晴らしいと思う。 『約束』のメルヘン風も悪くないし、『海に棲む河童』の猟奇的な奇想も面白い、また『空中散歩者の最期』の島荘のようなスケールの大きい仕掛けも良いね。 とても変化に富んだ作品が並ぶのだが、その中で何一つ変わらないのが猫丸先輩の名探偵ぶりである。 飄々としながらも、事件の情報が揃うと、瞬く間に真相を見抜いて披露する。 見事である、しかも反論されようが、突っ込まれようが全く動じない辺りはさすがとしか言いようがない。 本作の魅力の半分は猫丸先輩が担っているといっても過言ではないと思う。 それにしても猫丸先輩は神出鬼没だなあ。 また、最後二章の捻りと着地はまずまずだろうが、まあ「蛇足」かもしれないね、残念ながら。趣向は悪くないけど。 近日中に『過ぎ行く風はみどり色』も読み返さなければいけないんじゃないかな、これは。 |
No.246 | 7点 | 都市伝説セピア- 朱川湊人 | 2012/12/08 20:32 |
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再読です。
口裂け女に代表される都市伝説や、見世物小屋、夕闇の公園など背筋が少々寒くなるような要素を取り込んだ、ノスタルジックなホラー短編集。 5篇のうち、『アイスマン』『昨日公園』『月の石』が特にお気に入り。 『花まんま』で直木賞を受賞した朱川氏だが、その原点はやはりこの作品集に集約されている気がする。 その後も私は氏の作品を追いかけているが、そのスタイルは今でも変わっておらず、終始一貫して、地味ではあるが、ノスタルジックで、随所に涙を誘うシーンを差し挟んでいる。 ホラーはホラーでも、どちらかと言うと、文芸に近い作風であり、一般読者にお勧めである。 あっと驚くようなオチやとんでもない捻りはないし、どこかで読んだことがあるような物語もあるが、じんわりと心に染み込んでくるような感覚は、他の作家ではあまり味わえない氏ならではの持ち味ではないだろうか。 |
No.245 | 7点 | 垂里冴子のお見合いと推理- 山口雅也 | 2012/12/06 21:59 |
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再読です。
何と言っても垂里家の人々のキャラが見事に描き分けられていて、気持ちよく読み進められるのがいいね。 長女で主人公の冴子は和服がよく似合う、ちょっとおっとりした、読書大好きの33歳独身。 次女の空美はイケイケで発展家、異性関係も派手で遊び好き、姉とは歳が離れていて23歳と若い。 長男の京一はごくごく普通の受験生だが、それなりに好奇心もあり、特に冴子のお見合いには興味津々である。 それと、もう一人個性が光っているのが、伯母の合子で、この人は孤高のお見合いハンター。 過去に幾度となくお見合いを仕掛けて、成功させてきた実績を持っている。 そんな合子は今日も冴子に縁談を持ってきて、お見合いをさせようと画策する。 冴子も満更ではなく、わりと気安くOKするのだが、お見合いの度に何らかの事件に巻き込まれる、というのがお約束のストーリー。 一応ジャンルとしては日常の謎となっているが、それにしては結構な確率で死人が出る。 だが、殺伐とした雰囲気ではなく、あくまでのんびりと進行していくので、誰もが安心して読める連作短編集だと思う。 全体的にちょっぴり短いので、やや物足りない感じもするが、この作品はそれくらいで丁度良いのかもしれないね、もっと読みたいと思うくらいが。 続編が出るのもよく理解できる佳作となっている。 |
No.244 | 6点 | 死ねばいいのに- 京極夏彦 | 2012/11/27 21:37 |
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プロットと言うか構成は宮部女史のような。
それでも文章のしつこさ、或いは粘着質な感じはやはり京極氏ならではのものだと思う。 確かに、フーダニット&ホワイダニットものと言えるのかも知れないが、これだけの手掛かりでそれらを推理するのは無理というもの。 がしかし、犯人の正体にはやはり驚きを隠せなかった。 それは良いのだが、動機は理解しがたいし、全体的にすっきりしない、後味の悪さを覚えた。 |
No.243 | 8点 | バトル・ロワイアル- 高見広春 | 2012/11/22 22:14 |
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再読です。
私は不思議だった。なぜこれまで、映画化され劇画にもなったこの有名な作品が書評どころか、登録さえされなかったのか。 確かにミステリではないし、そうした意味で誰も書かなかったのかもしれないが、例えば『イニシエーション・ラブ』のような作品に多くの書評が寄せられているのだから、本作にも一人くらい書評があってもいいだろう。 もう既にみなさんご存知だと思うが、概要を簡単に紹介しよう。 極東の島国、大東亜共和国では今年も“プログラム”が実施されようとしていた。 城岩中学3年B組の生徒達は修学旅行に向かう途中で、催眠ガスにより眠らされ、瀬戸内海の沖木島に運び込まれる。 そして彼らは目が覚めた時、自分たちが“プログラム”の対象クラスに選ばれた事を知る。 そのプログラムとは生徒同士で最後の一人になるまで殺し合う、といういたって簡単なもの。 勿論反則はない、決められた時間内に禁止エリアに残っていた者は強制的にはめられた首輪が爆発し、死亡する。 また、24時間誰も死ななかった場合もすべての生徒の首輪が爆発し全員死亡する。 よって、優勝者はなしということになる。 この究極の緊張状態の中で、その気になる者、自殺する者、仲間同士で集まって篭城する者、拡声器で呼びかけて殺し合いをやめさせようとする者など様々。 本作は著者が三年の年月をかけて描かれた、究極のサバイバル・ゲームであり、それぞれの青春模様を浮き彫りにした力作だ。 とにかく面白く、読者は余計な雑念を忘れてそれこそ夢中でその世界に入り込める、得がたい経験をすることになるだろう。 大部分の生徒のプロフィールが紹介されている辺りも、考えてみれば凄いことだと思うし、一体誰が誰を狙うのか、最後まで生き残るのは誰なのか、興味は尽きないところだ。 このタイプの小説が好きで未読の方は、是非読まれることをお勧めする。 尚、映画はかなり脚色されているので、映画を観た人も原作を読む価値は大いにあると言いたい。 |
No.242 | 5点 | さまよえる脳髄- 逢坂剛 | 2012/11/16 21:43 |
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再読です。
昔読んだ時はなかなか面白かった記憶があるのだが、改めて読み返してみるとそれほどでもなかった。 歳のせいか、若かった頃に比べて感性が磨り減ってしまったのだろうか・・・ 本作はいわゆるサイコ・サスペンスと呼ばれる作品だが、脳神経に関する薀蓄や、それに付随する殺人事件など、あれもこれもと詰め込みすぎて、まとまりがなくなっている感じを受けた。 面白いエピソードもあるにはあるが、全体として今ひとつ盛り上がらず、意外な真相なども皆無に等しく、期待したような仕上がりではなかった。 残念ながら再読するほどの作品とは言えないだろう。 |