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メルカトルさん
平均点: 6.02点 書評数: 1769件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1669 7点 星の牢獄- 谺健二 2023/08/19 22:58
海上に建てられた私設天文台“星林館”。流星群の観賞会がひらかれた夜、死が相次いで降り注いできた。隕石に撃たれて焼死した男、顔を赤く染め上げて墜死する老人、大時計の針に貫かれて磔にされた男…。この異様な死は何を意味するのか。そして誰の意志によるものなのか。あらゆる謎が解き明かされたとき、すべての事実が反転する奇想と衝撃の本格ミステリー大作。
『BOOK』データベースより。

遠い惑星から来た蟹に似た雌雄同体の宇宙人イレムが、人間の男に変身し探偵役と主人公を一手に引き受ける異色のミステリ。所謂孤島物で、外部から断絶されたクローズドサークルで不可解な連続殺人が起こり・・・。
やや文章が硬い感じがするとか、登場人物の半数位が無個性でややこしいとか、トリックが使い古されたものであったり、外連味が無さ過ぎて盛り上がりに欠けると云った瑕疵は見られますが、それらを差し引いても良作であることは間違いないと思います。

特に第一の事件はこのストーリーの特異性をはっきり表しており、仕掛けが明かされた後では成程と感じ入らずにはいられません。やや長すぎる気もしますが、読んで損はないですね。世間に知られていない、隠れた珍品ってところですか。

No.1668 6点 未来の記憶- エーリッヒ・フォン・デニケン 2023/08/15 22:53
18世紀に描かれた正確な南極の地図、ピラミッド、南米のケツアコル伝説等の謎に対し、太古の神々=宇宙人という大胆な仮説で挑み、G・ハンコックなど数々の追従者を生んだ伝説の書。74年刊角川文庫の単行本化。
『BOOK』データベースより。

これは小説ではありません。敢えて言えば学術書や小論文に近い内容となっており、よくあるトンデモ本とは全く違います。
ピラミッドと円周率の関係やピラミッドの高さによる太陽と地球との距離の数式(こじつけっぽいが)、何故あのような巨大で精密なな建造物が太古の昔に造る事が出来たのか。各地に残る宇宙飛行士の壁画。イースター島のモアイ像の謎。ナスカ平原の巨大直線は何を意味するのか。等々、多岐に亘る世界中の不思議な痕跡を写真を記載した上で、著者は明確に地球外生命体の存在を示すことなく暗喩しているのです。

正直本書は高尚過ぎて私などには半分ほども理解の及ばない代物であり、もっと知性のある、例えば博士や教授などの肩書を持つ人が読むべきなのかも知れません。逆に、そうした人達の協力がなければこの本は書かれなかったに違いない訳で、その意味でも評価に値する書物だと言えましょう。
最後に訳者の仕事は素晴らしいものがあったと思います。知らずに読んだら翻訳物だとは判らなかったはずです。                                                   

No.1667 1点 走馬灯交差点- 西澤保彦 2023/08/13 22:13
殺人事件を捜査中の刑事が、何者かによって橋から突き落とされてしまう……。気が付くと目の前には“自分の幽霊”が――!?
怒濤のどんでん返しがラッシュする“特殊設定ミステリ”!
Amazon内容紹介より。

はっきり言って駄作だと思います。1ミリも面白くないし、読みどころも一つもない、オチもなければ捻りもない。褒めるところが皆無です。そもそも設定が自身の『人格転移の殺人』の焼き直しでしかなく、それ以上でもそれ以下でもないという全く進歩が見られない救いのなさ。更に登場人物が多い上に血縁関係のややこしい事、それに加えて同じ事柄を何度も違う表現で繰り返す文章のくどさに辟易します。全体にとっ散らかっていて、一体何がやりたいのか、作者の意図がが理解できませんね。

帯には大森望の賛辞の言葉が躍っていますが、そもそも私は彼の事を信用していません。それに加えて安っぽい装丁。Amazonの評価が高かったのだけを信じて読んでみましたが、後から考えれば上記の理由だけで回避する事は可能なはずでした。悪いけど、時間の無駄でした。ああ、それと、どんでん返しなどどこにも存在しませんから。

No.1666 8点 私のすべては一人の男- ボアロー&ナルスジャック 2023/08/10 22:49
これは面白い、これは笑える、まさにバカミスの一級品だ。とは私の心の声であります。何故この傑作が今まで文庫化されなかったのか不思議でなりません。この作者の作品は三冊目ですが、未読も含めておそらくこれが最高傑作だと思います。
早々にこの実験的なミステリの概要は語られるので、ネタバレにはならないでしょうが、一応未読で今後読むかも知れない方の為、以下ネタバレ注意としておきます。




【ネタバレ】注意





本作は頑健な男の死刑囚を四肢、頭部、胸部、腹部の七つのパーツに分け、それぞれの部位を事故で無くしたり、切断せざるを得ない状態の男性六人、女性一人に移植するという現実的にあり得ない物語。そして手術後のそれぞれの人物をルポの様に追っていくというもの。章立てはしていないので、少し表現が違うかも知れませんが、最終章では正直感動しました。そしてエピローグでその皮肉なエンディングに唖然とさせられ、読後暫く何も手に付きませんでした。SFと本格の融合と言うべきでしょうか・・・。
ただ、誰がどの部位を移植されたのかが途中で判らなくなったりしたので、主な登場人物一覧が欲しかったです。それだけが残念でした。

No.1665 7点 有限と微小のパン- 森博嗣 2023/08/08 22:43
日本最大のソフトメーカが経営するテーマパークを訪れた西之園萌絵と友人・牧野洋子、反町愛。パークでは過去に「シードラゴン事件」と呼ばれる死体消失事件があったという。萌絵たちを待ち受ける新たな事件、そして謎。核心に存在する、偉大な知性の正体は…。S&Mシリーズの金字塔となる傑作長編。
『BOOK』データベースより。

そもそもこのシリーズを過去3作しか読んでいない私が語れる作品ではないでしょう。でもまあ楽しめましたよ。長かったけど、それなりの内容なので冗長とは思いません。取り敢えず、惜しみなくキャラを出してくるサービス精神は良しとすべきでしょう。
それにしても、相変わらず森博嗣の文体は無機質ですねえ。いくら理系ミステリと言っても少しくらい情緒というものを見せてもいいんじゃないですかね。ただ終盤のあるシーンは、確かに情景が浮かんできて美しいとさえ思えましたが。

第一第二の事件はなかなか興味を惹かれました。しかし、それに比して真相はかなり貧弱な気はしました。まあ天才が多すぎて、彼らの考える事に付いて行けなかったのも情けないですが、この無難な評点を付けてしまう己の凡才ぶりに嫌気が差します。

No.1664 7点 小酒井不木集 くらしっくミステリーワールド 第6巻- 小酒井不木 2023/08/03 22:49
普通の単行本より一回り大きく、文字がデカい。しかも全ての漢字にルビが打たれており、親切過ぎて逆に読み難かったりします。最早短編集を読んだ気がしません。もっと大作を読んだ後の様な充足感があります。
収録作は『闘争』『恋愛曲線』『愚人の毒』『安死術』『人工心臓』の5作。一番面白かったのは最初の『闘争』ですね。これが最も本格度が高く、意外性という点でも高評価に値するでしょう。古臭さを感じさせない筆致と言い、全ての短編で医学者でもある作者の知識を駆使し、医療ミステリとして完成度の高さを誇示している異色の作品集だと思います。

また、『恋愛曲線』と『人工心臓』は姉妹作との位置付けと考えても良いでしょう。後者の実験的な作風を前者で昇華させたと云った関係性が見られます。どちらも医学に詳しくなければ書けないもので、心臓に対する作者の並々ならぬ思いがギュッと詰まった佳作にして怪作と言えそうです。

No.1663 6点 老人のための残酷童話- 倉橋由美子 2023/08/02 22:33
鬼に変貌していく老婆を捨てた息子と、その嫁の意外な末路とは…。「姥捨山」や、織女と牽牛の「天の川」といった、有名な昔話をベースにしながらも、独特の解釈で綴られた10の物語。大ベストセラー『大人のための残酷童話』の著者が、性欲や物欲、羞恥心といった、人間の奥底にひそむ感情を見事に描きだす。
『BOOK』データベースより。

なかなかの奇想を発揮し、ブラックユーモアを含んだ寓意小説と云った趣が強い短編集。老人や老いをテーマにした作品ばかりで、それぞれが違った味を出していると思います。ただ、捻りやオチが全体的に弱いのが残念。最も印象に残るのは最後の『地獄めぐり』ですかね。しかし、時間と共に次第に色褪せ、記憶が薄れていくのは仕方ないのかなという気がします。

ややエロ要素強め、グロはほぼ無きに等しいので、誰が読んで問題ないと思います。リーダビリティに優れており、表現力が豊かで読んでいて飽きが来ません。それは良いのですが、タイトルにあるような残酷さはあまり感じません。私はその辺りに物足りなさを覚えました。ホラーではなくファンタジーだと思います。

No.1662 5点 仮面- 山田正紀 2023/07/31 22:10
「最初の殺人事件が起こったときに、すぐに警察に連絡していたら、第二、第三の事件は防ぐことができたかもしれない、そうおっしゃるのですか?(中略)私が犯人なのです、刑事さん」―その晩、経営難に陥ったクラブのお別れの仮装パーティに、男四人、女三人が集まり、完全密室の店内で惨劇は起こった。冒頭で早くも犯人が確定?本書全体に仕掛けられた大どんでん返し!読者を欺く名(?)探偵・風水火那子シリーズ第二弾。
『BOOK』データベースより。

うーん、何だかモヤモヤした読後感ですね。その原因の一つは複雑な構成にあると思います。自転車と自動車の追跡劇は一体何だったのかとか、ある人物に対する叙述とか、地の文、手記、回想の展開の速さ等ですかね。これらが混然一体となって、ややこしさが先に立ってしまって、纏まりに欠ける印象が凄く強いです。

手記の仕掛けは目新しさを覚えますが、それも小手先のトリックとしてしか見られない感もあります。まあ、一般受けはしないでしょう。最初にミステリを読んだのがこれだったら、ミステリをもう読みたくないと云う人が多いんじゃないですかね。余程の作者のファンならともかく、あまりお薦めは出来ない作品です。

No.1661 6点 狼と香辛料- 支倉凍砂 2023/07/29 22:41
行商人ロレンスは、麦の束に埋もれ馬車の荷台で眠る少女を見つける。少女は狼の耳と尻尾を有した美しい娘で、自らを豊作を司る神ホロと名乗った。「わっちは神と呼ばれていたがよ。わっちゃあホロ以外の何者でもない」老獪な話術を巧みに操るホロに翻弄されるロレンス。しかし彼女が本当に豊穣の狼神なのか半信半疑ながらも、ホロと共に旅をすることを了承した。そんな二人旅に思いがけない儲け話が舞い込んでくる。近い将来、ある銀貨が値上がりするという噂。疑いながらもロレンスはその儲け話に乗るのだが―。第12回電撃小説大賞"銀賞"受賞作。
Amazon内容紹介より。

ラノベファンでこの作品を知らぬ者などいない程の超有名作。確かに良作だと思います。ファンタジー要素はあまりなく、凡百のラノベとは比較出来ないレベルの作品。物語自体は地味でバトルシーンも少なく、経済や商業取引といった要素を取り入れた異色のライトノベルと言えると思います。行商人であるロレンスの商いの相手との駆け引きや、銀貨の価値変動を見据えた先物取引の様なやり取りは、それだけでもなかなか面白いです。

が、何と言っても本作の魅力を支えている8割がホロのツンデレぶりで、残りの2割がロレンスのリアクションと言えましょう。何故か花魁もどきの言葉遣いのホロがたまに本音を吐いて、心中を見せるシーンなどは心に刺さるものがあり、ついつい感情移入してしまいます。ロレンスがホロの言動に振り回されながらも、次第に惹かれていく心理描写も上手く、この二人の微笑ましい交流を読むだけで、心癒されるものがあります。
流石に24巻まで続いたシリーズだけのことはあったと思いますね。まあ作者もこれだけ永く続くとは思っていなかったでしょうけど。

No.1660 7点 はるか- 宿野かほる 2023/07/27 22:35
賢人は小さな頃から海岸で、水入りメノウを探していた。ある時、何年も見つからなかったそれを、初めて会った少女が見つける。彼女の名は、はるか。一瞬で鮮烈な印象を残した彼女を、賢人はいつしか好きになっていた。
Amazon内容紹介より。

冒頭、典型的なボーイミーツガールで、純愛小説なのかと思いました。しかしそんな筈もなく、物語は予想もしていなかった方向に展開していきます。そしてある程度筋が読めてきても、どう転がるか分からない、先を読ませない作者の目論見に、見事に嵌っていく一読者としての私がいました。
もう後戻りできない愛の先に待つものは、果たして桃源郷なのか、それとも・・・。

何とも言えない読後感で、それが返って複雑な余韻を残します。終盤で衝撃を与えておいて、ラストでそれを超える残酷とも言える皮肉なエピローグが待っています。ストーリーはとにかく読んで下さいと言うしかありません。
結構好き嫌いが分かれる作品だと思います、私はかなり楽しませてもらいましたけどね。

No.1659 5点 スコーピオン- 諸口正巳 2023/07/25 22:32
高校3年生の相馬圭一はスケボーとスノボー、そして格闘ゲームが趣味のどこにでもいるような少年。そんな圭一が大学入試の帰り道、受験生ばかりを狙う殺人鬼が出没するといういわく付きの地下道で遭遇したのは―まさにその『伝説』の殺人鬼だった。間一髪のところを、突然現れた黒いコートを着た謎の男に救われるが、そのことをきっかけに平凡で退屈な日々を送っていた圭一の運命は大きく変わっていく。「口裂け女」や「人面犬」のような都市伝説が、人間の恐怖や怯えといった負のエネルギーを糧に実体化したなら…!?危険な存在となった『伝説』を密かに抹殺する黒衣の男たちがいた。その名は―スコーピオン。
『BOOK』データベースより。

様々な都市伝説は噂が噂を呼んで密かに広まり、実物の怪異に変化し、それらを消滅させる為に雇われた男達が闇の死刑執行人、スコーピオンであるという設定は面白い。しかしそもそも誰が主人公かもはっきりしないし、誰目線という訳でもなく(敢えて言えばソーマだが)、一話一話が短すぎてバトルが今一つ盛り上がらなかったり、人物造形が出来ていない、ケモノとは一体何者なのか分からない等、結構な瑕疵が見られます。

中には『チェーン』のような佳作もある訳で、何か凄く勿体ない気がしました。結局どこを取っても平板で奥行きがないのが致命的であると判断しました。しかし、だからと言って発想の良さまで切り捨てるのはやや酷だなと思い、5点にしました。何も考えずにサラッと読めるので暇潰しには良いかも知れません。

No.1658 7点 回転寿司殺人事件- 吉村達也 2023/07/23 22:42
和久井刑事の忘れえぬ初恋の人は、小学五年生のとき北陸の糸魚川市から転校してきた美少女・蓮台寺翠。十六年後、その彼女が「他人の心を読める超能力者」として世間に登場。志垣警部の忠告を振り切って彼女と対面した和久井は、実際に心を透視され愕然となる。それが回転寿司にヒントを得たトリックとも知らずに驚く和久井へ事件発生の追い討ち。旧親不知トンネルで発生した殺人に、初恋の人は関与しているのか。
『BOOK』データベースより。

巻末にある、恒例の作品紹介に「志垣警部シリーズ」とあったので、こちらにもそのように表記しましたが、今回の探偵役は部下の和久井刑事。しかも、本件には彼の因縁浅からぬ初恋の相手が絡んでおり、完全に主役です。
とにかく最初に披露される超能力のトリックが、余りにも不思議で全く理解不能です。いきなりのカウンターパンチに、その後も頭の中にチラチラその事が過ぎり、事件そっちのけで脳細胞を駆使出来れば良かったんですがね・・・。結果的には当然そのタネを見破る事は叶わず、驚かされることになりました。これは元ネタは手品にあったそうですが、成程よく考えられているなと感心しました。もうこれだけで高得点の価値は十分あったと思いますよ。

実在した「びっくり寿司」を舞台に、志垣警部と和久井が事件について、論戦を交わしますが、別にタイトルを『回転寿司殺人事件』にする必然性はないじゃないかと思ってもみました。しかし、読み終わって考え直しました。寿司ネタの蘊蓄ばかりでなく、事件そのものが回転寿司チェーン店を新たに開店させようとする中で起こるものだし、謎を解くきっかけも回転寿司にあったりして、結局タイトルに偽りなしと判断しました。
勿論、お腹が空いていない時でも楽しめます。

No.1657 6点 死者の中から- ボアロー&ナルスジャック 2023/07/21 22:18
高所恐怖症のために警察を辞めた男のもとへ、かつての友人から不可解な依頼が持ち込まれる。自殺願望のある自分の妻を監視してくれと…ヒッチコックを魅了したサスペンス小説の傑作。
『BOOK』データベースより。

パロル舎版で読みました。映画を観ていないので、この場面はこうしたカメラワークで撮っているのかなとか想像しながらの読書でしたが、訳者あとがきによると舞台がフランスからアメリカに変えられているので、おそらく映画とは別物なのだろうと思いました。映画は知りませんが、原作は個人的にはそこまでの傑作だとは・・・。謎自体はなかなか魅力的ではあるものの、それ一つで物語を引っ張るにはやや荷が重かった気がします。それにしても、フランスのサスペンスってこんなのばっかりなのですかね。そんな訳ないか、偏見はいけませんね。

残りページ僅かになってからの真相の提示には、ハラハラさせられましたが、納得でした。簡潔過ぎるきらいはありますが、ミステリ的解決というか、その整合性には成程と思わずにはいられません。よく練られていてそこに不満はありませんが、その道中がやや凡庸ではないかと感じました。

No.1656 6点 怪奇幻想ミステリ150選 ロジカル・ナイトメア- 事典・ガイド 2023/07/19 22:36
「週刊文春」「ジャーロ」「ダ・ヴィンチ」「このミステリーがすごい!」等でおなじみ気鋭の評論家がこだわりぬいて厳選。ビデオ化など映像情報も充実した“読むだけじゃない”ニュータイプ・ガイド。
『BOOK』データベースより。

まずこのガイドブックで語られる怪奇幻想とは、2002年時点でのホラー、オカルト、幻想などの要素を内包したミステリの事で、その中には国内の所謂変格と呼ばれる作品も含まれます。著者がその最たるものとして何度か例に挙げているのが、カーの『火刑法廷』の様に合理的解決を終えても、尚オカルト的な謎めいたラストが残される、みたいな作品です。

構成は年代別にまず国内のミステリを挙げています。そして笠井潔と山田正紀の対談が挿まれて、海外のミステリを紹介しています。最後に評論として、選に漏れた数々の作品や作家について触れています。海外の作家については初見の人ばかりでよくこれだけ調べ上げたものだと感心しました。又国内作家についてはほぼ全て網羅されていると言っても過言ではないと思います。聞いたこともない作家も少しばかり目に付きますが、ほとんどが知った名前であったのには、自分も少しはやるじゃんと思わずにはいられませんでした。内心ほっとしたのは言うまでもありません。
150篇の内、未読作品が当然多かったのですが、そのうち幾つかは読んでみたいと思わせるもので、取り敢えずメモして今後の参考にさせてもらうつもりです。

No.1655 7点 友が消えた夏- 門前典之 2023/07/17 22:28
断崖絶壁の館に並んだ首なし白骨死体!
「まさか!」のつるべ打ちに驚愕必至
三冊分のトリックが詰めこまれた奇想の本格推理!
Amazon内容紹介より。

このプロットは・・・折原一を彷彿とさせる構成ですねえ。しかもこちらは本格ミステリとサスペンスのハイブリッドと来ている。面白くない訳がありません。と言いたいところですが、本筋の鶴扇閣の殺人事件の方の序盤がイマイチ楽しくないです。若者達のやり取りがさり気なさ過ぎて、何ら事件の前触れが感じられなくて、一体どうしたらこの後陰惨な事件に発展するのだろうという気掛かりしかありません。一方、タクシー拉致事件の方も、最初こそハラハラさせられますが、その後延々拉致された仕事へ向かうはずの三十過ぎの女は、過去を回想するばかりで、なかなか進展しません。

一応蜘蛛手シリーズなので、探偵役として出ては来ますが、一点を除いて彼が探偵である必要性が感じられないのが残念。それでも、トリックは意表を突くもので、まあ密室はおまけとしても、事件の全容は思っても見なかった様相を呈して来ます。動機は・・・分かった様で分からない様な微妙なエンディング。いや、そんな事より、これ続編があるんでしょうねえ。なかったら怒りますよ。

No.1654 8点 世界でいちばん透きとおった物語- 杉井光 2023/07/15 22:41
 大御所ミステリ作家の宮内彰吾が、癌の闘病を経て61歳で死去した。
 女癖が悪かった宮内は、妻帯者でありながら多くの女性と交際しており、そのうちの一人とは子供までつくっていた。
それが僕だ。

 宮内の死後、彼の長男から僕に連絡が入る。
「親父は『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの小説を死ぬ間際に書いていたらしい。遺作として出版したいが、原稿が見つからない。なにか知らないか」
Amazon内容紹介より。

ラノベを多く書いてる作者だけあって、どうにもラノベ臭が漂う文体に正直うーむとなりました。まあそれはそれとして、なるべく予備知識なしで読もうと臨み、それが結果的に奏功したと思います。ただ早い段階で違和感を覚え、しかしそれが物語にどう関わってくるのかが全く分からない状態でした。
中盤までは主人公で語り手の「僕」が只管亡き父の遺稿を探し求めて、様々な相手に接触していく姿を描いており、余り抑揚は感じません。その時点では何ら事件の予感もしませんでした。

しかし、終盤第十二章から俄かにストーリーが動き始め、そのまま解決へと雪崩れ込んでいきます。成程確かに色々と伏線を回収しているし、これは紛う事なき本格ミステリだとかなり見直しました。お見それしましたと、作者に頭を下げたくなる心境です。ところがそれを遥かに超える衝撃が待ち受けていました。比喩ではなく本当に鳥肌が立ちました。もうこうなってはこの作品の前に、只々ひれ伏すしかありません。この人の努力と苦労に、最大の敬意と惜しみない拍手を送ります。
多くの人に読んで欲しいです、そして果たしてこれをどう評価するのか知りたいですね。

No.1653 6点 ただしい人類滅亡計画 - 品田遊 2023/07/13 22:36
全能の魔王が現れ、10人の人間に「人類を滅ぼすか否か」の議論を強要する。結論が“理"を伴う場合、それが実現されるという。人類存続が前提になると思いきや、1人が「人類は滅亡すべきだ」と主張しはじめ……!?
Amazon内容紹介より。

集められた10人の人間には名前はなく、ブラック、レッドなど色で呼ばれており、その中の二人(イエロー、ホワイト)だけが女性らしい。というのは、終始議論で埋め尽くされていて、性別などには全く触れられていない為、口調で判断するしかありませんので。
人類は存続すべきとする者が大勢を占める中、ブラックが絶滅論を繰り広げ、次第にどちらに傾くかが混沌とし始めます。特に悲観論者のブルーは自分を卑下しており滅亡の道に向かい、更にゴールドは自分以外の人間が幸福になる事を良しとしない利己主義者なので、こちらも自分の死後なら存続を断っても良いと考えるようになります。

自分のいない世界、自分の死後、生まれる以前、他種族との共存、生まれ来る者の幸福と災厄などを真面目に語っており、色々考えさせられます。ただ、何と言うか、堂々巡りの様な感覚にも陥ります。似たようなテーマが延々と議論されるため、どうしても変化に乏しく、あまり白熱した論戦となっている様には思えません。もっと地域猫活動や宗教論を例に挙げている様に話題を広げて行って方が、読者にとっては更に楽しめたのではないかという気がしました。そして、もう少し捻りがあるともっと良かったと思いますね。

No.1652 6点 ローズマリーのあまき香り- 島田荘司 2023/07/12 22:40
世界中で人気を博す、生きる伝説のバレリーナ・クレスパンが密室で殺された。
1977年10月、ニューヨークのバレエシアターで上演された「スカボロゥの祭り」で主役を務めたクレスパン。
警察の調べによると、彼女は2幕と3幕の間の休憩時間の最中に、専用の控室で撲殺されたという。
しかし3幕以降も舞台は続行された。
さらに観客たちは、最後までクレスパンの踊りを見ていた、と言っていてーー?
Amazon内容紹介より。

『暗闇坂の人喰いの木』以降の、年一回ペースで刊行されたいた頃のシリーズ作品と比べると、やはり随分見劣りしてしまう感は否めません。ただその構成は相変わらず読み応えがあり、長いけれど冗長とは感じませんでした。
冒頭の謎の提示は強烈で、文句なく読書欲を掻き立て、難なく惹き込まれます。一体何が起こって、どうすればこの様な不可解な謎を合理的に解決できるのか、いやでも期待は高まります。

しかし、真相は余りに貧弱でそれはないんじゃないの?と思わずにはいられませんでした。それに解決編があまりにあっさりし過ぎでしょう。何だかフィンランドの教授とかになって偉くなった御手洗はそれに見合った人格者で、かつての変人ではなくなってしまって往年の作品のファンからするとちょっと淋しいかなと思います。
まあ、Amazonの評価はあまり参考にしない方が賢明ですね。彼らは懐かしさのあまり過剰評価している気がします。いずれにせよ、定価で買って読む程の作品ではなかったです。ミステリとしては残念でしたが、それ以外の所での読み物、社会派の一面やメルヘンの世界に飛び込んだような記述、ユダヤ人と日本人のくだりは面白く読めました。

No.1651 6点 歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理- 三津田信三 2023/07/07 22:44
瀬戸内にある波鳥町。その町にある、かつて亡者道と呼ばれた海沿いの道では、日の暮れかけた逢魔が時に、ふらふらと歩く亡者が目撃されたという。かつて体験した「亡者」についての忌まわしい出来事について話すため、大学生の瞳星愛は、刀城言耶という作家が講師を務める「怪異民俗学研究室」、通称「怪民研」を訪ねた。言耶は不在で、留守を任されている天弓馬人という若い作家にその話をすることに。こんな研究室に在籍していながらとても怖がりな馬人は、怪異譚を怪異譚のまま放置できず、現実的ないくつもの解釈を提示する。あの日、愛が遭遇したものはいったい何だったのか――(「第一話 歩く亡者」)。ホラー×ミステリの名手による戦慄の新シリーズ始動!
Amazon内容紹介より。

刀城言耶の助手天弓馬人が様々な怪異を恐れながら謎を解く、刀城言耶シリーズのスピンオフ短編集。取り敢えず見た目はシリーズ本編のミニ版で、因習や伝説の描き方は流石によく似ており、不気味さを際立たせています。しかし、本作にはそれらの要素が真相やトリックと上手く噛み合っていないのが気になるところ。要するに、折角の怪異譚だというのに、トリックが浮いてしまっているのです。

竜頭蛇尾というか、あり得ない現象や不可能犯罪は確かに魅力的ではありますが、真相はバカミスだったり脱力系だったりと、やや肩透かしを喰らいます。それでも第四話の『目貼りされる座敷婆』は個人的には最も不可解な謎に対して納得の行く解決で、面白かったですかね。
シリーズ本編の固有名詞が何度も繰り返されるのは、ファンには嬉しいところでしょう。又、馬人と語り手の愛のキャラが立っているのも好ましい点ではないかと思います。

No.1650 6点 名無しの十字架- 郷一郎 2023/07/04 22:16
虎と戦った人間がいる。そのフィルムを探し出せ―アンダーグラウンドフィルムの手配師・三上哲平に持ち込まれた怪しい依頼。莫大な報酬につられ、引き受けることにした三上は、瀕死の重傷を負いながら、今もどこかで生きていると噂される伝説の男を追うが…!?渦巻く欲望、交錯する男と女、顔も名前も失った哀しき男の復讐―退廃的空気漂う横浜で燃え上がる陰謀劇の行方は!?衝撃の都市伝説ノワールミステリー。
『BOOK』データベースより。

読まなければならない本があまりに多すぎて、どれから読んで良いのか迷いながら家中の本の群れからたまたま目に付いて手に取った一冊でした。いつ買ったのかも何故買ったのかも最早思い出せません・・・。

これはジャンル分けが難しい。ミステリの様でもありそうでない様でもあり、感触がハードボイルドっぽいのでそちらに投票しましたが、あまり拘らないで下さい。
それにしても、この人の文章は群を抜いて上手いです。言葉のチョイスが絶妙だし、情景描写も情緒的で素晴らしく、全く淀みの無い文体の流れも非常に心地よいものがあります。私はこの文章力に憧れに似た気持ちを抱きました。書けそうで書けないと云うね。しかし、これ一作で終わるのは如何にも勿体ないです。大物プロデュ―サーによるものではないにせよ、映画化されている訳だし。

最後まで7点にしようか迷いましたが、結局公平に見てそこまで突出したところがないと判断し、6点としました。ただ、エンターテインメントとして非常に優れており、その点では評価できます。無名の作家による無名の作品ではありますが、一部のマニア向けという訳では決してなく、一般大衆に広くお薦め出来る佳作だと思います。読んでみればとても丁寧に書かれたのが実感されるはずです。

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ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1769件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
アンソロジー(出版社編)(23)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)