皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.741 | 4点 | イノセント・デイズ- 早見和真 | 2017/06/04 22:02 |
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第68回日本推理作家協会賞受賞作。
正直面白くないです。いや、そういった物差しで計るべき作品ではないのは重々承知で。なんですかね、謎がないんですよ。謎めいた雰囲気もないですし。社会派だから仕方ないのかもしれませんが、そういった読書を進める上での推進力が足りないと言ったらいいんでしょうかね。リーダビリティがどうこうというわけではありません。 そして重いです。重厚感とかの問題ではなく、心に重く圧し掛かる嫌な感じが終始しますよ。一歩間違えばイヤミスの領域に入ってしまいそうな感覚です。 これは30歳を迎える女性死刑囚の半生を描いた物語です。スピンオフ的に様々な人物の視点から描かれているため、ややプロット的に煩雑な感じを受けます。ちょっとごちゃごちゃしていますね。まあ、私の読解力にも問題があるとは思いますが。 読後はどんよりとした気分に浸れます。そうなりたくない人にはお勧めできません。唯一読みどころはエピローグでしょうか。 それにしてもこの作品が日本推理作家協会賞を受賞したとは、うーん・・・となってしまいますね。 【ネタバレ】 捜査側からのアプローチがほとんど描かれていませんが、状況証拠ばかりで果たして死刑求刑にまで持っていけるのだろうかという素朴な疑問がわいてきます。その意味では、片手落ちな気がします。 結局、冤罪だったのか否かが(おそらくは冤罪だと思いますが)最後まではっきりしないのも、モヤモヤしますね。 |
No.740 | 6点 | 十二人の手紙- 井上ひさし | 2017/05/30 21:48 |
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再読です。
書簡、ほとんどが手紙で一篇のみ様々な公文書で構成された短編集。一応連作短編集という形を取ってはいますが、これは短編集と言ったほうが正しいのではないかと思います。 あらゆるテクニックを駆使して手紙のやり取りを巧みに反転させたり、どんでん返しを成立させたりして、涙ぐましいまでの作者の苦労が心に沁みます。しかし、あっと驚くようなオチも中にはありますが、大抵は唸るほどのものではないですね。アイディアとしては良かったものの、見事に大成功というわけにはいかなかったようです。 一番の読みどころはやはりエピローグ。それまでの主な登場人物18人が一堂に会します。しかも特殊な状況下で。さらに最後の後日談がいわゆる解決編になっており、これはなかなか気が利いていると思います。まあ複雑なものではありませんが。 なんだかんだ言ってもそれなりに楽しめましたが、7点をつけるのには躊躇せざるを得ない感じですかねえ。 |
No.739 | 8点 | 折れた竜骨- 米澤穂信 | 2017/05/27 21:50 |
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どこからどこまでも至れり尽くせり、何から何まで良く出来たファンタジーです。ファンタジーなのは間違いないですが、それはあくまで方便としての設定であって、本質はやはり本格ミステリなのだと思います。ですから読者は前半は少々退屈でもじっくり読み込まなければなりません。そうしないと最後に儀式(セレモニー)という名の謎解きの場に臨んだ時、心底納得できないかもしれません。
登場人物には魅力的な個性を持った様々な肩書のキャラクターが多数現れ、名前を覚えるのに多少苦労しますが、中世ヨーロッパの異世界の雰囲気を味わえます。また、冒険小説としての一面もどうせなら楽しんでしまう余裕もほしいものです。 特殊な条件下での殺人事件と人間消失事件。どちらも特異設定が生きてきますが、決してそれが謎解きの邪魔をしていないところが、うまくミステリとファンタジーが融合していると言われる所以だと思います。 結論は、さすがに今を時めく人気作家の代表作であり、更には日本推理作家協会賞受賞も納得の傑作ということになるでしょうか。 |
No.738 | 7点 | ぼくのメジャースプーン- 辻村深月 | 2017/05/20 22:27 |
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幼馴染みのふみちゃんはクラスの人気者。特定の親友はいなくても、みんなから信頼されている。頭もよくて運動もできる。そんな彼女をある陰惨な事件が襲う。それ以来ふみちゃんは誰にも心を開かず、喋らない、笑わない、と無反応になってしまう。
彼女を救えるのは「ぼく」しかいない。ぼくと犯人を巡る七日間の戦いが始まる。 まさかこの作品で、何度も涙を流すことになろうとは思いもよりませんでした。まだ私にもピュアな心が残っていたのかと。汚れきった大人の世界に塗れて、自分の心も荒んでしまっているものと思っていましたが、どうやら純粋な部分もあるのだと気づかされました。 これは小学四年生の「ぼく」目線で描かれた、特殊能力を持ったために戦わざるを得なかった少年の物語です。子供が主人公なので文体は優しいですが、様々な事件や出来事を真正面から描き切った傑作だと思います。いろんな意味で「逃げ」に走らない姿勢は作者として立派です。当然少年の心理描写は鋭く、知らず知らず感情移入させられてしまいます。 「馬鹿ですね。責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです」 ある人物の作中での言葉ですが、これが本作のテーマというか本質を突いているのかもしれません。 |
No.737 | 6点 | 双孔堂の殺人~Double Torus~- 周木律 | 2017/05/16 22:22 |
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前作が7点に近い6点だったの対し、本作はそれよりやや落ちる感じは否めません。
早い段階で密室殺人が起こり、テンポよく話が進むので相変わらず読みやすく、好感触。しかも探偵の十和田が自首するという意外な展開で、どうストーリーを進行していくのか興味が持てます。 あとがきにもあるように、数学に関する衒学趣味が横溢しているのは意見の分かれるところかもしれません。確かに我々素人にはさっぱり理解が追い付かず、退屈を強いられます。まあ我慢できないほどのボリュームではないので、一つのアクセントと考えれば許容できるのではないかと思いますが。 さらには名探偵不在の中での地味な捜査、というか調査が延々と続くので、その意味でも冗長さをどうしても感じてしまいます。 しかし、いかにもな本格ミステリの「雰囲気」は十分に味わえます。どうやら作者は作品ごとに工夫を凝らし、新たなトリックを提供しようとしているようで、その姿勢は大いに買えます。作風は変えず、新たなアイディア(建造物)を加えながら、新風を吹き込もうという意欲は称賛すべきものだと思います。 |
No.736 | 8点 | 最後の医者は桜を見上げて君を想う- 二宮敦人 | 2017/05/12 21:58 |
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武蔵野七十字病院副院長で天才的な外科医、福原雅和。彼は患者の命を救うことに情熱を燃やす熱血漢であり、院長の父を持つ。
同じく武蔵野七十字病院の皮膚科に勤務する桐子修司。彼は「死神」と呼ばれ、患者には死を選ぶ権利があるとの信念の持ち主。 神経内科に勤める音山晴夫は穏健派で、犬猿の仲である福原と桐子の仲を取り持ち、七十字病院の未来を三人で切り開いていくという理想を持っている。 彼ら三人が難病と闘う患者と共に、それぞれの立場から患者を救おうと必死になって医師としての使命を果たそうとする物語です。そして第三章ではミステリ的手法を用いており、ついにある人物が運命の病に罹ってしまい・・・。 一読後、この作者は完全に一皮むけて、更なる飛躍を遂げたのだと確信しました。今後は人気作家の仲間入りを果たしそうな予感がします。 本作は医療ドラマを描いた入魂の傑作であり、本屋大賞にノミネートされてもおかしくなかったくらいの、実に立派で素晴らしい作品だと思います。医師、患者本人は勿論、その家族や友人も含めて、過不足なくよく描き込まれており、各シチュエーションで、誰がどんな心理状態なのかが非常によく伝わってきます。 すでに11万部突破のヒットとなっている本作、ミステリではありませんが、敢えて書評したのは一人でも多くの人に読んでいただきたい一心からです。 |
No.735 | 6点 | カササギの計略- 才羽楽 | 2017/05/07 21:58 |
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終盤までは正真正銘の恋愛小説です。恋愛ミステリとも違います。いったいこの小説のどの辺りがミステリなのかしらと、終始疑問を抱きながら読み進めましたが、終盤でやられました。計略とはよく言ったもので、まさしくある策略というか、陰謀といえば大げさでしょうか、そういった黒い影が突如差し込みます。
まあしかしながら、道中はとても読み心地のよい流れるような文章で、しかも何気ない仕草や細かな情景、背景などにも神経が行き届いており、非常に手慣れた書き手との印象を受けます。 ベビーカーに人形を乗せて歩く「ベビーさん」やアパートのドアの前で遅くまで母親を待ち続ける少年のサイドストーリーなども単なるエピソードとしてではなく、しっかりと描き切っています。この辺りも高評価ですね。 ただ、先述のようにある計略が裏では進行しているわけですが、私には少々納得のいかない点があったのが、どうもすっきりしない後味となってしこりのように残り続けています。そこが感動の名作、涙なくして読めないというわけにはいかないところなのです。期待通りの展開にならないからと言って、作者を責めることはできませんが、やはり想像の斜め上を行くのも一概に意外性があってよろしいとは言いがたいってことでしょうかね。 |
No.734 | 5点 | 密室の鎮魂歌- 岸田るり子 | 2017/05/04 22:14 |
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過去現在含めて四件もの密室事件が起こる、豪華?な一冊です。が、いささかタイトル負けしていますね。いえ、個人的な感想ですが。
全編無味乾燥な文体で綴られる、一見複雑そうな、事件てんこ盛りな本作ですが、意外と単純な構造をしていると思います。デビュー作らしく、完成度が高くありません。京都が舞台なのですが、全然そんな感じがしないのは、情景が浮かんでこないせいなのか、まあ描写不足なのでしょう。やたら地名が出てくるだけで、土地勘がある私でも、あああの辺りか~程度にしか思えません。 最後の最後まで誰が探偵役なのか判然としないのは、逆に興味を惹かれますし、多分この人が探偵役なんだろうと思わせて被害者にするところなどは、なかなか面白いです。(すみません、ややネタバレ気味ですかね)ただ、この解決の仕方は個人的にあまり好みではないです。 密室も第一の事件は一捻りしてあり、好感が持てますが、あとはどうということのない平凡な事件です。密室は最早物理トリックのみでは物足りませんね。何か新味を感じさせるトリックや意外な動機でもない限り、密室そのものの存在意義はないと思います。 |
No.733 | 6点 | 烏に単は似合わない- 阿部智里 | 2017/04/30 22:20 |
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第十九回松本清張賞受賞作。ですが、社会派推理小説ではありません。基本はファンタジーでミステリの要素が幾分含まれている感じです。
時代はおそらく平安時代辺りだと思います。ストーリーは簡単に言うと、四人の姫が妃争いを演じるのですが、道中、陰謀あり裏切りあり丁々発止のやり取りありの、なかなか過激な女の争いです。それぞれ訳ありの事情を抱えた姫たちの中から、いったい誰が妃に選ばれるのかが、一応話の中心ですが、そんな興味を忘れるほど姫たちの裏に隠された秘密に心中を持っていかれます。 八咫烏とは三本足の大烏のことで、日本書紀に記されているとも、古代中国で瑞鳥とも言われているらしいです。この八咫烏が物語の中で重要なポイントとなっており、そこが最もファンタジーらしい部分ではあると思います。ただし、ファンタジーでありながら、それ程のスケール感を感じさせないのは、まあ物語に見合ったものなのかもしれません。 時代ファンタジーが好きな人には堪えられない逸品でしょうし、ちょっと風変わりな少女漫画ファンなどにも受けそうな気がしますね。ミステリ好きには物足りないかもしれませんし、あまり一般受けするとも思えません。 作者はまだ25歳?の才媛で、松本清張賞を受賞したのは20歳で、まだ学生だったそうです。いずれにしても今後の活躍が期待される大型新人のようです。私にはあまりピンときませんでしたが。 尚、八咫烏シリーズは累計65万部の大ヒットを記録しているそうです。あまりピンときませんが。 |
No.732 | 7点 | 時鐘館の殺人- 今邑彩 | 2017/04/26 22:53 |
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一定水準を維持した良作揃いの短編集です。
『生ける屍の殺人』は島田荘司氏に直接依頼を受け、アンソロジー『奇想の復活』に寄せられた短編です。新本格の作家をはじめ、若手のミステリ作家の競作とあって、なかなか力の入った味のある作品に仕上がっていると思いますよ。山口雅也氏の某作品とタイトルが似ていますが、全く関係ありません。ラストは好みが分かれるかもしれませんが、個人的には許容範囲内です。 表題作は凝りに凝った構成で読ませる本格ミステリです。まるで新本格のお手本のような作風ですね。ちなみに史上初?前代未聞の「読者からの挑戦状」入りです。もしかしたらこの作品は短編でありながら、今邑女史の代表作に挙げられてもおかしくはないんじゃないでしょうか。 これは作者がアマチュア時代に書いたものが元ネタらしいですが、今邑女史も考えてみればデビュー当時は本格志向の強い作家だったんですよね。その後、ホラーやサスペンスに移行していったようですが、ご存命なら更なる傑作を読めたはずなのに、本当に残念なことです。 とにかく、一読の価値ありの短編集だと思います。色々な趣向の作品が楽しめます。 |
No.731 | 7点 | かくも水深き不在- 竹本健治 | 2017/04/22 22:30 |
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ホラーあり、サスペンスあり、誘拐ありの連作短編集です。
各短編ともいかにも竹本健治らしい作品と言えると思います。竹本自身はある古い作品を意識しているらしいですが、似て非なるものに仕上がっているようです。が、ある意味ではそれを超えているかもしれません。まさに竹本にしか書けないような奇妙な味わいの異色作です。 探偵役は名脇役の精神科医・天野不巳彦。 とにかく氏の本領を発揮しているのは間違いないと思いますよ。 【ネタバレ】 多くの方の予想通り、単なる短編集ではありません。衝撃的なラストを迎えますので、覚悟が必要ですよ。多くは語れません、本当にネタバレしてしまいますので。 読むのを迷っている人はすぐに読んだ方がいいと思います。特に竹本ファンは必読ですね。 |
No.730 | 4点 | 愚者のスプーンは曲がる- 桐山徹也 | 2017/04/18 22:49 |
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まずタイトルについてですが、主人公で大学一年の瞬は超能力を無効化する超能力を持っています。ですので、彼の前ではスプーンは曲がらないはず、なのに曲がったらそれは愚者(偽者)という意味です。
上記のように、本作は多彩な超能力を持った人物が多数登場しますが、無効化によりアクションシーンは全くありません。超能力を駆使した対決のないサイキックミステリなど面白いのか?結論は面白いはずがありません。 ストーリーは、命を狙われた瞬が超能力ばかりでなくその代償をも無効化する力を有していることから命拾いし、仲間となったキイチとマキが所属する「超現象調査機構」で働くことになる。ある日事務所に血まみれの男が転がり込み、プラスティックプレートを託すとともに、「アヤカには絶対近づくな」という言葉を残し絶命する。謎の女アヤカを追い、三人の調査が始まるというもの。 文体はあくまで平板でほとんど印象に残らないです。次々と現れる超能力者たちも個性はあるものの、描き方が中途半端で誰が誰だかよく分からないといった感じで感心しません。さしたる読みどころもなく、淡々とストーリーは進行し、最後の最後でややこれは、と思うようなシーンが現れますが、それもわずかで終了。結局終始盛り上がらないまま終わってしまったという印象しか残りません。 大体、「このミス」大賞の最終選考に残らなかった作品を書籍化するというのもいかがなものかと思いますよ。正直、そこまでの価値がある作品とは言えないですね。 |
No.729 | 6点 | 眼球堂の殺人~The Book~- 周木律 | 2017/04/15 22:17 |
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長尺が気にならない、平易な文体でスムースに読み進めることができ、ストレスフリーな読書となりましたが。早い段階でこの異様な建造物のトリックには気づきます。これはおそらく誰もがそうなのではないかと思います。第一の殺人?のトリックも過去に前例がありますので、勘の良い読者には早々に見破られる可能性が高いでしょう。
登場人物のほとんどが天才という割には、それらしい人はいません。むしろごく普通の人の印象が強く、あまり場全体がいきり立ったような雰囲気にはなっていません。これは作者の計算通りかもしれません、言ってみればありきたりな館ミステリに落ち着いているのではないかと思います。 意外性はないものの、堅実なストーリー展開や眼球堂のスケールの大きさには好印象を受けました。作者の静かなる意気込みのようなものを肌で感じることができますね。ただし、動機に関しては?な部分もありました。 【ネタバレ】 意外性はないと書きましたが、実はエピローグでとんでもない真相が明らかになります。これにはやられたと素直に思わずにはいられませんでした。 ここに至り、1点加点しようかと考えましたが、やはりトリックの目新しさがないため、この点数が妥当かという結論に達しました。 |
No.728 | 6点 | スマホを落としただけなのに- 志駕晃 | 2017/04/10 22:12 |
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まず最初に書いておきたいのは、解説に関して。解説は五十嵐貴久氏が担当していますが、氏は本作をとんでもなく絶賛しています。そして革新的な、あるいは画期的な傑作と断言します。読者はこれを真に受けないほうが賢明だと私は思います。
構成はよくあるパターンを踏襲しており、これは過去のミステリ作品群を参考にしているのは明らかです。目新しいと言えるのは、フェイスブックからある人物を特定していく過程ですかね。それ以外は既視感ありありの使い古された手法で描かれた、むしろよくありがちな普通のサスペンスだと思います。 「志駕以前、志駕以降」というのは、あまりに過度な賞賛ではないでしょうか。本が売れれば何を書いてもいいというものでもないですよね。これではまるで志駕氏が綾辻や京極のような存在になると言っているようなもの。流石にそれはないでしょうよ。 まあしかし、それなりに面白い作品であるのは間違いないです。そこは認めますが、色んな意味でまだまだ未熟さが目立ちます。誤字が二か所、日本語の文法が間違っているのが何か所かありますし、文章も上手とは言えません。また、捜査陣の描き方が杜撰であったり、おかしな発言が見受けられたりします。 期待度マックスだっただけに、拍子抜けというか、やや残念な思いは拭えません。 |
No.727 | 6点 | 河原町ルヴォワール- 円居挽 | 2017/04/06 21:54 |
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なかなか面白かったですよ。少なくともシリーズ最終作として掉尾を飾るにふさわしい作品といえるでしょう。
『烏丸』などのように焦らすことなく、双龍会にすんなり突入するので、イライラすることもなくストレスを感じません。そこからの加速ぶりは、ややもすると目まぐるしく変化する展開についていくのがやっとという感覚を覚えるかもしれません。 果たして本当の敵は誰なのか、誰と誰が結託しているのか、そして裏ではいったい何が起こっているのかと興味は尽きません。大技小技を織り交ぜての攻防戦は、実に読みごたえがあり、第一作以来の興奮を味わえるのは間違いないと思います。よくこれだけややこしい話を考え付くものだと感心しますね。 ただシリーズを追うごとに書評数が減っているのは、いい加減同じシステムに飽きてくるからでしょうかね。 【ネタバレ】 冒頭でシリーズ中最重要人物が死亡します。これはその犯人を巡っての物語であり、意外な事実が次々と明らかになります。 反則スレスレの記述が多々ありますが、そこは大目に見るとしてほぼ全員が騙されるのではないでしょうか。 |
No.726 | 4点 | 烏丸ルヴォワール- 円居挽 | 2017/04/01 21:53 |
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とにかく双龍会に至るまでが長いです。しかもかなり退屈だし、キャラも前作と比べると個性が際立っていないですね。小手先の表現力でもってなんとか描き分けしようというのがみえみえで、それがいちいち鼻についたりします。
なんだか大仰な立役者たちが何人か登場しますが、あまり大物感が感じられず、この人そんなに偉いの?と思ってしまいます。まあ、それほど掘り下げられていないから当然ですかね。 で、ようやく待ちに待った双龍会ですが、期待したほどではなく。まったく盛り上がりません。龍師という偉そうな資格?を持っているはずの流など、これで仕事を全うできているのかと疑いたくなるほど無能さを晒したりして、高揚感が少しも味わえません。臨場感もないし、これは最早作者の力量の問題なのではないかと思ってしまいます。 取り敢えず内容に見合った長さとは言いがたいですね。もっとコンパクトにしていいと思います。採点数が少ないのも解る気がしました。 |
No.725 | 7点 | ぼくのミステリな日常- 若竹七海 | 2017/03/27 22:00 |
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再読です。
凝った構成の、創元社の伝統を踏襲した連作短編集。と言うか、もはやこれは短編集の枠を超越しているので、トータルで長編とすべきなのかもしれません。或いは変形の作中作か。 それにしても若竹七海がこの路線で本格ミステリを書き続けていたなら、今頃違った意味で人気のミステリ作家の大家になっていたのではないかと思うと、残念でなりません。 各短編はそれぞれ趣が違っており、読んでいて楽しいものではないかもしれませんが、抑揚があっていいんじゃないかと思います。よく注意して読まないと、最後の種明かしには驚かされるばかりです。小さな伏線をかき集めた「編集後記」は圧巻の騙りで、只々なるほどと唸るしかありませんでした。 とにかく本作は個人的に作者の最高傑作で、別格の扱いとなります。 蛇足ですが、ハードカバーの装丁と挿絵は誠に素晴らしい出来で、絵心のない私ですら感心してしまうほどでした。これだけでも1点プラスしたいくらいですが、7点は勿論純粋に作品の評価点ですよ。 |
No.724 | 6点 | 太陽黒点- 山田風太郎 | 2017/03/23 22:07 |
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かなりの高評価ですが、私はnukkamさんに近い感想を抱きました。最後に真相が明かされるまでは、全く青春小説そのものではないでしょうか。謎解き要素が一向に感じられません。何をどう仕掛けられているのか、それすらも隠ぺいされているため、ミステリとしての体裁が微塵もありません。
やっと終盤も終盤、あと残り何ページかというところでおもむろに事件の全貌が明らかになります。ここに至ってようやく「そうだったのか」と唖然としながら納得する感じですね。しかもその動機はいったい何なのでしょう。いや、気持ちはわかりますが、結局誰でもよかったのか、とならないですかねえ。確かに、「天下泰平、家庭の幸福、それだけじゃつまらない」このセリフが許せないのは、○○を経験した人間にしか理解できないものかも知れません。しかし、それではまるで逆恨みのようなものではありませんか。 観念的な動機・・・つまりはこれも『虚無への供物』に繋がっているのでしょうか。 傑作とは思いません、ですがミステリ分布図があるとすれば、間違いなく特異点に属する奇妙な作品とはいえるかもしれません。 |
No.723 | 6点 | 猫の時間- 柄刀一 | 2017/03/18 21:59 |
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猫好きのために編まれた短編集には違いありませんが、そこはミステリ作家が書いた作品のこと、日常の謎として広義のミステリと捉えることは決して間違いではないと思います。勿論、ミステリと断言するわけではありません。一般読者の方の多くは文芸作品として読まれると思います、それはそれで問題ないですね。
本作品集は、人間と猫が一生懸命繋がろうとする、触れ合おうとする、心を通わせようとする、そんな心温まる物語の数々です。大げさに言えば、その一つひとつに謎解きの要素が多少なりとも含まれています。 自分は犬派だから関係ないと思っている方もちょっと待っていただきたい、中には忠犬が活躍するお話もありますので、敬遠する必要はありません。 個人的には『ネコの時間』『旅するトパーズ』が好きです。また、ネタバレになりそうなので詳しくは書けませんが、最終話には作者の粋な計らいが見られ、心洗われる気分のまま読み終われると思います。 |
No.722 | 6点 | 衣更月家の一族- 深木章子 | 2017/03/16 21:42 |
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最初、短編集かと思いました。あれ?でもプロローグから始まっているから、そんなわけないかって具合で最初から躓いた感じでした。
それぞれの事件がそれなりに面白い、特に「楠原家の殺人」の発端となる宝くじの三億円が当選してしまうというくだりが、偶然過ぎるとはいえ、いかにも作り物めいていて逆にこれもアリかと思ってしまいました。作者の遊び心というか、意外な盲点を突かれたような気分ですね。 ただ、探偵の榊原が真相を暴いていくわけですが、どうにもすっきりしないです。そうだったのかっというような、思わず膝を打つみたいな衝撃がないんですよ。よく練られたプロットとトリックだとは思いますが、唸るほどではなかったと言いますか、そんなに上手くいくのかねえ、というのが正直なところです。 ですが、三件の殺人事件の関連性が全く無関係に見えるあたりの作者の手腕は認めざるを得ないでしょうね。 |