皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1835件 |
No.675 | 6点 | おやすみ人面瘡- 白井智之 | 2016/10/12 21:48 |
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白井智之の新作と聞いて黙っていられない私は、さっそく書店に出向き本書をゲットしたのである。読んでみると相変わらずの白井ワールド全開で、二十万人規模の人瘤病患者が日本中に蔓延しているという舞台設定となっている。
前二作に比べて、今回は纏まりとメリハリに欠けるきらいがあり、全体的にだらだらとした印象を受ける。だが、特殊な状況下における事件や解決にはそれなりの必然性があるので、その意味では体のいたるところに複数の人面蒼ができる病気を持つ人物が複数登場するが、その特異設定は生かされていると思う。 まあしかし、よくもこれだけ異常な物語を考えられるものだと感心させられる。さらに細かい部分まで神経が行き届いており、目立った瑕疵や矛盾は感じられない。ただ一部バカミス的な個所もあり読者を翻弄する辺りは、ご愛嬌といったところか。 エピローグではアッと驚く仕掛けも用意されていて、タイトルの意味も大いに納得できるものであった。尚、グロさは幾分抑え気味となっている。 |
No.674 | 8点 | シャーロック・ホームズの冒険- アーサー・コナン・ドイル | 2016/10/07 21:53 |
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子供の頃読んだ時は、ホームズ凄いなあとその慧眼や行動力に憧れたし、これがミステリなんだと感心したものだ。しかし今読んでみると、やはりやや落胆の思いが隠せないのだ。だが、幾人かの方が書かれているように、これが100年以上前の作品であることや、その歴史的価値を鑑みて、8点とした。もし現代の作家によるものであったなら、6点程度と個人的には考える。
ケチをつければいくらでもつけられるホームズの推理だが、その超人ぶりはあの御手洗潔すら凌駕するものである。島荘がいかにこの世界的名探偵の影響を受けたかがうかがい知れるというもの。 各短編は、サスペンスあり、日常の謎的なものあり、意外な凶器あり、教訓を得られるものありとバラエティに富んでおり、タイトル通りまさに『冒険』と呼ぶにふさわしい作品集となっている。 角川文庫版はコスパも優れており、訳も現代的で非常にこなれて読みやすいと思うので、読むならこれではないかと。 |
No.673 | 8点 | スイス時計の謎- 有栖川有栖 | 2016/10/03 21:49 |
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以前、ある知り合いの女性が有栖川有栖の国名シリーズを好んで読んでいた。曰く「面白い、読みやすい」と。私は初期の江神二郎シリーズや『マジックミラー』『46番目の密室』などは読んでいたが、国名シリーズにあまり思い入れはなかったため、そんなものかくらいにしか思っていなかったものだが、本作を読んで考えを改めた。
表題作の目から鱗が落ちるような鮮やかな解決。『あるYの悲劇』のダイイングメッセージの意外性と意表を突くがごとき発想の突飛さ。ほかの二作もそれぞれトリックに新味が感じられ、好感が持てる。 まるでまろやかなココアのような舌触り、そんな読み心地の良い短編集であった。 |
No.672 | 6点 | 貴族探偵対女探偵- 麻耶雄嵩 | 2016/09/28 22:42 |
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亡き師匠の教えを忠実に守り、真面目に事件の謎に取り組む女探偵と、相変わらずふざけた貴族探偵の対決。こうなるとやはり、女探偵に味方したくなるのが人情というもの。むしろ心の中では貴族探偵が失脚すればいいのにと思っていたりして。
しかし、貴族探偵は簡単には馬脚を現さない。その辺りが憎いところではあるのだが。 各短編はストーリーやトリックは意外と単純なのだが、それぞれ捻りが効いており、また趣の違うタイプの作品なので飽きが来ない。 最終話は使用人が登場できないので、どうなるのかと思ったが、なるほどそういう手があったかという、いかにも作者らしい作品である。思ったより気軽に楽しめる連作短編集といった印象。 |
No.671 | 8点 | Xの悲劇- エラリイ・クイーン | 2016/09/23 22:06 |
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再読です。
遠い昔、途中まで読んだが「犯人を知っていた」ため頓挫して、そのまま放置されていた一冊。このたび、ふと思い立って再読しようと決意するに至った。結果、名作の名に恥じぬ面白さで最後まで飽きることなく読めた。久しぶりにページを捲ってみて本当によかったと思えた次第である。 第一の殺人の思いもよらぬ凶器から始まり、捜査陣の心理状態やレーンの鮮やかな行動、第二第三と続く殺人など過不足なく描かれており、ラストの謎解きではまさにレーンの鋭すぎる推理が炸裂する。俯瞰的に見てもよくまとまっており、バーナビー・ロス名義でのデビュー作として、また悲劇四部作の第一作として十分に評価できる作品だと思う。 ただ、真犯人の正体がなぜ誰にも気づかれなかったのか、容疑者があまりに個性がなさすぎるなどの点が気になりはしたが。 |
No.670 | 6点 | 誰も僕を裁けない- 早坂吝 | 2016/09/17 21:52 |
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全体のプロットから細部に至るまで神経が行き届いており、上手にまとめ上げていると思う。しかも、社会派エロミステリの謳い文句は伊達ではなく、その名に恥じぬ?なかなかの完成度である。
一方、トリックに関してはいかにも安直であっと驚くような派手さはない。エロ度も抑え気味で、そちらに期待している読者はやや裏切られたように感じられるのではないだろうか。 途中までは全く関連性のなさそうな二つのストーリーが並行して進むが、これがまた上手く繋がってきて大きく肯かざるを得ない手腕は見事だ。 序盤これはキテると思うほど面白いのに、次第にトーンダウンしていく様はただただ残念な限り。終盤やや盛り返すが、やや小さく纏まってしまった感じがする。 |
No.669 | 6点 | 水族館の殺人- 青崎有吾 | 2016/09/14 22:19 |
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デビュー作に続いてガチガチの本格。でありながら、青春ミステリの側面をチラッと覗かせているところは、作者のサービス精神からなのだろうか。
被害者がサメの餌食になるというショッキングな滑り出しは瞠目させられるが、その後は論理による謎解きの連続で、ややロジックに偏りすぎな感がしないでもない。その中にもハッとするようなトリックや仕掛けが隠されているのならばメリハリも付くのだが、そうした意外性がないのはやや拍子抜けの思いが拭いきれない。勿論、論理によるアリバイ崩しから11人もの容疑者を絞っていくというのも本格ミステリの醍醐味だろうとは思うが。 なお、動機に関しては個人的には納得とまではいかないが、アリだという気がする。読後感も思ったほど悪くはなかった。 |
No.668 | 6点 | かめくん- 北野勇作 | 2016/09/05 22:27 |
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第二十二回日本SF大賞受賞作。
どこか掴みどころのない作品だが、時折まさにSFといったような表現が飛び出して驚かせたりもする。 かめくんはカメ型ヒューマノイドであり、レプリカメとも言うらしい。本作はかめくんの日常を抒情的に描いた連作短編のような作品である。かめくんが、図書館で本を借りたり、家で猫を飼ったり、倉庫でリフトに乗り働いたり、たまに、いや結構推論したり、ワープロを打って人に訴えかけたり、ある女性にほのかに好意を抱くようだったり、つまりはそういった何でもないような出来事をユーモアを交えて描かれている。だが、かめくんには持って生まれた役目があるらしいのだ。それは木星戦争に関係しているらしいのだが、正確なところは最後まで明らかにされない。 終盤、かめくんが「たねがしま」に向かい、家を出て知り合いに別れを告げる辺りはなぜか切なさが込みあげてくる思いがしたものだ。 本作はSFとしては勿論、一つの小説としても評価できる、実に味のある逸品ではないだろうか。 |
No.667 | 6点 | 聖女の毒杯- 井上真偽 | 2016/09/01 22:16 |
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雰囲気は前作とあまり変わらないが、今回はウエオロの代わりに弟子の八ツ星が終盤まで頑張っている。そのため主役の影がやや薄くなっているような気がしないでもない。さらに謎のスケールが格段に小さくなっている。どうしても毒殺というのは地味な印象が拭えないので、こうした派手ななぞかけの応酬を描こうとすると、重箱の隅をつつくような感じになってしまうよね。
まあしかし、その場で思いついた推理を次々と否定していく様は、ある種の推理合戦と言えなくもない。そのようなパズラーを所望している方にはむいているだろう。ただ、あれこれケチをつけようと思えばいくらでもできるとは言える。 |
No.666 | 5点 | さあ、地獄へ堕ちよう- 菅原和也 | 2016/08/25 22:40 |
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第三十二回横溝正史賞受賞作。
主人公は抗不安剤、鎮痛剤などを乱用する、SMバーのホステスで、彼女の周囲で猟奇殺人が連続する。どうやらある闇サイトが関係しているようなのだが。 本作はよく言えば問題作、悪く言えばグロすぎる。これに比べれば『OUT』などは子供みたいなものと思える。映画ならばR指定なんだろうけど、小説の場合はそういう縛りはないのでもちろん誰でも読める。しかし、気分が悪くなりたくない読者は避けるのが無難だろう。身体改造とかに興味がある人は試しに読んでみるのもいいかもしれないが。ちなみに、謎の中心である闇サイトの正体は最初に予想した通りだったので、ややがっかりだった。 ミステリ的要素は後半に若干みられるが、これが横溝正史賞とはねえ。この時の選考委員が誰だったか知らないが、ちょっと悪趣味じゃないのかな。しかし菅原氏のその後の活躍を考えると、まんざら的外れだったとも言えないかもしれない。 いずれにしてもアングラのダークな雰囲気は半端ない。 |
No.665 | 8点 | 女王国の城- 有栖川有栖 | 2016/08/20 22:26 |
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まず、江神が新興宗教の本部に軟禁されているのではないか?という冒頭の謎からして引き込まれる要素は十分。
序盤から中盤にかけては、多くの方が指摘されているようにテンポの悪さが目立ち、本筋とあまり関係ないと思われるエピソードがいくつか見られるのはマイナス点か。が、織田とマリアの脱出劇などの冒険シーンは個人的には読みごたえがあった。まあここは無駄に長いという意見も分からないでもないけれど。 過去から飛来した凶器の拳銃、閉ざされた聖洞、緻密に絞られる犯人像など、江神の推理は冴えわたり、全く齟齬のない解決を披瀝し読者をねじ伏せる。 ただ一点、人類協会代表の野坂公子が姿を現すことが最後の最後まで一度もなかったのが気になっていたのだが、それもエピローグを読んで深く納得したのである。なるほど、こんなところにも仕掛けというか、伏線が張られていたのかと思うと、作者の懐の深さを実感せざるを得ない。 |
No.664 | 7点 | 陽だまりの偽り- 長岡弘樹 | 2016/08/06 22:20 |
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これこそ良作揃いの短編集だと思う。スケールの大きさはないが、それぞれの主人公の心の揺れが手に取るように分かり、気の利いたささやかな反転も味わえる。
ただ、あまりにあからさまな伏線がいくつか見られ、ミエミエの展開は少々うざかったりもした。でも、丁寧な文章と救いのあるオチは心温まる印象が残る。 また、この作者は様々なハンディを背負った人物を描くのが上手いようで、憐れみを誘うのではなく、ありのままを付かず離れず描写することにより、逆に読者の関心をとらえて離さない魅力を控えめに主張しているように思う。 |
No.663 | 7点 | ブラッド・アンド・チョコレート- 菅原和也 | 2016/08/02 22:11 |
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結論から言うと、面白かったし特にトリックに関して新味と感じられる部分があり、高得点は必至かと思う。また、青春ミステリとしても見るべきところが多く、その意味でも一読の価値はあるのではないかと思われる。
前半部分で殺人は起こるが、それまで退屈することはなく、怪しげな超能力者たちが現れ、彼らは果たして本物なのかという興味を惹かれることに。その超能力研究機関という舞台がトリックを可能にする一種の装置となり、また新興宗教に近い団体として作品そのものの雰囲気づくりに一役買っているのも計算づくであろう。 ただ、全体としてストーリー展開が何となく読めてしまうので、意外性という意味では若干物足りないというか、いわゆる予定調和的になってしまっているのがややマイナス点だろうか。 |
No.662 | 5点 | 犬は書店で謎を解く- 牧野修 | 2016/07/28 22:27 |
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作品とは関係ないですが、名探偵ジャパンさんが復活されて密かに喜んでいるメルカトルです。
さて本作、冒頭でいきなり飼い犬とその主人の中身が入れ替わってしまう。そして悪かった性格が一変し、すこぶる素直で真面目に変身してしまう主人公の萩兎(中身は犬)は書店に雇われ、犬のハギト(中身は人間)とともに謎を解いていく。 タイトルから受ける印象は日常の謎以外何物でもないが、違った。事件は放火、盗撮、誘拐など多岐に亘るが、その割にとても薄味である。一応ミステリとして形にはなっているが、どこか物足りないというか、食い足りないのである。 一つなるほどと思ったのは、忠犬が人間になるとこんな感じなのか、確かに犬は人間の持つ醜さとは無縁なので、無垢で勘ぐることを知らない人間になるんだなあと。 この手の作品は最後にはまた入れ替わりが起こり、元に戻るのがお約束だが、本作はその方法もストーリーの中で自然に成され、違和感がない。後味も悪くはなかったが、まあ毒にも薬にもならない感じだったのがやや心残りだった。 |
No.661 | 7点 | 死の命題- 門前典之 | 2016/07/24 21:56 |
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雪で閉ざされた山荘というクローズド・サークルものにありがちな、前半はやや退屈で殺人が起こるまでが長い。探偵の蜘蛛手が登場するあたりから、俄然面白くなるのでそれまでは我慢が必要か。
かなり以前の作品とは言え、携帯電話はすでに普及しているはずだが、6人のうちだれも携帯していないのはやや不自然な気がする。他にも探せば不自然な描写がみられるかもしれないが、極力整合性を保とうとする姿勢などに苦心が感じられる力作だとは思う。 バカミスとの声が多いが、私は意外とそうでもないように感じる。確かに真相はそんな無茶なと思うが、それを言い出したらキリがないので。それにしても巨大カブトムシの亡霊の正体には戦慄を覚える。これほど意外な奇想はそうはお目にかかれない。よって、それだけで高得点を与えられる資格を持つものと、個人的には信じたい。 |
No.660 | 7点 | 鈴木ごっこ- 木下半太 | 2016/07/16 22:09 |
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厳密にはミステリと呼べるかどうかわからないが、骨格はそれに近い。これがとにかく面白い。
それぞれ2500万の借金を抱えた4人の男女。彼らは半強制的に一年間鈴木として生きることで、借金を帳消しにしてくれるという話に乗る。37歳の主婦、小梅(仮名)は仮の家族のために一生懸命美味しくバランスの取れた食事を作る。男たちは何をするわけでもなく、家族ごっこを続けるのだが、どういうからくりで借金が消えるのかが分からない。そこに借主からある指令が下る。 それぞれのやむにやまれぬ事情を背負った彼ら、ややもすると暗い話になりそうなところを、ユーモアやくだらないギャグで相殺している。なので、読んでいて肩が凝らない。 しかし、結末はかなりブラックである。しかも最後の最後で叙述トリックが仕掛けられていることが明かされ、二度びっくりすることになるのであった。 |
No.659 | 7点 | 屋上の道化たち- 島田荘司 | 2016/07/14 22:16 |
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さすが島田先生、群を抜くリーダビリティで一気に読ませます。
全編を覆うコミカルな雰囲気と連続墜落死という不可思議な謎の対比、それに並行するように寄り添うしがないサンタクロースのティッシュ配りの思いがけない展開、何かとついていない男の苦行。これらが混然一体となって一つの収束に向かうプロットは、島荘の本領を発揮していると私は思う。 ただ、トリックには確かに無理があるし、あまりに偶然が重なりすぎており、さすがに手放しで称賛するわけにはいかない点も多い。それも含めてのこの点数である。甘すぎるかもしれないが、往時の重厚な雰囲気の欠片も感じられないが、それでも本作にはどこか憎めないところがある気がしてならない。 作風はずいぶん変わってしまったが、御手洗だけはあの頃と変わらないのが嬉しいのである。 |
No.658 | 5点 | 桟敷童の誕- 佐々木禎子 | 2016/07/11 22:14 |
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物語は天城という青年が関口に弟子入りしたいと、関口邸に押しかけ、それを京極堂に相談するところから始まる。天城の一族は劇場をいくつも経営しており、そこには度々桟敷童という妖怪が現れると言う。「その人形は僕が祓うようなものではない」と京極堂は言うのだが・・・
正直、妖怪云々はまやかしだし、一応殺人事件は起こるのだが、これがまた地味で妖しくもなければ謎めいてもいない。真相がわかってみれば脱力感は拭えない。 では何が面白いのかといえば、京極堂、榎木津、関口、木場のそれぞれのキャラが際立っているのと、彼らの絡みが「いかにも」な感じがして懐かしさを覚えるのである。残念ながら京極堂は脇役みたいなもので、主役は榎木津であり、どちらかというと百鬼夜行シリーズよりも百器徒然袋に近いかなと思う。それにしても、こうしたパスティッシュを読むたびに本家の新作を読めない一抹の寂しさに襲われる。 |
No.657 | 7点 | ヒポクラテスの誓い- 中山七里 | 2016/07/07 22:25 |
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法医学教室での人間模様と、一見事件性がないように見える遺体を司法解剖し、そこから見えてくる真実を緻密なタッチで描いた連作短編集。佳作である。
主役は単位不足のため法医学教室に送り込まれた真琴、傲慢で我が道を行く解剖の天才光崎教授、外国人なのに日本語が堪能なキャシー准教授の三人。そこにおなじみの古手川刑事が絡んでくる。 どの短編もレベルが高く、単純に思える事件が司法解剖を行うことにより意外な事実が浮かび上がってくるところは共通している。専門用語が散見されるが、医学に詳しくない一般の読者にも比較的理解しやすいように書かれており、しかもその結末は様々な意味でのカタルシスを生み出すのだ。さらに、解剖に反対する遺族をいかに説得するかも、読みどころであり、サスペンスフルな展開となっている。 中には涙を誘うシーンなどもあり、物語は意外に起伏に富んだものが多く、読者を惹きつけて離さない魅力に溢れている。この辺りはさすがに中山氏の本領を発揮していると思われる。 |
No.656 | 5点 | クリーピー- 前川裕 | 2016/07/02 22:09 |
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怪しい隣人をはじめ、主人公の周囲に様々な事件が起こりすぎて、全体的にまとまりがなく、どこを主題としてストーリーを進めていくのかが不透明に。それぞれの事件はさして複雑ではないが、構成が巧妙とは言えずどう展開していくのか予測がつかないため、読んでいて不安定な気分になってくる。そこが作者の狙いなのかもしれないが、心地よいとはあまり思えない。これはマイナス要素ではないだろうか。
結末は意外性があって面白い。個人的には好みではあるが、そこに至るまでがやや煩雑で明快さに欠けるため、万人受けする作品とは言い難い。 |