皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2813件 |
No.11 | 5点 | チョールフォント荘の恐怖- F・W・クロフツ | 2015/08/14 14:26 |
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(ネタバレなしです) 1942年発表のフレンチシリーズ第23作となる本格派推理小説で、クロフツとしては平均点的な作品だと思います。地道な捜査が描かれているところは相変わらずですが、初登場となるロロ部長刑事に対するフレンチの指導者ぶりが読めるのが本書の特徴です。もっともこれはある程度シリーズ作品を読んだ読者でないと気づきにくい特徴かもしれません。手堅すぎて盛り上がりに乏しいストーリー展開ですが、最終章だけ妙に芝居がかっているのが良くも悪くも印象的でした。 |
No.10 | 5点 | 蜘蛛と蠅- F・W・クロフツ | 2015/03/18 10:34 |
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(ネタバレなしです) 1941年発表の本格派推理小説である本書(フレンチシリーズ第22作)ではクロフツとしては珍しくも男女のカップルが大勢登場します(関係は色々です)。もっともそれをあまり上手く活用できていないところが人物描写が苦手なクロフツらしいですね(惜しい)。終盤で読者に対してだけあるトリックが図解付きで紹介され、その後にフレンチがもう一度トリックを説明していますがトリックを見破った過程には全く触れていない説明なので推理という点では不満を残しました。アマチュア探偵の(やや危なっかしいが)頑張りが単調さを解消しているのは評価できますけど。 |
No.9 | 5点 | ギルフォードの犯罪- F・W・クロフツ | 2015/02/27 22:46 |
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(ネタバレなしです) 1935年に発表されたフレンチシリーズ第13作の本書は久しぶりに伝統的な本格派推理小説となっています。一応は企業ミステリーと言ってもいいのですが、ノーンズ商会の描写は表層的なものに留まっています。フレンチが担当するロンドンの盗難事件の方が重点的に描かれていますが、ここでのトリックを読者が推測するのは難しいでしょう(フレンチが唐突に見破っています)。殺人事件のトリックの方がまだしも読者が推理する余地がありますが、こちらは旧作の焼き直し的トリックであまり感銘できませんでした。アリバイ崩しと犯人探しの両立ができているのは長所だと思います。 |
No.8 | 5点 | 黄金の灰- F・W・クロフツ | 2014/08/29 16:14 |
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(ネタバレなしです) 1940年発表のフレンチシリーズ第20作の本書はタイトルに黄金を使っていますが豪華絢爛な場面など微塵もなく、地味なクロフツ作品の中でも屈指の地味な作品だと思います。何しろ失踪事件と出火事件がメインの謎なのですから。前者については生存が絶望視されているとはいえ、その結果がはっきりするのは終盤近くというもどかしい展開です。事件性がなかなか見えてこないためフレンチの捜査も手探り感が強いのももどかしさに拍車をかけています。第19章でフレンチが謎解きの手掛かりは全てフェアに提示されているかのような発言をして本格派好き読者の心をくすぐりますがその説明は犯行の再現に終始しているばかりでどうやってその結論を導き出したかについては説明不足な気がします。 |
No.7 | 6点 | 関税品はありませんか?- F・W・クロフツ | 2014/08/13 18:19 |
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(ネテバレなしです) 「フレンチ油田を掘りあてる」(1951年)から6年ぶりの1957年に発表されたフレンチシリーズ第29作でクロフツ(1879-1957)の遺作となりました。第一部が犯罪物語、第二部は本格派推理小説(犯人の正体は第一部で読者にオープンになっています)という古典的な倒叙推理小説です。第一部は細部まで緻密に仕上げられていますが、第二部は推理が短絡的で都合よく解決されてしまうところが少々弱いかと。でも1番印象に残ったのはフレンチを激怒させたある真相。いやあ堅実なクロフツ作品でまさかアントニイ・バークリー級の「羽目はずし」を味わうことになろうとは。本当は5点評価ぐらいなのですがこの意外性にもう1点おまけしましょう。しかし主任警視になって地方の事件にはあまりタッチしないって言っておきながら、いざ現場に行くと部下(本書ではロロ警部)に任せずほとんど自分でやってしまうフレンチって、管理職としては失格かも...(笑)。 |
No.6 | 5点 | 少年探偵ロビンの冒険- F・W・クロフツ | 2012/11/01 17:19 |
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(ネタバレなしです) お堅いイメージのクロフツが1947年に子供向けミステリー(冒険スリラー系です)を書いていたとは驚きでした。しかも既存作品のアレンジではなくオリジナル作品です。この種の作品だと土壇場まで子供たちだけで奮闘するものが多いのですが、本書ではロビンもジャックも早い段階から大人に相談して助言を仰いでいます。大人視点だと聞き分けのいい子供で結構なんですが、もう少し羽目をはずさせてもいいのでは(笑)。シリーズ探偵のフレンチも登場しますがここでは脇役です。子供向け作品でも地味で手堅いプロットなのがこの作者らしいのですが、その代わりどきどき感もあまり味わえませんでした。大人でも難解な鉄道用語がたくさん散りばめられており、鉄道ファンを育てようとするもくろみが見え隠れしているような...。 |
No.5 | 5点 | ホッグズ・バックの怪事件- F・W・クロフツ | 2012/08/14 14:45 |
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(ネタバレなしです) クロフツの作品は探偵役の行動だけでなく考えていることまで丁寧に描写しているので早い段階で犯人の見当がつきやすいのが珍しくありませんが、1933年発表のフレンチ警部シリーズ第10作となる本書では最後まで犯人の正体を隠しているだけでなく何と64個の手掛かり索引を使っての推理説明があります。とはいえこの手掛かりは大半が重箱の隅をつついたような細かい手掛かりで、そんなところまで覚えていられるわけないだろうと凡才読者の私としては抗議したくもなりましたが。それにしてもこんな失踪事件で(最終的には殺人事件に発展しますが)引っ張り出されるなんてロンドン警視庁って結構暇なのでしょうか(笑)? |
No.4 | 3点 | 二重の悲劇- F・W・クロフツ | 2011/09/25 16:41 |
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(ネタバレなしです) 1943年発表のフレンチシリーズ第24作の本書は久方ぶりの倒叙推理小説でしたが出来栄えは芳しくないように感じました。kanamoriさんのご講評の通り、犯人のアリバイトリックが非常に稚拙で古臭さを感じさせます。(倒叙なので)早い段階でトリックを紹介されたため、前半からして凡作の予感がします(笑)。誉めるとすれば犯人の予想もしない事後共犯者を登場させたのがプロット上の工夫になっていることでしょうか。フレンチもこの事件に関しては成功したとはいえないと思います(最後はめでたしめでたしなんですが)。 |
No.3 | 5点 | フレンチ警視最初の事件- F・W・クロフツ | 2011/08/23 22:07 |
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(ネタバレなしです) 1948年発表のフレンチシリーズ第27作で、フレンチが警視に昇進して最初の事件という位置づけです(英語原題は「Silence for the Murderer」)。驚いたことに全18章の物語の第9章を終えた時点で、「手掛かりは全て読者に提示されている」という「読者への挑戦状」が挿入されています。とはいえそこから解決に至るまで物語の半分がまだ残っているというのは、プロット構成としては冗長になってしまった感は否めません。犯人当てとしてはやや容易な展開ですが、ぎりぎり土壇場でどんでん返しを用意したのが一工夫になっています。 |
No.2 | 5点 | 樽- F・W・クロフツ | 2009/02/10 17:45 |
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(ネタバレなしです) 英国のF・W・クロフツ(1879-1957)ほど色々な肩書き付きで紹介される作家は少ないでしょう。「アリバイ・トリックの巨匠」、「トラベル・ミステリーの開拓者」、「リアリズム重視」、「日本の社会派に影響を与えた作家」そして「退屈派」(笑)。アガサ・クリスティーと同年に作家デビューし、本格派推理小説の書き手として認識されながらクリスティーとは作風が全く異なります。多くの作品では探偵役の行動だけでなく考えや推理も最初から読者にオープンにしているため、読者が自分で犯人を当てる楽しみが少ない上に往々にして犯人の正体が早々と予測がついてしまうところがあります(但し探偵が間違えたため意外な結果を生み出す作品もあります)。また細部まで丁寧に描写していく文章は必要なものも不要なものも何でも書いてしまうという要領の悪さの裏返しで、そのため展開が遅くて地味という印象を免れません。1920年発表の本書はクリスティーの「スタイルズの怪事件」(1920年)と共に本格派黄金時代の幕開けを飾るデビュー作という歴史的意義は認めますがクロフツ全作品の中では水準作であり代表作とは思えません。クリスティーとは全く作風が違い、クロフツは丁寧な描写とリアリズムを感じさせる重厚な捜査が特徴で、(後は好みの問題になるのですが)クリスティーのテンポいい語り口と犯人当てゲーム感覚的な楽しさの前には人気面で不利だったのは否めません。 |
No.1 | 6点 | 二つの密室- F・W・クロフツ | 2009/01/26 10:13 |
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(ネタバレなしです) 地味で退屈というのがクロフツの一般的評価だと思います。もっとも最近のミステリーは筋がすごく複雑で登場人物も多いものが珍しくないので、クロフツも相対的には読みやすく感じるようになりましたが。1932年発表のフレンチシリーズ第8作の本書はその中では読みやすく、入門編として勧められるのではと思います。捜査するフレンチの視点だけでなく事件関係者のアンの視点も絡めているのが構成の工夫になっており、家庭内悲劇を描いているのも(クロフツとしては珍しい)新鮮です。密室トリックはあまり期待すると失望すると思いますが無理なトリックに走っていないのが堅実なクロフツらしいですね(ちなみに英語原題は「Sudden Death」です)。 |