皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
|
---|---|
平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.454 | 6点 | チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン | 2014/08/28 11:35 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 発表当時はかなり激賞され、作者も出来栄えに自信を持っていたらしい1934年発表の国名シリーズ第8作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「シャム双生児の秘密」(1933年)では使わなかった「読者への挑戦状」が本書では復活しています。「あべこべ」の謎がクイーンの作品としてはかなり派手で、それと大胆なトリックが評価が高い理由でしょうね。(名無しの)被害者の素性をメインの謎の一つとして最後まで引っ張っているのも異色です(後年のパット・マガーの「被害者を探せ!」(1946年)とは趣向が異なる謎です)。一方でミステリーに読みなれている読者からは厳しく評価されることも珍しくありません。「あべこべ」にした理由は一般的な日本の読者には推理しづらい理由だし、もっと他にやり方はないのかと突っ込みを入れたいところもあるでしょう。成否の評価は別としてクイーンとしては新しい試みに取り組んだとは言えると思います。映画化もされたそうですがこれはちょっと見てみたかったですね。 |
No.453 | 5点 | 狂った殺人- フィリップ・マクドナルド | 2014/08/27 19:31 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1931年発表の本書はゲスリン大佐シリーズ番外編のスリラー小説です。ゲスリンは会話の中で1回登場するのみ、「個人より組織の仕事」ということでアーノルド・パイク警視たち警察が無差別殺人犯を追跡するプロットになりました(もっともその後のシリーズ作品ではゲスリンが組織的捜査に参加しているのですけど)。第8章や第15章では犯人絞込みのための推理をやっているのですが本書は本格派推理小説には分類できないと思います。犯人の正体をどうやって突き止めたのか全く説明されないまま解決されるので謎解きとしては不満が残ります。ちょっと記憶にないほどあっけない幕切れでした。 |
No.452 | 6点 | 骨の城- アーロン・エルキンズ | 2014/08/27 18:57 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2006年発表のギデオン・オリヴァー教授シリーズ第13作の舞台は「断崖の骨」(1985年)以来の英国。作中でギデオンがそのことを回想している場面もあります。骨が謎解きの鍵になるのは毎度のことですが本書は骨の分析、骨の捜索、また骨の分析と骨エピソードがいつにも増して多いのが特色です。そのため専門用語も多いのですが、個性的な人物たちとの軽妙な会話を巧みに混ぜて物語の流れはスムースです。作者が70歳過ぎての作品ですがその筆力は若さを失っていません。オリヴァー夫妻も相変わらずアツアツです(笑)。 |
No.451 | 6点 | 事件当夜は雨- ヒラリー・ウォー | 2014/08/27 18:26 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1961年発表のフェローズ署長シリーズ第3作でこのシリーズの特色の一つである、捜査の手詰まり感をひときわ感じさせるプロットの警察小説です。地道かつ丹念な捜査が描かれていますが容疑者を絞り込むどころか可能性が拡大するばかりで20章が終わっても五里霧中。ここを辛抱できるかどうかで読者の評価も分かれそうですね。24章での犯人逮捕はフェローズの直感による唐突な解決にしか思えませんが、謎解きとして面白くなるのは実はここからです。ネタバレしないように説明するのが難しいですが、「どちらが?」を巡ってフェローズが推理を披露し、ウィルクス部長刑事が反論し、フェローズが更なる推理でその反論を埋めていくという展開は本格派推理小説好き読者としてはたまりません。全部を読み終えて真相を把握してからもう一度27章を読むことを勧めます。 |
No.450 | 6点 | ペンション殺人事件- イェジイ・エディゲイ | 2014/08/27 17:12 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) まだ共産圏国家だった頃のポーランドのイェジィ・エディゲィ(1912-1983)は弁護士稼業のかたわら短編ミステリーなどを発表していましたが、1961年からは弁護士を辞職して作家業に専念し30作以上のミステリー作品を発表してポーランドのみならずソ連や他の東欧諸国でも人気が高かったそうです。しかしよく日本に翻訳紹介されましたね。本書は1969年の作品ですが英米の黄金時代の本格派推理小説を髣髴させる内容でとにかく謎解きに徹しています。第二次世界大戦中の戦争犯罪エピソードは時代性を感じさせますが、それもミステリーのプロットから浮き上がってません。決着のつけ方もまた黄金時代風です(リアリティー重視の現代ミステリーでは大胆過ぎて難しいでしょう)。 |
No.449 | 5点 | 名探偵ナポレオン- アーサー・アップフィールド | 2014/08/27 16:30 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 日本に初めて翻訳紹介されたシリーズ作品だからでしょうか、1953年発表のシリーズ第17作の本書は「Murder Must Wait」という英語原題を持っていますが邦題は探偵役の名前をそのまま使っています(しかしこれではフランス皇帝が活躍する歴史ミステリーと誤解されなかったでしょうか?)。大自然描写こそありませんが、スケール感のある舞台描写や原住民描写はこの作者ならでは。人物描写も細やかでクライム・クラブ版の古い翻訳も気にならないぐらい読みやすいです。乳児の連続誘拐事件を扱い、殺人犯探しより乳児発見を優先させたプロットなのが珍しいです。一応ボニー警部は誰よりも早く殺人犯の正体も見抜いたようですが、推理説明が十分でないのは残念です。 |
No.448 | 5点 | 歌麿殺人事件- 水野泰治 | 2014/08/27 15:30 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 高橋克彦の「写楽殺人事件」(1983年)に刺激を受けたかはわかりませんが、1984年発表の本書は現代の謎解きと歌麿の謎解きを扱った本格派推理小説になっています。高橋作品では写楽を芸術家として、本書では歌麿を大衆画家(通俗画家?)として描いているのが対照的です。どちらかといえば現代の謎解きに重きを置いているのは美術が苦手の私には好都合です。とはいえいきなり3人の男女の屈折した人間関係描写で始まる導入は、作品中の表現を拝借すればまさに「野卑」です。作中人物に「3、4人の男女が一緒に住んで、セックスと仕事や金銭を共有する生活は、ロシア革命直後のソ連でも流行してね、ちっとも新しくないんだよ」と語らせていますが、新しかろうがなかろうが小説題材としての魅力を感じませんでした。この屈折描写(三角関係が3組もあります)をちゃんと謎解きプロットと関連させているし、本格派推理小説の伏線の張り方は高橋より巧妙だと思いますが。 |
No.447 | 6点 | 殺人者はまだ来ない- イザベル・B・マイヤーズ | 2014/08/27 13:34 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) イザベル・B・マイヤーズ(1896-1980)は米国の女性作家で、デビュー作の本書はあのエラリー・クイーンの「ローマ帽子の秘密」(1929年)と雑誌社の賞金コンテストで競合した本格派推理小説です。雑誌社の倒産問題もあって紆余曲折あったようですが、最終的には本書が賞金を獲得して1930年に出版されました。同じ本格派といっても都会風なクイーンとはかなり作風が違うので比較はあまり意味ないかもしれませんがサスペンス豊かで人物関係が整理されていて読みやすい点では勝っています。一方でゴシック・スリラーに通じるような雰囲気は好みが分かれるでしょうし、催眠術による自白場面などは当時の作品としても古臭さかったのではないでしょうか(但しちゃんと推理説明で解決しています)。個人的には起伏に富んだストーリー展開を楽しめました。意外だったのは光文社文庫版の翻訳者が山村美紗だったこと。 |
No.446 | 5点 | 死は深い根をもつ- マイケル・ギルバート | 2014/08/27 13:20 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) ヘイズルリッグ主任警部シリーズ第5作と紹介されることもありますが、ヘイズルリッグは出番が少なく番外編というべき作品です。「ひらけ胡麻!」(1949年)でも脇役でしたが一応最後は重要な役割が与えられていたのに対し、本書では全く活躍していません。重厚な法廷スリラーとサスペンス豊かな冒険スリラーを交互に組み合わせたプロットがなかなかユニークです。拡大解釈された「密室」の謎解きもありますが推理説明が十分でなく本格派推理小説として期待してはいけないと思います。 |
No.445 | 5点 | 黒い死- アントニー・ギルバート | 2014/08/26 18:56 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1953年発表のクルック弁護士シリーズシリーズ第27作です。ハヤカワポケットブック版の古い翻訳に苦しめられますがそれでもサスペンスの効いた物語が楽しめます。でもいくら後半からの登場とはいえクルックや助手のビル・パースンズが登場人物リストに載っていないのはちょっと可哀想な仕打ち(笑)。脅迫者が怯えるというプロットがなかなか新鮮ですがやはり悪役なのでいまひとつ同情できませんね(笑)。前半をサスペンス小説、後半を本格派推理小説という作者得意の構成です。終盤の劇的な展開に読者は振り回されますが、その中にもしっかり謎解き伏線を忍ばせているのがこの作者らしく、エンディングも印象的。翻訳が古くなければもう1点加点してもよいのですが。 |
No.444 | 6点 | ボンベイの毒薬- H・R・F・キーティング | 2014/08/26 18:16 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1966年発表のゴーテ警部シリーズ第2作の本格派推理小説です。今回もゴーテ警部の捜査は彼の思うように進まず、その苦労ぶり描写がユニークな特徴となっています。もっともシリーズ前作の「パーフェクト殺人」(1964年)の場合は、特権階級の敷居の高さという非常にわかりやすい障害だったのに対して、本書ではなぜ事件関係者があれほど非協力的なのかちょっとぴんと来ませんでしたが。ゴーテ警部の人助けが思わぬ結果を生み出し、インド社会の描写と謎解きの前進に貢献しているところは巧妙なプロットだと思います。解決はあっさり気味ですが、前作よりはすっきり締め括られています。 |
No.443 | 6点 | 影をみせた女- E・S・ガードナー | 2014/08/26 18:03 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) ペリー・メイスンシリーズは法廷論争が見所の一つですが(但し中には法廷場面のない作品もあります)、特に1960年発表のシリーズ第63作である本書ではメイスンの法廷テクニックが冴えわたり、いつのまにか検事側ががんじがらめ状態になってしまうのが印象的でした。そのテクニックは法律知識に裏づけされたものですが、読者に全く難しさを感じさせない語り口が見事です。犯人当ての謎解きが脇に追いやられてしまった感もありますけれど、本書の法廷論争はこの作者にしか書けないと思いました。 |
No.442 | 8点 | 沈んだ船員- パトリシア・モイーズ | 2014/08/26 17:48 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) デビュー作の「死人はスキーをしない」(1959年)ではスキーリゾート地の美しい描写が素晴らしかったですが1961年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第2作の本書でもその卓抜な描写力は健在で、今度は帆走するヨットや港町を雰囲気豊かに描いて見事に海洋本格派推理小説の傑作になりました。もちろん人物描写も秀逸です。最初の死亡事件が事故死扱いのため、すぐヘンリによる犯人探しというわけにいかず、手探り状態の前半はややじりじりしますが後半はサスペンスがじわじわと盛り上がります。なぜ犯行に至ったかという動機が印象的で、最終章でヘンリがコメントした「悲劇的な皮肉」という表現がぴったりはまってます。 |
No.441 | 5点 | 息子殺し- ロイ・ウィンザー | 2014/08/26 16:35 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1976年発表のアイラ・コブシリーズ第2作の本格派推理小説で、舞台が前作のナンタケット島からニューヨークへ移ってます。英語原題が「Three Motives for Murder」(「三つの殺人動機)とあるように、犯人当て小説でありますが動機の謎解きにかなりのページを費やしています。ただ動機というのは理詰めで絞り込むのが難しく、コブの推理は間違いとは思わないまでも絶対にそれしか考えられないというだけの説得力はないように感じます。心理描写ではシリーズ前作の「死体が歩いた」(1974年)から進歩が見られます。 |
No.440 | 5点 | 虎の首- ポール・アルテ | 2014/08/26 16:21 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1991年発表のツイスト博士シリーズ第5作はアガサ・クリスティーの作品を髣髴させるようなヴィレッジ・ミステリーの雰囲気にアルテならではの猟奇的犯罪や密室殺人事件をからめた本格派推理小説です。魅力的な謎をたっぷり詰め込んだ展開は安定した面白さがありますが、最終章でツイスト博士が解き明かした「運命の悪戯」は美しく着地した謎解きとは言い難いように思います。 |
No.439 | 7点 | 逃げる幻- ヘレン・マクロイ | 2014/08/26 14:27 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) スコッドランドを舞台にしてさりげなく自然描写を織り込んでいます。やっぱりこの地は霧が似合いますね。ここも第二次世界大戦と無縁でなかったのはジョン・ディクスン・カーの「連続殺人事件」(1941年)を読んだ読者なら先刻ご承知でしょうけど、1945年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第7作の本書もまた時代性を強く感じさせる本格派推理小説です。謎解き伏線も豊富ですが専門知識を求めるものが多いのがちょっと弱点でしょうか。でもこれだけ丁寧に真相説明されるとそれさえ大きな弱点には感じませんでしたが。 |
No.438 | 4点 | 失楽の街- 篠田真由美 | 2014/08/25 13:20 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 2004年発表の桜井京介シリーズ第10作で作者がシリーズ最大の異色作と評価した作品です。確かに風変わりなプロットで、連続爆弾事件を扱い犯人グループの直接描写が何度も挿入されています。ハードボイルド小説向きの犯罪ですが、この作者ならではの繊細な心理描写はハードボイルドのドライな雰囲気とも異質に感じます。相変わらず桜井京介はやる気を見せず(笑)、本格派推理小説的な謎解き要素は希薄です。世間が騒然となる事件なのにパニック描写はなくサスペンスはゆっくりと醸成されます。あと本筋とは関係ないのですが蒼と香澄の名前が入り乱れる場面は過去のシリーズ作品を読んでいない読者はわけがわからないと思います。 |
No.437 | 5点 | 停まった足音- A・フィールディング | 2014/08/22 18:08 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) ポインター主任警部シリーズを中心に20作以上の本格派推理小説を書いた英国女性作家A・フィールディング(1884-没年不詳)の代表作とされるシリーズ第3作です。本国の出版は1926年ですが日本でも早くから注目されていたらしく1930年代から翻訳出版が計画されては頓挫を繰り返し、ようやく21世紀になって日本語版が読めるようになりました。なるほど最後の劇的な場面は印象的で、これが代表作と言われる所以でしょう。しかしそこに至るまでのポインターの丹念で地道な捜査が延々と続く展開は盛り上がりに欠けます。同時代のF・W・クロフツが好きな読者なら気に入るかもしれませんが。 |
No.436 | 5点 | 南海の金鈴- ロバート・ファン・ヒューリック | 2014/08/22 17:51 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 1966年発表のディー判事シリーズ第12作です。本書の後もファン・ヒューリックはこのシリーズを書き続けますが作中時代としてはディー判事最後の事件を扱ったミステリーです。本格派推理小説の要素はほとんどなく、政治スリラー風な要素が濃い異色の作品です。中盤までは2人の副官の活躍が主体でディー判事の出番が少ないのが不満でしたが後半になるとまさに真打ち登場といった劇的場面が待っています。なぜディー判事が探偵活動をやめてしまうかについてよく考えられた理由が用意されており、シリーズ最終作にふさわしい幕切れになっています。 |
No.435 | 5点 | 或る豪邸主の死- J・J・コニントン | 2014/08/22 16:15 |
---|---|---|---|
(ネタバレなしです) 大学教授で数学者でもあった英国のJ・J・コニントン(1880-1947)の1926年発表のデビュー作です(シリーズ探偵は登場しません)。冒頭で読者に対するフェア・プレーを宣言していることがあのエラリー・クイーンに先駆けた「読者への挑戦状」であると評価されています。サンダーステッド大佐が謎解きに挑戦する本格派推理小説ですがやたらと悩んだりとまどったりしている上に、ある容疑者には犯人であってほしくないと肩入れしたりと、まともな探偵役ではありません。しかし同時代のアントニイ・バークリーのように思い切って羽目を外すところまでは踏み切れず、ユーモア路線ともシリアス路線ともつかない中途半端なところに留まったような気がします。「殺人光線発射装置」なる物が登場して驚きますが、SFミステリーではありません。淡々とした筋運びながら謎解きは意外と複雑です。 |