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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2849件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.489 6点 三人の中の一人- S=A・ステーマン 2014/09/02 18:20
(ネタバレなしです) 1932年発表のウェンズ氏シリーズの第4作の本格派推理小説です。ステーマンの作品は仕上げの粗さが気になることが多いのですが、本書は結構手堅く緻密に作られています。ヴァン・ダインの「ベンスン殺人事件」(1926年)を強く意識した作品で、それを読んでいるかいないかで本書の面白さも変わると思います(読んでいなくてもそれなりには楽しめます)。島田荘司を髣髴させるような奇抜な設定も印象的ですし、アガサ・クリスティーの某作品を先取りしたアイデアにも驚きました。

No.488 6点 エレナのために- エリザベス・ジョージ 2014/09/02 18:05
(ネタバレなしです) 1992年発表のシリーズ第5作の本格派推理小説で、シリーズレギュラーキャラクター間の人間関係が整理されて本書は本業である捜査と推理にかなりのページを割いています(もちろんそれまでのシリーズ作品の面白さを否定するつもりはありませんが)。ジョージの作品では被害者は早々と殺され、その人の個性はリンリーの捜査によって浮かび上がるというパターンが多いのですが本書もその典型で、被害者エレナと彼女を取り巻く複雑な環境が徐々に明らかになる展開は読み応えがあります。謎解きも悪くありませんが、それ以上に結末で描かれているドラマが何とも言えない余韻を残します。

No.487 6点 百年祭の殺人- マックス・アフォード 2014/09/02 17:34
(ネタバレなしです) ラジオドラマの方が本業で、数学者ジェフリー・ブラックバーンを名探偵役にしたラジオドラマが600作を越えるのに対して推理小説の方は非常に数が少なく、10作にも満たない作品を残したに過ぎないオーストラリアのマックス・アフォード(1906-1954)が1936年に発表したミステリー小説デビュー作が本書です。密室や猟奇的な殺人といった派手な設定の割には演出は抑制されており、複雑な事件背景を丁寧な推理で説明することに力を入れています。論創社版の巻末解説では「クレイトン・ロースンとエラリー・クイーンの魅力を併せ持つ作家」と評価していますが、奇術的でアクロバティックなトリックの多いロースン作品に比べると本書はトリックに無理がなく(但しサプライズもありませんが)、論理性重視の本格派推理小説になっています。生々しい残酷表現を全く使っていないところは個人的には歓迎ですが人物描写や舞台描写もほとんど配慮されておらず、プロットが淡白過ぎて小説としての面白みに欠けるのは弱点です。

No.486 6点 クロエへの挽歌- マージェリー・アリンガム 2014/09/02 17:15
(ネタバレなしです) アリンガムの本格派推理小説としては1937年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第8作となる本書が最もお勧めです。miniさんの講評通り、「屍衣の流行」(1938年)は優れたトリックが印象的ですがプロットが冗長に感じるところがあり、個人的には本書の方が好みです。キャンピオンの描写に特徴があり、ある登場人物をひっぱたきたい衝動にかられたり、ある女性の魅力の虜になったりと結構情緒不安定です(笑)。それだけでなく探偵としてはやる気がいまひとつなく(笑)、普通の推理小説とは物語のリズムが異なるところもありますが最後はどんでん返しが印象的な真相が待っています。

No.485 6点 不変の神の事件- ルーファス・キング 2014/09/02 15:57
(ネタバレなしです) 全11作のヴァルクール警部補シリーズが発表されたのは1929年から1939年にかけて、全12作のヴァン・ダインのファイロ・ヴァンスシリーズは1926年から1939年にかけて発表されています。どちらも映画化されるほどの人気を博したそうですが両者がライバル関係だったのかというと微妙かもしれません。キングはヴァン・ダインほどには本格派推理小説のスタイルにはこだわらず、良くも悪くも通俗的です。1936年発表のヴァルク-ル警部補シリーズ第9作の本書は犯罪小説と本格派推理小説のジャンルミックス型なのがユニークです。最後は謎解きで着地しているのですが中盤までは復讐を果たした家族とそれを追跡する警察との間に繰り広げられる追跡劇の展開を見せます。追う警察が迫力不足のためサスペンスがいまひとつ盛り上がらないのが惜しいところですが退屈はしません。

No.484 6点 巡礼者パズル- パトリック・クェンティン 2014/09/02 15:13
(ネタバレなしです) 1947年発表のダルース夫妻シリーズ第6作の本書はダルース夫妻を含めてわずか6人の主要登場人物の複雑な人間関係を描いており、(論創社版の巻末解説でも紹介されていますが)同時期に書かれたエラリー・クイーンの「災厄の町」(1942年)や「十日間の不思議」(1948年)に通じるところがあります。クイーンと大きく異なるのはメキシコを舞台にしたからでしょうか、異様な熱気のようなものが全編を支配しており息苦しいほどです。これだけ乱れた人間関係を官能描写を一切使わずに表現する手腕はお見事で、本格派推理小説としての犯人当て謎解きもありますが、この人間関係をどう収束させるのかという興味で最後まで引っ張ります。

No.483 6点 ハーバード大学殺人事件- ティモシー・フラー 2014/09/02 14:43
(ネタバレなしです) 米国のティモシー・フラー(1914-1971)がまだハーバード大学に在籍中の1936年に発表したデビュー作でジュピター・ジョーンズシリーズ第1作の本格派推理小説です。ユーモアを混ぜたテンポのいい文章とすっきりした構成でとても読みやすく、いい意味での「若さ」を感じさせます。ジュピター(ちなみに本名はエドマンド)と警察があまりにも都合よく協力関係を結んでいるのは不自然と言えなくもないけど(でも競争意識もあります)、鮮やかなどんでん返しの謎解きが楽しめます。ただ気軽で軽妙な作品なので青弓社版の巻末解説の「文学的な事件」という大げさな持ち上げ方には少々抵抗を感じますが。

No.482 4点 100%アリバイ- クリストファー・ブッシュ 2014/09/02 14:29
(ネタバレなしです) 1934年発表のルドウィック・トラヴァースシリーズ第11作の本書は「完全殺人事件」(1929年)に匹敵するほど強気のタイトルが印象的な本格派推理小説です(笑)。アリバイトリックはそれほど記憶に残るものではありませんが(「のどを切られた死体」(1932年)や「チューダー女王の事件」(1938年)のトリックの方が印象的でした)、本書の最大の特色は当時としては珍しいもやもや感の残る結末のつけ方でしょう。一般受けするかというと多分受けないような気がしますが...。ハヤカワポケットブック版は半世紀以上前の古い翻訳なので読みにくさは相当のものです。

No.481 5点 角のあるライオン- ブライアン・フリン 2014/09/02 13:09
(ネタバレなしです) 英国のブライアン・フリン(1885ー没年不詳)は文献によれば1920年代後半から1950年代後半にかけてアントニー・バサーストを探偵役にした本格派推理小説を50作以上も書いた多作家で、その作風は通俗スリラーの色合いが濃く、トリックは豊富ですが出来不出来にバラツキがあるようです。1933年発表のシリーズ第13作となる本書は序盤でいきなり三重殺人事件が発生、しかも傷だらけの毒殺死体あり密室殺人事件ありという派手な幕開けが通俗スリラー風ですがその後の展開はむしろ地味で、それほど大風呂敷を広げません。密室トリックは小粒なトリックでしかも必要性に疑問を感じますが、バカトリックというほど羽目を外したものでもありません。謎解きはそれほど論理的に解決されてはいませんがミスディレクションの巧さが光ります。ちなみに本書はエラリー・クイーン編集による雑誌「ミステリ・リーグ」の復刻版(論創社)で読むことが出来ます。

No.480 5点 不思議なミッキー・フィン- エリオット・ポール 2014/09/02 11:32
(ネタバレなしです) 米国のエリオット・ポール(1891-1958)は第一次大戦に従軍した後、フランスやスペインに住んでいました。第二次大戦が勃発すると米国に戻ってホーマー・エヴァンズシリーズを書くようになりますが、その初期作品は思い出の地フランスを舞台にしています。本書は1939年発表のシリーズ第1作です。ユーモアあふれる本格派推理小説を書いていると紹介されたので同時代のクレイグ・ライスをイメージしていましたが、ユーモアどころかスラプスティック(どなばた劇)と表現した方がいい作風は確かに共通するところがあります。ただライスの場合は登場人物が何をしたいのかを整理しているので(そう思う通りにはいかないのですが)物語の流れがスムースなのですが、ポールの場合は何をしたいのかよくわからないまま話がどんどん進むようなところがあって微妙に読みにくく感じます。様々な国籍の人物が登場していますが、同じ人物が色々な名前で呼ばれるのも混乱の原因です。最後はホーマー・エヴァンズによる謎解き説明がありますが冒険スリラー色が濃く、私は(作風は違いますが)マイケル・イネスの冒険スリラー「アララテのアプルビイ」(1941年)を連想しました。

No.479 5点 技師は数字を愛しすぎた- ボアロー&ナルスジャック 2014/09/02 10:56
(ネタバレなしです) 本格派推理小説家のピエール・ボワロ(1906-1989)とサスペンス小説家のトーマ・ナルスジャック(1908-1998)が合作を開始したのが1951年、どのように取り決めたかはわかりませんがこのコンビによる作品は恐怖描写を特徴とするサスペンス小説だったので、その種の作品が苦手な私は1冊も読んでいませんでしたが1958年発表の本書は例外的な本格派推理小説ということで読んでみました。殺人現場(核研究施設)から犯人と共に核燃料チューブが消えたという事件を扱っていますが、核燃料盗難による不安描写はそれほど強調されず、謎解きを前面に出したプロットになっています。不可能犯罪トリックはジョン・ディクスン・カーの某作品と似ており、まあそれだけで弱点とまでは思いませんが推理説明があまり上手くないのは(特に第2の事件の説明)残念です。私の理解力が弱いというのもありますけど。

No.478 5点 経済学殺人事件- マーシャル・ジェボンズ 2014/09/02 10:46
(ネタバレなしです) この作者の正体は2人の米国人大学教授による合作ペンネームで、マーシャルもジェボンズも実在の著名な経済学者の名前から採ったとか。あちこちの場面で経済学が講釈されていますがそれほど専門用語を乱発しているわけではなく素人にも比較的わかりやすいです。経済学が推理を助けるというなかなかユニークな本格派推理小説ですが、動機がわかれば犯人決定という結論はかなり強引、説得力ある手掛かりが欲しかったですね。ちなみに本書の米国原書は「The Massachusetts Institute of Technology」という、ミステリーとは関係なさそうなところから出版されていて、ミステリーでありながら教育目的も併せもつ作品のようです。

No.477 5点 証拠は語る- マイケル・イネス 2014/09/01 17:26
(ネタバレなしです) 1943年発表のアプルビイシリーズ第9作でデビュー作の「学長の死」(1937年)と同じく大学を舞台にした本格派推理小説なんですが、良くも悪くも書き方が慎重だったシリーズ第1作と比べると本書はエキセントリックな登場人物による尋常でない会話と相変わらずのお堅い教養ネタの不思議な組み合わせという、ファルス本格派と称されたイネスらしい作品と言えるでしょう。ただ少々やりすぎな感もあってストーリーの流れが悪くなってしまったように思います。単に凶器の珍しさに留まらない隕石の扱い方など謎解き自体は悪くないだけに惜しい気がします。まあそれがイネスの個性でもあるのですが。

No.476 8点 不吉な休暇- ジェニファー・ロウ 2014/09/01 16:26
(ネタバレなしです) リンの谷のローワンシリーズやデルトラ・クエストシリーズなどのファンタジー小説を書いたエミリー・ロッダ(1948年生まれ)というペンネームの方がおそらく有名なオーストラリアの女性作家による1988年発表のデビュー作で、大富豪の娘で鋭い頭脳を持ち、弁護士の資格まで持っていながら見すぼらしい身なりをして冴えない容姿の(但し不美人ではないらしい)ヴェリティ・バードウッドを名探偵役にした本格派推理小説のシリーズ第1作です。ほとんど手掛かりらしい手掛かりのないプロットかと思って読んでいたら、実はあちこちに伏線が張ってあったという作者のテクニックに脱帽しました。探偵役の推理の鮮やかさとどんでん返しの連続を本格派ファンとして大いに堪能できました。

No.475 6点 夜の人- ベルンハルト・ボルゲ 2014/09/01 15:10
(ネタバレなしです) ノルウェーの詩人アンドレ・ビェルケ(1918-1985)がベルンハルト・ボルゲ名義で1941年に発表した、精神分析医のカイ・ブッゲを探偵役にしたミステリーデビュー作の本格派推理小説です。心理分析を謎解きに織り込んでいるのが特徴ですが、先輩格にあたるヴァン・ダインの名探偵ファイロ・ヴァンスのことを「俗流心理学の産物」と切って捨てたりして二番煎じではないことを強調しています。それほど専門用語の披露には走らずに洗練された語り口のプロットになっています。途中までは良くも悪くも普通の本格派の雰囲気ですが終盤には予測もしない衝撃が待っていました。これは書きようによってはサイコ・スリラーに化けてたかもしれませんね。ノルウエーミステリーの傑作として今でも名高いシリーズ第2作も翻訳紹介してほしいものです。

No.474 5点 高慢と偏見、そして殺人- P・D・ジェイムズ 2014/08/31 23:53
(ネタバレなしです) 2011年発表の本書がP・D・ジェイムズ(1920-2014)の最後の作品になりました。作者が90歳を過ぎての作品ということも驚きですが、内容がジェーン・オースティンの「高慢と偏見」(1813年)の続編であったことに驚かされました。「高慢と偏見」を読んでなくてもある程度の粗筋は作中で紹介されていますので問題はありませんが、やはり事前に読んでおいた方がどれだけジェイムズがオースティンの作風に近づいているかを楽しめたでしょう(私はオースティン作品を未読なのでできませんでした)。人物や舞台そして時代性の丁寧な描写はさすがですが、犯人が誰かという謎解きよりもある家族問題とその結末の方に重点を置いた物語になっています。これをミステリーと純文学の高度な融合と評価するか、どっちつかずの中途半端な作品と評価するか微妙です。ミステリーばかり読んでいる俗物の私にはミステリーとしては薄味な作品に映りましたが。

No.473 6点 眠りをむさぼりすぎた男- クレイグ・ライス 2014/08/31 14:06
(ネタバレなしです) マイケル・ヴェニング名義で1942年に発表された本格派推理小説です。ヒッチコックの映画版でも有名なジャック・トレバー・ストーリィの「ハリーの災難」(1949年)に影響を与えたかと思うようなユニークなプロットが印象的です。不安を抱えたまま何事もなかったかのように振舞う登場人物描写がじわじわとサスペンスを盛り上げ、どこで破局点を迎えるのか読者をはらはらさせます。謎解きは読者には知らされず探偵役だけが事前に承知していた伏線があって、通常は作品の弱点になるのですが本書は例外で、この技巧的なプロットでは仕方ないと弁護します。

No.472 8点 フォークランド館の殺人- ケイト・ロス 2014/08/31 13:54
(ネタバレなしです) 1995年発表のジュリアン・ケストレルシリーズ第3作で、何かが凄いというのではないのですが、物語と謎解きのバランスが非常にすばらしい本格派推理小説です。トリックや手掛かりといった個別ポイントでは高くなくとも総合ポイントでは高く評価できます。人物描写も米国作家とは思えぬほど(失礼)きめ細かいです。最後の2章で描かれた、二つの後日談の対照が強く印象に残ります

No.471 4点 蛹たちは校庭で- 釣巻礼公 2014/08/31 13:26
(ネタバレなしです) 電機メーカーで技術系社員として20年以上勤務した釣巻礼公(1951年生まれ)の1996年発表の長編デビュー作ですが理系要素は全くなく、子供から大人への過渡期である中学生を主人公にした青春小説要素を含む本格派推理小説です。リアルな人物描写とまでは思わないまでも多感な性格描写はそれなりの出来栄えだと思います。残念ながら謎解きには不満点があります。将棋のパズルは事件の謎解きに関係あったのかよくわかりませんでした。まあそれは私の理解力不足もあると思うし、まだ大きな問題点ではありません。(個人的に)大いに不満なのが第5図から第6図への変化。視点を変えるのはいいのですけど、「描きなおし」は感心できません。証拠に手を加えるのがありならいくらだって作者都合で好き勝手な解決を創り出すことができ、読者に対してアンフェアな謎解きの印象を与えてしまいます。

No.470 6点 跡形なく沈む- D・M・ディヴァイン 2014/08/29 17:38
(ネタバレなしです) 「三本の緑の小壜」(1972年)から久しぶりの1978年に発表された本書がディヴァインの生前に発表された最後の本格派推理小説となりました。創元推理文庫版の巻末解説で指摘されているように謎解きの完成度は(ディヴァインとしては)粗削りと思いますが、多彩な人物描写と彼らが織り成すドラマで読ませます。ルース、ケン、ジュディ、そしてハリー(部長刑事)と視点が何度も切り替わります。後半登場の脇役ながら実は安楽椅子探偵的な役割を果たしている女性の存在感も印象的です。この人に全部の謎解き説明をさせていれば一本芯の通った謎解きになったと思いますが。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2849件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)