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[ 本格 ]
棺のない死体
グレート・マーリニ
クレイトン・ロースン 出版月: 1959年01月 平均: 6.25点 書評数: 4件

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創元社
1959年01月

東京創元社
1961年05月

No.4 7点 人並由真 2020/06/03 16:57
(ネタバレなし)
「ぼく」こと「ニューヨーク・イブニング・プレス」の若手新聞記者ロス・ハートは、アメリカの軍需工業界の大物ダドリ・T・ウルフを取材し、その一人娘ケースリン(ケイ)と恋仲になった。娘と若造記者の恋愛を認めないウルフは自宅に来たロスを追い返すが、その夜、ウルフの邸宅に謎の怪紳士「スミス」が来訪し、何らかのネタでウルフを脅迫する。激昂したウルフはスミスを過失で死なせてしまい、邸宅に来ていた医学博士シドニイ・ハガートや秘書のアルバート・ダニングに協力させてその死体を森の中に埋めた。だが間もなく、ウルフ邸のなかにそのスミスのものと思われる幽霊? が出没。やがて起きた殺人は、その幽霊の実態「死なない男」の仕業なのか?

 1942年のアメリカ作品。
 ロースンの短編は邦訳されたものはショートショートを含めて全部読んでるハズだが、長編を読むのは実はこれが初めて。だってロースンの長編って「ややこしい」「筋が込み入ってわかりにくい」とか、思わず二の足を踏んでしまうような悪評ばっかなんだもの。
 というわけで本来ならマーリニー(本書ではこの名前で日本語表記)の長編第一弾『帽子から飛び出した死』から入るべきなんだろうけれど、一番外連味が強そうに思えたコレを最初に。不死の男の殺人!? 聞くからに王道で面白そうでないの(笑)。
 
 でまあ前半はメチャクチャ快調です。大昔に短編で会ったこともある? ハズのロス・ハートってこんなキャラだっけ!? と思うくらいに、まるでアーチー・グッドウィンのドタバタラブコメミステリ風だし。
 その一方でウルフ邸で起きる小中規模の事件の積み重ねが、次第に非日常的なオカルトミステリ&不可能犯罪の世界に転じていく流れもハイテンションでもうたまらん。
 あとどうでもいいけれど、マーリニーの会話での一人称が「おれ(一部で「わし」)」なのには軽くびっくりした。
(ただし田中西二郎の訳文はあまりよくない。昔、小林信彦が「すごく読みやすい」とホメていた記憶があるが、今の目で見るとかなり雑である。あと、これは翻訳のせいではなく編集の手抜きと思うが、フリント警部補の名前がフリトンになったり、いくつか誤植も目立つ。)

 とはいえ後半、あーあ、やっぱりこうなるかという感じで、真相の解明の複雑さはかなりシンドイ。正直、ついていくのがやっと。これは空さんのレビューの気分がよくわかる。カーの長編の影響? もさることながら、凶器の隠し方についてはあの(中略)のかの作品もインスパイアの元に?
 あと、こういう作品だから仕方ないとはいえ、マーリニーのオカルトや奇術の歴史についてのペダントリーも楽しいような煩わしいような、いささか微妙。ホントーはもっと作家の作風・個性としてこの辺りを楽しむべきかもしれんけど。

 というわけでロースンの長編はやっぱウワサ通りのロースンの長編だった、という感じであった(笑)。ただまあこの猥雑さが味といえる一面もあるような気もするので、一概に否定はできない。最後の二転三転する真相への肉迫も、作者の十分なミステリ愛を感じるしかないし。
 それゆえ評点は0.5点くらいオマケ。

 しかし、とりあえずロースンの長編をコレから読んだこと自体はチョイスとしては悪くなかったとは思うけれど、次はどれを読めばいいのであろう。そのセレクトそのものもしばらく楽しもう(笑)。

No.3 7点 nukkam 2014/09/03 17:09
(ネタバレなしです) 1942年発表のマーリニシリーズ第4作でロースン最後の長編ミステリーです。過去の作品では地味な脇役に甘んじていたロス・ハートが本書では大活躍します(活躍といってもお騒がせ男的な役回りです)。ロースンらしく本書でも色々なトリックが使われていますが、私がびっくりしたのは幽霊写真です。私は写真技術のことなど何も知りませんが、身体の向こうが透けて見える幽霊の写真がこの時代に果たしてどうやって出来たのか結構どきどきしました。確実性には難ありですが、仮に失敗してもねらわれたことを気づかれない殺人方法も印象的です。ちょっとペテンに近い引っ掛けもありますが、どんでん返しの連続に圧倒される本格派推理小説です。

No.2 6点 kanamori 2011/12/12 18:54
奇術師探偵グレート・マーリニが登場する4作目で、シリーズ最後の長編。
墓場からよみがえる死者、心霊写真にポルターガイスト現象、密室状況からの人間消失など、ディクスン・カーをも凌駕するような怪奇趣向と不可能興味がテンコ盛りですが、ワトソン役で今回は主人公格のロス・ハートの軽い語り口と相殺されて、サスペンスはあまり感じません。色々な不可解な事象も拍子抜けする常識的な真相であったり、オリジナリティの点で問題があったりします。
それでも、終盤のフーダニットを巡っての二転三転する多重解決の部分は大いに楽しめました。
ワトソン役、担当警部補、探偵役の順に推理を披露する設定において、(細かいロジックは別にして)この結末の処理方法はなかなかユニークだと思う。

No.1 5点 2009/06/23 20:25
例によって様々な心霊現象的な謎を小出しにしてくれます。カーの少し以前の某作品と同じアイディアを使った部分もありますが、本作の方がより現実的です。今回は語り手のロス・ハートが完全に事件関係者になり、殺人容疑がかかってしまう展開で、話にも一工夫しています。
しかし、最終的な解決はどうも釈然としません。筋が複雑すぎて整理しきれず、どうでもいいような気になってしまいますし、かといってそれを帳消しにするほどの盲点を突いた意外性があるわけでもないのです。ある意味専門的な方法を利用しているので、伏線はあっても、はあそうなんですかという感じでした。


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クレイトン・ロースン
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