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ミステリー三昧さん
平均点: 6.21点 書評数: 112件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.52 8点 悪意- 東野圭吾 2009/11/05 16:59
※ネタばれあり<講談社文庫>加賀恭一郎シリーズ4作目(長編)です。
久しぶりに東野圭吾氏のド本格に出会えて嬉しかった。故にベタ褒めです。
「驚き」よりも「感心」のほうが強い。東野圭吾氏は人物を描く技量が長けていると改めて感じました。これは騙される他ないだろう。「作者の筆力」によって騙された。
とにかく「手記形式」を採用した点が秀逸。実に奥深くて好きなジャンルになりつつあります。
フーダニットに関しては文句の付け所がない。「電子機器」の常識を上手く伏線として生かしていた。ロジカルな犯人当てが可能な部分で高評価です。加賀恭一郎が疑いを持ったきっかけも犯人の心理を突いていて良い。決定的な証拠もちゃんと提示されている。ただフーダニットに関しては「手記形式」にした意味はあまりない。でも、この作品には別の部分で「手記形式」を採用した狙いがありました。そのことにも高評価したい。






(ここからはネタばれ感想)
ある程度のミステリ好きなら「手記形式」→「筆者が犯人」→「虚偽の記述あり」までは容易に察することができるでしょう。故に驚きが少ない。なのでこの手のミステリは「2番煎じ」とは言わせぬオリジナリティーが必須になってきます。この作品にはそれがある。
まず「手記内容≒事実」をロジカルに指摘できるように配慮されていた点。「指にペンダコができていた」という明白な伏線を配置することで「ズルさ」をかなり軽減している。ただ「ビデオテープ=作り物」は察する余地がない。もう少しビデオテープの詳細を読者に公開すべきでした。
また「手記形式」を採用した犯人の狙いが秀逸過ぎる。「被害者に難がある」という状況を「手記」から創り出すことで、真の動機を隠蔽。同時に被害者を悪者に仕立てあげることで「憎しみ」すらも解消。このダブルを成し遂げた完全犯罪の構図が凄すぎる。「上手く行き過ぎ」という文句もありますが、じっくり創り込まれた完全犯罪のプロセスを楽しめたので、拍手喝采です。

No.51 4点 探偵ガリレオ- 東野圭吾 2009/11/02 11:33
<文春文庫>ガリレオシリーズの1作目(連作短編)です。
科学・物理トリックをハウダニットで利用するのはやめてほしい。端から考える余地がありません。本格色は出ていますが何も残らない。と言いたいところですが『壊死る』のトリックは凄く神秘的で好感が持てました。実現できるなら使ってみたい。科学は脅威です。
読んだ限り、湯川助教授にTVドラマほどの魅力は感じません。もっと内面まで抉り込んでほしい。草薙と湯川のやり取りは「探偵が警察をバカにする」という推理小説ではお馴染みの演出なので、新鮮味がない。私的には上っ面だけの社交辞令としか感じず、そこから人間味を見いだすことは難しい。
私の中で「湯川学」がどう変わっていくのか?この作品以降では、その部分で楽しみを見いだしていきたい。とにかく『容疑者Xの献身』に期待しています。

No.50 6点 化人幻戯- 江戸川乱歩 2009/10/31 02:04
<江戸川乱歩全集14>明智小五郎シリーズです。
確かに「動機」は衝撃的ですね。最後の最後で江戸川乱歩氏の悪い持ち癖が露呈しちゃっています。これは考え付かないですが、妙に説得力は高めです。特に「カマキリ」を動機と結び付けるあたりが秀逸。クライマックスだけでも読む価値はありそうです。
ただ、本格推理物として評価するなら駄作です。まずフーダニットが陳腐です。明智小五郎が疑いを持ったきっかけや決定的な証拠など細かな指摘まで丁寧に描かれていましたが、納得できなかった。展開も見え透いていてミスリードされない。
ハウダニットも魅力がない。二つのアリバイトリックに関してですが、特に時間差トリックが強引過ぎます。賢いやり方とは言えず、凄さが伝わらない。実行した犯人がバカに思えます。
他にも暗号や密室トリックなど本格的な素材をふんだんに取り入れているが、巧く生かせてない。さりげなく海外古典のトリックを種明かしするのもやめてほしい。

No.49 5点 天空の蜂- 東野圭吾 2009/10/28 13:13
<講談社文庫>リアルタイム型社会派クライムサスペンスです。
テーマに対する興味がなければこの作品は面白くないでしょう。興味を持たない限り、この作品に込められたメッセージに胸を打たれることはない。その部分で大きく評価を下げた。きっと私は放射能被害とは無縁のまま「沈黙の群衆」の一員としてこれからも生きていくだろう。
そもそも緊迫感が感じられない。特に最初の200ページは「原子力発電所のメカニズム」や「次世代ヘリの特徴」に重点が置かれ専門知識を多用させることもあり萎える。「飛ばし読み」したためイマイチ犯罪の奇抜さを把握できなかったことが原因かもしれない。魅力的な登場人物もいないため、どこに楽しみを見いだせばいいのか分からず、そのまま読み終わってしまった。
たぶん「社会派小説」は向いてないな。。。でも勉強になりました。

No.48 6点 江戸川乱歩全短篇<1>本格推理(1)- 江戸川乱歩 2009/10/27 22:25
※以前読んだ『二銭銅貨』『心理試験』『D坂の殺人事件』は評価対象外です。
<ちくま文庫>本格推理物に該当する短篇だけを集めた作品集です。江戸川乱歩氏特有の「奇妙な味」が薄い。故に印象が残りにくく、読んだ傍から忘れてしまいそうな作品が多いです。特に『黒手組』『幽霊』『指環』『接吻』は駄作に近いでしょう。
私的ベスト『断崖』『疑惑』『灰神楽』・・・「プロバビリティーの犯罪」の奥深さを知ることができ、安全性が高く知的なトリックであることが分かった。ただ「正当防衛に見せ掛けた計画的犯行」は手を汚していることになる気がしますが・・・
次点は『恐ろしき錯誤』・・・復讐者が企てた計画の顛末を描いた作品です。思わぬケアレスミスによって自惚れから急転直下で発狂に陥る様が微笑ましい。「喜怒哀楽」の表現が起伏に富み、犯人の心境が際立つ倒叙型ミステリーとして高評価です。
また『日記帳』『算盤が恋を語る話』・・・横溝作品に登場する肉食系男子とは対照的の「内気な」草食系男子の恋物語を描いた作品です。恋相手に愛のメッセージとして「暗号を送る」という発想が不器用すぎる。皮肉にも数少ない「暗号」物として楽しめた。
他には『盗難』『一枚の切符』『石榴』・・・決定的な証拠が曖昧なため真相が覆りやすく締まりも悪い。それ故、ドンデン返しが繰り返されても「どうせ違うだろ?」という先入観が先走り驚きが少ない。そんなプロットはあまり好きではない。
『火縄銃』『兇器』・・・古典的なトリックを使った本格推理物で読みごたえがありましたが、トリックを海外古典から借用した点であまり高く評価したくない。

No.47 7点 パラレルワールド・ラブストーリー- 東野圭吾 2009/10/18 09:31
<講談社文庫>ミステリアスな恋愛模様を描いたヒューマン・ラブストーリーです。
冒頭が好きですね。電車の窓越しで抱く淡い恋心がどう進展していくのかが気になり、のっけから東野ワールドに引き込まれました。「青春の恋愛」を思わせる序章に反して、一章からは実にシリアスな大人の恋愛模様が描かれていて、想像した以上に重い内容ではありました。
この作品は「友情を取るか?愛情を取るか?」という難題に真剣に向き合った力作だと思います。二つの愛の形とその間で揺らぐ女性の葛藤を描きつつも、ミステリーとしての体裁は崩さずにいくつもの違和感を抱かせながらラストまで読者を引っ張ってくれます。
違和感の原因は薄々感じ取れましたが、それから派生する「なぜ記憶の〇〇が行われたのか?」という最終的な問いかけはわかりませんでした。その答えは驚愕の真実としてラストに提示されるわけですが、私的には高評価です。まさにパラレルワールドでしたが伏線も上手く回収していますし、意外性という面でも成功していました。
結末でも「ある疑問」が解消されるわけですが、そのまま2周目したくなるぐらい強烈な余韻を残してくれました。
余談ですが、『同級生』『変身』『分身』『むかし僕が死んだ家』『パラレルワールド・ラブストーリー』。この5作品を個人的に「東野"私"五部作」と呼ぶことにします(解説に便乗してみました)。

No.46 5点 三つ首塔- 横溝正史 2009/10/14 13:58
<角川文庫>金田一耕助シリーズの代表作です。
特筆すべき点として「女性」視点で描かれていることが挙げられます。他の作品とプロットは何ら変わりないが、幾分サスペンス調が増し、鬼気迫る展開が印象的でした。また、官能的サービス精神も過剰に盛り込まれているため、推理小説ではなく「風俗小説」の名が相応しい。特にキスの描写がいやらしいです。「激しく唇を吸った」とか「全身にキスの雨をそそぐ」とか・・・
三重殺人に始まり実に多くの人間が殺害されるわけだが、それに対しての「動機」が突拍子もない。フーダニットの論理性も皆無で、トリックと呼べるモノもない。間違いなく「本格推理」と「メロドラマ」の融合は失敗しているので、評価が大きく下がる。でも、ハッピーエンドで安心した。

No.45 5点 虹を操る少年- 東野圭吾 2009/10/11 14:49
<講談社文庫>特殊な力を持つ少年のお話です。
ラストは消化不良でしたね。私的には300ぺージ手前でクライマックスは迎えていたので、その後の展開は蛇足でした。なので主人公が「ダーウィンの進化論」を交えて生き様を語る場面が瞬間最高視聴率(?)となりました。
東野作品の中では幾分リアルから遠ざかり、幻想的な世界観に足を向けたという意味では、新鮮味があります。若い世代から支持が得られそうなジュブナイル的作品なので、大人が読むと反感を買いそうな展開ではありました。
まぁ、これで「SF(ファンタジー)」という新しいジャンルを築き上げたわけで、東野ワールドに厚みをもたらすと思うとこの先が期待できます。この作品は傑作を生み出すための一つの過程(試作品)に過ぎない。よって軽く受け流すべき作品なのでオススメできない。

No.44 5点 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー 2009/10/08 14:37
<創元推理文庫>フェル博士シリーズの2作目(長編)です。
カー作品の作風には「不可能犯罪+論理的解決」が第一にあります。また「怪奇・猟奇性」「ラブロマンス」「ユーモア」を付加価値として作風に加えることもできます。
よって、以上5大要素が評価対象になるわけですが、この作品に関してはすべてが低ランク。淡々とし過ぎて、味気ない。私的には正直つまらない部類に入る作品でした。まず、密室以上の不可能トリック(解説にて)が納得できない。咄嗟に「不可能状況」が呑み込めず、読後もイマイチ構図が掴めない。そして「論理的な解決」も冴えません。偶然が絡んだ奇跡的な不可能状況が根本にあるため仕様がないが、伏線回収率も低く説得力が薄い。
また「怪奇・猟奇性」は極端に薄く、挙げるならば「帽子泥棒の行動」or「真相部分」のみで、物語全体を纏っているわけではない。「ロマンス」部分ではランポールがドロシーを新妻に迎えた点は朗報ですね。ただ、ランポールさんはもう少し発言しましょう。存在感なさすぎです。
初期の傑作らしいが、自分好みではなかった(理解に苦しむため)。
(2009/10/13追記)後で知ったが、この作品はアリバイ崩し系だったらしい。

No.43 5点 女王蜂- 横溝正史 2009/09/30 17:41
<角川文庫改版>金田一耕助シリーズの代表作です。
「絶世の美女」の登場はシリーズの定番であり、物語の中心に置かれることが多い。今回もその類に漏れず、全身の血が騒ぐような惨劇が繰り広げられる、といったお決まりのパターンで物語が進む。しかも『犬神家の一族』とダブリ過ぎ。
ただ、ヒロイン役の「智子」に関しては官能的な描写が過剰に続くこともあり、一際美しい女性を想像してしまった。きっと今までで一番の美人だと予想される。なんせ「女王蜂」ですからね。まぁ、そんな話題は「映像を観た人」向きだろうから無意味でしょう。
事件は推測だけで場当たり的に解決するため、説得力に欠ける。当然、読者に向けられた伏線はなく「本当に解決したのか?」と思わずにいられない。金田一さんに苦言したい。「せめて犯人だけは守りましょう」と・・・
余談ですが、コナン君の名ゼリフ「犯人を推理で追い詰めて自殺させる探偵は殺人者と変わらないぜ、バーロォー」は金田一耕助に向けられた言葉と判断して差し支えないでしょうね。

No.42 7点 江戸川乱歩全短篇<3>怪奇幻想- 江戸川乱歩 2009/09/29 19:51
※以前読んだことのある『人間椅子』『お勢登場』『木馬は廻る』『白昼夢』『火星の運河』『押絵と旅する男』『目羅博士』『鏡地獄』は評価対象外です。
<ちくま文庫>江戸川乱歩の「怪奇幻想」に属する作品だけを集めた短編集です。明智小五郎or少年探偵団は登場しません。
私的ベストは『赤い部屋』・・・イタズラ好きの究極系「プロバビリティーの犯罪」を描いた作品です。「生」と「死」を言葉一つで操る変態青年の行為にゾクゾク感が止まりません。しかもラスト数ページの二転三転が「神懸かり」過ぎ。これを読んで「退屈」と感じる者はいないだろう。
万人にオススメできない私的裏ベストは『芋虫』『虫(蟲)』・・・「歪んだ愛」の究極系として高く評価したい。どちらのタイトルも人間の「ある姿(状態)」を表現していたことに、まず驚く。そして「愛」=「憎悪」の意味を知り、愕然とした。
次点は『防空壕』『一人二役』・・・究極の「妄想バカ」系として高く評価したい。思考回路が可笑しすぎる。思わず「ニヤリ」としてしまった。まさに愛すべき「バカ」だ。
次次点(?)は『双生児』・・・指紋トリックの盲点に驚かされた。当事者である犯人が、誇らしげに自ら体験談を語るという設定が微笑ましい。
総合してハズレがない。ただ中盤の中だるみが懸念材料。これは「名作で始まり、名作で終わる」といった構成(たぶん)なので仕様がない。ただ、未完成作品の『悪霊』『空気男』が同時に読めるのはレアかもしれない。

No.41 7点 むかし僕が死んだ家- 東野圭吾 2009/09/22 13:02
<講談社文庫>失われた記憶を探求する物語です。
現在と過去を繋ぐ「糸探し」系のストーリーは東野作品の定番であり、全般的に謎が明確で登場人物も少なく読みやすさで群を抜いてます。私が覚えている中では『宿命』『分身』『変身』がそれに該当します。今回は舞台も限られているので、長編を読むというより、短編を読んでる気分で読書を進めることができました。ただ上記の作品に比べ、読後感が悪かったです。
真相は「推理」するモノではなく「感じる」モノではあったが、少しミステリ的に弱さを感じました。たまに扱われる手法が今回はラストの重要なキーになっているのですが、その部分にもう少し配慮があればと思いました。特に〇○○〇〇ー〇の件はいらなかったです。その一点で「怪しいぞ」と察する読者も多いはず。
あと「タイトル」に惑わされた感がありました。沙也加の「失われた記憶」探しであるはずが、たびたびスポットが祐介という「少年」に当たるので「これはもしかすると・・・」みたいに色々と想像してしまい、変なミスリードに陥ってしまった。「タイトル」はもっと意味深なものであり、考えさせられた。また、真相は意外性を突いたモノなので、特に「冒険小説」好きが読まれると楽めるかもしれません。そして「解説」がまたもや東野圭吾の人柄を知る上で参考になった。

No.40 7点 悪魔の手毬唄- 横溝正史 2009/09/20 00:38
(激しくネタばれ)<横溝正史自選集6>金田一耕助シリーズの代表作です。
特に目新しい発見(驚き、感心)もなく正直「単調さ」を感じました。「見立て殺人」は原作よりも映像の方がインパクトあるだろうし、横溝作品においては「サスペンス」を湧かせる小道具の一部でしかない。との結論に達した。
私的には「犬神家」>「獄門島」=「手毬唄」の順で「見立て」に対して納得がいった。
横溝作品は「犯人は?トリックは?」ではなく「惨劇の奥底に見え隠れする背景(動機)」に重点が置かれている作品が多いです。ただ、その部分に単なる「読み物」とは言わせぬ緻密性が凝縮されているので評価が難しい。特にラストで明かされる奇跡に近い「偶然の一致」が絡む真相に対してパズラー要素を見いだすことができます。この作品には<「四人の婦人が同じ年に子供を産む」→しかも「全員女の子」→さらに「すべて異母姉妹」>という悪魔的な一致が惨劇を産むというプロットが根本にあり、これが本来推理小説にない大きなカタルシスを産むため万人受けする名作に成り得たのではないかと思います。

(謎の中心となる「十カ条」に対して少し触れます)
おりんに扮した「謎の老婆」の存在は蛇足でした。私的には『獄門島』の焼き回しとしか思えず、評価に苦しむ。
一見どうでも良さそうな「魚」の謎→ホントにどうでもよい。けど、少し笑った。
「死体は恩田or源次郎?」の真相は一番の読み所となりました。直接、動機にも繋がるプロットの緻密性が濃厚でした。

No.39 5点 浪花少年探偵団2- 東野圭吾 2009/09/14 16:08
<講談社文庫>しのぶセンセシリーズの2作目(連作短編)です。
前作より楽しく読めました。たまには軽くてノリの良いコージーミステリーも読むべきですね。東野作品はシリアスで重厚な物語が大半を占めるので、それらとのギャップを感じながら読め、結果的に楽しい読書となりました。
私的ベストは『しのぶセンセは暴走族』。事件に「う〇こ」を絡ませるあたりで希少価値の高さを感じました。おふざけ振りでいえば全タイトルで群を抜いてます。
田中鉄平の「レモンシュカッシュ」の話も笑えました。
また、巻末の解説は東野圭吾氏の作風を知る上で読む価値がありました。

No.38 6点 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー 2009/09/10 22:56
(ネタばれかも)
<創元推理文庫>フェル博士シリーズの1作目(長編)です。
「嘘の手掛かり」を利用したミスリーディング術に賛美を贈りたい。「ネズミ」や「手すりのキズ跡」から機械トリックと思わせつつ、実際使われたトリックは・・・だったという真相には唸りました。本当の手掛かりとなる「現場状況の矛盾点」に気付くに至らなかった点が悔やまれる。同時に伏線を隠蔽することにも成功させていました。
ハウダニットに比べ、フーダニットは少し不丁寧で魅力を欠いていました。逆説推理と言える「完全無欠のアリバイ」を持った人間が犯人という点だけでは、意外性の演出だけで説得力がイマイチ。また、「ハンカチ」の件はあからさま過ぎて魅力に欠けます。決定的な証拠を指摘できない点も心残りです。フーダニットに満足できない点で評価を落としました。

No.37 6点 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 2009/09/07 14:35
<横溝正史自選集5>金田一耕助シリーズの代表作です。
復讐を誓った経緯(犯行の動機)が一番の読み所になります。「〇親〇〇」ですべてが語れる悲しい物語でした。物語としては『悪魔の手毬唄』『獄門島』『八つ墓村』などと肩を並べる名作なのかもしれないが、著しく「オドロオドロしさ」が欠如している点で少し作風が異なる。舞台が閉鎖された空間(人里離れた村)ではなく「館」であることが大きい。圧迫された環境でないが故に金田一耕助が非常に能動的に活動します。そして、途中「トラベルミステリー」を思わせるのんびりとした描写が続き「猟奇性」が極端に薄くなります。でも悪魔の紋章やフルートの音を小道具とした「戦慄的」な恐怖に怯える登場人物が印象的でした。
密室殺人は不必要なオマケで、その他「本格的要素」に対して褒めるべき点がありません。
この作品並びに『悪魔の手毬唄』『獄門島』『八つ墓村』は映像を観た方が楽しめるかも・・・

No.36 9点 夜歩く- 横溝正史 2009/09/04 02:02
<角川文庫改版>金田一耕助シリーズの代表作です。
今にもハチ切れんばかりの憎悪・嫉妬が渦巻くドス黒い人間関係の大爆発・大崩壊が一番の読みどころです。特にラストの大どんでん返しが圧巻。この時代からこの手法があったことに嬉しさを感じます。まさかの大発掘でした。真相は強引ですが、偶然を頼らぬ完全犯罪系として高く評価したい。
この作品は、首切りトリックと「夜歩く」病(夢遊病)が重要なキーとなっていて、特に前者は申し分のない出来栄えでした。「被害者は誰か?」で二転三転するプロットの質の高さと首切りの必然性に十分納得できた点で不満が見つかりません。後者もミスディレクションの骨格として十分な役割を果たしていました。特に第一の殺人では、ある点に関して完全にミスリードされたので、犯人を称賛する他ない。
ただフェアな作品とは言い切れないので、あまり推理せず、ピンと張りつめた息苦しい人間関係の崩壊と細部まで血が通った完全犯罪の構図に期待して読むと評価を下げずに済む。
(2009/10/20追記)
私的横溝No.1作品です。この作品で語られる真相が最も印象的でした。トリッキーな犯罪・意外な犯人・終盤のドンデン返し・探偵の秀才ぶり・・・など本格的要素が他の横溝作品に比べて高い。小説世界でしか楽しめない作品です。
ただし、読者によって新鮮度が違ってくる。真相に既出感を感じる可能性があり、平均点が低いのも納得できる。早めに読むべき作品です。

No.35 6点 暗黒星- 江戸川乱歩 2009/08/31 01:44
(多少ネタばれ)
<江戸川乱歩全集13>明智小五郎シリーズ(中篇/1939)です。
「館の惨劇」系本格ミステリ。やはり犯人が分かりやすいです。終始疑惑の対象となる綾子の不審な行動はそれなりの真相を持っていますが、犯人でないことは誰が読んでも予測できるのでミスリードされることはないでしょう。確かに犯人は頭が良かったです。それ故に余裕があり、サービス精神も旺盛です。ただ、神出鬼没な過剰演出または徹底すぎる配慮が仇となり、逆に自ら犯人であることを強調してしまっている点で、犯人当ての本格推理物には成りえず「悲喜劇」レベルに留まっています。江戸川乱歩の犯人役は目立ちたがりの過剰演出家なので絶対『暗黒星』に成りきれないでしょう。だから本格推理物にするのでなく『心理試験』のように倒叙ミステリーの形で犯人の心理を前面に押し出して、より才気溢れる構成にした方が味が出る気がします。

No.34 6点 地獄の道化師- 江戸川乱歩 2009/08/28 15:16
<江戸川乱歩全集13>明智小五郎シリーズ(中篇/1939)です。
怪奇幻想趣味(変格)よりも理知的興味(本格)に重点置いた推理小説とのこと。最大の謎となる地獄の道化師の正体はなんとなく察することができました。明智が語った「逆説論」を心得ていた点が大きく、動機の観点から考えても分かりやすい犯人当てでした。でも、ある手を使ったミスディレクションが多用されてるため最後の最後まで確信が得られないプロットになっていた点でミステリの質は高めです。中編の推理小説だったことや二重三重の偶然に頼った部分で少し点数を低めにしましたが、江戸川乱歩の「本格」を味わいたい人にはオススメできる作品です。

No.33 6点 夜歩く- ジョン・ディクスン・カー 2009/08/26 12:04
<創元推理文庫>ディクスン・カーのデビュー作(長編/1930)です。
「ローランがいつ・どこで・誰に姿を変えたか?」は丹念に読まずとも変化がはっきり窺えるほど大量かつ大胆に伏線が張られていたにもかかわらず、分かりませんでした(笑)。意外に盲点を突いた真相です。密室トリックも種を明かせば実に簡単なトリックでした。ただし、ある点を考慮に入れる必要があるため、それがアンフェアの種になる恐れがあります・・・がそれを匂わせる伏線も結構大胆に張っていたので、特にミステリマニアならわかりやすい部分なのかもしれません。う~ん・・・でも、やはりこの手のトリックはどうしても好きになれない。ズルイと感じてしまう。
小粒ながらフーダニット・ハウダニット両方を兼ね揃えた本格推理小説となっていました。特に密室トリックは勉強になります。このシチュエーションなら「ここを疑え!」みたいな教訓が、いやでも身に付きそうです。読み始めは古くて堅苦しい文章に馴染めず、パリの街や人物の容姿がイメージしにくいアウェーな雰囲気に萎えが生じました。でも我慢すれば二度読みも楽しめる作品であり「流し読み」を許さぬプロットの妙・伏線の数々を堪能できる作品でした。

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