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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1490件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.250 8点 災厄の町- エラリイ・クイーン 2010/01/06 21:06
ずいぶん前になりますが、本書を初めて読んだ時にはうならされました。『日本庭園の秘密』で多少萌芽が見えていたとはいえ、クイーンがこんな感動作を書いていたとは…第1章のクイーン氏のアメリカ発見というところからして、架空の町ライツヴィルの造形には驚きです。軽いユーモアも感じられますが、直前の3作のような笑わせではありません。
配達されなかった3通の手紙の発見からサスペンスを盛り上げていって、ついに起こる殺人。多少のご都合主義偶然には敢えて目をつぶって書き進められる、ハロウィーン・クリスマス・元旦・復活祭といった祭日をポイントにした構成が効果的です。最後の推理部分の設定も味がありますし、「今日は“母の日”だぜ!」というエラリーの幕引きせりふもお見事。
真相自体については、ある仮定に立てばすぐ見当がつくでしょう。また犯行方法には偶然もからんでいて、実行は微妙です。まあ状況からすれば、それを手元に用意してさえいれば、さりげなく何とかできないことはないと思いますが。しかし、その謎解きの問題点を差し引いても、作品としての充実度はやはりきわめて高いと思います。

No.249 7点 まだ死んでいる- ロナルド・A・ノックス 2010/01/03 11:56
悠揚せまらぬユーモラスな文体で講釈風に進められていく筆致が、のんびりとした雰囲気をかもし出していて、まさに古典ミステリの世界です。手際のよい描写に慣れた人にとっては、特に最初の2章は同時期のクロフツよりも退屈かもしれませんが。
創元社からは「消えた死体」のタイトルで出版されたこともあり、実際、一回消えた後、数日後に同じ状況で現れた死体の謎がメインになっています。驚くようなトリックがあるわけではありませんが、事件が錯綜する原因は、なかなか手が込んでいます。原題 "Still Dead" の意味も、読み終わって納得。
最後に登場人物の一人を通して語られる罪と罰の論理は、作者が実はカトリックの大僧正でもあるということで、なるほどと思えます。哲学的にはチェスタトンにも通じるところがやはりありますね。名探偵ブレダンが事件を調査することになった理由である保険金問題の決着のつけ方には楽しい意外性があり、感心しました。

No.248 6点 呪縛の家- 高木彬光 2009/12/28 12:51
長編第3作ともなるとヴァン・ダインの呪縛からも開放され、「読者への挑戦」を2度も挿入する(『双頭の悪魔』みたいに複数回の意味があるわけでもなく)という悪ノリぶりを発揮してくれています。
メインの密室トリックは海外有名密室もの古典の応用形で、それに風呂ならではのアイディアを盛り込んで独自なものにしています。現代だったらばれてしまう方法なのはかまわないと思います。ただ、昔は浴室には当然存在していたのだろうけれど、現代ではちょっと想像がつかない物が利用されているのは、今の読者には不利な点でしょうか。7匹の黒猫の消失理由も意外でしたが、その猫の実際の使われ方は、「前世紀的」(近代化以前という意味)な発想だと思えてしまいます。
それにしても、「描き得るかぎりの極悪人」というのは、個人的には大げさな表現としか思えません。そのような「極悪人」が結局殺されるミステリだって多いでしょう。どこまでを予測していればということもありますしね。また、全体的にショックを与える前のタメがあまりきいていなくて、ただ事件があわただしく連続して起こっていくだけという印象もぬぐえませんでした。文章表現も含め、まだ小説としては未熟なところが感じられます。

No.247 7点 家の中の見知らぬ者たち- ジョルジュ・シムノン 2009/12/25 20:37
酔いどれ弁護士が、自分の家で起こった殺人事件の容疑で逮捕された男の弁護を引き受け、法廷でペリー・メイスンばりの活躍をする(もちろんガードナーみたいなトリックがあるわけではありませんが)という、メグレもの並みにミステリ的な色合いの濃い作品です。
と言っても、自分から他人との関係を断ち、毎日朝からワインのビンをかかえこんで過ごし、自宅(邸宅と呼べるような大きな建物ではありますが)の中でさえごく一部以外には足を踏み入れなくなってしまった老弁護士が、事件をきっかけにして、それまで接したことのなかった町の人々の中に飛び込んで調査をしていく、その意識の変化が繊細に描かれているところは、やはり普通のミステリとは違う感動を与えてくれます。
早川から出版された版を古本で持っているのですが、これがなんと小説家デビュー前の遠藤周作による翻訳なのです。しかし、会話の部分はかなり不自然なところもあったり、誤字なども目につきました。

No.246 6点 象は忘れない- アガサ・クリスティー 2009/12/23 10:23
このクリスティーが最後に「書いた」ポアロものは、ミステリ作家オリヴァ夫人が今までになく大活躍する作品でもあります。彼女の生活や心情がユーモラスに書き綴られていて、晩年になって私小説的なところが出てきていると思えなくもありません。
ストーリーは、本作の中でも言及されている『五匹の子豚』のようにずいぶん昔の事件の再調査、しかも最初に提示されるのは、「夫が妻を殺したのか、妻が夫を殺したのか」という奇妙な問題です。
終盤近くなって、雰囲気はユーモラスなタッチから悲劇的に転調します。謎解きの意外性はどうということはありません。それよりも、途中でポアロが、真相はショックなものかもしれないが、それでも真相を知りたいですか、と事件関係者に聞くところがありますが、まさにそれが本作のテーマという感じです。

No.245 8点 ゼロの焦点- 松本清張 2009/12/21 00:05
今日2009年12月21日は松本清張生誕からちょうど100年目。というわけで、映画化・テレビドラマ化でもおなじみの代表作の評です。
作者らしい北陸地方の雰囲気を伝える叙情性あるストーリー展開ということでは、本作以上に有名な『点と線』よりも明らかに上だと思います。逆に論理的整合性では『点と線』に及ばないのですが。新婚早々の夫が金沢から失踪。不可解な失踪というのは、犯罪捜査のプロでない一般人が事件を探っていく立場になるきっかけとして自然です。そういう庶民的なリアリズムこそ、松本清張が重視したところでしょう。
失踪者の行方も失踪原因も全く不明なうちに、失踪者の兄が殺され、さらに…という筋の運びも興味を持続させてくれます。
そしてラスト・シーン、最後の1文がなんとも印象に残ります。「目を」「叩いた」ですからね、こういう表現を思いつくなんて、できそうでできないことでしょう。2時間ドラマの定番断崖ラスト・シーンのまさに原型であると同時に、追随者にはまねのできない厳しさが凝縮されています。

No.244 7点 ギャルトン事件- ロス・マクドナルド 2009/12/17 22:38
象徴的なタイトルの多いロス・マクにしては、なんともそっけないタイトルです。
ハードボイルドではよくある失踪人探しといっても、なんと20年も前にいなくなった人の行方を捜すという、雲をつかむような依頼を受けたリュウ。どんなふうに話を進めていくのかと思っていたら、まだほとんど手もつけていないうちに意外な所で殺人が起こってしまいます。その殺人が失踪人とどうからんでくるのか、このからませ方が精密に考えられていて、しかもそこが小説のテーマにもなってくるところ、さすがロス・マクです。ただ、まだ真相が判明していない時点での首切り殺人犯人の人物描写が、振り返ってみると違和感を感じました。
途中、「あなたって、聞き上手、聞き出し上手の顔をしてるのね」「この顔でお役に立つんならお安いご用だ」なんて会話が出てくるところ、他のハードボイルド探偵にはないリュウの個性でしょう。

No.243 6点 ワイルダー一家の失踪- ハーバート・ブリーン 2009/12/14 21:50
ディクスン・カーを思わせる不気味な雰囲気と不可能興味を取り入れて1948年に書かれた、ブリーンの長編第1作です。ノンフィクションの『あなたはタバコがやめられる』の方がミステリより有名らしいですけれど。
ワイルダー家では18世紀から何人も不思議な失踪をしているという謎が魅力的です。それぞれの事件での人間消失方法よりもむしろ、それらをどうつなげていくかというところに興味をそそられました。
解説で乱歩は結末の意外性は「常套である」として不満を表明しています。確かに人間消失トリックの独創性のみを求める人にはがっかりな解決でしょうが、個人的には全体としてきっちりまとまっていると感じました。通常ミステリでは使うべきではないとされるあるものが昔の失踪のタネであるところも、乱歩は解説でネタばらししてけなしていますが、事件発生の時代を考えると使い方が自然で、しかも現在の事件にまで動機の点でからんでくるあたり、悪くない筋立てだと思います。

No.242 6点 黄色い犬- ジョルジュ・シムノン 2009/12/11 22:25
港町の風吹きすさぶ晩秋の夜に事件が始まるという冒頭だけで、もういかにもシムノンらしい雰囲気が感じられます。しかし終ってみると、意外にもメグレものにしては謎解き度がまあまあ高い作品でした。事件の顛末は最後メグレに説明されるとなるほどという感じですし、犯人の意外性もそれなりにあります。一般的なミステリ・ファンからは受け入れられやすい作品でしょうが、逆にシムノンには意外性など求めない、という人向きではないかもしれません。
タイトルの犬(実際の毛色は黄褐色といったところでしょうか)は、最初の事件の時から事件現場付近をうろついています。容疑者と見なされる大男が飼っているわけで、町の人々を不安にさせるのですが、もちろんバスカーヴィル家の犬みたいな役割ではありません。

No.241 7点 海の牙- 水上勉 2009/12/08 20:52
熊本県不知火海岸の、作中では「水潟奇病」とされている、注目されだしてから50年以上たつ今なお、現在進行中の問題として新聞に載ることもある公害病を背景にした殺人事件が描かれます。
「潟」の字は、新潟県にも別の会社の似たような工場があったことから作者が思いついたということは、今回WEBで調べてみて初めて知りました。実際に同じような病気が新潟でも発生して社会問題になったのは、本作発表の数年後のことです。
その背景の描写、特に序章「猫踊り」や第13章「怒りの街」等の強烈なインパクトはまさに圧巻なのですが、殺人事件との関連がうまくいっていないように思います。犯人の動機の大きな部分が公害とは関係ない個人的な問題であったこと、またその犯人の人物像が意外に不鮮明なことが不満でした。

No.240 7点 茶色の服の男- アガサ・クリスティー 2009/12/05 12:58
初期には謎解きものと冒険・スパイものをほぼ交互に発表していたクリスティー。本作はその冒険ものの方で、イギリスから南アフリカへ舞台を移しながらの危機一髪の連続が楽しい女性アドベンチャー・ミステリです。当時の連続活劇映画(サイレント時代です!)を引き合いに出しているようなストーリーだからこそ許される意外性も用意されています。冒険にあこがれるヒロインのキャラクターは確かにいいですね。一方の悪役の親玉も特に最後の部分、なかなか魅力的に描かれています。
クリスティーは以前に試みた手をさらに大胆にアレンジするのが得意ですが、本作はそのいわば元ネタの方です。だからといって、使い方が未熟だとは思いません。ちなみに、同じ手を取り入れた国内巨匠の戦後間もなくの某作品は、たぶん本作を知らずに書かれたのでしょう。その某作品以前に本作の翻訳は、WEBでちょっと検索した限りでは出ていなかったようです。

No.239 4点 クイーン犯罪実験室- エラリイ・クイーン 2009/12/02 21:35
例によってのダイイング・メッセージが実は殺人犯を示しているわけではなかった中編『菊花殺人事件』は、「MUM」の意味はともかくとして、犯人指摘の推理がクイーンにしてはあまりに平凡で高い評価はつけられません。
パズル・クラブの2作はクイズ的すぎ、小説としてのおもしろさが感じられません。
他のショート・ショートは『クイーン検察局』の水準作並でしょうか。『実地教育』がかなり印象的です。
最後の短編『エイブラハム・リンカーンの鍵』は初期某長編の二番煎じのアイディアがメインだなという感じはしますが、作者二人の趣味が出ていて悪くありません。
といったところで、まあ全体的には今ひとつといったところです。

No.238 7点 二重葉脈- 松本清張 2009/11/29 16:21
確か高校の頃、清張作品の中でも特に気に入って2回読んだことがあります。今回読み直してみて、犯人が誰かとかもほとんど覚えていなかったのですが、やはり巧みな構成で感心させられました。
倒産した企業の金を横領したとの疑念がある元社長が失踪、さらに横領加担を疑われる専務と経理担当常務も同時期にどこかへ旅行に出てしまいます。その後行方がわからなかった三人のうち二人は何事もなかったかのように帰って来て、と怪しげではあるものの犯罪が起こったかどうかも不明なまま出来事をつないで、興味を持続させる作者の腕はさすがです。
殺人が起こるのは(目次からもわかりますが)半分を過ぎてからで、その後はもう一気に連続殺人になだれ込みます。岡山県北部や大阪周辺等の旅情描写も控えめで、これぞまさに社会派ミステリと思える展開です。
ただ、真相を示す最終の手がかりが、あまりに偶然すぎるというところは不満でしたが。

No.237 6点 メグレと死者の影- ジョルジュ・シムノン 2009/11/26 00:09
いろいろな地方を舞台にした作品が多い初期メグレものの中で、本作はメグレ警視の自宅からもかなり近い建物で事件が起き、ほとんどパリの街中だけで話は片付いてしまいます。まあ、最後近く国境を越える列車がちょっと出てきますが。
数少ない主要登場人物たちが個性的にじっくり描かれていて(その中にもちろん犯人もいるわけです)、なかなか味わい深い作品になっています。被害者の愛人だったニーヌに対するメグレ警視の優しい感情も印象に残ります。
ただ、いくらパズラーでないとは言え、銃声が聞こえたかどうかという捜査の基本が全く問題にされていないのだけは、ちょっとねえ。

No.236 8点 - F・W・クロフツ 2009/11/23 12:53
クロフツ、特に本作というと元祖アリバイ崩しのイメージが強いと思います。
しかし、本作を久しぶりに読み返してみると、アリバイ崩しは構成要素の一部に過ぎないことに気づかされました。実際のところ、創元推理文庫版で約470ページの本作、犯人のアリバイ再検討が始まるのは残り120ページ程度になってからです。また犯人が樽をあちこち移動させる目的は、アリバイ作りではないのです。
もし偽アリバイを中心とした犯人の計画に集中してそれ以外の要素を排除しようと思えば、冒頭船着場で樽の異常が発見された時、すぐに警察が到着して樽を開け、そこへ樽を引き取りに来たフェリックス氏がその場で被害者の身元を確認するという展開にすればよいのです。そうすれば、樽の行方捜索や被害者の身元調査などアリバイとは関係ない「余計なこと」を書かずに済み、話は大幅に短縮できます。しかし、本当にそれらは「余計なこと」なのかというところが問題なのです。
クロフツが書きたかったのは、一歩一歩進められていく緻密な捜査の過程でしょう(テンポの速い作品が好みの人には退屈かもしれませんが)。そのあたりが、トリック中心主義で事件解明プロセスには重点を置いていないように思える西村・森村等のアリバイ崩し作品と異なるところです。

No.235 7点 暗い落日- 結城昌治 2009/11/20 21:19
日本のリュウ・アーチャーとも評される私立探偵真木の一人称形式で語られる話は、プロットの組み立てから見ても、チャンドラーよりロス・マクドナルドを思わせる展開です。文章も最初から日本語で書かれた(翻訳でない)ハードボイルドという感じの簡潔さで、短い会話を重ねていくところなどいい雰囲気です。まあ、ロス・マクみたいにしゃれた比喩を多用しているわけでありませんが。
角川文庫版解説では、作者が本作のトリックを『ウィチャリー家の女』に対する不満から着想したということが書かれていますが、『ウィチャリー』をよく覚えていないので、そのところはなんとも。ただ、ダスターやスカーフの件は犯人の心理を考えると、ちょっと疑問に思えます。
裏に隠された人間関係はむしろありきたりと言えるでしょうが、実際にそうだったらどんな悲劇が起こるか、そこがしっかり書き込まれているところがさすがです。

No.234 5点 ヒッコリー・ロードの殺人- アガサ・クリスティー 2009/11/17 20:50
本作については、登場人物が多過ぎるという意見がよくあるようです。学生相手中心の下宿屋が舞台ということで、同じ環境、同年代の登場人物が多いため、名前とキャラクターを一致させるのが困難になるのでしょう。確かにわかりにくいです。
最初の奇妙な連続盗難事件の大部分についての真相は、ポアロが現場に乗り込むとすぐ決着が付いてしまいますが、この部分は書き方によってはパーカー・パインものの短編にもなりそうな感じです。
クリスティーにしては珍しく、全体の7割程度のあたりで、事件の裏に潜んでいたからくりを明かしてしまいますが、その後起こる第3の殺人でもう一ひねり犯人隠匿の工夫をしているところはさすがです。しかし解決部分については、推理そのものはきっちりしていてそれなりに意外なのですが、派手好みのポアロにしては犯人指摘に至る演出がずいぶん地味な感じがしました。

No.233 8点 赤い収穫- ダシール・ハメット 2009/11/14 14:21
予備知識なしで『アクロイド』の直後に本作を読み始めたらどんな疑念を抱くだろうかと思ってみたりもして。むろん疑念自体がばかばかしいのですが。
ともかく、文章についてすぐに感じるのが省略法の巧みさです。その文章を一人称形式で語るコンティネンタル・オプには名前がないわけですが、会話部分などを読んでいてこの探偵の名前が出てこないことが気にならないのも、書き方のうまさでしょう。
最初の殺人は実にあっさりしています。その後の展開は、黒澤の『用心棒』も本作の自由な翻案だというストーリー。まさにハードボイルド・ミステリの全ては(少なくとも長編については)ここから始まったという感じです。
しかし謎解きの要素も決して無視されているわけではなく、殺人事件の犯人は論理的に指摘されますし、なんと同年長編デビューのエラリー・クイーンお得意のダイイング・メッセージまで、単純なものではありますがクイーンより前に使われているのです。ディクスン・カーがチャンドラーよりハメットを好んでいた理由もわかる気がします。

No.232 5点 メグレと運河の殺人- ジョルジュ・シムノン 2009/11/11 22:37
フランス1930年ごろ、運河での荷物運搬に従事する船上生活者たちや運河沿いの居酒屋、それに水門管理者たちの様子が生き生きと描かれているという点では、さすがです。シムノン自身、本作を含む初期メグレものを書いたのは船で暮らしながらだったそうで、そのことも作品にリアリティーを与えているのでしょう。
しかしミステリとしてみると、複雑な謎解きは最初から期待していないにしても、どうも今ひとつ冴えません。中盤ごろまでの段階で犯人の描写がごく少ないせいか、最後で一気にその犯人と被害者の悲しい過去が明らかになっても、感動を盛り上げるための前段階が欠けていて効果が充分に出ていないように思えるのです。
メグレ警視が何十キロもの距離を自転車で走っているところはちょっとユーモラスな感じもありました。

No.231 8点 霧と影- 水上勉 2009/11/08 14:15
東京で発生した詐欺事件を序章とし、その後話は作者の故郷である福井県の海で発見された小学校教員の死体をめぐる事件に移ります。この二つの事件がどこでどう繋がってくるかが問題です。全体としては、興信所員を名乗る謎の人物の正体以外、特に意外性があるわけではありませんが、おもしろく読ませてくれます。
水上勉は、松本清張の『点と線』に影響を受けて初めて書いた推理小説が本作だと語っていますが、冒頭に詐欺事件を持ってきたところとか新聞記者が活躍する点など、むしろ明らかに『眼の壁』との共通点を感じさせます。しかし清張作品以上に、若狭湾から切り立った山の中の、家がたった4軒しかないという猿谷郷を中心とした事件の重要舞台の雰囲気が見事に描きこまれていて、独特な味わいのある作品になっています。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1490件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(110)
アガサ・クリスティー(65)
エラリイ・クイーン(53)
松本清張(32)
ジョン・ディクスン・カー(31)
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横溝正史(28)
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