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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
チャイルド44
レオ・デミドフ
トム・ロブ・スミス 出版月: 2008年08月 平均: 7.50点 書評数: 8件

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新潮社
2008年08月

No.8 8点 ぷちレコード 2021/06/04 22:49
政治的な粛清が横行したスターリン時代の旧ソ連を舞台にした作品。
冒頭から飢えに苦しむすさまじい描写に圧倒される。家畜やネズミはもちろん、ペットの猫や革のブーツまで食べ尽くした村。一気に物語に引き込まれていく。
民警に左遷されてしまったレオは、赴任先で子供の変死体を発見し、衝撃を受ける。かつて強引に事故として処理した子供の変死体とそっくりだったのだ。
誰もが信じられず、常に裏切りを警戒して生きてきたレオだが、捜査の過程でまず妻を、さらに市井の人々を信頼することを学ぶ。スリリングな逃走劇や劣悪な環境でのサバイバルも読み応えがあるが、何よりも人間として再生していくレオの姿に、心を揺さぶられた。

No.7 7点 E-BANKER 2020/06/24 20:58
以前から気になっていた作品いやシリーズではある。
今回ようやく重い腰を上げて本作を手に取ることに・・・(だって長そうだもんな)
これがデビュー作とは! 2008年発表。

~スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミトフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた・・・。ソ連に実在した大量殺人犯に着想を得て、世界を震撼させた超新星のデビュー作~

かなり昔(確かベルリンの壁が壊された年だったか)。初めて海外旅行へ行ったとき、トランジットでモスクワの空港へ着いた。ガイドブックには空港付属の宿泊施設で泊まれるって書いてあったのだが、着いた途端バスに一時間以上乗せられ、着いた先は郊外のコテージ風の建物。「これって、もしかして! 監〇!」
こんな感じで、冷戦下のソ連って我々の住む世界とは「異質なもの」という認識だったと思う。(もちろん監〇は単なる勘違いだが)

いやいや、そんなことはどうでもいい。でも、本作の舞台、「スターリン体制下のソ連」というのは、人が人を信じられない、嘘で塗り固められた世界として描かれている。まさに「異世界」。主人公であるレオは、かつての栄華から一転、追われる立場に追い込まれ、愛されていると思っていた妻からも冷たい仕打ちを受ける。
そんな絶望のなか、それでも大量殺人犯を諦めることなく追う姿が読者の心に刺さることになる。

で、ここで不満点を言うのも何なのだが、どうしてもこの真犯人の正体がなぁー
例えば映像化前提ならこういう衝撃的なプロットもありかもしれないが、やはりミステリー的な観点からすると、あまりにも唐突だし、これなら途中展開されるフーダニットの興趣は何だったんだっていう気にさせられた。
これが最大の不満点かな。

後はデビュー作とは思えないほどの筆力や目くるめく展開、家族の悲劇、そして何よりレオの不屈の精神に頁をめくる手が止まらなくなった。それだけ面白かったということだろう。まさに評判どおりと言える。
これなら続編もぜひ早めに手に取ってみたい。

No.6 8点 八二一 2020/03/30 20:36
旧ソ連の政治体制をストーリーの中で巧みに生かし、サスペンスを盛り上げている。心身ともに凍り付かせる長大骨太なミステリ。

No.5 8点 びーじぇー 2019/11/30 20:02
ナチス・ドイツや共産主義国家のような特異な社会体制での犯罪捜査を描いた、「ゴーリキー・パーク」などの系譜に連なる作品。
体制に忠実だった主人公が地位を失って、どん底から現実を見据えて再起を目指す。それはレオ個人の再生であると同時に、レオの家族の再生でもある。また、三〇年代の飢餓の様子を描いたプロローグと連続殺人の犯人像との呼応をはじめ、プロットの組み立ても巧妙。ミステリとしての驚きを十分に味わえる物語である。
そして何より、単なる捜査小説に終わることなく、不条理な全体主義社会でのサバイバルを描いた冒険小説としてもスリリングな作品である。特に終盤、夫婦そろって生命の危機に遭遇しながらも犯人に迫る過程は、舞台の寒さとは正反対の熱気に満ちている。
本書に描かれる連続殺人は、五十二人を殺害したアンドレイ・チカチーロの事件をモデルにしている。チカチーロの逮捕が遅れた理由のひとつに「ソ連に連続殺人は存在しない」という建前の存在があり、これが本書の執筆の原動力になったと作者は語っている。
デビュー作とは思えない水準の高さ、またロシア政府からは発禁という形でお墨付きをもらっている

No.4 7点 mini 2014/02/07 09:57
一部競技の予選などは前倒しで始まっているが、日本時間で今夜ソチ五輪開会式が行なわれる、ソチとの時差は5時間、現地では宵に行なわれるが5時間後ということで日本時間では深夜の生中継となる
時差的にはソチはまぁまぁ日本の視聴者も見易い方なのではないかな、これがアメリカ大陸開催だと多くの競技が日本時間では明け方になりがちだからねえ
ソチの場合は日本時間だと昼間の競技ならゴールデンタイム、夕刻から夜にかけての試合でもちょっと夜遅くくらいだから比較的にTV観戦向きかも

さてロシア開催という事で何かロシアかソ連絡みのものを書評したいと思ったのでこれ「チャイルド44」、このミス1位作品、私的読書テーマ”スミス姓の作家を漁る”の一環でも有る
ソ連時代の80年代に犯行を重ね世界を震撼させた実在の連続殺人鬼チカチーロをモデルに時代をスターリン体制末期の50年代に設定している、ちなみに予備知識としてスターリン後のフルシチョフ体制では強圧的な共産主義体制が多少は緩められた(その後のブレジネフ体制では逆行するが)という政治的展開は知っておく方がいいかも
厳密にはチカチーロ事件は現在だとウクライナなのでロシアではないのだが、ソ連時代であり小説設定ではモスクワを中心にした話に置き換えている
このソ連体制化での捜査物語という内容は、同じスミス姓のマーティン・クルーズ・スミス「ゴーリキー・パーク」を思わせる
「ゴーリキー・パーク」と「チャイルド44」、私が他人に薦めるとしたら絶対「チャイルド44」である、それは出来映えが理由ではなく「チャイルド44」の方が間違いなく万人受けするだろうからだ、文章が読み易いし内容も分り易い
冒頭プロローグの寒村のシーンから物語に引き込まれその後の展開も素晴らしい、夫婦や家族の再生というテーマも人間ドラマとして魅力で成功している、誰が採点しても6点以下は付けられないだろう
しかし個人的にどちらが好きかと言ったら私は「チャイルド44」よりも「ゴーリキー・パーク」の方が好みなのだ
「チャイルド44」は全てがきっちり説明され過ぎ、きれいに纏まり過ぎな印象なんだよね、読んでる間はメチャ面白いが読み終わると案外と薄味な感じがする
私としては「ゴーリキー・パーク」の先の展開が読めない得体の知れない感じが好きなんである

No.3 7点 isurrender 2014/01/21 19:34
なかなか馴染みの薄いスターリン体制化のソ連が舞台となった社会派サスペンス。
映画的な情景が浮かぶスリリングな展開が良い。

No.2 7点 touko 2012/01/23 22:32
1950年代のソビエト連邦を舞台に、国家保安庁の捜査官である主人公が、実在の猟奇連続殺人者アンドレイ・チカチーロをモデルにした犯人を追跡するというストーリー。

現在であれば北朝鮮もかくやという、冒頭の寒村で起こる飢餓に追い詰められた村人たちの描写が凄まじく、一気にひきこまれます。

その後はなかなか本筋には入らず、スターリン体制下にあるソ連のシステムがいかに非人道的であったかの描写が上巻では延々と続きますが、これはこれで興味深くも面白い。
理想国家であるソ連には、堕落した資本主義国家のような犯罪は存在しない、などという建前に阻まれて、捜査は立ち行かないのですが、国家の忠実な下僕であったはずの主人公は、同胞たちの嫉妬や陰謀、妻とのすれ違い等により、立場も精神的にもドン底に落ちて、やっと野放しになっている殺人犯を、個人の良心と償いを原動力に本格的に追う覚悟をします。

全編、重苦しくもサスペンスフルで楽しめるのですが、あのチカチーロがモデルで、主人公との因縁話まで絡めたわりに、犯人像や対決シーンがあっけなかったのが個人的に残念。
実際には1980年代に起こった事件を、国家の罪をメインに据えるために1950年代に設定し、それはもちろん作者の狙い通り成功しているし、主人公の精神的成長や人間関係の再生もあざやかに書かれていて感動するのですが、それらに比べて、犯人が印象に残らないので、もうちょっと犯人側の造形や描写にも工夫を凝らして欲しかったな。

スピーディで緊張感を持続したまま読了できるのはいいんですが、これでもかと内容を詰め込んでいるわりに頁数が少ないのかも。

No.1 8点 kanamori 2011/10/10 20:36
スターリン圧政下50年代の旧ソ連を舞台にした警察小説---という内容紹介ではピントがずれているかもしれない。

”殺戮犯罪は資本主義の病理であり、全てが平等な共産主義国家において凶悪犯罪はありえない”という社会理念のもと、猟奇的な大量児童殺害事件に関わることになる元保安省捜査官レオの苦難の連続の物語が読ませます。
閉塞した社会のなかで、部下の裏切りから、レオの自己再生、夫婦・家族関係の再生が描かれる緻密な心理描写の上巻。逃避行と冒険活劇そして謎解きに転調する下巻と、スペクタクルな展開に息つく暇がないとはこのことでしょう。


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