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[ 本格 ]
死と陽気な女
フェルス一家
エリス・ピーターズ 出版月: 1964年01月 平均: 6.33点 書評数: 3件

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早川書房
1964年01月

早川書房
1987年02月

No.3 7点 人並由真 2020/12/08 19:56
(ネタバレなし)
 ロンドンから離れた町コマフォード。州警察の部長刑事ジョージ・フェレスの息子で14歳の少年ドミニック(ドム)は、5つ年上の美しい娘キティ(キャスリン)・ノリスに恋心を抱いた。それから2年後、地元である有力者が殺害される。そして事件を担当するジョージが殺人容疑者として逮捕したのは、さる事情から被害者と縁故があったあのキティだった。ドミニックは愛しい女性の無罪を証明しようと、自ら事件を調査するが。

 1961年の英国作品。フェレス一家シリーズの第二弾。1963年MWA最優秀長編賞受賞作品。

 評者はピーターズはこれが2冊目。本シリーズは初読で、カドフェルものもまだ一冊も読んでいない。
 大昔にMWA賞受賞の肩書きで興味を覚えて買った(ままだった)ポケミスが見つかったので、ようやくこのたび読んでみる。
(20世紀の終盤から本シリーズの未訳作品も何冊か発掘翻訳されていたのは、数年前に初めて知った。)

 大設定からドミニックが物語の全編で主役をつとめ、父親のジョージは脇に回るのかと思っていたが、あにはからんや。ジョージの出番も結構、多い。英国伝統の中年紳士捜査官ものと、ちょっとだけウールリッチの少年主人公ものとかを思わせるコージー・ミステリ、その要素でストーリーの成分を折半しあった感じ。

 会話も適度に多い一方、饒舌な地の文も全体的に滑らかで小説としてはおおむね読みやすい。
 愛妻家の父親ジョージがメインヒロインのキティにふと純情な劣情を覚え、息子ドミニックに嫉妬するあたりとかキャラ描写も良い。

 犯人は割と早めに見当がついてしまうが、最後までエンターテインメントとして見せ場を用意してあるのは評価。クライマックスの最後での犯人の心情吐露はなかなか印象的。いや、動機そのものは(中略)。

 それなりに楽しく読めたが、これがMWA最優秀長編賞? という感慨は覚える一冊。中身そのものは佳作の上クラスでしょう。

 ただしポケミスの最後1ページの切れ味は、個人的にすごいツボであった。切なさ・さわやかさ・逞しさ、いろんな情感をいっきに感じさせられ、作者はもしかしたらこのラストを綴るためにこの一作を書いたのではないか? とすら、一瞬、思ってしまったほど。
(実際のところは、これはあくまで、最後のまとめとして採択しただけのクロージングなんだろうけれど。)
 10~20代の頃に読んでいたら、また違った重みがあったろうな。そんな幕切れ。

 評点は、そんなエンディングを踏まえた上で、さらに0.5点オマケしてこの点数で。 

No.2 6点 nukkam 2016/07/25 02:04
(ネタバレなしです) 1962年発表の本書は「カマフォード村の哀惜」(1951年)から久方ぶりに書かれたフェルス一家シリーズ第2作ですがミステリーとして格段の進歩が見られます。丁寧な人物描写は後年のカドフェルシリーズと共通していますが、探偵役が警官なので(解決はやや強引ながらも)謎解き要素はカドフェルシリーズより濃厚です。プロであるジョージ・フェルス(部長刑事)の探偵活動とアマチュアであるドミニック・フェルスの探偵活動の両方が絡み合うプロットはユニークで、そこにフェルス一家の家族交流や少年ドミニックの成長物語の要素が上手く絡み合い、MWA(アメリカ探偵作家協会)の最優秀長編賞を受賞したのも納得の出来栄えになっています。

No.1 6点 kanamori 2012/04/23 18:37
「修道士カドフェル」シリーズで人気を博する前に書かれたフェルス一家シリーズの第2作で翌年のエドガー賞作品。
本書は、16歳の息子・ドミニックの成長物語という側面が強い作品です。
殺人容疑がかかった初恋の年上女性の嫌疑を晴らすために、地元の部長刑事である父親ジョージ・フェルスに黙って、ドミニック少年が必死に手掛かりを探るという、父子が別々に探偵活動をするプロットがユニークです。
主要人物の心情がていねいに描写されているのが特徴(ドミニックとキティの最初の出会いの会話など秀逸)ですが、謎解きに関しても動機(犯行の契機)の隠蔽が巧みです。


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