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[ サスペンス ]
女相続人
草野唯雄 出版月: 1974年04月 平均: 6.20点 書評数: 5件

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光文社
1974年04月

角川書店
1981年12月

No.5 8点 斎藤警部 2024/07/08 19:41
本サイトで以前に評した某著によると「本陣」「刺青」「点と線」に並び日本4大本格ミステリに数えられるという(?!)草野唯雄「女相続人」は、よしんば本格は本格でも「フレンチ本格」なんて呼びたくなるよな独特な薫りが漂う逸品。 腹を震わせるサスペンスは言うまでも無く、また警察小説としても素晴らしい熱量を提供。

「それを聞いて安心した。まあ、しっかり頼むよ」

オーディオ機器メーカーの老社長が、自らあと半年の命である事を知り、若い時分に辛い状況下で棄ててしまった「実の娘」を捜し出そうと、顧問弁護士ら取り巻き達を奔走させる。 やがて「私があなたの娘です」と名乗る女性が現れる。 もしも本物と認められれば、巨額の遺産の行先も変わって来る・・ そこへ来てもう一人の「娘候補」が登場! さあ、このあと殺人事件の被害者になるのはいったい誰だ?!

まず目次に晒してある各章、特に中盤以降の熱いタイトル群が異様に頼もしい。 軽い風俗小説めいた実質プロローグからスリル満タンの疾走オープニング、こりゃあつかみがシュアーで熱い。 音楽と地質学の魂こもった現場披瀝。 山陰沿岸、島根半島の旅情風景もきめ細かく匂うリアリティで迫る心地よさ。

イカす意味で予想の斜め上を疾走するストーリーの面白さ、その意外性は特筆すべき(おおお、あの大事件!!)。 何故かあらかじめ読者の目前に晒された様々なトリックをあっけなく次々と警察が看破する、このギミック(?)のせいで忍び寄る異様な真相奥深さへの予感は振動を止めない。

或る章の最後に、目には見えない ~読者への挑戦~ が亡霊のようにぬんわりと漂っては読者の首を締めにかかる。一方では真犯人の意外性をかなぐり捨てたかの様相を見せつけながら。。 この絶妙の物語バランスはほんとうにニクい。

“捜査官たちの胸中に、そうした感懐とともに一脈の安堵感が動いたのも、無理からぬことといえた。”

動機の重さ。 その思いもよらぬ逆転性。 予想外の重いエンドである。(アレのことを考えオチ的に仄めかしてはイナイわけだよね? いや、イルのか? いやいや、見事に押し切ってるんだよな。はっきりそう書いてある。そこ、さらにもっとはっきりとソコにも!)

“(こうやって見てくると皆一つ一つが死闘の記録だ。いわば満身の創痍というわけだ)”

思えば、物語のごく早い段階で、真犯人の大胆な挑戦的告白が、それとは分からない形で忍ばせてあったのだよな。。

難を言えば、タイトルに ・・・ いや、何でもないぜ・・ 本当に、うねってうねってうねりまくるパワー長篇である。

No.4 7点 人並由真 2023/05/14 16:16
(ネタバレなし)
 昭和40~50年代。ステレオメーカー「リズム社」の創設者兼代表で、資産45億円もの富豪・大倉政吉は、余命の短さを悟り、遺言書を作成。その遺産相続人の一角には、かつての内縁の妻・高倉美代子との間に生まれながらも、戦後すぐ遺棄した大倉の実の娘の存在が記されていた。大倉家の周辺の者が現代のシンデレラ嬢を捜すが、そんな一方で、川崎の某所では、未曽有の事態が起きようとしていた。

 久々に草野作品でも……で、どうせなら、今回は評価が高い一作を……と思って、手にした一冊。

 角川文庫版で本文380ページを超えるちょっと厚めの作品だが、内容の方もそれにあった歯応えで、最後の最後まで、読者に真相を見せずに引きずり回そうという送り手の熱意を実感できる。その辺のなりふり構わないサービス精神の発露は、正に好調なときの草野作品にこちらが期待するもの。
 中盤のイベントであっけにとられるが、なにはともあれ、フーダニットパズラーの骨子をそなえたサスペンススリラーとしては、かなり面白い。 

 とはいえ、犯人の偽装工作なんか、一歩引いてみれば、それで作戦の意味があるのかな……(だって……)とかいう気になったりもした。悪くいえば、作中人物が重大犯罪を起こす前提として、視野が狭すぎる? と感じたりもしたり。
 というわけでキズが気にならないわけではないのだけど、全体のパワフルさでは確かに、草野作品のなかでも上位の方ではあろう。草野ファンが高く評価するのも、うなずけたりする。

No.3 6点 蟷螂の斧 2018/01/23 20:25
裏表紙より~『不治の病に冒され、死を目前にした富豪大倉政吉は、関係者を病床に呼び集めた。彼の逆境時代に捨てた娘を探り出し、遺産の三分の一を譲りたいというのだった。直ちに捜索が開始された。だが巨額の遺産の行方に重大な影響を及ぼすとあって、さまざまな策謀がくりひろげられた。そして、政吉のいう特徴を備えた娘が、二人発見されたのだ。しかもその前後から、連続殺人があいついだ。卓抜な構想と大胆なストーリー展開で描く長編推理の傑作。』~
幻影城ベスト99(1978発表)の84位にランクインした作品。倒叙方式(但し、犯人名は隠されている)で犯行を描写することや、ラストの章「捜査の限界」でオーソドックスな展開とはならないよう工夫しているなど、著者の意気込みを感じることが出来ました。登場人物の夫々の思惑が交差する点や、関係ないような事故が伏線となるなど、予想以上に楽しめました。

No.2 4点 パメル 2017/03/11 01:09
多額の遺産相続を巡り金に目が眩んだ欲深い人間達があれこれと悪知恵を絞って横取りしようとするさまが楽しめる
半倒叙形式で語られるサスペンスでフーダニットとしては意外性があり驚かされる
ただ現場検証の杜撰さを含め刑事たちの無能さが酷く所々に粗さが目立つ
よくぞこの状況で●●と判断したものだと思わず笑ってしまった
またある人物の証言も呆れて物が言えない状態
これらのような点からも今一つ集中出来ずのめり込めなかった

No.1 6点 こう 2008/12/09 23:15
 折原一氏の推薦を見て数年前に読んだ作品です。不治の病の床にいる大富豪が関係者を集め、過去に捨てた娘を探し、遺産を譲りたいと話す。探索の結果、大富豪のいう特徴に合う娘が二人現れる、そしてこの探索の前後で殺人事件が連続して起こってゆく、という本当に一昔前にありがちなストーリーです。
 二人現れれば当然一人は偽物のわけですがそれについては隠されておらず、偽物を仕立て上げる様や財産目当てで近づく男が暗躍する所が初めの段階で明かされます。
 しかし連続殺人、そしてその周囲に謎の男、女が出現し行動が示され、最後にその目的、犯人、謎の人物の正体などが明らかにされてゆくスタイルですが正体がわからないこれらの人物の行動描写がいい雰囲気を出しており一連のストーリーは面白いものでした。
 殺人トリックを見破るとかそういう見せ場はありませんが良くできていると思います。犯人ははっきりいって当てやすいですが推理で当てるというより予想で当てる作品かなと思います。ストーリー自体は古臭い内容ではありますが楽しめる作品だったと思います。


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