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[ サスペンス ]
もう一人の乗客
草野唯雄 出版月: 1980年12月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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光文社
1980年12月

光文社
1984年12月

No.2 6点 人並由真 2020/04/22 04:08
(ネタバレなし)
 その年の10月1日の夜。興信所「目白リサーチ・センター」の所長、山辺達也が事務所内で殺され、殺害現場から一人の娘が人目を避けて逃げ出す。彼女=出版社のOLで21歳の香原由美は流しのタクシーを拾うが、成り行きから、たまたま同じ方向に行くという見知らぬ男と相乗りになってしまった。だが奇しくもそのタクシーがまた別のタクシーに衝突。事故を検分にきた警官に対して由美はやむなく必要最小限の事実を伝えるが、事態はさらに思わぬ方向へと……。

 草野作品の中ではそれなりに評判が良い印象があるので、読んでみた。
 フーダニットではなく、あまり推理の余地もない作りだが、イヤミや皮肉ではなく昭和の読み物推理小説としてはまとまっていて及第点である。
 終盤に行くともうページ数も少なくなってきて、ここから作者が読者を驚かせにくるなら、もうあの人物を犯人にするしかないなと構造が見えてしまう。そこらへんは弱い一方、クライマックスに行くまでは読者の目を逸らすというか、意図的に一種のあるテクニックを用いているようで、その辺りはうまい。

 ちなみに、由美の姉の八重、その恋人で村瀬というキャラクターが登場するのだが、この男、カッパ・ノベルス版の35ページで「2年前に病気の妻と死別」と描写されながら、あとあとの175ページで「5年間独身だった」とも書かれている。この辺はさすがは僕らの草野唯雄、期待に応えた凡ミスである。

 あと中盤で、たとえ市民の義務であっても犯罪事件に関わるのは嫌だ、一文の得にもならない、面倒な証言なんかゴメンだという、ダメな本音剥き出しな小市民が出てくるが、このあたりの、ヤバいことに平穏な日常をゆさぶられる一般人の描写や作中での扱いが草野作品はうまいよね。『七人の軍隊』でも、暴力団に牛耳られた町で悪人追放の署名運動を敢行したらヤクザがその署名用紙を奪い、ここに署名した連中のもとにお礼参りに行ってやるとうそぶく、そんなリアルな描写が印象的だった。そーゆーあたりでも、この作者はポイントを稼いでいるのだと実感する。 

No.1 5点 2009/07/10 12:27
草野唯雄の代表作といわれている。冒頭の、殺人現場から逃げ出した女性の「もう一人の乗客」とのタクシー相乗りシーン、後半の法廷シーンなど、プロットは巧く書けている。でも、はっきりいって中身は、叙情に欠けた叙情ミステリであり、中途半端なハードボイルドという感じだ。

この作品、大昔にテレビドラマで放映され、たまたま最終回のタイトルバック(しかもエンディング)を観て、その雰囲気に惹かれたのが、初読のきっかけです。タイトルにも惹かれましたが、草野氏の場合、『女相続人』『山口線貴婦人号』のように、ストレートなネーミングのほうが作風に合っているように思います。


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