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[ 本格/新本格 ]
残酷な遺言
ツアーコンダクター石田(一部のみ)
島田一男 出版月: 1983年07月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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春陽堂書店
1983年07月

No.1 6点 斎藤警部 2025/09/08 18:50
出版年に見合った昭和五十年代中盤~後半作が大半のようだが、貨幣価値や風俗語で見るともっと昔のような作品も混じる。 まあシマイチ先生は昭和六十年近くでも “ゴーゴーを踊りに” とかうっかり書いたりするからなあ、たしか。
さて昭和五十年代なら8月と共に夏も終わる感覚だったろうが、昭和百年の今年ともなるとまだ9月いっぱいは夏が続きそうだ。 いよいよ昭和三ケタの夏も島田一男でブッ飛ばすんだ。

□□残酷な遺言□□
エキセントリックな遺言状に縛られた三人の女性には、互いの血縁関係無し。 当然事件は起こるが、この遺言状が物語の中でもっと癖強の狼藉を働いてくれたら、更に良かった。 少々デコボコした物理トリック群(陳腐だったり無駄に凝り過ぎだったり)と人情物語のアンバランスが滑稽だ。 ま、あの ”装置” も使いようって事だ。 しかし三つの事件の関わり合いはちょっと面白い。 真犯人の明かし方に宿る、さり気ないやさしさが印象深い。 (色んな意味での..)真犯人をもうちょい見えづらくして、中篇か短い長篇に仕立て直したら、どうだったろう。

□□マンゴー雨の中で□□
東南アジア周遊ツアーの途上、一人だけ水あたりに苛まれた若い女が、後日死体で発見された。 旅行の序盤より、この女を巡っては、男女問わず不審な言動を見せる者が多かった。うむ、ギラつく大胆伏線が却って霧の中の目眩しとして機能した。 水中での物理法則か。。 クリスティ某作にインスパイアされたような感はあるが、このツイストある構造はちょいと分からなかったな。 ラス前からラストに掛け、探偵役ツアコン男子の激しい心の動きが響く。
"明るい星が無数にきらめいている。 これでもあしたは雨だろうか……。"

□□空の女□□
東南アジア周遊ツアーの途上、、 こりゃあ 「マンゴー」 の二番煎じとまでは言わないが、似ています。 探偵役は同じ人。 最後にほのかな人情香を残すところも同じ。 だけど、こっちの方が犯罪の構造に奥行きと、ちょいとばかりウェットな情緒があるね。 役所での調べものが躍動。 タバコの吸い殻の隠れ場所。。

□□おそろしき睦言(むつごと)□□
結婚~離婚~再婚の無理があるプロセスに培養された殺意。 殺害トリックのミラーリング会話(?)に目くらましされたのは、”復讐の角度” の錯誤。 フラフラした甘い殺意の戯れから、一気にどん底へと叩き落される企みの厳しさ。 しっかしこの死体の発見状況と来たら、笑っちまうくらいヤバいな。

□□蛇眼レンズ□□
不可能興味を纏った盗撮(?)と脅迫(?)事件。 惰性でアリキタリの結末を予感した所を襲った意外な展開、もう一突き予想外の展開、最後は意外過ぎる動機で、されど爽やかに締め。 不完全伏線からの後出し要素とか、ミステリとして何がしかハミ出している感はあるが、このズルいおおらかさに押し切られてしまう。

□□海猫は語らない□□
山形の “飛島” にて旅情殺人ミステリ。 寝台車の若い男女五人組と知り合いになった、釣り人とフォトグラファー。 前出 “東南アジア” ツアー殺人譚x2の日本海版そのものと言ったナニだが、動機はともかく、犯人についてはより繊細な伏線がそこここに巡らされていた。 タイトルが深い。 グッと来た。

□□喪服の結婚式□□
妊娠中絶手術のトラブルで亡くなった高校生と、その復讐を誓う人物。 唐突の異様な出だしが示唆する如く、本短篇集の中では異色作。 世にも不可解な “現場” が如何に生成されたのか、実況敷衍されて終わる。 これが素晴らしく智と情の双方に訴える。 短い枠の中、ストーリーの顔つきが目まぐるしく転回する意欲作。  8点

□□錯乱の部屋□□
ところが最後にもっぱつ、異色作の匂いプンプンの変態オープニング(笑)。 冒頭、”◯女” の言動に、引っ掛かるワードがいくつか.. そして眼が開くトゥイッチ急襲。 シティホテルのルームにて特殊腹上死(?)連続変態殺人事件発生。 そこへ主人公のホテル専務と二人の若い女性との交歓描写が併走し ・・ 誰かが急に安いアパートへ引っ越したとか、懐かしい大学の先生がどうしたとか、思わせぶりだが結局.. グダグダな結末。 惜しいなあ。 あるものの匂いが移った手掛かりはちょっと面白い。

シリーズ物が二作だけ続いたり(しかも中身が妙に似てる)、突飛な異色作x2で締めたり、他にもいろいろコンパイルのアヤフヤなテキトーさが、軽く痛いのだが、それも味。

ところで春陽堂文庫版の表紙絵イラスト、表題作にちなんでいるのだろうけれど、三人の女性が見方によっていずれも “中心” という巧妙な構図がニクいね。 いちばん左(だけど中心)の方が若いころの、というより化粧上手になったころの中島みゆきさんに見えます。


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