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[ 警察小説 ]
婦警日誌(青樹社版)
塚原婦警&警察医・花井先生
島田一男 出版月: 1992年02月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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青樹社
1992年02月

青樹社
1994年08月

No.1 7点 人並由真 2023/09/30 20:46
(ネタバレなし)
 昭和二十年代の東京。「私」こと塚原は二十代前半の独身で、所轄の警察署で少年係を務める婦人警官だ。管内では種々の犯罪が生じ、こもごもの人間模様が浮かび上がる。塚原は、無骨な離婚男だが警察医であり、そして優れたアマチュア名探偵である町医者の花井先生とともに、事件の陰に秘められた意外な真実を暴いていく。

 島田一男が昭和26年から32年まで「探偵倶楽部」「婦人朝日」などに書き継いだ、全24話の連作短編シリーズ。
 青樹社から1992年に刊行された本書は「婦人朝日」掲載分の全18話の中の12話分が、加筆訂正の上で収録された(文庫版も同じ内容で、評者は今回、そっちで通読)。

 聞くところによると、国内で初めて、女性捜査官を主人公にしたミステリシリーズだそうで、そういう興味からどんなかな、昭和20~30年代の時代風俗も楽しめればよい、という感じで手にとってみたが、意外に(といっては失礼だが)短編ミステリの連作としてレベルが高い。

 基本的に殺人はほとんど起こらず、街の中で起きたトラブル、または傷害や盗難、謎の脅迫などの事件を扱うが、大半の話に切れ味のよいヒネリがあって唸らされる。実際、一部の作品には、後年の連城作品にも通じるような、事件の構図が反転する醍醐味なども感じた。
(キャラクターものミステリとしても、名字にちなみ、花井から「ボク伝女史(塚原卜伝の)」と呼ばれる美人で正義漢の人情家婦警・塚原も、女房に逃げられた酒好きの無頼医者ながら、実は頭脳明晰で直観力があり、人の心の機微に通じた花井、二人の主人公も良い意味でフツーに一定水準の魅力を確保している。ちなみに読んだ限り、この二人の間に恋愛感情めいたものは特に介在していない。)

 島田作品といえば初期の正統派(あるいはそれに近い)パズラー路線から、謎解きの興味を最低限おさえた活劇スリラーもの、あるいは司法関係周辺の特殊プロフェッショナルものに移行していった、という大づかみな観測があったが、こういうトリッキィさに重心をかけた連作キャラクターミステリも書いていたのだと改めて見直した。
 そういや評者は、作者の連作短編シリーズものは、まだ他に1~2冊くらいしか読んでないが。

 青樹社の文庫版の解説で山前譲氏は、本シリーズの早めの終了を惜しんでいるが、作者的にはもしかしたら、割と高い本路線のボルテージを下げたくない、と思い、できのいいうちに止めたのでは? と、評者なりの思い付きの観測で考えたりもした。まあ実際のところはどうかしらないが。
(ネットを探ると、世評高い山本周五郎の『寝ぼけ署長』シリーズに似通うなどの声もあるようだが、評者はそっちはまだ未読なのでなんとも言えない。)

 いずれにしろ、島田一男の奥行きというか、器量の深さを改めて実感した一冊。いつかそのうち、本シリーズの残りのものもどこかで読んでみたい。


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