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[ 本格/新本格 ]
乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび
著者名は「芦辺拓・江戸川乱歩」標記
芦辺拓 出版月: 2024年01月 平均: 7.00点 書評数: 3件

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KADOKAWA
2024年01月

No.3 7点 メルカトル 2024/07/08 21:44
1923年(大正12年)に「二銭銅貨」でデビューし、探偵小説という最先端の文学を日本の風土と言語空間に着地させた江戸川乱歩。満を持して1933年(昭和8年)に鳴り物入りで連載スタートした「悪霊」は、これまでの彼の作品と同様、傑作となるはずだった。
謎めいた犯罪記録の手紙を著者らしき人物が手に入れ、そこで語られるのは、美しき未亡人が不可思議な血痕をまとった凄惨な遺体となって蔵の2階で発見された密室殺人、現場で見つかった不可解な記号、怪しげな人物ばかりの降霊会の集い、そして新たに「又一人美しい人が死ぬ」という予告……。
期待満載で幕を開けたこの作品はしかし、連載3回ののち2度の休載を挟み、乱歩の「作者としての無力を告白」したお手上げ宣言で途絶した。
Amazon内容紹介より。

前半は乱歩が描いた、畢生の傑作となる筈だった『悪霊』がそのまま掲載されています。これが驚くことに一々漢字にルビが振られている。その為余計な神経を使わされて、却って読み難くなってしまっています。しかし、これは本当に乱歩が描いたものなのかと途中で何度も疑ってしまいました。何故なら、全然乱歩らしくないから。異論はあると思いますが、感覚としては現代の作家がそれらしく書いた様な印象を私は受けました。怪しげな雰囲気に反する、意外なほどの本格度の高さで、確かに完成していれば代表的な傑作となる筈だったのは疑いようがありません。

だからこれを書き継いで完成させたい欲求を覚えるのは、ミステリ作家としては真面な感覚だと思いますね。今回見事にそれを達成した芦辺拓、見直しました。作者が描いた解決編を読みながら、何度もほぉーと感心した私は変でしょうか。いやそんな事はありません。乱歩が途中で言葉は悪いけれど、放り出してしまったものを、良くぞここまで仕上げたものだと称賛を送りたい気持ちで一杯です。

No.2 7点 人並由真 2024/06/08 15:01
(ネタバレなし)
 昭和の初めのある日。文筆業の「私」は目的地に向かう途中で、麻布の一角にある古書店に入った。そこには数年前の「新青年」のバックナンバーがあり、「私」は、鳴り物入りで登場しながら中絶した江戸川乱歩の連載作品『悪霊』に思いを馳せた。やがて古書店を出て目的地についた「私」はそこで、その『悪霊』に関する奇妙な体験をする。

 乱歩のある意味で最大級? の問題作のひとつ、中絶作『悪霊』に何らかの思い入れや心の執着を抱くファンはそれなりに多いようだが、評者は正直、そんなでもない。ただまあ、それこそ人並みに、昭和ミステリファン、乱歩読者の末席としての関心めいたものはある。

 乱歩の文体パスティーシュとしての出来はなかなかのものだと素人ながらに思うし、原典の細部をほじくって良い意味で妄想めいた作品の奥を開陳してゆく手際も、相応の骨っぽさを感じた。
 ただしいくつかの面で結局はケムに巻かれたような部分があるし(×××の件など)、密室や傷の謎の解法の方も、チョンボみたいなものかも(ただ、それはそれで楽しかったとも思ったりもするw)。

 でまあ、6年前の大作『帝都探偵大戦』のクロージングがアレだったので、芦辺先生、今回もまた、アレやらアレでは……と恐る恐るではあったが、その辺は良い意味で予想を裏切って硬派? な造りで安心。
 あとがきを読むと良い編集さんに恵まれた旨の述懐が書かれており、なるほどと納得。逝去された当該の編集さんの御冥福を一読者として願います。

 力作なのは間違いない。評点は0.35点くらいオマケ。

No.1 7点 文生 2024/04/06 22:32
『悪霊』は江戸川乱歩久しぶりの本格作品ということで探偵小説専門誌の新青年が大々的に宣伝を行い、1933年11月号から連載が開始されました。しかし、わずか3回で休載に入り、そのまま未完に終わってしまいます。
そして、問題の本作ですが前半部分は新青年に掲載された『悪霊』がそのまま引用されており、後半から芦辺拓がその続きを書くという形をとっています。読んでみてまず驚いたのが乱歩の書いた前半部分から芦辺拓の書いた後半部分に移っても違和感が全くない点です。また、ミステリとしても前半部の意外なところから伏線を拾い上げ、おそらく乱歩が当初想定していたものよりも魅力的な真相を提示しています。
ちなみに、乱歩は当初の構想で想定していた真相を仄めかす発言をしていますが、それを逆手にとって新たな真相を上書きしていく手管も見事です。さらに、本作では単に作中内での真相だけではなく、『悪霊』が未完に終わった理由についても言及しています。しかし、個人的にこの部分はリアリティが感じられず、あまり好きではありません。『悪霊』自体の真相であれば少々リアリティに欠けていても問題ないのですが、『悪霊』の中絶という現実に起きた出来事の真相に関しては実際にあり得そうな答えを用意してほしかったところです。


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