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[ 本格 ]
細工は流々
トビー&ジョージ
エリザベス・フェラーズ 出版月: 1999年12月 平均: 5.50点 書評数: 4件

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東京創元社
1999年12月

No.4 5点 nukkam 2022/05/29 23:21
(ネタバレなしです) 1940年発表のトビー・ダイク&ジョージシリーズ第2作の本格派推理小説です。英語原題は「Remove the Bodies」で、これはおそらく終盤の第13章の手記の中で語られていることを指しているように思われます。しかしそこに至るまで読み進めるのが結構辛かったです。質問に対してまともに答えないシーンが多過ぎて回りくどく、物語のテンポがぎくしゃくして読書への集中力が削がれます。明確に毒殺である事件と(日本語タイトルの元ネタである)数々の殺人装置の組み合わせも焦点の定まってない謎に感じられて謎解き意欲が高まりません。推理は動機と心理分析が多くを占めていますが、(私の読み込みが浅いのも間違いありませんが)犯人はこの人しかありえないという説得力をもった証拠が不足しているように思います。

No.3 6点 弾十六 2022/02/23 04:27
1940年出版。トビー&ジョージ第二作。翻訳は安心してすらすら読めます。
原題 Remove the bodies は「遺体を搬出せよ」という意味で良い? でも何だかピンと来ないタイトル。
私は作家の生い立ちとか伝記的な背景を過剰に読み込みがちなんですが、フェラーズさんは結構複雑な生育環境だったのでは?とよく知らないくせに妄想しています。なのでヴァネッサちゃんを取り巻く環境がとても興味深い作品でした。
キャラはみんな良く描けていて、実在人物のイメージを頭に置いているような感じ。
ミステリ的には全般的にモヤモヤして、評価点は高くない。トビーが素人探偵を可能とする条件は上手く整えてあるが、ジョージが便利すぎるチート・キャラなんだよね。やり過ぎるとバランスが崩れてしまう。
以下トリビア。原文入手出来ませんでした。
作中年代は「六月(p9)」で、p65及びp150から考えて1939年6月の事件であることはほぼ確実。
p12 十五ポンド◆英国消費者物価指数基準1939/2022(69.65倍)で£1=10867円。
p26 ハナスッキリ◆原文が気になる。
p37 大晦日なら… 幸運の使者◆ 英wiki “First-foot”参照。元日最初の客がtall, dark-haired maleならば幸運、と言う迷信がある。
p37 長身で色の黒い男◆tall, dark manならば「黒髪の」
p59 警察裁判所で… 色つきの紙◆前科の記録用紙。裁判官に被告が前科持ちであることを知らせる警察側のテクニックだったようだ。
p65 三ペンス半の切手◆Three halfpenceならば1½ペンスのこと(3×1/2)。当時(1923-5-14〜1940-4-30)の手紙の郵便料金(最低額、2オンスまで)。1940年5月から2½d(Two pence halfpenny)に値上がりしたので、作中時間はそれ以前だろう。
p90 精神分析… 一回の診療に3ギニー
p90 銀行… 10時まで開かない◆営業時間10時-3時は英国でも同じ?Wikitionary “bankers’ hours”参照。1800年代からの伝統のようだ。
p95 探偵ごっこ
p111 シベリウス
p112 グラーシュ
p120 五十フラン(およそ週2ポンド)◆1939年の金基準で£1=175フラン。一日50フランという意味ならピッタリ計算が合う。
p120 食費… 一日2シリング
p129 ウッドバイン◆「訳注 キャンディの商標」とあるが、タバコじゃないかな?話の流れもキャンディだと変テコで、タバコだとしっくりくる。英Wiki “Woodbine”参照。1888年創業で古いパッケージ・デザインを1960年代まで使っていたようだ。
p133 年にたった350ポンドの収入
p134 掃除のおばさん… [フラットの]地下室に住んでる
p139 シューマン
p150 仕込むトリック… 推理小説で読んだことがある◆これは1938年出版のあの作品のことでしょうね。
p180 ファン・ゴッホの「ひまわり」の写真複製画
p186 離婚裁判で不利にならないように◆当時の離婚裁判は、申し立てた側が綺麗な身体じゃなければ却下されちゃうんじゃなかったかな。本書の場合は、妻側はオープンだったようだから、夫から妻の不貞を理由として訴えたのだろう。
p187 復活祭は10週間前◆1939年のイースターは4月9日。とすると作中時間は6月18日あたり。
p188 土曜は銀行が12時に閉まる
p208 ポーカーダイス
p237 アン女王◆Queen Anne is dead!は「もう知ってるよ」という意味のイディオム。
p244 フレンチクリケット◆「訳注 打者の両脚をゴールの柱に見立ててやる略式クリケット」英Wiki “French cricket”参照。簡単に言うと、打者をアウトにするのが目的の遊び。ウイケットは置かず、打者は一人だけ。フライキャッチかボールを打者の足に当てたらアウト。アウトになったら他のプレイヤーが打者となる。長く打席にいたプレイヤーが勝ち。ここでは二人で遊んでるから子供に打たせて大人はボールを投げるだけの遊びだったのだろう。
p248 グラナドスのスペイン舞曲集
p308 シャヴハーフペニー◆英Wiki “Shove ha'penny”参照。某Tubeも見たが訳注の「穴に入れる」は勘違いだと思う。

No.2 5点 2022/01/28 23:23
『私が見たと蠅は言う』の作者として名前だけはずいぶん昔から知っていたエリザベス・フェラーズですが、読んだのは今回の本作が初めてです。結果…う~ん、今一つのれませんでした。いや、真相自体は鮮やかに決まっていますし、ミスディレクションもかなり効いているとは思うのです。意味不明な原題(”Remove the Bodies”)とは全く違う邦題も、読み終えてみるとなるほどという感じ。ただその小説スタイルが、合わなかったということでしょう。
会話の途中、誰かが重要なことを言おうとする直前に邪魔が入り、情報提供が遅れるのが執拗なまでに繰り返されるのには、いらいらさせられます。その他にも全体的に変に細かい技巧に走りすぎている感じがするのです。ジョージ(苗字不明)の耳が聞こえないふりも、巻末解説やkanamoriさんの評では褒めていますが、そんなことをする必要があるとは思えませんでした。

No.1 6点 kanamori 2012/12/10 12:00
”逆転探偵コンビ”トビー&ジョージ・シリーズの2作目。

屋敷に仕掛けられた意味を成さない数々の殺人装置というのは、機械的トリックを使ったミステリに対するパロディという側面もあるのでしょうか?その辺はよく分かりませんでしたが、実際は真逆の人間的・心理的なもので、「なぜ」が分かればスルスルと解ける、被害者である「誰からも好かれるお人好しの女性」ルーの人物造形が肝となるものでした。
友達の死でいれ込むトビーに対して、今回もマイペースのジョージですが、ジョージのある身体的異変が絶妙の伏線になっているのが非常に面白い。


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