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[ 警察小説 ]
あばずれ
アル・ウィーラー警部
カーター・ブラウン 出版月: 1962年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
1962年01月

No.1 6点 人並由真 2021/08/06 15:30
(ネタバレなし)
「おれ」ことパイン・シティ保安官事務所に所属する警部アル・ウィーラーは、上司の保安官レイヴァーズから、モルグに5年間ホルマリン漬けで保管されている生首について、相談される。生首は若いハンサムな男性で、5年前に胴体が見つからず首だけが発見され、それからずっと、身元不明だった。だが町から20~30Km先のサンライズ渓谷の大地主サムナー家、その料理人の老女エミリー・カーリューが昨日、町の病院で死亡。エミリーは末期に、実はあの首の若者の素性を知っていた、彼はサムナー家の客人「ティノ」で、同家の長女チャリティも何か関係があったようだと言い残したのだ。ウィーラーはサムナー家に再調査に向かうが、一方で名の知れたマフィア系ギャングのガブリエル(ゲーブ)・マルチネリも町に来訪。5年前に弟ティノが行方不明になったガブリエルは今度の情報を聞きつけて、パイン・シティに犯人捜しと復讐にやってきたのだ。

 1962年の版権クレジット作品。
 邦訳だけでも数あるウィーラーもののなかでは、割と定評の人気作だと思うが(「地獄の読書録」などで小林信彦がホメていたハズ?)、自分の部屋を別用でかき回していたら出てきたので、ウン十年ぶりに再読した。

 ギャングのガブリエルは、あのラッキー・ルチアーノの元舎弟だったという大物の設定。
 そのガブリエルが側近として連れている元弁護士の盲目の殺し屋「しのびよる恐怖」ことエドワード(エド)・デュブレがなかなか立ったキャラで、評者も物語の細部は忘れてもこの人物だけはよく覚えていた(協力者の手を借りて相手を真っ暗な閉鎖空間に閉じ込め、暗闇に慣れ切った盲人の方が完全に有利な状況の中で奇襲し、殺害する)。もともと知的階級の素性ゆえ、普段は紳士然としてウィーラーとやりあうデュブレの芝居もよい。

 なお謎解きミステリとしては完全に忘れていたので、
①死体は誰か=本当にマフィアの弟ティノか(そもそも殺された動機は?)
②フーダニット
③なぜ首を斬られたか
 などの興味から読み始めたが、②に関しては捜査をしてゆく上でおのずと分かる流れ、③の真相も大したことはないが、①についての作中の事実と、殺人事件に至った経緯についてはちょっと凝った内容で面白かった(読者が推理する余地はほとんどないが)。
 郊外の旧家サムナー家の納骨堂という舞台装置も、立体的にストーリーに役に立って、そういうゴシックロマンのパロディ的な趣向も面白い(冒頭でウィーラーが、状況の説明をするレイヴァーズに「ブロンテ姉妹のどっちかですか」とジョークを言うギャグ場面がある)。

 あとはレギュラーヒロインで、ウィーラーに対してツンデレ娘のアナベル・ジャクソン(レイヴァーズの秘書)が、保安官事務所に現れたガブリエル一派におびえ、そこでうまく立ち回ってくれたウィーラーにいっきにイカれてしまう描写が愉快(このシーンそのものは何となく記憶していたが、ああ、この作品だっけ、という思い)。今でいう「チョロイン」(チョロくオチる、ラブコメ漫画やラノベなどのヒロイン)の先駆という感じであった。まあ最後は良い意味で(中略)だが。

 ちなみに題名の「あばずれ」(ヘルキャット)とは、ゲストメインヒロインのひとりで赤毛の美人チャリティ・サムナーのこと。webで本作の原書のペーパーバックの表紙を眺めると、数種類の版に赤毛の下着姿の美女が描かれており、これが彼女のイメージかな、という感じ。カーター・ブラウンの作品でこういう楽しみ方ができるのは、21世紀のネット時代ならではだネ。 


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