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[ ハードボイルド ] キー・クラブ 私立探偵リック・ホルマン |
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カーター・ブラウン | 出版月: 1962年01月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1962年01月 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | 2018/11/26 13:41 |
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(ネタバレなし)
「おれ」ことハリウッドの私立探偵リック・ホルマンは、実業家カーター・スタントンの依頼を受ける。スタントンは「プレイボーイ」の亜流雑誌「サルタン・マガジン」の発行と、その関連企画の男性専用クラブ「ハーレム・クラブ」の経営で一山当てた男だ。だがそのスタントンの自宅の中に「お前はひと月内に死ぬ」という死の予告状が、何者かの手によって二回も置かれていた。調査を始めたホルマンは、スタントンの周囲の人間たちを洗うが、やがてクラブの女性コンパニオン「天女」の一人だった娘シャーリー・セバスチアンが、馘首されたのちに自殺していたという事実が浮かび上がってくる。 原書(英語版?)は1962年の作品。アル・ウィーラー、ダニー・ボイドに続く三人目のカーター・ブラウンのレギュラー男性ヒーロー、リック・ホルマンものの第二弾。当初ポケミスでは本作が、原書でのシリーズ第一作として紹介されたが、実際にはホルマンものの別長編『ゼルダ』の方が先らしい(最近のwebなどのデータベースが正しければ)。 ちなみに『ゼルダ』は膨大な数のポケミスの中でも<ある理由>ゆえに稀少なトンデモナイ一冊である。その理由はここでは書く訳にはいかないので、興味あったら自分で読んで呆れてください。しばらく前に読んだ時は、最後まで目を通してもう一度冒頭からページをめくって、ポカーンとなった。 評者は大昔にアル・ウィーラーもの、ダニー・ボイドものはほとんど読んじゃって(といっても大方の作品の内容は忘れているが)、ほとんど手つかずの翻訳がある長めのシリーズはこのホルマンものくらい(メイヴィス・セドリッツものは半分くらい消化?)だが、なんか本シリーズは先の二系列(ウィーラー&ボイド)と雰囲気が違う。いやウン十年前の記憶と比較してもアテにならないが、もうちょっとお遊びやお笑い要素が薄めの、フツーの軽ハードボイルドというか。たぶんウィーラーのアナベル・ジャクスンとか、ボイドのフラン嬢とかのレギュラーヒロインがいないせいもあるだろう。(といいつつ本作も、ホルマンが事件の最中に急にパンティを落とした女性に遭遇し、エロコメディ風になるくだりもあるが。) 本書はミステリ的にはそんなに奥行きのある謎解きじゃないけれど(それでも真相の反転劇などは用意されている)、成り上がり者のスタントンに対して微妙な歩幅を保つホルマンの描写とか、同じくホルマンと暗黒街の大物との駆け引き(災禍に遭いそうな女性を守るため)とか、きちんとハードボイルド私立探偵ミステリとしての描写も守られていて、その辺はいい。お笑いコメディハードボイルドというよりは、まっとうな、B級の私立探偵小説っぽい。 ただし矢野徹の訳文は丁寧すぎて、ホルマンのワイズクラックをイマイチこなれの良いギャグにできてなかったね。二回読み返して、ああ、そういう意味ね、というジョークがいくつかあった。カーター・ブラウンの訳者なら田中小実昌か山下諭一が基本、というのは、大方の世代人ファンの一致するところだと思うけれど、こないだ読んだ『雷神』とか、他の人の翻訳でそんなに悪くないのもあるし。その辺は柔軟に読んでいきたい。読み返していきたい。 |